タイトル:戦闘データ急募。マスター:姫野里美

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/11/01 23:25

●オープニング本文


●表向きには、委任です
 ヨーロッパのある研究所。
 そこでは、日々様々な兵器が開発されようとしていた。
 だが。
「足りん」
 研究所で、書類を片手に、モニターの前で頭を抱えている初老の男性。この研究所で、所長を務めるキャスター・プロイセンである。そう。いつぞや捕獲されちゃったミクの祖父だ。
「傭兵ども、仕事だ! 今すぐ戦闘データを持って来い!」
「って、いきなりなんですかっ」
 怒鳴られて、椅子からずり落ちる研究員壱号くん。と、キャスターのじーさんは、うーんとうめきながら、その理由を述べた。
「いや、軍の方から、ナイトフォーゲル用の兵器開発だの、SES内臓の武器をもっと上げろだの言われているんだが、戦闘データが圧倒的に足りないんじゃい。んで、おまいらもっと気合を入れて、そこのでかいカブトムシをぶっ叩いて来い、と!」
 武器を開発しようにも、傭兵達がどの程度のダメージを与えられ、どの程度を1人で相手できるのかが、データに入っていない。これでは、後に続く兵器開発にも、支障が出ると言うもの。
「は、博士ッ。そんな事言ったって、モノには順序がありましてっ」
 もっとも、傭兵達を勝手に前線に送り込むわけには行かない。ラストホープにある本部に、依頼と言う形で出撃を請わなければならないのだから。
「んな事言ってたら、わしのかわういミク助は、あっという間に幼虫のえさじゃい」
 と、じじぃがそんな事をゴネていた所、片隅にあった通信用モニターが、軽く呼び出し音を立てる。
『はーい、おじい様。元気ー? 死んでなーいー?』
 急いで通信回路を開くと、モニターに映ったのは、緑色の髪をツインテールにした14〜15歳の少女だ。腕にUPCのマークをつけ、葱型ポインターをふりひらと振っている。
「おう。残念ながら、あと100年くらいは、ばーちゃんの所にはいかんつもりじゃ。なんぞあったかいな」
『あのねー。傭兵さん達、キメラが気に食わないって吼えてたのー。だから、ちょっとちょっかい出してこようと思って』
 そう言って、ミクが自分の顔の脇に、小さく画像を出したのは、北海道の広大な川原。日本国内では唯一地平線が見えると評判のそこに、バグア軍と思しきワームから、キメラがわらわらと配備されている。おそらく、川の向こうに睨みを効かせるためだろう。
「そりゃあ構わんが、ミクも出撃かい?」
 拠点攻撃用のギガワームはいないが、小さな一区画だったら、占領出来そうな数じゃな‥‥と、軽く画像から幾つかの小隊が集まっている事を見抜きつつ、そんな事は顔にも出さずに、尋ねるじーさん。
『うん、いってくりゅー。あ、でも、一応准将さんだから、面白い作戦が有ったら、どんどん使えって言われてるー』
「そうかそうか。んでは、戦ったデータは、わしん所に持ってくるんじゃぞ。面白い秘密兵器を開発してやるからの」
 おまけに、ちゃっかり結果だけは預かるとか抜かしていた。『うんわかったー。じゃあ、後でねーー』と、モニターから消えるミクに、お手手振って見送った後、准将はくるりと振り返って、真面目な顔で、研究員に告げた。
「‥‥至急、傭兵を集めて、ミクの所に送ってやってくれ。あの娘の事だから、とりあえず突撃とかやりかねん」
 表向き、孫溺愛のへんなジーさんだが、こう言う事が絡むと、きっちり頭が働くらしい。
「軍に迷惑をかけるわけにもいかんでな。それに、ついでに戦闘データを集めておけば、一石二鳥じゃて」
 いや、どっちかと言うと、多少合理的な部分が働いているのかもしれない。
「ああ、それと、指揮系統の委任状を、わしの名前で作成しておいてくれ。あやつめ、准将の肩書きが、本来はわしに与えられたもんだってのを、すっかり忘れとる」
 階級章はおもちゃじゃねぇと、口うるさく言う御仁がいそうだしのー‥‥と、ぶつぶつ言いながら、書類を提出させようとするじーさん。これで一応『准将の命により出撃』と言うタテマエが成立すると言うわけだ。

●戦闘データ取得
 一方、ラストホープ本部。
「と言うわけでぇーーー」
 べしべしぃと葱型ポインターでホワイトボードをたたくミクさん‥‥の姿が、依頼用モニターに移っている。
「今回の相手はぁ、データ収集用にぃ、この辺りのキメラさんを相手にしてもらいまぁす」
 彼女の掌に、ヴぃぃんと音がして、小さな画像が映る。それは、キャスター准将に見せた物と同じ、北海道は石狩川に配備された、ビートル型キメラの1小隊だ。
「戦況とかぁ、ミク、そう言う細かい事わかんなぁい。けど、だいたいこれくらいのキメラが居てぇ、こんくらいのワームが陣取ってるみたいだよぉ」
 べべべべ‥‥と、並んだのは、昆虫型と呼ばれるキメラが合計4体。その後ろに、一回り大きな昆虫型が1匹陣取っており、さらに奥の方では、指揮を取っているような動きをみせるバグア兵が2人いた。そして、その周囲はちょうど開けた川原と、平原になっている。土手もあるが、どちらかと言うと一番外側で、後は身を隠せそうに無い細い木がちらほら。川は次第に深くなって行く‥‥と言った、ごくごく一般的な広い川岸での戦闘のようだった。
「面白そうな作戦があったら採用するけど、面白くなかったら却下。じゃ、頑張ってねぇ」
 そう言うと、画像がオフになった。どうやら、画像から見える状況と、相手の数から、作戦を構築しろと言う事らしい。
 いや、画像はそれだけで終わらなかった。
「あれ? キャスター准将からだ」
 誰かがそう言った。見れば、下の方に『UPCヨーロッパ方面軍兵器開発部所属、キャスター・プロイセン』と言う、大仰な肩書きがついた禿頭のじーさんが、眉間にしわを寄せて、講釈を垂れている。
『うちの孫が、また面倒かけてすまん。だが、今回の戦闘データは、今後の武器兵器開発に、是非とも必要なものだ。ビートル型を4匹ほど相手にしてもらうと思うが、よろしく頼む』
 それによると、陣取っている小隊を相手にはするものの、殲滅ではなく、反応を確かめるのが目的らしい。余り深入りすると、ボスクラスと思しき大型昆虫や、脳みその回るバグア兵が出てくる可能性があるため、気付かれないうちに撤収してほしいそうだ。その際、上手い事言っておけば、お飾り准将殿も満足するだろうと言うのが、祖父である彼の弁。
 どうやらそちらが、今回の本命依頼であるようだった。

●参加者一覧

ロッテ・ヴァステル(ga0066
22歳・♀・PN
アルフレッド・ランド(ga0082
20歳・♂・FT
桜崎・正人(ga0100
28歳・♂・JG
吾妻 大和(ga0175
16歳・♂・FT
エミール・ゲイジ(ga0181
20歳・♂・SN
佐嶋 真樹(ga0351
22歳・♀・AA
水鏡・シメイ(ga0523
21歳・♂・SN
アリス(ga1649
18歳・♀・GP
麻堅 蝦蛄助(ga3016
34歳・♂・GP
カイト・キョウドウ(ga3217
20歳・♂・SN

●リプレイ本文

 一通り挨拶を済ませ、必要物資を調達した傭兵達は、車3台+バイクに分乗し、川原へ三つに分かれて潜んでいた。
「敵確認。ビートル型4匹っと」
 川原に寝そべったアルフレッド・ランド(ga0082)が、スコープごしに、敵影を確かめる。他の面々も、配置についたらしく、別の声が聞こえてくるので、彼はこう尋ねてみた。
「司令は?」
『ミクか? えぇと、この辺に‥‥』
 エミール・ゲイジ(ga0181)、面倒くさくなったので、名前で呼ぶ事にしたらしい。後ろの方で『むぎゅ』と、潰されているような声が聞こえた。どうやら大人しくしているようだ。
「きしゃあ!」
 それぞれ準備を済ませる中、警戒中の一匹が、猫耳を付けたアリス(ga1649)を見つけ、こちらへ向かってくる。その瞳は、戦闘意欲に燃えているかのように、真紅に染まっていた。
「目標補足! ついてきてる?」
 自分の方が、足が速い。そう認識していたアリスが、後ろの麻堅 蝦蛄助(ga3016)を気にして振り返る。
「‥‥来てないが、これで充分だろ!」
 と、そのすぐ脇を、小石がぶっ飛んで行った。見れば、朝のヒーロー仮面をつけた彼が、転がっている石を投げつけている。
「来たわよっ!」
 覚醒後のパワーで投げつけられた小石は、追ってきた虫型キメラに命中する。音に気付いたらしいもう一匹が、増援に駆けつけた。
「しかしこすっからいヒーローだな、我ながら!」
 スピードを上げる蝦蛄助。追いつかれるほどの速度ではなさそうなので、瞬天速はまだ使わないで良さそうだ。
「このままだと、充分釣れそうね‥‥。よぉし」
 その速度は、アリスの半分程度しかない。それを、わざと追いつかせるため、ジグザグに走って見る彼女。
「うわっ。やっぱり油断は禁物か‥‥」
 足元の石に引っかかり、もう少しで当たりそうになってしまう彼女。ぎりぎりで避けたが、相手の行動力が同じ位だと考えると、やはり全力で移動した方が良さそうだ。その証拠に、移動に集中している蝦蛄助は、相手の攻撃を難なく避けている。
「来たわ‥‥」
 川上に陣取ったロッテ・ヴァステル(ga0066)が、5〜10mの間隔を維持し、息を潜めている。他の面々も同様だ。それでも、何か潜んでいるとは分かったのか、警戒したビートル、おめめの輝きを増す。
「きしゃああ!!!」
 一匹が、アルフレッドのいるあたりへ方向転換した。見ると、風のせいか、毛布がちょっとめくれている。運が悪かったようだ!
「やばいな。食らえッ。殺虫剤攻撃ッ」
 仕方なく、スプレータイプの殺虫剤を吹き付けるアル。ぷしゅーーーっと盛大な白煙が上がったが、同じ虫でもキメラなので、まったく効いてはいない。
「やっぱり張られちまってるな‥‥」
 薄く、赤く光る幕のようなものが、一瞬見え、アルはそう呟いた。キメラだけではなく、バグアは概ねSESを搭載していない武器は、その威力をかなり落とさせる。おそらく、それが適合試験の時に説明されたフォースフィールドだろう。
「より生体兵器に近いってか。どうも熱源じゃなくて、視覚っぽいし」
 カモフラの為、ビニールに入れた生石灰に水を混ぜて発熱させたモノをビートルの横に投げるアル。が、上がった白煙は、目くらましにはなったものの、やはりダメージは与えておらず、そっちに強く反応しているわけではなさそうだ。
「‥‥今っ!」
 視覚を奪われたビートルが、右往左往しながら、ロッテの前を通り過ぎる。背後に回りこんだ形となったロッテ、彼らが背を向けているのを確かめると、一気に覚醒する。
「固いわね‥‥」
 動きはそれほど早くない。ロッテ達グラップラーであれば、ミクくらいの年頃でも、難なく当てることが出来るだろう。
「どいて! 関節を狙ってみます!」
 その間に、水鏡・シメイ(ga0523)が構えた長弓から矢を放つ。普通なら、難易度の高い攻撃なのだが、スナイパーの彼にとっては、日常茶飯事。その証拠に、全身から白いオーラが立ち上り、目つきが鋭くなっていた。
「固いですね‥‥。生物兵器とは言え、既存の動物とはやはり違いますか‥‥」
 その性格な矢は、ビートルの足の根元に命中する。しかし、フォースフィールドは、その身をくまなく覆っているらしく、頭や間接だから、防御力が弱い‥‥と言うのはないらしい。
「さて、ここからは本気でいきますよ」
 シメイの口元から、笑みが消えた。どうやら、不利を装いつつ誘い込むと言った策なんぞ講じなくても、長期戦になってしまいそうだったからだ。
「表面の甲殻がやっかいね‥‥。アレが全ての元凶みたい‥‥」
 ロッテがそう言った。いくら攻撃をしかけても、下手な一撃は、その表面に張り付いた甲殻によってはじかれる。と、同時にそれは、ビートル達の攻撃力を上げる武器代わりのようだ。
「ちょっとぉ! 矢の初速落とさないと、蹴りこめないじゃない!」
「無茶言わないで下さいっ」
 で、その威力を上げる為、ロッテはシメイの矢に、自分のパワーを合わせようとしたのだが、いくら適合者とは言え、飛んでいる矢に足を合わせるのは、至難の技だった。
「‥‥こっちよ、ほらほら‥‥」
 仕方なく、ロッテは出来るだけトリッキーな攻撃をしようとする。
「きしゃああ!」
 攻撃目標を、彼女に定めたらしいビートルは、その鍵爪を振り上げた。が、敏捷性なら負けないロッテ、あっさりとそれを避けてしまう。
「って、それで終わりじゃないの!?」
 が、相手はでかくて手足の数も多い。反対側の足でもう一撃。慌ててジャンプすると、そのまま背中を踏み込むように蹴りを入れる。重量を載せたその攻撃は、若干だがダメージが上がっているようだ。
「どーやら、一匹を2人がかりで倒すと、ちょうど良いらしいな」
 川下にいたカイト・キョウドウ(ga3217)がそう言った。スナイパーの彼、あまり前面に出る事をよしとしないらしい。その鋭い視線は、ビートル達の後ろで、彼らの戦闘をじっと見守っている大型キメラに注がれている。どうやら、それが出てくる事を警戒しているようだ。
「あっちはロッテさんにお任せして、残り2匹をやるとしますかね」
「わかった。前線は任せた。援護しよう」
 SES内臓の日本刀を抜き、アリスが釣ってきたもう一匹に、攻撃を仕掛けるアル。
「きしゃああ!」
 まだぴんぴんしていたそのビートル2号だったが、運悪く足元の石に引っかかった。
「てぇいっ!」
 その間に、アルは頭部めがけて刀を振り下ろす。狙いは外れず、ごりっと言う音と共に、表面の装甲がかなり削られる。
「おっとぉ! なるほど、グラップラーやスナイパー連中では余裕だが、俺らだとタメって事か‥‥」
 お返しとばかりに振り下ろされた腕は、アルのすぐ側を通り抜けて行った。手を抜いたつもりのない彼、大雑把なスピードを予想する。
「どうやら、生体兵器のこいつら、判断は総合的にやってるみたいだな‥‥。弱点は無しか‥‥」
 そんな行為を3ターンほど繰り返した結果を、そう呟くアル。もし、弱点と言うのなら、彼らに比べて、動きがやや遅い事、その為に相手の攻撃は当たらないが、こっちの攻撃は当たる事。その代わりに、装甲がやたらと固いことが上げられた。
「こっちも他の感覚器官を試してみる。直線に入るなよ!」
 それを見習って、カイトがスコーピオンの引き金を引いた。鋭覚狙撃まで使ったその弾丸は、狙い違わずビートルに降り注ぐ。
「やはり、甲殻にはじかれるか‥‥。弾数が多くて助かったな‥‥」
 一発一発は、大した事がない。だが、スコーピオンの装弾数が、そのパワーのなさを、充分に補ってくれたようだ。マガジンを変える頃には、相手の装甲は、かなりボロボロになっていた。
「しかし‥‥。意図せずして長期戦か‥‥」
 が、残念ながらこちらでも、一気に仕留めるのは、ダメージの都合上難しいようだ。やはり、そう簡単に、敵は倒せないと行った所だろう。
「どうやら、近づかない限りは大丈夫みたいだな‥‥」
「んじゃ、俺達は真ん中ら辺を狙うとしますかねっ」
 で、その頃。川上班と川下班の中ほどに陣取った桜崎・正人(ga0100)と吾妻 大和(ga0175)は、それぞれ両側のビートルへ向かって、それぞれの銃で、援護射撃を開始する。
「ミクには近寄らせないようにしないとな‥‥」
 正人がアサルトライフルの銃口を向けているのは、アリスと蝦蛄助が相手にしている方だ。かく乱しやすいように、援護射撃と行った所だろう。と、大和はその頭と顔に付いている品物を見て、目を逸らしてしまう。
「バグアは地球の萌え文化に如何なる反応を示すか‥‥重要っちゃ重要データかね、こりゃ」
 口元が引きつっている所を見ると、どうやら笑いをこらえるのに必死のようだ。
「バグア兵はまだ気付いていない‥‥か?」
 スコープを覗きつつ、彼らの後ろにいるバグア兵の同行に注意を払っている正人。
「いや、こっちに様子見に来たみたいだぜ」
 大和がそう言った。さすがに、警戒巡回中の4匹中、3匹が同時にバトっていたら、騒ぎに気付いてしまうだろう。
「ち‥‥。まずいな‥‥」
 正人がアサルトライフルを向けるが、さすがに人型は、スナイパーの命中率を誇っても当たらず、運良く当たったとしても、ダメージはその半分も行かないようだ。
「気をつけろよ! あいつら、かなり素早いぜ!」
 それは、大和も同じ状況だ。むしろ、正人に比べてさらに当たらない。その代わり、彼は渡されていた通信機を使って、両方の班に警告を発する。
「反撃までは、約3秒。俺らと余り変わらないな‥‥」
 その最中、正人は撃った直後、ビートル達が向かってくるまでの秒数を数えていた。その結果、概ね3秒ほど。それは、ラストホープにやってきたばかりの傭兵達と、さほど変わらない。
「銃だと、攻撃力が分からないな‥‥」
 が、離れた場所から撃っている限り、その体当たりがどの程度の威力を持っているのか、いまいち分かりづらかった。
「こっちに向かってきたようだぜ!」
 そこへ、折り良くビートル3号機が、大和へ向かってくる。と、彼は副兵装の日本刀へと持ち変えて、むしろ彼らの方へと攻撃を仕掛けていた。
「うわっととと。お、お助け〜!」
 反撃するように、スピードを上げるビートル。体当たりを食らっては‥‥と、大げさに回避する大和。そんな彼を援護するように、正人の銃から弾丸が飛んだ。
「‥‥何を遊んでいる」
「いやー‥‥。バレちゃった?」
 直後、文句言われる大和。どうやら、味方の射線には割り込まないように、ルートを加減していたのが、正人にはわかってしまったらしい。
「こっちだ‥‥」
 一方で、無言で4匹目のビートルを相手にしている佐嶋 真樹(ga0351)。大和と同じように、刀を手にしているが、目標を正眼に構え、しっかりと前を見据えている。
「挑発には乗るんだな」
 そうして、一旦相手の攻撃を誘ったところ。追いかけてきたビートル4号機が、着地した隙を狙って体当たり。それを、一度バックステップで飛び引いて間合いを取る彼女。
「今度はこちらの番だ」
 そのまま、体全体でぶつかるように顔面に真っ直ぐ平突き。スピードと威力を上乗せしてはいたが、固い装甲を貫くには至らない。
「ちっ」
 逆に攻撃を食らいそうになり、慌てて飛びのく彼女。充分距離をとったところで、豪破斬撃付与の唐竹割を食らわせていた。
「これでようやく半分か‥‥」
 もっとも、実際に竹を割るように、ビートルの装甲を割る事は出来ない。それでも、なんとかかなりのダメージを与えられたようだ。
「一番真面目にやっていないのは、アレだと思う」
 それを見て、大和が、指し示したのは、優勢になっていると思ったらしいミクが、チアガールっぽい毛玉を振りながら、「がんばれー☆ しっかりー♪」と、ダンスを踊っている光景だ。
「キチチチチ‥‥」
 だが、そこへ4匹目のビートルが狙いを定めている。ミク、まったく気付いていない。
「馬鹿、前に出るなっ!」
 エミールが、注意を引くように、立ち上がってアサルトライフルをぶっ放す。だが、その厚い装甲に阻まれ、貫くには至らない。
「え‥‥きゃああっ」
 悲鳴を上げるミク。その一瞬だけ、年頃のお嬢さんに戻ってしまう。
「‥‥うぐっ」
 が、血を流したのは、彼女ではなかった。
「あ、あれ?」
「大丈夫か?」
 ミクが両手でガードしていた頭を上げると、そこにいたのは、庇ったらしき佐嶋の姿。どくどくと溢れる血に、ミクはわたわたとパニくってしまう。
「あ、あたしは平気だけど‥‥。えぇん、ち、血が一杯〜」
「私はお前が嫌いだが、それでも死なれては目覚めが悪い」
 一生懸命傷口を押さえるミクに、佐嶋はそう言った。そして、彼女を突き飛ばすようにして、その傷口を縛る。
「何をやっている! 司令官がそんな事で務まるか!」
「うわーーん。ごめんなさぁーーーいっ」
 駆け寄った正人にぱぁんっと平手を打たれ、平謝りのミク。その間に、大和が救急セットで、手当てをしていた。
「やばい。気付かれたか?」
 その間、後方の大型ビートルや、バグア兵の動きに気をつけていたエミールは、バグア兵がその大型ビートルに何やら命じているのを見て、そう言う。直後、大型ビートルがこちらへと向かってきた。それを見たエミール、彼らが自分達の所にたどり着くより前に、照明弾を打ち上げる。それは、少し離れた場所にいたロッテにも見えたようだ。
「限界のようね‥‥皆、撤退するわよ」
 ビートル達はまだ元気のようだが、治療を終えた大和は、さっさと撤収に取り掛かっている。それを見て、ロッテはアリス達にそう提言する。
「TVで見るより大変だよな、正義の味方も‥‥」
 こうして、何とかデータを取り終わった一行。ロッテのねぎらいに、蝦蛄助はボロボロになったお面と向かい合って、そう一言呟くのだった。