タイトル:あいさつ文を考えてマスター:姫野里美

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/12/18 01:25

●オープニング本文


 その日、カラス・バラウのところには、UPCからある依頼が届いていた。
「傭兵向けのあいさつ文?」
『ああ、そうだ。簡単に喋ってくれと言う事らしい』
 相手はキャスター准将だ。どうやら、一部UPCの面々に、そう言う通達が出ているらしい。
「しかし‥‥、困りましたねぇ。そんなあいさつ文、すぐには思いつきませんよ」
「ジョンの奴もそう言ってたなー」
 はぁっとため息をつくキャスター。今回、依頼が来ているのは、カラスの他、ジョン・ブレスト博士、それに能力者代表の早川雄人くんだ。
 その早川くんはと言うと。
「ええええ!? 俺、そんなの考えつかねぇよー」
 兵舎の一角で話を受け取り、頭を抱えている。
「そうだ。他の皆に考えてもらおう。うん、それが良い!」
 ぽむっと手を叩いた早川くん、そう言うと本部へと赴いた。傭兵の皆さんに、知恵を借りるため‥‥である。
「なるほど、そう言う事ですか‥‥。しかし、この私の美しさを的確に表現しつつ、かつエレガントな挨拶と言うと、なかなか難しそうですね‥‥」
 手鏡でポーズを決めつつ、早川くんが持ってきた話に、そう感想を述べるカラス。
「アレがなければ、優秀なんだがなー」
「仕方が無いだろ。そう言う性格なんだし」
 多少‥‥いやかなりナルシー入っているカラスの姿に、キャスター准将と、ジョン・ブレスト博士は、深い深いため息をつくのだった。

「と言うわけでー。カラスさんと、ブレスト先生と、あと雄人くんのあいさつ文を考えてほしいんだってー」
 そう言ってミクが、それぞれの居場所を示している。どうやらそこに行って、参照しつつ、あいさつ文を考えて欲しいそうだ。

 ジョン・ブレスト:研究所受付にて、訪問者を案内している。

 早川雄人:兵舎の入り口で、訪れる能力者達にアドバイスをしているようだ。

 カラス・バラウ:キャラクタークラス「エクセレンター」の説明をしてくれている。

 なお、プロフィールに関しては、それぞれの紹介項目を参照して欲しいそうだ。

「なんか報告書作成の人、マヂで困ってるみたいだから、お願いね」
 ミクは最後にそう言って、話を締めくくるのだった。

●参加者一覧

潤・アレクサンドル(ga0177
14歳・♀・FT
メアリー・エッセンバル(ga0194
28歳・♀・GP
煉条トヲイ(ga0236
21歳・♂・AA
鯨井昼寝(ga0488
23歳・♀・PN
皇 千糸(ga0843
20歳・♀・JG
鷹司 小雛(ga1008
18歳・♀・AA
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
ミハイル・チーグルスキ(ga4629
44歳・♂・BM

●リプレイ本文

 その日、ラスホプには、数人の能力者が集まっていた。ミク経由で言われた、各種関係者のあいさつを考えるためである。
「ミク准将!! 私頑張ったわ、マグロの為に!!」
 バターンと扉が開き、メアリー・エッセンバル(ga0194)が血涙流しながら、ばたんと力尽きる。
「ああっ。マグロのおねーさん、しっかりするぉ! まだ牛さんと、あの肉と、ジャガイモが残ってるぉ! カレー食べて頑張るぉ!」
 ゆさゆさと揺さぶるミクだったが、ダメージは相当だったようで、そのまま戦闘不能に。
「きゃー。サイエンティストの人ー。助けてー」
「おじい様には頼らないのね」
 ばたばたと回復係りを探すミクに、皇 千糸(ga0843)はそう呟くのだった。

 で。
「よし、これで良いな。ほら」
 適当にレシートの端にでも書きなぐり、「ほら」と、ミハイルに提出する鯨井昼寝(ga0488)。
「やる気のない紙だな‥‥」
「メモなんて、これで良いだろ」
 やる気があるんだかないんだか分からない台詞である。と、そんな中、ミクが周囲を見回し、はいと手を上げた。
「質問です。もー1人はどこですか?」
 ひーふーみー。ミクを入れて8人しかいない。確か、受けたのは8人のはずである。点呼を取って見ると、UNKNOWN(ga4276)が姿を消していた。
「こーゆー奴なんだが‥‥」
 通りすがりの御仁に尋ねて見ると、それっぽい御仁が、既にジョン・ブレストのところに向かったらしい。
「ふむ。ならばそこから回るべきだね」
 ミハイルがそう言う。そんなわけで、一行は研究所の受付へと向かったわけなのだが。
「――胸をはれ、ジョン・ブレスト」
 軽くボルサリーノのハットに手を置き、謎の黒衣の男っぽく、ジョンに囁きかけるUNKNOWN。
「誰だお前は」
 もっとも、研究所には数多くの傭兵達が訪れているので、ジョン先生、困惑したように眉を寄せている。
「君と同類さ。だが、天才とは。その一点のみに敗れ去る。皮肉なものだな」
「あー、いたいた。あんのうんさーん!」
 ミクがまったく空気を読まない状態で、声をかけようとする。と、復活したメアリーが、その口を押さえた。
「ミク‥‥、ああ言う時は、声かけちゃだめよ」
「そうなの?」
 しぃぃぃっと声を潜めて、アドバイスする彼女。
「黙って回れ右するのがお約束よ」
「と言いつつ、その録音機はなんだ」
 が、その会話はしっかりUNKNOWNさんに聞かれていた。背後に立ち、無言の圧力を加える彼に、メアリーは引きつりながらも、こう答える。
「これ? ジョンさんに挨拶してもらう為の必要機材☆」
「だったら奴に向けんか、バカモノ」
 げしぃっと突っ込まれるメアリー。本日2オチ。

 一通り起こした後。
「済まんな、人の顔を覚えるのはそれほど得意な方じゃないんでねー」
 そりゃあ、三桁単位の傭兵達が、武器やら防具やらの発注に訪れていれば、いちいち顔を覚えてもいられないだろう。
「ほんとーにそうだったんだなー」
 自分がメモに書いた挨拶と、全く同じ対応に、複雑な表情の昼寝。と、ミハイル・チーグルスキ(ga4629) が、ジョンにこう言った。
「と言うわけで、各自で集めてきた文章を、3人に選んで決めてもらうコンペティションを計画したわけなんだが」
 だが、彼はそんなミハイルの計画に、難色を示す。
「うーん、呼び出しても来るかどうかわからんのでな。一人一人回った方が良いんじゃないかな」
 雄人はともかく、カラスは気まぐれな研究者の典型みたいな男だ。呼び出したからと行って、応じるとは限らない。
「なるほど。一堂に介するのは無理か‥‥」
 ちょっと残念そうなミハイル。と、ジョンはその態度に、「まぁ、俺は付き合うよ」と言ってくれた。
「そうか。貴重な時間を割いていただき、感謝するよ」
 では改めて‥‥と、咳払い一つして、提出されたあいさつ文を並べるミハイル。
「能力者のほうから、3人のイメージに会った挨拶文を考案してもらった。各人より文章が渡されるので、それを声に出して読んでもらい、気に入ったものを採用し、録音という流れとなる」
「とりあえず思いつく限り挙げてみたから、気に入ったら使って下さいな」
 千糸がそう告げて、原稿を差し出す。まずは昼寝の案からだ。
「何何‥‥。まあ未来科学なんて言ったところで、詰まるところは運否天賦。――なに、今は意味が分からなくてもその内分かるさ。嫌でもなって、これ公開しちゃまずいんじゃないか?」
「そうか‥‥?」
 良い案だと思ったんだがなぁ‥‥と、頬を膨らます昼寝。それと、ちょっと言い難かったらしい。
「サイエンティスト達に失礼だろう? 皆、頑張ってるんだし」
「ふむ。挨拶か‥‥。なら、こう言うのはどうだ?」
 どうやら、中の人の事は考えていなかったようだ。と、替わってUNKNOWNが案を差し出す。だが、都合3行なので、ちょっと時間が余った。
「シンプル過ぎだと思うぞ‥‥」
「じゃあこんなのは‥‥」
 千糸が自分の案を差し出す。やっぱりちょっと硬い。
「インパクト足りないな。俺が考えてきたのはこっちだ」
「どうでもいいが、煙草は大丈夫なのか?」
 潤・アレクサンドル(ga0177)が挨拶に煙草の件を入れるのを指摘する。と、ここには、未成年の能力者も多い。うかつな一言を言って、喫煙に走られては困るそうだ。
「へビィなのは、ジョンの特性だろう。もうちょっと注意入れた方が良いかな」
 煉条トヲイ(ga0236)がそう言って、修正案を出した。ちょっと軽くなったようだが、鉄くずが何の事かわからない人には、とっつきにくいと言うご意見の模様。
「もうちょっと真面目な方が‥‥」
 UNKNOWNが自分の第二案を出す。が、思いっきり悲壮感漂っちゃってるので、挨拶としては今ひとつと言う感想に。
「重過ぎるから、こっちで良いと思う‥‥」
 鷹司 小雛(ga1008)が出したのは、半分くらい日ごろの愚痴。
「お前ら‥‥。俺をなんだと思ってるんだ‥‥?」
 一向にまとまらないあいさつ文に、ジョンが眉根を寄せると、傭兵達は口をそろえてこう言った。
「「「研究所のおっさん」」」
「しくしく‥‥」
 しょんぼりと肩を落とす彼。
「え、えーと。ここ、編集した方が良いかな?」
「それで良いと思うわよ」
 一部始終を記録していたミクがそう尋ねると、メアリーは顔を引きつらせて、そう答えるのだった。

 さて、ジョンの次は、早川雄人くん。録音場所は、彼が余り緊張しないように、いつもいる兵舎の一角である。
「あーあー。ただ今マイクのテスト中ー」
 雄人が、マイクに向かって軽く喋っている。そんな彼に、トヲイは持っていた原稿を渡し、一通り読み上げるように説明する。
「まぁいつもと同じ調子で話してくれれば良いんだ」
「わぁった。これを読めば良いんだな」
 頷くトヲイ。「ああ」と答えて、彼が喋るのを待った訳だが。
「ん? そんな所で何‥‥」
 めっさ棒読みである。凍りつく傭兵達に、雄人くんは困ったようにこう言った。
「んな事言ったって、俺はげーのーじんじゃないし」
 どうやら、原稿を読み上げるのは苦手みたいだ。せめて俳優と言えよ‥‥と思いながら、トヲイは困ったようにミハイルに指示を仰ぐ。
「うーん。演技力はゼロか‥‥」
「アドバイスは出来ますが‥‥ねぇ」
 演技指導までやれとは言われていない。もし、指導したとしても、そう簡単に出来るモンでもない事を、ミハイルは身にしみて分かっていた。
「ともかく、片っ端から読ませてみよう」
 そう言って、彼はジョンと同じように、その原稿を読み上げさせる。
「早川雄人、クラスはグラップラーだ‥‥」
「うーん、何か初対面の人には、ちょっとくどいかも‥‥」
 潤の案には、このラスホプで能力者として戦っている旨が盛り込まれている。が、ここに来るのはだいたい能力者志望なので、重ねて言う事になると、そんな判断だった。
「この人、この人ツンデレっぽい印象なんでね。だからこんな感じになっちゃった」
「俺、別にそう言うわけじゃないけど‥‥」
 何を持ってツンデレと言うかはさておき、普通に話もするし、突き放すわけでもなさそうだ。
 替わって今度はメアリー。
「じゃあこっちは?」
「だから、絶対重いって!」
 どうも能力者達は、悲壮感を持って仕事に臨む場合が多々あるようだ。現在の状況を考えれば、それもまた然りなのだが、それでは身が持たない。
「これから戦い続ける以上、お互い背中を合わせる事もあるかもしれない‥‥」
「短いし、やっぱり悲壮感が漂ってる」
 千糸のは、名乗りとクラスを抜かすと都合3行。時間が大幅に余る。
「あー、何言ったら良いもんだが‥‥」
 頭を抱えているのは、お前さんだけじゃねぇよ‥‥と、悩む雄人を見て、そう心に思う傭兵達。
「なぁ、出身は日本なんだよなぁ?」
「あ、ああ」
 昼寝の問いに頷く彼。それを聞いた彼女は、ひょっとして‥‥と、こう尋ねる。
「改まって喋るのは苦手‥‥か。もしかして、戦場の方が、もうちょっとマシに語れるタイプか?」
「かもしれないな。自覚はないが」
 これまた傭兵には少なくないタイプだ。いわゆる『拳で語る』と言う奴だ。グラップラーなので、当然といえば当然なのだが。
「ふむ‥‥。だったら、素直にそう言えば良いと思う。あんまり肩肘張らずに、さ」
「わかった。そうして見るよ」
 戦いの緊張感が大好物の昼寝、似たものを感じたのか、そうアドバイスしてくれるのだった。

 最後はカラスである。軽度のナルシーくんと言う話だが、実際どうなのかわからない。ので、研究所の応接室で、彼と会うことになった。
「えーと、鏡を見る頻度は?」
 こいつが一番厄介である。そう思ったメアリー、アンケートと称して、そのナルシーッぷりをチェックする。
「一日5回くらいかな。ご飯食べた時と、寝る前に起きた後」
 日によっては夜更かしして仕事を仕上げるのも当然なので、回数はもうちょっと増えるそうだ。
「充分な重症ぶりだな」
 トヲイがそう言う。普通の男性なら、鏡を見るのは風呂の時とか、通りすがりくらいだろう。
「そうかな? 身だしなみの一環だし、これくらいはULTのお嬢さんもよくやっているよ」
 欠片も疑問を抱いていないカラス。確かに女性なら良くある話なのだが。
「いや、やはりここは、そのナルシストっぷりを、若干大げさにやってもらった方が、おぜうさんも喜ぶと思う」
「なるほど。ならば、やってみよう」
 トヲイがそうアドバイスする。納得してくれた彼に、「原稿はこれだ」と、自分の書いた案を差し出すトヲイ。
「‥‥何故私の睡眠不足を知っている‥‥。まさか、覗いていたとかっ?」
 一目見るなり、いぶかしんだ表情で、トヲイを睨むカラス。
「い、いやっ。なんとなくそう思って‥‥」
「なんとした事だ。この僕が、傭兵達に簡単に寝顔をさらすなんて‥‥」
 どーも、居眠りしている最中を見物されたと思ったようだ。
「話聞いてないし」
「まぁ‥‥。カラスさんはそう言う人みたいですし」
 トヲイが違うと言っても、聞く耳を持たない。だが、ジョンからその性格を聞いていたミハイルは、概ねその評価が間違っていない事を知る。
「きっと、カラスさんがエクセレンターだから、皆興味津々なんですよ」
 小雛がそうフォローしながら、自分の原稿を差し出した。それには、エクセレンターと言うクラスを説明するように添えられている。
「ふむ‥‥。まぁ、万能のクラスと言われているからね。ただ、扱いは難しいと思うよ。バグア相手の時に限らず‥‥ね」
「いわゆるちゅーとはんぱ‥‥と」
 UNKNOWNがぼそりと言うと、カラスさん機嫌を悪くしたようで、見下したように「何か言ったかい?」と詰め寄る。
「いいえ、別に!」
 これ以上言うと、必要のない攻撃を受けそうだ。案にそれを盛り込むのもNGかもしれない。
「やっぱり、この一点を前面に押し出した方が良いんじゃないかしら?」
「私もそう思うわ‥‥」
 ぼそぼそと少し離れた場所で相談する千糸とメアリー。その彼女が差し出した案は、エクセレンターの能力を説明するのは、別のところでやりたいと言う希望により、ボツを食らっている。
「苦労は買うよ。けれど、難しすぎて、分からない子もいるんじゃないかな?」
 もう一方、メアリーの案は、専攻分野に及んでいる。ミドルスクールも卒業していないレベルがいるので、考古学って言われても、ぴんと来ないかもしれない‥‥と、カラスは言った。
「そう言うものかな」
「学問と言うものは、細かければ良いと言うものでもないさ。難易度を上げれば良いと言うものでもないけれど」
 適度な難易度と言うのは難しいけどね‥‥と、口添える彼。
「難しすぎても、簡単すぎても行けないと言う事か‥‥。じゃあ、この案はボツだなー」
 その意見に、昼寝は残念そうに言って、自分の案を見返す。どうやら、挨拶に謎かけはいらないかもしれない‥‥と。
「まぁ、皆さん良く考えてくれてますからね。他の2人にも、これを素案に、挨拶するよう言って置きますよ」
 だがカラスはそう言って、出された全ての原稿を回収していた。どうやら、彼らの案を色々と組み合わせて、挨拶文を作り上げようと考えたようである。

 結論:知らない人の挨拶は難しい。