●リプレイ本文
滑走路は、一見するとだだっ広い基地のような大きさだ。まるで広場とも錯覚するようなそこで、ヴィス・Y・エーン(
ga0087)はKVの操縦席へと収まっている。
「さーてと、ミクちゃんからの頼みだから頑張らないとねー。 それにあいつらを追い返さないと、大規模作戦に支障が出るし」
ヴィィィン‥‥と軽く電子音を立てて、目覚めるKV。
「やれやれ。護送先での敵襲とは‥‥ままならんものだ」
ヴィスの台詞に、KVの中でため息をつくファファル(
ga0729)。その視線の先には、血気盛んな潮彩 ろまん(
ga3425)と水理 和奏(
ga1500)の姿が。
「秘密基地を護る為、ロボットに乗って悪い宇宙人の兵器をやっつける! お爺ちゃんはよく言ってたんだ、ボクの剣の腕は、悪を断つ剣なんだって」
「うん。僕のKV、力を貸して!」
若い2人に、UNKNOWN(
ga4276)は帽子を被りなおし、表情を隠すようにして、ため息をつく。その瞳に映っているのは、まだ着陸していないガリーニンばかりではないだろう。
「‥‥ここまで連れてきたんだ。G4の面倒まで見てやるさ」
ガリーニンは、すでに日本海を抜け、名古屋上空へ差し掛かっていると、ミクから報告があった。数十分以内にここまでやってくる筈だ。
「撃ってきました!」
ワームが、鎌状になったビームを、固定していた砲台へと発射する。走る衝撃に、警備兵へスクランブルがかけられる。
「タバコを一服する暇もないのか!」
口をつけたばかりのビールをゴミ箱に投げ捨て、KVのキャノピーを閉めるアンノウン。
「反抗作戦失敗させはせんよ‥‥。Schnee、いきます!」
「迅速にワーム&キメラを殲滅してやるさ。ブラックウィドウ‥‥出る!」
ファファルはそう言うと共に、エンジンを始動させた。アンノウンも、彼女にあわせ、飛行形態で格納庫から無理やり出発する。シャッターが何枚か吹き飛び、バリケード代わりか設置されていたドラム缶が、ころころと蹴倒され、軽く悲鳴を上げる。後で修理代が請求されそうだ。
「時にろまん君、君のその機体はS型ではないのかね?」
「うん。えっとね、登録する時、値段の高い方って言ったらこのロボットくれたんだよ」
遅れて出てきたドクター・ウェスト(
ga0241)に尋ねられ、にこっと笑顔で答えるろまん。高速度と重火力を得手とするS型が、バリバリ接近戦仕様に改造されている。
「なるほど、これもアリか。まぁ、そう言う改造は嫌いではないよ」
彼女のこだわりは、ドクターにとっても参考になったようだ。超高速の一撃離脱戦法を行うよう作られているS型、別に近接攻撃用武器を使用するなとは、どこにも書いていない。
「管制室、関連施設および滑走路の位置をマップに表示してくれ」
一方、ファファルは足元に広がる滑走路の地図を、准将に要求している。
『構わんが、ジャミングが酷い。ブーストした時しか映らないぞ』
「施設と滑走路の位置さえ分かれば良い。防衛機能は生きてるのか?」
そう言っている准将の画像も、ノイズが走って音声しか聞き取れない。やはり、岩龍のない場所では、レーダーに頼る戦い方は出来ないようだ。
『砲台ぐらいはあるが、SESを搭載していない。牽制にしかならん』
「それでも良い。弾幕位は張っておいてくれ!」
鋼 蒼志(
ga0165)がそう答え、まずは敵を滑走路から引き剥がすべく、自ら切り込んで行く。一気に距離を詰める彼を見て、アンノウンもそれに従った。
「まずは五月蝿いハエから落すか‥‥。鋼、援護は任せろ。貴様は存分に暴れてくれ」
「もとよりそのつもりさ」
ファファルの台詞に、ワームに肉薄した鋼、迷わずホーミングミサイルを撃った。2発ほど飛び立ったそれは、片方は命中したが、もう片方はあさっての方向へ逸れて行った。
「滑走路は傷つけるなよ! でないと元も子もないからな!」
ファファルが、その打ち漏らしたワームに向けて、スナイパーライフルを放つ。研究所で強化されたKV用のライフルは、狙い違わずワームに命中し、ぴりぴりとスパークを放っていたワームを、1匹沈めている。だが、すぐさま新しいワームが現れて、目の前で戦っていた鋼へと、そのビームを振り下ろした。
『ドクター、鋼の方だ。ミサイルを頼む!』
気付いたアンノウンが、無線で叫ぶ。ちょっと声がくぐもっているのは、機内でも咥えタバコだからだろう。
「了解。全弾発射、ポチッとな」
飛行形態で施設方面からブーストをかけながら飛来したドクター、ヘルメットワームにホーミングミサイルを全弾お見舞いしていた。
「ふん、牙をお見舞いしてやろうじゃないか」
それに合わせて、アンノウンのアグレッシブ・ファングが光を放つ。機体の錬力メーターががくんと落ち込んだが、致し方ない。
「さぁ、撃ち込むぜ!」
一方、ホーミングミサイルの弾切れを起こした鋼は、そう言って肉薄、直後、人型へと変形する。しかし、その直後、ワームの腕からレーザーが放たれ、機体に大きく衝撃が走った。
「かわしきれんか‥‥だが、この程度なら!」
ビービーと警告音が鳴っている。慣性制御を持つらしいワームに、ロックオンされたらしいが、囲まれているこの状況では、ガトリングで牽制する位しか出来ない。
「どこまでも、穿ち貫く!」
二発目の衝撃に、装甲値が限界までダウンする。メトロニウムフレームを犠牲にしながら、近づいた彼は、両腕をツインドリルへと変形させ、ワームを挟み込む。
「‥‥捉えた。そこはすでに私の領域だ」
その攻撃にあわせるように、ファファルがスナイパーライフルを放った。2人掛りで攻め込まれては、ワームも装甲を貫かれるらしく、黒煙を上げて沈黙する。
「さんきゅー」
「礼はいらん。さっさと片付けるぞ」
鋼にそう答えるファファル。確かに、ワームは次から次へと現れていた。
「Silver Star 援護に回るわ!」
その1匹を、ヴィスが遠距離射撃していた。空港のマップは極秘とか言われたが、倉庫や管制室はわかる。その建物の影にかくれるようにしながら、ライフルで狙いをつける。狙撃の都合上、人型と成っている彼女の機体を、ワームから隠すかのように、変形するドクターの機体。
「ナイトフォーゲル、トランスフォーム! もう攻撃してるけどロールアウトだね〜!」
ずしん‥‥と、軽く衝撃が走った。滑走路を傷つけないように、その外側へと着地した彼に、近距離にいたワームが、ビームを発射する。
「ぶぁ〜るかん!!」
そのビームを、メトロニウムシールドで受け止めつつ、バルカンを放つドクター。シールドに大きくヒビが入ったが、後で直せば良い事だ。
「しまった。バレた?」
だが、ワームはついてこない。横合いから区切るように撃ってきたヴィスに気付いたのだろう。進路を90度曲げ、彼女の潜む管制塔へと近づいてくる。
「えぇい、近づかないで頂戴ッ」
見付かってはまずい。そう思ったヴィス、ワームへ向けてガトリング砲をお見舞いする。本当はブースターで逃げたい所だが、錬力の残量を考えると、うかつには使えない。
「させないよ!」
もたつくヴィスを援護するように、横合いからガトリングの弾が増えた。Silver Starの頭がぐるんと回る。と、そこでは、アンノウンのバルカンをバックに、ブースター吹かして接敵している最中だ。ワームが近づかせまいと、ビームを放つ。がんがんと衝撃が走る中、ろまんは構わず変形機構のスイッチを入れた。
「人呼んでサムライ装甲ナイトフォーゲル、ボクの波斬剣に断てぬもの無し!」
そう言って、ディフェンダーでなぎ払う彼女。それを見て、ひょーうと口笛を吹くアンノウン。
「若い奴は勢いがあるねぇ。じゃ、その勢いを削がないようにしましょうか!」
低空でバルカンを撃っていた彼は、そのまま人型変形し、滑走路へと着地する。そのままタイヤを滑らせて滑走路を横切ると、ワームを挟み込むような位置へと機体を固定する。
「やらせない! うわっ」
そのアンノウン機を追い掛け回すワーム。そのビームが滑走路を壊そうとする。そうはさせじと、ディフェンダーを盾代わりに、射線カットに入るろまん機。大きく衝撃が走り、ビービーと警告音が、外装にヒビが入っている事を告げる。
「盾を持ってないんだ。無理に前に出るな」
「わかってる。だったら、やられる前に、斬る!」
アンノウンが下がれと人型で合図するが、彼女は首を横に振り、地面を蹴る。ブーストを作動させ、天空へと舞い上がるろまん。
「ち‥‥。錬力も残り少ないって言うのに‥‥。潮彩、能力を使え。機体を信じろ!」
すでにブースターを使っているアンノウンは、錬力残量を計算しつつ、そうアドバイス。
「‥‥見える、この子がボクの進むべき未来を教えてくれるんだ!」
SESの出力装置が、つぎ込まれた錬力に呼応して、電子音を立てる。モニターに命中値補正がかかり、ワームのどこに当てれば良いかを教えてくれた。
「321‥‥GO!」
アンノウンのカウントに、空中から勢いをつけたろまんが、ブレス・ノウの示すその一点へ、ディフェンダーを振り下ろす。フォースフィールドが展開されているが、かまう事無く。
「波斬剣、縦一文字斬り!」
アンノウンの狙撃に、その装甲を半分削られていたワームは、勢いをつけた攻撃に爆散。派手な戦い方に、目を丸くする和奏。
『ベル。水理。左の奴を沈めるぞ』
「‥‥了解。キメラよりワームを殲滅する」
和奏がじっとろまんを見つめてる一方で、アンノウンの指示に、ベル(
ga0924)がそう応えている。なんだか冷たい感じに見えるが、和奏は全く気にせず、人型へと変形させた。
「滑走路には、絶対傷つけさせないんだからっ。その為に、メトロニウムシールド&フレームで固めた地上防衛戦仕様にしてきたんだしっ」
名付けて、鉄壁わかなカスタム‥‥らしい。確かに、ペアを組むベルより、一割ほど装甲が厚かった。
「‥‥‥‥敵発見。迎撃に移る」
そのベル、無表情にそう言って、レーザー砲をセッティングしていた。青白い光線が、空気を切り裂きつつ、3発程飛んで行く。だが、1発はフィールドにはじかれ、あさっての方向へ。もう一発は、受け止められて相殺、実際は1発しか当たっていなかった。
「‥‥‥‥この距離では、削りきれないな」
その様子に、ベルはレーザーではなく、より数多くの弾をバラまけるガトリングへと切り替えた。だが、その隙をついて、ワームが体当たりを敢行して来る。
「く‥‥」
短くそう言って、その体当たりをユニコーンズホーンで受け止めるベル。
「‥‥不意打ちなど効かない」
彼女は、ワームを捕まえたまま、そのホーンの特殊能力を発動させる。その名の通り、ユニコーンの角を模したそれを、ちょうど額に当たる部分へと、押し当てるベル。だが、相手のワームも、好機とばかりに、レーザーを放った。
「させないっ」
そこへ、横合いからバルカンの弾が飛んできた。おかげで、ワームの攻撃は、和奏へと浴びせかけられる事になる。強く衝撃が走り、装甲の一部が剥げ落ちるが、彼女は気にせずアグレッシブ・ファングを使っていた。
「危険な敵は、真っ二つっ!」
ブースターを使い、上から押し当てるようにディフェンダーを振り下ろす。ろまんの技を参考にしたらしいが、まだ力任せの一撃で、ワームは転がるように滑走路の外へと押し出されただけだ。
「‥‥なぜだ」
確か、知覚系の攻撃も苦手で、さらにレーザーに装甲が効かないかもと言っていたはずである。不思議そうにそう尋ねてくるベルに、和奏は明るくこう言ってきた。
「だって、壁になるのがお仕事だもんっ。頑張って、滑走路を守ろうねっ」
「‥‥ふん」
まぶしそうに、和奏の台詞に目を細めるベル。
『‥‥ガリーニン、来たか』
アンノウンが遠く、上空に見える機影を確かめた刹那、和奏が、戦闘機へと変形し、滑走路を使って、ガリーニンの方へと赴く。後ろから追いかけ来たワームを、ガトリング砲で弾きながら、彼女はこう叫んでいた。
「中佐! 地上は守ったから、安全だから‥‥帰らないで!」
必死である。と、そこへ、ファファルとヴィスから、通信が入った。
『‥‥敵影なし。なんとか退けたか‥‥』
『撤退命令が出なくて良かったわ』
見れば、滑走路の周囲では、ライフルや銃を肩に担ぐようにした2人は、親指を立てている。どうやら、追いかけてきたワームを迎撃したようだ。
「いやー、眼鏡がなかったら即死していたね〜」
ふんっと一瞥しているのは、Gやら衝撃やらで、ぐったりしているドクター。伊達眼鏡のおかげで、かすり傷だと言い張っているが、見る限り、そんな軽傷でもなさそうだ。むろん‥‥KVもである。
「よかった。ありがとう、皆‥‥」
和奏、すっかり誤解しちゃった状態のまま、ミクと共に、中佐を出迎えに行く。「‥‥少しはやるようだな」とお褒めの言葉を賜っていた。
「ミクちゃーん♪ 美味しーケーキ屋知ってるんだー♪ 食べに行かない?」
一方ヴィスはと言うと、ミクをデートに誘っていた。まぁキャスターも茶くらいなら構わないと言ってくれたようだし、問題はなさそうだ。
「ありがとう、KV。僕の、翼‥‥よく頑張ってくれたよね」
滑走路の代わりに傷だらけになった自分のKV。そのシールドを撫でながら、和奏はそう労うのだった。