タイトル:【輸送】黒き触手マスター:姫野里美

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/23 22:07

●オープニング本文


 欧州攻防戦、その戦いはイタリア半島をバグアから奪い返すという結末を持って終わり、人類は初めてバグアから失地を奪還することに成功した。
 だが、その反面スペインの大半がバグアの手に落ち、フランス南部まで彼らの手に堕ちたとなれば、少なくとも地図上においての戦果は諸手を上げて喜べるほどのものではない。
「せめて鹵獲した機体くらいこちらの好きに使わせてほしいのだがな。戦果というものは山分けしたくなるものらしい」
 UPC本部から欧州軍に告げられた命令は、鹵獲した機体のラストホープ島への輸送であった。
 研究施設が整っており、各メガコーポレーションの支社も豊富に揃っているというのが表向きな理由である。
「ここに置いておくよりは安全‥‥というのが本音であろうがな。確かに、保管している場所がばれてしまえば、光学迷彩がついた機体の襲撃など防ぎようがない」
「巨大なKV格納庫を持つラスト・ホープ島は世界一強固な要塞です。ファームライドであろうとシェイドであろうと、そう簡単に手は出せないでしょう」
 自嘲気味に笑うピエトロと、今回の作戦の意義を説明するブラッド。性格はどちらかといえば似た二人であったが、表情に差が生まれるのは立場の違いからだろうか。
 かくして、輸送作戦が行われることになった。もちろん、本物がどれかなど、傭兵達に知らされる事もなく‥‥である。

 さて、その輸送護衛の1つが、カラスのところにも来ていた。が、彼は用意されたコンテナを見て、頭を抱える事になっていた。
「今回見つかったのはこれで全部だぜ」
「3個か‥‥。どうやって取り付けたんだろうね?」
 技術主任である『親方』に指し示されて、カラスは見つかったゴムパインをちゃちゃっと安全な場所で切り刻んでいる。ゴムのような体を持つ手榴弾型キメラは、時折退治を依頼されるものだが、今回はそれが三つも張り付いていたらしい。
「こいつは俺ら職人しか使わない工業用の糊に良く似てる。詳しい分析はやってみないとわからねぇが、あれ以後、持ち出すのに厳重管理してるから、うちの人間でないことは確かだ」
 ナポリ郊外の工房‥‥サンドリヨンを作った工房だ‥‥では、そのコンテナのチェックを行っていた。一通りの手順でもって、コンテナをチェックしていたのだが、その時点だけでゴムパインが3つも取り付けられていたのだ。
「出発前からこの状況だと、先が思いやられるなぁ。えぇと、指定のルートはどうなってるんだっけ?」
「日程は任せるが、とりあえずミラノまで来いと言われてる」
 陸路と海路の二つがある。ただ、警備上の都合で、空路は使えないそうだ。このコンテナかどうかは定かではないが、他にも輸送依頼が乱立しているところを見ると、その関係だろう。ミラノまで行けば、ガリーニンが回収しに来るらしい。ただし、中佐は今回UK勤務なのでいない。
「両方とも敵だらけだね。海は南海の決戦シリーズ、陸路はイタリアンマフィアの抗争ってところかな」
 そこまでカラスが言い終わった時、分析器が完了のコールを鳴らした。と、そこには爆弾を貼り付けていた粘着性の物体が、植物の分泌液であること、また爆発物と思ったのは、超可燃性の木の実である事、そして、それらに共通するように、植物の花粉が張り付いていた事が表記されている。
「親方。このコンテナ、発送地どこだっけ」
「海岸の方だけど。このあたりだな」
 ちょうど、陸路で行くにしても、海路でいくにしても通る道のりである。嫌な予感のよぎったカラスが、問い合わせてみると。
「す、すんませんっ。今手が離せなくって! こらぁ! そこのうねうね系ッ。若い姉ちゃんとお兄ちゃんばっか狙うなぁっ! もったいないッ!」
 電話口で怒鳴っているUPCの人。見れば窓の外では、道路に2mくらいの植物型キメラが徘徊しており、逃げようとした若い女性や、応対しているUPC軍の中でも、比較的抱きやすそうな体つきをしている若い兵士等に、優先して襲い掛かっている。逃げ込んだ建物や、反対に攻撃を仕掛けようとしたものに対しては、その体中に張り付いたゴムパインを投げつけていた。
「やはりね‥‥」
 げんなりするカラス。後でかけなおしてみると、進行上の町に、植物キメラが発生しており、あちこちで肉の柔らかそうなお姉さんお兄さんを狙い、肉の硬そうなモノや脂っこいモノは排除して回っているそうだ。
「やれやれ、こいつは近づいたら、絡め取られて美味しくいただかれそうだね。あまり近づかないように対処してもらおうかな」
 そう言って、依頼書をまとめるカラス。

『コンテナ輸送の障害になっているうねうね系キメラを退治してほしいんだ。あまり近づきすぎると、食べられる可能性があるので、注意して』

 どこかのエロゲー臭がするのは、キメラを作ったバグアに文句言ってほしいそうである。

●参加者一覧

水上・未早(ga0049
20歳・♀・JG
幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
皇 千糸(ga0843
20歳・♀・JG
ミカエル・ヴァティス(ga5305
23歳・♀・SN
森里・氷雨(ga8490
19歳・♂・DF
神鳥 歩夢(ga8600
15歳・♂・DF
ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751
19歳・♂・ER
双寺 文(gb0581
19歳・♀・GP

●リプレイ本文

 相談の結果、2班に分かれて行動する事になった。コンテナの周囲に半数が張り付き、少し離れた位置から、もう半数が見守るという事になったらしい。班分けは次の通りだ。

【A班】
ミカエル・ヴァティス(ga5305
森里・氷雨(ga8490
ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751
双寺 文(gb0581

【B班】
幡多野 克(ga0444
皇 千糸(ga0843
神鳥 歩夢(ga8600
水上・未早(ga0049

「うし、これでいいな」
 森里がエマージェンシーキットの一部を利用して、コンテナをラッピングしている。出来れば、もう少し対種対策を施したかったのだが、狙っていた日傘も浮き輪もあたらず、支給品の女神様は自力で頑張りやとおっしゃっていたそうだ。その結果、コンテナはまるでどこぞのプレゼント品のように、シートがマーブルに覆うようになっていた。無論、耐火対ショック包装材などではない。ごくごくまっとうなビニールシートである。
「あとはこれをペットに小分けして。こんなもんでいいな」
 スブロフを350mlの小瓶数本に注ぎ、紙縒りを貼り付けたキャップを閉める。これで、簡易的な火炎瓶にはなるだろう。実際に活用できるかはさておき。
「こちらB班。そっちはどうですか?」
『だいぶ埋まってるけど、側道やマンホールまで手が回っていない。現れているのは、ほぼ市街地だから、弾も爆薬もかなり跳ね上がるだろうな』
 輸送経路をチェックしていた森里が、未早にそう連絡してくる。それを聞いて、警戒は怠らない方が良さそうだと判断した幡多野は、耳をそばだて、目を見開くようにして、周囲に注意をめぐらせる。感覚を研ぎ澄ませ、些細な異常も見逃さないように。
 と、その時だった。進行方向左側で、UPCの巡回班と思しき面々が、銃を乱射する音が聞こえてきたのは。
「パトロールしてたのが見つかったみたいよ」
 双眼鏡を覗き込んだ千糸がそう報告してきた。見れば、レンズの向こう側にぶっとい植物の蔓で絡め取られている制服さん達の姿が見えた。
「なんかそのキメラと戦うとお嫁にいけない体にされそうでイヤンな感じね!」
 どこか楽しそうに言う千糸。本人曰く気のせいだが、やたらと胸とか腰のあたりを、他の人と見比べているあたり、衣装を間違えた感があるようだ。
「コンテナは大丈夫みたいね」
 振り返った先のコンテナを確かめる千糸。だが、今の所異常はなさそうだ。
「一般兵さんには、我慢してもらおう。おそらく食べ終わる前に、俺達の所へ来るはずだ」
「‥‥すでにこっちに向かっているようだが」
 森里が警告した直後、気配を察したユーリが、冷静にそう告げる。双眼鏡で確かめてみると、ホウセンカは兵士達の装備を固いから嫌と判断したのか、放り投げてから移動を開始していた。
「目立つわねー。ゴムパインがゆらゆらしてるわ」
 ちょうど花をつけた後にあたる場所に、ゴムパインが種代わりと言わんばかりにゆらゆらしている。本体は同伴‥‥でわなく、同班メンバーである文、ユーリに任せ、ゴムパインを狙おうと、スコープを覗き込んだ。
「ボクは男なので特別、触手に狙われたりはしないですよね‥‥。たぶん」
 一方で、そんな事を言って、前衛の歩夢がコサージュを直している。が、そう言っている割には、なぜかセーラー服まで調達済だった。
「そうだと良いんだが‥‥。どう見ても年頃の女だぞ。その格好は」
 エロボケは苦手らしいユーリ、腰も細くてセーラー服もコサージュも良くお似合いの彼に、怪訝な表情を浮かべている。
「あ‥‥違います、これはボクの趣味ではなくて‥‥、先の大規模作戦でディアブロとそのKV装備にほぼお金を使い切ってしまったので、お金がなくて‥‥防具として‥‥」
 彼が身につけているのは、UPCの支給品マークがついたものだ。どうやら、一日一回希望者に配給されるそれを持ってきたらしい。
「どこも台所事情は変わらんか‥‥」
 これが他の面々なら、『かわういい☆』の悲鳴でもぶっとんでこようもんだが、相手がユーリなので、気の毒そうな表情をされるだけで終わってしまった。
「‥‥私柔らかくないし、遠距離だし、大丈夫だよね、うん」
 一方、後衛の未早は、まるで墓穴を掘るかのように、わたわたと腕をパタつかせて全否定する歩夢を横目に、自身の肩を抱きしめる。触られないように、距離を取ろうと、心に誓って、その進行方向足元へ、何発もの威嚇弾を発射させた。
「うわぁぁぁんっ! やっぱりぃぃぃ!」
 が、そこへ切りかかった歩夢、防御しようと伸びて来た蔓に、二の腕とお腹と太ももを捕らえられている。同じように前衛だった森里は、やっぱり胸とか足とか太ももとかその先とかを狙われていた。
「あのキメラ、柔らかセンサーでもついてるのか‥‥」
 前衛なのに狙われていない幡多野、絡みつく触手が、器用に建物や瓦礫を避けているのを見て、そう気づく。逆に、文のような露出度の高いやわらかそうなお嬢さんは、下に身につけた水着を、一生懸命排除しようとする始末だ。で、そんなキメラを見て、肉の硬い組あーんどわかったような表情を浮かべている組が、何を口にしたかというと。
「‥‥それよりあのキメラを見てくれ。あいつをどう思う?」
 千糸がとっつかまっている文を指し示し、そんな事を言い出す。はっきり言おう。絡み付いている蔓から、ねばねばした汁が出ていて、エロい。たとえ、キメラに他意がなくてもだ。
「鳳仙花のくせに、動き回るとは非常識な。可愛い花でも咲いていれば和めるのに」
 一方、ユーリはその緑色の塊に、心底吐き気がするかのようにそう言って、蔓めがけてギュンターを撃ち込んでいた。潔癖症の未早も、眉をしかめたまま、近寄ろうとしない。逆にミカエルは、うふふふふ☆ と、アサルトライフルのスコープを覗き込みながら、すっかり傍観者だ。見れば手元に小型カメラが握られていた。
「‥‥ご主人様ダメ‥‥そこは鼻の穴」
 一方のホウセンカは、柔らかいモノを求めて、森里のほっぺに触手を伸ばしてたりする。
「えぇ!? んん‥‥嘘、そんな、トコ‥‥ぁ!?」
 で、さらに千糸に至っては、悪ノリして、わざと着物のすそをはだけてみたり。触手、ふとともに誘われて、そのあたりをナデナデ。
「下手くそ‥‥」
 文に至っては、あさっての方向を向いて、そう呟いている。で、そんな彼女に、ミカエルはマイクを片手に大音響でナレーションを入れていた。
「ん、や、ちょっ、ドコ触って、あん」
「変なアテレコしないでください‥‥」
 じろっと文ににらまれて、頬を膨らませる。と、そこへ森里が、鼻か触手を垂れ流しながら、手を振った。
「あー、すんません、ミカエルさーん。そこにあるビン取ってくださーい」
「はいはーい☆ いっくわよーん♪」
 彼女が投げたのは、仕込んでいたスブロフ入り火炎瓶である。ひゅーんと飛んでったそれは、ぱしりと森里の手に収まり、きゅきゅっとそのキャップを器用に片手で回し明けている。これでは、わざとなのか本当にピンチなのかわからない。
「んー、やっぱりあざと過ぎるのはいけないわねー」
 いや、多分本当にわざとなのだろう。それまで絡み付いていた千糸は、そう言うと、足元に絡み付いていた触手を、左手の氷雨で切り落として、脱出していた。
「‥‥んっ。このキメラ、なんで男なんかに‥‥!」
 幡多野が、絡み付いてきた触手を切り払おうと、月詠を振り下ろす。が。かなり弾力のあるキメラ‥‥というと味も素っ気もないので、うね子にしておこう‥‥の体、なかなかダメージが通らない。
「このキメラ、僕男なのにっ。水着の中まで入ってくるんですかぁぁ!」
 そうしている間に、歩夢に絡んだ触手は、ちょっとしゃれにならない所に入り込んでいる。さすがにまずいと思った幡多野、豪力発現で盛り上がった筋肉にモノを言わせ、その膂力で触手を引きちぎっていた。
「すみません‥‥」
「いや‥‥、いい‥‥」
 礼を言う歩夢の腕に絡みついた方は、菖蒲でざっくり切り落とす。
「ち、水着は男用か‥‥」
「当たり前ですっ! 学校のなんですから、女性用のスクール水着じゃないですっ!」
 よくわかんない植物の汁でべとべとになったセーラー服の内側には、男性用水着が見え隠れしている。ちょっと残念そうに言う森里に、少年猛反発。が、その姿さえも、お姉さん方は大喜びしそうだ。
「えぇい。遊んでないで、何とか立て直しますよ」
 で、そこに森里が言ってくるが、上着のブレザーはもちろん、下に着ていたダイバースーツまでぼろぼろで、下着がちょっと見えている。その格好のまま、コンテナに貼り付けていたシートの紐をひっぱる彼。そこへ、ホウセンカがゴムパインを種のように撒き散らしてくる。よく見れば、ゴムパイン自体も、きしゃあと牙を剥く凶悪そうな外見だ。その牙でつつかれてはたまらないと、森里はぶっとんでくるそれを、広げたエマージェンシーキットのシートで包み込む。
「うわっ。やっぱりキメラには通用しないかっ」
 保温やレジャー用のシートでは、あっという間に食いちぎられてしまう。どうやら、視界をふさいだだけでは、誘爆しないらしい。
「コンテナを爆砕させるわけにはいかないんですってば!」
 シートをまぐまぐと食い破ってしまったゴムパインへ、歩夢が果敢に向かっていく。避ける事も考えたが、そうすればコンテナが傷ついてしまう。そう判断した彼、レイシールドで跳ね返すように後方へと受け流した。宙に浮き上がったそれを、未早がスナイパーライフルで打ち落とす。
「こんのぉっ! うっとぉしいんだよっ!」
 前衛の森里、再び捕まえようと伸ばしてきた触手を、今度は手にした剣で切り払った。そして、ミカエルから受け取っていたスブロフ火炎瓶を、その根元へと叩きつける。そこへ、ミカエルが着火する要領で、アサルトライフルを打ち込むと、触手が燃え上がった。一本は、歩夢が切り落としている。が、それでも炎をあげながらのた打ち回る触手。フォースフィールドがあるせいか、ダメージはそれほど行っていないようだが、さすがにうっとおしいのだろう。燃え上がった火の粉を周囲に撒き散らしている。そんな中、炎の触手をかいくぐり、懐へと入り込む少女が一人。
「胴から先に‥‥」
 文である。両の手に嵌めた爪‥‥ディガイアで、火の触手を払いのけ、その胴体に蹴りを入れる。反動を受けて反り返ったうね子、全身のばねを利用して包み込むように体当たりしてくる。その体当たりを足元へと受け流した彼女、勢いを利用して距離をとる。
「さすがに無理かな」
 力よりはテクニックを重視するスタイルの文。受け流す事は出来ても、ダメージはさほど大きくなかった。もっとも、うね子の足元には、深い亀裂が入っており、動きが鈍ったようだ。
「はいはい、こっちですよ。手の鳴る方へ!」
 その間に、側面へと回りこんだ幡多野。彼女が受け流した触手を切り落とす。痛みを感じたのか、吹っ飛ばそうとしてくる太い茎。そこへ、彼はスピードに負けない速さで、流し切りを食らわせる。
「ホウセンカが囮側へ向いた‥‥。射撃班、頼むぞ‥‥」
 それでも、口調は変わらない。彼の指示に、未早は動かなくなったうね子が、何とか抵抗しようとパインを投げつけてくるそれを、飛んでくる皿を撃ち落とす要領で、次々と爆裂させていく。
「着弾なんて、させない‥‥」
 火のついたパインも、かまわず手玉にしようとするうね子。しかし彼女はそれがコンテナに届く前に、自身の弾で狙っていた。
「結構多いわねー。遊んでる場合じゃないか」
 ミカエルも、口調こそ軽いが、鋭覚狙撃でその根元付近へ、アサルトライフルを撃ち込む。深々と突き刺さり、今にも倒れそうな亀裂が入っているが、油断は出来ない。浮き足立ったうね子が、ミカエルの方にもパインを投げつけてきたからだ。
「はぁーい。こっちよーん♪」
 コンテナに当てられてはまずい。そう判断したミカエル、狙いをそらすように、コンテナから離れる。直後、ある程度ダメージの入ったパインが、彼女の弾で爆裂し、その破片を周囲へと撒き散らしていた。
「んー、前衛の姿が見えないけど、元気かな」
 スコープを覗き見ていた千糸が、本体の周囲を捜索中。あちこちで巻き起こるパインの誘爆で、近接攻撃の面々がかき消されているが、服の切れ端はあっても、本人の切れ端はないから、まぁ平気だろう。そろそろ止めを刺しても良さそうな頃合だと、千糸はユーリへ合図する。
「火矢を用意してきた」
 そこでは既に、スブロフをしみこませた矢を用意したユーリが、弓へと持ち替えている。同じように弓に装備をチェンジしたミカエル。彼女と共に狙うは本体。倒れかけた根元だ。千糸が前衛を退避させる間に、矢を番える二人。
「せーの。ファイヤー!」
 ミカエルの合図で、ユーリが火のついた矢を解き放つ。それは、うね子の幹へと命中し、ともに放たれたミカエルの弾頭矢に引火して、盛大な火柱へと葬るのであった‥‥。

 結局、他の敵は現れなかった。
 途中で気が付かれたのかもしれない。カラスに尋ねると、やはりあのコンテナは囮で、本物はすでにラスホプへ向かったそうだ。ちなみに、中身はアイスクリーム。
「しくしく。これから夏なのに、しばらく肌がさらせない‥‥」
「ホウセンカ‥‥本物は‥‥綺麗なんだけど‥‥」
 どこかげんなりした表情でため息をつく歩夢と幡多野。体の傷は癒せても、心の傷はそう簡単に回復しないといった所だろう。
「これ写真撮ったら売れるかしらね?」
 が、そんな疲れた男子諸君とは対照的に、千糸は、にまりとした意地悪い表情でそう呟くのだった。