タイトル:傭兵少女とダンジョンマスター:氷魚

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/05/25 21:08

●オープニング本文


 ――‥‥‥‥。

 天下の公道で耳鳴りの様な響きが遠くから聞えていた。
 その発生源は振り返るまでもなく聴き覚えのある音。というか声。それに伴う騒音。
 ドタバタドタバタドタバタっ。
「ママママママママママママママママッママママママっ!!」
 溜息をついて振りかえると、猪の様に駆け寄ってくる娘――瑠璃の姿があった。
 一般の人がその直撃を喰らえば、牛の角を受けたマタドールよろしく病院送りになる事だろう。
 射程距離まで近づいてきた瑠璃は、その勢いのまま両手を広げて私へと飛び込んでくる。
 無防備に私へと向けられた腕をとり、瑠璃が飛びかかって来た勢いを生かして背負い投げの要領でぶん投げておく。

 どずん。

 重たい響きをさせて仰向けに投げられた恰好のまま、瑠璃はにこりと笑って「ママ。たーとるわーむってどうやって倒すの?」とか聞いてきた。生身で倒すつもりか。
「あんたにゃ無理よ」
「えー」
「えーじゃないの」
 そう言って私は、仰向けに転がったままの瑠璃を、腰に手を当てた格好で諌める。
 それ以前に、今の投げ殆ど効いてないな。躾の仕方を考えないと行けないわね。
 それはそれとして。
「で、なんでそんな事思ったの?」
「ペットに出来な――」
「出来ないわよ。ってかアンタ、タートルワームがどんなのか知ってるの?」

 ‥‥‥‥‥‥?

 いつもの様に首を傾げる瑠璃である。
 ほんとこの子は。馬鹿なんだから。一体誰に似たのだか。
 私はもう一度大きな溜息をついて瑠璃を立ちあがらせ、服に付いた砂を払ってやる。
「ママ!!」
「そんな大きな声で言わなくても聞こえるわよ」
「んじゃ、次は何をしたらいい? どうしたらママを守れるくらい強くなれる?」
 私の顔を覗き込みながら無邪気に問いかけてくる。
 まったく。無邪気って言うのは罪よね。なんて思う子供思いを演じる自分に酔いつつ、私はカバンから一枚の紙を手渡す。
「これ、受けてきなさい」
「これ?」
「そう、それ」
 渡された紙を広げて、真剣な顔で眺める瑠璃にそう告げる。
 その紙の一番上には依頼の内容が書かれて居た。

『とあるダンジョンを攻略して欲しい』

 と、言うものだ。
 ダンジョン。ゲーム等でしか聞き慣れないようなその単語は、妙に私の目を引いた。
 依頼内容に寄るとダンジョン内には、幾つかのトラップが仕掛けられておりそのトラップを潜り抜け、ゴールまで辿り着いて貰いたい。そんな内容のものだったと思う。
 オペレーター曰く、既に報酬は払い込まれており、成功失敗如何に関わらず報酬は支払われると言う。
 まるで自分の作ったダンジョンを攻略してみろ。と言う様な挑戦的なものだったが、そのトラップとやらをくぐり抜ける為に頭を使わせるのも、この子の経験になるだろう。
「どう? 頑張れる?」
「うん、受けてくるっ!!」
 言うが早いか、瑠璃はULTの出張所に向かって走り出した。
 機関車みたいな娘だな‥‥我が娘ながら。

 ‥‥まさか、罠を避けたりしないで、踏みつぶしてくるんじゃないでしょうね。

 そんな事を思いながらも、なる様になるかと私は苦笑して娘を見送った――。

●参加者一覧

遠倉 雨音(gb0338
24歳・♀・JG
楠木 翠(gb5708
18歳・♀・HA
知世(gb9614
15歳・♀・FC
セラ(gc2672
10歳・♀・GD
鹿島 行幹(gc4977
16歳・♂・GP
キロ(gc5348
10歳・♀・GD
ジグ・ゼリア(gc6512
17歳・♂・SF
アルフェル(gc6791
16歳・♀・HA

●リプレイ本文


 ――ふむ、何でダンジョンなんか作ったんでしょう

 楠木 翠(gb5708)は目的の洞窟へ向かいながら、ぼんやりとそんな事を思っていた。
 翠の前には瑠璃とセラ(gc2672)が楽しそうにお喋りしている。
「またいっしょだねうれしいな♪」
「わたしも〜♪ だんじょんだんじょん楽しいな〜♪」
「楽しいな〜♪」
 歌? のようなものを二人で口ずさみながら手をつないで歩く。
 身長差があるせいか、ぱっと見では同年代に見えない。
「ダンジョン‥‥ですか。わざわざ何のためにつくったんでしょうね‥‥?」
「わざわざこんなけったいなもん造って『攻略してみろ』って‥‥一体全体何がしたかったのやら」
 翠と同じことを思っていたのか、翠の隣に立って腕組みをしながら首を傾げる知世(gb9614)とジグ・ゼリア(gc6512)。
 ジグが魔術師の格好をしている所をみると、口調とは裏腹に結構やる気があるのではないだろうか。遠倉 雨音(gb0338)はガンマンの格好をしている自分と重ね合わせて苦笑しながら応える。
「確かに奇妙な依頼ではありますが、油断せず取り掛かるとしましょう」。
「ダンジョン攻略ー! ゲームで何度もやったことあるから任せるのじゃ! とり。えず空腹対策は基本じゃな! うん」
 えへん。と胸を張って言うキロ(gc5348)に、「おおお」と尊敬のまなざしを向ける瑠璃。
「空腹対策にはこれだー! セラの手作りなんだから♪」
 そう言ってセラがとりだした『もの』に、キロと瑠璃は絶叫にも近い歓声を上げる。
「な、なんじゃ? なんじゃ? 何なんじゃこれは?」
「バナナキャラメルマフィンです♪ 食べて元気いっぱいがんばろ〜!」
「うおおおおおおおおおっ!」
 拳を振り上げ喜ぶキロ。その隣では新装備釘バットを振り回して大興奮の瑠璃。
 危ない危ない。びゅんびゅん。風を切る音がする。
 完全にピクニック気分のそんな子供たちに苦笑しながら、一行は目的の場所へと到着した。
(トラップ付のダンジョン――まさか、リアルで攻略する羽目になるとはなぁ)
 目の前にぽっかりと口を開けた洞窟を目の前にして、「まぁ、しっかり者のアルフェルもいるし、大丈夫か」などと思い、鹿島 行幹(gc4977)は恋人のアルフェル(gc6791)の方を振り向く。
 するとアルフェルは顔を蒼白にして小さく震えていた。
「って、アルフェル!?」
 全然大丈夫じゃなかった。
 泣きそうな瞳で「‥‥行幹様‥‥」と、暗所閉所が苦手なアルフェルは行幹を見返してくる。
 行幹は少し困ったような顔をした後、恋人を安心させる為に微笑み優しく手を握る。
「アルフェル。大丈夫。俺がついてるから」
「‥‥ほ、本当、ですね‥‥?」
 見つめあう二人。そしてそれをしゃがんで覗き込む子供三人。
「仲いーんだねぇ」
「見てるとドキドキする〜」
「いいのぅ。あやかりたいのぅ」
 ませたお子様達を雨音、ジグ、翠がそれぞれ「邪魔しないの」と引きずって行った。

 そんなのどかな昼下がり。

●Hanged man
 最初の部屋は入り口の印象と違い、石造りの部屋になっていた。
 特にめぼしいものはなく、その部屋から続く二つの道が傭兵達を待ち構えている。
「さて、それではお気をつけて」
「雨音さんも」
 雨音の言葉に知世はにっこりと笑って応える。
 分岐があった場合の事を考え、事前に決めていた班に分かれてダンジョンの探索に取り掛かる。
「じゃあ、ある程度探索したらまたここに。ダンジョンの全体像が分かれば、これを作った人物の目的が分かるかもしれませんし」
 紙とペンを持ち、マッピングに備えた翠がそう提案する。
 このダンジョンを作った人物の意図については、恐らく‥‥瑠璃を除く‥‥キロも除く? 全員の思うところかもしれない。
「まぁ、いい。さっさと行ってクリアして帰ろうじゃないか! そうそうトラップなんかひっかかるワケねーだろ!」
「あぁ、ちなみに――」
 通路に向かって先陣を切ったジグにセラが声を掛けた時、ジグの足元でなんか音がした。

 がしょん。ぷらーんぷらーん。

 ‥‥‥‥

 沈黙。その後、その場に居る全員がジグを『見上げて』いた。
「――半歩先に罠があるから気をつけるといい」
 セラは先程までの無邪気さとは打って変わった大人びた表情で、言葉の続きを口にした。その顔には苦笑を浮かべている。
「‥‥なるほど、逆さ吊りってこういう気分か。皆、油断しちゃだめだぜ?」
 トラップに掛かり、天井から逆さ吊りにされたジグは、真下できゃっきゃとはしゃぐ瑠璃に、その日最高の笑顔でそう言った。


 暗い通路の中を一行は進む。
 先頭を進む知世のランタンが、寂しげにゆらりゆらりと闇の中を揺れる。

 どーん。どかーん。ぼぼーん。

 ‥‥揺れる‥‥?
「きゃはははははは。トラップじゃー!」
「ちょっとキロさんっ! 走り回らっ、うあぁあっ」
 キロが走り回る度に、通路の壁から矢が飛び出してきたり、落とし穴が開く。
 しかし、その罠は幸運にもキロには当たらず、不運にも慎重に進もうとしている知世を襲う。
 疾風怒濤といえる勢いで走るキロを追いかける一行。やや急な坂をかなりのスピードで駆け抜ける。

 がこん。

 なんか音がした。
「キロさぁっぁぁん! なんか音がしたぁっぁぁぁ!?」
「ち、知世さんっ! 後ろ後ろっ!」
「え!?」
 ごとん。ごろごろごろ。でっかい鉄球がそのやや急な坂を転がり落ちてくる。
「ちょ、ちょちょちょ、洒落にならねっすよぉぉっ!?」
「ま、待って‥‥くださぃぃ」
「アルフェルぅっ、走れっ!」
「きゃはははははっは」
 なんというカオス。駆け抜けていく途中で、なんか聞いていたキメラっぽいのがいたかもしれない。その脇を駆け抜けた後、後ろの方で何かが轢かれた様な音がしたかもしれない。
「なんか轢かれたみたいっすよぉぉっ!?」
「気にしちゃ駄目っ! 走って走って!」
 普段はこんなに声を張り上げることのない知世の声が、暗いダンジョン内に響いた――。

「なかなかスリル満点じゃったな〜」
 満足そうに笑うキロの周りに、ほかの三人は座り込んで一息ついていた。
「ちょ、ちょっと‥‥休憩しねっすか‥‥」
「あぁ‥‥そうだね、流石に僕も疲れた‥‥」
 その疲れは肉体的な疲れよりも精神的な物の方が大きいかもしれない。
 知世は座り込みながら、ランタンをかざして部屋の中を見回す。
「あれ? ここで終わりなんでしょうか?」
「あ、ほんと‥‥ですね」
 知世の呟きにアルフェルの同じように首を廻らせると、この部屋は行き止まりになっていた。
「なんじゃ、もう終わりかの?」
「隠し扉でもあるんじゃねっすか?」
「それじゃあ、探してみましょうか」
 休憩も程々に、皆は部屋の中の捜索を始めた。
「本当は10フィートの棒とか用意したかったんすけどね」
 そんな事を言いながら、ゴルフクラブで壁をこつんこつんと調べていく行幹に、ぴったりとくっついて進むアルフェル。
「‥‥ぁ、この先‥‥います」
「え?」
 バイブレーションセンサーを発動させたアルフェル言葉に、行幹はそちらを見るが目の前は石造りの壁しかない。
「あの壁の向こう‥‥か?」
「‥‥多分」
 ランタンを掲げてその壁に足早に向かう行幹を、慌ててそれを追うアルフェルの足元でかちり。と何か音がした。
 同時に――

 ――ばたた。

 そんな音を立てて、アルフェルに向かって天井から何かが落ちてくる。
 冷たく、嫌な匂いを伴ったぬるぬると蠢くそれは――まるで、暗がりを好む足のたくさんある虫を彷彿とさせた。
「ひっ‥‥いやあぁぁあっ!」
 恋人の悲鳴に行幹が振り返ると、ランタンの光に照らされた――蒟蒻と戯れるアルフェルの姿! 混乱した彼女は行幹の胸へと飛び込んでくる。
「アルフェル! た、ただの蒟蒻だ、問題ないっ!」
「はぇ‥‥!? ご、ごめん‥‥なさい‥‥」
 真っ赤になりながら彼女を支える行幹は、気にするなと笑顔を向ける。
「ふむ。この先かの?」
 アルフェルが指示した壁の前に腕組みをしたキロが仁王立ちしていた。
「あ、キロさんっ! ちょっと待っ‥‥」
「どーん!」
 と、そんな掛け声とともに壁に向かってデカラビアを繰り出す。
 轟音と共に目の前の壁は崩れ、現れたのは広い空間だった。
 そして、その奥には赤く光る二つの瞳が、キロ達を睨みつけていた――。


「だんじょん〜、おたから〜、ぼーけんやろう〜。来い来いキメラ〜、やっつけるぞ〜♪」
 暗い通路を瑠璃の歌声が響く。その右手にはセラから借りた激熱と釘バット、左手にはキロから借りたガンズトンファーが握られている。
 歌いながらその手をぶんぶん振り回すもんだから、危ないったらありゃしない。
「あ、ほら。瑠璃さん危ないですよ」
 雨音がずんずん進む瑠璃の手首を取って注意を促す。
 その足元にはスイッチらしきものが、巧みに隠されていた。
「おぉ〜、スイッチだぁ!」
「これをこうして、こうすれば‥‥はい、OKです」
 そういって、手際良く雨音はトラップを解除する。
「ちゃんと注意して進まないといけませんよ? ね、ジグさん?」
「あ、あはは、そ、そうだな」
 先程の失態がよぎり、雨音のセリフに苦笑で応えるジグ。
「それにしても意外に広いダンジョンですね。それに子供だましのトラップに紛れて、殺意の高いものが混ざってますし‥‥」
 翠の呟きにセラが頷きを返す。傭兵であればそれ程脅威では無いにしても、たまに混ざっている危険な罠は、一般人であれば容易に命を奪われるレベルのものだ。
「こうなって来ると、このダンジョンを作った当人の意図に興味が湧いてくるね」
「きっと、私たちを鍛えるためだよ!」
 手を挙げ‥‥釘バットを振り上げながら言う瑠璃の意外な予想に、セラは一瞬呆気に取られるが、すぐ口元に微笑を浮かべ「なるほど、存外真実かもしれないね」等と口にした。
その時、ダンジョンが大きく揺れた。揺れが収まった後、翠は辺りを確認して呟く。
「‥‥地震でしょうか」
「いや、奥からだ――行こう」
 トラップに注意しながら奥へ急ぐ。奥に近付くにつれて剣戟や、銃撃の音が聞こえて来た。
「戦ってる!」
 瑠璃はそう口にすると奥へと駆け出してゆくが、「うあぁぁぁぁぁ!」と直ぐに戻って来た。
「気持ち悪いの一杯いた! おっきいのもいた! 皆も居た!」
 ぴょんぴょん跳ねながら報告する瑠璃に、雨音は「なるほど、それがボスですか‥‥」と呟き、気を引き締めて駆け出した――。


 壁を壊すとゾンビの群れが部屋に居た。
 そのゾンビを従えるように、一際大きいゾンビが赤い瞳をこちらに向ける。
「わわっ!? 何か気持ち悪いのが出てきたっ!」
「何つーか‥‥ちょっとしたホラーだなっ」
 赤い瞳のゾンビは周囲に居たゾンビを薙ぎ払いながら、意外にも俊敏な動きで傭兵達に迫った。
「敵も味方もない様じゃなぁっ」
 周りのゾンビを蹴散らしながら、飛び散る肉片に顔をしかめるキロ。知世と行幹に迫った大ゾンビを仁王咆哮で引きつける。
 その爪をデカラビアで受けると、実にみずみずしい腐肉が飛び散った。
「飛び散る腐肉! 充満する臭気! サイアクじゃー」
 ぼやきながら距離をとり、小銃で大ゾンビへと弾丸をばら撒くが、大ゾンビは素早く他のゾンビの陰に隠れ避ける。
 そしてそのまま大ゾンビはアルフェルへと目標を変えた。
「させる、かよぉっ!」
 瞬天速でゾンビとアルフェルの間に行幹が割り込む。
 大ゾンビの爪が、割り込んだ行幹の胸へと吸い込まれるように伸びたその時、行幹の周囲をキラキラしたものが舞っていた――。

 ――微粒子化した錬力の壁だ、硬いよ。

 少女の声。
 いつの間にかアルフェルの直ぐ傍に、微笑を浮かべたセラが立っていた。
 セラの守護神に弾かれ体勢を崩した大ゾンビの顔に、翠が見事なフォームの飛び蹴りを決め、そして蹴った反動で宙を舞い距離をとる。
「知世さん!」
「任せて!」
 宙を舞いながらの翠の声に応え、パイルスピアを構えて突貫する。スピアはゾンビのやわらかい肉体を容易く貫き、その勢いのまま壁に磔にした。
「ルリ! 背後は任された! 全力で叩き込め!」
「いっくぞぉぉぉっぅ!!」
 セラの激励を背に受けて、瑠璃は猛然と‥‥猪の様にゾンビの間を駆け抜ける。
 磔にされた大ゾンビに向かって拳とトンファーを振り上げた。
「くらぇぇっっ! 必殺! ママの拳!」

 ごちん。

 ‥‥‥‥あれ? 効いてなさそう。

「がんずとんふぁー!」

 ‥‥‥‥?

 武器の名前を叫んだあと、右手に握ったトンファーを眺めて首を傾げた。
 あぁ、なるほど。瑠璃はきっとトンファーって、使い方よくわかってない。名前はカッコいいなぁとは思っているだろう。
 頭の上に「?」を浮かべながら、トンファーを押しつ眺めつしている瑠璃を、磔にされたままの大ゾンビが瑠璃に向かって腕を振り上げた――。

 ――瞬間。大ゾンビの頭が弾ける。

「駄目ですよ? 敵を前によそ見しちゃ」
 雨音はそう言って笑った――。

●かくせいって何? おいしいの?
 残ったゾンビを一掃し終えた一行は、ダンジョンの外で一息ついていた。
「お疲れ様でした」
 そう言う雨音に頭を撫でられると、瑠璃は気持ちよさそうに目を瞑る。
「でも‥‥そろそろ自分用の、ちゃんとしたSES搭載の武器を手に入れないと。自分に合う武器を見つけるのも傭兵として大事なお仕事ですよ?」
「うん! 分かった!」
 いつものように大きな声で瑠璃は応える。
 ジグに貰ったコーヒー牛乳を笑顔で空にした瑠璃に、翠は今回の事で気になった事を口にした。
「瑠璃さん‥‥覚醒の仕方って分かります?」

 ‥‥かくせい?

 ぽかーんとその言葉を繰り返す瑠璃に、集まった傭兵達が呆然とする番だった。
 この子は能力の遣い方を良く分かっていないらしい。
「ま、まぁ‥‥そこから勉強だな」
「おー! べんきょーするよー!」
 ため息交じりに漏らしたジグの言葉に、能天気な瑠璃の返事が辺りに響いた――。

●とあるオペレーター達のやりとり
「先輩!」
「なに?」
「あの依頼って、結局何だったんですか?」
「あの依頼?」
「ダンジョンの」
「ああ、あれ? 何って何が?」
「依頼元不明なんですよね?」
「そんな事ないわよ」
「え?」
「あの依頼って二度目なの」
「同じ依頼、ですか?」
「そう。以前その依頼をクリアした傭兵さんが、自分の初依頼の思い出の場所にキメラが住み着くのは許せないって」
「へぇ‥‥分からなくもありませんかね?」
 と言いつつもどこか釈然としない顔をする後輩。
 本当は洞窟のキメラ退治と言う単純な依頼だったが、その人物の希望で依頼書の文面は当時の物をそのまま使った。
 だから、今回振り込まれる報酬はキメラ退治に対する報酬となる。
「あと、娘にはちょうどいいって」
 そう言って悪戯っぽく笑った彼女を思い出す。依頼書を持って「そうそう、トラップも増やさないとね」と楽しげに口にしていたのは、きっと冗談だろう。