●リプレイ本文
●予測ポイントは『D8』
「これが住民から貰ったヴィスティティス湖周辺の地図。南北に引いているラインをアルファベットで、東西に引いているラインを数字で呼称するとします」
手にした人数分の地図を配布しながら、アルヴァイム(
ga5051)が説明を始める。
「赤で斜線を引いている部分が、住民達から得た情報を元に割り出した、キメラの出現ポイントです」
「ポイント『D8』か‥‥ファットマン、どう思う?」
「湖面ギリギリですか。青年が呟いた『走る水』についてもそれ以上の情報は得られなかったし‥‥やはり、ここは慎重にいった方が無難でしょう」
唇を小さく引き上げながら告げるルナフィリア・天剣(
ga8313)に、問われた男、翠の肥満(
ga2348)が答えた。
「情報が圧倒的に足りないな。自分達の目で確かめるしかないのか‥‥」
サルファ(
ga9419)が地図を見やりながら、事前にメンバーと話し合っていた内容を再度口にする。
「蜃気楼の様な能力を持っているのか、それとも実態同様の分身を使うのか」
「単純に高速移動を得意とするキメラが2体、とも考えられますが」
同じく地図に視線をやっていたジェイ・ガーランド(
ga9899)の言葉に、小さく頷いたのは紅 アリカ(
ga8708)だ。
「速くて強いデカブツ、というだけでも脅威だというのに。こうも情報が少なくては厄介だ」
時枝・悠(
ga8810)の呟きを耳にして、相良風子(
gb1425)が自身の武器を念入りにチェックしながら同意の言葉を放つ。
「確かに。湖にキメラ‥‥なんとなく、一筋縄ではいかない気がするわね」
「キメラの正体は分からんが、倒さなければならんのは事実だ」
ルナフィリアの一言に、全員が頷きあう。
「とにかく、出現予測ポイント『D8』まで行きましょう」
アルヴァイムの言葉の後、全員は念の為にと覚醒し、行動を開始した。
●予測ポイント『D8』到着
そこは昼間だというのに薄暗かった。
肌寒いわけではないのだが、そう、空気が不気味とでもいえばいいのだろうか。
「キメラは‥‥まだ現れませんね」
ジェイの言葉に、双眼鏡を片手に湖面を注意深く観察していた翠の肥満が肩を竦めた。
「2体揃って出現するキメラに、瀕死の青年が残した『走る水』。まず考えられるのは陽炎や分身なんですがねぇ」
まだ、湖面に変化はない。
「決めて掛かるのは危険か。何であれ、纏めて抉れば済む話だ」
時枝が自身の武器である月詠を携えながら、同じ様に湖面へと視線を向けた。
「‥‥取り敢えず、湖面とキメラの両方に警戒して当たるべきで御座いましょうね」
ジェイの台詞を受けて、横で表情少なにも頷く紅。
と、その時。
ふと何かの気配を感じた相良が、側に立っていたルナフィリアへと声をかける。
「ルナさん。何か感じない?」
言葉を受けたルナフィリアも、唇を引き上げて声を発する。
「ふん‥‥獣風情が一人前に‥‥」
言いながら、携帯していた照明弾の銃口を空へと向け。
「来るぞ」
次の瞬間。
湖面が大きく揺れた。
●現れたキメラ
ルナフィリアの放った照明弾で、辺りが明るく照らされる。
全員の視線、その先には巨大な獅子の姿を醜く歪ませた、2体のキメラが立っていた。
水の上に立つという、通常ではありえないその状況を可能にしているのは、背に生えた翼のおかげだろうか。
「照明弾で消えん‥‥蜃気楼の線はなくなったか」
アルヴァイムが呟いた言葉は、全員に共通する考えだった。
「なら‥‥2体のうちどちらかが分身‥‥という可能性もあるわ‥‥」
覚醒の影響で饒舌、とまではいかずとも自分の意思をはっきりと伝える事の出来る状態になった紅が、自身の武器、真デヴァステイターを構える。
「とにかく、打ち合わせ通り。向かって右をA班、左をB班の攻撃対象だ」
サルファの言葉の直後。
8人は其々の獲物に向かって攻撃を開始した。
●敵の正体は
先ず攻撃を仕掛けたのは、先手必勝を使用した翠の肥満だ。
手にしたエナジーライフルの照準を右のキメラへ合わせ、鋭覚狙撃を併用しつつトリガーを弾いた。
湖面に立つキメラが、唸り声を上げる。
確実にダメージを与えられた事に、翠の肥満は満足そうに武器を眺めた。
「よぉし、良い調子だ。ロクな物を支給しない某ロリッ子も、たまには良い武器を支給してくれるじゃないか!」
「いや、それはあまり某の意味が‥‥」
苦笑を浮かべ、次に攻撃を開始したのはジェイ。
「まずは小手調べだ」
自身のライフルの照準をキメラに合わせ、強弾撃と急所突きを使用しつつ発砲する。
翠の肥満が与えた攻撃に加えて、ジェイのライフルから発射された弾は、キメラの翼に小さな穴を開ける事に成功した。
片翼に穴を開けられたキメラはどうやらそれ以上湖面に立つ事が出来ない様子で。
力の限りの跳躍で、湖面から彼等の立つ地へと移動してきた。
「1体は陸に上がったか‥‥なら、我等の敵はどうだろうな」
呟いたアルヴァイムの視線の先には、もう1体のキメラ。
彼の手には自身の武器である真デヴァステイター。
「貴様の動き、とくと見せてもらう!」
影撃ちを使用して放たれた弾丸は、吸い込まれる様にもう1体のキメラへと向かい、見事に着弾する。
「間合いを詰められないなら、詰めてもらうまでだ」
大きく刀を振りかぶった時枝が、ソニックブームの衝撃波を飛ばす。
攻撃を受けたキメラが大きく鳴き声を上げて、もう1体と同じ様に湖面から地へと飛び込んでくる。
「足元! 両方ともに影があるぞ」
サルファの言葉に全員が其々対していたキメラの足元へと瞬間視線を向けた。
と、確かにそこには歪な形をしたキメラと同じ様に、黒い影が落ちていた。
「なら、両方とも本物だな」
ルナフィリアの言葉と共にイアリスへと装備を変えた紅が、流し斬りを使用してキメラへと剣を閃かせる。狙いは移動に必要不可欠となる足だ。
狙い通りにダメージは与えられ、キメラの低い鳴き声が全員の腹へと響く。
そこに畳み掛ける様に攻撃を与えるルナフィリアの手には、今回始めて使用するワイズマンクロックが握られていた。
「誘導兵器ならば速い相手にも少しは中て易かろう。‥‥威力は、お前で確かめる」
一直線に飛んだ機雷は、キメラの翼へと再度穴を開ける事に成功する。
続いてもう1体に攻撃を加えたのは相良だ。
「実体なら問題ないわね‥‥!」
豪破斬撃を使用した愛刀は、勢いをつけてキメラの片翼を切り落とした。
痛みに任せたキメラの攻撃は、前衛位置に立っていた相良へと向けられるが、間一髪それをひらりと避ける。
キメラの攻撃が止んだその瞬間、懐へと飛び込んだサルファが、携帯していたエネルギーガンを瞬時に構え、ぴたりとその銃口を獣にしては硬い皮膚へと突きつけた。
「いくら射撃が苦手でも、この距離なら外さないだろ‥‥!!」
ゼロ距離から加えられた攻撃に、大きな鳴き声を轟かせてキメラが数歩後ずさった。
一方、残りのキメラも反撃の牙を向けていた。
攻撃の先に立っていたのは今回の作戦で一番小柄なルナフィリアだ。
高速で飛び掛ってきたキメラを一瞥して、ルナフィリアが小さく鼻を鳴らした。
「成る程、悪くはない。‥‥だが」
バサリ、と。覚醒による影響で背に出現していた漆黒の翼を翻し、思い切り後方へとステップを踏む。
「残念ながら、自在に飛べはせんが。普通の人間相手と思うなよ、獣」
再度バサリと翼を広げ、着地のバランスを取った。
「小手調べはこの辺で終わりますか。では、ここからは‥‥」
隠密潜行を使用し、キメラの背後へと回り込んだ翠の肥満が、フェイスマスクの下で笑みを浮かべる。
「本気で、殲滅開始だ」
●見誤った獣達
再度、先手必勝を使用した翠の肥満が、鋭覚狙撃を併用して4本の足を狙う。
攻撃を受けたキメラが、瞬間体勢を崩したのをジェイは見逃さなかった。
「一発必中一撃必殺‥‥撃ち貫くっ!」
強弾撃と急所突きを併用したライフルから放たれた弾丸が、体勢が整う前のキメラの足のうち1本に致命的なダメージを与える。
同じく、もう1体のキメラへと攻撃を再開したのは時枝だ。
「その間合いは私の得意分野だ」
流し斬りを使用して、月詠を閃かせる。
その一閃で、時枝達が対していたキメラの両翼は見事に斬り落とされた。
「飛べぬその身では行動も難しかろう」
強弾撃と急所突きを使ってのアルヴァイムの攻撃が、キメラの足を撃ち貫く。
低い唸り声を轟かせるキメラの直ぐ前に、滑り込む様に割り込んだ相良が豪破斬撃で刀を翻し腹部へと斬りつける。
直後二段撃を使用し、小太刀無花果で同じく腹部へと更に深く傷つけ、ダメージ量を増やした。
「向こうはどうとでもなる。お前は奴の心配などする暇もないぞ」
一方、先程踏み込まれたその間合いを利用して、もう1体のキメラと対峙していたルナフィリアは、装備を機械剣αへと持ち替え。
「踏み込まれたならば斬り裂くまで」
両断剣を使用し、背から腹へと抜き下ろすように斬撃を加えた。
致命傷、とまでは行かず、キメラが反撃を加えようとするが、背の黒翼を使用したルナフィリアがひらりとそれをかわす。
キメラの意識がルナフィリアへと向けられているその隙を狙って、紅がイアリスを構えて駆け込んだ。
「そろそろ‥‥終わらせましょう」
キメラの首が、紅へと向けられるその直前に。
流し斬りを使用した紅のイアリスは、そのキメラの首を深く傷つける事に成功していた。
響く、絶叫。
キメラの最期の足掻きである爪が、紅に届くその前。
「油断大敵‥‥いい諺だろう?」
翠の肥満が止めとばかりに放った、鋭覚狙撃を使用した弾丸が、キメラの脳天を撃ち貫いていた。
残り1体のキメラもまた、能力者の再攻撃を受けていた。
武器をクルシフィクスへと持ち替え、両断剣を使用したサルファが、行動の鈍ってきたキメラの懐へと潜り込み、そのまま腹部目掛け大剣を突き出した。
間一髪キメラはそれを急所から外す事には成功したが、左脇腹が大きく斬り裂かれた為に耳障りな鳴き声を響かせる。
「これが貴様の終わりだ‥‥!」
鳴き声に重なる様に言ったアルヴァイムが、強弾撃と急所突きを合わせた弾丸を放つ。
眉間に吸い込まれる様に導かれた弾丸は、確実に狙った場所を撃ち貫き。
最後の1体は悲鳴を上げる暇すら与えられず、息絶えたのだった。
●沈黙の湖
「アリカ、大丈夫か?」
恋人である紅を心配して駆け寄ったジェイに、首を縦に振る事で肯定を表す紅。
湖の脅威を排除した能力者達は、依頼人達の住む街へと戻って来ていた。
住民の代表と会話をしているのは翠の肥満だ。
「行方不明者の捜索をされるのなら、お手伝いしましょうか? 僕はこの後、特に予定もありませんのでね」
住民達から安堵の声が上がる。
それも当然だろう。
キメラが殲滅されたとはいえ、今の時世は常に危険と隣り合わせなのだ。
何の力も持たない一般人では、不測の事態に備えられない。
能力者だけがキメラやバグアと対抗する力を持っているのだから。
「さて、俺は命がけで帰還した勇敢な青年の見舞いに行きましょうか。一緒に如何ですか?」
遠巻きに住民達と翠の肥満を眺めていたルナフィリアへと、サルファが声をかけるが。
「‥‥勇気には敬意を表す。だが、悪いが私は行かない」
ふい、とそっぽを向いた彼女の側へ、相良が歩み寄る。
「ルナさんは少し苦手なんだよね? そういうの」
「私も苦手だ。遠慮しておく」
いつの間にかルナフィリアの側に立っていた時枝も、住民達を一瞥したあと視線を逸らした。
返答が帰ってくる事はなかったが、それでも相良や今回同行した能力者達にはルナフィリアや時枝の性格が少なくとも分かっている。
彼女達は、気にはなっていてもその通りに言い出す事を苦手としているのだ。
敵に対しては強気だが、人と対する時はどこか遠慮をしてしまう、その癖を。
「なんにせよ、今回の依頼は無事終了ですね」
アルヴァイムが空を見上げる。
今まで沈黙を続けていた湖は、これから先どうなっていくのだろう。
そんな事を、考えながら。
END