タイトル:暗号名はサンダーゴッドマスター:姫野里美

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/08/29 03:42

●オープニング本文


 その日、ラスホプへの定期便に、カラスの姿があった。彼は研究所のあるあたりや、兵舎付近を通り抜け、その外輪舞へと足を運ぶ。木立に囲まれ、四季の香る公園めいた港‥‥といった風情のそこに、一人の少年がいた。
「久しぶりですね。ティグレス先輩」
「ああ。お前も元気そうだな」
 ぶっきらぼうな口調で、カラスにそう言う少年。もたれかかっていた木から身を起こし、乱れていた制服を若干調えた彼。黒髪黒瞳の、日本人としてはかなり長身の部類に入るだろうその身は、洗練された肉体が隠されている事を裏付けるに充分なものだ。
「幸運な事に、まだ顔に傷がつくような目には合わないで済んでますよ。それで、わざわざ呼び出した用件と言うのは?」
「AUKVの件だ‥‥。研究部から要請があったのでな‥‥」
 そう言って、ティグレスが持っていたアタッシュケースから出してきたのは、結構な枚数のある書類だ。カンパネラ学園の校章がプリントされたA4封筒に入れられているそれを、ちらりと一瞥するカラス。その1ページ目に、大型バイクの写真が添付されているのを見て、こう答えた。
「サンドリヨンですね。仕様書はそちらに行っている筈ですが‥‥」
「研究部に駄々をこねられた」
 短く言うティグレス。そこで、実物を運ぶ手続きを取ったらしい。
「ふむ。この計画だと、准将が喜びそうですね」
 書類には、研究部の名前で、サンドリヨンの所見や概要、そして新たに付け加えられるコードネームや、どの装備を重視すれば良いのかなど、細かい指定が書いてある。これを元に現在のリンドヴルムを組み立てたわけだが、予定表には更なるバリエーションをと書かれていた。
「例の試作機と、准将殿を招いて、開発を続行したいそうだ。頼めるか?」
 書類を元に戻すカラスに、ティグレスがそう言った。その視線を向けた先には、公園の向こうに、小さく浮かんで見えるカンパネラの校舎がある。ドームに覆われた‥‥一見すると空の小島のように見えるそこには、傭兵としての能力を持った学生達が、数多く暮らす。今もまた、盛大なチャイムを鳴り響かせていた。
「しかし‥‥、全タイプあわせても24機しかありませんよ。いいんですか?」
 カラスの問いに「構わない」と頷くティグレス。あまり口数の多い男ではないらしい。
「わかりました。輸送手配をしておきます。目立つのが難点ですが」
 だからこそ、傭兵に頼みたいのだろう。カラスはそう言うと、無口な先輩に一礼し、遥かかなたに浮かぶ半球の学び舎に横目で見ながら、本部へと戻るのだった。

 だが、それと時を同じくして。
「またか‥‥」
ミラノの研究所で、キャスター准将が、モニター見て頭を抱えていた。画面には、まるで夕立の雷雨か何かのように、盛大な稲光が瞬いている。
「このままでは、発進出来ません。移動してるし、レーダーはジャミングで使えないし、どこから飛んでくるかわからないし」
 文句を言う研究員。彼が見ている画面には『無線』と端っこにかかれた海岸の画像が見えた。だがそれも一瞬の事で、直後、真っ白に染まったかと思うと、真っ黒に沈黙する。
「愚痴るな。この時期、日本じゃよくある話だ」
「ここはヨーロッパです。それに、地上からさかさまに落ちる雷なんて、聞いたことありませんよ」
 偉そうに言った准将だが、研究員に冷静にツッコまれ、うみゅぅと呻く。別のモニターでは、相変わらず地面から盛大な雷が立ち上っていた。耳を劈く轟音と共に。
「どこかでキメラがへそ曲げてんのかねぇ。種類もわからないか?」
「まだ調査中です。何しろ現場は、気流の関係でKVが入れないので、確認する前に落とされちゃうんですよ‥‥」
 もっとも、移動はしているが、さほど離れていないエリアで観測されているので、複数いたとしてもごく少数だそうだが。
「やれやれ。一筋縄ではいかないな‥‥」
 ため息をつく准将。そこに、ラスホプからのコールが鳴り響く。
「なに。サンドリヨンと俺を運ぶ? ああ、そう言えば、チケット届いてたな」
 電話の相手はカラスだった。専用回線に画像が映し出される。書類はかなりいい加減に積み上げられている。ため息をついて彼は、ずびしと言い切った。
『相変わらず郵便物に目を通さない人ですねぇ‥‥。どうせ荷物もまとめてないですよね』
「野郎の荷物なんぞ、1時間もあれば準備できるわい。それよりも、このあたりのデータ一式だなー」
 准将が視線を落としたのは、どう見ても旅行用のトランクにしか見えないブラックボックスの山である。
『手の空いている傭兵さん達に手伝ってもらえば良いと思いますよ。それで、本題なんですが‥‥』
 サイエンティストあたりに頼めば、データを傷つけずに運んでもらえるだろう。このあたりは、価値のわかるものに作業を任せれば良い要領だ。
 だが、もう1つ問題が。
「まずいなー。今、発着場のあたりで、雷神さんがへそ曲げてる」
 窓から見えるのは、搬入用の発着場。もしサンドリヨンを運ぶとしたら、機体が何であれ、必ずそこを通る。その出入り口付近に、盛大な雷が上がっていた。
『それは困りましたね。あれを24機となると、ガリーニンが必要なんですが‥‥。あれの重量って、いくつでしたっけ?』
「最大4トンだな。バラせばもう少し軽くなるかもしれんが」
 いわゆる乾燥重量と言う奴である。しかし、時間はかかる上、いざと言うとき、戦力として使えない。
『2機か3機で運べば何とか‥‥か。あ、そう言えば、この間准将が作っていた輸送型KVの試作機がありませんでした?』
「無理だなー。コクピット半分つぶして、搭載力上げたけど、その分重くなったからなー」
 D−04の改良に取り掛かっていた准将、さすがに小型とはいえKVを背負ったままでは、ラスホプ上空まで上がらないと示唆する。いつの世も、頭の固いえらいさんには、苦労しているようだ。
『やっぱり、コンテナを吊り下げ方式にするしか方法ないですかねぇ‥‥、けど高度がなー‥‥。難しいキャッチャーになっちゃうなぁ』
 難しそうな計算式とにらめっこしているカラス。どうやら、サンドリヨンをバラしてコンテナに詰め込み、それを6方向から支え、ラスホプ‥‥いや、カンパネラに持ち込むつもりのようだ。
「クレーンゲームなら、得意な奴いるだろう」
『そう言う問題じゃないです』
 准将に言われて、じとめでツッコむカラスだが、無骨で飾り気のないコンテナを、楽しく塗り替えちゃいそうな傭兵が居る気がしてきた。
「その前に、あの雷様どうにかしないと、ロープ全部感電しちゃいますよ」
「中身もだなー。一応コンテナに耐電処理しとく。あと、クレーン班はそこまで手が回らんだろう。別の掃討チームを編成しとけ」
 だが、その出発と到着には、雷雲を突き抜ける刃が必要なようだった。

●参加者一覧

愛紗・ブランネル(ga1001
13歳・♀・GP
獄門・Y・グナイゼナウ(ga1166
15歳・♀・ST
ネイス・フレアレト(ga3203
26歳・♂・GP
瓜生 巴(ga5119
20歳・♀・DG
ミカエル・ヴァティス(ga5305
23歳・♀・SN
旭(ga6764
26歳・♂・AA
嵐 一人(gb1968
18歳・♂・HD
夏目 リョウ(gb2267
16歳・♂・HD

●リプレイ本文

 嵐 一人(gb1968)の提案で、まずは打ち合わせする事になった。
「報告では聞いてましたけど、盛大ですね‥‥」
 縄張りに近づくにつれ、雷の音も光も大きくなっていく。元気良く跳ね回るサンダーズに、グッラップラー2人‥‥愛紗・ブランネル(ga1001)とネイス・フレアレト(ga3203)が顔を見合わせる。とどろく雷鳴に、アイシャは注意して待機とか言いながら、すっかりネイスの後ろ側に隠れてしまった。
「あー、複数形だから、サンダースピリッt‥‥。あー。それは不味いかねェー!」
「では、片方がサンダースピリット、もう片方サンダーゴッドとお呼びすればいいんじゃないでしょうか」
 獄門・Y・グナイゼナウ(ga1166)の台詞に、やや他人行儀な口調で、瓜生 巴(ga5119)が間を取ってくれる。まだ二匹いると確定したわけではないのだが、他の面々も、その案を受け入れてくれた。
「それにしても、姿の見えない雷神ですか‥‥。興味はありますが、果たしてうまく捕まえられるかな‥‥」
 ネイスが、まるで実際の雷と同じ様に、すぐに姿を消したサンダーズを、一生懸命探している‥‥様な口ぶりで、そう言った。
「俺はそれよりもこっちの方が気になるな。俺達の新たなヨロイになるといいんだが」
 もっとも、夏目 リョウ(gb2267)はサンダーズよりも、コンテナに詰め込まれたサンドリヨンと、キャスター准将から預かったコンテナ型データボックスが気になるようだ。
「本当に2匹いるのかなぁ。リョウ兄ちゃん、確かめてきて☆」
 その態勢のまま、リョウに向かっておねだりするアイシャ。「元よりそのつもりだよ」と苦笑した彼、研究所外へ止めてあったAU−KVを取ってきた。
「あれ、電力エネルギーとして使えればいいのにね。でも、やっぱり倒さなきゃだめかな」
 アイシャがきっと可愛いのに‥‥と、がっかり顔で肩を落としている。と、ミカエル・ヴァティス(ga5305)がそんな彼女を慰めるように、こう言った。
「ペットにしては物騒すぎるから、ね。でも、もし可愛かったら、ひきつけてる間に、運び出して貰えればいいんじゃない?」
 ハリネズミの親玉を飼うのには、勇気と気合と根性だけでは足りないようだ。そんな2人に、それまで黙っていた旭(ga6764)が、表情は普段のままで、のほほんとこんな事を言い出した。
「知ってます? 雷様の前でおへそをだすと、取られちゃうんですよ?」
「おへそ?」
 きょとんと、はっちーにかくれた自分のお腹を見下ろすアイシャ。
「さしずめ、獄門さんとヴァティスさんが要注意です」
 のんびりとした口調で、なーんも気にしていないように、ミカエルとユウコのお腹に視線を落とす旭。顔を見合わせる2人に、彼は思い出したようにこう呟く。
「そう言えば、『くわばらくわばら』と唱えると雷様から逃れられると言いますが‥‥」
 とたんミカエルとユウコ、呪文のようにクワバラと繰り返す。その光景に内心ほくそえむ旭だった。

「まずは確かめないとな。烈火、頼むぞ!」
 バイクにそう名前を付けているらしいリョウ、ガリーニンすら発着できそうな広い滑走路のど真ん中へと突っ込んでいく。白ベースに赤と黒のラインを引いた嵐のリンドヴルムも、派手な音を立てて、走り出す。
「さあて、そろそろ姿を見せて貰うぜ!」
 本当は静かに走りたいらしい嵐だったが、その割には勢い良くマフラーを吹かしている。そして、2人で交互に横波を描きながら、大きく8の字を描いていく。広さと余裕がかなりある為、ぶつかる事はなさそうだ。
「出てきた!」
 ものすごく大雑把に言うと、センターラインの無い追い越しを繰り返していた彼らに、いい加減にしろと言わんばかりに、雷が大きくなる。そう、言うならば反対車線から現れたトラックだった。
「虎か‥‥。確かに、あの大きさなら隠れられはするな‥‥」
 その見た目に、納得するリョウ。ベースは虎と言ったところだろう。烈火より一回り大きいくらいの体躯は、普通の虎と同じ程度だ。ただ問題は、その周囲に、びりびりと放電が盛大に巻き起こっている事。しかも‥‥2匹。
「でかい割りに早いな。この速度じゃ、攻撃は出来ないか‥‥」
 虎キメラは、まるで猫が威嚇するように毛を逆立てると、こちらに向かって突っ込んできた。その速度は、全力疾走のリンドヴルムよりも速い。
「一発食らったらただじゃすまないな‥‥」
 バイク形態のAUKVは戦うような機体に出来ていない。リョウは対抗車を避ける要領で、烈火の車体をを斜めに倒し、ハンドルを左にきった。車体が大きく反り、弧を描いて虎のすぐわきを通り抜けようとする。
「うわぁっ」
 が、例えドラグーンに適応したバイクとは言え、そう簡単にレーサーばりの技術がこなせるわけではない。急角度で曲がりすぎたリョウ、振り下ろされたキメラの爪が当たり、車体を立て直す事が出来ずに、横転してしまう。
「このっ! コケてたまるか!」
 同じ様に、もう一匹の右横を通り抜けようとした嵐、その雷撃を食らい、バイクに急ブレーキをかけたような形となって右向きに大きくスピンする。しかし直後彼は、アーマー形態へのスイッチを入れた。錬力の注ぎ込まれたリンドブルムは、体勢を崩しながらも、嵐の体へと装着される。地面へ転げ落ちるようにモーションを完了させる嵐。
「大丈夫か? 夏目!」
 アーマー姿のまま、反対側のリョウに叫ぶ彼。と、バイクの向こうから「すまない。俺がふがいないばっかりに」と、声が返ってきた。どうやら、生きてはいるようだ。
「下手に使うと突っ込むぜ。かく乱できるか?」
 彼らが走り抜ける発着場は、そのまま海に切れ込んでいる。うまいことターンをかけなければならないが、リョウの体は大丈夫だろうか‥‥。と、そちらを見ると。
「こちらリョウ、雷神様の招待には成功した。約束の場所まで突っ走るから、数の把握とパーティの用意を頼む」
 リョウが、遠距離攻撃班に連絡を入れているところだった。まだいける‥‥と判断した嵐は、ブーストの変わりに、その翼へと錬力を流し込むのだった。

 連絡を受けたのはミカエルだった。
「了解。来たわよぉん。どうやらやっぱり2匹いるみたいねー」
 クルメタルPー38に取り付けたスコープで、ドラグーン2人が先を争うように入れ替わっているのを覗き見ながら、そう報告してくれる。
「しかし、ここはヨーロッパなんだから、もうちょっとTPOを考えて欲しいわね」
 そう言って、後衛のユウコとミカエルに被害が及ばないよう、正面から走りこむ巴。頭に何があったかは知らないが、少なくともイメージしていた巴紋入りの大太鼓持った鬼とも、北欧神話出身なのに、なぜか北米でぶいぶい言わせてる雷帝でもないのが、不満だったらしい。
「バグアにそんな事言えないわよ。私は後ろにいるから、離れないでね〜」
「私も後ろかな。背後、近づかせないようにしてねっ」
 残りの2人は、サンダーズから30mほど離れた位置に陣取っている。ミカエルがショットガンに持ち替えていた。
 ところが。
「撃って来ましたっ!」
 ネイスがそう叫んだ直後、片方の口がぱかりと開き、巴達がいる場所へ、雷の弾を発射させる。落雷と同じだけの音量を発揮したそれは、前衛部隊の中心部へと炸裂していた。
「基礎能力はそれほど高くないみたいですけど、雷撃がっ」
 何とか直撃は免れたものの、体がびりびりとしびれて動かし難い。
「片方が雷撃で、片方が衝撃みたいですね‥‥」
 そのおかげで、スピリットが近接、サンダーゴッドが遠距離タイプだとわかる。しかも、ゴッドが後衛、スピリットが前衛と、役割を分担しているようだ。
「何とか分断できればいいんですけど‥‥」
 そう呟いて、スピリットの攻撃を避ける事に専念する巴。何とか距離をとれば、そこへ2発目の雷弾が炸裂する。
「数はそう多くないみたいですね。ミカエルさん、先にゴッドの方を叩きません?」
「はいはい。あ、狙撃眼は発動しといた方が良いわねー」
 控えめにそう言って、エネルギーガンを向けると、ミカエルも頷いて、ショットガンに狙撃眼を発動させる。そんな彼らに、雷撃をまとったスピリットが、距離を詰めてくる。
「うっひょぉぉぉぉ! シビれるような〜恋がしたいの〜♪」
 そんな事を言いながら、その足元に銃弾をお見舞いするミカエル。はじかれて後退するスピリットだが、まだまだ元気そうだ。
「その調子で、近づけさせないで下さい」
 そう言って、狙いを定めずにエネルギーガンを撃ちまくる巴。ダメージが当たっているかどうかはわからないが、少なくとも近づいてはこない。そこへ、ユウコが背中を合わせるように擦り寄ってきた。
「ミカエル、怪我は?」
「平気平気。巴ちゃんがカバーしてくれたし」
 楽させてもらってるわよーん♪ と、巴のほうを指し示すミカエル。人とコミュニケーションを取るのが苦手な成果、ほぼ中央部分でばしばしと撃っている彼女に、二匹からの攻撃が炸裂していた。
「私にはこれがありますから」
 そう言って、レイエンチャントを、その銃身にまとわせる巴。
「さぁて、来るわよ!」
 ゴッドの口が、かぱりと開いた。狙いは巴だ。指向性と言うよりは、炸裂系なのは、さっきラーニング済。ならば、おのずと対応は決まってくる。
「強化してない子はいない? あったら言ってね!」
 ユウコがそう言う。と、巴はかすかな笑みさえ浮かべていた。直後、手のひらに走る亀裂から、黒き光とも言うべきモノが大きく周囲にこぼれ出る。
「大丈夫です。ばしばしと撃っちゃって下さい」
 そう言って、身に纏うのは黒き闇の衣‥‥虚闇黒衣。その弁の通り、直後に炸裂した雷の弾が、彼女の纏う虚空に吸い込まれていく。
「えぇん、火属性の防具はあるのに、武器がないよぉう」
 そうして、後衛狙撃組が頑張っている間、前衛のアイシャはと言うと、雷に強いはずの炎属性武器がなく、めそめそしていた。
「狙撃班に引き寄せてもらえば、何とかなります。あっちの雷撃獣を狙いましょう」
「うん。先手必勝!」
 ネイスに励まされ、アイシャは自分の足に錬力を注ぎこむ。脚力の上がったそれで、瞬天速が発動し、一気に間合いを詰める。
「えぇい。アイシャの攻撃なのっ」
 ずぼしゅっとベルニクスが炸裂した。振りが大きいせいか、かすった程度だが、元々威力の高い品である。かすり傷でも結構なダメージになっている。
「手負いの獣はキケンとは言いますがね。こないでくださいよっ!」
 そこへ、挟み込むようにして、反対側からネイスがファングで横なぎにその爪を煌かせた。反撃を食らわせようとスピリットが、その雷を纏った前足を、アイシャに振り下ろす。
「近くに避雷針になるものはないかなー? 雷避けっ」
 纏った雷が、発着場の地面に小さく穴を穿つ。だが、周囲にあるのは森の木々。ここでもしそれを避雷針にしたら、燃えるってレベルではなくなってしまう。
「‥‥雷、斬れないかなぁ。戦国時代の雷神、立花道雪は雷を斬ったそうですが」
 のんびりした口調で、その雷を見上げる旭だったが、彼が持っているのは月読と小銃S−01。
「れっつちゃれんじ☆」
 アイシャがそう言って、雷を旭の方へ向くよう後退する。ぴしゃああんっと受け流されたそれにあぶられて、背後の低木が燃え上がった。
「まずい。囲みを突破しちゃいます」
 動揺が広がった刹那、スピリットの方がその囲みから、研究所等の方へと向かってきた。そこにあるのは、雷にあまり強い方ではないコンテナ。
「追いつけるか!?」
 それを見て、旭は左手の小銃を放ち、月詠を片手にすり抜けるようにして切りつける。だが、それをフォローするかのように、後ろから3発目の雷弾がぶっ飛んできて、邪魔をする。
「またくっつかれちゃったわよ。どうするの?」
「た、たぶんもうすぐ増援がくるはずなんだけどぉー」
 背中のユウコに判断を仰ぐミカエル。軽い口調ではあるが、目元が引きつっている。その直後、雷の音に負けないようなバイク音。そう。リンドヴルムに乗っていたリョウと嵐の2人だ。
「行くぞ烈火‥‥武装変!」
 錬力を空中から引きおろすような仕草で、アーマー‥‥否、ヨロイモードへと変えるリョウ。その間に、今度は嵐がアサルトライフルをスピリットへ向けてぶっ放した。
「うおあああ!」
 連射、突撃。駆け抜けざま両方へ向けてその弾丸を盛大にばら撒く。
「くらえっ、竜炎斬!」
 その攻撃に雷神達がひるんだ瞬間、リョウの腕が竜の翼を発動してスパークする。その手にしたインサージェントを、袈裟懸けに振り下ろす彼。その重たい一撃を避けようとしたところに、後ろから旭が持っていたスキルをフル動員して、紅蓮の斬撃を、心臓の部分へ押し当てていた。
 ぴくぴくと痙攣し、絶命するスピリット。それを見たゴッドは、1人ではかなわないと思ったのか、森の中へと逃げていくのだった。
 なお、残ったキメラは、ユウコの希望で解剖に回され、通常のトラとはまったく違う構造だったらしい事がカラス・バラウ(gz0028)によって確認された。逃げたもう一匹が襲ってくることは無かったそうだが、警備のため同行した巴、嵐、ユウコには、御褒美として、カラスと准将から現在計画中の『超絶KV計画』が、ネタ被りにつき方向性を模索している事が伝えられたらしい。