タイトル:【QA】母と傭兵少女マスター:氷魚

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/02/21 23:05

●オープニング本文



「んじゃ、あとはよろしく頼むわね」
 そう言って店を出た私は、それをジャケットのポケットの中に突っ込む。
 店の外まで聞こえる威勢の良い返事を返す店主に、「ったく、変わんないわね」と私は苦笑した。
 マフラーを首に巻き、紅のコートを靡かせながら早足に歩みだす。
 この町は変わっていない。私が傭兵だった頃、よく来たマーケット。
 かつて嗅ぎなれた匂いに不意に口元が緩む。
「あら、久しぶりね」
 懐かしい――見慣れたものに良く似たそれに、私は口元を歪めたままそう言うと、それも私の笑みに応えたのか笑って口を開いた。
「あぁ、久しぶりだね――」

 ――叔母さん。

 娘に良く似た瑠璃色の髪。
 そして、まだ幼さの残るその面影は、あの子が生きていればこんな『少年』に育っただろう。

 ――私は‥‥多分この日が怖かった。

 そう、思う。だからこそ、私は強がりの笑みを浮かべる。
 覚悟はしていたとは言え、それでも私は言葉を失った。
 噂は聞いていた。こいつの現れた報告書は全て目を通していた。そして‥‥そのたびに後悔もしていた。
「何しに来たの――」

 ――イーノ・カッツォ。

「強がるなよ、叔母さん」
「子供の姿になったら、話し方もガキになるのね」
 義兄の体を乗っ取った時と違って、随分と饒舌だ。ヨリシロの影響などでそう言う事もあるらしいが。
「子供の姿、子供の口振りの方がお前達人間が油断するだろ?」
「不愉快なだけよ」
「そうかい?」
 くすくすと、可愛げも無くそれは笑う。
 そしてその無邪気さを装った、そのわざとらしさが余計に気を逆なでする。
 今すぐにでも息の根を止め、甥の体を奪い返したい衝動に駆られるが、この場を戦場にするには回りに人が多過ぎる。
 だが、それ以上に、私の理性に楔を打っているのは、娘の――ルリの存在のお陰だろう。
 それに一人ではきっと勝てない。
 それはあの日、十二分に痛感している。自分の無力さを。
「もう一度聴くわ。何しに来た?」
 睨み付ける私の視線を睥睨し、満面の笑みを浮かべ応える。

 ――妹を、迎えに来たのさ。

「宇宙に行くんでね、血を分けた兄妹が離れ離れになるのは寂しいだろう?」
 私はその言葉に押し黙る。手の先が冷たい。最悪の気分。
 こいつと娘が対峙するには、まだ、少し早い――早いのだ。
「どうしたんだい、叔母さん。呼吸が乱れたみたいだけど」
 一々癇に障る。あの日も、そうだった。
 だから。という訳でもなかったが、私はこう応える。
「いつでも来い」
「あぁ、お言葉に甘えて近々伺う事にするよ」
 挑戦的な笑みを浮かべ、それは目の前から消えた。

 私は暫くその場に立ち尽くしていたらしい。辺りはもう暗くなっていた。

 あぁ、いいだろう。戦闘準備だ。 

 ――あの子は護る。私の命に代えても。

●参加者一覧

龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
美崎 瑠璃(gb0339
16歳・♀・ER
セラ(gc2672
10歳・♀・GD
ヨハン・クルーゲ(gc3635
22歳・♂・ER
村雨 紫狼(gc7632
27歳・♂・AA
大神 哉目(gc7784
17歳・♀・PN

●リプレイ本文


 真正面から見つめる美崎 瑠璃(gb0339)の瞳に、藍は視線を逸らさずに真っ向から応えていた。
 瑠璃が眉を顰めたまま「むむ」と唸っていると、その背中に村雨 紫狼(gc7632)が声を掛ける。
「ルリの向かった場所が分かった、まずはそこに向かおう!」
「は、はいっ! 今行きます」
 そう紫狼に応えてから藍に向き直り口を開く。
「色々聞きたい事はありますけど、後回しにしますっ! だいじょぶ、ルリちゃんは必ず守ってみせますからっ!」
「ええ、帰ってきたらきちんと全て話すわね」
 藍の言葉に瑠璃はこくりと頷いて、高速艇の乗り場へと駆け出した。
 自分の娘達の為に集まってくれた傭兵達の背中を、藍は視線で追いかけ見送った後――

 ――それじゃあ、私も行くとするか。

 そう呟いて本部から姿を消した。


 高速艇の中で瑠璃とヨハン・クルーゲ(gc3635)は、ルリが向かった依頼の周辺の地図を開いて、真剣な表情で意見を交わしていた。
「このあたりでは、果物類が名物のようですね。賑やかな青果市場など物珍しくて良いのではないでしょうか」
「あ、ここの大聖堂なんかも、目に付くから好奇心がうずくかもしれないですよっ」
 この二人。別に観光スポットをチェックしているわけではない。ルリの行きそうな所をチェックしているのである。
「あーもう、なんで同行した傭兵さんと離れちゃったの!?」
「気付いたら居なかったらしいですからね‥‥きっと何か気になる物でも見つけたのでしょう」
 二人を顔を見合わせて、はぁ。とため息を吐く。
 あの子の事だ。人の予想をほんの少し斜め上を行く。
 このほんの少し。と言うのが意外に難しかった。大体の予想は一致するのだが、一番重要なところですれ違うような、そんな感じ。
「現地に行ったらその二つを中心に探しましょう」
「しっかし、イーノってどんなヤツなんだ?」
 イーノにあった事のない龍深城・我斬(ga8283)が、どこか訳知り顔の傭兵達に問う。
「人の思いを弄ぶ、最低のバグアだよ」
 金色の髪をふわりとなびかせ、そう応えたのはセラ(gc2672)――アイリスだった。
 幾度かイーノに関係する強化人間と邂逅し、その狂気の末端に触れただけで、その子供じみた無邪気な邪悪さを感じ取れる。
 いや、無邪気さを装った邪悪、か。
「妹がどうとか言いやがったらしいがな、んなもん知るか! くっそ、まだ着かねぇのかよっ!」
 紫狼が苛立たしげに言う。
 いつもなら目的地まで直ぐに連れて行ってくれる高速艇が、今日は妙に遅く感じた。
「なるほど、それだけ分かれば十分だ。とっととルリちゃんを見つけてやろうぜ」
 我斬はそう言って、高速艇が向かう先へと視線を向ける。
 そんなどこか落ち着かない雰囲気の傭兵達を余所に、大神 哉目(gc7784)は面倒くさそうにため息を吐いた。

 あの子だけじゃまだ足りないっての?

 心中でそう呟くと、イーノに連れ去られた少女の事を思う。
「これ以上好きにはさせない、絶対に」
 そうはっきりと口に出し、拳を握った。


 大聖堂の鐘が街に響く。
 夕方の青果市場は人でごった返しており、ストリートに所狭しと並ぶ露店には、甘い香りのする色とりどりの果物が目に鮮やかだ。
「このヘルムは所有者を正しい方向に導いてくれるとか言うが‥‥まぁ、気休めにはなるか?」
 プラチナヘルムをこつんと指で弾く我斬を紫狼が急かす。
「ルリは糸の切れた風船のような子だからな‥‥急がねぇと」
「あぁ、わかってるさ」
「情報は無線で共有してください。依頼完了のタイミングから、このあたりに居る可能性はかなり高いはずです」
「あぁ、箱を開けなければ結果は出ない。ならば我々の強運を信じようじゃないか、淑女的にね」
 ヨハンの言葉にアイリスがそう付け加えると、傭兵たちは頷きを返し駆け出した。



 青果露店の中には、手に持って食べ歩ける串焼き肉等を売る露店も混ざっており、その香ばしい匂いは夕方の腹具合に直撃する。
 食いしん坊のルリならば、この辺りに居るだろうと当たりをつけて瑠璃は走り回っていた。
「ルリちゃーん! 居たら返事してっ!」
 人ごみを掻き分けながら食べ物の屋台を見て回るが、あの元気玉のような少女の姿は見つからない。
「ヨハンせんせーっ! そっちはどうですか?」
 気持ちばかりが焦る。
 他の傭兵達の様子が気になり、無線に向かってそう問いかけた――。

 ――この辺りでしょうか。

 街の中心に到着したヨハンがぽつりと呟いた所で瑠璃からの通信が入った。
「えぇ、今から少し試してみます」
『試す?』
 無線の向こうで聞き返す瑠璃に、「はい」とだけ応えラミエルを取り出す。
「ルリ様。範囲内に居てくださいよ‥‥」
 願うように『情報伝達』を発動させる。
 暫くして‥‥

 どーん。

 遠くのほうで天に向かって飛翔する鉄の拳が見えた。
 その鉄の拳は夕日を照り返し、キラリと光る。
「発見しました――」

 ――大聖堂の方です。

 言うと同時にヨハンも大聖堂へと走り出した。


 我斬は風を切り大聖堂目指して走る。
 先程から妙な気配が、周囲に集まっているような気がする。
「いやがるな」
 先程の空に向けられたロケットパンチに気付いたのか、人攫い共が集まってきたのだろう。
 大聖堂に続く広い道を駆け抜けながら、背後の気配に気を配る。
 人がまばらになってきた大聖堂前に到着すると、ぽかーんとこっちを見ているルリの姿が見えた。
 その隣にはアイリスが既に到着しており、我斬を待っていた。
「待っていたよ、私の運も捨てたものじゃないようだ」
「アイリスっ! ルリを確保したならとっとと逃げるぞ!」
 その言葉にアイリスはにやりと笑みを浮かべ盾を構える。と、同時にその盾が迫る凶刃を退けた。
 斬り付けてきた相手を盾の影からねめつけると、ルリを小脇に抱えた我斬へと口を開く。
「ルリを守りながら逃がす? 得意分野だ、任せたまえ」
「よし、逃げるぞっ!」

 ――どこに逃げると言うんだい?

 我斬が走り出そうとしたその時、そんな声が聞こえた。
「君達は僕の玩具なのに」
「その耳障りな口を閉じてくれる?」
 イーノの言葉に振り下ろされる棍が応えた。
 それを、どこからか現れた強化人間が受け弾くと、棍を振るった影は宙を舞いアイリスの隣へと立つ。
 白に染まった髪が風にたなびいた。
「やぁ、あの子は元気にしてる? ‥‥粗相があったら許さないよ?」
 まっすぐにイーノを見て哉目はそう言うと、それにイーノは薄い笑みで応える。
「あの子? 『どれ』の事だい?」
 その言葉に哉目は思わず飛び出しそうになったが、ここでイーノの挑発に乗っては、あの少女は取り戻せない。

「ふざけるなぁぁぁっ!」

 そんな叫びと共にイーノに向かって刀が振り下ろされる。
 しかしその切先は僅かに届かず、イーノのFFを皮一枚切り裂くだけだった。
 振り下ろした隙に現れた3人目の強化人間の拳が脇腹を抉る。
 イーノに刀を振り下ろした男――紫狼は痛みに呻き声を上げながら、土煙をあげつつ地に膝を突くことだけは避けた。
 黒装束に身を包んだ紫狼は、脇腹を押さえながら刀の切先をイーノに向け吐き捨てる様に言う。
「‥‥正直、俺は他人に悪意や憎悪を向けたくはねぇ――だがなイーノ、てめぇだけは許さねぇっ!」

 ――俺はてめぇが大っ嫌いだ!

 紫狼のその啖呵を聞いて、イーノが実に楽しそうに口元をゆがめた瞬間。

「火が点きますよ」

 良く徹るそんな声が傭兵達の耳に届くと同時に、大聖堂前を視界を焼く爆光が包みこんだ。


「あんたが四条 藍?」
 青果市場の喧騒の中そんな声に振り返ると、一人の少女が立っていた。
 私がその問いに応えずにいると、続けて少女は言う。
「ルリだっけ? その子は傭兵達に無事保護されたみたいよ?」
「‥‥そう」
 端的に応えながらも、私はほっと胸を撫で下ろす。
 あの子に付き合ってくれた傭兵に、今すぐ感謝の言葉を述べたいくらいだ。
「で、アンタは私に何の用?」
「あんたを浚いに来た」
「‥‥どういう意味?」
「言葉通りの意味よ」
 少女の言葉と同時に、複数の視線を感じた。
 2つ。少なくともこの少女以外に、2人の人間の視線に気付く。
「来て――貰えるわよね」
 そう言って笑みを浮かべる少女。
 その微笑みは、実に悲しい光を湛えている。何かに迷っているような。あの時の義兄と同じ微笑。
「アンタ、名前は?」
「天使 聖。で、答えは?」

 ――NOよ。

 私はそう応えて瞬天速を発動させた。


 ヨハンの投げた閃光手榴弾で怯んだ強化人間の隙をついて、我斬達はルリを抱えて脱兎のごとく逃げ出した。
 撤退戦。
 ルリを担いだ我斬達を追う強化人間を、アイリスを先頭に一部の傭兵達が足止めする。
「まったく、無粋な連中だ。兄妹の再会のジャマをするなんてね」
「私は無粋だよ。だから遠慮なく邪魔をする」
 愉快そうに言うイーノに、不敵な笑みで応えるアイリス。
 イーノの指示で3人の強化人間がアイリスへと攻撃を集中させるが、アイリスはその連続攻撃を、全てその盾と体で受け流す。

 ――いくら力量差があろうとも、真正面から砕くのは骨が折れるよ?

 けして楽な戦況では無いにも拘らず、それでも少女は笑うのだろうか『淑女的に』と。
 アイリスが引き付けた強化人間の懐にもぐりこみ、紫狼の刀が切り上げる。
 避け切れなかった切先が、強化人間の一人の腕を切り飛ばした。
「逃げるぞ! これ以上の戦闘は周りに被害が出るっ!」
「分かっているさっ!」
 アイリスはそう応えると、目の前の強化人間を掲げた盾で打ち付け距離を取る。
 そして哉目はちらりと奥に控えたイーノへと視線を送ると、口を開いた。
「ルルゥは絶対にお前から取り戻すっ!」
「なら、宇宙(そら)で待っているよ――」

 ――面白いものを用意してある。

「あぁ、待っていろっ!」
 残った一人を『輝嵐』で牽制し、哉目は閃光手榴弾を放り投げる。
 視覚を焼く光が日の落ちる大聖堂を昼間の様に照らす。
 その光が収まった時、イーノ達の目の前から傭兵達の姿は掻き消えていた。

「は、あははは‥‥。約束の時だ――人間」

 無邪気な哄笑が、日の落ちる大聖堂に響いた――。



 ――私は、またしくじった。

 ほんと、馬鹿だ。と自分を罵る。
 3人の強化人間が地面に倒れる私を見下ろしていた。
「何が、目的‥‥?」
「あんたを浚えば、あの子も来るだろ? だから浚うならどっちでも良かったんだよ」
「随分と、気に入られたものね」
「お気の毒様としかいえないね、俺には」
 くはは。と少年は笑う。恐らくこの少年が報告書で読んだ、緋野焔真と言う強化人間だろう。では、天使の隣に立つ少女は御前海か。
 と、私はそう当たりをつける。
 強化人間達に囲まれながらも、私はゆっくりとその場で立ち上がる
「なんで‥‥立つのよ」
「あの子の為よ」
 完全に戦闘不能と思っていた私が立ち上がった事に。その私の答えにどこか怯える様に天使は後ずさる。
 知ったことか。

 私は生きる。あの子の為に。

 もう、見捨てない。誰も、見捨てない。

 最後まで諦めない。だから――

 ――ママっ!

 立ち上がる私に、我が娘の聞きなれた声が届く。
 ったく、なんで最悪な時に現れんのよあんたは。

 かっこ悪いじゃない。

 そう思って私は声がした方へと視線を向けた。


 それは偶然だったのだろう。
 ルリを担いだ我斬と瑠璃、そしてヨハンは偶然にも藍を囲んだ強化人間3人と遭遇してしまった。
「ママっ!」
 我斬に担がれたルリが、じたばたと暴れるが状況を理解した我斬が力任せに拘束する。
「我斬にぃっ! ママがっ! ママがッ!」
 涙を溜めて叫ぶルリに応えず、何かに耐えるように歯を食いしばってルリを離さない我斬。
 追いついてきた紫狼たちも、現場に居た聖達と刀を突きつけられた藍の姿を見て状況を察する。
「ルリちゃん、我慢して。ここでルリちゃんまで連れて行かれたら‥‥」
「ママっ! ママッ! ママぁっ!」
 瑠璃の言葉も届かないのか、我斬に担がれたままルリは足掻く。
 そんなルリを見て、藍は優しく笑った後表情を引き締め口を開いた。

 ――うるさいわね。私は、あんたのママなんかじゃないわ。

「あんたを騙してたの。だから私なんか見捨てなさい」
 その言葉にルリだけではなく、その場に居た傭兵全てが驚きの表情へと変わる。傭兵達に向ける藍の瞳は、後は頼むと無言で告げていた。
 しかし、我斬に担がれたままルリは口を開く。

 ――知ってる。

 ルリの口から漏れた言葉に、今度は藍の方が戸惑いの表情を浮かべた。
「ママがママじゃない事なんか知ってる! でもママだ! 私のたった一人の大切なママだ! だから――そんな寂しい事言わないで‥‥」
 その言葉に、藍は少しうつむいた「ったく」とぼやいた後叫んだ。
「泣くな! 笑え! 私はあんたをなき事言うような娘に育てた覚えは無いわよっ!」
 そう言うと何かを放り投げてきた。ルリの代わりに我斬がそれを受け止める。
「それに乗って、私を助けに来なさいな。私の娘なら、ね――」

 ――連れて行け、あんた達の根城に。

 藍は聖たちに向き直りそう言った。
「なんなのよ、あんた達‥‥」
「母子よ」
 理解が出来ないとでも言うように呻いた聖に、自信溢れる満面の笑顔で藍はそう応える。
 聖が腰に帯びた刀を抜こうとすると同時に傭兵達も戦闘態勢に入っていた。
「それ以上ママンに手を出してみろ、一人くらいは絶対連れて行く」
「友人の母親を傷つけられては、淑女として黙っていられないね」
 そんな傭兵達の行動に、藍はため息を吐く。
「ったく。アンタたちまで馬鹿な娘に付き合わなくていいのに」
「違いますよ。馬鹿な母子に付き合っているのです」
 ヨハンの返しに藍は「悪かったわね」とどこか楽しげに笑い、強化人間に連れられて行った――。


「よし! ママを助けに行くぞっ!」
 ルリは帰りの高速艇の中で、藍から受け取った物を天に掲げて意気揚々と宣言した。
 立ち直りが早い。とでも言うのだろうか。それとも、これも辛いときこそ笑えという藍の教育の賜物か。
 そしてルリは傭兵達に向き直ると、ぺこりと頭を下げた。
「ママを助けるのを手伝ってくださいっ!」
「当然だ! ママンを助けに行くぜっ!」
「もちろんセラも手伝うのですっ!」
 ルリと一緒になって拳を振り上げる紫狼とセラ。しかし、ヨハンが「しかし、どこに居るのか‥‥」と思案顔で呟くと、それに哉目が応えた。
「宇宙だよ。あいつらは宇宙に居る」
「でも、宇宙って言っても広いからなぁ‥‥」
 瑠璃の呟きにルリが「大丈夫!」と断言する。

 ――宇宙の隅々まで探せば見つかるよっ!

 本気で言ってそうだから怖い。
 しかし、その意気込みは傭兵達全員に伝わったはずだ。
「あぁ、きっと見つかるさ。俺達も手伝うからな」
 我斬の言葉にルリは応える。

 ――ママに笑顔を届けに行くんだっ!

 と、いつもの元気な笑顔を浮かべて。