タイトル:【AP】堕天使の城マスター:姫野里美

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 2 人
リプレイ完成日時:
2009/04/24 02:36

●オープニング本文


 ラスホプ兵舎某所‥‥。
「うぉーい、ミクー、エイプリジャー始まるぞー」
「はーい」
 全然偉い人らしくないキャスター准将のガレージに、とてとてと上がりこむミクがいた、目的はじじぃの部屋に取り付けられている大画面TVで、ある番組を見る為である。

『寺網戦隊エイプリジャー!』

 春から始まった番組だそうで、ミクは番宣の段階から、とても楽しみにしていた。なぜなら、どっかで見た事のある役者が大勢出てきて、ミクは目の保養だと言い張っている。じじぃとしても、どっかぶっとんだメカが大量に出てくるので、オモチャ的な楽しみがあったようだ。

 番組はと言うと、OPが流れ、開始5分のとっかかりから、今週のゲストが酷い目に合い、高笑いする女幹部ミユと、怪人エチゴヤと、長官カプロイアがカオスな顔合わせを済ませた所である。
「あー、今回の話は美味しいかも」
 ミクが録画を回しながら、嬉しそうに声を上げた。なんでも、今回のゲストさんは、某ゾディアックのみずがめ座にそっくりな奴だそうである。
「OK。これで後は娯楽に飢えた人達がいる場所に流せば、勝手にお話作ってくれるぉ」
 嬉しそうにそう言うミク。何でも、じじぃが持ってる大画面TVの画質が、他の大きなお友達にも好評のようで、録画係になっているようだ。返礼は、それを見たお友達の煩悩話だそうで。
「今回はどんな話なんだ?」
「ん。こんな感じ」
 じじぃ、孫の話にあわせる為にか、興味を示したような素振りを見せる。ミクの持っている本の内容は決して一枚板ではない。ライバルが気に食わない奴もいれば、コンビを組んでた相手を好きになっちゃった場合もある。問題は全て男子なわけだが。
「ふむふむ。ミールヌイの町を脅かす悪の組織に立ち上がるエイプリジャー。だがそこにラインホールドの間の手が迫る‥‥。こないだの作戦じゃないか」
「みたいだぉ。まぁ別に人がいないわけじゃないから、きっと報道からヒントを得たんだぉ」
 番組紹介は、まるで最近の情勢をなぞっているようである。が、ミクはそんな事気にしてもいないようだ。
「で、今回はその堕天使だらけの城で、どきっ! なわけだな」
「そだぉ。羽っ子ネタだぉ」
 なにがどきっ。なのかよくわからないが、どうやら話の筋としては、ゴシック調の城に捕まったり乗り込んだり忍び込んだり正面から訪ねる等して、いろんな作戦やるというのが建前なようだ。
「早く出来上がると良いなー」
 わくわくとメールをチェックしているミク。その内容が、いわゆる腐ったネタなのは、言うまでもない。

●参加者一覧

神無月 紫翠(ga0243
25歳・♂・SN
水理 和奏(ga1500
13歳・♀・AA
アッシュ・リーゲン(ga3804
28歳・♂・JG
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
如月(ga4636
20歳・♂・GP
ミカエル・ヴァティス(ga5305
23歳・♀・SN
緋沼 京夜(ga6138
33歳・♂・AA
ラシード・アル・ラハル(ga6190
19歳・♂・JG

●リプレイ本文

 秘密結社テラリンの本拠地は、どことも知れない異空間にある。
「ん、浸入完了っと」
 そう言って、壁の隙間から廊下へ身を躍らせる如月(ga4636)。どう見ても忍者にしかみえないが、それもその筈、彼はある目的の為、正義だの悪だの関係なく、アジトへと潜入していた。
 だが、テラリンとてそうは問屋の下ろさぬ組織。通称カオス時空と呼ばれるそれは、エチゴヤをはじめとする怪人や、そこかしこにいる『優秀な』戦闘員達がうろうろしており、エイプリジャー達は、いつ出口にたどり着くともわからない迷宮へと、足を踏み入れてしまっていた。
「く。まんまとテラリンの罠にはまるとはね‥‥」
 そうぼやく如月。似たような模様の壁は、目印にさえならない。その為、10人ほど一緒に入ったはずのエイプリジャーも、既に姿を消していた。
「まさか、城の中がこんな巨大迷宮になってるなんて‥‥」
 如月と一緒に行動しているのは、女格闘家の水理 和奏(ga1500)。そうは言っても、どちらかと言うと少女。しかも将来有望な可愛い子さんだ。
「だが、古今東西、幹部と煙と馬鹿は高い所に登ると相場が決まってる。目的地はひとつだ」
 ぎゅっと拳を握りしめ、変わらぬ光景に誓う如月。わかなが「そうかなぁ?」と首をかしげているが、聞く耳を持ってはくれないようだ。
「目指すは最上階! ミユ社長の部屋!」
 秘密結社でも会社は会社なので、ボスが社長でも問題はないだろう。そう言う事にして、如月は、ずっと壁に張り付いていた排気ダクトへとよじ登る。階段が見えないので、手近な『上』にしたようだ。
「あーあ、知らないよ。姉さまに怒られても」
 わかな、そう言いながらも、自分も排気ダクトによじ登る。
「はっはっは、なぁんの事かなーー」
 空々しい笑いを浮かべながらも、如月は暗視ゴーグルのスイッチを入れる。明かりなんか当然ないが、時折部屋から洩れる光だけでも、充分だった。
「また、だね」
「さすがテラリンのアジト。簡単には通らせてくれないようだ」
 如月の動きが止まった事に気付いたわかなが、隙間から奥を覗くと、排気ダクトもまた迷路になっている。
「どうしよう。ミユ姉さまを止めなきゃいけないのに‥‥!」
 思わず大声を出してしまうわかな。いや、実際はさほど大きな声ではないのだろうが、狭いダクトなので、思ったより反響してしまい、はっと口をつぐむ。
「はい、騒がないで。ばれたら意味がないじゃないですか」
「うん‥‥」
 こくんと頷く彼女。まずは右手だか左手の法則に従い、壁に沿って進む。が、かがんだ腰が痛くなってきた頃、少し広いエリアに出た。が、その中央には何かの機械がうなりを上げており、その先は壁になっている。
「行き止まりですね」
「この下、降りれるみたいだけど‥‥」
 どうやら、何かの実験室のようだ。見た事があるそれらしき器具が並んでいる。ちょっと顔を覗かせてみると、何人か戦闘員の姿があった。
 ところが、その中に。
「かくれんぼ飽きたよー。いるんだろ? そこ、出てきなよ」
 青い髪の少年が、部屋の中央でそう言っている。その顔を見た瞬間、わかなの顔色が変わった。
「レンくん‥‥?」
 どうやら、知り合いらしい。胸にみずがめ座のマークをつけた彼に、ぎゅっと唇をかみ締めるわかな。その様子を見た如月は、周囲の状況を省みて、腰のホルスターに手を伸ばした。
「わかった。強行突破だ。どっちみち、これ以上進めそうにはないしね」
 そう言って、彼が取り出したのは、多人数を相手にするための銃だ。小型の為、殺傷力はさほどないだろう。
「いいの?」
「予想はしていたよ。気合と根性は、まだ残ってるかい?」
 申し訳なさそうにわかなが問うと、彼は頷いて、逆にそう聞いてきた。「大丈夫」と頷いた直後、壁の向こうのレンが、「こないなら、こっちから切っちゃうよー?」と、レーザーナイフをONにしている。
「今だ! 走れっ!」
「レンくん! また後でね!」
 如月が銃を乱射すると同時に、わかなは出口に向かって走り出した。戦闘員達は、如月に足止めされていて追いかけてこない。その間に、わかなの姿が消える。しばらくして‥‥如月の姿も。
「あぁら、逃げられちゃったわね」
 一連の騒動が収まった後、その部屋に現れたのは、フードを被った謎の人物だ。声からすると女性なのだろうが、レンは気に食わない様子で噛み付いてくる。
「逃がしたんだよ、わざと」
「そう? なら、お手並み拝見と行くわ」
 そう言うと、くるりと部屋を出る謎の女性。
「どっち行くんだよ」
「ミユ様に報告してくるわ。他の子も気になるし。それに‥‥、あなたのターゲットはあの子、でしょ?」
 観察者だしね‥‥と、呟いて、女性はわかなや如月が向かったのと同じ方向へと歩き出す。だが、その足音は途中で‥‥消えるのだった。

 テラリンの迷宮は、潜入した者達に等しく試練をなげかける。その1人、神無月 紫翠(ga0243)もまた、張り巡らされた罠により、分断されてしまっていた。
「一応‥‥侵入成功ですが‥‥気付かれる前に‥‥進みますか」
 相棒の榊 紫苑(ga8258)と共に、場内へと侵入した紫翠。そう言って、一歩足を踏み出した直後、足元の床が、突然崩れ落ちた。
「あぶな‥‥」
「うわぁっ」
 紫苑が手を伸ばす。何とか手をとったものの、その足元すら、ぽっかりと穴が開く。内側は、水の流れる路になっており、2人はそのまま中へと飲み込まれてしまった。
「コイツが例の侵入者か‥‥?」
 その彼がたどり着いたのは、先ほどの水路とは打って変わり、生活観さえ払拭された部屋だった。びしょぬれのまま、気を失っている彼を見下ろす、2人の青年。1人は、先ほどの黒ローブ、もう1人はアッシュ・リーゲン(ga3804)だった。
「まあドコの回し者かは大体想像はつくが‥‥‥‥念の為に尋問だ、俺の部屋に運べ。一応内臓に傷いってないかスキャンしとけ」
「やれやれ。人使いの荒い事ですね」
 ぶつくさと言いながらも、彼を寝台の上へと運ぶ。足以外は、かすり傷程度だった。内臓も、骨も異常はない。せいぜい、打ち身と捻挫くらいか。
「ここは‥‥。自分は、一体‥‥?」
 横に寝かせ、黒ローブがいずこかへ姿を消した直後、紫翠の目がぱちりと開く。まだ覚醒しきっていないのか、目を細めたまま、周囲の様子を確かめようとする彼の顎に、アッシュの指先が触れる。
「ようやくお目覚めか? 早速で悪いんだが色々と訊かせて貰うぜ。その前に手当てくらいはしてやるか」
 そのまま、首筋をなぞるように滑っていく指先。喉元を通過し、濡れた上着の合わせへと滑り込ませる。
「‥‥く‥‥っ」
 直接肌が触れ合う感触に、思わず身構える紫翠。だが、その瞬間ずきりと痛みが走り、顔を歪ませてしまう。
「いー子だ。んじゃ、ちょっと大人しくしていてもらおうか」
 抵抗出来ないのも道理で、その腕はしっかりと捕らえられている。その手首を、アッシュは腰から引き抜いたベルトで、しっかりと固定してしまう。そのせいでずり落ちた上着が、はらりと落ち、紫翠の白い肌を際立たせている。
「な‥‥にを‥‥」
 舌なめずりするアッシュに、戸惑う紫翠。
「尋問中に死なれちゃこまるんでなー」
 ベルトは、そう簡単に切れない強度を誇っているらしく、彼がいくら引っ張ろうが何しようが、外れる事はなかった。
「どっか痛むのか?」
「そんな‥‥んじゃ‥‥ない‥‥っ」
 紫翠のささやかな抵抗など、アッシュはお構いなしで、今度は上着の間から、腹の辺りをまさぐっている。耳元にわざと吐息を吹きかけるように体を寄せ、腹からわき腹へ。
「その割には力入ってないぜ。ほら、ここだって‥‥」
 もう一方の手で、胸の当たりに『触診』を施すと、喉から押し殺した声が洩れる。びくりと体が震えて、拘束具が軽く音を立てた。
「ふうん、ここが良いんだ‥‥」
 アッシュがちらりと表情を窺うと、顔が紅潮しているのがわかる。
「やめ‥‥」
「ちゃんと調べないと、どこが悪いかわからないだろ。よっと」
 首をそむけようとする紫翠の頬を掴み、無理やり自分の方へと引き寄せる。軽くキスして黙らせると、アッシュは迷わず彼をリクライニングシートの上にひっくり返した。
「へぇ、こんなところに傷が‥‥ねぇ?」
 引き裂いた上着に隠された傷跡。かなり古いそれは、おそらく彼がこの場所に来る事になった原因だろう。興味をそそられたらしいアッシュは、そのかなり酷い怪我だったらしい傷跡に、そっと触れる。
「さわ‥‥るな‥‥」
 びくんっと、背中が反りあがった。押し付けられた、くぐもった声。拘束された掌が、硬く握り締められている。何かをこらえるような姿に、アッシュは嗜虐心をそそられたのか、はっきりと言った。
「断る」
 爪を立てられ、大きく声が上がる。逆に、力はが抜けてしまい、ぐったりとリクライニングシートへ沈み込んでしまった。
「くくく、どうやら内臓には行ってないみたいだなー」
 問題なく、尋問には答えられそうだ。そう判断したアッシュは、部屋のサイドテーブルにあった小さなカプセルに手を伸ばす。
「それじゃ、答えてもらおうか」
「誰‥‥が‥‥んくぅ‥‥」
 拒否しようとしたその唇に、アッシュの唇が押し当てられる。舌で歯茎をなぞるようにこじ開けられ、差し込まれたのは、何かの液体。強引に飲み込まされたそれが、喉を通っていくのがわかる。胃の腑に落ちただろうと思われる頃、視界がぐるぐると回り始めた。感覚も薄れているのか、足首の手当てをしている痛みすらない。
「お前のだろ? 自分で綺麗にしてくれよ」
 思考回路さえ、おぼつかなくなっているのか、意地悪そうに言ったアッシュが、彼の唇に、自分の血でまみれた指先を押し当てる。
「ん‥‥」
 目元の緩んだ紫翠は、言われるままに、その指先をぺろりと舐めてしまう。
「ふふふ、素直になれよ」
 耳元で、ささやかれる。常に指先は、羽でなぞるように、背中とわき腹。そして胸と鎖骨に触れられている。
「俺の尋問がこの程度で終わると思うなよ?」
 引きずりこまれる様に重なる影。何かを押し下げるような衣擦れの音。ぎしりと軋むスプリング。後は、嬌声しか聞こえなくなる部屋。明かりはついたまま。
「やれやれ、お連れ様はお盛んですね」
 別室にいた黒ローブは、仕事は終わりとばかりに、そのフードを外し、ローブを脱ぎ捨てる。
「‥‥人の事、言えるのか? 寺田とやら」
 声をかけられて、振り返る寺田。彼の座ったベッドで、剣呑な瞳を投げかけているのは、分断されたはずの紫苑。どうやら、助けるはずの彼もまた、捕まってしまったらしい。こちらは拘束こそされていなかったが、既に武器も服も取り上げられてしまっている。
「‥‥そうかもしれませんね」
 でも、せっかくですから、よろしくお願いします。と、口だけは敬語で、彼のベッドへと潜り込むのだった。

 分断され、各個撃破される様子は、争いに加担するつもりのない者達にも伝わっていた。
「外が騒がしいな‥‥」
 階下から響く騒音に、ため息をつくUNKNOWN(ga4276)。彼の鋭い感覚が、誰かが捕らえられたのを告げている。そして同様に、彼のいる部屋の庭先でも、なにやら追いかけっこの気配。
「やれやれ。ゆっくり湯にも浸かれないか」
 様子を見る為、全身に付いた泡を流し、シャワールームを後にする。履いただけのボタンを外したスラックス。濡れた肌に前を開けたシャツ。濡れた髪が顔にかかる中、扉口に軽くもたれる様に顔を出せば、そこには、男が2人。
「おや、ずいぶんと艶っぽい格好でのお出ましですね」
 そう言って、倒れた御仁を冷たく見下ろしているのは寺田だ。もう1人は、右手に武器を持ったまま、いまだ切れぬ光を宿した青年‥‥崔 南斗(ga4407)。そんな彼の足元には、そこかしこに銃撃の跡があり、彼も、そして寺田の服にも、食らった跡が垣間見える。
「来なさい。私は静かな時間が好きなのだよ」
 そんな彼を一瞥すると、アンノウンはつかつかと歩み寄ってきた。そして、品定めをするかのようにじっくりと見比べ‥‥ややあって、片方の腕を掴む。わずかに覗いた切れ長の眼が、妖しい眼光を宿し始める。
「‥‥おやおや。ターゲットは私ですか?」
 一瞬、掴まれた腕の痛みから言葉を失う寺田だったが、それでもいつもの調子を崩さずに言ってくる。
「容赦なく差別なく愛そう。――私なりに、だが」
 その顎をくいっと持ち上げ、軽くキスを。
「いいんですか?」
 ちょっととうが立ってますよ? とでも言いたげな寺田。さすがにキスひとつで腰砕けにはならないが、それでも首にしなだれかかって、そう囁いて来る。
「心が砕けるまで、何人相手だろうが受け止めよう」
 腰に手が回され、そのままそっと部屋に引き入れる。洋装の似合うフローリング。アンティークに整えられた、華美ではないが瀟洒な部屋。白いシーツも肌に優しい天然素材だ。そこに開け放たれた窓から春の香りと、揺れるレースのカーテンがかけられており、いくつか置かれたソファの1つに、押し倒す。
「情熱的な事で」
「人は恋する限り若者であり、愛する限り青春の中にある。――私は若者でも、青春の中にもないが」
 そう言って、彼は半裸のまま、寺田の服をなでるように脱がしていく。抵抗する気配はなかった。くすぐるように肌に指先を這わせれば、だんだんと顔が紅潮してくる。
「ふっ‥‥‥‥初々しい、というものだな。そういうのも悪くない。――育て、生かし、花咲く様を見るのは楽しいものだから、ね」
 それでも、簡単に声を聞かせたくはないのだろう。挑戦めいた課題に、口元が緩む。かけてあった黒い紐の様なものを持ち出すアンノウン。それを、手首の当たりに丁寧に巻いていく。痛むのか、少し綺麗な顔が歪んだ。
「はじめは、少し痛いかもしれないけど。慣れてくれば新しい世界、だ」
 慰める様にキスをして、構わずに締め上げる。ぬらぬらと光る細い紐は、どういうわけか、あまり跡は残していなかった。さらにチョーカーまで締めさせようとするアンノウンに、寺田は深く吐息をはく。
「あなたも、ですか‥‥」
 どうやら、自分だけではないらしい。耳元で教えて欲しいなーとばかりに問いかけ、息を吹きかける。同時に左手が肌の上に触れた。
「流行なのか、緊縛プレイが多くて‥‥。指導係としては‥‥悩ましい所‥‥」
 刺激が強いのか、事情説明が途切れ途切れになる。その挑戦的な仕草は、上気した唇と白い肌に浮かぶ紐に煽られ、このまま色々鳴かせてしまいたい衝動にかられてしまうものだった。
「課題、か」
 ならば、それに応えるまで。明かりを落とし、蝋燭に火を灯す。ほのくらい明かりは、近づかねばお互いの表情をうかがい知れないほどだ。
「痕はつけないで下さいね」
「その辺は、研究済だよ」
 何をするかわかったらしい。カーテンが閉じられ、窓から中をうかがい知る事は出来なくなる。
「もう少し、かな」
 どういう扱いをされたのか、少しだけ『声』が激しくなった。しばらくして、寺田は大きくため息をつき、ささやくように問いかける。
「‥‥まったく‥‥、そんなに私を鳴かせたいか‥‥?」
「‥‥答えるまでもなく」
 その為に、わざわざ色々と研究を重ねたのだから。
「仕方がない人ですね‥‥。おいで」
 きし‥‥と、ソファが軋む。シーツが衣擦れの音を立てた。
「抱きしめろと?」
「鳴かせたいなら、それなりの事をね。暴力を振るうつもりはないのだろう?」
 いくら常人にはあまり理解の出来ない品を使っているとは言え、決して傷つけるつもりのない事は、押さえつけた手首を見ればわかる‥‥と。
「ふふ、そうだな。さあ、散歩に行くか 可愛い我がペットよ」
 チョーカーにつけられた鎖がちゃり‥‥と鳴った。

 闇は、果てしなく広がる。一部では光の差し込む部分もあるが、堕天使達の居城と言うだけあり、広がる空気はどんよりと淀んでいた。
「ここは‥‥」
 目を覚ましたラシード・アル・ラハル(ga6190)がいたのは、クラシックな部屋だった。革張りのソファーに、ゴシックな拷問具の数々。そこで彼は、ベッド際に置かれた棺おけの上で、壁に手錠で拘束されていた。
「俺の部屋だよ。ねずみにしては勿体無さ過ぎるからね」
 そう言ったのは緋沼 京夜(ga6138)。いつもは吸血鬼然とした姿の彼も、今はバスローブに着替えていた。ほのかに石鹸の匂いを漂わせつつ。猫なで声でそう言って、くいっと顎を持ち上げる。そして、手にしたグラスに入っていた真紅の液体を口に含むと、そのままラスへと口移しに飲み込ませる。
「何を‥‥」
 喉を滑り落ちていくと共に、手首のあたりがじんわりと熱を帯びる。黒革の手錠が自身の肌を締め上げる度に、言いようのない感覚が走るそれに、ラシードは戸惑ったように問うた。
「こいつは特別製の薬でね。痛みを快楽に変えるのさ。お前が快楽に屈しなければ、殺されてやってもいい」
 そう言って、自らも液体を口に含む彼。これで、お相子だと言わんばかりに。その自信たっぷりな態度に、ラシードは潤んだ目で睨みつけながら、強がって応じる。
「僕、ゲームは強いんだ‥‥負けないよ‥‥」
「せいぜいがんばる事だ」
 血に濡れた様に赤い京夜の牙がせまり、ラシードの首筋に刺さる。噛み付かれたはずのそれは、甘くキスをされたような刺激となって、その肌を駆け回る。
「ん‥‥く‥‥」
 かみ締めた唇に、義手の指先が触れる。軽く放電しているはずのそれは、舌先で撫でられているかのようだ。それでも、なんとか歯を食いしばり我慢するものの、喉から零れ落ちそうになる悦楽の声は、隠しようがない。
「正義の味方に何の意味がある。欲望のままに生きてこそ、そこに幸福があるのだ」
 開いた手に、かけてあった鞭が握られる。身を離し、物足りなそうな視線を向けるラシードに、そう言って振り下ろされるのは、細い鞭。
「そんな幸福、僕は‥‥要らない‥‥っ‥‥ああ‥‥っ」
 服が破れ、艶やかな褐色の肌が露になる中、ラシードは京夜を睨みつけるが、その上気した頬は、懇願しているようにしか見えなかった。
「ふふふ、じゃあこの目はなんとする?」
 ぎり、と頬に指先が食い込む。涙が一筋‥‥また一筋と零れ落ちる。喉の奥からこみ上げてくる感覚に、声を詰まらせてしまう。
「さあ、お前も目覚めるがいい‥‥‥‥。俺様の奴隷としての幸福な生き方に、な」
「‥‥っ、やだ‥‥! やめてよ‥‥っ」
 しゃくりあげながら、弱弱しく首を振る。もう少し‥‥と、京夜の口元から牙が覗く。後ろから羽交い絞めした京夜に、強く首筋を噛まれ、耐えても如何してもこぼれるラスの『声』。
「強情だな」
 それでもなお降参しないラスに、痺れを切らしたらしい京夜は、左手でその腰の辺りに触れた。
「ああ‥‥っ‥‥」
 直後、そこから電流が流される。体を駆け抜ける刺激に、とうとう声を上げてしまうラシード。そのまま、ぐったりと力が抜ける。
「ごめ‥‥なさ‥‥長官‥‥」
「ふっ、ついに堕ちたか‥‥‥‥可愛い奴だ。いいだろう、直接可愛がってやる」
 ベッドの上で、体を弛緩させているラスを組み敷き、バスローブを脱ぎ捨てる京夜。
「くくっ、薬が無くても感じられるように‥‥‥‥。そして、その快楽無しでは生きられないように 調教してやろう‥‥‥‥堕落するがいい」
 と、気を失ったはずのラスが、ぱちりとめを開いた。そして、今度は甘えるように自ら京夜に唇を寄せ、耳元で懇願する。
「ね‥‥手錠、外してよ‥‥どこへも、行かないから‥‥」
「可愛い子だ」
 ついでにぺろりとその耳朶を舐め、おねだりするようなキス。にんまりと微笑む京夜が拘束具を外し、その手を自らの背中に回させる。ぎゅっと抱きついてくるラス。
 だが、その直後だった。
「がはっ‥‥‥‥貴様、何故‥‥‥‥」
 京夜の喉がのけぞっていた。見れば、京夜の胸のあたりから、深々と銀の鍼が生えている。見れば、ラスの腕時計から、長針が外れていた。
「だって‥‥生かしておいたら、他の子にも、同じ事、するんでしょう?」
 自らの腕の中に倒れこむ京夜を、満足そうに見つめ、ぎゅっと抱きしめるラシード。まるで、大切な人形を手に入れたかのように。
「俺様の野望が‥‥‥‥こんな所で潰えるとは‥‥‥‥。だが、お前がそれならば‥‥ふはははは、ははははははは――‥‥!」
 潜んだ闇は、京夜が儀式の中で与えたもの。屈服したふりと言うわけではない。ただ少し‥‥闇が行き過ぎただけの事。ならば、ここで自分が倒れても、悔いはない。
「これで貴方は、永遠に僕だけのもの‥‥」
 京夜の返り血を舐め、幸福な微笑を浮かべるラスの表情は、バンパイアの落とし子と呼ぶに相応しい姿だった。

「と、言う事で、だいたいは捕獲済み。あと、妹君が弟君と楽しい兄弟げんかの最中よん」
 ミユ社長の部屋で、ミカエル・ヴァティス(ga5305)が炎の中に見せるのは、あちこちの『捕獲』風景。
「そう。なら、任せておいたほうが良さそうね‥‥」
 ミユ社長こと女幹部ミユ、嫣然と微笑む。炎の1つでは、わかながレンの放った天使達に追いかけられて、全力疾走の真っ最中だ。既に、体操服のあちこちが破け、血が若干にじんでいる。
「プロフはこれね。どう料理するかは、あの子次第だけど」
 そう言って、彼女の大雑把なデータをご披露するミカエル。年齢13歳。ミユと義姉妹の契りを交わしたものの、生来の正義感からか、エイプリジャー側に寝返り、正義の格闘家わかなを名乗って、ミユの横暴を止めると言うのが目的らしい。
「私の妹を自称するくらいだもの。ちょうど良いんじゃないかしら」
 もっとも、みずがめ座の猛攻から逃れている妹を心配する気配は、欠片も見られない。
「で、もう1人はどうする?」
「好きになさい。その杖、そろそろ誰かを焼き尽くしたくて、うずうずしているでしょうし‥‥ね」
 意地悪く微笑むミカエル。テラリン内でも奔放な彼女、敵味方関係なく嗜好の標的にする為、恐れられているのだが、ミユはそんな彼女の性癖を熟知した上で、如月に差し向けるようだ。
「ふふふ‥‥。じゃあ、そうさせてもらうわ」
 するり‥‥と、再びローブを被り、妖しい女性魔道師となったミカエルは、部屋から抜け出ると、階下の迷宮でマラソン中の如月の元へと向かった。
「ど、どこまで追っかけて来るんだよ‥‥。勘弁してくれ、まったく」
 その如月、まだ戦闘員に追いかけられていた。いくつかに分かれた通路を抜けた先には、やたら嬉しそうな声を発するミカエル。
「お待ちなさいなー」
「くっ、捕まってたまるか!!」
 ナイフを投げつけ、足止めをする如月、くるりと方向転換し、人のいない方へ何とか進もうとする彼に、ミカエルはその口元を緩ませる。
「そっちがその気なら、こっちも容赦しない方が礼儀ってもんよねぇ」
 杖を一振りすると、空中に巨大な火の玉が放出される。それは、周囲にいた戦闘員すら巻き込んで、狭い通路に盛大な爆炎を呼び起こした。吹っ飛ばされ、髪の毛とお肌が香ばしい匂いを上げている如月。その首元にミカエルの杖が押し当てられていた。
「はい、チェックメイト」
「この人数じゃどうにもならないか‥‥」
 背後には、戦闘員の小山。挟み撃ちを食らった格好になった如月が、悔しそうに周囲を見回しているが、そこには蟻の這い出る隙間もありゃしない。
「中々よく出来てたわよ」
「いやー、そう思うんだったら、何とかしてくれませんか?」
 大勢よりは1人を相手にしたほうが良い。そう思った如月、ミカエルだけをターゲットにする事に決めたようだ。腰のナイフに手を当てつつ、通り抜けられる隙をうかがう。
「残念ね。獲物はじっくりいたぶる主義なの」
 が、その周囲に、今度は小さめの火球が浮かんだ。ふよふよと、まるで牢獄のように周囲を飛び回るそれに、如月は頭を抱えている。
「あうあー」
「そんなどんよりされると、ますますいじめたくなっちゃうわ」
 にじり寄るミカエル。それに伴い、火球も如月へと迫る。だが、そのせいで、通路が若干開いた事を、如月は見逃さなかった。
「隙ありっ」
 通り抜ける。その刹那、ミカエルが被っていたフードがあらわになった。中身の、明るそうな表情があらわになる。「やぁねぇ、ばれちゃったわ」とか言いながら、フードを脱ぎ捨てた彼女。いわゆるナイスバディな魔女って奴だ。ご丁寧に胸元を強調するジャケットに、足までばっちりと言う奴である。
「美人さん‥‥?」
 それを視認した如月。とたん、目の色が変わった。今までは、なんとしても通り抜ける! と真剣だった筈なのに、急にしまりのない顔つきになって、逆にミカエルへとにじり寄る。
「そこのお姉さん〜、こんな城にいないで一緒にどこか行きましょうよ〜」
「ちょ、何するのよっ!」
 今度は、ミカエルが追いかけられる版だった。ケータイ片手に、アドレス交換を迫る男子は、鬼気迫るものがある。本能的に逃げてしまったミカエル。迫るのは大好物だが、かと言って無理やり押し倒されるのはどうかなーと言う奴である。
「残った体力をこの一瞬にかける! 捕まってたまるかあああ!!」
 形勢逆転となった瞬間、如月は取って置きの杭打ち機を、背中から取り出す。ずばしゃこんと撃たれたそれは、ミカエルを壁に貼り付けにしてしまった。
「後で絶対迎えに来ますから、そこでちょっと待っててくださいね☆」
 身動きできないわけじゃないんだが、自由の利きづらいミカエルに、如月は、んーっと想いっきり抱きしめると、嬉しそうにそう言う。
「今すぐによ!」
「そんなぁ‥‥ぽ」
 げしげしと足蹴にされて、頬を染める如月。しかもしっかり上着まで脱ぎ始めちゃった彼に、ミカエル思わず一言。
「帰れお前」
「じゃ、お言葉に甘えて!」
 ついでにケツを蹴り飛ばされた如月、ここぞとばかりにくるりと踵を返す。
「よっしゃあ! 最上階到着!! ‥‥つ、つかれたぁ‥‥」
 階段を一気に駆け上がり、ぜぇはぁと息を整える如月。顔を上げると、そこにはあられも無い姿になったわかながいた。
「や、やだ‥‥僕の秘密を、これ以上覗かないで‥‥」
 しかも、ちょうど床に組み敷いたような格好で、レンがにやにやとその破れかけた体操服に手をかけている。ショタパワー全開で絡んでいる二人に、社長はまるで兄弟げんかを見守るような顔で「困ったわねぇ」とか呟いていた。
「そう言われると、見たくなるんだよね。全部剥いちゃおうっと」
 で、レン。周りなんか見えていない様子で、その体操服を破りとる。わかな、思わず胸元を押さえているが、そこに女性らしいふくらみはまったくなかった。
「わかな、いったい!?」
 まぁこの年頃のお嬢さんなら、わずかながらも女性らしい体になってるもんだと思っていた如月、ちょっと目をぱちくり。
「追いついたわよ。さぁ焦がして上げるわっ!」
 見本とばかりに、女性らしすぎる豊満な体のミカエルが、破いちゃった服をおててで押さえながら乱入してくる。
「って。あら? さっきの子じゃない。どうしたのよ、その胸」
「なんだよ、邪魔するなよー。せっかく体の秘密を暴露中なんだからさー」
 顔を真っ赤にしている正義の格闘家わかなさんを尻目に、うにうにと胸の辺りをつついたりなでたりしながら、あっかんべーとやるレン。が、そんな中、如月はきっぱりと明言していた。
「いや、世の中にはつるペタが良いと言う人もいるし! さほど問題じゃない!」
 泣きそうな顔のわかなを気遣っているのだろうか。いや、違う。
「確かにそんな人の教団があったような」
「そういえば、うちの組織にもいたような‥‥」
 そう言う如月に、社長も構成員リストを脳みそに浮かべながらそう答えた。世の中、貧乳娘を神格化してる方々とか、あえてその貧乳を愛でている方もいるのだ。
「なぁんだ。じゃあ別に嫌いにはならない?」
「ま、まぁ性別が違うくらいで、どうこうは言いませんわね」
 ちょっとほっとした表情のわかな。何しろ、世の中には『男の娘』と呼ばれる存在の方々もたくさんいるのだ。慕われるだけなら、性別なんぞ関係なさそうである。
「よかった。だからミユ姉様だーい好き」
「ちょ、ちょっと、くすぐったい〜」
 半裸のまま、ぴとっと抱きついて、ふにふにとほっぺをすりつけるわかな。説得はどこに消えたのか、そこだけ見ると仲のよい兄弟である。そこを、如月は見逃さなかった。
「よし、いまだ! 女幹部ミユ‥‥メルアドくださいっ!」
「「「「は‥‥?」」」」
 その瞬間、ミユを含めた全員の目が点になった。だが、如月は構わずデスクへと詰め寄り、ミユ社長のお手手を力の限り握り締める。
「くれたらおとなしく帰りますし、以後、一切邪魔しませんので。あ、そちらの情熱的なお嬢さんもよろしければ、是非!」
 ぐいっと顔を近づけ、お願いします! と頭を下げている如月。一大告白と言わんばかりの格好だが、振り返ってミカエルにも、さわやかな笑顔とやらを浮かべて、右手を差し出していた。まぁ、褒められて悪い気はしなかったので、ミカエルはミユにこっそりと聞いた。
「どうする?」
「ま、まぁ一応名刺くらいは渡しても良いと思うわよ」
 と言うわけで、引き出しの中にあったテラリン代表取締役社長ミユ・ベルナールの名前が刻印された名刺が、如月と‥‥ついでにわかなにも渡される。裏ッ側に、ミカエルも自分のメアドを書き込んでいた。
「よーし、メルアド、ゲットだぜ!」
 その名刺を高々と掲げる如月。隣でわかなが『やったね!』とばかりにピースサイン。
 そんなわけで、色々あったが、エイプリジャーはめでたくテラリンのアジトに飲み込まれた。この後、戦局がどう傾いたかは、また別の話である。