タイトル:追跡マスター:緋村豪

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/02/17 03:12

●オープニング本文


「バグア、ですか」
 思わず間の抜けた返事をしてしまった。あまりにも唐突すぎる話だったとはいえ、応対で口に出すような返事ではなかったかもしれない。そう思いつつ目の前の客を改めて見てみると、表情は真剣そのもので冗談を言っている雰囲気ではない。
「ええ、その通りです」
 ある程度は予想していたのだろうか。UPCから派遣された調査員と名乗った男は、表情を変えることなくうなずいた。
 応対していた男は小さく溜息をついた。
 寂れた貸倉庫を管理している小さな事務所だった。2人がいるのはパーティションで区切られただけの応接スペースで、ついたての向こうからはありふれたテレビドラマの音声が聞こえてくる。それなりに年を食った女性の事務員が1人でヒマをもてあましているのだ。
「それで、えっと、その、具体的にはどういったご用件で?」
 知らなかったとはいえ、バグア派企業に倉庫を一晩貸してしまった。それを理由にわざわざ調査員が出向いてきたのだとすると、まったくお咎め無しというわけではないのだろう。男の声に探るような色が出てしまうのも仕方がない。
「誤解しないで頂きたいのですが、私は処分や処罰を持ってきたわけじゃないんです。そちらに荷を預けたバグア派企業の実態を調査しているだけでして」
「はぁ」
 ウソか本当かはわからないが、どうやら今すぐどうこうという話ではないらしい。言葉の意味を理解した男から、あっという間に気が抜けていく。かわりにわき上がってくるのは、なんだか面倒なことに巻き込まれてしまったぞという警戒心だ。
 もちろんバグアは自分の生活を脅かす敵であるとは十分に理解しているし、誰かがそれと戦ってくれるというなら諸手をあげて歓迎する。しかし、自分が戦うとなると話は別だ。
「もちろん、あなた方に戦っていただく、などということはありません。そちらにかかる危険や被害は最小限にするべく、こちらも努力しますので、その点はご安心を」
「はぁ」
 社交辞令のようなものだ。額面通りに受け取るようなことはしない。男のいぶかしむ視線が変わることはなかったが、調査員は気にせず話を続ける。
「やって頂きたいのはですね。こちらのリストに載っている社名を名乗るところから仕事の依頼などが来た場合、我々に知らせていただきたいのですよ。その後は我々にすべてお任せください」
「リストというのは」
「こちらがそうなのですが。バグア派企業が仕事を依頼する際によく使うものなんです。どれも実態のないものばかりで、なかなか尻尾をつかませてくれんのですよ」
「はぁ。それでこうやって網をはって待つということですか」
「ええ。お願い出来ませんか」
 言葉尻は協力の要請の体を装っているが、実質は強制だった。言葉や態度の端々から、断ればどうなるかわからないぞと脅しているように受け取れる。
 男は再び小さく溜息をつく。
「ウチが面倒なことになったりはしないんですよね?」
「それはもちろん」
「わかりました。そちらに連絡するだけで良いんですよね」
「ええ。よろしくお願いします」
 ふと顔を上げた男は顔をしかめていた。応接スペースの入り口から、事務員が顔をのぞかせていたのだ。目で顔を引っ込めろと睨みつけるが、事務員はまったく気にしたそぶりも見せずに何か言いたそうにしている。男は思わず出そうになった溜息を奥歯でかみ殺した。
「どうした」
「社長。仕事の依頼とかで連絡が入ってますけど」
 どうやら応対の話を聞いていたらしい。それに関連することだからと割り込んできたようだ。
「どこから?」
「ええと」
 手に持っていたメモ用紙に目を落として、事務員は社名を読み上げる。
 社名を聞いた男と調査員は、顔を見合わせていた。
 社員が伝えた社名は、リストの上から3番目に載っているものだった。

●参加者一覧

黒川丈一朗(ga0776
31歳・♂・GP
瞳 豹雅(ga4592
20歳・♀・GP
山崎・恵太郎(gb1902
20歳・♂・HD
占部 鶯歌(gb2532
22歳・♀・DF
ドリル(gb2538
23歳・♀・DG
ヴィンセント・ライザス(gb2625
20歳・♂・ER
澄野・絣(gb3855
20歳・♀・JG
橘川 海(gb4179
18歳・♀・HD

●リプレイ本文

 シートをかけたAU−KVに身をもたせかけていたドリル(gb2538)が、広げていた地図から顔を上げた。
 視線の先には、倉庫から出てきた中型トラックの姿があった。ポケットから携帯電話を取り出したドリルには気も止めず、目の前を走り抜けていく。荷台には大きなコンテナが積み込まれているようだったが、濃紺のシートがかけられていて外からではわからない。
「今、出発したよ。県道3号へ向かうみたい。銀河重工の中型トラックで、色は暗い濃紺。ナンバーは‥‥」
 一通りの報告を終えたドリルは、トラックが見えなくなったことを確認してから、AU−KVにかけていたシートをはぎ取った。地図や携帯電話、シートを手早くまとめると、エンジンを始動させる。
「さあ、獲物の追跡だよ」
 アクセルを握りこむと、リンドヴルムは滑るように走り出した。

「しかし何で連中、こんな手間のかかる事をやっている。捕まえて洗脳するのがバグアの手口じゃなかったのか?」
 黒川丈一朗(ga0776)はハンドルを握ったまま、前方を見つめていた。フロントガラスの向こう側には、大きな荷を積んだ中型トラックの後ろ姿が見える。
「突然どうした」
 ヴィンセント・ライザス(gb2625)は興味なさそうに手元の地図に視線を注いでいる。
「どうもあのトラックの運転手、周りをまるで警戒していないようでな」
「そのようだな。当初の予定とは少々変わったかもしれんが、その分仕事は楽になった」
 通じているようで通じていない会話に、黒川は1人で苦笑する。
 様々な推測が脳裏をよぎるが、そのどれもに決め手が欠けている。結局は、成り行きを見守るしかないのだろう。
「楽になったとはいえ、念には念を入れておいた方が良いだろう。そろそろ交代しておこう」
「わかった」
 黒川がうなずくと、ヴィンセントは携帯電話を取り出した。

「わっ、ねね、これ見てこれ! キメラの肉を使った名物料理だって!」
「って、さすがに運転しながらじゃ見られませんよ」
「あ、ごめーん」
 橘川海(gb4179)はぺろりと舌を出して、乗り出していた身をシートに戻した。
 澄野絣(gb3855)の運転する車で、街の中を流していた。目標のトラックを直に追跡する当番を終えて、幹線道路から少し離れたところにいた。
 橘川はダミー用にと持ってきていた情報誌を広げて、興味津々にのぞき込んでいる。カモフラージュの為だったはずなのに、これでは本当に遊びに来ているようなものだ。澄野は思わず苦笑をもらした。
「で、キメラの肉がどうかしたんですか」
「あ、えっとね」
 胸元に抱え込んだ情報誌を開いて、先ほどまで見ていた記事を出す。
「先月に、キメラの肉を食べさせてくれる専門のお店がオープンしたんだって」
「うーん、どうなんでしょうね、それは」
「でも、キメラの肉を食べること自体はそんなに珍しいことでもないよね」
「確かに時々聞くようにはなりましたが、それが受け入れられるかはまた別の問題でしょう。特に日本では食に神経質ですから。畜産の飼料に遺伝子組み換えの作物を使うというだけで大騒ぎでしたし、キメラなんてその存在自体が遺伝子組み換えの産物ですしね。これが外国になればまた話は変わってくるんでしょうけど」
「そーだねー。でも、それよりなにより、キメラの肉ってホントにおいしいのかなぁ?」
「さぁ、どうなんでしょうね」
 話が一段落したところで、橘川の携帯が着信を告げる。発信者は占部鶯歌(gb2532)だった。どうやら目標は無事に目的地へ着いたらしい。一度合流して、拠点への潜入手順を確認しよう、とのことだった。
 澄野は橘川からその内容を確認すると、車を合流地点へと向けた。

「すいません、遅くなりました」
 山崎恵太郎(gb1902)はAU−KVのエンジンを切ってから降りると、足早に皆の元へ歩いて行く。
 瞳豹雅(ga4592)は返事をする代わりにひとつうなずいた。
「これで全員そろいましたね」
「どうです、中の様子は」
「静かなものです。積み荷を運び込んだ後は、人の出入りもありませんし」
 街のはずれにある、大きな倉庫だった。建物は古くはないが新しくもない。所々に雨跡の汚れが目立つところを見ると、手入れはあまりしていないようだ。周囲には特にこれと言った施設もなかったが、幹線道路のインターチェンジがあった。それ自体はUPC軍によって管理されているものの、切羽詰まった事態が起こらない限りは特別厳しい検閲があるわけではない。ここからなら大きな荷物の運送はさほど難しくないだろう。
 荷物の搬入に使った中型トラックは、倉庫脇の駐車スペースに停められていた。トラックはそれ1台きりで、他には従業員を送迎する為のものらしい小型バスが2台あるだけだった。
「UPCの方には連絡済みです‥‥調査員と制圧部隊は出すと言ってましたが‥‥それに先んじて‥‥脅威の有無を確認しておくようにと‥‥」
「脅威というのは」
「キメラのことだろうな」
「確認する、だけじゃないよね」
「当然だな」
「そうでなければ我々が出張ってきた意味がありませんからね」
「ですよねー」
 会話が途切れると、全員が倉庫に目を向ける。
 倉庫にはまったく動きがない。昼下がりの空は青く澄んでおり、薄くかかった雲が太陽の光に照らされている。大きな遮蔽物もなく広がる土地を見ていると、牧歌的とすら思えてくる。前後の事情を知らなければ、こんな倉庫の中にバグア派の拠点があるとは想像すら出来ないだろう。
「じゃあ、どうやって潜入するか、だが」
「ではまず俺がロケット砲を撃ち込んで」
「いやいや、いきなりそいつは無茶でしょう。まずは中の様子を見ないと」
「‥‥そうですね。表と裏の二手に分かれるというのは‥‥どうでしょう‥‥」
「ふむ、妥当だな。時間もないことだしざっくり分けてしまおう」
 黒川は全員を見回すと顎をひとなでする。
「俺とヴィンセント、それからドラグーンの2人は正面から行こう。残りは裏に回ってくれ」
「あのー」
 全員がうなずく中で、橘川だけが遠慮がちに手を挙げる。
「私も一応ドラグーンなんですけど?」
「ああ。そう言えばそうだったな。すまない、AU−KVがないものだから。裏手に回ってもらえるか」
「わかりましたっ」

 拍子抜けだった。
 倉庫内へ潜入するのに、障害はひとつもなかった。警戒をしている様子はなく、人の影も見あたらない。それどころかセキュリティのひとつすらなかった。外の様子とも相まって、本当にここがバグア派の拠点なのかわからなくなってくる。
「ハズレクジひかされましたかね」
 山崎は、がらんとした倉庫を見渡す。電灯もついておらず、壁の天井近くに小さな窓が並んでいるだけで、薄暗い倉庫の中をほこりっぽい空気が沈んでいる。倉庫とは名ばかりで、中にあってしかるべきものが何も見あたらない。
「気を抜くな。少なくとも倉庫から誰も出てこなかった以上、コンテナを運び込んだ人間がどこかに潜んでいることは確かなんだ」
「そのコンテナも見あたりませんよ」
「そう言えば」
「中に運んだはずなのに中にはない、ということは」
「‥‥地下?」
「それしかないな」
「どこかに出入り口があるはずだ」
 地下への入り口は、探し始めてすぐに見つけることができた。まるっきり警戒というものが感じられないものだから、逆に見落とすところだった。これを狙ってやっているのだとしたら、かなりの策士であると言わざるを得ない。
 ずいぶん深いところまで降りてきた。エレベーターもあったのだが、さすがに潜入するのに使うわけにはいかない。しばらくの間、黙々と階段を下り続けて、ようやく目的の階層に到達した。
 大きな扉は開放されたままになっており、その内側で仁王像よろしく扉の両脇から見下ろしているものがいた。
「こいつは」
「前に出てきたヤツと同じキメラのようだな」
 半身を機械化されたキメラだった。右手の巨大な刃と左腕の機銃が、電灯の光を反射して鈍く光っている。今は眠らされているらしく、目を閉じたまま微動だにしない。
 そのさらに向こう側は、工場になっているらしかった。20人近くはいろうだろうか、作業服に身を包んだ工員たちが、組み立て作業に従事している。組み立てているものは、今も両脇にたたずんでいる機械化キメラだった。
「生産工場ってわけか」
 異様な雰囲気だった。空気そのものは陰気なのに、静かに沈んでいるというわけでもない。工員たちはそれぞれ忙しく動き回り、彼らを指示する大きな声が乱れ飛んでいるが、活気というものがまるで感じられなかった。
「組み立て途中のはまだしも、完成しているこの2体が起きると厄介だな」
「起きる前に片をつけたいところだが」
「では今度こそ、俺のロケット砲で」
「そうだな。そいつを合図に突入するとしよう」
 特に異議が出ることもなく、能力者たちは無言のまま突入の体勢を整える。
 ヴィンセントがロケット砲を構えて、周りに視線を飛ばす。7人の能力者たちは、黙ったままうなずきを返した。

 不意に警報が鳴り止んだ。キメラにロケット砲を撃ち込んだ次の瞬間から、耳障りな音が四方から鳴り響いていたのだが、全てのキメラを打ち倒す頃になってようやく聞こえなくなった。
 戦闘は激しいものだった。最初の2体には有利に戦いを進めていた。だがしばらくして、他のキメラが次々と起動したのだ。組み立て途中で装備が整っていない個体ばかりだったが、さすがに数が多すぎた。しかも能力者だけを狙うわけではなく、周囲の設備や工員たちに対しても攻撃を加えていた。いくらバグア派に属していたとはいえ、人間である以上見捨てるわけにはいかず、彼らを守りながら戦うことを強いられた。もちろん全ての能力者が同じように考えていたわけではない。工員たちに情報源としての価値を見いだしていた者も少なくなかった。
 工場内は未だに雑多な音が聞こえていた。機械の駆動音や電子音、張り巡らされたパイプから吹き出す蒸気、破壊された機械がショートするような音。
 工場の中央付近に生き残った工員たちが集められており、能力者たちがその周囲を取り囲んでいた。工員たちの表情は、一様に暗く沈んでいた。バグアによる洗脳を受けているかは判断出来ないが、少なくとも自己の意志は失っていないように見える。歳は平均して60過ぎと言ったところだろうか。最も下の者でも50は越えている。
「ひとつ、聞かせてもらえませんか」
 山崎が最初に口を開く。
「どうしてこんなことを?」
 誰も応えようとはしない。居心地が悪そうに身じろぎしているところを見ると、聞こえていないわけではなさそうだ。無視を決め込んでいる風でもない。言いたいことはあるが言ってもどうにもならないから言葉を飲み込んでいるといった様子だ。
「あなた方はご自分のされたことをわかっているのでしょう? ここで組み立てられたキメラが何をするのかも」
 澄野の言葉にも無言を返す。互いに顔を見合わせることもせず、ただうつむいている。
 しびれを切らした橘川は、吐き捨てるように言葉を投げつけた。
「『バグアよりも、人間が抱く考えの方が汚く、暗い』そう、私の先生は言っていました。幼かった私にはよく意味がわからなかったけど。貴方がたのやっていることは最低です」
 工員たちの間から、うめきともつかない吐息が漏れる。自分の娘ほどの歳の子にそこまで言われてさすがに堪えたのだろうか。それでも彼らは、言葉を口にすることを頑なに拒んでいるようだった。
 見かねた黒川が口を開こうとした時だった。
「そう、彼らを責めないであげてもらえませんか」
 まったく別の方から声をかけられた。反射的に周囲を見回すが、それらしい影は見あたらない。
「誰だ? どこにいる。姿を見せろ!」
「いやあ、さすがにそれはお断りさせてもらいますよ」
 どうやらスピーカーから聞こえるようだ。近くの通信端末がそれらしい表示をしている。映像も送受信できるようだが、そちらは意図的に切られているようだった。
「お前がこの件の黒幕か」
「まさか。私はただのサラリーマンですよ。まぁ、工場の担当者という意味でしたらそうなのですが」
「さっき彼らを被害者だと言ったな。どういう意味だ?」
「彼らはバグアに住む土地を奪われて避難してきた人達なんですよ。UPCもここへ誘導してきたまでは良かったが、そのまま放り出してしまったんです。まだ働ける歳だからと、生活保護も与えずにね」
「それでバグアの手先に? そんなの間違ってる!」
「だったらお前らは俺たちにのたれ死ねと言うのか!」
 突然の爆発だった。今まで話すことを頑なに拒んでいた工員たちが一斉に呪詛のような言葉を吐き出す。
「何もかも奪われたまま放り出されて、この年では働き口も見つからず、かといって君らのように戦うこともできない!」
「だからってバグアに荷担するなんて!」
「それがどうした! あんたらUPCが見捨てた俺らを、バグアが拾っただけだろうが!」
「そもそも、あんたらがバグアに負けなきゃ俺たちだってこんなことをせずに済んだんだ!」
「高い税金ばかりむしりとるくせに、その上俺たちの命まで差し出せと言うのか!? これじゃUPCだってバグアと変わらねぇよ!」
 工員たちに向けられた目に、能力者たちは思わずぎくりとする。ありとあらゆる負の感情が渦巻いていた。
「ま、ま、ここは穏便に」
 気の抜けた声がスピーカーから漏れる。
「彼らもあなた方個々人に責があるとは思ってませんから。諸悪の根元はバグアです。そうでしょう?」
「何を今さら。白々しい」
「でも本当のことでしょう? バグアさえ来なければ、彼らが家や土地を奪われることも、あなた方が身を危険に晒して戦うこともなかったわけです」
「そしてあなたの会社がバグアに荷担することも?」
 スピーカーの声が、瞳の指摘に答えることはなかった。ただ、喉の奥で忍び笑いを漏らしているのがかすかに聞こえる。
「そうそう、言い忘れていましたが。その工場、今から爆破して埋めますから。さっさと逃げた方が身のためですよ」
 声が言い終わるのとほぼ同時に、先刻とは別の警報が鳴り始めた。赤い回転灯まで回り始める。
「証拠隠滅ってわけか! くそっ」
「仕方ない! 脱出するぞ!」

 空が紅く染まっていた。
 足下から不気味な振動が響いてくる。土地が陥没するほどではなかったが、少なくともあの工場にはもう行けないはずだ。大量の土砂に埋め尽くされて、掘り起こすこともできないだろう。
 能力者たちと一緒に脱出した工員たちは逃げ出そうともせず、魂が抜けたかのように座り込んでいた。
 遠くから、いくつかの車両が近づいてくる音が聞こえてくる。UPCの制圧部隊が到着したのだろう。
 能力者たちは、目の前の倉庫を見上げた。
 入るときには何の感想も抱かなかったのに、今ではそれが暗い口を開いた巨大な怪物のように思えた。