タイトル:【次空】女王と殺人騎マスター:氷魚

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/08/15 16:51

●オープニング本文


 ‥‥。

 ‥‥‥‥。

 ‥‥‥‥‥‥。

 ここは。どこだ。

 霞がかった様な意識の中、私は視線を巡らせる。
 細く、ゆっくりと呼吸をし、横たえられていた体を起こすと声。
「あら、目が覚めた?」
「他のやつらは?」
「ふふ、目覚めて最初の質問がそれ? まぁいいわ――」

 ――ブライトンのお眼鏡に叶ったのはあなただけよ。

「どういう意味?」
「分からなくていいわ。死んだあなたがそこにいる。ただそれだけの事」
 少女はそう言って私に服を投げてよこす。黒一色のボディースーツ。
 続いてごとりと一本の刀と肉厚の小太刀をサイドテーブルに置くと、にやりと私に向かって微笑んだ。
「丸腰のままじゃ困るでしょ?」
「これは‥‥」
「似たものを作らせたのよ。使い慣れたものの方がいいでしょ?」
 私は刀を鞘から少しだけ白刃をのぞかせると、そのまま一息に抜き放ち女の喉元へと突きつける。
 しかし女は薄く微笑みを浮かべたまま私の瞳を見つめていた。
「私に、今更何をしろと?」
「世界に絶望した貴女なら、理想郷を望むんじゃないかと思って」

 私と同じ様に。

 そんな事を言う女を怪訝な視線を向けながら私は問う。
「何故私を?」
「『ずっと見ていたのよ』、貴女を」
 女の言葉に私はふん。と鼻を鳴らし刀を鞘に納める。
 あの男から譲り受けた物と似たそれは、静かに冷たい音を鳴らした。
「絶望し、ただ世界を否定していただけの私が言う事を聞くと?」
「逆らえばまた死ぬだけよ。Ash to Ash。死んだ人間が何の代償も無しに生きていられると思う?」
 安っぽい脅しだ。目の前の女も私の事を知っているならば、そんなもの脅しになるとは思っていないはずである。

 私にとって死は救いだったから。

 笑みを浮かべたままの女に私は「良いだろう」と応えると、「分かっていただけて嬉しいわ」と外見相応に少女らしく喜んだ。
 今は、いい。私を墓から暴いただけの代償はいつか払ってもらう。
「私はティルナ。貴女は今日から私の騎士よ」
「そう。あ、そうだ」
 女の名乗りをどうでも良い事のように聞き流した後、唐突に口にした私の言葉に、女は「何?」と聞き返す。

「下着もくれない?」

 ボディースーツを手にしながら言う私の言葉に、ティルナと言う少女は声を上げて笑った。

 さすが私の殺人騎。と。

「でも、私はあんたとは違うわ」
「そうかしら? よく似てると思うけど」
 薄い笑みを浮かべながら言うティルナに、私は「違う」と否定の言葉を口にし――

 ――私はもう、絶望の中に希望を見つけたから。

 心の中でそう呟く私は、ティルナの『ずっと見ていた』と言う言葉の意味にに気付けなかった。
 だが、ここでそれに気づいていたからと言って、これから私が再び死ぬまでの物語にきっと変化はなかっただろう。
 だから私はこの言葉を口にする。

「死ねば」

 と、今の私にとっては意味のないその口癖を。


「なるほど、ね」
「どうしました?」
 私が刀を振るいそんな事を呟くと、ポーンの一人が問いかけてきた。
 私は「別に」とだけ言葉を返し、指令室の隅に縛り上げておいた軍人へと向き直る。
「殺した方が良いのでは?」
「ここでの私たちの目的は、次の宇宙で崑崙の様な施設を作るための技術の確保だ」
 どうやらティルナ達は、この戦争には興味がないらしい。
 この地球圏から次の宇宙に向かう同胞が、ストレスなく生活できる施設を作る参考にしたいと言う事だ。
「バグアの癖に殊勝な事ね」
「は?」
「何でもないわ、そいつらはその辺に転がしておきなさい」
「了解しました」

 ‥‥黒騎士団ねぇ。

 そのどこか子供めいた呼び名に私は失笑を覚えるが、上位存在の指示にきちんと従うあたり意外にも命令系統をきちんとできているらしい。
 いや、もしかしたら記憶がいじられている可能性もある。か。
 そう考えるとずいぶんな理想郷じゃないか。
「でもそれじゃあユートピアじゃなくディストピアよ。ティルナ」
 私は心の中で理想郷を語ったティルナを思い出し、皮肉交じりの笑みがこぼれた。

●参加者一覧

鐘依 透(ga6282
22歳・♂・PN
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN
御沙霧 茉静(gb4448
19歳・♀・FC
加賀・忍(gb7519
18歳・♀・AA
セラ(gc2672
10歳・♀・GD
モココ・J・アルビス(gc7076
18歳・♀・PN
月野 現(gc7488
19歳・♂・GD
大神 哉目(gc7784
17歳・♀・PN

●リプレイ本文


「黒騎士団か‥‥何が目的なんだろう」
「さぁね、直接聞いてみるのが一番なんじゃない?」
 鐘依 透(ga6282)の呟きに、赤崎羽矢子(gb2140)が宇宙服越しに接触通信でそう応える。
 とはいえ羽矢子自身、黒騎士と名乗る連中の目的が気にかからないわけではない。
 二人は侵入経路を見取り図で確認しながら、目を見合わせ頷く。
「2か所程、監視カメラを避けられないところがありそうですね」
「ぎりぎりまで近づいて、後は一気に突入するしかないか」
 透の言葉に羽矢子はそう応え、他のメンバーへと視線を向けると、月野 現(gc7488)が考え事をしているのが見えた。
「人質の奪還、か」
「ったく、この忙しい時に立てこもり? 犯人共は一体何を考えてんだか」
 呟く現を余所に隣に大神 哉目(gc7784)が並び、面倒臭そうに頭を掻く。
 声は聞こえないが動きで哉目の言ってることが想像できる現は苦笑を漏らし、「誰かを救う‥‥か」と自分に呟く。

 ――救いを求めているのは俺かもしれないのに‥‥。

 羽矢子が全員に対し身振りで突入を指示すると、皆各々に頷きで応えた。


「セラサーチ! これで見えないところもばっちり安心♪」
 制御室から少し離れたところからVセンサーを発動させ、制御室内の動体反応を探るのはセラ(gc2672)。
 制御室にいる人数は人質も含め、情報通りの数が確認できた。
「じゃあ、突撃しましょうっ」
 そう言って蛍火の柄に手をかけたモココ(gc7076)を、加賀・忍(gb7519)が肩に手を置き制する。
 忍の視線は油断なく制御室へと向けられていた。
「閃光手榴弾が投げ込まれてからよ」
 忍の視線を追い、制御室へと視線を向けたままモココはこくりと頷く。
「セラさん‥‥、しっかり私に掴まって‥‥」
 突入準備を行っているセラに御沙霧 茉静(gb4448)がそう告げると、セラはちょっと照れたように「えっと、あのね‥‥セラ重いから気を付けてね?」と応え、はっと気づいたようにパタパタと手を振る。
「あっ、低重力だった。セラ重くないよ、ホントだよ?」
 そんな少女らしいセラを見て、微笑みを浮かべる茉静。

「さぁ、行きましょう」

 そう言って透が閃光手榴弾を手にしてカウントを始めた――



 ――気付くと、モニターの一つが死んでいた。

 それに私は口元につい笑みを浮かべてしまう。
 やはり、来てくれたか。と。
 私はデータを吸い出しているポーンに向き直り声をかける。
「まだ?」
「終わりました」
 私はポーンが差し出してきたデータディスクを受け取りポーチに納めると、奥にあった偉そうな椅子に座り指示をする。
「傭兵が来るわ、準備なさい」
「目的は達成していますが‥‥」
「少し、遊んであげなさい。戦いがないと彼らも退屈だろうから」
 私が笑みを浮かべそう言うと、ポーンは「了解」と応えてくる。

 それに、あんたたちポーンの力を見ておかないと後で私が困るでしょ?

 口元を歪め胸中でそう付け足すと同時に、見慣れた閃光手榴弾が投げ込まれた。
 私は笑みを浮かべてメットの遮光シールドを下す。同時に爆光が視界を灼き傭兵達が飛び込んでくる。
 視界を巡らせると対応の遅れた2名のポーンが怯み、吹き飛ばされる姿が見えた時――

 ――私は久しぶりに刀を抜き翔び出した。

 さぁ、幕を引いた舞台に上がった役者ができる事が、カーテンコールだけとは限らない事をティルナに教えてやる事にしようか。


 爆光が炸裂すると同時に傭兵達は制御室へと飛び込んだ。
 閃光手榴弾で怯んだ黒騎士の懐に迅雷で透が潜り込む。その気配に反応した黒騎士が逆手に持った剣を無造作に薙ぐが、視界を殺された攻撃などでは熟達した傭兵を捉えることはできない。
 前髪に掠めさせる様に凶刃を躱し、体全体のバネを使って黒騎士を跳ね上げ――

 ――真燕貫突。

 低重力で易々と浮き上がった黒騎士の胸を二度穿ち、その一撃で黒騎士は沈黙するのを確認して、同時に飛び込んだ羽矢子の方へと視線を向ける。
 すると同時に飛び込んだ羽矢子が瞬速縮地で怯んだ黒騎士の一人を獣突で吹き飛ばすのが見え――

「赤崎君!」

 透が叫ぶ。

 瞬間、羽矢子が吹き飛ばした黒騎士の脇から鋭い刃が突き出され、羽矢子はかろうじて体を逸らしその刃を躱した。
 冷たい刃が頬を掠めて通り過ぎる。
「今のを躱すか」
 その声の主はメットの遮光シールドの奥で楽しげに笑い、体勢を崩した羽矢子に向かって手にした刀を横に薙ぐが、それを忍の大太刀が受け止めた。
 その隙を突き、モココが頭を狙って刀を振りおろすのを黒騎士は宙を舞って躱す。
 しかし、躱しきれなかったのか黒騎士のメットが割れ甲高い音と共に地面に落ちる。そしてその黒騎士は口元に笑みを浮かべ告げた。

 ――得物変えたのね、モココちゃん。

 そう告げたのは天使 聖。
 かつて封鎖衛星ポセイドンで命を落とした強化人間だった――。


 怯んだ黒騎士の頭上を飛び越え人質の元にたどり着いた茉静は、天照と蛇剋を構え閃光手榴弾の影響から逃れた黒騎士を凌ぐ。
 しかし小剣を振るう黒騎士が茉静の天照を払い、もう片方の手で銃を向け引鉄を引く。
 これを避ければ背後にいる人質に当たる。
 茉静は銃口から吐き出された弾丸を身を挺して受け止めた。肩に灼熱感が走るとともに鮮血が飛ぶ。
「これ以上、この人たちに危害は加えさせはしない‥‥」
 その瞳には守るという強い意志。
 しかし感情を感じさせない黒騎士は止めとばかりに剣を振り下ろす。
「邪魔よ。あんた」
 そんな言葉と共に、白く染まった髪を棚引かせ横殴りに棍を振るう哉目。不意をつかれた黒騎士はそれを避けられずに弾き飛ばされた。
 体勢を立て直し、再び傭兵に向かおうとした黒騎士の足元を銃弾が躍る。
「いけっ! 哉目」
「分かってるっ!」
 銃弾に足を止められた黒騎士の足元に滑り込み、肺からひゅっと息を吐き体を捻転させる。
 手にした棍が鋭く空を切り黒騎士のこめかみを強打し、その場に沈黙させた。
 しかし、その隙を突きもう一人の黒騎士が人質へと駆けだす。黒騎士としても一人の人間を確保できれば、それだけで形勢が自陣営に傾く事に気付いていた。

 ――護衛対象は多いが、10秒も稼げば陣形は整うさ。

 少女の声。
「来たまえ、極光の盾にてお相手しよう」
 高速で迫りくる敵の刃を剣呑な目付きで迎え撃つのは、セラのもう一つの人格のアイリスだった。
 その背中の水晶のような翼が粒子となり、その刃を拒絶する。
 刃を弾かれた黒騎士は、低重力の為かその反動で大きく体制を崩す。
「その隙を逃すあたしじゃないんだよね」
 先ほど別の黒騎士と対峙していた羽矢子が、いつの間にか走りこんできていた。
 そして、猫科の獣のように跳躍しハミングバードを突き出す。
 その一撃は無防備な黒騎士の胸を打ち、そのまま壁へと激突させ沈黙させた。

 両手で数えるほどの時間で、制御室の制圧はほぼ完了していた。



 ――獲物変えたのね。モココちゃん。

 その声、顔、しぐさ。その全てが彼女だった。
 間違いなく自分たちの手で埋葬まで行った少女――天使 聖が。
 そう頭が認識した瞬間、モココは駆けだしていた。
「その声で、その顔で、私の前に現れるな偽物がぁぁ!!」
 叫び、怒りのまま振るわれた刀は巧みに聖の持つ肉厚の短刀にいなされ、体勢を崩された所に2段突き。躱しきれなかった刃がモココの肩に朱線を引いた。
 立て直そうとモココが距離を取ると同時に忍が肉薄する。そこには狂喜の笑み。
 聖もそれを笑みを浮かべて迎え撃つ。
 刃が打ち合い火花を散らし、その剣戟の合間を縫って聖の刃が忍の脇腹を裂くと聖は地面を蹴って出口の扉の傍へ舞い降りた。
「万全の私を舐めるなよ? ――忍」
 にやりと笑う聖に、裂かれた脇腹を押さえながら忍は不敵に笑う。
 その隣でモココが息をのんで、後退った。
 繰り返し聖と刃を交えてきた二人は、この一合でこの少女が天使 聖本人だと気付いたのだ。
 同時に面識のある現が目を見開き、苦虫を噛み潰したような表情で口にする。
「天使聖、本物なのか?」
「残念ながら、ね」
 自嘲の笑みを浮かべ、現の問いに答える聖。それに続いてモココが悲痛な叫びをあげる。
「なんで‥‥なんであなたがまた戦場に敵として立たなきゃいけないんですかっ‥‥!!」
「さぁ? これも運命と諦めてくれる?」
 モココに対しおどけた様に聖はそう返す。
「黄泉返り‥‥? シェイク・カーンやスチムソン博士と同じなの? バグアは何をしようとしてるの?」
「それには答えられない。答えないのではなく、答えられない」
 剣を構えたままの羽矢子の問いにはそう応えた。
 ただ、感じるのはこれ以上の戦闘の意志はなさそうではあった。故に出口を確保したのだろう。
 にも関わらず、未だにここに残る理由はまるで聞きたい事を聞けとでも言うかの様にもみえた。
「‥‥此処にいるのは、あんただけ?」
 哉目が問うのに、聖は声を上げて笑う。
「何がおかしい」
「私が目覚めた時と同じことを聞いたからよ。でも残念ながら私だけ。あんたのお姫様は安らかに眠ってるでしょうよ」
 その言葉に哉目の脳裏に、かつて救えなかった少女の影が差した。
 哉目のこれからの目的を決めた、あの少女を。
 苦い思いを噛みしめる哉目の後ろから、アイリスが聖に問いかける。
「さて、騎士団というからには王がいるんだろう? よければ教えてくれないかい」
「知らない。目覚めたばかりでね、今回は慣らし運転みたいなもんよ。それにしても結構見た顔が居て柄にもなく嬉しくなるわね、ほんと」
 聖の口から笑みが零れる。

 偶然。だとは思うけれど、必然だと思いたくなるわね。

 等と聖がそんな事を思っていると現が銃を下し口を開く。
「もう基地から撤退してくれないか?」
「えぇ、そのつもりよ。目的は達成したしね」
「お前たちの今回の目的はなんだったんだ?」
「言えると思う?」
 くすくすと笑う聖。
 そしてちらりと囚われていた研究員の方へと視線をやった後、「またね」と告げ背中を向けた。その背中に呼びかける人物がいた。
 その呼びかけに、踏み出した足を止め振り返り「何?」と聴くと、哉目が厳しい瞳をこちらに向けたまま口を開く。
「死んだ人間は絶対生き返らない――」

 ――生き返っちゃいけない。

 拳を握りしめそう言う哉目に肩を竦め、「私もそう思うわ」と聖は応えその場から立ち去ったのだった――。



 残された黒騎士団の一味は、自ら命を絶っていた。

 秘密を守る為、もし生き残り捕縛された場合は命を絶つ様訓練されていたのだろう。
 もしくはその様に調整されていたのかもしれない。
 しかし、今回のヤツらの目的は捕えられていた研究員の口から判明した。
「次の宇宙に向かう。ですか」
「どうやら、黒騎士団ってのは今の戦争には興味ないみたいだね」
 解放した研究員からの情報を透が鸚鵡返しに呟くのに、羽矢子がそう付け加える。
 研究所から抜き出されたデータも軍事情報などではなく、崑崙の様な『人が外宇宙でも生活できる施設』を建造する為の技術等であった。
 バグアであればそれくらいの技術は有りそうなものだが、地球人類の感性に近い技術を使う事で、「地球人」がストレスなく生活が出来る施設を建造する為だと言っていたと言う。
「他のバグアとは見ている場所が違うってことでしょうか」
 その問いにはアイリスがシニカルに笑って言った。
「バグアも一枚岩ではないという事だろうね。人間と同じ様に」
「あと、天使 聖とか言う強化人間。あれって死んだんでしょ?」
「あぁ、それは間違いなく確認している。クローンなのか記憶転写かは分からないが、予測もつかない技術が蠢いているらしいね」
 羽矢子の疑問に聖の遺体を確認しているアイリスが応え、「これだから、生きるというのは楽しいのだよ」と呟く。
 ふむ。と、考え込むようにして羽矢子が視線を泳がすと、モココに話しかける茉静が見えた。
「モココさん‥‥」
 椅子に座りうなだれていたモココは、茉静の声に顔を上げる。
「聖さんは最後に囚われていた研究員の方を見たのに気付きましたか?」
「え‥‥?」
「今回の黒騎士団の目的も、彼女が口にした内容を研究員が聞いていた事でおぼろげながらわかりました」
「‥‥それは、つまり‥‥」
 茉静が言いたい事に思い当り、モココは息を飲む。
 つまり、不自然にならない様に。バグア側に怪しまれないように。こちらに情報を与えたのではないか。という事だ。
 希望的観測かもしれないが、それでも可能性はゼロではない。
 むしろ茉静はそちらの可能性の方が高いのではないかと考えている。
「天使 聖は何か機会を待っているのかもしれない」
 そう口にした忍は再び強敵に見えた事に、未だに湧き上がる喜びを抑えきれなかった。
 斬られた脇腹ですら、再戦の契りにすら思えるほど熱く滾る。
 聖の目的がいったいなんなのかはまだわからない。
 しかし、モココはその言葉に力強く頷き、そして決意を口にする。
「‥‥今までも。そして、これからも。私にできるのは聖さんを信じる事だけです」
「あぁ、もう会う事もないだろうと思った顔に再開したんだ。信じるようにやればいい」
「はい!」
 セラの言葉にそう応えて意気込むモココを視界から外して、現はぼんやりと宙を見ていた。
「死んだ人間が元気に顔を出してきたってのに、あんたの方が死人みたいね」
「あぁ‥‥死人より生きていないかもな」
 そんな現の返答に、憎まれ口を叩いた哉目の方が呆れたため息を吐く。

 ――天使 聖。一度死んだお前は何をするつもりなんだ。

 面と向かってそう問いかけても彼女は答えないだろう。
 彼女の目的が果たされた後でも、きっと。



 私はティルナにディスクを投げて渡すと、目についたソファに横になった。
「お疲れ様」
 ティルナの労いの言葉に、面倒臭そうに手を振るだけで応える。
 しかし、思い直しティルナに問いかけてみた。
「なんで、私なの?」
「何が?」
 質問の内容を分かっているくせに。と思いながら答えを待つ。
 ティルナは苦笑を漏らし、そのあとの言葉を続けた。
「貴女と話してみたかったのよ」
「どういう意味?」
「そのままの意味よ」
 そう言ってティルナは私に背を向けて部屋を出ていく。
 ただ、私の聞き間違いでなければ、振り返る瞬間ティルナは小さな声でこう続けたと思う。

 私は、貴女に助けられたことがあるから――と。