タイトル:【黒童話】シンデレラマスター:姫野里美

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/01/24 02:31

●オープニング本文


 どどどどど‥‥。

 北海道のとある町。人類側に支配はされているものの、治安は悪く、治安の目は行き届いていない町。そんな場所で、なにやら巨大な重量物が走ってくる音が響いてきた。
「?」
 人々が、何事かと振り返る。と、そこには。

 ぱぱぱぱぱーーーーーんぷきーーーーーん!!!

 ライトバンくらいありそうなかぼちゃが、低い声で叫びながら、暴走していた。ずどどどどと、土煙を上げながら爆走中のパンプキンは、唖然としている一般人の前で、ぴたりと止まる。

 ひょーーーほほほほほほ!

 良く見ると、それはデカいかぼちゃではなく、カボチャ型の馬車だった。ご丁寧にも、真っ黒ドレスのシンデレラ付きである。
「え、えーと‥‥馬車?」
「んなバシャな!」
 人間、壊れると思わず普段言わないシャレを言ってしまうもので、大して面白くもない駄洒落が横行している。
 が。

 ひょーーーほほほほほほ!

 シンデレラは、人間型をしてはいるが、やはりキメラらしく、白目のない目に、口中に牙を生やした化け物じみたものだ。ご丁寧に、小さな鍵爪まで生やしている。

 ぱーーーんぷきーーーーん!!

 シンデレラを乗せ、馬に引かれているかぼちゃが、胴体につけた口を大きく開く。ずらりと並んだ歯は、まるで獰猛なサメを思わせる。良く見ると、ちょうどヘタや蔓の部分に、甲殻がついており、かぼちゃに擬態した虫型のキメラだった。

 ひょーほほほほほ!

 シンデレラが、手にした乗馬鞭を一閃する。それは、呆然としていた人々を絡め取り、かぼちゃ馬車へぽいっと投げ入れていた。
「ダジャレってる場合かぁ! 逃げろぉぉぉ!」
「せっかく美味そうなかぼちゃなのにぃぃぃ!」
 驚いたのは、あっけに取られていた一般市民さん達である。あっという間に、コメディからホラーになっちゃった光景の中、かぼちゃとシンデレラの笑い声は、恐怖とカオスの象徴として、浸透して行くのだった。

 で、ラスホプINミク。
「と言うわけでー、このはた迷惑なブラックシンデレラを、かぼちゃの煮物にしてきてねー☆」
 こっちもしっかりシンデレラの魔女様風衣装になったミクが、相変わらずネギだけは振りつつ、モニターの中でそう言っている。
「あ、画像を調査した結果、このかぼちゃ馬車は、食べられる種類なんだって! そう言うわけだから、よろしくっ☆」
 お皿用意して待ってるからねーーン♪ と追加するミクだった。

●参加者一覧

緑川 安則(ga0157
20歳・♂・JG
銀野 すばる(ga0472
17歳・♀・GP
小川 有栖(ga0512
14歳・♀・ST
シェリー・ローズ(ga3501
21歳・♀・HA
緋室 神音(ga3576
18歳・♀・FT
勇姫 凛(ga5063
18歳・♂・BM
ミカエル・ヴァティス(ga5305
23歳・♀・SN
小鳥遊 憐(ga5574
16歳・♀・SN

●リプレイ本文

 むーかしむかし、ある所に1人の女の子が住んでいました‥‥。
 ってな書き出しで、女性ヒロインの童話は始まるものだが、今回の舞台は、そんな浪漫とメルヘンの溢れる街道とは、かけ離れた場所だった。
「本物のシンデレラだったら、午前0時に現れると思うんだけど、いつ現れるかは、キメラ次第みたいね」
「あのお店でも聞いてみましょう」
 ミカエル・ヴァティス(ga5305)と一緒に店を回っていた小川 有栖(ga0512)が、とあるスーパーを指し示して、そう提案する。人も多そうだと判断したミカエルは、持ち前の明るさで持って、従業員から話を聞きだしていた。
「なるほど、現れるのはまちまちだけど、どうもいなくなるのは0時か‥‥」
 それによると、出没時間は様々だったが、午前中は出ていない事、そして午前0時にはいなくなるらしい。あと、夕方のご飯タイムにも出たことはないそうだ。
「あと、ダンボールいただけませんか? かぼちゃの煮物を作るために必要なんです!」
 そこまで聞き出したアリス、醤油やみりん、鰹節やひき肉等、どうみても煮物作る材料抱えながら、そう尋ねている。
「ま、まぁ普通は使わないしね‥‥」
 従業員さんは不思議そうな顔をしていたが、快くダンボールを分けてくれた。
「こんなもんでよいかな?」
 手分けしてそれを持ち、神音のところへと向かう。そこには、対かぼちゃ馬車用のバリケードが作られていた。
「ああ、コの字型で組んでくれ。雪に注意しろよ」
 そう言う緋室 神音(ga3576)。かぼちゃ馬車の大きさを考えると、細い路地には入れないだろう。そう思い、アル程度の広さを持つ通りに、通せんぼする事になったようだ。
「シンデレラですから、バリケードではなく、お城が良いですわね」
 と、アリスはそう言って、ダンボールを組み立て始めた。見ると、その下には、引越しの時に使うキャスター付きの台が設置されている。どうやら、ついでにお店から借りてきたようだ。
「良いの?」
「終わったらばらして返す予定ですわ」
 すばるがそう尋ねると、彼女はちゃんと『レンタル章』を見せてくれる。期限は依頼が終わるまでだ。
「そのお店の人には、外へ出ないように言って置いたよ」
 そこへ、勇姫 凛(ga5063)がやってきてそう言った。本当は、付近の住民を安全な場所まで避難させたかったのだが、そんな時間はないし、大体権限もないので、出来るだけ家から出ないように伝えてきたそうだ。
「黒姫、捕捉しました」
 そこへ、双眼鏡を覗いていた小鳥遊 憐(ga5574)が報告してくる。見れば、依頼書にあった通り、真っ黒なドレスを着た黒姫とデカい馬車がこちらへ向かっている。
「なるほど。シンデレラって、元々黒い話だから、バグアの感性も案外捨てたモンじゃないか」
 そのダーティな姿っぷりに、ぼそりと層呟くリン。アリスが急いでダンボール城を通り道へ移動する。
「これより迎撃を開始ダ。なお、現時点を持って、対象ターゲットを黒姫と呼称する!」
 緑川 安則(ga0157)が力強く宣言し、お城への連行作戦が開始されるのだった。

 相変わらず高笑いを響かせながら暴走している黒姫&馬車。その耳に付く笑い声と、時折聞こえる悲鳴に、緊張の度合いを増しつつ、双眼鏡を覗き込むレン。
『待ち伏せポイントに到着。これより索敵と監視を開始します』
 見れば、少し離れた場所で、黒姫が鞭を振り回していた。彼女を仕留めなければならない。そう思ったレンは、唇をかみ締め、ごくりと生唾を飲み込む。その‥‥恐怖と共に。
「をーーーほほほほ! をーーほほほほ!」
「来たな」
 彼女がそうして気配を消している頃、バリケードの内側でもまた、黒姫を視認していた。黒のボンテージを着て、鞭を振り回す彼女に、シェリー・ローズ(ga3501)がふんっと鼻先で笑い飛ばす。
「チャンチャラ可笑しいねぇ、アンタがシンデレラならアタシは桃夜叉姫さ!」
 持っている刀をぺしぺしと振り回しつつ、忌々しげな台詞をはいている。そんな女王様に、アリスは祈るような仕草で声をかけた。
「怪我しないように頑張ってくださいね」
「仔猫ちゃんは、危ないから下がってな」
 シェリーさん、言葉遣いは悪いが、仲間の安全は考えているようだ。その助言に、後ろへと下がるアリス。遊撃隊や援護射撃の邪魔にならないように。
「行くよ!」
 そう言うと、彼女は羽織っていたフライトジャケットに手をかけた。そして、一瞬の内にそれを脱ぎ捨てる。中から現れたのは、ピンクの肌も露なボンテージ。覚醒したのか、全身が濃密な黒いオーラに包まれている。
「をーほほほほほ!」
「ほーほほほほほ!」
 その黒いオーラに包まれたまま、高笑いを始めるシェリー。対抗するように黒姫が高笑いを始め、双方の良く響く声は、家の中に居た筈の子供が泣き出し、2重窓がびーりびりと悲鳴をあげている。
「わぁぁぁ。超音波がっ」
 そのカオスっぷりに、耳を押さえ込むレンくん。
「もし窓が割れたら、請求費はUPCまでお願いしますねー」
 アリスはと言うと、友達の笑い声には慣れているのか、のほほんとそう言っている。
「さぁ、七匹の子分ども! ボヤボヤしてたら毒林檎食わすよ!」
「あたしは子分じゃないんだけど‥‥、まぁいいか!」
 どうやら、その子分と言うのは、シェリーさん用語で仲間の事らしい。そう言って、銀野 すばる(ga0472)はまず馬車を止めに向かう。
「きしゃあああ!!」
 威嚇するように声を上げるかぼちゃ馬車。その馬車を追い抜くように、リンが自前のローラーブレードで走りこんだ。同じく、ローラーシューズで速度を上げたすばるは、疾風脚を使って追いつく。
「シンデレラ、凛は決闘を申し込む!」
 進路をふさぐようにして横切ったリン、まるで手袋の如く、ガラスの靴‥‥本当はそれっぽいサンダル‥‥を投げつけた。その刹那、馬車のスピードが落ちる。まるで、慌ててブレーキをかけるように。
「鐘を!」
 その瞬間、馬車に接近していたすばるが、後ろの神音に合図する。と、程なくして、どこからともなく時を告げる鐘の音が鳴り響く。
「時計台はないが、これで充分だろう」
 良く見れば、バリケード城の鐘にあたる部分に、神音がスピーカーを設置していた。本当は、町に時計台があれば前もって頼んでおけたのだが、ここ最近はバグアが怖くて維持が出来ず、鳴らせたとしても12回は厳しいらしい。
「アンタには王子様なんて現れないよ。だから舞踏会も魔法もここで終わり!」
 そう言って、すばるは、馬車の足‥‥ちょうど馬にあたる部分に、両腕のナックルを突き入れていた。
「きしゃあああ!」
 馬車が、そのすばるを振り払おうと、前足を横薙ぎにする。飛び退るすばる。ダメージはたいした事ないが、その間に馬車が回れ右し、攻撃が当たらなくなってしまう。
「やはり、焦っているようだな」
 そのおかげで、神音には黒姫の様子が見えた。彼女は、狂ったように笑いながら、鞭を振り続けている。攻撃対象は固定していないところを見ると、早くしろと言っているようだった。
「0時になると行動停止か‥‥弱体するかと言うところだな」
 キメラ的に言うのなら、稼動時間が限られているのかもしれない。と、その間に鐘が鳴り終わり、反対側のリンが、対バグア・キメラ用に開発されたランス‥‥エクスプロードをくるりと回す。
「12時の鐘は凛が鳴らす‥‥魔法の時間はもう終わりだよ」
 そう言って、ざしゅりと馬車を串刺しにする彼。
「今の内に、捕まった人達を助けるぞ」
 その間に、バリケードの内側から、かぼちゃ馬車の側面に回るよう指示する神音。
「か、硬くて動きません〜!」
 頑張って扉のあたりに手をかけるアリスだが、その程度ではびくともしない。
「まずは中の反応を確かめるのが先だ。無事か?」
 神音が、こんこんと扉を叩くと、反応が返ってくる。どうやら、かぼちゃ馬車は、中の人々を消化する為に捕まえたわけではなさそうだ。
「さきにこっちを倒さないと、怪我人が増えるばっかりよ!」
 ミカエルがシンデレラの鞭を避けながらそう言った。軽く言っているが、余裕はあまりなさそうだ。
「そうだな。下手に救出すると巻き込まれる。ちょっと揺れるが、我慢してくれ」
 その鞭が一般人に当たれば、怪我ではすまないかもしれない。と、そう判断する神音。そんな、彼女達の姿を見て、すばるが両の拳に、気合を込める。
「こんなものは気合でどうにかするのよ! 中の人達、ちょっと下がってて!」
 拳に装着したナックルへ錬力が注ぎこまれた。瞳の色が金色に変化し、両手が銀色の螺旋状の光に包まれる。
「唸れ螺旋力! スピンON!」
 殴りつける瞬間、得意のコークスクリューが炸裂する。どごぉぉぉんっと、黄色い破片を飛び散らせたかぼちゃ馬車に、大きく穴が開いた。
「ああっ。かぼちゃが!」
 中の人ではなく、かぼちゃを心配するアリス。
「仔猫ちゃん、治癒は頼んだよ!」
「は、はい〜」
 だが、シェリーに言われ、慌てて中の人の様子を見に行く彼女。どうやら、投げ込まれた衝撃で、結構な怪我を負っている人も居るようだ。そんな彼らに、錬成治癒を施すアリス。
「本体への攻撃は後回しね‥‥」
 怪我人とアリスがいる辺りを避け、足元へと弾を浴びせかけるミカエル。おかげで、かぼちゃ馬車、全く動けない。
「よぉし、奴らが後ろに取り付いた! 一気に行くよ!」
 挟撃が完了したのを見て、バリケード側へと合図するシェリーさん。刹那、神音が装備していた刀を手に、覚醒状態へと変わる。
「アイテール‥‥限定解除、戦闘モードに移行‥‥」
 すばると同じように、瞳が金色に変化し、背中に虹色の翼が生えたように‥‥見えた。
「足元を狙って! かぼちゃ本体は‥‥動きを止めるだけでも良いわ!」
「了解。狙撃ヲ開始シマス」
 ミカエルの指示に、同じように銃を撃っていたレンもまた、覚醒状態に入ったようで、声が無機質な機械音声めいたものに変わっていた。
「陣形の維持に気をつけな!」
 狙撃眼で視覚を強化すると、左目の中で、シェリーさんがそう言っているのが目に映る。トリガーに意識を集中し、黒姫の頭部へと照準を合わせる彼女。
 だが、その直後。
「うわっ」
 視界が突然、黒姫キメラのアップになる。慌てて後退すると、そこには馬車を離れた彼女の姿が。
「憐くんが!」
 傍にいたミカエルが、援護射撃を放つ。だが、中々当たらない。
 追い詰められた直後、レンは何を思ったのか、突然こう叫んだ。
「あ、貴女ホントは仲間内で虐げられているでしょう! 過剰なまでに加虐的な素行はただの鬱憤晴らしと見ました!」
 ぴたり、動きが止まる。
「そうか。そう言う事ね。だったら、これで行ってみましょ!」
 シンデレラのあらすじを思い出したミカエルが、上着を脱いだ。そこに現れたのは、真紅のドレスだ。もっとも、動き難いのか、かなり過激なスリットが入っていたりするのだが。
「今だ! 火力を集中、一斉射撃開始! 一般人に当てるな! 救出担当はこの隙に吶喊せよ!」
 緑川が、黒姫の後方をふさぎながら、そう叫ぶ。アリスの方を見ると「もうこれで大丈夫ですー」と、手を振っていた。どうやら怪我人の治療が終わったようだ。
「さて‥‥王子もいない、優雅な音楽を奏でるオーケストラも何も無い舞台だがどちらかが力尽きるまで舞い踊ろうか」
 剣技・桜花幻影‥‥ミラージュブレイド‥‥副兵装として選んだ月詠と、メインの刀を両手に携えた彼女は、二段撃の技で持って、黒姫へと切りかかる。
「ぐふふふ‥‥改造しまくってブースト効果上げまくりの骸骨の指輪と激レアすぎて手に入らない武装トップクラスの洋弓「アルファル」のコンボ! 通常の装甲なんぞ紙切れの如し! ならば、かぼちゃ装甲に効くか‥‥勝負だ!」
 その後ろから、楽しそうに強化しまくったアルファルを撃ち込む緑川。鋭角狙撃に強弾撃を加えた攻撃の余波を食らって、かぼちゃ馬車の皮が剥けて行った。
「まったく。手間をかけるんじゃないよ」
「すみません」
 その間に、滑り込むように黒姫とレンの間に割り込むシェリー。そのまま、盾になっている。
「バグアのくせに気取ってるんじゃないよ! をーほほほほ!!」
 まだその苛烈な激情が収まっていないのか、キメラの顔部分を踏みつけて、高笑いするシェリー。その手に握られた鞭は、黒姫のもの。
 こうして、黒いシンデレラは、囲まれてフルボッコにされてしまう。

 そして。
 切り刻まれたかぼちゃは、さらに食べやすい大きさへとコマ切れにされ、アリスの手で、大量のそぼろ煮にされていた。
「アンタ、マジでこの量食べちゃったのかい?」
 その減った量に、目を丸くするシェリーさん。小柄なアリスが、鍋3分の1ほど食べてしまった事に、驚いているようだ。
「さめても美味しいですから、是非どうぞ」
 ミクへそう言うアリス。‥‥パイ、ほうとう、プリンにコロッケ‥‥と、様々な料理が並んでいた。
「まるでかぼちゃのフルコースと言うところだな。ただ、あまり女の子には言いたくないが‥‥・食べ過ぎると太るよ」
「「「うるさいっ」」」
 それを見た緑川が忠告したが、アリスとミク、それになぜかリンにまで突っ込まれてしまうのだった。