●リプレイ本文
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「‥‥紫狼にぃ‥‥大丈夫?」
ぜひぜひ言いながら一行についてくる村雨 紫狼(
gc7632)に、心配そうにそう声を掛けるのは四条 ルリ(gz0445)だった。
「あー‥‥うん。ちょっとサンタと乱闘してなー‥‥」
「サンタさんとっ! ダメだよっ! サンタさんと喧嘩しちゃあっ!」
「だって大人にプレゼントできねーって言うんだぜーあの不法侵入ジジイ! 必殺ホーリーラリアット喰らって撃沈したぜ〜」
「ホーリーラリアットっ! どんなのっ!? どんなのっっ!?」
その言葉に興味を持ったらしいルリに、こーんな感じでよぉ。とやられる振りをする紫狼。それに「うぉぉっ」とか「ごぉぉぉっ」とかルリがなんか吼えてる。
「やぁやぁ♪ 初めまして四条さん♪ あっしゃぁ夏子と申すケチな男でゲス。今後お見知りおきを。でゲスよ♪」
「あ。はいっ! 四条ルリです! よろしくお願いします」
おどけたようにそう名乗る夏子(
gc3500)に、振り返って深く頭を下げるルリ。
「そういえばそろそろクリスマスでゲスね。四条さんはサンタさんに、何かお願いしたんでゲスか? お菓子を上げるから聞かせて欲しいでゲスよ」
「わぁ‥‥い」
お菓子を貰って、条件反射の様に直ぐに口に入れてから「あ、あはは‥‥」と気まずい笑いを夏子に向ける。貰ったものを直ぐに口に入れるとか、もうこの子の将来が不安である。まぁ、気まずい笑いは夏子の質問に対するものだろうけれど。
そんなルリに横から抱きついてくる影があった。
「クリスマスだよ、クリスマスパーティーだよルリっ!」
その勢いに吹き飛ばされ、そのまま紫狼にぶつかり地面に転がる三人。
一番先にひょこっと顔をあげたのがセラ(
gc2672)だった。
「サンタさんにお手紙出さないとプレゼントがもらえないんだよ、ルリ!」
きゅう。と言う感じで目を回しているルリに、セラは続ける。
「セラはね、グランドピアノが欲しいなって思うの♪ ルリ、ルリはプレゼント何をお願いしたの?」
「セ、セラちゃんっ! 私はお願いしてないんだ!」
「なんで、なんで?」
「うん。ルリちゃんが欲しいものが分からないと、サンタさんはとっても困っちゃうと思うんだ。ルリちゃんだって、サンタさんを困らせるわけじゃないよね?」
「瑠璃ねぇ‥‥うん。困らせるつもりは無いの」
話を聴いていた美崎 瑠璃(
gb0339)本人が、少し困ったような表情を浮かべて聴いた。
その問いにルリは少し大人びた、幸せそうな笑みを浮かべてこう言った――
――私は欲しいものずっと貰ってるから。
その言葉にセラと瑠璃は目を丸くして、何かを感じたように「そっか」といって笑った。
「じゃあ、さ。こんな依頼さくっと終わらせて、皆でクリスマスパーティーしよっか」
「「うんっ!」」
瑠璃の提案にルリとセラの二人は立ち上がり、空に拳を突き上げて元気良く同意した。(なにか足元でうめき声が聞こえたかもしれない)
「‥‥俺、もう、ダメ‥‥かも、皆バトル、頑張って‥‥(ぱたり)」
消え入るような声でそう口にしながら、幼女二人に踏まれて死ぬのも、悪くない。そんな事を紫狼は思ったとか思わなかったとか。
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どーん。きーん。ぼーん。
「お前らは空気読んでさっさと去ね」
美具・ザム・ツバイ(
gc0857)はそう言って、足元に転がった蟲キメラを踏み潰した。
数だけは多かったが、前情報通り強さはたいしたこと無かった。ルリが蟲にたかられてじたばたしたくらいだ。どうやらルリの食べこぼしたおやつに寄ってきたらしい。
「ま、新調した斧の試し切り程度にはなったかな」
そう言ってチョコを齧るのは、龍深城・我斬(
ga8283)だった。
そのチョコをじぃと眺めるルリの姿が見えると、我斬は苦笑を漏らして「くうか?」と板チョコを一枚差し出す。
ルリはそれを受け取ると「んふふ〜、ありがとっ! 我斬にぃ!」と、諸手を上げて飛び跳ねた。
「そういやさ、そろそろクリスマスだけど、なんかパーティとかやるのかい?」
「ふむ。ルリ殿はクリスマスはどのように祝うのかや?」
「あ、うん。瑠璃ねぇとも言ってたんだけど、皆でやりたいっ!」
聴けば去年まではママと二人きりだったと言う。傭兵になってから友達も増え、皆と一緒に祝いたいらしい。
「なら、依頼の打ち上げもかねて皆でやるとするか」
にぃ。と我斬がそう言って笑うと、ルリは再び飛び跳ねて喜んだ。
「時にルリ殿は、サンタは実在すると思うかの?」
不意にされた美具の質問にルリは目を丸くすると、大きく頷いて言う。
――居るよ。大事なサンタさんがっ!
と、そう拳を振り上げた。
その迷いの無い回答に、我斬がほぅほぅ。と頷き口を開く。
「じゃあ、今年は何をお願いしたんだ?」
「してないよっ! 今年は私がお返しするのっ!」
両手を胸の前でぐっと構え、その目にやる気を見せるルリ。
「へぇ、何をプレゼントするつもりなのかや?」
「なにかお菓子を作ろうと思ったんだけど‥‥電子レンジさんが壊れちゃった! ‥‥電子レンジさん‥‥ごめんなさい」
「ルリ、電子レンジを供養するためには歌うしかないんだよ、レクイエムだよ」
何を思い出したのかその場に膝を突くルリに、セラが駆け寄りそう言うと、二人は空に向かってレクイエムを詠いだした。
そんな和やかで混沌とした風景の裏で、瑞姫・イェーガー(
ga9347)に百地・悠季(
ga8270)が厳しい視線を向けていた。
「ん? 悠季、何?」
「ねえ、体調の自覚足りなくない?」
「え?」
「夏に貴女の事が発覚して以来だけど‥‥、全然自らを省みてないでしょう」
その言葉に「あ、ぅ」と呻きながら後ずさる瑞姫。その瑞姫に人差し指を突きつけながら悠季が詰め寄る。
「エミタが強化するのは自分だけなのよ?」
「じ、自覚は足りてないのかも‥‥」
そう言って瑞姫が腹部を擦ると、そこには確かに息づく何かを感じた。それを感じると、瑞姫は柔らかく微笑んだ。
「ほら、いい顔になった」
「え?」
「お母さんの顔」
「お母さん‥‥の?」
悠季の言葉を鸚鵡返しにしながら、瑞姫は自分の顔に手を当てる。
そんな瑞姫に苦笑を漏らしてから、再び悠季に厳しい視線を投げかけた。
「な、なに?」
「来年を楽しみにしたいから、過度に戦闘しない様約束して貰えるかしらね?」
瑞姫がその言葉に息を呑む。そしてやっとの事で悠季の言葉に応える。
「判った‥‥、よ約束する。私も母親になるんだから」
「なら、よし」
そう言って、悠季は瑞姫に笑顔を見せた。
――そうだ。私はお母さんになるんだ。
そう呟いて瑞姫はまだ見ぬ自分の子供へと思いを馳せた――。
●少し日を改めて、クリスマスイブ。
――喫茶店「11」は、イブの今日も静かだった。
頬杖をついてぼんやりと、遠くを見ている店主――三上 照天(gz0420)の姿がどこか寂しげである。
「これはこれは、随分と寂しいお店でゲスなぁ」
「よけーなお世話だよっ!」
夏子の漏らした言葉に、がたっと立ち上がって叫ぶ三上。それを苦笑を漏らしながら、奥に入って行くのは瑠璃だった。
「じゃあテルさん。キッチン使わせてもらいますね」
「いいよん。んで、なにすんの?」
「大切なサンタさんにお礼したいんだとさ」
我斬の言葉に、面白そうに「へぇ」とテルが笑う。
「で、そのサンタさんにばれない様に、うちで何かを作るってわけか」
「そう言う事だな」
「うっへっへ。ボクもそう言うの好きだよ。いくらでも力を貸すさ」
そう言いながら他の傭兵達にコーヒーを入れ、瑞姫の前に置いた時に悠季が止めた。
「ん? どしたの? 悠季さん」
「できれば、瑞姫にはノンカフェインのものをいただけない?」
「「へ?」」
悠季の言葉にテルと瑞姫の間の抜けた声が重なる。
「カフェインの取りすぎは子供に悪いのよ」
「え? え? ‥‥ええっ!?」
その言葉の意味にテルは思考をめぐらせ、結論にたどり着き――
――おめでとっ! 瑞姫!
と、手をとって喜ぶのに、少し戸惑いを覚えながらも瑞姫も笑う。
喜んでくれる友人が居る事は、幸せな事だとそう感じながら。
ずどん。
キッチンの奥でそんな音と瑠璃の悲鳴が鳴り響く。
「ルリちゃぁぁぁぁぁんっ!?」
「うあぁぁっ!? 電子レンジさんがぁぁっぁっ!?」
どうやら、「11」の電子レンジさんも天に召されたらしい。ルリは電子レンジとの相性が頗る悪いようだ。あ、ちなみにちゃんとしたオーブンレンジね。
「うおおおっ!? ボクの自慢のオーブンレンジがっ!?」
「や、焼くのは私達がやるから、ルリちゃんは生地を作ってくれるかな?」
「あ、あぁ、レンジの方は俺が片付けとくから、ルリちゃんの方見てやってくれ」
「う、うん」
テルの悲鳴、瑠璃の困ったような顔。クッキーを焼くだけでこんな阿鼻叫喚になるとは思わなかった。
無事、完成すれば良いが。
そんな事を思って我斬は苦笑した――。
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「ぶっちゃけ、ママンへのクリスマスプレゼントとか考えてるでしょ?」
カウンターの奥で懸命にクッキーの型抜きをしているルリに、紫狼が頬杖をつきながら聴いた。
「うん! そう! ‥‥はっ!?」
しまった! とでも言うように口に手を当てるルリ。型抜きに一生懸命になりすぎていて不意を突かれたのだろう。それに紫狼はにやーりと笑った。
「貰うのもいいけど、プレゼント贈った相手が笑顔になるのってスゲー胸が熱くなるよな!」
「むぅ‥‥っ!」
紫狼の言葉に釈然としないモノを感じながらルリは唸る。
そんなルリを後ろから瑠璃が抱きしめ「だったら、美味しいクッキーを作らないとね」と微笑んだ。
んむぅ。とかそんな事を言いながら、瑠璃の教えどおりにクッキーの生地を捏ね型を抜く。その様は本当の姉妹にも見える。
そんな様子を見ながら、セラが隣に居る美具に口を開いた。
「サンタはいると思うかい?」
「な、サ、サンタなんて居るわけ‥‥無いじゃろ」
最近まで信じていた美具は顔を赤くして、でも、本当は居たらいいな〜とかちょっと思ったり思わなかったり。
「サンタはいるよ」
「お、おるのかや!?」
「そもそもサンタとは伝説の人物ではない。いや、伝説の人物がいたのかもしれないが所詮今は伝説だ」
むむ? と話がちょっと遠くに言っちゃったぞ? と。首を傾げる美具。それを横目で見ながらセラ――いや、アイリスは続ける。
「そこでサンタとは特定人物を指すのではなく、作り上げられたシステムであることが分かる。つまり概念的な存在だ」
「概念的‥‥つまり、やはり居らぬと言う事ではないのか?」
その言葉にアイリスは不敵に笑い「違うよ」と応えた。
「そこでよい子の元にしか現れないというのが重要だ」
「ふむ‥‥?」
「子供に対して親がサンタとしてプレゼントを贈る。それは誰でもやれる事なんだよ。それが子から親に対してでも。つまり――」
――クリスマスと言うこの日は、皆がサンタクロースなのさ。
おお。と、アイリスの説明に呻く美具。
「つまり、ルリはママのサンタになろうとしている訳かの?」
「未来の予行練習に丁度いいだろう」
そう言ってアイリスは、一生懸命になっているルリに姉のような微笑を投げかけていた。
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喫茶店「11」の扉を開くと――
――ママママママママママっ!
そんな騒音が聞こえ、私は扉から身を逸らす。
すると、さっきまで私がいた場所を弾丸のように娘が飛び出していった。
ぱたん。
出て行った娘を確認した後、店内に入り入り口のドアを閉める。
そして、店内の皆に笑顔を送り「メリークリスマス!」と挨拶をした。
外からは「ママっ!? 締め出し喰らったよっ!? あけてよっ!」とか声が聞こえるが、まぁ、気にしない。
「で、あの子の欲しいものは分かったのかしら?」
直ぐ傍に立っていた長身‥‥でかっ!? 2m近くあるだろうか。に、とりあえず聴いてみる。
「あっはは。もうプレゼントはもう貰ってるらしいでゲスよ?」
「どう言う事?」
「ママさんと一緒に居られればそれでいいって言う事らしいです」
「それで今度は、ほら後ろを見るでゲス」
カウンターの向こうで美崎さんが応え、大男が私の後ろを指差すと、扉が開き娘が店内に入ってくる。
――ママっ! 今日は私がママのサンタさんだよっ!
そう言って、小さな包みを私に手渡す。
包みの中からは仄かに甘い香りがした。
「いい子じゃないでゲスか」
まったく、分かったような事を言う。これじゃ私が一番の道化じゃないか。
不覚にも目頭が熱くなった。
それを気取られまいと、私は強がってこういった。
「私の娘なんだから、当然じゃない」
そう、この子は。この馬鹿娘は私の大事な愛すべき娘だ。
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「言う事を聞くだけじゃ‥‥、何言ってるか判らなくてすいません」
「あっはは。なんとなくいいたい事は分かるわよ」
瑞姫のたどたどしい言葉に、笑いながら言う藍(ママ)。
「良いわよねぇ、健気で。こういう成長は誉めた方が良いんじゃないの?」
「わかってるわよ。こう見えてもあなたより母親長いんだから」
悠季の言葉に、苦い顔をしながらそう応える藍。
狭い店内で、大はしゃぎする娘を遠巻きに見ながら苦笑を漏らすと、悠季が続けた。
「でも、瑞姫もほんと言う事聞かなくて」
「約束するって言ったじゃないかっ」
「何? 何のこと?」
「この子、妊娠してるのに戦場に行きすぎなのよ」
「あ〜ダメじゃない。無理しちゃ」
「しっ、四条さんまで‥‥、はい、そうします」
そう言ってうなだれる瑞姫を見ながら微笑を浮かべ、「なんてね」と続け、小さい声で口にした。
――私、子供産んだ事無いのよ。
「「え?」」
突然の告白に驚いた顔をする二人。それに悪戯っぽく笑い、唇に人差し指を当て「まだ、秘密よ?」と告げる。
「ここに居る人達の何人かは知ってるけどね」
「でも、なんで‥‥」
「関係ないのよ、そんな事。あの子は私の娘。それでいい」
藍の瞳は穏やかに笑っていた。その瞳に母としての強さを感じる。
「んじゃぁ、プレゼントの交換会やっぞぉっ!」
紫狼が店内の皆にそう声を掛けた。
今日はクリスマス。皆が幸せになれる日。
私は、この親子が羨ましい。
私も、他人から羨まれるくらいこの子を幸せにしよう。
瑞姫はお腹を撫でながら、そう誓った――。