●リプレイ本文
一通り挨拶を済ませ、必要物資を調達した傭兵達は、車3台+バイクに分乗し、川原へ三つに分かれて潜んでいた。
「敵確認。ビートル型4匹っと」
川原に寝そべったアルフレッド・ランド(
ga0082)が、スコープごしに、敵影を確かめる。他の面々も、配置についたらしく、別の声が聞こえてくるので、彼はこう尋ねてみた。
「司令は?」
『ミクか? えぇと、この辺に‥‥』
エミール・ゲイジ(
ga0181)、面倒くさくなったので、名前で呼ぶ事にしたらしい。後ろの方で『むぎゅ』と、潰されているような声が聞こえた。どうやら大人しくしているようだ。
「きしゃあ!」
それぞれ準備を済ませる中、警戒中の一匹が、猫耳を付けたアリス(
ga1649)を見つけ、こちらへ向かってくる。その瞳は、戦闘意欲に燃えているかのように、真紅に染まっていた。
「目標補足! ついてきてる?」
自分の方が、足が速い。そう認識していたアリスが、後ろの麻堅 蝦蛄助(
ga3016)を気にして振り返る。
「‥‥来てないが、これで充分だろ!」
と、そのすぐ脇を、小石がぶっ飛んで行った。見れば、朝のヒーロー仮面をつけた彼が、転がっている石を投げつけている。
「来たわよっ!」
覚醒後のパワーで投げつけられた小石は、追ってきた虫型キメラに命中する。音に気付いたらしいもう一匹が、増援に駆けつけた。
「しかしこすっからいヒーローだな、我ながら!」
スピードを上げる蝦蛄助。追いつかれるほどの速度ではなさそうなので、瞬天速はまだ使わないで良さそうだ。
「このままだと、充分釣れそうね‥‥。よぉし」
その速度は、アリスの半分程度しかない。それを、わざと追いつかせるため、ジグザグに走って見る彼女。
「うわっ。やっぱり油断は禁物か‥‥」
足元の石に引っかかり、もう少しで当たりそうになってしまう彼女。ぎりぎりで避けたが、相手の行動力が同じ位だと考えると、やはり全力で移動した方が良さそうだ。その証拠に、移動に集中している蝦蛄助は、相手の攻撃を難なく避けている。
「来たわ‥‥」
川上に陣取ったロッテ・ヴァステル(
ga0066)が、5〜10mの間隔を維持し、息を潜めている。他の面々も同様だ。それでも、何か潜んでいるとは分かったのか、警戒したビートル、おめめの輝きを増す。
「きしゃああ!!!」
一匹が、アルフレッドのいるあたりへ方向転換した。見ると、風のせいか、毛布がちょっとめくれている。運が悪かったようだ!
「やばいな。食らえッ。殺虫剤攻撃ッ」
仕方なく、スプレータイプの殺虫剤を吹き付けるアル。ぷしゅーーーっと盛大な白煙が上がったが、同じ虫でもキメラなので、まったく効いてはいない。
「やっぱり張られちまってるな‥‥」
薄く、赤く光る幕のようなものが、一瞬見え、アルはそう呟いた。キメラだけではなく、バグアは概ねSESを搭載していない武器は、その威力をかなり落とさせる。おそらく、それが適合試験の時に説明されたフォースフィールドだろう。
「より生体兵器に近いってか。どうも熱源じゃなくて、視覚っぽいし」
カモフラの為、ビニールに入れた生石灰に水を混ぜて発熱させたモノをビートルの横に投げるアル。が、上がった白煙は、目くらましにはなったものの、やはりダメージは与えておらず、そっちに強く反応しているわけではなさそうだ。
「‥‥今っ!」
視覚を奪われたビートルが、右往左往しながら、ロッテの前を通り過ぎる。背後に回りこんだ形となったロッテ、彼らが背を向けているのを確かめると、一気に覚醒する。
「固いわね‥‥」
動きはそれほど早くない。ロッテ達グラップラーであれば、ミクくらいの年頃でも、難なく当てることが出来るだろう。
「どいて! 関節を狙ってみます!」
その間に、水鏡・シメイ(
ga0523)が構えた長弓から矢を放つ。普通なら、難易度の高い攻撃なのだが、スナイパーの彼にとっては、日常茶飯事。その証拠に、全身から白いオーラが立ち上り、目つきが鋭くなっていた。
「固いですね‥‥。生物兵器とは言え、既存の動物とはやはり違いますか‥‥」
その性格な矢は、ビートルの足の根元に命中する。しかし、フォースフィールドは、その身をくまなく覆っているらしく、頭や間接だから、防御力が弱い‥‥と言うのはないらしい。
「さて、ここからは本気でいきますよ」
シメイの口元から、笑みが消えた。どうやら、不利を装いつつ誘い込むと言った策なんぞ講じなくても、長期戦になってしまいそうだったからだ。
「表面の甲殻がやっかいね‥‥。アレが全ての元凶みたい‥‥」
ロッテがそう言った。いくら攻撃をしかけても、下手な一撃は、その表面に張り付いた甲殻によってはじかれる。と、同時にそれは、ビートル達の攻撃力を上げる武器代わりのようだ。
「ちょっとぉ! 矢の初速落とさないと、蹴りこめないじゃない!」
「無茶言わないで下さいっ」
で、その威力を上げる為、ロッテはシメイの矢に、自分のパワーを合わせようとしたのだが、いくら適合者とは言え、飛んでいる矢に足を合わせるのは、至難の技だった。
「‥‥こっちよ、ほらほら‥‥」
仕方なく、ロッテは出来るだけトリッキーな攻撃をしようとする。
「きしゃああ!」
攻撃目標を、彼女に定めたらしいビートルは、その鍵爪を振り上げた。が、敏捷性なら負けないロッテ、あっさりとそれを避けてしまう。
「って、それで終わりじゃないの!?」
が、相手はでかくて手足の数も多い。反対側の足でもう一撃。慌ててジャンプすると、そのまま背中を踏み込むように蹴りを入れる。重量を載せたその攻撃は、若干だがダメージが上がっているようだ。
「どーやら、一匹を2人がかりで倒すと、ちょうど良いらしいな」
川下にいたカイト・キョウドウ(
ga3217)がそう言った。スナイパーの彼、あまり前面に出る事をよしとしないらしい。その鋭い視線は、ビートル達の後ろで、彼らの戦闘をじっと見守っている大型キメラに注がれている。どうやら、それが出てくる事を警戒しているようだ。
「あっちはロッテさんにお任せして、残り2匹をやるとしますかね」
「わかった。前線は任せた。援護しよう」
SES内臓の日本刀を抜き、アリスが釣ってきたもう一匹に、攻撃を仕掛けるアル。
「きしゃああ!」
まだぴんぴんしていたそのビートル2号だったが、運悪く足元の石に引っかかった。
「てぇいっ!」
その間に、アルは頭部めがけて刀を振り下ろす。狙いは外れず、ごりっと言う音と共に、表面の装甲がかなり削られる。
「おっとぉ! なるほど、グラップラーやスナイパー連中では余裕だが、俺らだとタメって事か‥‥」
お返しとばかりに振り下ろされた腕は、アルのすぐ側を通り抜けて行った。手を抜いたつもりのない彼、大雑把なスピードを予想する。
「どうやら、生体兵器のこいつら、判断は総合的にやってるみたいだな‥‥。弱点は無しか‥‥」
そんな行為を3ターンほど繰り返した結果を、そう呟くアル。もし、弱点と言うのなら、彼らに比べて、動きがやや遅い事、その為に相手の攻撃は当たらないが、こっちの攻撃は当たる事。その代わりに、装甲がやたらと固いことが上げられた。
「こっちも他の感覚器官を試してみる。直線に入るなよ!」
それを見習って、カイトがスコーピオンの引き金を引いた。鋭覚狙撃まで使ったその弾丸は、狙い違わずビートルに降り注ぐ。
「やはり、甲殻にはじかれるか‥‥。弾数が多くて助かったな‥‥」
一発一発は、大した事がない。だが、スコーピオンの装弾数が、そのパワーのなさを、充分に補ってくれたようだ。マガジンを変える頃には、相手の装甲は、かなりボロボロになっていた。
「しかし‥‥。意図せずして長期戦か‥‥」
が、残念ながらこちらでも、一気に仕留めるのは、ダメージの都合上難しいようだ。やはり、そう簡単に、敵は倒せないと行った所だろう。
「どうやら、近づかない限りは大丈夫みたいだな‥‥」
「んじゃ、俺達は真ん中ら辺を狙うとしますかねっ」
で、その頃。川上班と川下班の中ほどに陣取った桜崎・正人(
ga0100)と吾妻 大和(
ga0175)は、それぞれ両側のビートルへ向かって、それぞれの銃で、援護射撃を開始する。
「ミクには近寄らせないようにしないとな‥‥」
正人がアサルトライフルの銃口を向けているのは、アリスと蝦蛄助が相手にしている方だ。かく乱しやすいように、援護射撃と行った所だろう。と、大和はその頭と顔に付いている品物を見て、目を逸らしてしまう。
「バグアは地球の萌え文化に如何なる反応を示すか‥‥重要っちゃ重要データかね、こりゃ」
口元が引きつっている所を見ると、どうやら笑いをこらえるのに必死のようだ。
「バグア兵はまだ気付いていない‥‥か?」
スコープを覗きつつ、彼らの後ろにいるバグア兵の同行に注意を払っている正人。
「いや、こっちに様子見に来たみたいだぜ」
大和がそう言った。さすがに、警戒巡回中の4匹中、3匹が同時にバトっていたら、騒ぎに気付いてしまうだろう。
「ち‥‥。まずいな‥‥」
正人がアサルトライフルを向けるが、さすがに人型は、スナイパーの命中率を誇っても当たらず、運良く当たったとしても、ダメージはその半分も行かないようだ。
「気をつけろよ! あいつら、かなり素早いぜ!」
それは、大和も同じ状況だ。むしろ、正人に比べてさらに当たらない。その代わり、彼は渡されていた通信機を使って、両方の班に警告を発する。
「反撃までは、約3秒。俺らと余り変わらないな‥‥」
その最中、正人は撃った直後、ビートル達が向かってくるまでの秒数を数えていた。その結果、概ね3秒ほど。それは、ラストホープにやってきたばかりの傭兵達と、さほど変わらない。
「銃だと、攻撃力が分からないな‥‥」
が、離れた場所から撃っている限り、その体当たりがどの程度の威力を持っているのか、いまいち分かりづらかった。
「こっちに向かってきたようだぜ!」
そこへ、折り良くビートル3号機が、大和へ向かってくる。と、彼は副兵装の日本刀へと持ち変えて、むしろ彼らの方へと攻撃を仕掛けていた。
「うわっととと。お、お助け〜!」
反撃するように、スピードを上げるビートル。体当たりを食らっては‥‥と、大げさに回避する大和。そんな彼を援護するように、正人の銃から弾丸が飛んだ。
「‥‥何を遊んでいる」
「いやー‥‥。バレちゃった?」
直後、文句言われる大和。どうやら、味方の射線には割り込まないように、ルートを加減していたのが、正人にはわかってしまったらしい。
「こっちだ‥‥」
一方で、無言で4匹目のビートルを相手にしている佐嶋 真樹(
ga0351)。大和と同じように、刀を手にしているが、目標を正眼に構え、しっかりと前を見据えている。
「挑発には乗るんだな」
そうして、一旦相手の攻撃を誘ったところ。追いかけてきたビートル4号機が、着地した隙を狙って体当たり。それを、一度バックステップで飛び引いて間合いを取る彼女。
「今度はこちらの番だ」
そのまま、体全体でぶつかるように顔面に真っ直ぐ平突き。スピードと威力を上乗せしてはいたが、固い装甲を貫くには至らない。
「ちっ」
逆に攻撃を食らいそうになり、慌てて飛びのく彼女。充分距離をとったところで、豪破斬撃付与の唐竹割を食らわせていた。
「これでようやく半分か‥‥」
もっとも、実際に竹を割るように、ビートルの装甲を割る事は出来ない。それでも、なんとかかなりのダメージを与えられたようだ。
「一番真面目にやっていないのは、アレだと思う」
それを見て、大和が、指し示したのは、優勢になっていると思ったらしいミクが、チアガールっぽい毛玉を振りながら、「がんばれー☆ しっかりー♪」と、ダンスを踊っている光景だ。
「キチチチチ‥‥」
だが、そこへ4匹目のビートルが狙いを定めている。ミク、まったく気付いていない。
「馬鹿、前に出るなっ!」
エミールが、注意を引くように、立ち上がってアサルトライフルをぶっ放す。だが、その厚い装甲に阻まれ、貫くには至らない。
「え‥‥きゃああっ」
悲鳴を上げるミク。その一瞬だけ、年頃のお嬢さんに戻ってしまう。
「‥‥うぐっ」
が、血を流したのは、彼女ではなかった。
「あ、あれ?」
「大丈夫か?」
ミクが両手でガードしていた頭を上げると、そこにいたのは、庇ったらしき佐嶋の姿。どくどくと溢れる血に、ミクはわたわたとパニくってしまう。
「あ、あたしは平気だけど‥‥。えぇん、ち、血が一杯〜」
「私はお前が嫌いだが、それでも死なれては目覚めが悪い」
一生懸命傷口を押さえるミクに、佐嶋はそう言った。そして、彼女を突き飛ばすようにして、その傷口を縛る。
「何をやっている! 司令官がそんな事で務まるか!」
「うわーーん。ごめんなさぁーーーいっ」
駆け寄った正人にぱぁんっと平手を打たれ、平謝りのミク。その間に、大和が救急セットで、手当てをしていた。
「やばい。気付かれたか?」
その間、後方の大型ビートルや、バグア兵の動きに気をつけていたエミールは、バグア兵がその大型ビートルに何やら命じているのを見て、そう言う。直後、大型ビートルがこちらへと向かってきた。それを見たエミール、彼らが自分達の所にたどり着くより前に、照明弾を打ち上げる。それは、少し離れた場所にいたロッテにも見えたようだ。
「限界のようね‥‥皆、撤退するわよ」
ビートル達はまだ元気のようだが、治療を終えた大和は、さっさと撤収に取り掛かっている。それを見て、ロッテはアリス達にそう提言する。
「TVで見るより大変だよな、正義の味方も‥‥」
こうして、何とかデータを取り終わった一行。ロッテのねぎらいに、蝦蛄助はボロボロになったお面と向かい合って、そう一言呟くのだった。