タイトル:カンパネラ校庭開放マスター:姫野里美

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 36 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/08/19 22:45

●オープニング本文


 子供の頃、笹の葉さらさらがたなばたさらさらと思っていた御仁はきっとミクだけではないだろう。それはともかく、8月7日は旧暦の七夕。最近は7月7日が恋の日とかで、ラブソングのCDやらイベントやらが出てきたりするが、地方では旧暦にやる場合も多く、ボーナスを当て込んだ商店街がバーゲンをやる場合もある。それでなくとも浴衣姿の男女が、ロマンを求めてぞろぞろと遊びに行く日だ。
「ミクも遊びに行きたいーーー!」
 で、ここにもそんなイベントに行きたい年頃の娘っ子が一人。山積みの資料やら報告書やらに囲まれているミクである。
「そんな事言ったって、どこに行くんだよ」
「パレードとかショーがあるとこ‥‥。夢と魔法の王国‥‥」
 もはやタワーどころかピラミッドを形成している書類の山に埋もれかけながら、そう呻くミク。しかし、日本の該当遊園地がある地区は今はバグアの本拠地だし、地方のそういった施設に関しては、そんな娯楽にライフラインを回すくらいなら、人々の生活を確保する方が先という事態が長いため、もし余裕があってもメンテ不足で動けないというのがおおむねの状況だ。
「失礼します。ミク・プロイセンさんですね?」
 しばし、しくしくと泣きぬれていたミクに、通信が入ってくる。
「うん‥‥じゃない、はい」
「私、カンパネラ学園で生徒会を取り仕切っております龍堂院聖那と申します。准将からのご紹介でこちらに」
 日本人名前だが、見かけは先端が軽くウェーブした腰までの金髪に黒い瞳の少女だ。女性としては少し背が高い部類に入るだろう。欧州の血と思われる豊満な胸が、制服の上からでもはっきりとわかる。しかし、外見とは裏腹に、静かに微笑みながら、彼女は深々と一礼する。
「よろしくだぉ。それで、何のご相談?」
「学校説明会を兼ねまして、プレオープンキャンパスを行いたいのです」
 敬語の使い方のなっちゃいねぇミクに、彼女はおっとりとした口調で、用件を伝えた。外からはドームに覆われて見えないカンパネラ学園。このたび、新入生を募集する事が決定したのだが、一般の学校と同じように、保護者や本人への説明や雰囲気を味わってもらおうと計画したらしい。
「そう言う事なら任せるぉ。実は、いい事考えたんだぉ☆」
 ミク、なにやらモニターに絵を描き始めていた。みれば、こっそり覚醒している。
「何か妙案が浮かびまして?」
 聖那が訪ねると、そこには設計図が出来上がっていた。それを軽々と立体化処理したミクは、笑顔でネギポインターを振った。
「ただ見学会だと堅苦しいから、夕涼みを絡めて見たんだぉ。時期も時期だし、花火でも見ながら、スイカとかカキ氷とか食べて、ついでにお茶でも振舞えば、多分UPCにも言い訳が立つぉ」
 その手元には、スイカからアイスに至るまで、おおよそ夕涼みに必要と思われる品々の発注書がある。
「それは良さそうですわね。夏休みで生徒はあまりいませんが、出来るだけのことはしましょう。ティグレス」
 彼女が呼ぶと、背後に執事のように控えていた黒髪の男子生徒が、前へと進み出る。口数少なく頭を垂れる彼に、聖那は送られてきた発注書を指し示す。
「こちらの発注を。細かい事は任せます」
 どうやら、雑務関係は彼が行っているようだ。こうして、本部にカンパネラ学園生徒会執行部の名で、次のような告知が行われるのだった。

『カンパネラ校庭開放のお知らせ:ラスホプに併設している学園の一部を開放いたします。休み中なので、生徒がいるとは限りませんし、立ち入り禁止の場所も多いのですが、夕涼みにいらっしゃいませんか?』

 どうやら、運営は生徒会に一任されているようである。

●参加者一覧

/ アイロン・ブラッドリィ(ga1067) / 水理 和奏(ga1500) / 伊藤 毅(ga2610) / 終夜・無月(ga3084) / 蓮沼千影(ga4090) / レーゲン・シュナイダー(ga4458) / クラーク・エアハルト(ga4961) / レールズ(ga5293) / 九条院つばめ(ga6530) / クライブ=ハーグマン(ga8022) / 森里・氷雨(ga8490) / 守原有希(ga8582) / ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751) / 三枝 雄二(ga9107) / 神無月 るな(ga9580) / GIN(gb1904) / 美空(gb1906) / RENN(gb1931) / 霧山 久留里(gb1935) / 鬼道・麗那(gb1939) / ヨグ=ニグラス(gb1949) / 榎木津 礼二(gb1953) / 月影・白夜(gb1971) / シルバーラッシュ(gb1998) / 沙姫・リュドヴィック(gb2003) / 大槻 大慈(gb2013) / 姫咲 翼(gb2014) / 日向 彬(gb2015) / 文月(gb2039) / 田中 直人(gb2062) / ジェームス・ハーグマン(gb2077) / ミカエル・ラーセン(gb2126) / プエルタ(gb2234) / 釧(gb2256) / 夏目 リョウ(gb2267) / 氷雨 テルノ(gb2319

●リプレイ本文

 その日、着々と準備の進む女子学園寮の裏側、ちょうど島の端っこにあたる位置で、1人の女生徒がとあるカードを手にほくそえんでいた。
「これでOK。後は誰を闇に落とすか‥‥ですわね」
 くくくっと悪役らしい笑みを浮かべる生徒。彼女の前には、1人の小柄な男子生徒が頭を垂れていた。彼女はそんな男子生徒に、まるで賞状でも授与するかのように、カードを手渡す。
「えと、これを配ってくればいいですか?」
「んもー。雰囲気台無しじゃない。そこは『かしこまりました』でしょー」
 彼の口から出てきたのは、たどたどしい少年ボイスである。ぷーっと頬を膨らます彼女に、少年は島の外側を指し示す。
「だって、こう明るくちゃ、悪い事できませんよ?」
 彼の指摘する通り、島には太平洋上らしき太陽が明るく差し込んでいる。ドームの内側で、こちらからは気付き難いが、そこには特殊な素材が張り巡らせられており、至極快適な温度だ。見れば、その明るさの中ではっきりと生徒章の名前が見て取れる。女子生徒の方は鬼道・麗那(gb1939)、男子生徒の方はヨグ=ニグラス(gb1949)と書かれていた。
「ともかく! 我が闇生徒会の野望の為には、必要な行為なのよ! わかった!?」
 こうしてヨグをたたき出すと、女子寮裏手から、イベントの行われているグラウンドへと足を踏み出す彼女。それぞれの建物の間には、手入れの行き届いた広場が広がっており、生徒会であるカリヨンのオーケストラが設置した受付があった。
「えと、生徒会って所を見に行くですよっ準備は良いですか?相棒さん」
 まずはお友達の美空(gb1906)にカードを渡したらしいヨグ、彼女と共に堂々と学園内部へ潜入していた。寮はどちらかが締め出しを食らってしまう為、二人が向かったのは、応対をしている生徒会だ。
「う〜緊張するのであります」
 まじめで一生懸命な軍人気質少女美空は、親友かつ相棒のヨグと一緒に遊びに来たにもかかわらず、すっかりがちがちだ。その割には、2人とも一部の隙もなくカンパネラの制服を着用している。
「そんなに緊張する事ないですよ。これを配ればいいだけです」
「カードですか‥‥。受け取ってもらえるといいですね」
 あまり配布には興味ないのか、ヨグの台詞にそう答える彼女。その割りにカードそのものはひっくり返したりすかしたり。そんな二人が、まず向かったのは、人数整理に借り出されているティグレスの所だった。
「あの人、笑う練習してるらしいですよっ。見てみるです」
 じーっと視線をなげかけるヨグ。と、その絡みつくような視線に気付いたのか、じろりとこちらを睨み付けている。
「い、いえっ。えと、これあげるから、生徒会室を見せてほしいのですっ」
 ヨグが差し出したのは、カップに入ったプリンだ。ラスホプの方で頼んだらしく、かわいらしい箱に入っている。
「残念だが、あそこは非公開地域だ。他を当たれ」
 どうやらまじめなタイプらしく、プリンはまったく受け取ってもらえない。が、そのプリンを横から「あら、いいじゃありませんか」とか言いながら、奪い取って行く者がいた。
「しかしですね。会長‥‥」
 そう。この学園の自治を任されている割には、一般の生徒並にオープンキャンパスのお仕事をこなしている会長こと龍堂院聖那である。
「んと、大物ですっ!ここは美空さんにまかせるですっ」
 ヨグ、驚いてしまったのか、てこてこと美空の後ろに隠れてしまった。反応に困ったのは、美空の方である。しかし、彼女がおろおろしている間に、会長はさっさと側に寄ってきて、にこりと握手してくれた。
「まぁまぁ、恥ずかしがりやさんね。大丈夫よ。私も皆さんと同じ、ここの生徒ですもの☆」
「あ、あのっ。それじゃ、何かお役に立てることはっ! 私、生徒会で働きたいんですっ!」
 そう言って、思いのたけをぶつける美空。と、彼女は笑顔のまま、その方法を教えてくれる。
「ありがとう。そうね。じゃあまずはどこかの部活に入るといいわ。ティグレス、組織表を取って頂戴」
 確か、副会長の名前だ。そう思い出した美空の前で、彼女はティグレスから受け取った、この学園の組織図を見せてくれた。
「生徒会と言っても、普通の学校よりずっと大きいの。私が在籍する執行部から、このあたりの部活までが生徒会と言われるのよ」
 名目上の理事人事である面々の他に、生徒会執行部、風紀部、広報部、情報部とある。その他、文化部代表、運動部代表、各クラス代表と書いてあり、それらを全て含めて、『生徒会』と称されていた。まぁ通常、『生徒会』と呼ぶのは、執行部の事ではあるのだが。
「下っ端仕事をしたいわけじゃないんです」
「‥‥がんばりなさい。ね♪」
 しかし、いきなり責任ある仕事を任せてもらえると言うわけではないらしい。このあたりは、自分の努力で何とかしろと言う事だろう。意外と、厳しい面もあるようだ。
「難しいなぁ‥‥」
 ため息をつく美空。げんなりと肩を落とす彼女に、会長は笑顔のまま、こう答える。
「お詫びに、執務室を見せますわ。でも、もう少し見学を希望する方が揃ってからでいいかしら?」
 受付に、希望者募集の告知を出す彼女。どうやら、無理やり迷子にならなくても良さそうだった。

 物珍しさからか、周囲に人の多い会長。皆、挨拶をしたり、自己紹介したり、何とか顔見知りになろうとしている。それはこの学園に入ろうとしている人々ばかりではなかった。
「かぁぁぁぁいちょぉぉぉぉぉっっ!!!」
 そんな人々に、天空から響く怒鳴り声。エコーを響かせる大音響の直後、どこを足場にしたのか、二回転半ジャンプで、体操選手も真っ青な着地を決めたのはシルバーラッシュ(gb1998)だ。
「えぇい、寄るなお前ら! 会長はお疲れなのだ!」
 その辺の群がる生徒達を退けようと、がうがう吼えるシルバー。会長自身の「私なら大丈夫ですけど‥‥」と言う台詞も耳に入っていない。
「会長ッ。今日この日より生徒会長の椅子となり生きていくことを誓うぜ! 遠慮はいらねぇ座ってくれ。今日から俺は椅子!会長専用のチェアーだッ!!」
 そう叫ぶや否や、シルバーさんいきなり反り返ると、その恵まれた体躯でもって、とっておきらしきブリッジをお披露目していた。
「やめなさいよ。会長だって困ってるじゃないか」
「ンだこのガキ。会長は俺と喋ってんだ。手前は家帰って飯食って寝てろ」
 その場にいた文月が止めると、シルバーはじろりとにらみつける。ばちばちと火花が散り、「‥‥誰が子供だって?」と、剣呑な雰囲気が漂い始めたその時だった。
「トラブル確認。排除を開始します」
 無表情な声がして、会長周囲の風紀部の1人が、ぱちんと指をならした。と、どこから現れたのか、風紀部の腕章持ちが数人現れて、シルバーを取り囲んでいた。
「って。おわぁぁぁ! 何しやがる〜!!!」
 その面々数人で、結構な物量があるはずのシルバーを持ち上げてしまう。悲鳴を残したまま、男子寮に投棄されていくシルバー。姿を消す彼を見て、風紀部の人がぼそりと一言。
「ここは怪しげな店ではない。やるなら別の部活でやってもらおう」
 後で知った話では、そう言った目つきの悪い黒髪の御仁は、風紀部を預かる部長、秋山修一であるらしい。揉め事=校則違反=即介入と言うポリシーを持っているらしく、戦慄の的となっているそうだ。
「ちょっと面白かったのにー」
 もっとも会長、状況を楽しんでいらっしゃる。そこへ、ぎゅぉぉぉぉんっとエンジンの音を響かせて走ってくる、バイクが一台。
「こらぁぁぁぁ! ここは進入禁止区域だー!」
 ばしばしと声を上げる風紀部。良く見れば、広場の端っこに二輪車に赤い斜め線の入った看板が立てかけられている。バイクの主、こくんと頷くと、広場の横にバイクを横付け。良く見れば、それはAUKVだった。
「やっぱり会長が前に出ると、よくわかんない面々が増えるよね。後は会長に変わって、僕が学園を案内させてもらうよ」
 ヘルメットをかぽっと脱いで、文庫を片手で弄びつつ、にこりと笑う。話を聞いていなかったらしい秋山くん、疑わしげな表情だ。
「って、誰だお前は」
「俺は夏目リョウ、転校生だ!」
 ふんぞり返る彼。背後に気合の炎が立ち上る。確か今日の見物リストに名前を見たら、転入生と書いてあったような気が。
「‥‥今年の新入生は、こんなのばかりか‥‥」
「あははは。まぁ、俺はちょっと能力者になった経緯が特殊だったから、ここには何回か来させて貰ってるし‥‥それと、会長に書いて貰ったメモもある、案内の方は安心してくれよ」
 頭を抱える修一に、リョウはそう言って先ほど会長から預かったらしいパンフレットと校内地図を見せる。まぁコースも説明も書いてあるそれをみて、正式なものだと判断した修一、「わかった。では、任せる」と、会長の警護に戻る。
「さぁ、この旗を目印に付いてきてくれ‥‥はぐれるなよ、色々と恐ろしい物を見るかもしれないからな」
 冗談っぽく言って、なぜか日本の兜が書かれた旗をふりふりするリョウ。周囲にひやりとした空気が流れる中、彼は希望者を集めるのだった。

 見物ツアーには結構な人数が集まっていた。特に言われていないが、自主的に武装を外している神無月 るな(ga9580)のような生徒もいる。入学式前の下見、父兄として見学、カップルのデート代わりと、様々な目的の元、軽く自己紹介を済ませ、ツアーはゆっくりと動き出した。
「うーん、最初はどこから行きましょうか」
「希望があれば‥‥かな」
 その1人、アイロン・ブラッドリィ(ga1067)が尋ねると、リョウは地図を片手にそう答える。と、同じくツアー希望の姫咲 翼(gb2014)、その一番上を指し示した。
「一通り見て回りたいんだが、まずは屋上から‥‥かな」
「じゃあ上から順番に見ていこうかな。その方がわかりやすいしね」
 大きな建物の場合、上から見物と言うのがパターンだ。地上部分にある建物は、男女寮にクラブ等の特別棟、そして中央部分に、学園の名前ともなっているカリヨン‥‥まるで教会の鐘の様な、大きな鐘楼が建っている‥‥そして教室棟である。しかし、学園は主に単位制。授業は主に教員や生徒会からの『依頼』によって成立するらしい。また、早く実戦に慣れてもらうよう、入学当初からAU−KVを手足のように扱う事が義務付けられる。その演習は、地下に広がる広大な演習場で行うことになっていた。
「いやぁ、夏目さんが言い始めなければ、私から会長に校内見学ツアーを組んでいただくよう、申し入れたのですが‥‥あってよかったです」
 ほっと胸をなでおろしているブラッドリィ。彼が見学を希望していた訓練施設だったが、内容が色々ありすぎて、全ては見物出来ない。それでも、学園が歌っている通り、一般的なプールや体育館みたいな場所があり、地下にはジャングルを模した設備や、人口の洞窟や河、市街戦用なのか廃墟まで表記してある。さらには何に使うかわからないマグロ漁船みたいな施設や、どこのお店だろう‥‥と言ったものもあった。
「教室と言っても、基本は単位制だから、座学よりここでやる方が多いみたいだね」
 日向 彬(gb2015)が、渡されたパンフを丁寧にクリアファイルに収めながら、そう言った。これら一部混沌とした設備でもって、基礎訓練と授業が行われるらしい。読み書きそろばんに代表される座学は、さっき見た入れそうな場所で行われるのだろう。次は、放課後を過ごす部活棟だ。
 部活と言っても、クラブ、研究会、同好会等にわかれているわけではない。いや、名称には様々なものが用いられているが、公式な記録には全て『○○部』と表記される。先ほど、会長の警護をしていた風紀部も、他の学校では風紀委員会と呼ばれているモノと同じものだ。で、それらにはそれなりのスペースがあり、あちこちで喧騒と騒音と静寂を響かせている。
「なるほど、ここが生徒会室ですかー」
 ヨグが感動したように、その部屋を見回した。会長が学園の様々な指揮を取る執務室は、クラブ棟の一番南端にあった。鐘楼と、男女寮、そしてグラウンドも、周囲に広がる光景の見渡せる、絶好のポイントである。大きな机と、いくつかの書類棚が置かれたそこは、まるで社長室だが、ところどころにかわいらしいぬいぐるみも置かれているあたり、女の子の部屋な香りを充分に漂わせていた。
「大体の教室の配置、位置関係はこんな感じと」
 メモを取る釧(gb2256)、やおら顔を上げてこう尋ねてきた。
「そういえば、一般能力者の方も聴講生として出入り可能だそうですが、年齢制限などは設けられているのでしょうか?」
「えと、聴講生に年齢制限と審査はないみたい。能力者であればいいみたいだよ」
 その返答を聞いて、頭を抱える釧。
「どうしよう。顔も見たくない人が居るんです。その為に私は苗字まで伏せて‥‥。よりにもよって誕生日まで同じで忘れる事もできないし‥‥。相変わらず何処ほっつき歩いてるんだか‥‥! はっ。声に出しては、いませんよね‥‥?」
「思いっきりでてるんだけど」
 首を横に振るリョウ。はっと周囲を見回す釧だったが、幸いな事に、兄の姿は周囲になさそうだ。
「と、兎に角、貴重な学園生活をあの男に邪魔されたくはありません。から」
 こほんと咳払いして、ツアーの中へ戻る釧。
「この学園は広いから、隠れる場所はたくさんあるし、教室で授業を受けるのもあるけど、主に単位制なんだって。本部の依頼と変わらない感じかな」
 同じ様に不良兄貴を抱えているらしいミカエル・ラーセン(gb2126)、リョウの代わりにメモを見せた。何しろ、3000人の生徒は余裕で収容できる学校である。しかし、見た限り5000人は楽々と授業が受けられるような広さだった。案内された寮も、心なしか空き部屋があった気がする。今頃、勝手に家を出た兄は何をしているか知らないが、ここにいる間は終われる立場として、決意を新たにしている。 
「じゃあ、その単位さえどうにかしてしまえば、図書室に入り浸る事も可能なんですね?」
「そうなるねー」
 日向の問いに頷くリョウ。学校によっては、立ち入りに教師が同伴しなければならない場合もあるが、ここではそうではないようだ。
「その図書室って、見学可能ですか? 学園生活、図書室にほぼいるんで重要なんですよ」
「あれ? 図書室の地図は‥‥っと」
 もっとも、リョウの渡された地図に、図書室を示す本のマークが書かれていない。
「ご、ごめん。多分、施設棟の方だと思うよ」
 しかし、ああ言った学業に必要な施設は、おおむね施設棟に集められているようだった。
「うーん。なんだろう、この華やかな空気は‥‥。あれ?」
 GIN(gb1904)がぼーっとそんな彼女達を眺めなていたのだが、その意識が1人の女生徒に注がれる。
「闇からの招待状、受けてくださる?」
 麗那さんだ。
(うわーうわー。誰あの人! もろ好みなんですけど! こっちこないかなっ!)
 どうやらその行動的な印象が、今まで場に流され、場違い感を感じていたGINさんのストライクゾーンをつついちゃったらしい。
「ふふふ。そこな少年。なにやら思いを抱えている様子。何なら上手な授業のサボり方とか、ばれにくい居眠りの仕方とか、教えてあげるっすよ、にししし‥‥」
 そこに、ここぞとばかりに吹き込む三枝 雄二(ga9107)。一緒に悪巧みしに来た伊藤 毅(ga2610)と共に、いたいけな青少年を小悪党の道へと引きずり込もうとする。
「えぇっ、えっと、じゃああの人のデレ顔見る方法‥‥」
「なるほど。寮への侵入方法っすか? ええ、ええ。自衛隊式のお忍び方法、教えてあげるっすよ。とりあえずメシでも食いながらゆっくり話を聞こうじゃないか」
 ほんのりと負け組の空気が流れる中、2人はGINさん連れて、お目当ての学生食堂へと向かうのだった。
「さすが学食、半端ないくらい安いなー」
 納得したように頷く不良自衛隊員その1。まだ夏休み期間中な為、本来の学食のおばちゃんはいなかったが、代わりに生徒達が自主的に厨房を借りて色々と作ってくれている。
「そう言う枠にもぐりこむのもありか‥‥」
 考え込む雄二。何しろ三千人の欠食児童を抱える枠である。人は常に足りていないに違いない。
「俺はそれより、ドラグーンの詳しいスペックが気になるんだが‥‥」
 隣の席では、水色の流水柄浴衣を着たユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)が、手製のバターレーズンクッキーと、紅茶を片手に、その辺の生徒を捕まえて、ドラグーンの扱うAU−KVの特徴などを尋ねている。それによると、今の所、もう3種類ぐらいベースを研究中で、サンドリヨンもこっちに呼び寄せている最中なので、もう少ししたら、ロールアウトするか、本部の依頼に出てくるんじゃないか‥‥と言う話だった。
「えぇい、ぬるいですよ。ユーリさん!」
 が、そこに突っ込みを入れる奴がいた。自称知的好青年の森里・氷雨(ga8490)である。既に知り合いや友人には挨拶を済ませたが、何度か依頼で一緒になったはずの青年がいなかった事に、いまさら気付いたユーリさん、ぼそっと一言。
「森里‥‥いたのか‥‥」
「いましたよっ。ちょっとしたトラブルに巻き込まれましたけどっ」
 この場合、隣に‥‥と言う意味なんだが、どこかズタボロの森里、滝涙を流しながら訴えている。
「俺は学業半ばで傭兵になったんですが、この学園、転入や聴講はできるんでしょうか? 女子部に!‥‥または女子含有率80%以上の学部に!」
 話はツアー中に遡る。案内係のリョウに、激しい勢いでがくがくと揺さぶっている森里。しばらく揺られていたリョウだったが、落ち着いてこう答えてくれた。
「傭兵でも聴講できるよ。でも女子部限定って難しいかな。共学だし」
「でわせめて、演習とか歓談とか模擬戦とか! 女子限定で!」
 なぜか女子にこだわる森里。青い空を指差し、もう片方のお手手はその決意を示すかのように、ぎゅっと握り締められている。
「まぁ少年。そんなにお姉ちゃんが見たけりゃ、アレでも見物して落ち着きたまえ」
 そんな彼に、伊藤ちゃんが指し示したのは、フル稼働している厨房だ。
「はいはーい。これもっとっとー」
 そこでは、守原有希(ga8582)が腹を減らした育ち盛りに、ご飯を提供しまくっていた。メニューをご紹介すると、長崎名産五島うどんの釜揚げ、かけ、ざる。たれやつゆは温かいアゴ出汁、冷や汁、ガスパチョ、夏野菜のチキンカレー、鯵塩焼き定食、ハムとトマトの冷製パスタ、長崎式ミルクセーキと、大量である。それもその筈、朝一番に来て、ここの厨房で料理の腕を振るっていたからだ。
「ごめんねー。手伝ってもらっちゃって。あたし、体力は有り余ってるんだけど、料理ってあんまり得意じゃなくてさー」
 出来上がった料理を両手で器用に運んでいるのは、陽に焼けた肌と小柄な胸、大きなお目目を持つ細身だが快活そうな少女。髪は邪魔にならないよう前髪は切りそろえ、長い髪はポニーテールに結い上げている。話を聞くと、これでも運動部連合の代表をしている、遠藤春香嬢らしい。
「気に病まんで下さい。働かんと落ち着けんもので。それに、二番目の姉は大工やけん、こがん事わけなかですよ」
 気が緩むと、長崎弁が出てくるらしい。他の生徒の追加注文に次々応じていた。
「えへへへ。やっぱし夏といえば、冷たいものだよね♪」
 氷雨 テルノ(gb2319)が、そんな冷たいものを手当たり次第に平らげている。おなかは丈夫らしく、医務室は不要らしい。ただ、主であるセクシー保険医、ケイト先生がちょっと寂しそうだ。
 さて、そんな涙ちょちょ切れている若人はさておき。未来ある友人同士は、楽しそうにデートとしゃれ込んでいた。
「他校の制服で来ちゃったけど、大丈夫だったかなぁ。カンパネラの制服、借りておくべきだったかしら」
 九条院つばめ(ga6530)が不安そうに自身の服を見下ろす。他の生徒は、見学者も含めて、学園の制服を着ているものが多い。だが、同行している友人のレールズ(ga5293)は、首を横に振った。
「今回はオープンキャンパスですから、良いんじゃないですか? ほら、他にも見学に来てらっしゃるみたいですし」
 彼は指し示した先には、ごくごく普通の服で見物に来ている保護者や、UPCの制服で来ている者もいる。花火までは間があるので、2人は校内見物の方へと参加したわけだが。
「あれが龍堂院さんですね‥‥。大物だと思ってたんですけど、結構フレンドリーなんですね」
 生徒会長自ら、案内係をやってくれている。このあたりは、校長が学校説明をしてくれているようなもんだと思ってくれればいい。
「もう少し具体的な質問を用意しておくべきだったかしら」
 その様子を見て、つばめがのんびりと言った。楽しそうに質問や談笑を重ねる彼らの所に加わりたいが、なかなかきっかけがつかめないでいる。
「そうですねぇ、聞いてるだけだと、ねぇ‥‥。まぁ夕涼みもありますし、もう少し見て回りましょう」
 ついていけば、機会も得られるだろうと、そう判断するレールズ。見学ツアーは、立ち入り禁止区域の説明になっていた。地下2階の演習場より下は、廃棄された旧演習場、その先はカンパネラの電力等々をまかなう場所なので、許可が無い限りは立ち入り禁止となっているらしい。代わりに、それぞれの男女寮のうち、ロビーの部分だけ案内してくれた。
「ようこそ、見学の方。あまり相手を出来なくて申し訳ないね」
 そこへ出てきた金髪の男子生徒は、制服ではなく、舞台の衣装を身に着け、若干芝居がかった口調で、外へと出て行った。クラブ棟へ向かう広場のあたりで、女生徒がプリンスご苦労様ーとか言っている。後で聞いた話では、文化部連合の代表で、ウィリアム・シュナイプと言う生徒らしい。今日は所属している演劇部の練習を優先した為、見学会は広報部に任せているそうだ。
「彼もドラグーンなんですか?」
「ええ。以前からこの学園の生徒だからね」
 もう少し、話しておくべきだったかな‥‥と、思い直すつばめ。まぁ、話のネタは何も用意していないのだが。
「お祖父さん、僕だってもう18なんですから、何もついてこなくても‥‥」
 一方では、ジェームス・ハーグマン(gb2077)が、祖父クライブ=ハーグマン(ga8022)が同行してきた事に、頭を抱えていた。
「一応、保護者なのだから、被保護者の入学する学校を、下見に来ても、問題ないでしょう? それに、この学校を勧めたのは、私だからね」
 そう言い張るクライブ。ティグレスに、授業方法について尋ねている。
「ふむ、カリキュラムは、一般的なカレッジ方式か‥‥軍学校としては、珍しい」
 そう呟くクライブに、ティグレスは教員数が足りていない、幅広い経験を積ませたい、結構な人数を賄う‥‥等々の為に、その方式にしたらしい。
 周囲では、見学もほぼ終わり、食堂の一部を使って、質疑応答となっていた。聖那とティグレス他、修一もいる。
「しつもんしつもーん! 僕、女の子なんだけど、男の子の制服着ちゃ駄目?」
 さっそくお手手をあげて、そう聞いている水理 和奏(ga1500)。同行しているクラーク・エアハルト(ga4961)が、その元気有り余る声に「こら、わかなさん‥‥」と止めるが、生徒会長のほうはまったく気にしていないようだ。
「僕。がんばってお勉強して、中佐のおじさんの‥‥えへへ」
 和奏の顔が緩む。その脳裏には、中佐のおじさんことミハイル中佐と同じ制服を着てツーショットになっている自分が浮かんでいるに違いない。いや、たぶん。
「なんだか事情があるみたいですけど、学園にいる限りは、性別相応の制服を推奨してますわ。もっとも、単位を取る時はその限りではない気もしますけど」
 しかし、聖那さんはきっぱりはっきりとそう言った。あわてて側に控えたティグレスが訂正する。
「会長、うかつな事を言わないでください。規律が取れなくて困るのは我々です」
「わ、ごめんなさいっ。変な事聞いちゃってっ」
 まさか会長に校則違反をさせるわけにはいかない。あせあせと慌てて訂正する和奏に、会長は笑顔のままこう答えた。
「あら、いいのよ。気にしなくて。そうねぇ、そのあたりのことも少し考えなくちゃ‥‥」
 世の中には、事情で性別相応の制服を着れない生徒だっている。
「つまり、ここは戦い方も教えるけど、普通の学校の延長線上にあるという訳かな、龍堂院さん?」
「そう言う事ですわ。もっとも、授業のメインが演習になるのは、普通の学校とちょっと違い増すけど」
 納得するクラーク。そのあたりは軍学校の延長といった所だろう。だとすると、彼にはもう1つ確かめたい事があった。
「ふむ。少し気になったんだが、教員の募集はやってないのかな? 臨時講師というのかな?」
 それは、他の能力者達も気になる所だ。と、聖那はちょっと思い悩むような表情となる。
「考えてはいるのです。ですが、事務の方が追いついていないものですから、今の所は生徒達が単位を取る際に、同行してもらうような形になりますわ」
 もし、今の所可能だとすれば、傭兵達が依頼に赴いた際、時々与えられる二つ名のような形になるといった所だろう。聖那達生徒会も、頭を悩ませているようだ。
「余計な仕事増やしちゃったかなぁ」
「楽しそうだから、いいんじゃないですかね。ほら」
 申し訳なさそうな和奏に、クラークは話しそっちのけで、仲良さそうにしている幾人かを指し示した。
「ごめん、売ってたからつい買ってしまった‥‥!」
 恋人のレーゲン・シュナイダー(ga4458)に言い訳めいた一言を告げている蓮沼千影(ga4090)‥‥28歳。学校はとっくの昔にご卒業している筈だが、カンパネラの制服を身に着けている。
「ねぇ、大慈‥‥。手、繋がない? はい、あーん♪」
「それよりは膝枕がいいんだがな‥‥。ん、うまい☆」
 一方では、見学を終えた沙姫・リュドヴィック(gb2003)が、恋人の大槻 大慈(gb2013)に、カキ氷を食べさせていた。
「ふふ。花盛りね‥‥」
 そんな幸せそうなカップルを、遠くで見守る麗那さん。こうして、見学会が落ち着きを見せた頃、相変わらず書類を抱えたミクが、呼び出しに来る。
「そろそろ花火始まるぉ」
「あ、ミクちゃんだー! 夢と魔法の王国、僕も行きたかったっ‥‥いつか絶対、バグアから取り戻そうね!」
 たたっと駆け寄った和奏が、がしっと握手してミクにそう言っている。が、ミクはと言うと、油断していたらしく、ちょっとびっくりしていたようだ。どうやら、自分が言った事をすっかり忘れていたらしい。
 そして、花火の幕が上がる。
「生徒会長、綺麗な人だったなぁ‥‥。お姉ちゃんそう言うとこあんまり無いよな‥‥んっなんか今誰かの気配が」
 結局、姉はお仕事の都合でこなかった柿原、その姉より数段上品そうに見える聖那を、憧れのまなざしで見ていた。が、その背中に突き刺さるような剣呑なものを感じて、慌ててそっぽを向く。そこでは、手持ち花火が主と言うことで、各自様々な花火を持ち込んでいたのだが、中でも線香花火がダントツの人気を誇っていた。
「初めて会った人たちと花火ってのも、いいもんだな」
 翼が、貰ったカードをもてあそびながら、感慨深げにそう呟く。彼女をはじめ、花火大会には結構な人数が集まっていた。
「お前、ラインナップが地味過ぎるぞ。こっち使え」
 中には美空のように、パラシュートだの蛇玉だのカラースモークだのと言った昼間用の花火を持ち込む輩もいたが、そこは他の生徒達‥‥この場合、兄の大慈‥‥が、大量のねずみ花火を持ち込んでいたりと、それなりに楽しませていたり。
「この状態だと危なくないか?」
「使用法どおりに使えば良いですよ。はい、バケツ」
 危惧するティグレスに、釧が水のたっぷり入ったばけつと、大き目のじょうろを差し出す。それを彼に渡すと、花火が怖いのか、すぐさま食堂の中に戻ってしまった。
「あ、いたいた。花火なんて見る事はあったけどさ、こういう風に、皆で集まってするなんて、殆どなかったなぁ」
 柿原がその集団を見つけて、嬉しそうに混ざってくる。
「はーなびー、はーなびー‥‥」
 中には、森里のように、まだショックから立ち直れず、どんよりと手持ち花火で、地面にのの字を書いている奴もいたが、そんな奴は放置プレイだ。
「あ、そうだ。火をつけたら、氷をばら撒くような花火ってないかな。綺麗だし涼しくもなるし‥‥」
 線香花火を手にしていたテルノが、もっと派手で綺麗な花火が見たい! と言い出す。が、最後まで言い切らないうちに、その口にユーリが人差し指を当てていた。
「はーいそこまで。今日は市販品で我慢しろ」
 彼が出してきたのは、夏の時期になると売っているファミリー向け打ち上げ花火だ。いわゆるロケット花火とか、筒花火とか言う奴である。
「これなら、派手にあがるし。侮れないからな」
 不満そうに頬を膨らますテルノに、ユーリはその1つを手に取ると、少し離れた場所へ置いて点火してくれる。小型のペットボトルほどの大きさのそれは、火をつけると盛大な火の粉を散らせ、3m程の火柱になっていた。それはそれで結構綺麗なのか、ミクあたりがお手手をたたいて喜んでいる。
「つまんねぇなぁ。花火って言うのは、こう使うんだぜー」
 使い終わった花火に、持ってきてもらったバケツや如雨露で水をかけているユーリに、直人、使われずに残っていたロケット花火を数本、手に取った。そして、そのまま、ためらわず点火。普通は安定のいい筒状の物体に入れて打ち上げるモンを、手で持ったまま撃てばどうなるか。
「って、たなぴー! 横向きは禁止ー!」
「たなぴーって言うなぁ!」
 そう言う問題じゃないのだが、まるでKVにつけたロケットのように、四方八方に花火の軌跡が飛んでいく。
「トラブル確認。介入を開始する」
 その刹那。混乱する花火会場に響く声。たなぴーが「え」と顔を引きつらせた直後。
「えーい、静かにせんか! このくそったれFNGが!」
 そう怒鳴った瞬間、クライヴがたなぴーの後頭部にごっつい拳骨を降らせている。能力者相手だからなのか、単に激怒なだけなのか、しっかろ覚醒までしていた。
「まったく。TPOがわからん輩は、どこにでもいるものですね」
「ご協力、感謝します」
 たなぴーがぷしゅうと煙を吹かせている中、元の英国紳士に戻ったクライブに、修一が深々と頭を下げてくれる。
「色々‥‥ありますね‥‥。ほら‥‥あれ‥‥すごく綺麗‥‥」
 そんな喧騒とは裏腹に、白夜、静かにそう言っていた。口調こそ大人しいが、大好きな無月と共に、花火がやれて嬉しいらしく、終始狼耳がパタパタと動いている。きっと、尻尾があったら千切れんばかりに揺られているに違いない。
「ミクは、どれがやりたい?」
 そんな彼女の隣に、微笑みながら陣取っていた無月は、気を使ったのか、水入れバケツの向こう側にいたミクにも声をかけた。彼女、ちょっと黙ってたが、「みく、あの手持ち花火にする〜」と、針金のついた細長いタイプを手に取っていた。
「まだいたいけな若者がいないとはかぎらな‥‥うわぁぁぁ、浄化されるぅぅ!!」
「そこの台詞は、不健全ある限り何度でも蘇る‥‥だろう! おわぁぁぁぁ!!」
 そんな、微笑ましい状況に、ダメージを受けている雄二と伊藤。こうして、悪の大魔王‥‥じゃない、不良元自衛隊員ペアは滅んだのだった。
「星と花火と笑顔がよく映えますね‥‥よきかなよきかな」
 満足げな有希さん。まぁ、花火と浄化の光は違うような気もするが、本人は気付いてないので、よしとしよう。
「どうしました? わかなさん」
「うん。やっぱり思い出しちゃって‥‥」
 そんな騒ぎを横目に、和奏、ちょっとブルーな雰囲気だ。能力者になる前は、学校でいじめられっこだったそうなので、その事を思い出してしまうのだろう。
 と。
「何をへこんでいるか知らないが、気に病む事はない。もし、そんな不届きものがいるようなら、我ら風紀部が介入するからな」
 火を扱うと言うことで、見張りと言う名の立会いをしていた風紀部の部長‥‥修一が、この学園でもしいじめっ子がいるなら、許しちゃ置かないといった趣旨の事を言い出す。
「そうそう。今日はおごりですから、好きなもの食べて、元気を出してください。線香花火もたくさん持ってきてるみたいですし」
 クラークがまるで兄のようにそう言って、カキ氷の台を指し示した。
「空気は氷菓子には不純物です! ってことで、ミネラルウォーターから作っとっとよ」
 その主である有希が作るカキ氷は、沸騰させた後、丁寧に凍らせたものだ。おかげで、溶け難い、食べてもあんまりキーンとしないと言う、一般的には数百円のお値段がついている高級品である。
「うーん。線香花火をするなら、浴衣の方がよかったですかね」
 ツバメと共に、のんびりとそれを堪能しながら、普段どおりの服だったのを、若干公開するレールズ。
「こういうの、デンマークにはないよね。どうやって付けるの?」
 一方、線香花火がはじめてらしいミカエルは、演劇の練習が終わって、花火に合流してきたらしいウィリアムに、やり方を教わっていた。
「ここの、ちょっと膨らんでる所の端っこにつけるんだよ。そっとね」
「わ、わ。綺麗〜」
 意外と免疫は無かったようで、そのきらきらと輝く花火に、はしゃいでいるミカエル。
「はー、親睦会も兼ねてると思うのに、1人でなにやってんだろうね‥‥」
 そうやって、花火に縁の無い御仁達に、やり方を教えている中、縁があるはずの日向は、離れて一人で火をつけていたり。しかし、そう言うにも関わらず、情緒だけはたっぷりだ。
「スイカって、ナイフとフォークで食べるものですよね?」
「違う、お箸だぉ」
 るな、食い物に関する記憶も、一部ぶっ飛んでいるらしく、花火を鑑賞しながら、スイカにナイフをブッ刺している。そこへ、面白がったミクが、塗り箸を差し出して、さらに取りづらくさせていた。
「いいよねぇ。こういう静かな花火って言うのもさ」
「レグもやらない?」
 感慨深げに花火を眺めている横で、千影はレグに線香花火を差し出した。手持ち花火にはあまり経験がないらしい彼女、戸惑った様子で、おずおずと右手を差し出す。
「え、えと‥‥ちかが言うなら」
 ところが千影、そのレグに渡す線香花火を、一瞬だけ止める。
「せっかくだし、勝負しよ? 俺が勝ったら‥‥レグがセーラー服を着て、俺にちゅーする。だめ?」
 よどみなく申し出て、によによと花火をふりふりしている所を見ると、最初からそのつもりだったようだ。
「そんな事でいいんですか? いいですよ☆ じゃあ私が買ったら、スク水で自販機前の案内係をさせてもらいます」
 しかし、レグもその辺はお見通しらしく、べしっと言い返す。笑顔で。
「な、なにっ。わ、わかった。がんばる」
 こうして、二人揃って花火に点火。立会人は周囲にうなっているので、幾人かが注目する中、花火はするすると黄金色の花を散らしていく‥‥。
「レグさん勝てそうだね」
「じゃ、じゃあちゅー‥‥」
 終盤。ぷくりと膨らみかけた花火の先端。レグの唇は俺のモンじゃー! と鼻の下を伸ばしまくっている千影。しかし、そこへ思わぬ伏兵が現れた。
「そこまで。‥‥カンパネラ学園規律条例違反。不純交遊禁止」
 ぼそっと口を出したのは、修一である。風紀部の彼、融通の利かなさは折り紙つきだ。ちなみに念のため追記しておくと、不純じゃない健全なお付き合いはOKだそうである。
「不純じゃねぇっ。健全だっ! って、あ」
 思わず反論する千影だが、その拍子に、大切に扱っていたはずの線香花火の玉を落としてしまう。
「はーい、ちかの負けー」
「しくしくしく‥‥」
 ちか先生、もうすぐ三十路だってのに、女装決定。

 そして。
「んと、皆さんよい人かもですっ」
「ありがとうヨグたん、これは御褒美よ☆」
 花火大会の影で、麗那にそう報告するヨグ。と、彼女はほっぺに軽くちゅーをくれる。その周囲には、カードによって召集された闇の生徒会の面々がいた。
「って、結構な人数がいるな‥‥。招待されたのね。なるほど‥‥ふふふ。ふふふふふ。僕の未体験の世界ッ! ここに極まりッ!」
 1人、久留里は周囲とまるでテンションが違うが、他の面々はと言うと、グリーティングカードを貰ったメンバーと言う認識しかないようだ。
「案内メモ助かったよ‥‥。ありがとう」
「いえいえ。こちらも人手が足りなかったものですから」
 そのターゲットとなる聖那は、リョウから案内メモを返却されていた。その様子を見て、線香花火の焔を眺めていたアイロンが、感慨深げに呟く。
「戦いを学ぶ‥‥戦争さえなければ、通う必要もないはずのものなのに‥‥」
「ですから、カンパネラではごく普通の学園と変わらなくしているのですわ」
 そう答える聖那。そう。平和になった暁には、平穏な学び舎として機能するように。