●リプレイ本文
相談の結果、2班に分かれて行動する事になった。コンテナの周囲に半数が張り付き、少し離れた位置から、もう半数が見守るという事になったらしい。班分けは次の通りだ。
【A班】
ミカエル・ヴァティス(
ga5305)
森里・氷雨(
ga8490)
ユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)
双寺 文(
gb0581)
【B班】
幡多野 克(
ga0444)
皇 千糸(
ga0843)
神鳥 歩夢(
ga8600)
水上・未早(
ga0049)
「うし、これでいいな」
森里がエマージェンシーキットの一部を利用して、コンテナをラッピングしている。出来れば、もう少し対種対策を施したかったのだが、狙っていた日傘も浮き輪もあたらず、支給品の女神様は自力で頑張りやとおっしゃっていたそうだ。その結果、コンテナはまるでどこぞのプレゼント品のように、シートがマーブルに覆うようになっていた。無論、耐火対ショック包装材などではない。ごくごくまっとうなビニールシートである。
「あとはこれをペットに小分けして。こんなもんでいいな」
スブロフを350mlの小瓶数本に注ぎ、紙縒りを貼り付けたキャップを閉める。これで、簡易的な火炎瓶にはなるだろう。実際に活用できるかはさておき。
「こちらB班。そっちはどうですか?」
『だいぶ埋まってるけど、側道やマンホールまで手が回っていない。現れているのは、ほぼ市街地だから、弾も爆薬もかなり跳ね上がるだろうな』
輸送経路をチェックしていた森里が、未早にそう連絡してくる。それを聞いて、警戒は怠らない方が良さそうだと判断した幡多野は、耳をそばだて、目を見開くようにして、周囲に注意をめぐらせる。感覚を研ぎ澄ませ、些細な異常も見逃さないように。
と、その時だった。進行方向左側で、UPCの巡回班と思しき面々が、銃を乱射する音が聞こえてきたのは。
「パトロールしてたのが見つかったみたいよ」
双眼鏡を覗き込んだ千糸がそう報告してきた。見れば、レンズの向こう側にぶっとい植物の蔓で絡め取られている制服さん達の姿が見えた。
「なんかそのキメラと戦うとお嫁にいけない体にされそうでイヤンな感じね!」
どこか楽しそうに言う千糸。本人曰く気のせいだが、やたらと胸とか腰のあたりを、他の人と見比べているあたり、衣装を間違えた感があるようだ。
「コンテナは大丈夫みたいね」
振り返った先のコンテナを確かめる千糸。だが、今の所異常はなさそうだ。
「一般兵さんには、我慢してもらおう。おそらく食べ終わる前に、俺達の所へ来るはずだ」
「‥‥すでにこっちに向かっているようだが」
森里が警告した直後、気配を察したユーリが、冷静にそう告げる。双眼鏡で確かめてみると、ホウセンカは兵士達の装備を固いから嫌と判断したのか、放り投げてから移動を開始していた。
「目立つわねー。ゴムパインがゆらゆらしてるわ」
ちょうど花をつけた後にあたる場所に、ゴムパインが種代わりと言わんばかりにゆらゆらしている。本体は同伴‥‥でわなく、同班メンバーである文、ユーリに任せ、ゴムパインを狙おうと、スコープを覗き込んだ。
「ボクは男なので特別、触手に狙われたりはしないですよね‥‥。たぶん」
一方で、そんな事を言って、前衛の歩夢がコサージュを直している。が、そう言っている割には、なぜかセーラー服まで調達済だった。
「そうだと良いんだが‥‥。どう見ても年頃の女だぞ。その格好は」
エロボケは苦手らしいユーリ、腰も細くてセーラー服もコサージュも良くお似合いの彼に、怪訝な表情を浮かべている。
「あ‥‥違います、これはボクの趣味ではなくて‥‥、先の大規模作戦でディアブロとそのKV装備にほぼお金を使い切ってしまったので、お金がなくて‥‥防具として‥‥」
彼が身につけているのは、UPCの支給品マークがついたものだ。どうやら、一日一回希望者に配給されるそれを持ってきたらしい。
「どこも台所事情は変わらんか‥‥」
これが他の面々なら、『かわういい☆』の悲鳴でもぶっとんでこようもんだが、相手がユーリなので、気の毒そうな表情をされるだけで終わってしまった。
「‥‥私柔らかくないし、遠距離だし、大丈夫だよね、うん」
一方、後衛の未早は、まるで墓穴を掘るかのように、わたわたと腕をパタつかせて全否定する歩夢を横目に、自身の肩を抱きしめる。触られないように、距離を取ろうと、心に誓って、その進行方向足元へ、何発もの威嚇弾を発射させた。
「うわぁぁぁんっ! やっぱりぃぃぃ!」
が、そこへ切りかかった歩夢、防御しようと伸びて来た蔓に、二の腕とお腹と太ももを捕らえられている。同じように前衛だった森里は、やっぱり胸とか足とか太ももとかその先とかを狙われていた。
「あのキメラ、柔らかセンサーでもついてるのか‥‥」
前衛なのに狙われていない幡多野、絡みつく触手が、器用に建物や瓦礫を避けているのを見て、そう気づく。逆に、文のような露出度の高いやわらかそうなお嬢さんは、下に身につけた水着を、一生懸命排除しようとする始末だ。で、そんなキメラを見て、肉の硬い組あーんどわかったような表情を浮かべている組が、何を口にしたかというと。
「‥‥それよりあのキメラを見てくれ。あいつをどう思う?」
千糸がとっつかまっている文を指し示し、そんな事を言い出す。はっきり言おう。絡み付いている蔓から、ねばねばした汁が出ていて、エロい。たとえ、キメラに他意がなくてもだ。
「鳳仙花のくせに、動き回るとは非常識な。可愛い花でも咲いていれば和めるのに」
一方、ユーリはその緑色の塊に、心底吐き気がするかのようにそう言って、蔓めがけてギュンターを撃ち込んでいた。潔癖症の未早も、眉をしかめたまま、近寄ろうとしない。逆にミカエルは、うふふふふ☆ と、アサルトライフルのスコープを覗き込みながら、すっかり傍観者だ。見れば手元に小型カメラが握られていた。
「‥‥ご主人様ダメ‥‥そこは鼻の穴」
一方のホウセンカは、柔らかいモノを求めて、森里のほっぺに触手を伸ばしてたりする。
「えぇ!? んん‥‥嘘、そんな、トコ‥‥ぁ!?」
で、さらに千糸に至っては、悪ノリして、わざと着物のすそをはだけてみたり。触手、ふとともに誘われて、そのあたりをナデナデ。
「下手くそ‥‥」
文に至っては、あさっての方向を向いて、そう呟いている。で、そんな彼女に、ミカエルはマイクを片手に大音響でナレーションを入れていた。
「ん、や、ちょっ、ドコ触って、あん」
「変なアテレコしないでください‥‥」
じろっと文ににらまれて、頬を膨らませる。と、そこへ森里が、鼻か触手を垂れ流しながら、手を振った。
「あー、すんません、ミカエルさーん。そこにあるビン取ってくださーい」
「はいはーい☆ いっくわよーん♪」
彼女が投げたのは、仕込んでいたスブロフ入り火炎瓶である。ひゅーんと飛んでったそれは、ぱしりと森里の手に収まり、きゅきゅっとそのキャップを器用に片手で回し明けている。これでは、わざとなのか本当にピンチなのかわからない。
「んー、やっぱりあざと過ぎるのはいけないわねー」
いや、多分本当にわざとなのだろう。それまで絡み付いていた千糸は、そう言うと、足元に絡み付いていた触手を、左手の氷雨で切り落として、脱出していた。
「‥‥んっ。このキメラ、なんで男なんかに‥‥!」
幡多野が、絡み付いてきた触手を切り払おうと、月詠を振り下ろす。が。かなり弾力のあるキメラ‥‥というと味も素っ気もないので、うね子にしておこう‥‥の体、なかなかダメージが通らない。
「このキメラ、僕男なのにっ。水着の中まで入ってくるんですかぁぁ!」
そうしている間に、歩夢に絡んだ触手は、ちょっとしゃれにならない所に入り込んでいる。さすがにまずいと思った幡多野、豪力発現で盛り上がった筋肉にモノを言わせ、その膂力で触手を引きちぎっていた。
「すみません‥‥」
「いや‥‥、いい‥‥」
礼を言う歩夢の腕に絡みついた方は、菖蒲でざっくり切り落とす。
「ち、水着は男用か‥‥」
「当たり前ですっ! 学校のなんですから、女性用のスクール水着じゃないですっ!」
よくわかんない植物の汁でべとべとになったセーラー服の内側には、男性用水着が見え隠れしている。ちょっと残念そうに言う森里に、少年猛反発。が、その姿さえも、お姉さん方は大喜びしそうだ。
「えぇい。遊んでないで、何とか立て直しますよ」
で、そこに森里が言ってくるが、上着のブレザーはもちろん、下に着ていたダイバースーツまでぼろぼろで、下着がちょっと見えている。その格好のまま、コンテナに貼り付けていたシートの紐をひっぱる彼。そこへ、ホウセンカがゴムパインを種のように撒き散らしてくる。よく見れば、ゴムパイン自体も、きしゃあと牙を剥く凶悪そうな外見だ。その牙でつつかれてはたまらないと、森里はぶっとんでくるそれを、広げたエマージェンシーキットのシートで包み込む。
「うわっ。やっぱりキメラには通用しないかっ」
保温やレジャー用のシートでは、あっという間に食いちぎられてしまう。どうやら、視界をふさいだだけでは、誘爆しないらしい。
「コンテナを爆砕させるわけにはいかないんですってば!」
シートをまぐまぐと食い破ってしまったゴムパインへ、歩夢が果敢に向かっていく。避ける事も考えたが、そうすればコンテナが傷ついてしまう。そう判断した彼、レイシールドで跳ね返すように後方へと受け流した。宙に浮き上がったそれを、未早がスナイパーライフルで打ち落とす。
「こんのぉっ! うっとぉしいんだよっ!」
前衛の森里、再び捕まえようと伸ばしてきた触手を、今度は手にした剣で切り払った。そして、ミカエルから受け取っていたスブロフ火炎瓶を、その根元へと叩きつける。そこへ、ミカエルが着火する要領で、アサルトライフルを打ち込むと、触手が燃え上がった。一本は、歩夢が切り落としている。が、それでも炎をあげながらのた打ち回る触手。フォースフィールドがあるせいか、ダメージはそれほど行っていないようだが、さすがにうっとおしいのだろう。燃え上がった火の粉を周囲に撒き散らしている。そんな中、炎の触手をかいくぐり、懐へと入り込む少女が一人。
「胴から先に‥‥」
文である。両の手に嵌めた爪‥‥ディガイアで、火の触手を払いのけ、その胴体に蹴りを入れる。反動を受けて反り返ったうね子、全身のばねを利用して包み込むように体当たりしてくる。その体当たりを足元へと受け流した彼女、勢いを利用して距離をとる。
「さすがに無理かな」
力よりはテクニックを重視するスタイルの文。受け流す事は出来ても、ダメージはさほど大きくなかった。もっとも、うね子の足元には、深い亀裂が入っており、動きが鈍ったようだ。
「はいはい、こっちですよ。手の鳴る方へ!」
その間に、側面へと回りこんだ幡多野。彼女が受け流した触手を切り落とす。痛みを感じたのか、吹っ飛ばそうとしてくる太い茎。そこへ、彼はスピードに負けない速さで、流し切りを食らわせる。
「ホウセンカが囮側へ向いた‥‥。射撃班、頼むぞ‥‥」
それでも、口調は変わらない。彼の指示に、未早は動かなくなったうね子が、何とか抵抗しようとパインを投げつけてくるそれを、飛んでくる皿を撃ち落とす要領で、次々と爆裂させていく。
「着弾なんて、させない‥‥」
火のついたパインも、かまわず手玉にしようとするうね子。しかし彼女はそれがコンテナに届く前に、自身の弾で狙っていた。
「結構多いわねー。遊んでる場合じゃないか」
ミカエルも、口調こそ軽いが、鋭覚狙撃でその根元付近へ、アサルトライフルを撃ち込む。深々と突き刺さり、今にも倒れそうな亀裂が入っているが、油断は出来ない。浮き足立ったうね子が、ミカエルの方にもパインを投げつけてきたからだ。
「はぁーい。こっちよーん♪」
コンテナに当てられてはまずい。そう判断したミカエル、狙いをそらすように、コンテナから離れる。直後、ある程度ダメージの入ったパインが、彼女の弾で爆裂し、その破片を周囲へと撒き散らしていた。
「んー、前衛の姿が見えないけど、元気かな」
スコープを覗き見ていた千糸が、本体の周囲を捜索中。あちこちで巻き起こるパインの誘爆で、近接攻撃の面々がかき消されているが、服の切れ端はあっても、本人の切れ端はないから、まぁ平気だろう。そろそろ止めを刺しても良さそうな頃合だと、千糸はユーリへ合図する。
「火矢を用意してきた」
そこでは既に、スブロフをしみこませた矢を用意したユーリが、弓へと持ち替えている。同じように弓に装備をチェンジしたミカエル。彼女と共に狙うは本体。倒れかけた根元だ。千糸が前衛を退避させる間に、矢を番える二人。
「せーの。ファイヤー!」
ミカエルの合図で、ユーリが火のついた矢を解き放つ。それは、うね子の幹へと命中し、ともに放たれたミカエルの弾頭矢に引火して、盛大な火柱へと葬るのであった‥‥。
結局、他の敵は現れなかった。
途中で気が付かれたのかもしれない。カラスに尋ねると、やはりあのコンテナは囮で、本物はすでにラスホプへ向かったそうだ。ちなみに、中身はアイスクリーム。
「しくしく。これから夏なのに、しばらく肌がさらせない‥‥」
「ホウセンカ‥‥本物は‥‥綺麗なんだけど‥‥」
どこかげんなりした表情でため息をつく歩夢と幡多野。体の傷は癒せても、心の傷はそう簡単に回復しないといった所だろう。
「これ写真撮ったら売れるかしらね?」
が、そんな疲れた男子諸君とは対照的に、千糸は、にまりとした意地悪い表情でそう呟くのだった。