タイトル:傭兵少女のプレゼントマスター:氷魚

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/01/07 22:54

●オープニング本文


 どどん。

 腹に響くようなそんな音と共にリビングが揺れた。
 その揺れの所為でカップに入れておいた紅茶がテーブルの上に零れ落ちる。

 ‥‥。

 そういえば、先ほど紅茶を淹れに行った時キッチンにうちの阿呆な娘の姿があった事を思い出す。
 しばらくして――

 ――‥‥‥ママママママママママっ!

 ばたん。どんっ!
 そんな騒音と、激しい衝撃音と共にリビングの扉が開かれた。今日も娘に破壊されなかったリビングの扉は、このリビングの平穏を守ろうとするかのようで、健気にすら思えてくる。
 そんな感想はどうでもいいとして、リビングに突貫してきた娘に私は問いかけた。
「どうしたのよ?」
「電子レンジが――」

 ――ぼんっって。

 どこか、悲壮感を漂わせながらそう口にする娘。電子レンジが爆発したことに恐怖を覚えたようで、ドアノブに手をかけたままの手は小刻みに震えている。
「アンタ、電子レンジの怒りに触れたのね」
「そうなのっ!?」
「そうよ。アンタは電子レンジに対して絶対にやってはいけない事をした」
「あ、謝ったら許してくれるかなっ!?」
「無駄よ。彼(電子レンジ)は怒りを胸に抱いたまま、この世から去って行ってしまった‥‥」
「で、電子レンジさん‥‥」
 私のセリフにその場に手をつき項垂れる娘。その瞳からは本気の涙が零れ落ちていた。
 まぁ、それはそれとして――

 ――あんた。サンタさんに何頼んだの?

 今日のところはこの話題が本題だ。この娘あの白髭爺をまだ信じているのである。私はいつまで信じていただろうか。結構長い間姉さんに騙されていたような気がする。
 それは私の夢を壊さないようにしていたのか、それともからかっていたのか。

 ‥‥前者だと信じたい。

 そんな思考を数秒間だけめぐらせていると、娘が電子レンジの死に咽び泣きながら口を開いた。
「ぅ‥‥くっ‥‥秘密っ!」
 ち。先日聞いた時と同じ答えか。等と私は胸中でぼやく。
 ちょっと緩んでいる今だったらうまく聞き出せるかと思ったのだけれど。
 なら、趣向を変えてみよう。
「でも、電子レンジさんを怒らせた悪い子には、サンタさんは来ないかもね」
「ええっ!? そうなのっ!?」
「良く言うでしょ? 悪い子いねが〜って」
「ママっ! それはなまはげだよっ!」
「変なところで聡い子ね‥‥」
 まさか、娘に突っ込みを入れられる日が来るなんて。親はなくとも子は育つ。なんてよく言ったものだ。
 ‥‥少しさみしくもあるけれど。
 まぁ、感慨にふけっていても仕方がない。
「でも、悪い子にはサンタさんは来ないって有名よ?」
「じゃあいい子になるっ!」
「それなら、サンタさんに何お願いしたの? ママからもお願いしておくから」
「ヤダっ!」
 このくそがきゃあ‥‥。かわいさ余って憎さ百倍とはこのことか。
「ま、ママ‥‥なんか怖いよっ!?」
「そんなことないわよ?」
 口元に笑みを浮かべ、私は娘を優しくにらみつける。
 すると娘は慌てて「い、依頼受けてくるっ! からっ、今日は帰らないかもっ!!」と、リビングから逃げ出した。
 娘が居なくなった途端静寂を取り戻すリビング。
 その中で私は腰に手を当てため息をつき「仕方ない‥‥」とため息をついて、本部へと依頼を投げ込んだ。

●参加者一覧

百地・悠季(ga8270
20歳・♀・ER
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
瑞姫・イェーガー(ga9347
23歳・♀・AA
美崎 瑠璃(gb0339
16歳・♀・ER
美具・ザム・ツバイ(gc0857
18歳・♀・GD
セラ(gc2672
10歳・♀・GD
夏子(gc3500
23歳・♂・FC
村雨 紫狼(gc7632
27歳・♂・AA

●リプレイ本文


「‥‥紫狼にぃ‥‥大丈夫?」
 ぜひぜひ言いながら一行についてくる村雨 紫狼(gc7632)に、心配そうにそう声を掛けるのは四条 ルリ(gz0445)だった。
「あー‥‥うん。ちょっとサンタと乱闘してなー‥‥」
「サンタさんとっ! ダメだよっ! サンタさんと喧嘩しちゃあっ!」
「だって大人にプレゼントできねーって言うんだぜーあの不法侵入ジジイ! 必殺ホーリーラリアット喰らって撃沈したぜ〜」
「ホーリーラリアットっ! どんなのっ!? どんなのっっ!?」
 その言葉に興味を持ったらしいルリに、こーんな感じでよぉ。とやられる振りをする紫狼。それに「うぉぉっ」とか「ごぉぉぉっ」とかルリがなんか吼えてる。
「やぁやぁ♪ 初めまして四条さん♪ あっしゃぁ夏子と申すケチな男でゲス。今後お見知りおきを。でゲスよ♪」
「あ。はいっ! 四条ルリです! よろしくお願いします」
 おどけたようにそう名乗る夏子(gc3500)に、振り返って深く頭を下げるルリ。
「そういえばそろそろクリスマスでゲスね。四条さんはサンタさんに、何かお願いしたんでゲスか? お菓子を上げるから聞かせて欲しいでゲスよ」
「わぁ‥‥い」
 お菓子を貰って、条件反射の様に直ぐに口に入れてから「あ、あはは‥‥」と気まずい笑いを夏子に向ける。貰ったものを直ぐに口に入れるとか、もうこの子の将来が不安である。まぁ、気まずい笑いは夏子の質問に対するものだろうけれど。
 そんなルリに横から抱きついてくる影があった。
「クリスマスだよ、クリスマスパーティーだよルリっ!」
 その勢いに吹き飛ばされ、そのまま紫狼にぶつかり地面に転がる三人。
 一番先にひょこっと顔をあげたのがセラ(gc2672)だった。
「サンタさんにお手紙出さないとプレゼントがもらえないんだよ、ルリ!」
 きゅう。と言う感じで目を回しているルリに、セラは続ける。
「セラはね、グランドピアノが欲しいなって思うの♪ ルリ、ルリはプレゼント何をお願いしたの?」
「セ、セラちゃんっ! 私はお願いしてないんだ!」
「なんで、なんで?」
「うん。ルリちゃんが欲しいものが分からないと、サンタさんはとっても困っちゃうと思うんだ。ルリちゃんだって、サンタさんを困らせるわけじゃないよね?」
「瑠璃ねぇ‥‥うん。困らせるつもりは無いの」
 話を聴いていた美崎 瑠璃(gb0339)本人が、少し困ったような表情を浮かべて聴いた。
 その問いにルリは少し大人びた、幸せそうな笑みを浮かべてこう言った――

 ――私は欲しいものずっと貰ってるから。

 その言葉にセラと瑠璃は目を丸くして、何かを感じたように「そっか」といって笑った。
「じゃあ、さ。こんな依頼さくっと終わらせて、皆でクリスマスパーティーしよっか」
「「うんっ!」」
 瑠璃の提案にルリとセラの二人は立ち上がり、空に拳を突き上げて元気良く同意した。(なにか足元でうめき声が聞こえたかもしれない)
「‥‥俺、もう、ダメ‥‥かも、皆バトル、頑張って‥‥(ぱたり)」
 消え入るような声でそう口にしながら、幼女二人に踏まれて死ぬのも、悪くない。そんな事を紫狼は思ったとか思わなかったとか。



 どーん。きーん。ぼーん。

「お前らは空気読んでさっさと去ね」
 美具・ザム・ツバイ(gc0857)はそう言って、足元に転がった蟲キメラを踏み潰した。
 数だけは多かったが、前情報通り強さはたいしたこと無かった。ルリが蟲にたかられてじたばたしたくらいだ。どうやらルリの食べこぼしたおやつに寄ってきたらしい。
「ま、新調した斧の試し切り程度にはなったかな」
 そう言ってチョコを齧るのは、龍深城・我斬(ga8283)だった。
 そのチョコをじぃと眺めるルリの姿が見えると、我斬は苦笑を漏らして「くうか?」と板チョコを一枚差し出す。
 ルリはそれを受け取ると「んふふ〜、ありがとっ! 我斬にぃ!」と、諸手を上げて飛び跳ねた。
「そういやさ、そろそろクリスマスだけど、なんかパーティとかやるのかい?」
「ふむ。ルリ殿はクリスマスはどのように祝うのかや?」
「あ、うん。瑠璃ねぇとも言ってたんだけど、皆でやりたいっ!」
 聴けば去年まではママと二人きりだったと言う。傭兵になってから友達も増え、皆と一緒に祝いたいらしい。
「なら、依頼の打ち上げもかねて皆でやるとするか」
 にぃ。と我斬がそう言って笑うと、ルリは再び飛び跳ねて喜んだ。
「時にルリ殿は、サンタは実在すると思うかの?」
 不意にされた美具の質問にルリは目を丸くすると、大きく頷いて言う。

 ――居るよ。大事なサンタさんがっ!

 と、そう拳を振り上げた。
 その迷いの無い回答に、我斬がほぅほぅ。と頷き口を開く。
「じゃあ、今年は何をお願いしたんだ?」
「してないよっ! 今年は私がお返しするのっ!」
 両手を胸の前でぐっと構え、その目にやる気を見せるルリ。
「へぇ、何をプレゼントするつもりなのかや?」
「なにかお菓子を作ろうと思ったんだけど‥‥電子レンジさんが壊れちゃった! ‥‥電子レンジさん‥‥ごめんなさい」
「ルリ、電子レンジを供養するためには歌うしかないんだよ、レクイエムだよ」
 何を思い出したのかその場に膝を突くルリに、セラが駆け寄りそう言うと、二人は空に向かってレクイエムを詠いだした。
 そんな和やかで混沌とした風景の裏で、瑞姫・イェーガー(ga9347)に百地・悠季(ga8270)が厳しい視線を向けていた。
「ん? 悠季、何?」
「ねえ、体調の自覚足りなくない?」
「え?」
「夏に貴女の事が発覚して以来だけど‥‥、全然自らを省みてないでしょう」
 その言葉に「あ、ぅ」と呻きながら後ずさる瑞姫。その瑞姫に人差し指を突きつけながら悠季が詰め寄る。
「エミタが強化するのは自分だけなのよ?」
「じ、自覚は足りてないのかも‥‥」
 そう言って瑞姫が腹部を擦ると、そこには確かに息づく何かを感じた。それを感じると、瑞姫は柔らかく微笑んだ。
「ほら、いい顔になった」
「え?」
「お母さんの顔」
「お母さん‥‥の?」
 悠季の言葉を鸚鵡返しにしながら、瑞姫は自分の顔に手を当てる。
 そんな瑞姫に苦笑を漏らしてから、再び悠季に厳しい視線を投げかけた。
「な、なに?」
「来年を楽しみにしたいから、過度に戦闘しない様約束して貰えるかしらね?」
 瑞姫がその言葉に息を呑む。そしてやっとの事で悠季の言葉に応える。
「判った‥‥、よ約束する。私も母親になるんだから」
「なら、よし」
 そう言って、悠季は瑞姫に笑顔を見せた。

 ――そうだ。私はお母さんになるんだ。

 そう呟いて瑞姫はまだ見ぬ自分の子供へと思いを馳せた――。

●少し日を改めて、クリスマスイブ。

 ――喫茶店「11」は、イブの今日も静かだった。

 頬杖をついてぼんやりと、遠くを見ている店主――三上 照天(gz0420)の姿がどこか寂しげである。
「これはこれは、随分と寂しいお店でゲスなぁ」
「よけーなお世話だよっ!」
 夏子の漏らした言葉に、がたっと立ち上がって叫ぶ三上。それを苦笑を漏らしながら、奥に入って行くのは瑠璃だった。
「じゃあテルさん。キッチン使わせてもらいますね」
「いいよん。んで、なにすんの?」
「大切なサンタさんにお礼したいんだとさ」
 我斬の言葉に、面白そうに「へぇ」とテルが笑う。
「で、そのサンタさんにばれない様に、うちで何かを作るってわけか」
「そう言う事だな」
「うっへっへ。ボクもそう言うの好きだよ。いくらでも力を貸すさ」
 そう言いながら他の傭兵達にコーヒーを入れ、瑞姫の前に置いた時に悠季が止めた。
「ん? どしたの? 悠季さん」
「できれば、瑞姫にはノンカフェインのものをいただけない?」
「「へ?」」
 悠季の言葉にテルと瑞姫の間の抜けた声が重なる。
「カフェインの取りすぎは子供に悪いのよ」
「え? え? ‥‥ええっ!?」
 その言葉の意味にテルは思考をめぐらせ、結論にたどり着き――

 ――おめでとっ! 瑞姫!

 と、手をとって喜ぶのに、少し戸惑いを覚えながらも瑞姫も笑う。
 喜んでくれる友人が居る事は、幸せな事だとそう感じながら。

 ずどん。

 キッチンの奥でそんな音と瑠璃の悲鳴が鳴り響く。
「ルリちゃぁぁぁぁぁんっ!?」
「うあぁぁっ!? 電子レンジさんがぁぁっぁっ!?」
 どうやら、「11」の電子レンジさんも天に召されたらしい。ルリは電子レンジとの相性が頗る悪いようだ。あ、ちなみにちゃんとしたオーブンレンジね。
「うおおおっ!? ボクの自慢のオーブンレンジがっ!?」
「や、焼くのは私達がやるから、ルリちゃんは生地を作ってくれるかな?」
「あ、あぁ、レンジの方は俺が片付けとくから、ルリちゃんの方見てやってくれ」
「う、うん」
 テルの悲鳴、瑠璃の困ったような顔。クッキーを焼くだけでこんな阿鼻叫喚になるとは思わなかった。

 無事、完成すれば良いが。
 
 そんな事を思って我斬は苦笑した――。



「ぶっちゃけ、ママンへのクリスマスプレゼントとか考えてるでしょ?」

 カウンターの奥で懸命にクッキーの型抜きをしているルリに、紫狼が頬杖をつきながら聴いた。
「うん! そう! ‥‥はっ!?」
 しまった! とでも言うように口に手を当てるルリ。型抜きに一生懸命になりすぎていて不意を突かれたのだろう。それに紫狼はにやーりと笑った。
「貰うのもいいけど、プレゼント贈った相手が笑顔になるのってスゲー胸が熱くなるよな!」
「むぅ‥‥っ!」
 紫狼の言葉に釈然としないモノを感じながらルリは唸る。
 そんなルリを後ろから瑠璃が抱きしめ「だったら、美味しいクッキーを作らないとね」と微笑んだ。
 んむぅ。とかそんな事を言いながら、瑠璃の教えどおりにクッキーの生地を捏ね型を抜く。その様は本当の姉妹にも見える。
 そんな様子を見ながら、セラが隣に居る美具に口を開いた。
「サンタはいると思うかい?」
「な、サ、サンタなんて居るわけ‥‥無いじゃろ」
 最近まで信じていた美具は顔を赤くして、でも、本当は居たらいいな〜とかちょっと思ったり思わなかったり。
「サンタはいるよ」
「お、おるのかや!?」
「そもそもサンタとは伝説の人物ではない。いや、伝説の人物がいたのかもしれないが所詮今は伝説だ」
 むむ? と話がちょっと遠くに言っちゃったぞ? と。首を傾げる美具。それを横目で見ながらセラ――いや、アイリスは続ける。
「そこでサンタとは特定人物を指すのではなく、作り上げられたシステムであることが分かる。つまり概念的な存在だ」
「概念的‥‥つまり、やはり居らぬと言う事ではないのか?」
 その言葉にアイリスは不敵に笑い「違うよ」と応えた。
「そこでよい子の元にしか現れないというのが重要だ」
「ふむ‥‥?」
「子供に対して親がサンタとしてプレゼントを贈る。それは誰でもやれる事なんだよ。それが子から親に対してでも。つまり――」

 ――クリスマスと言うこの日は、皆がサンタクロースなのさ。

 おお。と、アイリスの説明に呻く美具。
「つまり、ルリはママのサンタになろうとしている訳かの?」
「未来の予行練習に丁度いいだろう」
 そう言ってアイリスは、一生懸命になっているルリに姉のような微笑を投げかけていた。


 喫茶店「11」の扉を開くと――

 ――ママママママママママっ!

 そんな騒音が聞こえ、私は扉から身を逸らす。
 すると、さっきまで私がいた場所を弾丸のように娘が飛び出していった。

 ぱたん。

 出て行った娘を確認した後、店内に入り入り口のドアを閉める。
 そして、店内の皆に笑顔を送り「メリークリスマス!」と挨拶をした。
 外からは「ママっ!? 締め出し喰らったよっ!? あけてよっ!」とか声が聞こえるが、まぁ、気にしない。
「で、あの子の欲しいものは分かったのかしら?」
 直ぐ傍に立っていた長身‥‥でかっ!? 2m近くあるだろうか。に、とりあえず聴いてみる。
「あっはは。もうプレゼントはもう貰ってるらしいでゲスよ?」
「どう言う事?」
「ママさんと一緒に居られればそれでいいって言う事らしいです」
「それで今度は、ほら後ろを見るでゲス」
 カウンターの向こうで美崎さんが応え、大男が私の後ろを指差すと、扉が開き娘が店内に入ってくる。

 ――ママっ! 今日は私がママのサンタさんだよっ!

 そう言って、小さな包みを私に手渡す。
 包みの中からは仄かに甘い香りがした。
「いい子じゃないでゲスか」
 まったく、分かったような事を言う。これじゃ私が一番の道化じゃないか。
 不覚にも目頭が熱くなった。
 それを気取られまいと、私は強がってこういった。

「私の娘なんだから、当然じゃない」

 そう、この子は。この馬鹿娘は私の大事な愛すべき娘だ。


「言う事を聞くだけじゃ‥‥、何言ってるか判らなくてすいません」
「あっはは。なんとなくいいたい事は分かるわよ」
 瑞姫のたどたどしい言葉に、笑いながら言う藍(ママ)。
「良いわよねぇ、健気で。こういう成長は誉めた方が良いんじゃないの?」
「わかってるわよ。こう見えてもあなたより母親長いんだから」
 悠季の言葉に、苦い顔をしながらそう応える藍。
 狭い店内で、大はしゃぎする娘を遠巻きに見ながら苦笑を漏らすと、悠季が続けた。
「でも、瑞姫もほんと言う事聞かなくて」
「約束するって言ったじゃないかっ」
「何? 何のこと?」
「この子、妊娠してるのに戦場に行きすぎなのよ」
「あ〜ダメじゃない。無理しちゃ」
「しっ、四条さんまで‥‥、はい、そうします」
 そう言ってうなだれる瑞姫を見ながら微笑を浮かべ、「なんてね」と続け、小さい声で口にした。

 ――私、子供産んだ事無いのよ。

「「え?」」
 突然の告白に驚いた顔をする二人。それに悪戯っぽく笑い、唇に人差し指を当て「まだ、秘密よ?」と告げる。
「ここに居る人達の何人かは知ってるけどね」
「でも、なんで‥‥」
「関係ないのよ、そんな事。あの子は私の娘。それでいい」
 藍の瞳は穏やかに笑っていた。その瞳に母としての強さを感じる。
「んじゃぁ、プレゼントの交換会やっぞぉっ!」
 紫狼が店内の皆にそう声を掛けた。

 今日はクリスマス。皆が幸せになれる日。

 私は、この親子が羨ましい。
 私も、他人から羨まれるくらいこの子を幸せにしよう。

 瑞姫はお腹を撫でながら、そう誓った――。