タイトル:寂しがり屋の自殺志願マスター:氷魚

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/01/02 09:38

●オープニング本文


 ――それでも、私はやっていない。

 冷たい石壁に囲まれた独居房の中で、それは静かに呟いた。
 ただ、その事実を知っているのはそれ自身しか居らず、自分の無実を証明できる人間は一人としていなかった。
 鉄格子の向こうに見える季節は幾度となく流れ、それは独居房のベッドの上に胡坐をかき、静かに時が過ぎ去るのをじっと堪えていた。
 数年にわたる法廷での裁判の結果、その判決は死刑。
 罪は殺人。
 殺害数は三十三人。
 被害者はすべて、その体を刃物のような物で引き裂かれ、肉の塊――肉の山となりそれの目の前に積まれていた。
 その時それの手には一振りの刀。
 状況証拠としては、その場で逮捕されるのに十分な凶器である。
 記録によると、それは現場で発見されたとき、積み上げられた肉の山の真ん中で、暗い闇の奥をぼんやりと見つめていたという。
 それの証言は理路整然としており、無実を信じてしまいそうに成るほどの説得力があった。
 しかし。それを証明できる者が居ない。
 しかし。それを否定する証拠しかない。
 精神鑑定の結果、正常。そして責任能力有り。
 それ本人も、自分は正常であり、責任能力も有ると述べている。
 法廷上で自分の罪(冤罪?)についての議論がなされているのを、それはいつも目を閉じ静かに聴いていた。
 そして、毎度法廷が閉じるときに一言口にするのみだった。

 ――それでも、私はやっていない。

 冷静に、且つ一言で自分の無実を述べるだけ。
 その真摯な態度、真摯な瞳は多くの傍聴者、そしてマスコミに取り上げられ話題に上がった。
 
 しかし、それでも判決は『死刑』。

 頭に麻袋を被され、絞首台の十三階段を上る時もこう言ったという。

 ――私は、やっていない。


 4人の少年少女を引き連れ、男が歩いていると不意に声を掛けられた。
「‥‥それ、いい刀ね」
「上げませんよ」
「いいわよ。アンタが死んだら勝手に貰うから」
「そうですか。でも、その時は貴女も道連れになってもらいますよ? 死ぬときは大勢で一緒に。と決めているのですから」
 天使 聖の言葉に男――守宮井守はそう応える。

 寂しがり屋の自殺志願。

 自らが死ぬ時には大勢の道連れを共にして死ぬ。それがこの男――守宮井守の願いだった。
「で、そんなに沢山連れて、どこ行くの?」
「まぁ、少し、悪太郎さんに言われてましね」
「悪太郎‥‥ね」
 聖はそう言って施設の奥、恐らく悪太郎がいつも居る部屋の方へと視線を投げる。
 その口ぶりから言うと、普段姿を現さない悪太郎に対し、よい感情を持っていないようだ。
「嫌いですか? 悪太郎さんの事が」
「別に。会った事ないし」
「そうですか。では私は用がありますので、出かけてきます」
 そう言って井守が背を向けると、「それ、さ」と4人の少年少女を指差し聖が言う。
「キメラ? 強化人間?」
「お供――と言ったところでしょうか」
 井守の言葉に聖は眉を顰めた後、「私も行っていい?」と聞いてくる。
「構いませんが‥‥どうして?」
「出先でアンタが死んだら、その刀回収するの大変じゃない」
「はは。なるほど。‥‥そういえば焔真さんは? 今までこういうのは焔真さんがやっていましたけれど」
「あぁ、素材集めみたいよ。それなりに順調みたい‥‥そう言うことか、それ」
「そう言う事ですよ」
「――悪趣味ね」
 どうやら聖は少年少女の正体に思い至ったようだ。
 失敗作たちの末路も。
「まぁ、いいわ――」

 ――みんな死んでしまえばいい。

 いつもの様に聖はそうつぶやいた。

●参加者一覧

石田 陽兵(gb5628
20歳・♂・PN
加賀・忍(gb7519
18歳・♀・AA
セラ(gc2672
10歳・♀・GD
モココ・J・アルビス(gc7076
18歳・♀・PN
村雨 紫狼(gc7632
27歳・♂・AA
高坂 永斗(gc7801
20歳・♂・SN
李・雪蘭(gc7876
37歳・♀・CA
真下 輝樹(gc8156
22歳・♂・CA

●リプレイ本文


 死は救いだ。

 そう守宮 井守は考える。
 そう考えながら逃げ惑う人の中に紛れ込み、混乱に乗じて人を殺す。

 暗殺。

 それが守宮の最も得意とする技だった。
 いや、結果として暗殺と言う術が最も得意になったというべきだろうか。
 元より単独で動くのを常としている井守は、連れてきた少年少女に好きに暴れて好きに死ぬよう指示してある。
 せめて沢山道連れにして逝って欲しい。
子供が一人で逝くのは寂しいから。
 そう、願う。

 君達が寂しくないように。

 そう思ってどこか寂寥感のある笑みを浮かべた後、井守は立ち止まる。
「おや、見つかりましたか」
「そう言うことだ」
 井守の目の前には一人の少女――セラ(gc2672)の姿があった。
 その瞳にはいつもの無邪気な光は無く、ただ、冷たく井守の姿を捉える。
 聖や他の強化人間との交戦が始まって直ぐ、他の敵が潜んでいないかを探査の目で走査したのだ。
 それは傭兵としての危機に関する本能に近かったかもしれない。
 もし、井守を見つけられなければ被害はもっと増えていただろう。
 井守をねめつけ、セラは。いや、鉄血にして鋼鉄の少女アイリスは告げる――

 ――さあ、殲滅を始めようか。淑女的にね。

 そう言って笑みを浮かべる少女を見て、井守は思う。

 あぁ、『彼女』の言うとおり――この異常な力が溢れた世界は狂っている。と。


「‥‥まだ殺し足りないとは恐れ入ります」
 アイリスに追いついた真下 輝樹(gc8156)は、呆れたように目の前の井守に言うが、井守はややどこか自嘲めいた笑みを浮かべるだけだった。
 石田 陽兵(gb5628)がそれにイラついたように口を開く。
「お前は何で武器を握る。無実を貫き、死んだはずの人間が‥‥」
 そう口にした陽兵に井守は首を傾げてから、陽兵の言葉の意味に思い至ったように「あぁ」と頷いた。
「私は、無実を貫いては居ませんよ。ただ『やっていない』と言っただけです。そう――」

 ――道連れに足る程、殺っていない。と。

「ふざけるなっ! 多くを道連れに死ぬだと!? そんなお前のエゴのために多くの人間の笑顔を奪わせはしない!」
 薄く。儚げに笑い。手にした刀を構える井守に村雨 紫狼(gc7632)がそう怒りの声を上げた。
「お前は、この世界に居ちゃいけない存在だ――」

 ――ここから‥‥出ていけぇぇっ!

 その怒りと共に黒い光としか表現が出来ないオーロラが紫狼を包む。
 そのオーロラが消えた後、漆黒の装束を身にまとい二本の刀を手にした紫狼がそこに立っていた。
「柊流二天抜刀術、村雨 紫狼‥‥推して参る!」
 その言葉と同時に紫狼、輝樹、陽兵は井守に向かって駆け出した――。


 火が上がる。大人の怒号。そして子供の泣き声。
 その光景は、李・雪蘭(gc7876)の感情を少なからず揺るがせる。
「感情的になる訳にもいかないだろ。‥‥怒りに身を任せるなよ」
「分かっている」
 高坂 永斗(gc7801)の言葉に李はそう応え、人々の安全を確保する為に声を上げる。
 到着が遅れているUPC軍の到着予定ポイントを教え、戦場となる予定の場所を避けたルートで脱出を指示した。思いのほか順調に避難が進んでいる所を見ると、どうやら他の傭兵達が強化人間達を上手くひきつけているらしい。
「ここは任せた。俺は要救助者が居ないかを確認しながら、向こうと合流する」
「こちらも様子を見て、戦線に加わる」
 李がそう応えるのを見て、永斗は頷きを返してその場を離れた。
 そして、赤々と炎に照らされた町並みを見つめながら、李は胸中の怒りを押し殺す。

 ――この怒りと悲しみは、私が連れて行く。

 これを起した原因まで、必ず。



 ――あら、奇遇ね。

 そう言って聖はまるでショッピング途中に友人にあったかのような笑顔を二人――モココ(gc7076)と加賀・忍(gb7519)に投げかけた。
 その手に持った剣を振るうと、石畳に鮮血が散った。その足元には命を奪われたばかりの遺体が転がっている。
「聖さん‥‥何故貴女は人を憎むんですか?」
 それには何も応えずに聖は笑顔のまま剣を向ける。
 その剣に先に応えたのは忍だった。大太刀を構え油断無く聖に視線を向ける。
「モココ。ここでの会話は無意味よ。私達は相容れない敵同志なのだから」
 その言葉に聖は薄く笑う。まるで忍の言葉が是であるというかのように。
「あなた、モココちゃんと違う方向で面白い――間違いなくこちら側なのに、決定的に私達とは違う」
「そうね。貴方達とは仲良くなれそうも無い」
「そんな事ないと思うけど。‥‥そういえば私、あなたの名前知らないわ」
「名乗る必要がある?」

 ――無いわね。

 同時に瞬時に間合いを詰め振り下ろされた聖の剣を、忍は大太刀で弾く。忍の耳に聖が感心のため息を吐くのが聞こえた。

「‥‥本当に‥‥初めて会ったあの日の言葉は‥‥嘘なの‥‥?」 

 そう呟き拳を握るモココの言葉に、聖がほんの一瞬だけ目を見開いた事に、その場に居る誰も気付かなかった――聖本人ですらも。


「どうしました? 息が上がっていますよ?」
 輝樹の頬に朱線が走る。同時に切り込んでくる紫狼の二刀を冷静に弾き、陽兵の放つ弾丸を避ける。
 傭兵達はたった一人の強化人間に、じりじりとではあるが押されていた。
「なぁっ!」
「なんですかっ」
 陽兵の呼びかけに井守の刀を盾でいなしながら輝樹は応える。
「もういいだろっ!?」
 その問いかけに輝樹は周囲を確認すると、不敵に笑みを浮かべて頷きを返す。同時に今まで押されていた紫狼が井守の刀を押し返した。井守はその紫狼の二刀を避け、大きく距離をとると「なるほど」と微笑む。
 日常であれば人の憩いの場となるだろう公園。しかし、今日に限っては傭兵達の姿しかない。
「被害の少ない場所に誘い出しましたか」
「これでやっと本気が出せる――ぜっ!」
 瞬天速で瞬時に間合いを詰め、M92Fの引き鉄を至近で引こうとする陽兵の体に衝撃が走る。呻きを上げ地面を転がりながら体勢を立て直す陽兵が見たのは、三人の少年少女。
 三人は井守を守るように傭兵達の前に立ちふさがっている。
 それを見て心中舌打ちを打ったのは輝樹だった。少年少女の支配権を持っているであろう井守を油断させ速攻で倒し、少年達の自爆を防ごうと考えていたからだ。

 ――何の為に、私達が居ると思っているんだ。

 不意にアイリスの声が輝樹に届いた。
 同時に歌が聞こえる。それはまるでほしくずが降る夜に聞こえる、木々のさざめきの様な歌声。
 その歌声は一人の強化人間の少女の思考に混乱を挿し込んだ。暴れだす少女に他の二人が戸惑った瞬間、その片方の少年の胸を銃弾が穿った。
 何が起きたのかわからないままその場に崩れ落ちる少年。

 ――慈悲はくれてやる。安心して、その一撃で逝くがいい。

 永斗のその言葉は少年に届いただろうか。
 せめてその死は少年にとって、救いとなることを願う。奇しくもそれは井守が日常で考えている事と同じだった。
 しかしそれは、その意味は間違いなく一線を隔している。そしてその一線は決して越えられないのだろう。
「哀れな人形は俺たちに任せろ。とっとと決着を付けてくれよ」
 構えた銃で残った強化人間を、井守と連携させないように牽制する。それに呼応するかのように陽兵が動く。抜き撃ちでM92Fの引き鉄を引き、破裂音と共に吐き出される弾丸を井守はサイドステップで避ける。着弾と同時にペイントが破裂するのを見て井守が笑う。
「やはり何か仕掛けていましたか」
 それに応えず陽兵はスブロフを利用して作った火炎瓶を空に放り投げた。不意に投げられたモノに井守は本能的に意識を視線をとられた。そこを狙って輝樹が盾を掲げて井守へとぶつかる。
「これ以上好きにはさせませんよ!」
 井守は体勢を崩しながら横薙ぎに刀を振るうが、頑強な盾に遮られて輝樹には届かない。
 地面を転がり視線を傭兵達へと戻す井守の目の前で、タイミングを合わせ陽平が投げつけた閃光手榴弾が炸裂する。
 呻きを上げ、たたらを踏む井守に紫狼が低空を飛翔するかのように飛び掛った。
「舞え我が双牙、天照、月詠っ!」
 紫狼の手の二本の牙が、残像の尾を引きながら井守を捕らえ――

 ――うおおおおっ!

 その直前、井守が吼えた。
 紫狼の剣筋に合わせ刀を振るう。一呼吸の間に繰り返される駆け引き。一合毎にお互いの体が軋み悲鳴を上げる。
 紫狼はその痛みを歯を食いしばって耐え、先ほどと同じスキルを発動させる。

 ――剣劇。

 6連撃。
その運動量に比べ酸素が足りない。思考が止まる。視界が白くなる。筋肉が断絶する音が体内から聞こえた。
 その一撃一撃が井守の体を確実に捕らえた。先程とは手ごたえが違う。しかし――無呼吸での連続攻撃を終えた紫狼の目の前には、刀を大上段に構えた井守が立っていた。

 耐えるのか。あれを。

 紫狼の驚愕。そして、少なくないその力への賞賛。
 しかし、その刀は銃弾に弾かれて大きく揺らいだ。
「行けっ! 紫狼君っ!」
 視界の端に銃を構えた永斗の姿。

 無茶言うぜ。

 そんな事を胸中で思いながら、しかし、紫狼は肺に微かに残った酸素を搾り出す。

 護る。

 ただ、その意志を込めて。


 李は 目の前の少女が我が子ではない事に安堵していた。
 忍とモココ、聖と少女が戦闘行動を繰り返す中、まどあどけなさの残る少女の顔を見つめて、深く息を吸ってから戦場へと駆け出した。

 忍が聖の細剣を避ける。以前使っていた武器と違う為、その戦闘スタイルに慣れるまで少し時間がかかった。実際に武器なら何でもこなすらしい。
 意表をついた突きが忍の肩を貫き、先程から既に感覚が鈍くなっている。
 左手につけた防御特化の篭手をバックラーの代わりに使い、モココの攻撃を上手くいなす。
「相変わらず、やるじゃない」
 忍の重い剣戟を避けながら、にやりと笑う。それに忍は剣戟で応えた。お互い言葉など不要だと言うかのように。
「楽しいねっ! 聖くんっ!」
「私は戦うのはそれ程好きじゃないのよ、殺すのが好きなの」
 モココの言葉にそう応えながらも、それでも笑みをこぼしている聖。モココがどのスピードまでついてこれるか試しているかのように、一撃加えるごとに突きの速度を変える。
 いくつかの突きが防御をすり抜け、衣服を血に染めながらモココは拳を聖へと突き出す。
 そのモココに少女が小振りの斧が振り下ろすのを、李の盾が弾く。
「こっちは任せろ。聖に集中する良い」
 李の言葉に頷きを返しモココは走り出す。そしてそれを横に見ながら李は弾き飛ばした少女へと向き直り口を開いた。
「たとえ、今目の前に居るのが信龍と銀鈴であっても、私がやるのは同じ事――」

 ――『母』として、あなた達が人を殺すことを、止めさせる!

 そう口にして盾を掲げて少女にぶつかる。その衝撃でたたらを踏む少女。掲げた盾から少女に向けて弾丸が掃射される。少女はとっさに急所を護るが、弾丸に混ざった貫通弾が少女の体を貫いていく。
 銃撃の衝撃で地面を転がる少女。急所を護ったとはいえ戦闘行動できる様な状態ではないだろう。しかし少女は。それでも少女は立ち上がり、聖の元へ行こうとおぼつかない足取りで歩いていく。
 それをみて聖は、少女の元へと駆け寄り「いい子ね」と頭を撫でた。
「そんな余裕があるのか」
「流石にそこまで過信してないわよ――」

 ――ね?

 忍の言葉に聖がそう応えた瞬間。傭兵達は一瞬聖が何をしたのかが分からなかった。
 一瞬だけ、ほんの一瞬だけだが、思考を止めてしまった。
 その少女自身、自らの身に何が起こったのかが分からない様な呆けた顔をしていた。

 聖が、少女を。空高く放り投げたのだ。

 落ちる。

 落ちてくる。

 少女が。

 しかし、少女が落下した音はしない。李が落ちてくる少女を抱きとめたのだ。
「どうして、助けるの? どちらにせよ貴女達が殺すべき対象なのに」
 李の耳元で聖が囁く。李の血が聖の持つ細剣の刃を伝って手元から落ちる。
 聖の細剣は李が抱きとめた少女ごと貫いていた。
 聖の口から漏れる声には驚きと、理解できないものへの憤懣。苛立ちの様なものが感じられる。
「私は‥‥『母』だか、ら」
 李は痛みに耐えながら、それでも言葉を紡ぐ。
「『母』は、子供のやる事を諌めはしても‥‥本気で殺したいと思ったりしない」
「なにそれ――」

 ――死んじゃえば?

 そう言って細剣をもう一度強く押し込もうとするが、忍の大太刀がそれを邪魔をする。
「死ぬのはお前一人で良い」
 追撃をしてくる忍を嫌い、聖は細剣を捨て必要以上に大きく避けて傭兵達を睥睨する。
 その冷たい瞳は、その冷たい瞳の中には――理解できないものへの『恐怖』に似た何か。

 みんな。死んじゃえ。

 聖はそう自信なさげに呟いて、その場から姿を消した。

●独白

 ――言い残したい事があるなら聴くぜ。

 傭兵の一人が銃を構えたままそう告げた。
 立っているのがやっとの私に、何を聴こうというのか。
 何かを言い残すつもりは無かったが、ふと上を見上げて気が変わった。
「‥‥そう、ですね」
 そう呟いたと同時に持っていた刀を建物の屋根の上へと放り投げる。
 その刀を相手が受け取ったのを確認して笑みを浮かべる。
「それ、あげますよ」
 刀を受け取った聖さんは、いつもと違ってどこか不満そうに見えた。刀を受け取ると彼女は直ぐにその姿を消した。
 あはは。いつも不満そう――いや、不安なのですね。きっと。
 私は苦笑を漏らしてから銃を構えた傭兵に向き直り手を広げる。

 ――それでは、お願いいたします。

 私は生きた。そして殺した。
 その償いはしなければならない。

 そんな事くらいは、分かっている。


 強化人間には誰一人として自爆装置は仕掛けられていなかった。
 井守も含めて。その理由は強襲を行った井守にしか恐らくわからない。
「井守はどうして、道を違えてしまったのでしょうね」
「さぁ、な」
 輝樹の呟きに、陽兵が気の無い返事を返す。
「渇けば充たす。それは皆同じ事。ただその対象が彼らと相容れないだけだ」
「俺は‥‥仕返し出来ただけで十分さ」
 そう言いながらもどこか言いよどむ。元々人に銃を向けるのが得意ではない。陽兵の胸の中に後味の悪さが残っていた。
 搬送されていく少年達を見ながらモココは呟く。
「この子達にも‥‥未来があったはずなのに――」

 ――聖さん。なんで私達は一緒には歩めないの‥‥?

 しかし、きっとその願いは叶わない。
 あの少女はもう戻る事は出来ない。

 たとえ彼女が望んだとしても。