●リプレイ本文
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――そうか。
もたらされた報告に老人はそう答えた。
「来たら通せ」
「しかし今日は‥‥」
「その為に来るのだろう? ヤツらは」
重く響く老人の言葉に、報告を持ってきた女は息を呑み、分かりました。と返し部屋を出て行った。
それを確認してから老人は呟く。
――わしは傭兵が嫌いだ。
その先に敵が居るかのような強い視線を、机の上に置いた依頼書に投げかけて。
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広大な石枡邸の床下で小さな影。
「セラってばニンジャっぽいね♪」
鼻歌交じりにそう言ったのはセラ(
gc2672)だった。石枡安奈(gz0395)の見合い相手を探る為の斥候のようなものである。金色の髪に蜘蛛の巣が引っかかってるけど、あんまり気にしていないらしい。
事前に色々調べてみたが、まったくもって普通の人。よい噂も少ないが、悪い噂も特にない。
ひょこ。
「調べてわかんないなら、会って聞くしかないよねっ!」
そう勢い込んで広い庭先にセラが頭を出したとき、極々平凡そうな、眼鏡をかけた男と目があった――。
――大変大変っ! 大変なのですっ!
石枡邸内で行われる安奈のお見合いを、どのように邪魔をしようと傭兵たちが思案している所に、斥候に侵入していたセラが慌てて戻ってきた。
「何があったんだセラたん?」
村雨 紫狼(
gc7632)がそう問うと、セラは深刻そうに両手に抱えたお菓子を見せて言う。
お相手さんは別に悪い人じゃなかったのです!
え‥‥買収された?
「会ったんだな? 本人に」
「そーなのですっ! ふつーの人だったのですっ!」
セラが言うなら本当に悪い人間ではなかったのだろうと紫狼は思う。この少女はこう見えて鋭く、聡い。
「なら、仁義を切って正面から立ち向かうのみだねっ‥‥姐さんっ!」
三上照天(gz0420)がそう言うと、その背後から菫色の江戸小紋を翻し、瑞姫・イェーガー(
ga9347)が現れた。
「あぁ‥‥テル。でも堅気の方々に迷惑をかけるンじゃないよ」
「へいっ、姐さん」
「まぁ、正面から堂々と伺いましょうか」
その気になっている瑞姫とテル。はしゃぐ二人のやり取りをみて笑みを浮かべながら、終夜・無月(
ga3084)は遠くに見える石枡邸の門へと視線を投げかけ、銀色の髪を掻き上げた――。
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石枡邸の男性用と女性用のロッカールームからそれぞれ出てくる影二つ。
「ふっふっふ。ランクさんの願い、しかと聞き届けました〜!」
そういうとメイドの恰好をした弓亜 石榴(
ga0468)はくるりと一回転する。
それには視線もむけず、執事服を着た各務・翔(
gb2025)は髪をふぁさっと掻き上げて口を開く。
「まったく、石枡も難儀な家に産まれたものだな――」
――と気遣える俺は素晴らしい。
そんな事を言う翔に石榴はあはは〜とひきつった笑みを浮かべた後、それにしても。と続ける。
「意外と潜り込むの簡単だったね」
「俺の作戦に抜かりはない」
えーと、あたしが立てた作戦なんだけどな〜。と石榴は思いつつも、翔が持ってきた見取り図があったからスムーズに潜入できたのも確かだ。
「よしっ! 石枡さんはどっこかな〜」
「あぁ、彼女の未来がかかっているのだ、迅速に行動を開始しよう」
そして二人は邸内の調査を始めた。
――安奈の見合いの邪魔をしろ‥‥か。
邸の中を身を隠しながら、須佐 武流(
ga1461)は胸中でそんな事を呟く。
「しかしまた‥‥デカい家だこと」
邸内を歩き回っていたが、かなり広い庭にいくつもの建物。それを監視するカメラにガードマン。
「安奈の見合いが行われる場所を探すのも苦労しそうだ‥‥っと」
不意に何人かのガードマンに囲まれた老人の姿が見え、物陰に姿を隠す。
体格は小柄ではあるが、眼光は鋭く隙がない。
「なるほど、あれが‥‥なかなか迫力のあるこって」
資料である岩鉄の写真を見ながら口元に笑みが浮かべる。
あの老人を追っていけば、自ずと見合いをする場所に案内してくれるだろう。
まずは、様子見をさせて貰うとしようか。
武流はそう呟いて老人を追った――。
――こんこん。
そんな音がして、安奈は音のした方へと視線を向ける。
すると追儺(
gc5241)が窓の外から、良い笑顔で手を振っていた。
「つ、追儺さんっ!?」
慌てて窓を開けて追儺を部屋へと招き入れる。
「あっはは。嬉しいね、数回依頼を受けただけの俺の名前を覚えててくれるなんて」
「それが私たちの仕事ですから」
そう言って笑う。
安奈自身は自覚はないが、傭兵と会話をするようになって彼女はよく笑うようになった。
「それにしても、どうしたんですか?」
「それだよ」
問う安奈に追儺はそう言って、安奈の着ている服を示し続ける。
紅色の鮮やかな着物。ところどころ金の蒔絵が入っていて艶やかだ。
「あんたの見合いを邪魔しに来た」
「な、なんでですか?」
「あんたは、結婚の意志はあるのか?」
まっすぐに問う追儺の言葉に、少しだけ息をのんでからはっきりと言う。
「私は、まだオペレーターで居たいです」
不意に部屋の扉がノックされた。
慌てて追儺を匿おうとした時には、既に追儺は窓の外。
入ってきた時と同じ様に笑い――
――そんだけ聞けりゃ、充分だ。
そう言って、広い庭の中へと消えていった。
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正面から巨大な門に挑んだ傭兵4人は、広い応接間へと案内されていた。
ここでお待ちください。と言うメイドの言葉に恐縮しながら、ふかふかのソファに座っている。多少の無理を通しても正面突破しようと考えていた傭兵たちは、肩透かしを食らったようなものだ。
――よく来た。傭兵。
よく響く声が応接室に響いた。
石枡岩鉄。石枡家当主その人だ。その後ろに安奈と見合い相手の看合が続く。
傭兵の向かいのソファに岩鉄が座り、その後ろに二人が控えるように立つ。
「では、要件を聞こうか。そこの小僧が門前で言った通り、遊びに来たわけではあるまい」
老人がそう告げると、紫狼があ、あぅ。と呻いた。
門前で「アーンナちゃん、あっそびーましょーーーっ!!」と、叫んだら簡単に門が開いたもんだから、改めてこう言われると超恥ずかしい。
年の功。というのは思っている以上に恐ろしいと、紫狼は痛感させられた。
「突然の事にも関らずお受け頂きありがとうございます」
そんな紫狼を余所に、立ち上がり深々と頭を下げたのは無月だった。
無月を見る老人の眼が鋭く光る。しかし無月も戦士だ。このくらいの眼光など、戦場では慣れている。
無月は語る。傭兵にとってのオペレーターの重要さを。オペレーターの力というものを。
戦場に立つ自分たちをどれだけ救ってくれているかという事を。無月の醸し出す覇気を敏感に感じ、老人は口を開く。
「小僧。お前が発している気は従わせる為の力だ、我々一般人にとってそれは――」
――畏怖と恐怖の対象でしかない。
「例え振るわずともそれは武力だ。力なき人々はそれに対し首を縦に振る他なかろう?」
違うかな。と、傭兵たちを睥睨する老人。無月は何か言いたそうにしながら口を噤む。
下手に口を開くと、老人が傭兵たちの言葉を拒絶する口実にされると言う判断からだ。
しかし、老人の言う事も間違ってはいない。絶対的に正しいわけでもないのだろうが。
「け、けどよっ! 安奈たんの選択決定を親族だからって無理強いしたりはできねーだろっ!」
老人に食らいつくのは紫狼。しかし、その言葉にはやや力がなかった。紫狼の説得方法を先んじて抑えられた所為かもしれない。正直、ただの頑固爺なのだろうと高を括っていた所は無くはない。
「そうさな。この世界はお互いの我の張り合いだ。戦場なら尚更であろう? お前だって経験があるのはないか?」
それと似たようなものだ。家族の幸せを考えるのであれば無理を通す価値はあろう?
老人は目を閉じ静かに告げる。
その言葉からは家族を背負う者の威厳と真摯さが感じられた。
――ちょっと待ったぁっ!
そんな言葉と共に、ばたーんと音を立てて応接室の扉が開かれた。
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開かれた扉に私が視線を向けると、執事とメイドの姿をした各務さんと弓亜さんが立っていた。
「か、各務さん? それに弓亜さん」
私が驚いた表情を見せると、弓亜さんが「石枡さーん」とぱたぱたと手を振っている。
「な、何をしにっ!?」
「邪魔しにっ!」
うわぁ弓亜さん、はっきり言ったぁ。
弓亜さんの隣に立っていた各務さんは、お爺様の横をすり抜け私の前に来ると花束を差し出した。
「‥‥え?」
「君に初めてあった時から忘れられなくなった」
「ええっ!?」
各務さんの越しにお爺様の背中を覗き見ると‥‥ああっ、怒ってる!
お爺様は何より無視されるのが嫌いなのだ。
「各務さ‥‥」
「この気持ちを受け止めて欲しいとまではいわん。だが、俺は君のことが好きなのだ」
あ、あの‥‥と、突然すぎて‥‥困る。
各務さんは、くるりと振り返りお爺様に向かう。もちろんこちらからは背中しか見えないけれど、お爺様の肩が震えているところを見るとかなりお怒りみたいだった。
「私は未だ若輩なれ――」
「許すかぁぁあぁっ若僧ぉぉぉぉっ! 表出ろやぁぁっ!」
お爺様が切れたぁっ!? しかもすっごく子供みたいな怒り方したぁぁっ!?
集まった皆さんもあまりの激変ぶりに、目を丸くしている。
「石枡翁っ! お、落ち着いてくださいっ!」
「これが落ち着いて居られるかぁぁ、は、離せっ、看合っ!」
必死になって看合さんがお爺様を押さえつけ‥‥
がしゃーん。
何かが割れる音。混沌の坩堝となった応接室に、さらなる混沌が訪れ――。
――気付がつくと、私は応接室には居なかった。
私は何かに抱えられ、周りの風景がすごい速度で流れていく。
「悪いな、浚わせてもらった」
「追儺さんっ!?」
「あのままじゃ話を続けられる状態じゃなかったし、その場しのぎだけどな」
「まったく、俺が浚うつもりだったんだがな」
追儺さんに並走するように走るのは須佐さんだった。須佐さんに「悪いな」と悪びれずに笑う追儺さん。
回りに視線を巡らせると、あの場にいた傭兵達も瞬時に脱出したらしい。
さすがと言うかなんというか。呆れると同時に笑いがこみあげてくる。
急に笑い出した私の顔を覗き込む追儺さんに私は言う。
「もう、大丈夫です。降ろしてください」
私の表情を見て、何かを悟ったように微笑みを浮かべる追儺さん。
――私は、まだ戦ってませんよね。
私はそう言って、皆さんに向かって笑った。
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「なんだよっ! 離せよじいちゃんっ!」
安奈達が部屋まで戻るとテルが岩鉄に襟首を掴まれていた。戻ってきた安奈――と言うより、瑞姫を見つけると「ずるいぞ! みずきぃっ!」と非難の声を上げる。安奈の後ろで瑞姫が「あ、はは。ごめんテル」と頭を下げている。
その傍のソファでは看合とセラが穏やかに談笑していた。
どうやら、看合は岩鉄を止めるのを諦めたらしい。セラは傭兵達が戻ってきたのを見ると、不意に大人びた表情へと変わり笑みを浮かべて口を開く。
「セラの言った通り、彼らは戻ってきただろう?」
急に雰囲気が変わったセラに面喰いながら、看合は「そうだね」と応えた。
戻ってきた傭兵達に気付いた岩鉄は、爛々と輝かせた瞳をそちらへと向ける。
「何しに戻ってきおった傭兵ども」
低い。よく響く声が応接室を震わせた様な気がする。それに対し安奈を守る様に武流が前に出る。
「あー、その。なんだ。じい様、もう少し待ってやれないか?」
「どういう意味だ?」
「バグアとの戦いが終わるまで、待ってあげられませんか? と言うことです」
岩鉄の問いに石榴が答えると、武流は岩鉄を見据えたままこくりと頷いた。
それに無月が先ほど言えなかった言葉を続ける。
「オペレーターと言う仕事は、誰にでもできる仕事ではありません。もう少し彼女の主張を聞いてあげるべきではないでしょうか」
瑞姫は無月の言葉に一つ頷くと、安奈に向かって声をかける。
「安奈さん。オペレーターで大切なことって正確に伝える事だと思う――」
――だから、伝える事を諦めないで。
その言葉に安奈は笑顔で応え、一歩前に出て岩鉄と対峙した。
岩鉄はそんな安奈に厳しい視線を向ける。
「わしはお前を傭兵なんぞに関わる事は認めんぞ」
「構いません」
「なんだと?」
はっきりとした口調でそう応える安奈に、眉根を寄せる岩鉄。
「認められなくても、私は彼らと一緒に戦います――」
――この戦争が終わるまで。
そんな事を言い放った安奈の顔は、今の仕事に対する誇りと自信が現れていた。
「わしは傭兵が嫌いだ」
「私は好きです」
老人の呟きに即答する安奈に、岩鉄は息を詰まらせる。
その隙をついて安奈は「失礼します」と告げ、応接室から出ていった。
それを追おうとする傭兵達の背に岩鉄が言葉を投げかける。
「わしは戦争が終わった時、傭兵の居場所は無いと思っている」
その言葉に傭兵達は足を止めた。
それは、傭兵達は考えたことがなかった――いや、考えないようにしていた事なのかもしれない。
「だからわしは、アレにお前たちへの情を持って欲しくないのだよ」
そう呟く老人の声は、どこか弱々しく聞こえた。その言葉に紫狼が口を開く。
「それを決めるのも安奈ちゃんさ。親類だろうがなんだろうが、手は貸しても余計な手出しはしちゃいけないって事さ」
そう口にして立ち去る紫狼に、傭兵達が続いて出ていく。
「居場所が無ければ、作るだけだよ」
金髪の少女――アイリスは、傭兵を見送る岩鉄にそう言い残して応接室の扉を潜った。
――なら、見せてみろ。戦争が終わった後のお前たちの理想郷を。
しばしの沈黙の後、老人は口元に笑みを浮かべて言った。
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――ふぅ。
門を出たところで私はため息をつく。
正面からお爺様に反論したのは初めてだったので、今更ながら手が震えている。
「いっしまっすさーん」
むぎゅ。もみゅもみゅ。
名前を呼ばれたと思った瞬間――胸を揉まれた。
私は状況が全く分からず絶句する。
「ふむふむ‥‥このおっぱいが、彼らを狂わせるのか‥‥けしからん」
「ゆっ、弓亜さんっ! 何するんですかっ!」
「ふっふっふ。流石だよね!」
何が流石なもんですか。
私は胸を守りながら後ずさる。
「まったく、こんな騒ぎまで起こして」
「しょうがないじゃん、依頼なんだから」
そう、それだ。一体こんな依頼誰がしたのかが気になっていた。
「一体、誰なんですかそれは」
――石枡さんの、よく知ってる人だよ。
私の問いに弓亜さんはそう言って、いたずらっぽく笑って言った――。