タイトル:傭兵少女のお勉強マスター:氷魚

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/11/19 09:02

●オープニング本文



「ママママママママママママママママママママッ!」
 リビングの扉の向こうから、バカ娘の呼び声が聞こえる。
 なんか恐ろしく久しぶりな気がするのは、きっと気のせいではないだろう。
 ないのだろうが‥‥。
「‥‥もうとっくの昔に終わってるわよ」
「えーっ!」

 がこん。がこん。

 私がソファに身を沈めたままそういうと、娘はリビングの扉に『引っかかり』ながら不満の声を上げた。
 娘の頭には巨大なカブ。どうやらそれを繰り抜き頭にかぶっているらしい。
 なぜ、カボチャでなく敢えてカブを選んだのかは、バカ娘にもそれなりにこだわりがある様だ。
 その巨大なカブが引っかかってリビングに入ってこれない娘は、バカなりに知恵を働かせたのか、頭にかぶっていたカブを外してリビングへと侵入してくる。
「とりっくおあとりーとーっ!」
「だから終わってるってば」
「御菓子くれなきゃいたずらするぞ!」
 私が黙って手近にあったクッキー(箱ごと)を投げて渡すと、娘は「わぁい」と声を上げそれを黙ってもふもふと食べ始める。

 ‥‥。

 ‥‥‥。

 ‥‥‥‥。

 バグアとの決戦も終わり、静かな平日の午後が過ぎていく。
 リビングの扉の陰に鎮座しているカブがほんの少しの違和感を与えてくるくらいだ。
「ねぇ」
「何々っ!?」
「あんた、私が何かお店をするとしたらどんなお店がいい?」
「ケーキ屋さん!」
「あんたが食べたいだけでしょ?」
「うん!」
 うん! じゃないわよ、うん! じゃ。
 今回、決戦を終えた傭兵たちに戦後対応として幾らかの報酬が支払われる。
 KVの払い下げもしくは、小さいながら店を構えられる程度の戦後補償金である。
 前線を退いていたとは言え私も傭兵だ。そのお零れに預かるのも、悪くはないだろう。
「あのさ‥‥」
「私は傭兵続けるよ!」
 私が口にしようとした言葉を言う前に、娘はそう応えた。
 いつもの、あの笑顔で。しかしはっきりと。
「私は、いつか宇宙に行きたい。イルカさん達とかといっしょに!」
 イルカ‥‥バーデュミナス人の事か。まぁ、娘がバーデュミナス人を正式名称で呼ぼうとしても、3回くらいは噛むだろうしな。
 しかし‥‥。
「宇宙にはいろんな人がいるの! だからそんな人達に会いに行くの!」
「‥‥そう」
 私は無邪気なそのセリフに微笑みで応えた。
 だが、しかし――

 ――なら、やっぱりお勉強しないとね。

 にやりと微笑みながら言う私に、娘の笑顔が凍りついた。そしてじりじりと後退り‥‥だっしゅ!
 そんな娘に私は瞬天速で回り込み、優しく。あくまで優しく耳元に囁く。
「知らないの? 今のママからは逃げられない」
「あ、あうあう‥‥」
 娘の襟首を掴み、そして私は端末へと向かう。不安そうに私を見上げる娘を余所に我ながら器用に片手で端末を操りULTへと依頼を書き込んでいく。
「傭兵さんたちに勉強を教えてもらいなさいな」

 今度は戦い方ではなく。生き方を。生きる知識を。

 宇宙に出ても生きていけるだけの知恵と――覚悟を。
 そう願い、私は「ッターン」と口で言ってエンターボタンを押した。

●参加者一覧

百地・悠季(ga8270
20歳・♀・ER
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
美崎 瑠璃(gb0339
16歳・♀・ER
神楽 菖蒲(gb8448
26歳・♀・AA
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
セラ(gc2672
10歳・♀・GD

●リプレイ本文



 〜♪

 鼻歌を歌いながらセラ(gc2672)は足取り軽く街を歩く。
 かなり肌寒くなってきたが、だがそれ故に空気は澄んでおり天も高い。

 いい天気だった。

 こんな日はお友達と思いきり遊ぶのが良い。

 ピンポーン♪

 友達の家の呼び鈴を鳴らす、その音すら心地よい。
「セラでっす。あっそびましょー♪」
 暫くして出てきたのは四条 藍。友達の母親だった。
「あら、セラちゃん。遊びに来てくれたの?」
「はいっ! ルリは?」
「ちょうど皆来たところなのよ」
「みんな?」

 どたん! ばたーん! いやぁぁぁっ!?

 なんか。ルリの悲鳴が聞こえた。
「相変わらず元気そうでしょ? ほらほら、入って」
 満面の笑みで言う藍の言葉に息を飲むセラ。
 しかし扉はセラの不安ごと飲み込むかのように開かれた――

 ――ああっ! セラちゃぁぁんっ! 助けてぇっ!?

 そんなセラの瞳に映ったのは、龍深城・我斬(ga8283)に抑え付けられたルリの姿。
 我斬の体から炎のようなオーラが出ている事から、何かしらスキルを使っている事が見て取れる。
「あら、ルリ。残念ね。ご苦労さま我斬くん。部屋に連れ戻してもらっていい?」
「はい。ほら、ルリちゃん。イルカ人に会いにいくんだろ?」
 我斬に猫の子の様に首根っこを掴まれ、しゅんとした感じで2階へと連れて行かれるルリ。
 階段に足をかけセラの方に視線を投げた我斬が、バツが悪そうな顔をしていた気がする。
 それを見送っているルリの背後で、カチャリ。と鍵のかかる音がした。
 セラが振り返ると藍が出口を塞いでいる。
「ルリママっ!? なんで鍵かけたのっ!?」
「ほら、せっかくだからセラちゃんも一緒にやっていきなさいな――」

 ――お勉強。

 凄く。凄く優しそうな笑みを浮かべて言う藍。しかし逆にそれが怖い。
 藍はその優しい笑みのまま、先ほど我斬がルリにしたのと同じようにセラの首根っこを掴む。
「ル、ルリママ!? セラを掴んで何するの!?」
「『セラちゃん』もきちんとお勉強した方がいいと思わない? ね?」
 まるでもう一人のセラに言うかのようにセラの耳元で藍は呟く。

「い〜や〜、お勉強はい〜や〜!」

 そんな少女の嘆きが閑静な住宅街に響くのだった――。



 ――宇宙、か。名前だけじゃなくて考えることまでそっくりなのかなぁ、あたしとルリちゃんって。

 15畳位あるだろうか。2階にも1階と同じようなリビングが有り、美崎 瑠璃(gb0339)は、そのやや隅っこでソファにも座らず床に正座し部屋の中を見回していた。
「‥‥うぅ」
 リビングの真ん中のローテーブルでうめき声をあげたルリに視線を戻す。
 藍から与えられたテキストと格闘しているルリをみて、「勢いで参加したのはいいけど‥‥」とポツリと呟き苦笑いを浮かべた。
 ルリに勉強を教えると言うこの依頼。勉強はそれほど得意ではない瑠璃にとって、中々どうして困難な依頼だった。
「ま、まぁ、なんとかなる! ‥‥よね?」
 そう口にして気を取り直しぐっと拳を握り締める瑠璃。そしてその脇を夢守 ルキア(gb9436)が通り過ぎ、ルリの隣に座る。
「ルリセンセ、宇宙について教えて!」
「え、ええっ!? 私がっ!?」
「宇宙って、重力がないんだよね。ふわーって、浮かないタメにどーするんだろ」
 ルリびっくり! しかしそれでも眉根を寄せうぅむ。と考えて「何かにしがみつけばいいんじゃない、かなっ!」と応えてから更に続ける。
「でも‥‥KVで宇宙に行った時、ふわふわってして動かしにくかった!」
 そう言って瑠璃の方へと視線を向けると、今度はルリではなく瑠璃が慌てる。
「え、ええっ!? わ、私っ!?」
 さっきのルリと同じ様な反応を返してきた。
 その様は本当に姉妹の様にすら見える。口に指を当て「えーっと‥‥」と視線を泳がし答えを口にする。
「じ、磁石とかで床にくっついたりすればいいんじゃ無いかなー‥‥なんて?」
「へぇ、そうやってすればいいのかぁ‥‥うん、アリガト」
 手にしたメモ帳にふむふむと頷き書き込んで行くルキア。
 確かに宇宙服の靴底には磁石がついており、それを利用して宇宙船の甲板などに取り付き船外作業等を行う。KV操縦については傭兵である以上、知識がなくともエミタがある程度制御してからそれ程苦労はしない。ハズだ。
「じゃあ、じゃあ、慣性って何?」
「か、慣性、かぁ‥‥」
 ルキアは物理学の本をぱらぱらーっと捲って、慣性について書かれたページを開き瑠璃に差し出す。
 それには再び視線を泳がせ、周りの傭兵に助けを求めた――。



 確かにこれは一筋縄では行かなさそうね。

 ソファに座っていた百地・悠季(ga8270)はくすり。と笑い、そんな事を思う。
「という訳で、菖蒲教官は宜しくね」
「は!?」
 そう言ってソファから立ち上がり隣に座っていた親友――神楽 菖蒲(gb8448)の肩を叩くと、菖蒲は実に嫌そうな顔をした。
「新人傭兵の教官を頼むって言うから来たら、なによこれ?」
「だって暇でしょ?」
「いや、そりゃ暇だけどさ」
「ほら、あたし自身宇宙云々に関しては経験則しか語れないしね」
 肩を竦めて言う悠季に眉を顰め、菖蒲は「あー‥‥もう」と愚痴ってため息を付き項垂れた。
「ため息吐いてないで菖蒲の知ってること教えてやって。私はお茶菓子でも用意するから」
 項垂れる菖蒲の頭にぽん。とテキストを当て、菖蒲が渋々とそのテキストを受け取ると、悠季は菖蒲に背を向け備え付けられたキッチンへと向かった。
 その背中に「せめて美味しいお茶をお願いね」と言う菖蒲の言葉に、悠季は背を向けたまま手を振るだけで応える。
 それを確認した後、菖蒲は立ち上がり傭兵たちとテキストの山に囲まれ頭を抱えるルリへと近づく。
 目の前に立つとテキストを片手で弄びながら腰に空いている手を当て口を開く。
「‥‥差し当たっては、数学でもやればいいんじゃないかしらね」
「ふぇ?」
「数学ってのはね、基本的に誰がやったって同じ答えになるんだから。知らない宇宙人でも、1+1=2。そうでしょ?」
「へぇ、そうなんだ! 1+1だったらわかるよっ!」
「‥‥そうよ。数学だけは誰がやっても答えは同じ――」

 ――‥‥慣性制御みたいなイカサマ思いつかない限りは、ね。

 菖蒲はそう言って笑った。


「悪いわね、手間取らせて」
「まぁ、勉強なんて面倒で疲れるだけって年頃だからなぁ」
 2Fのリビングのソファに腰掛けながら言う藍に我斬はそう応え、教えてもらいながらテキストをこなして行くルリを見守る。
「でも、ルリちゃんが本当に宇宙に行くとしたら‥‥藍さんも――」
「決めてないわ」
 てっきりルリと一緒に宇宙に出ると思っていた我斬は、「え?」と聞き返してしまう。
「皆のお陰であの子も自分で考え、行動できるようになった。だから私はもう口出しはしないし、私は私の思うことをやる。ただそれだけよ。だから――」

 ――私が教えられない事、たくさん教えてやって。

 ルリから視線を離さないまま藍は我斬にそう告げる。
 寂しそうに見えなくもないが、それでも藍はどこか満足そうに笑みを浮かべていた。
 それを見て「よっし」と我斬はソファから立ち上がり藍へと言う。
「任せといてくれ藍さん」
「あ、『勉強するならおやつをやるぞ』とでも言っといて」
 チョコレートを餌に勉強させようとしていた我斬の背中にそう声をかけると、小気味いい笑顔で了解と我斬は応える。
 我斬を見送ったタイミングでベイクドチーズケーキが藍の前に置かれた。
 顔を上げるとすまし顔で悠季がチーズケーキの隣に紅茶を置く。
「あら、美味しそうね」
「子育てに奮闘しているママさんにご褒美ってとこですかね」
「ありがと。元気の良すぎる馬鹿娘に付き合ってもらって悪いわね」
 藍がそう言って笑うと、悠季は柔らかな笑みで応えた。
「将来の参考なるかな、と」
「馬鹿娘の馬鹿な親が参考になるかしら」
「何人か増えた場合に備えて、ね。現状ひとりでも利発で活発だけど」
「馬鹿な子ほど可愛い。って言うしね、私は十分に楽しかったわ」
 ルリの方へと視線をやると、我斬が宇宙の事についてルリにわかりやすく、より興味を持たせるように話をしている。
「幸せよ。血は繋がっていないけどあの子の親でいられて」
 藍の穏やかな目を見ながら、悠季も自分の子供を思い浮かべて顔をほころばせた。

 結局のところどの親も自分の子供は可愛いのだ。

●ちょっと休憩。

 悠季が淹れてくれたお茶が出たところで、一旦休憩となった。
 ルリは瑠璃が持ってきてくれたクッキーを頬張りながら、珍しくぐったりしている。
「瑠璃ねぇ‥‥私、もうダメかも‥‥」
 いつもの元気な大声すらもう出ないらしい。そんな姿に瑠璃は苦笑を漏らしながら口を開く。
「ルリちゃん。あたしもね、宇宙に関わる仕事に就きたいと思うの」
 その言葉にルリは「へぇ! なんで、なんで!?」と元気を取り戻す。
「なんていうか、な。宇宙に興味を持ったのは太源衛星発射センターの護衛についた時かな。そこで研究員さん達が日々地道に取り組んでる姿がずっと心に残ってて‥‥」
 語る瑠璃に真面目な顔をしてふんふん。と頷くルリに、「その時は漠然と凄いなぁ‥‥って思ってただけなんだけど」と苦笑しながら付け加える。
「で、その後初めて宇宙に出た時の地球が――」

 ――すっごく綺麗だったんだ。

 その時の事を思い出したのか、ふぅ。とため息を吐く瑠璃。
「その時にはもう宇宙に関わる仕事に就くぞ! って決めちゃってなぁ」
「そうなんだ! 私もそんな感じ! 地球以外にも綺麗な星があるのかなって! だったら見に行きたいって思ったの!」
「ルリらしい動機だね」
 不意にルリの隣のセラがそう口にする。急に大人びたセラに「アイリスちゃんいらっしゃい!」とルリは出迎え(?)た。
「久しぶりだね、ルリ。しかし、そうだな‥‥」
 目の前のテキストを眺め、ふむ。と頷いた後テキストを抱えて立ち上がる。
「よし、私が新しいのを作ってこよう」
「ええっ!?」
「と言っても絵本だがね。まぁ、私なりに考えた学ぶ楽しさの伝授だよ」
「学ぶ、楽しさ‥‥?」
 首をひねるルリを見てアイリスは口を開き――

 ――そうだね、最初は『星はなぜ光るのか?』とでもしようか。

 と、淑女的に笑った。



 ――地球はあったかいケド、宇宙は寒いってホントかな?

「そうよ、外に出れば瞬間で凍りつく。何をするにも酸素と推進剤がいる。なんにもないだだっ広い闇よ」
 素朴な疑問を口にするルキアに。淡々と事実を述べていく菖蒲。
「ええっ!? でも、お星様とかイルカさんとかいるよ!」
「イルカ? そう言えば、バーデュミナス人をイメージしたKVアクセサリトカあるんだよ」
「へぇぇ、ほんとに!? ちょっと欲しいなっ!」
 話が脱線したのを見て、菖蒲は静かに口を開いた――

 ――本来「宇宙」ってのは、選ばれたエリートしか行けない場所。

「私達は戦争のドサクサで、エミタなんてもんがあるから簡単にいけてしまう。理解してなくても、エミタがやってくれるから」
 空気が変わった事を敏感に察したルリとルキアは、菖蒲の話に耳を傾ける。二人共自分に装着されたエミタを無意識に撫でる。
「『エミタがない』だけで、押しのけられた人達は、このテキストより遥かに難しい事を、ずっと前から勉強してる」
 菖蒲は思う。恐らくルリの母である藍はその事を理解しているからこそ、今のこの子には手に負えないであろうテキストを渡したのだろうと。
 だから、この依頼は四条ルリという少女に『覚悟』をさせる事が目的なのだろう。
 覚悟なく出港した船は、広大な海に飲み込まれるのは世の常だ。
 菖蒲はルリに顔を近づけて言葉を続ける。
「あなたは、その人達を『エミタがあるから』以外で納得させるだけのものを持たないといけない」
「その人たちを‥‥納得させるもの‥‥」
 菖蒲の視線を真っ向から見つめ返したまま、ルリは菖蒲の言葉を繰り返す。
「宇宙に何があるのか、宇宙で何が起こるのか。それを勉強しないとどんな事が必要かもわからないんじゃない?」
 少しの間を取った後、ルリは「うん」と一度小さく頷く。そしてもう一度「うん!」と言った後――

 ――私。やるよ! 勉強!

 立ち上がりそう宣言した。
 そして集まった傭兵たちに向き直り、「よろしくお願いしますっ!」と頭を下げるのだった。


「これと、これ。こっちは読書する習慣をつけるために藍さんに読んでもらいたまえ」
「おお‥‥」
 勉強会が終わる頃にはアイリスの作った絵本。そしてその絵本に出てくる言葉の意味を調べやすくした辞書が用意されていた。
 かなり厳選してテキストを選んだとは言え結構な量だが、それを抱きしめるように受け取ったルリは「ありがと、アイリスちゃん!」と笑顔で応える。
 そんなルリにルキアが近づいて、ぽつりと言う。
「宇宙って、意外と寂しくないんだ。KVに乗ってると、戦わなきゃ、だケド。でもさ、シラナイ場所に誰かがいるの、不思議だよね」
 とても抽象的な言葉だった。でも、ルリもその意味がなんとなくわかった。
 いや、ルリもルキアの言葉と似たような漠然とした思いで宇宙を目指すと言っていたのだ。
 だからこそ逆にその言葉の意図はよく理解できたかもしれない。
「うん。分かる気がする!」
「ルリちゃん。傭兵を続けるなら宇宙に行く依頼を優先的に受けてみな。実体験ってのは一番の勉強になるもんだしな」
「いつか二人で一緒に、知らない別の星の人たちに会いに行けたらいいねっ♪」
「とりあえず色んな宇宙人が存在する事は確定してる訳だしな。あのイルカ人みたいな」
 二人がルリの頭を撫でながら言うと、にへへ。と笑いながら首肯するルリ。
 その後ろで母親3人が集まって話し込んでいた。
「悪いわね、二人共。ありがと」
「私はお茶を淹れただけよ」
「まぁ、あの子にとってはここからが大変だろうから」
 傭兵に囲まれたルリを見ながら、自分たちの子供が大きくなった時の事に思いを馳せる。
「気が向いたら、またお願いね」
「ま、気が向いたらね」
 菖蒲がそう口にするのを、悠季は苦笑で見守るのだった――。



 ――大切な、大切なハナシ。

 その日布団に入ってから、ルリはルキアが帰り際に残した言葉を思い出す。

 ――宇宙に焦がれてるヒトがいるんだ。消えちゃったヒトの思いを、受け継ぐんだって。

 ルキアがどういう思いでその言葉をルリに残したのかは分からない。
 ただ、ヒトの思いを受け継ぐ。と言う言葉はどこか切なくて、でも心の芯に染み渡るような気がした。

 ――仲間はいる。でも、自分と戦えるのはジブンダケ。

 そう。自分の意思で宇宙を目指すと決めたのだ。
 バグアとの戦争は終わったが、ここからは自分との戦いなのかもしれない。
 そんな不安と、期待。そして宇宙への想像が胸から溢れ出るようで、その日ルリは中々眠りにつくことが出来なかったと言う。