タイトル:少女とカメラと――マスター:氷魚

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/11/12 23:56

●オープニング本文


●少女の思い

どうして――

少女は思う。
どうしてこんな戦争が起こってしまったのか。
焼け野原となった街を前に、少女は歯を食いしばる。そうでもしなければ目から涙が零れそうだった。
やや大きめの帽子を深くかぶりなおし、くしゃくしゃになってしまった顔を見られないように隠す。
街を歩く。
焼け落ちた家。崩れ落ち煤けてしまったコンクリートの壁。
「お父さん‥‥」
呟き、首から下げたカメラを握りしめる。
少女の父はこのバグアと地球人類の戦争を撮影し続けていた戦場カメラマンだった。
しかし、その父はもういない。
戦火に巻き込まれ死んでしまったからだ。
戦場から帰ってきたのは、少女が首から下げているこのカメラだけ。
父はこのカメラのレンズごしに何を見て、何を思ったのだろうか。

 ――分からないよ。お父さん。

 父の残したカメラを見つめ、ぽつりと呟く。
 当然の事だが少女の顔を映すレンズは何も答えない。
 瓦礫の上に座り込み、ファインダーを覗き込む――

●父の思いを知るために
「戦場に連れて行ってほしい‥‥ねぇ」
 ULTのオペレーターの呟きに、少女――阿部 愛華はカメラを握り締めたまま力強く頷いた。
 深くため息を吐き、髪を掻きあげながら気だるそうにオペレーターは言葉を継ぐ。
「でも、あなたが行きたいって言っている戦場って、今は落ち着いているとは言え、それでも民間人にはかなり危険な地区よ?」
「それでもっ‥‥」
 そこは父が帰ってこなかった戦場。父がその戦場で何を見、何を聞いたのか。愛華はそれが知りたかった。父は撮影した写真で、自分に‥‥いや、自分たちに何を伝えたかったのか。それが知りたかった。
 愛華は言葉に詰まり、下唇を噛んで俯いてしまう。
 オペレーターは愛華の悲痛な表情に、再び溜息を吐き地図の一点を指差し「ここまでね」と、愛華に向けて言った。
「‥‥え?」
「あなたのお父さんが亡くなった場所――ここだから。ここまで行って帰ってくるまであなたを警護するって事で依頼する。いい?」
 ややぶっきらぼうにそう言うとオペレーターは、依頼書の作成に入った。
 オペレーターの態度と言葉の内容がミスマッチだった為、何を言われているのかが愛華には分からなかった。しかし、しばらくオペレーターの言葉を反芻した後‥‥
「は、はいっ! ありがとうございますっ」
 と、気付かないうちに大声で叫んでいた。
「お礼を言うのは早いわよ‥‥連れてってくれる人が居るか分かんないんだから」
 オペレーターはそう言って、オーダーをデータベースに流す。
「でも、なんで‥‥」
 あんなに面倒臭そうな態度だったのに。等とは口が裂けても言えないが、微妙に協力してくれたのは愛華にとっては疑問だった。
 オペレーターは愛華の疑問に少し押し黙り、ややあってから口を開いた。

「あなたのお父さんの写真‥‥嫌いじゃなかったのよ」

 モニターを見つめたままのオペレーターの顔は、少し赤くなっていたかもしれない。

●参加者一覧

UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
紅 アリカ(ga8708
24歳・♀・AA
桂木穣治(gb5595
37歳・♂・ER
石田 陽兵(gb5628
20歳・♂・PN
ソリス(gb6908
15歳・♀・PN
布野 橘(gb8011
19歳・♂・GP
神楽 菖蒲(gb8448
26歳・♀・AA
ミコト(gc4601
15歳・♂・AA

●リプレイ本文

●少女と傭兵と
 阿部 愛華は傭兵達を前に頭を下げていた。
「私の我儘な依頼を受けてくださってありがとうございます!」
 一息でそこまで言って、ずっと頭を下げ続ける愛華。
「まあまあ、そんなに硬くならず‥‥俺たちが絶対に守るからさ」
 いつまでたっても頭を上げない愛華に石田 陽兵(gb5628)が人懐っこい笑みで言うと、慌てて愛華は頭を上げた。
「す、すみません‥‥」
「素人の観光のお守りには付き合わないんだけど。今日は特別よ」
 バツが悪そうに謝る愛華に、神楽 菖蒲(gb8448)が腕組みをしたまま言い放つ。それに苦笑しながら桂木穣治(gb5595)が間に入った。
「はは‥‥今日はよろしくな。色々な意味でキツイ場所だとは思うが」
 言って握手を求める桂木。それに手を差し出し愛華は「よろしくお願いします」と応える。
 愛華は傭兵――能力者に対して、どこか怖いと言う印象を持っていた。
 しかし、実際にこうやって話してみると自分たちと全然変わらない。むしろ、バグアに怯え笑顔を失っている普通の人たちよりも余程人間らしい。
 そう思ってほっとしていると、短髪の少女が笑顔で声をかけてくる。自分と変わらない年齢の女の子も戦場に出ている事実に、知識では知っていたが驚きを隠せない。
「どうしたの?」
「いえ、同じ位の年の女の子が居てくれて、ちょっと嬉しい‥‥というか‥‥」
 問う少女に応える愛華。しかし、愛華の言葉に少女――ミコト(gc4601)の笑顔が凍りつく。
「お、俺‥‥男」
 今度は愛華の笑顔が凍りついた。
「ご、ごめんなさいっ! あんまり可愛いかったから、じゃなくてっ、その、えとっ!」
 慌てて言い訳をする愛華を、少し離れた所から見守るUNKNOWN(ga4276)。
 黒衣に身を包んだ男は、オペレーターから彼女の父の話を聞き、同じ写真家でもあるその人物に思い当たる。
「そう、か。‥‥ま、何とかやってみよう」
 帽子を深くかぶり直し、そうぽつりと呟いた――。

■少女と戦場と
「先行班、きっちり仕事してくれてるみたいね」
 鬱蒼とした林の中、神楽はそう呟き振り返った。今のところキメラとの遭遇は無く順調に進めているのは先行班のお陰だろう。
 今は、傭兵ではない愛華の事を考え休憩を取っているところだ。
 愛華は木の根元に座り、首から下げたカメラを見つめている。
 そんな愛華にミコトが水筒を差し出した。
「はいこれ。次の移動まで少しでも体を休めてね」
「あ、ありがとうございます」
 疲れているのだろうが、気遣ってくれるミコトに愛華は気丈に笑顔で応える。しかし、その顔には初めての戦場に少なからず緊張が見えた。
「そんな緊張しなくたって大丈夫だって、その為に俺達が居るんだから」
 木の上に登り、周辺を警戒をしていた陽兵が二人の傍に飛び降りてくる。
「俺の分は?」
 降りてくるなり言う陽兵にミコトが野菜ジュースを投げて渡すと、渡されたボトルを掲げ「サンキュ」と礼を言う。
「UNKNOWNさんもどうですか」
 愛華に気を使ってか、少し離れたところで煙草を吸っていたUNKNOWNに、ミコトが声をかけるが気にするなと言う風に煙草を持った右手を上げて応えた。
 それを見てから、陽兵が口を開く。
「んじゃ、そろそろ休憩も終りっかな?」
「みたいだね」
 陽兵の言葉に、ミコトが頷いて道なき道の先を見つめた。
 その二人に愛華は「?」と言った表情を向けると、いつの間にか直ぐ傍まで来ていた神楽が硬鞭を抜く。
 そして愛華に背を向けたまま言った。
「‥‥見たいんでしょ? 向こうから来てくれたわよ。戦争が」
 林の先を見つめる三人の視線の先に目を凝らすと、何か黒い影の様なものが見える。
 それは、耳障りな音を立てながらこちらに近づいてきていた。
「先行してちょっと減らしてくる。そんじゃ、愛華ちゃんは任せたよ」
 そう言って駆け出すミコトの手には、いつの間にか天使が翼を広げた様な美しい意匠を凝らした剣が収まっていた。
 ミコトとその影が接触する辺りで、やっと愛華にも影の正体が分かった。かなり離れているにも関わらず、それでもそれが何だか分かってしまう。
 巨大な蜂――いや、蜂型のキメラだ。その大きさは人の頭ほどもある。
「っ」
 これがキメラ。その異様な姿に悲鳴を上げそうになるが、事前に悲鳴を上げるなと言われていた事もあり、ぐっとそれを飲み込んだ。
「いい子だ」
 ともすれば聞き逃しそうな程小さい声で神楽が呟く。いや、もしかしたらそれは、愛華の聞き違いだったのかもしれない。
「怖がらなくていい。君には俺たちが付いているのだからな」
 不意に煙草の香りが鼻をくすぐった。ふわりと降り立つように愛華の直ぐ傍らに立つ黒衣の男。
 その言葉に右手の親指を立てる陽兵。

 そうだ。私にはこの人たちが付いているんだ。

 そう心の中で呟き、首から下げた父のカメラをぎゅっと握りしめた――。

■驚きの遭遇率
「‥‥また来たわね。あまり時間をかけるのも何だし、早めに終わらせるわよ」
 そう言って、紅 アリカ(ga8708)は刀を振り、血を振るい落とす。
 ここまで虫やトカゲの姿をした小型のキメラばかりだったが、目的地に近付くにつれて中型〜大型の獣の姿をとったキメラが現れ始めた。
 前線に近い事もある為か、思っていた以上にキメラの数が多い。それほど強くないのがせめてもの救いである。
「戦意のあるなしは彼らにとって無関係、ですか、まぁしょうがないお話ですけど」
 ソリス(gb6908)はぼやきながら、小柄な体に似合わないズガンベットを振るい、トカゲの様な姿をしたキメラを薙ぎ払った。
「楽な仕事と思ってたんだけどなっ!」
 布野 橘(gb8011)が愚痴りながら、ソリスの頭上を飛び回るキメラをシュリケンブーメランで叩き落とす。
「‥‥今日はつくづく運が悪いですね」
 事実。ソリスの言うとおり先行班は運が無かったかもしれない。事前の情報でもこの辺りはキメラの目撃証言は少なかったのだ。
「愚痴ってねぇで、もうひと頑張りだ!」
 愚痴る二人に桂木がそう激励し、自らもカメラ型超機械を手に周囲を飛び回る虫型キメラを撃ち落とす。
「とは言っても、聞いてた以上の数だぜっ!」
 やけくそに叫びながら大型のキメラと交戦に入ったアリカのフォローに布野が入る。
 投げつけたシュリケンブーメランが大型の虎型キメラの目に突き刺さり、キメラは苦悶の咆哮を上げる。
 瞬間、アリカの刀が煌めきキメラの首を刎ねた。
 後は残ったうるさい虫とトカゲを排除するだけである。

 しかし、先行隊の不運はまだ続く――

 ――布野は欠伸どころか、息も噛み殺していた。
「いやがるな‥‥。直衛に連絡、少し待機してもらうように」
 後ろに居るソリスにそう指示し、ソリスはこくりと頷き直衛班に連絡を入れる。
「‥‥おそらくあれが超大型、みたいね」
 樹木の陰に隠れながら、遠くに見えるそれを見つめアリカは呟く。
 超大型キメラ。一行が今居る場所から見えるそれは、まるで古代の恐竜の様な姿をしていた。生い茂る高木の中でも上半身を木々の上に晒し、獰猛そうな視線を辺りに巡らせている。
 だが、まだ距離も遠い事もありこちらには気付いていない様だ。
「迂回させるか」
 そう言って桂木が空を見上げると太陽は大分西に傾いていた。
 迂回させると、確実に林の中で一夜を明かすことになるだろう。なによりキメラとの遭遇戦に思った以上にてこずった。
「賛成。あんなのとやり合うくらいなら、林ン中で一晩明かす方がいい」
 布野が桂木の意見に賛同すると、ソリスとアリカもそれに頷く。
 あれはただ大きいだけではなくキメラである。あの鋭そうな牙と爪以外にどんな能力を持っているか分からない。
 あくまで護衛対象の安全を優先するのがプロの仕事と言うものである。

■少女とその思いと
 焚き火の中の薪がぱちりと爆ぜる。
 夜中にふと目が覚めた少女は、その明りに誘われるかの様に近寄っていく。
 焚き火の近くにはUNKNOWNと桂木が座っていた。他の人たちは見張りでもしているのだろう。
 自分だけ眠っていた事が少し恥ずかしくなる。
 UNKNOWNは愛華を認めると「眠れないのか?」と声をかけた。
「あ、はい。なんか落ち着かなくて」
「愛華ちゃん初めてだろ? 野宿なんて」
 そう言いながら桂木が愛華にスープの入ったカップを渡す。
「戦場は怖い?」
「‥‥はい」
「だよな。俺だって何度来たって慣れやしねえ――」
 ――いい歳してな。
 そう言って桂木は自嘲するように笑う。
「けどな、怖けりゃ怖いほど娘が待ってるって思うと力が湧いてくるんだ。親ってのは子供の為に幾らでも強くなれるんだぜ?」
 焚き火を見つめながら言う桂木の言葉を、愛華は黙って聞いていた。
 そして桂木は視線を上げ、愛華を見て続ける。
「親父さんも愛華ちゃんの事を心の支えにしてたんじゃねえかなあ」
 その時の桂木の顔はとても優しい、父の顔をしていた。
「おっと、交代の時間か。んじゃまたな、愛華ちゃん」
 そう言って桂木は立ちあがると、入れ違いで夜の闇の中からソリスが戻ってくる。
「愛華」
 ソリスに気を取られていた愛華に、UNKNOWNが声をかけてきた。
「そのカメラのフィルムは現像したのかね?」
「いえ、私にはどうすればいいか分からなくて‥‥」
 今はデジカメが主体で、父のカメラの様にフィルムで撮影するタイプは減ってきており、手軽に現像できる写真店も少なかったのだ。
「貸してもらえるかな?」
 愛華が「?」と思いつつも手渡すと、黒衣の男はカメラを少し眺めた後、手慣れた手つきでカメラからフィルムを取り出す。
「明日までには現像しておこう。しばらくフィルムを借りるよ?」
 そう言ってUNKNOWNは暗闇の奥へと消える。
 立ったまま男が消えた夜の闇の先を見つめる愛華に、ソリスが微笑みながら「座ったら?」と言う。愛華は慌ててソリスの向かいに座った。
 少しの沈黙。焚き火が爆ぜる音だけが夜の静寂に響いた。
 ややあって、ソリスが口を開く。
「私の大事だった人も、戦場でカメラマンをやってたんです」
 その一言に焚き火を見つめていた愛華が顔を上げ、向かいに座るソリスを見た。ソリスは過去に思いを馳せるかの様に言葉を紡ぐ。
 愛華に何かを伝えるかのように。
「とても過酷で‥‥でも、どこか楽しそうだった」
 ぱちり。と焚き火が爆ぜる。
「どうしてやってるの? 私がそう聞くと、当たり前の事をしてるだけって、そう言うんです。分かりやすい方法で、沢山の人に伝えたいんだって‥‥」
 炎の揺らめきが暖かな光でソリスの顔を照らす。ソリスはじっとその炎を見つめ柔らかく笑っていた。
「その人は‥‥」
 その問いには答えず、ソリスは星空を見上げて続けた。
「あの人が伝えたかったのは景色だけじゃなくって‥‥そこに居る人の思いも、だったんだと思ってるんです。私は」
「‥‥人の思い」
 呟くように愛華はソリスの言葉を繰り返す。
「あなたのお父さんは何を伝えたかったんでしょうね」

 父の死んだ場所に行けば、その答えはあるのだろうか。

■父の思い、娘の思い
 丘陵地帯は心地よい風が吹いていた。
 昨日のキメラとの戦いが嘘のように、牧歌的な風景が目の前に広がる。
「ん。大丈夫そうだな」
 先行して偵察に出ていた布野が戻ってきて皆に伝える。
 あの丘の上で父は死んだ。そう思うと愛華の足は意思とは関係なく駆け出していた。
 大きかった父の背中。ずっとずっと追いかけていた背中。それはもう少女を導いてはくれない。だから、だからこそ少女はここまでやって来た。やって来たかった。
 ――父の思いを知る為に。
「っ」
 足がもつれ転びそうになる。いつの間にか追いついてきていたミコトがそれを支えてくれた。
「最後の最後で怪我させちゃ面目が保てないからね」
 にこりと笑うミコト。恥ずかしさに愛華は、顔を隠す様に帽子を深く被り直す。
 気を取り直して丘の上を目指す。一歩一歩確実に、父の元へと歩みを進める。
 丘を登りきると視界に鮮やかな緑の絨毯が広がった。草の匂い、太陽の光、鳥たちのさえずり。その全てが愛華の五感を刺激する。
 不意に強い風が愛華の顔を叩き、被っていた帽子を攫って行く。
 帽子の中に入れていた長い髪が晒されて風になびいた。
「‥‥お父さんの見ていたものは分かった?」
 その声に振り向くとアリカが立っていた。
「‥‥自分の目と、そのカメラを通して貴女に伝えようとした事があると思うわ。それをどう受け止め、今後どうするか‥‥その先は貴女自身が考える事よ‥‥」
 アリカの言葉に、愛華はどこか晴れやかな顔で「はい」と応える。
 意外な程晴れやかな愛華の表情にアリカは目を丸くした。
「もう見つけたという顔をしているな」
 どこかに飛ばされてしまった愛華の帽子を片手に、黒衣の男――UNKNOWNは愛華の傍まで歩いてくる。
 そして愛華に帽子を被せ、そしてコートのポケットから数枚の写真を出す。
「彼が何を残したか。残したかったのか――今の君なら見えるのではないかね?」
 手渡された写真を見て少女はこくりと頷く。
 写真には戦場で戦う傭兵達の姿。そして父と、その知り合いであろう傭兵達が集まり笑顔を向ける姿が映っていた。
「殆どの一般人は戦場の現実を、何も知らない。その場にいなければわからない」
 丘の上の愛華の隣に歩いてきて、広がる光景を見つめながら神楽が言う。
「それを伝えるのが、弾が飛んでるとこでもカメラ抱えて突っ込んで来るカメラマン」
「ほんと‥‥馬鹿ですよね、お父さん」
 愛華は苦笑しながら写真をポケットにしまい込み、カメラを構えてファインダー越しに傭兵達を見た。
「でも‥‥私も馬鹿だったみたいです」
 血は争えない。こんな人たちがいる事を知って、こんなものを見せられて、魅せられない筈がない。
 自然と笑みがこぼれていた。
「そうだ愛華ちゃん。記念撮影なんかどうよ?」
「はい! あ、でも、フィルムが‥‥」
 陽兵の提案に乗ろうと思ったが、代りのフィルムを持っていない事に気づく。
 残念そうに愛華がため息を吐くと、神楽が手を差し出した。その手の中には一本のフィルムが乗っている。
「そのカメラで、あなたはどうするの?」
 愛華はフィルムを受け取り、慣れない手つきでカメラにフィルムを収める。
 そして、カメラを傭兵達に向けてシャッターを切った。
「こうしたいです」
 ファインダーから顔を離し、にこやかに言う。
 不意に撮られたせいで、撮り直しを要求してくる陽兵をまぁまぁと止めるミコト。驚いた表情を見せるアリカとソリス。どこか満足そうに笑みを浮かべる神楽とUNKNOWN。苦笑して見守る桂木と布野。

 初めて出会った傭兵が、この人たちで良かった。

 心の底からそう思う。

 もう、導いてくれる父はいないけれど。

 自分の歩むべき道を、私は見つけられたような気がした――。