タイトル:ハイブリッドソルジャーマスター:緋村豪

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/29 06:26

●オープニング本文


 工場内の戸締まりを点検した後、正面出入り口から外に出て鍵をかけた。
 大場剛は、鍵を握り込んだままの手をズボンのポケットに突っ込んだ。夜半も近い時間になると、肌寒く感じるようになってきていた。
 夜空を見上げて小さく溜息をついた。
 こんな遅くまで働いているというのに、生活はちっとも楽にならない。もう少し給料が上がらないものか。そう思ってはいても、なかなか口に出せないでいた。
 大場の勤め先は、小さな町工場だった。下請けの下請けみたいなもので、金属の塊から小さな部品を削りだして取引先に納入している零細企業だ。従業員は自分と社長の2人だけ。たまに社長の奥さんが事務を手伝うくらい。会社はもとより、社長夫婦も裕福とはほど遠かった。どうかすると、社長よりたくさん給料をもらってるんじゃないかと思うこともある。
 それでも、職を変えることは考えていなかった。社長の旋盤を操る技術に魅せられていたからだ。職人芸とも言えるその技を見ていると、どうしてこれが評価されないのかと不思議に思えてくる。下請けをするより他に、もっと儲ける方法があるのではないか。しかしどうすればいいかまではわからず、歯がゆい思いもしていた。
 小さな工場の離れに、小さな倉庫兼事務所があった。倉庫とは言ってもほとんど物置と変わらない。ちなみにその2階は、社長夫婦の生活空間だ。
 1日の最後の仕事として、大場は工場の戸締まりと鍵の保管をまかされていた。保管場所はもちろん事務所だ。
「あれ? どうしたんです社長、そんなところで」
 事務所の前で、社長が人の背丈よりも少し高いくらいのコンテナを前に呆然としていた。
「戸締まり終わりましたけど」
「あ、ああ、ご苦労さん」
「なんです、これ」
 社長の立ち位置に回り込んでみると、コンテナの側面が開かれていた。
 中をのぞいた大場は、思わず息を飲んだ。
 自分に関わりのあるものとはかけ離れたものがそこにあった。TV、映画、漫画、小説、あるいはそれらに類するものの中でしか接したことのないもの。
「キメラ、いや、ロボット?」
 そのどちらとも言える。人型を模してはいるが、それとは似ても似つかなかった。目を引くのは、右腕につけられた巨大な刃、左腕には機銃。背中にはジェットエンジンのようなノズルもついていたし、下半身は機械類で覆われている。上半身はところどころがむき出しになっており、紫色の肌や尖った目尻と耳がうかがえる。
 生き物かどうかも疑わしいそれは、コンテナの中で微動だにせず突っ立っている。眠らされているのか、それとも本当に生きていないのか。
「なんなんすかこれ。模型、とかじゃないですよね」
「取引先の会社から送られてきたんだよ。困ったことになったら使えって」
「取引先って、バグア軍だったんすか!?」
「バグア派の支援企業かもしれん。が、それより問題なのは、知らなかったとはいえ、ウチがそこに納品していたってことだ」
「どういうことです?」
「ウチも支援企業に指定されるかもしれんということだ」
「そんなむちゃくちゃな」
 こんな小さな会社がUPC軍ににらまれでもしたら、ひとたまりもないだろう。ただでさえ利益も少ないというのに。会社の存続以上に、自分たちの身がどうなるか見当もつかない。
「しらばっくれる、ってわけには、いかないっすよね」
「あそこの鉄板を固定してるボルトを見てみろ」
「あれ、ウチから納品したやつですか」
「他にもバラせばあちこちから出てくるはずだ」
「黙ったまま放置ってのは」
「ここを見てみろ」
 社長の示したところには、制御板らしきものが設置してあった。わかりやすく大きな赤いスイッチと、今この瞬間もカウントダウンを続けている小さなモニター。
「この数字って」
「さぁな。爆弾か、それともコイツが起きるのか」
「八方ふさがりっすね」
 2人の口から同時に溜息が漏れた。

「先ほど、善意の市民と名乗る者から、通報があった」
 ブリーフィングルームに入って来るなり、士官は本題を切り出した。よほど緊急の話らしい。
「街中の工場が部品を作ってバグア派企業に納入していたらしい。その見返りとして、キメラが入っていると見られるコンテナを受け取ったようだ」
 室内に能力者たちのざわめきが生まれる。確かに、そんなものが街中で放たれでもしたら大惨事を引き起こすだろう。
「企業や背後関係、通報者の身元の調査確認も行うが、それに先んじてキメラの処理だけは確実にこなしておかなければならない。急な話で申し訳ないが、諸君にはその処理を担当してもらう。キメラの外見能力その他に関しては、判明次第、随時諸君らの手元に届ける手はずになっている。以上、何か質問は?」

●参加者一覧

黒川丈一朗(ga0776
31歳・♂・GP
高村・綺羅(ga2052
18歳・♀・GP
ベーオウルフ(ga3640
25歳・♂・PN
水無月 魔諭邏(ga4928
20歳・♀・AA
堺・清四郎(gb3564
24歳・♂・AA
東雲 殺女(gb3696
19歳・♀・GP
アレックス(gb3735
20歳・♂・HD
ダグラス・カーター(gb3833
18歳・♂・DG

●リプレイ本文

「ごめんください」
 黒川丈一朗(ga0776)は、開け放たれていた工場の正面出入り口から大きな声をかけた。
 周囲は耳障りな音で満たされていた。金属と金属を巨大な力で叩きつけあわせるような音。電動カッターが金属に押し当てられる音。小さな声ではかき消されてしまうほどの騒音だ。毎日こんなところで過ごしていれば、難聴になるのではと心配になる。
「えぇと、どちらさまで」
 応対に現れたのは、若い男だった。作業服らしきツナギを着て、厚手の軍手をはめている。頭にはハチマキのようにタオルを縛り付けていた。ツナギや軍手は機械油であちこち汚れている。
 黒川は懐から名刺を取り出すと、両手で差し出した。
「私、三木電動機の製品開発部で営業を担当しております、黒川と申します。突然お邪魔してしまいまして申し訳ありません。社長様にお取り次ぎ願えますでしょうか?」
「は、はぁ」
 こういう応対には慣れていないのだろうか、名刺を受け取った若者は少々面食らった表情をしている。
「あ、えっと。すいません。ちょっと待ってもらえますか」
 若者は工場の中に入っていくと、大きな機械に向かっていた壮年の男に声をかける。それから、黒川の名刺を渡し、出入り口の方を示した。
 壮年の男と目が合った黒川は、軽くお辞儀をしてみせた。

 水無月魔諭邏(ga4928)、堺清四郎(gb3564)、東雲殺女(gb3696)の3人は、黒川と壮年の男が工場から出て行くのを、少し離れた位置にあるジュースの自販機の前で見つめていた。
 状況からして、あの男が社長なのだろう。黒川と男は少し歩いて、とある家の前で足を止めた。とはいっても、工場と同じ敷地の中だ。周りを囲む塀が無いため、空き地があるように見える。
 家の前には、およそこの場には似つかわしくないコンテナが置かれていた。真新しいものらしく、陽光を受けて金属質な光沢を放っている。ところどころ埃で汚れているところを見ると、しばらく野ざらしのままだったらしい。
 黒川がコンテナを見上げて社長に何事か話しかけていたが、さすがにここからでは聞こえなかった。
 それから、黒川と社長は家の中に入っていった。
「あれがそうかな」
「みたいですね」
「にしても、こんな町工場にキメラねぇ」
「口封じ、と言うことなんでしょうか」
「さぁ、どうだろうな。そもそもそうする必要があったのかどうか」
「仮に知らなかったとして、納品先からあんなものが送られてきたら、そらビックリするだろうな」
「でも、バグアなら、相手が知ってようが知ってまいが関係なさそうですけど」
「バグア派の人間ならどうかな。どっちにしろ、その辺は本人にでも聞かないことにはわからんだろう」
「ま、そうだな。工場の人には良い迷惑だ。まじめに生きてただけだろうに」
「穏やかな日常というものは、ある日突然壊れてしまうものだ。そしてそれを守るのが俺たちの仕事だ。そうだろう?」
 堺の言葉に、水無月は大きくうなずき、東雲は肩をすくめることで返事の代わりにしていた。

 水無月たち3人と工場をはさむようにして、反対側の位置に大きなバイクが2台停められている。
 アレックス(gb3735)とダグラス・カーター(gb3833)の2人は、バイクの傍らで雑談でもしているふうを装っていた。
「機械化されたキメラ、などというものがあるんだろうか」
「少なくとも、UPCからもらった情報を見る限りじゃ、そんな感じだが」
「俺たちのリンドヴルムみたいなものかな」
「さぁ、どうだろうな」
「ハイブリッド、とでも言うべきか。異なった種の動植物を特に人工的に組み合わせた新種を表す言葉、だったな」
「言葉の意味だけなら、そもそもキメラそのものがハイブリッドなのだろうがな。複数の動物の遺伝子を組み合わせて作り出されているという話だし」
「まぁ、そうかもな」

「彼らは白黒どちらかな」
 工場の窓に目を向けて、ベーオウルフ(ga3640)がぼそりとつぶやいた。
 窓の奥では、若い男が機械に向かってあれこれと操作をくり返していた。額やこめかみから幾筋もの汗をしたたらせている。頭に巻いていたタオルをほどいて首にかけ、それで顔の汗をぬぐい取る。
「どうなのかな? でも綺羅は、工場の人たちより、通報してきた人の方が信用できないかな」
「善意の市民、か。確かにな。自ら善意の者などと名乗ることほど、うさんくさいことはない」
「うん」
 高村綺羅(ga2052)は工場から視線をはずし、周囲に目を向けた。
 同じような町工場が密集して街を形成している。鉄と油の臭いが土に染みついているかのようだ。
「どっちにしろキメラはやらなきゃいけないから、戦う場所は決めておきたいかな。機械とか壊されないように」
「ふむ。さすがに工場内は避けた方が無難だろうな。となると、どこかにおびき寄せるか押し込むか」
「表の道でも良かったかも。結構広かったみたいだから」

「そうか、あんた、能力者さんだったのか」
「騙すような真似をして申し訳ありません」
 黒川は座ったまま頭を下げた。
 黒川の向かいに腰を下ろしている社長には、特に気を悪くした様子はなかった。
「あれか? 潜入調査ってやつか?」
「いえ、どちらかと言うともっと実務的な方で。正確に言うと、キメラの処理にきました」
「そこまでわかってたのか」
 社長は大きく溜息をついた。
「まぁ、表のアレが来たときに、ある程度覚悟はしていたが。そうか」
 目の前に置かれた茶をすする。まだ熱かったのか、わずかに顔をしかめている。
「協力するのはやぶさかじゃないが、代わりと言っては何だが、ひとつ頼みがあるんだ」
「なんでしょう」
「家内と、剛君、従業員の大場っての、2人は見逃してもらえないかな。あの2人は何も知らないんだ。取引すると決めたのは俺1人だから」
「では、社長さんは、相手がバグア派企業だと知っていたのですか?」
「知ってりゃ断ってたさ。そこまで落ちぶれちゃいない。だが、責任ってやつは誰かが取らなくちゃいけない。そうだろ?」
 社長の態度は堂々たるものだった。背筋を伸ばし、黒川の目をまっすぐ見つめている。
「わかりました。お引き受けしましょう」
「ありがとう。助かる」
「では、奥様と従業員の大場さん。それと社長さまのお立場を、私たちが全力で守ることをお約束します」
「あんた」
「私の父は畳職人でした。他人事と思えないんですよ」
 黒川が笑いかける。
 社長は驚いた顔をゆっくりと溶かして、深々と頭を下げた。
「よろしく、お願いします」

「おっと、出てきたみたいだな」
 東雲の言葉に堺と水無月の2人がふりかえると、家から黒川と社長の2人が出てくるところだった。
 黒川は周囲を見回して3人の居場所に気づくと、大きく手を振って合図をする。
「うまくいったみたいですね」
「そのようだ。行こうか」
 3人が家の前まで歩いていくと、他の能力者たちも集まってくるところだった。それにいくらか遅れるようにして、家から女性が出てきた。社長の妻らしく、不安そうな面持ちで社長の隣に立つ。
「それじゃ2人と、もう1人いるんだっけ? 3人には少し離れていてもらおうかね」
 東雲に言われるまま、社長と夫人は工場の方へ急ぐ。中に入った社長が大場に事情を説明してくれたらしい。工場内の機械の電源を落とした後、3人は工場を閉めて通りを抜けて離れていった。
「あのまま逃げられたりしなければいいが」
 ぼそりとつぶやくベーオウルフに、黒川は大丈夫だと言い含めた。
「それよりも、問題はこいつの方だろう」
 ダグラスが目の前のコンテナを見上げる。中に入っているものを考えると、鈍い光沢が不気味なものに思えてくる。
「このままおとなしくしててくれればいいんだがな」
 アレックスが持っていた槍でコンテナを小突く。鈍い金属質な音が響いた。そのアレックスの肩をダグラスがつかむ。
「よせ。何が引き金になるかわからんのだ。滅多なことはしない方が良い」
 そのやりとりが終わるのとほぼ同時に、かすかな駆動音が響いた。
「くっそ、マジかよ」
「離れた方が良さそうだな」
 そう言って能力者たちが距離を取りつつある間にも、駆動音の響きは次第に高まっていく。
「ホントに俺のせいか?」
「まさか。あの程度で起きるのなら、俺たちが来るまでに暴れだしてるさ」
「ということは、どういうことだ?」
「誰も中のスイッチなどを触れない以上、遠隔操作が行われたと考えるのが妥当だろう」
「監視者がいるんだと思う」
「それでそいつは高みの見物を決め込むってワケか。おもしろくないね」
「そんなこと言ってもしょうがないですよ。さっさと片づけてしまいましょう」
「そろそろ出るぞ。準備はいいか」
 それぞれが覚醒状態に移行していく。その間に、コンテナの全ての側面が四方に倒れていった。
 中から現れたのは、UPCから受けた報告のままのキメラだった。
「では、手はず通りに」
「了解だ」
 動き始めたキメラを中心にして、能力者たちは3方向から取り囲むように展開する。
 キメラの正面に立つのは、AU−KVを身にまとったアレックスとダグラスだ。それぞれの手に武器を構えて、キメラの動きに注視する。
 起きたばかりだというのに、キメラは燃えるような目つきで2人をにらみつけている。大きく裂け、牙がのぞく口からは、あからさまに敵対的なうなり声が漏れだしていた。
「機械化されているとはいえ、やはりキメラだな。思考や反応までプログラムされているわけじゃなさそうだ」
 キメラが一歩足を踏み出した。重い金属質の足音。アニメに出てくるロボットのようだ。だが、それほど動きは速くなさそうだ。歩みは鈍重だと言ってもいい。
「これなら!」
 アレックスが槍を構えて突撃をかけようとした瞬間だった。
 キメラの背後が一瞬光ったような気がした。
「な、なにっ!?」
 キメラが最初に選んだ行動は、右手の刃でも左手の機銃でもなく、背後のノズルからブーストをふかしたタックルだった。キメラの装甲とAU−KVの装甲がぶつかって激しい音を立てる。完全に虚を突かれた格好のアレックスだったが、どうにか吹き飛ばされることは免れた。
「アレックス!」
「なめんじゃねぇぞ! こちとらドラグーンだ! やってやろうじゃねぇか!」
 ぶつかり合ったままの格好で、力比べに持ち込むらしい。互いの装甲が軋んで悲鳴のような音が響く。
 軍配が上がったのはキメラの方だった。地面をつかむAU−KVの両足が、ずるずると後ろに押されていく。少しずつ押し込まれる速度が上がる。キメラは工場の壁に叩きつけるつもりらしく、背後のノズルから吹き出る炎がますます勢いづいているように見えた。
「いつまでも調子に乗ってんじゃねぇ! 吼えろ、リンドヴルム!」
 アレックスのAU−KVが咆吼をあげる。瞬間的に高まった駆動音がそう聞こえるのだ。真正面から押し合っていたところに、斜めの方向へ力をそらす。バランスを崩したアレックスとキメラは、もつれ合うようにして工場の敷地を飛び出した。
「大丈夫か、アレックス」
 表通りに出たところで、アレックスのAU−KVとキメラは弾かれあうようにして間合いを開けていた。追いかけてきたダグラスのAU−KVが並び立ち、再び2人でキメラに正対する。
「1人で突出するな。俺たちがいることも忘れるなよ」
「ああ。わかってる」
 キメラの向こう側に、他の能力者たちが先ほどと同じように展開するのが見えた。
 キメラの機銃側、左後方に位置を取ったのは、高村、水無月、東雲の3人だった。
「やはり、まずは機銃を無力化しておきたいところですわね」
「そうだな。けど、いきなり斬りかかってもダメだろうな」
「うん。動きが結構速い。それも緩急つけてるから、気をつけないと」
「連携が重要になりますわね。ドラグーンのお二方に、先に動いてもらいましょうか」
 水無月が合図を送ると、アレックスとダグラスはその意図をくみ取って行動を開始した。武器を構えた2人が正面から斬りかかる。キメラがそれに反応したのを見て、東雲たちは一気に間合いを詰めた。
 キメラの巨大な刃がドラグーンの攻撃をいなす。その隙をついて、東雲と高村の剣が機銃側の腕に走る。だが、2つの剣はキメラの装甲に弾かれた。装甲に覆われていない生身の部分を狙ったのだが、キメラは巧みに身体を動かして狙いをはずしてしまう。東雲と高村はさらに追撃を狙うが、キメラはドラグーンの2人を力任せに押し返し、勢いを殺さず身体を回転させて巨大な刃で背後をなぎ払う。2人は一瞬速く間合いを離していたが、刃を追いかけるように回ってきた機銃が火を吹いた。その銃弾は2人に届くことなく、水無月の盾で防がれていた。
「こいつ、結構強い」
「さすがに一筋縄ではいきませんわね」
 これまで戦闘に加わっていなかったベーオウルフ、堺、黒川の3人は、キメラの巨大な刃側、右後方でキメラの動きを観察していた。
「装甲はかなり厚いようだな」
「生半可な攻撃じゃ通りそうにないな」
「やはり生身の部分を狙うしかないか」
「とはいえ、体術もなかなかのものだ。そうそう狙い通りには食らってくれないだろう」
「しかし、やるしかあるまい」
「そうだな」
 キメラはこちらに背を向けてはいるが、それでもその目に睨め付けられているように感じる。首が回るわけではなさそうだが。もしかすると、センサーの類が全方位に向けられているのかもしれない。
「さて、第2ラウンドと行こうか!」
 黒川の声を合図にして、8人の能力者たちが再びキメラに向かって攻撃を開始した。

 耳障りなキメラの咆吼が、天に向かって放たれる。両腕を斬り落とされ、傷口から紫色の体液が止めどなく流れ落ちている。
「こいつで、終わりだ!」
 キメラの持っていた刃ほどではないにしろ、それでも大きなベーオウルフの屠竜刀がうなりをあげてキメラの首に吸い込まれていく。
 胴とのつながりを絶たれたキメラの首が、放物線を描いて地に落ちた。最後まで立ち続けていたキメラの胴体が、ぐらりとかしぐ。飛ばされた首を追うようにして、背中から倒れ込んだ。
 ねぎらいの言葉を口々にする能力者たちに、社長ら3人がおそるおそるといった様子で近づく。
「すごいですね、みなさん。能力者の戦いというものは始めて見ましたが」
「この件について、UPCに善意の市民と名乗る人から通報があったのだけど。社長はその人について心当たりはない?」
「善意の市民、ですか。ううむ。状況からすると、取引先だったバグア派企業の人間じゃないかと」
「社長、それよりも気になることがあるんですが」
 高村と社長の話に割り込むように、大場が声をかける。
「ウチが納品した部品、こいつ1体で使い切れる量じゃなかったですよね」
 社長は、確かにそうだと頷く。
 そのことの意味に気がついた能力者たちは、思わず溜息をつきたくなった。