タイトル:雪降る夜に珈琲をマスター:氷魚

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2013/01/05 19:45

●オープニング本文


●小さな小さな喫茶店にて

 喫茶店『11』は今日も客は居なかった。
 いや、正確には一人。
 やや大きな帽子を被った少女がカウンターで使い古されたカメラのメンテナンスをしている。
 元々大きな店でもないのだが、客がたった一人だとヤケに広く感じるのは気のせいだろうか。
 ぼんやりと宙を見つめながらチクタクと鳴る時計の音に耳を傾けていた。
 暖房はついているのだけれど、壁から伝わってくる外気が冬の寒さを感じさせる。
「寒いね」
「そうだね」
「紅茶飲む?」
「うん」
 愛華がそう答えたので、渋々ボクは紅茶と自分の為に珈琲を入れることにする。
 そんなボクを見ながら愛華は「そんな嫌なら聞かなきゃいいのに」と言う。
「愛華。ボクがツンデレなのは知ってるだろう?」 
「知らないけど」
「そっか」

 ‥‥こぽこぽ。

「今日はサイフォンなんだね」
「うん。香りを楽しむならこれに限るね」
「でも、時間かかるよね」
「あぁ‥‥まぁ、ね」
 アルコールランプが静かにフラスコの中の水を煮沸する。
 その水蒸気が挽いた豆の層をゆっくりと通り過ぎ、そしてまた豆の層を通ってしたのフラスコに戻っていく。
 アルコールランプの炎がゆらりと揺れ、より時間をゆったりと。しかし贅沢に使っている気持ちにさせた。
「寒いね」
「そうだね」
「もう、クリスマスだね」
「‥‥そうだね」
「愛華」
「なに?」
「今年も一人?」
「‥‥そう、だね。そういえば‥‥」
 愛華が言葉を詰まらせるのに、ボクもやや心を痛める。
 この子も色々と世界中を飛び回っている所為で、中々出会い‥‥は無い事もなかった気はするが、結局お付き合いするというところまでは至っていないらしい。
「だったらさ。また、クリスマスにお店手伝ってくれる?」
「‥‥いい、よ‥‥し、仕方ないなー」
「だったら――」
「――普通のメイド服までね」

 ‥‥流石に、今までの流れの様には行かなかったらしい。

 ボクは舌打ちをして、エロいサンタ服をカウンターの下に隠すことにした――。

●参加者一覧

里見・さやか(ga0153
19歳・♀・ST
高日 菘(ga8906
20歳・♀・EP
美崎 瑠璃(gb0339
16歳・♀・ER
宵藍(gb4961
16歳・♂・AA
龍鱗(gb5585
24歳・♂・PN
石田 陽兵(gb5628
20歳・♂・PN
恋・サンダーソン(gc7095
14歳・♀・DF
村雨 紫狼(gc7632
27歳・♂・AA

●リプレイ本文


 雑貨屋の中で少女が店員に指で指示をしながらいくつかの言葉を交わしていた。

「あぁ、そっちじゃない。そう、それそれ」

 恋・サンダーソン(gc7095)がそれを受け取りカバンに収めると、高日 菘(ga8906)がその背中に声をかけてくる。
「れんれん〜、何しとるのん?」
「んあ? なんでもねぇよ」
 恋はそう応えて店を出ると曇天の中、冷たい風が吹き付けてくる。
「さっみー、ちょっとどっか寄ってこうぜ」
 菘にそう言って周辺に視線を巡らせると、路地を入ったところに喫茶店らしき看板が目に入った。
「‥‥お、ちょーどいートコに店あんじゃんか」
「んぃ、喫茶店ー? ええよー、おごったるでぇー」
 のんびりと間延びしたしゃべりで菘が応えてくる。
 恋は「べつにおごるとかいいらねーし」と、そっぽを向きながら喫茶店に歩を進めると、いたずらっぽい笑みを浮かべながら菘が続く。
 喫茶店の店頭には、厚みのある木で出来た看板に『11』と刻まれていた。
 扉を開け中に入るとまず目に入ったのが切り出した木をそのまま使った味のあるカウンター席。そしてテーブル席が二つ。
 ざっと見た感じでも11席しかない小さな喫茶店だった。
「ま、ま、愛華っ! お客さんだよ! ほんとに来たよ!?」
「て、テルちゃん落ち着いて」
 カウンターの奥で超テンションが上がってるちっこいのに、メイド服を来た少女が苦笑を漏らす。

 ――い、いらっしゃいませ。ようこそ喫茶店『11』へ。

 菘と恋は顔を見合わせながら変な店に入っちゃったなぁ。とか思ったとか。


「お」

「あ」

 小さな喫茶店に向かう路地で宵藍(gb4961)と美崎 瑠璃(gb0339)は、お互い顔を見合わせてそんな言葉を口にした。
 宵藍が指で「11」の扉を指し示すと、瑠璃は濃くりとうなづく。
「出張喫茶店以来?」
「ですねー」
 そんな会話をしながら扉を開けると、メイド服を着た愛華と鼻歌混じりにお湯を沸かすテルの姿が見えた。
 二人に気づくと、テルは「おー」と声を上げて手を振った。
「どうしたんだい二人共? クリスマスなのに暇なのかい?」
「お前の店ほどじゃないだろ」
「う、うっさいな! 今日はお客さんいるよ!」
 宵藍の返答で自虐的なセリフになってしまった。
「わ、私は‥‥一人寂しいクリスマスだからさー‥‥」
「そ、それは口にしちゃダメだよ瑠璃っち!」
「だから、手伝いにきたんだよ」
「俺も俺も」
 そう言う二人に、ちろーりと店内へ視線を巡らせるテル。

 ‥‥店員の方が多くなっちゃった。

「バイト代でないよ? 飲み物くらい好きに飲んでいいけど」
「おっけー」
「あ、宵藍さんは――」
「メイド服は着ないぞ?」
「えー」
「えーじゃねぇ。あれは仕事で女装してるんだ」
「これも仕事じゃないかー」
「まぁ‥‥そうだな、中華風のサンタ服とかならOKだ――」

 ――ご要望のままに。

 言い終える前の宵藍にテルが応え、その目の前に置かれた服は明らかに女性用のドレス。
 それに顔を引き攣らせる宵藍の後ろで、苦笑を浮かべるしかない瑠璃であった‥‥。


 小さな喫茶店を見つけ龍鱗(gb5585)と里見・さやか(ga0153)は、ゆっくりとくつろいでいた。
「のんびりすんのも久しぶりかね‥‥」
 店の奥のテーブル席に座った龍鱗は呟く。
 隣に座るさやかは暖かい珈琲とケーキを前に柔らかい笑顔を浮かべていた。
 ケーキの傍らには店主が「サービスだよ」と言って置いていった、動物を形どったクッキーが置かれている。
「とりあえず今後の事だけども‥‥ラストホープ内、外は未定だけど、軽食屋でもやろうと思うんだが‥‥さやかさんはどうしたい?」
「いいですね。大きくなくても良いからのんびりと――」
 そう言って店内に視線を巡らせる。
 木造のしっかりとした作りの店内は、壁に珈琲の香りが染み付いているようだ。
 切り出した木をそのまま使ったカウンターテーブルは、沢山の人に撫でられ滑らかな光沢を放っている。

 のんびりと過ごす二人。

 二人が結婚して早5ヶ月。
 そのあいだにバグアとの戦いも集結を迎え、その後始末で二人共今まで世界中を飛び回っていた。
「ようやく二人で過ごせましたね‥‥」
 幸せそうにさやかが呟くと、「あぁ」と龍鱗も言葉少なに応える。
 共有できる時間と空間があれば、言葉がなくとも心が暖かい気持ちになれた。
「軽食屋をするんなら、メニューとか決めないといけませんね」
「時間があるんだから焦る事はない。のんびり決めればいいさ」
 そう言って珈琲を口に運ぶ龍鱗に、さやかは笑みで応える――

 ――そうですね。ゆっくり、考えましょう二人で。

 窓の外へ視線を向けると、店内の時間を表すかのようにゆっくりと雪が舞い降りてきていた。


「お? どうしたんだ少年」
 村雨 紫狼(gc7632)は、喫茶店『11』の扉のノブに手を伸ばしたり引っ込めたりしている石田 陽兵(gb5628)を見かけてバイクを止めた。
 なぜか陽兵の手には招き猫が抱かれている。
「あ、え? あ、む、村雨さん」
「なーにやってんだよ。ほら入るぞ?」
 紫狼は陽兵に構わず『11』の入口をくぐる。
 カウンターに立つ三上がこちらに視線を向けると「おや、紫狼さん」と迎えた。
「おいーす、おやっさん‥‥じゃなくておばっさん?というかロリっ子ちゃん??」
「ボクは次の誕生日で20歳だよ! 成人するんだよ!」
「‥‥え?」
「嘘じゃないよっ!」
 そんなやりとりをしながら、紫狼は陽兵が入ってこない事に気づく。
「おーい少年。早く入って来いよ」
「太鼓叩きそうな人みたいに人を呼ぶな、キミ‥‥」
 半眼で言う三上の言葉に。ふふん。と言った風に返し入口の方に戻る紫狼。
「石田少年。なーにソワってんだYO☆」
「あ、いえ、そ、その‥‥」
 陽兵がはっきりと言葉にしないのを見て、ははーん。と何かを察したように言う。
「いや、言わなくていいぜ! 言葉じゃなくて魂で理解したっ!」
「え? ええっ!?」
 紫狼は陽兵の耳元に口を寄せ、囁く。
「誰にコクるかしらねーが、『結果だけを求めるな。遠回りこそが最短の道だぜ』」
 陽兵はその言葉にごくり喉を鳴らすと、気を取り直して『11』の中へと足を踏み入れ――

 ――や、やや、やあ、愛華ちゃん。お、お邪魔しますっ!

 メイド服に身を包んだ愛華に対して言葉を投げかけると、愛華は笑顔で出迎えた。


 恋が珈琲をスプーンで掻き回すとざり、ざり。とそんな音が鳴る。
 大量に入れた砂糖が溶け切らずカップの底に溜まっているのだ。
「そーいや、オマエどーすんだ?」
「んみ、今後ー? 取り敢えず日本に戻るんちゃうかなぁー」
「ふぅん‥‥」
 菘の言葉にカップの中の珈琲の水面を見つめたまま、気のない風に恋は応えた。
「‥‥ん? ひょっとして寂しん?」
「ち、ちげーし、寂しいとかねーし」
 ニヤニヤしながら恋を覗き込む菘は、満面の笑みを浮かべて言葉を続ける。
「なんなら、うちと一緒に日本来るー?」
「まぁ、オマエがどーしてもってんなら‥‥ついて行ってもいーケドナ。んだよ、そのケーキは」
 顔を背けていた恋に菘はフォークに指したケーキを差し出していた。
「ケーキあーん。ほら遠慮せんとー」
「いやバカじゃねーの、ナンでボクがそんな‥‥あーもー、食やいーんだろー!」
 そう言って渋々と言った風に、菘が差し出したケーキに齧り付く。
 そしてお返しとばかりに、大きめのケーキをフォークに刺して菘の方に差し出した。
「お、れんれんもやってくれるんー?」
「あぁ? やられたらやり返すに決まってるっしょー」
 超速で恋が差し出したケーキにかぶりついた菘は「おいしー」と言いながら恋の頭をペシペシと叩く。
「ちょ、オマエ、ちょっ、ってか無駄に叩くんじゃねーよ!」
 そう言ってデコピンで菘を窘めるが、明らかに主導権は菘の方にあった――。

 そんなやりとりをする二人を見ながらさやかは穏やかな笑みを浮かべていた。
「さやかさん?」
「ん、いえ‥‥平和になったんだなと思いまして」
 戦いのない世界。そして龍鱗と共にこの時代を歩んでいけることに喜びを覚える。

 この人と一緒になれて、本当に良かった。

 心からそう思う。
 鱗さんも、そう思って下さっていれば良いのですが。
 そんなことを思ってちらりと龍鱗の方へ視線を向けると、その視線に気付いた龍鱗が小首を傾げた。
「あ、な、なんでもないんです」
「しかし、何かないもんかね」
「え?」
「店。俺が考えると地味な方向にしかならないしな‥‥」
 そう言って窓の外を見ながら溜息を吐く龍鱗。
 二人の今後について真剣に考えてくれているのを見て、さやかは幸せな気持ちになる。
「二人で一緒に考えましょう、鱗さん」
「あぁ、そうだな」
 さやかの提案に龍鱗は、柔らかな微笑みで応えるのだった。



「私ね、軍人になったんだ」

 カウンターの奥でケーキのデコレーションをしながら瑠璃は言った。
「軍人っ!?」
 テルの驚きに、照れくさそうに笑いながら瑠璃は続ける。
「自分でも似合わないとは思ったんだけどね」
「どうしてまた?」
「宇宙に関わる仕事に就くのに一番手っ取り早かったのが宇宙軍に入ることだったから」
「瑠璃っち宇宙に行っちゃうの?」
 テルの問いにうなづく瑠璃のその視線は、空の向こうを見つめている強い意思を感じさせた。
「宇宙の向こう、まだあたしたちの知らないところに何があるのか‥‥不安はあっても、それを考えたときのドキドキ感の方が今は強いかなっ」
 そう言って鼻の頭を掻くと、生クリームが瑠璃の鼻をデコレーションした。
 恥ずかしそうにクリームを布巾で拭いて、にっこり笑う。
「だったらよ、バグアの宇宙船の見学とか行ってみたらどうだ?」
「宇宙船?」
 紫狼の言葉に首をかしげる瑠璃。
「前に接収した作りかけの宇宙船があんだよ」
 とあるバグアの遺した恒星間航行船。
 それが一体人類にとってどんな道を示すのかはわからない。
 ただ、それを遺したバグアの言葉通り可能性を見せるには十分な物だろう。
「宇宙船‥‥かぁ」
 そんなことを呟く瑠璃にどこか満足げに頷いた後、紫狼は三上に向き直って注文をする。
「あ、ミカみん。おれホットミルクとカレーね」
「カレーは特製でいいかな?」
「お。そんなのあんの? んじゃそれで」

 にやり。

 紫狼の言葉を聞いたあと、三上がそんな風に笑った気がした。
「くくく。特製でいいんだね。少し待っててくれたまえよ」
「え? 何? なになに?」
 戸惑う紫狼の肩を、中華サンタ(女)の衣装を着た宵藍がぽん。と叩く。
「特製ねぇ‥‥頑張れよ?」
「頑張るってなんだよっ!?」
 宵藍はその特製カレーが出来上がった経緯を知っているのだ。
 某カレー大好きの傭兵がこの店に来た時に生まれた『特製』カレー。
「はいどーん!」

 ‥‥それはまるで山の上に立つ難攻不落の城だった。

「な、なな、なにこれ」
「特製カレーだよ? 重かった‥‥」
 言葉通り見上げるほどのカレーライスだった。
 驚きと焦りを隠せない紫狼を苦笑しながら見守る宵藍。
「頑張れ、って言っただろ? テル、ちょっといいか?」
 宵藍は三上に声をかけて二胡を持ち出すと、「任せるよ」と笑顔で応えカウンター側に出てくる。
「CD発売前だけどサービスな?」
「へっへぇ。ボクとキミの仲じゃないか。それくらいのサービス期待してたよ」
 三上の軽口に苦笑を漏らし、カウンターのスツールに腰掛けて宵藍は二胡を掻き鳴らし、そして謳う――

 ――Cinderella of Christmas.

 宵藍の澄んだ歌声が『11』の店内に響いた――。



 歌声が聞こえる。

 その歌詞は愛華を店の外に連れ出した陽兵の背中を押す。

 ――君の手を離したりなんかしないよ。

 あぁ、そうだ。

 ――僕の腕の中 抱いていてあげるから。

 あぁ、そうだ。
 いつから好きになっていたか。とかじゃない。
 自分が好きになっていいはずがない、幸せにできるはずがない。そんな事を思っていた。

 でも、そんなもの。自分自身の我儘だって今更ながら気付いた。

 だから。

「愛華ちゃん」
「は、はいっ」
 愛華の声は上ずっていた。少なからず彼女もこの状況に緊張しているのかもしれない。
「愛華ちゃん、ずっと好きだった! 今までの分も幸せにする!」
 大通りの雑踏が遠くに聞こえる。
 まるで、この空間だけを切り取ったかのように。
「いし‥‥陽兵さん‥‥」
 絞り出すように愛華が言葉を紡ぎ、ゆっくりと手を陽兵の方へと差し伸べる。

 ――ずっと、待ってたんですよ?

 どこか怒ったようにそう言って、愛華はあの日の様に遠慮がちに陽兵の袖を掴むのだった――。


 店を出るともう日が沈んでいた。
 愛想もなく応える恋の隣で背伸びをしながら、菘は口を開く。
「んまー、一緒に来るかは別としてー一度うちんちに遊びにおいでー?」
「気が向いたらな」
 大通りに出ると、沢山の人々がクリスマスを祝うために行き交っていた。
「そーいや、クリスマスだっけか‥‥んじゃ、コレやるよ」
 恋はそう言って先ほど雑貨屋で購入したものをカバンから取り出す。
 菘は首を傾げながら紙袋を受け取ると、中には小物入れとベレー帽が入っていた。
「れんれん‥‥これ貰ってもいいん?」
「キマグレだ、キマグレ、有り難く思えよ?」
 にへら。と笑みを浮かべて「ありがとー」と腕に抱きついた。
「うちんち来たら家族割で髪切って貰えるようにしとくなー、あ、ゆーてたっけ、うちの実家床屋やねんー」
「は、離れろよ」
「うちにとって、はれんれんも妹の一人みたいなもんやしなー」

 菘のそんな言葉が、溶けて大地に染み込んでいく雪のように恋の心に染み渡っていくのだった――。


「ごちそうさまでした」
「楽しんでくれたかい?」
 三上の言葉にさやかはこくりと頷き、龍鱗の腕を取って店を出る。
「あ、店長さん。‥‥メリークリスマス」
「あぁ、キミたちに良い聖夜を」
 そう応えて帰っていく二人を見送ると、カウンターに座った瑠璃が声をかけてくる。
「宇宙に上がったらしばらくは戻ってこれないと思うけど‥‥戻ってきた時には、またテルちゃんの美味しいコーヒーを楽しみにしてるっ♪」
「ただいま。って言いにくるさ」
 瑠璃の言葉に宵藍がそう続けると三上は嬉しそうに笑う。
「ボクはいつだってここで待っているよ‥‥ちょっと、何笑ってんのさ」
 腹を抑えながら店の隅で横になっている紫狼に三上が声をかける。
「いやぁ、俺はただ、こうやって自由にバカできる事が嬉しいのさ」
「そうだね」
 死んだ父の事を思い出したのか、遠くを見るように頷く三上。

「俺たちの戦いは無駄じゃなかった」

 あの戦いで死んでいった命は無駄じゃなかった――

 ――聖ちゃん、井守、ルルゥ‥‥そうだろ?

 視線を窓に向け、空から舞い散る雪を見ながら紫狼は胸中でそう呟いた――。