●リプレイ本文
超マグロは、沿岸部分にもよく出没するらしい。と言う事で、一行は真藤 誠人(
ga2496)の提案で、ボート三つに分乗し、よく出没していると言うエリアへ向かった。
「す‥‥すごく、大きいね‥‥」
唖然とする誠人。陸からでもよくわかるマグロの背びれは、ちょっとした車並の大きさだ。
「マグロは生きた餌しか食べないみたいだから、落ちたら終わりだよ☆」
にこっとそう笑って、他人事のように、マグロの生態を口にするミク・プロイセン(gz0005)。陸待機班なので、そのあたりはあんまり気にしていないらしい。
「船の配置、完了したわよ」
「よし、函館よりの海域には、近づかないようにね」
ミカエル・ヴァティス(
ga5305)の報告に、そう答える誠人。直後、A〜Cまでのボートが出航する。どんよりと曇ったこの時期の天候なら、沿岸が見える位置を目印にすれば、どうにかなるだろう。
「まずはマグロを誘い込むよ!」
内側から、船C、B、Aと並ぶ彼ら。最も内側の船は、特製手投げ銛で迎撃する係。外側のAは人間パチンコ・マグロノキワミ号。真ん中のBは、大型魚類用捕獲グッズで牽制する組だ。
「だー! 跳ねるな馬鹿ぁぁぁ!」
悲鳴を上げるミカエル。5mともなると、かなりデカい。高速で走行する小型トラックを相手にするようなものだ。
「マグロに言っても無理だって! 何とかして、あいつを陸に近づけて! リールはセットしてあるから!」
アリス(
ga1649)が陸の上から、そう指示をする。それを受け、特製手投げ銛を受け取ったヴァルター・ネヴァン(
ga2634)は、ごくごく真面目にこう言った。
「確か、カジキやシイラとかなら、これでいけるって話でおざったなー」
KV用スピアを投げろとか言われたら、どうしようかと考えつつ、素直にその銛を投げつける彼。マグロとカジキでは、釣り方がかなり違うが、それでもないよりはましだ。
「わぁっ」
だが、超マグロ、それなりにキメラキメラしているらしい。引っ掛けようとしたそれを、虫でも弾き返すかのように、尻尾で叩いている。余波で煽られたクリストフ・ミュンツァ(
ga2636)のボートが、危うく転覆しかかっていた。
「大丈夫でおざるか? 足元、滑りやすくなってるから、気をつけるでおざるよ」
「べ、別に転んだわけじゃないですよ。お目付け役だからって、保護者ぶらないでください」
船を寄せ、心配そうに声をかけてくるヴァルター。ぷいっとそっぽを向くクリストフに、彼は満足そうにこう言う。
「怪我をしてないなら、それで充分でおざる」
「いちゃついてる場合じゃないよ。このままだと、ワイヤー切れちゃうって!」
で。まぁそんな事をしていると、同乗の誠人に突っ込まれてしまうわけで。
「誰がですか! まぁいいです。普通のワイヤーじゃ、歯が立たないし、もうちょっと丈夫な奴を使うとしましょう」
そう言って、クリストフが手投げ銛を手にする。その銛には、仕込んだ網より倍ぐらい太い自動車用ワイヤーがくくりつけられていた。
「上手く引っかかるといいんですけど‥‥ねっ!」
覚醒し、パワーを増した状態で、投げつける。先頭についたルアーが、波間に白く輝いた。
「よぉし、付いてきたっ」
生餌を追う習性のあるマグロ、それを好物のイカと勘違いしたのか、速度を上げて追いかけ始める。この辺りまでは、先日見たカジキ釣りのドキュメンタリーと一緒だ。
「引き上げるから、その間に狙って下さい」
「OK! 先手必勝! エラを狙うわ!」
クリストフが、船の上から緋室 神音(
ga3576)に叫ぶ。頷いた彼女、反対側から、手投げ銛を構える。
「神音殿、普通の銛だとフォースフィールドに弾かれるでおざるよ?」
「絡めるのが目的!」
同乗していたヴァルターが注釈を垂れるとおりだが、彼女は迷わず銛を投げつけた。一瞬、薄く輝くバリアにスピードが落ちるものの、上手い事ひれに絡みつく手投げ銛。
「OK、いまです!」
両方から絡みついたワイヤーに、超マグロの速度が落ちる。ボートを引っ張られながらも、クリストフは、同じようにエラを狙い、スナイパーライフルを発射させた。
「おっしゃ! って、なんで元気なんだー!」
が、片方のエラをやられただけでは、超マグロ、勢いが止まらない。
「ワイヤー避けてっ」
「おわっ」
しゅるしゅるしゅるっと延びたワイヤーが、まるでトラップのようにピンと張り詰める。慌てて避けるヴァルター。
「あっぶな‥‥。危うく真っ二つでおざるよ〜」
「だから気をつけろって言ったんだ」
ぜぇはぁと青い顔をする彼に、そう答える神音。うっかりすると、そのまま体を傷つけてしまう。傭兵の中には、ワイヤーを得手とする者だっているだろう。バグアに至っては、キメラに能力持たせてる奴も多い。
「マグロ、急速潜行! このままだと、ひっくり返されるわよ?」
地上のアリスが警告している。そうこうしているうちに、マグロがワイヤーを嫌がって逃げようとしたようだ。引っ張られるボートにミクが悲鳴を上げている。
「ほらほら、さっさと行くわよー」
「ドレス用意してっ! 彼氏も出来てっ! クリスマスパーティーにエスコートしてくれるってまで言われたのにっ! 何で私は、この極寒の津軽海峡で、マグロなんかに突撃かけているのよーー!!」
ミカエルに促され、バンジーロープをくくりつけられたメアリー・エッセンバル(
ga0194)、納得行かないように、虚空に叫んでいる。
「それがメアリークオリティ」
「うれしくないっ」
が、ミカエルにそう励まされ、しくしくと滝涙をこぼす羽目に。
「このままじゃ逃げられるわ! 」
「スナイパーの誇りにかけてぇ‥‥!」
すでに、機動力はかなり落ちている。しっかり狙えば、当たるはず。何より、大型の銛を発射するそれは、一台しか積み込めていない。
「がんばってー」
KVの上で、ソフィア・リンドホルム(
ga1825)が応援するように、おてて振っていた。その手には、どこから手に入れてきたのか、大漁旗を模したペナントが、ぱたぱたと振られている。
「発射!」
どしゅうっと発射されたそれは、勢いよく水面を走り、超マグロの首元へと命中する。がっきょんっと手ごたえがあり、マグロの速度が半分に落ちた。
「お、命中したみたいね」
「ソフィアさん、お願いします!」
双眼鏡で覗いていたソフィアに、誠人が手を振った。合図だと感じた彼女、キャノピーを開けておいたKVに滑り込み、即座に起動させる。
「あーい。ソフィア、いっきまぁーーーす!」
彼女が持っているのは、ヴァルターが貸し出したKV用のスピアだ。それを、釣竿に見立て、ワイヤーが装着されている。
「ミクちゃん、私達はあいつが海に逃げ込まないようにするわよ」
「はいなのにゃ☆」
その間に、アリスとミクが船の桟橋へと移動する。と、ヴァルターが無線機からアドバイス。
「ソフィア殿、ファイティングチェアーは防波堤を使うでおざるよ。膝を使うと良いと、松形のおっさんが言ってたでおざる」
どうやら、釣りドキュメンタリーで勉強したらしい。ちょうど、椅子のようになっているそこは、人には大きすぎるが、KVにはぴったりだ。
「フィーッシュ!」
船用のウィンチをリール代わりに、ぎゅおーんとワイヤーを巻き取るソフィア。超マグロ、人の何十倍の力で引き寄せられて、その巨体をあっという間に岸壁近くまで寄せられている。
だが。
「きゃあっ。お魚が跳ねたぁっ」
相手もさすがにキメラの一種。そう簡単には引き上げられず、渾身の力を持って、ジャンプする。刺さり方の甘かった1本が、あっさり外れてしまった。
「こうなったら仕方が無い。メアリーを使え!」
「って、使うのは私じゃなくて、パチンコでしょ!」
アリスがそう言って、パチンコ作戦に切り替えている。メアリーが訂正を求めるが、この忙しい時にそう言っても、「んな事ぁ知らん!」と切り捨てられるのがオチだ。
「足止めを!」
ミカエルに言われて、誠人が再び銛を放つ。だがそれはマグロをそれ、空しく海中へと落ちた。
「嘘、外しちゃったよ‥‥」
「急に狙うんだから、仕方が無いですよ。人間パチンコに期待しましょう」
がっくりと肩を落とした彼を慰めるクリストフ。いくらスナイパーでも、暴れまわる物に早撃ちは、かなり技量が居るものだと。
「そうだね。この先はあの二人に任せようか」
そう言って、誠人は船を後退させ、超マグロが逃げられないよう、退路をふさぐ。かなり浅瀬になったそこは、超マグロが潜り込んでもどうにかなりそうだ。
「ソフィアは、そのまま竿を押さえてて! ミカエルはメアリーさんを!」
「任して! あたしが華麗にお星様にしてあげるわ♪」
アリスに言われ、ぐいーんと人間パチンコを引っ張るミカエル。既に覚醒し。鋭角狙撃と狙撃眼で、命中精度を極限まで高めていた。
「メアリー、頑張ってねー」
「えさにはならないように努力するもん‥‥」
もっとも、弾になったメアリーさん、銛を片手に、青い顔をしている。ソフィアに応援されているが、あんまり聞こえていないようだ。
「来ましたー」
ミクが、双眼鏡を片手にそう言ってきた。見れば、波音を蹴立てる黒背の塊。
「マグロノキワミ、始動!」
アリスが、手を振り下ろす。途端、ミカエルは力いっぱい引っ張ったゴムを離す。
「うひょおわぁぁぁぁっ」
弾代わりになっていたメアリーが、悲鳴を上げながら、マグロへと突撃する。どかぁぁぁんっと音がして、その巨体がぐらりと傾いていた。
「命中?」
「しただけみたい‥‥」
ミクとアリスが、2人して双眼鏡を覗き込んでいると、マグロの背中に必死でしがみついているメアリーの姿が見えた。
「ミクちゃん、ここお願い。援護してくるわ!」
「えぇえぇっ。急に離さないでー!」
見物人と化しているミクに、KVの操縦を任せ、ソフィアはメアリーの援護をするべく、スコーピオンを握り締めた。
「狙うは尾鰭! 弾が当たったら、美味しくなくなっちゃう!」
そう言って、スコーピオンを投げつける彼女。鋭敏狙撃で放てば、尻尾の付け根に深々と突き刺さっていた。
「今度は逃がさないようにね!」
「あーいっ!」
だらだらと血を流す超マグロの胴体に、しっかりと銛を刺し通すメアリー。ピーんとはったそれを、ソフィアは今度はしっかりと握り締め、ウインチで引き上げる。
「ミクちゃん、活け〆するよ!」
「うん、みっくみくにしてやるお!」
陸に上げられ、じたばたと暴れる超マグロを、アリスが急所付きで止めをさし、ミクもマグロの頭に一撃を食らわせるなどして、今度こそ逃げられないようにするのだった。
「何とか仕留められてよかったねぇ」
自腹で用意したウォッカを片手に、逆さづりになった超マグロを見て、上機嫌でそう言うソフィア。小さめのセーラー服が、水で体に張り付いてしまい、脱ぎ難い上に、お肌が透けてしまっている。
「その前に、着替えないとー」
戦闘の余波で波を食らってびしょぬれになった体に、ミクがタオルを持ってくる。
「それより記念撮影しよー!」
しかし、当の本人は全く気にせず、ミクを捕まえると、マグロを背後に、撮影会と化していた。
「‥‥売らなくていいのでおざりましょうか」
その巨大なマグロを見て、ヴァルターが不安そうにそう言った。それを聞いて、メアリーもじゅるりと口元を緩ませる。
「それもそうね。ねぇねぇ、これ全員に分け前がいくよう、築地の初競りに超マグロをかけてみない?」
「って、うちらそんな競り権ないよ」
が、ミクは首を横に振った。しかし、 メアリー「上手くいけば激高値、装備もKVもよりどりみどりの選び放題、ロッタさんのお店買占めとか出来るかも!」とドリーム入っちゃって、全く聞いていない。
「高そうなのは、確か心臓とか言うておざりましたな。それ以外のところを調理すればよいのでおざりましょうか」
とりあえず、氷に漬けておけばいんではないか‥‥と、この場でのバラしを提案するヴァルター。
「こんなに穴だらけだと、商品価値ないよ。バラバラにして、切り身売って、アレの修理費にした方が良いんじゃないかな」
と、ミクがそう答えて、背後を指し示す。そこには、釣り道具の残骸が散乱していた。材料は公共施設から無断借用だから、原状復帰代に消えてしまうだろうと。お釣りはチャリティ募金にでも寄付すればいいだろう。
(マグロはあくまで請求書の為の換金用であって、自分達で食べる用じゃない、のだと思うのですけれど‥‥)
その様子に、クリストフはそう思ったが、あえて指摘はしない。
「あのぉ、出来れば超マグロの頭と骨と出来れば尻尾部分まで、生で持ち帰らせてもらえれば嬉しいな」
次から次へとばらされる超マグロを見て、メアリーが恐る恐るそう切り出す。
「ああ、それならかまわないと思うよ。ただ、持って帰るのはご自分で」
何しろ、肉を落としても、5m。頭の部分だけでゆうに1mはある。とりあえず、運ぶのはKVを使えば何とかなるかもしれないが、ちょっと大変そうだ。と、そんな彼女を励ますように、何かくくりつけている神音。
「‥‥シュールね」
ぼそりとそう呟く彼女。見れば、超マグロの尻尾に、何故か赤いリボンがくくりつけられていたのだった。