●リプレイ本文
【巨大ピザを食べよう!】
●土台と釜
ピザの大きさは約8mである。生地を広げるにも、材料を並べるのも、焼くのも食べるのも、相当な広さが必要だ。という事で、集まった傭兵という名の作業員達は、まず整地作業から開始していた。
「おらーいおらーい。特殊工作作業用KVはいりまーす」
佐伽羅 黎紀(
ga8601)がそう言いながら、イエローテープを巻き巻きしている。何しろ先日までやれフレア弾だレーザーだの、とにかく派手で攻撃力のある弾をばら撒いていた地域である。子供どころか、大人一人楽に落ちてしまいそうな大きな穴が、そこかしこに開いている為、まずはそれを埋めるところからはじめていた。
「瓦礫はきちんと撤去しないと子供達が喜んで怪我してくれるからな〜。さ〜てドリルとシャベルが唸るぜ〜♪」
何ぞといいながら、瓦礫を撤去している佐伽羅。使えそうな瓦礫は石釜作成班へ、そうでないものは、ナポリ市役所から指定されたごみ置き場へと運び込んでいる。
「大雑把に瓦礫をのけたら、3班に分かれて整地してください。いすやテーブル代わりに使えそうなものは確保、あとワーム殻があれば別にしておくように〜」
クラーク・エアハルト(
ga4961)が変形したサンドリヨンにメトロニウムシャベルを持たせて、せっせとその穴を埋めている。KVには戦う以外にも使い道があるとばかりに、座りやすそうな瓦礫や、面白そうな形の瓦礫をよっこいせと持ち上げていた。
「‥‥ん。被害の少ない所を探す」
『OKだ。作業を頼む』
無線でクラークから指示をされた最上 憐(
gb0002)が、まだ穴の開いてない場所を見つけ、そこにいすとテーブル代わりの瓦礫を運び込んでいた。
「‥‥ん。これから場所確保の為にKV起動させる。注意」
もっとも、サンドリヨンは子供はいうに及ばず、一般人にも物珍しいらしく、人が集まってきた。憐、御崎緋音(
ga8646)にどちらへ誘導すればいいかと無線で訪ねている。すでに撤去作業の終わったエリアへとの事だった。
「‥‥ん。ここから先は危険。避難する。こっちに誘導」
危ないのでサンドリヨンから降り、生身でガイド中。その後は、再び瓦礫撤去だ。
「‥‥ん。石釜作りに活用出来そうな物は確保。石釜班に渡す」
同じように使えそうな瓦礫は、材料置き場へ。その大きな材料は、サンドリヨンで運ぶには大変そうなので、白く塗ったディアブロを用意してきたレイアーティ(
ga7618)に作業を分担してもらう事にした。
「む、こういう作業にKVを使うのは初めてですが‥‥以外に難しいものですね」
余剰コーティングしたアームマニュピレーターをもってきた彼だったが、サブシートにクッション敷いて同乗していた緋音にこうつつかれてしまう。
「強化した分、ちょっとした衝撃でも怪我しちゃう可能性高いんだから、気をつけてね」
「はいはい。それよりも、すわり心地はどうですか? 振動が大きければ、言ってくださいね☆」
恋人同士らしい二人、メトロニウムシャベルを使った穴の埋め戻しも、楽しい共同作業のようで、コクピット内にハートマークが飛び交っているのが、無線機からも漏れている。
「イエローマフラー隊の皆さん、そちらの作業はどうですかぁ?」
一通りぎゅむっとくっついた後、緋音は機体を降りると、呼笛とメガホン持って、もう一方の整地班へと作業状況を尋ねた。お〜! それっみぃよ〜♪ と、御影 柳樹(
ga3326)のでたらめなカンツォーネが流れる中、サンドリヨンに搭乗する香原 唯(
ga0401)、福居 昭貴(
gb0461)、流 星之丞(
ga1928)の3人は、がりがりと撤去作業中だ。
「いやー。確かにシシリーで鍋を奢るとは言ったんですが‥‥資金を出してくれたカプロイア伯には、本当に感謝しています」
ジョー、ずいぶんと軽くなった財布を懐に、滝涙流しながらそう呟く。大規模作戦の折、ナポリ行ってピザ食べよう! を合言葉に参加したのはいいのだが、隊員達は仕事が終わったと同時に『金を出せ』とたかり、おかげで涼しい風が吹き荒れていた。
「でもこういうのも楽しいよ。また皆でこういう風に使えたらいいよね」
メカもお友達の水理 和奏(
ga1500)が、瓦礫を除去りながらそう答える。なんだか戦いの連携みたいだなぁと思いながら、こころはやっぱりうきうき気分なのだった。
他にも、エミタの影響で万年腹ペコだったり万年金欠だったりと、さまざまな理由で依頼に参加している。彼らの作業場所を確保するべく、瓦礫や残骸を取り除くジョー。
「パワードスーツ感覚で使えるから、やっぱりサンドリヨンは便利ですね‥‥あっ、そこ通りますから、危ないですよ。唯さん、見物人の誘導お願いします」
取り除いた資材は、混ぜればごみ、分ければ資源という事で、鉄骨とセメントの塊、後良くわかんないバグア製品等に分類して積み上げていく。それを、興味深そうに近づいてくる子供や大人は、隊員である唯とあっくんが丁寧に誘導案内していた。
「先生、これで良いのでしょうか?」
最近傭兵になったばかりのあっくん、事あるごとに唯センセに聞いている。そんな彼に、唯センセは、にこやかな笑顔で「現場で経験して覚えましょうね」とアドバイスしていた。実は唯自身も依頼として参加するのは初めてなので、よくわかっていないというのは、彼には秘密である。
「もうすぐ、巨大で美味しいピザが出来ますよ」
が、何だかんだ言いながらも、持参したメガホンと呼笛で、何とか人々を作業場から遠ざけていた。サンドリヨンのバイクっぽい姿を見て、乗りたがる子供もいるが、自分だって触りたいのは山々である。ぐっとこらえて誘導していたものの、やっぱりけが人は少なからず出るわけで。
「先生! ここはどうすべきでしょうか?」
走り回ってすっ転んで、うっかりひざをすりむいちゃった男の子が、お目目を潤ませながら、あっくんの服をつかんでいる。その子のひざに、消毒液と絆創膏を当て、一通り手当てした唯センセは、周りに告げた。
「あ、他にもうっかり切っちゃったり、具合が悪くなったりしたら、私に言ってね」
なにしろ結構な気温である。瓦礫は丁寧に除いているが、先述の子供のように、転ぶ子や、熱中症で気分が悪くなる子もいるかもしれない。ので、二人は冷たい水とおしぼりを用意していた。
「ふぅ‥‥季節柄、流石に熱くなってきたから、サンドリヨンの中は大変でした。だから、風がとても気持ちいいです」
バイクモードになったサンドリヨンの横で、ヘルメットをはずし、その冷たい水とおしぼりを受け取るジョー。
こうして、駐ワーム場跡地は、次第に平らになっていった。瓦礫を撤去し、広い場所を確保したところで、今度はそのかき集めた材料を使っての、石釜作りにとりかかる。
「ふむ。つまり熱を逃がさないようにすると。直系8mなら、内側のサイズは10m必要ですわね」
地元の職人さんから、石釜の作り方を習っていた女堂万梨(
gb0287)が、そう言いながら設計図になにやら書き込んでいる。とはいえ、個人用に製作キットを売ってたりもするので、後は似たような材料を探して、直接利用できそうならそのまま、加工が必要そうなら加工して、積み上げるだけだが。
「これだけだと足りませんねぇ。薪も必要ですし」
外壁は出来上がったのだが、中で燃やすものや、上にかぶせるものが足りない。そこで、駐ワーム場の外から探してくる事にした。
「えぇと、確か沿岸部にはワームがたくさんいたから‥‥」
ルクレツィア(
ga9000)が市役所やUPCの人に事情を話すと、どんぱちの激しかった地域なら、それなりに材料も落ちてるんじゃないかという事だった。そこで、地図にどのあたりかを書き込んでもらい、石鍋や石釜の蓋、薪になりそうな廃材を確保しに行くことにした。
「えぇと、KVの使用申請、忘れてる人いませんかしら? 使用目的は、哨戒と陣地設営っと」
もっとも、ワームの殻といっても、かなりでかい。という事で、瓜生 巴(
ga5119)はミクに自機KVの外部持ち出しを申請中。他にも、数人が運搬用KVの申請をしていた。
「見つけました。あの大きさで3m20cmですね」
目の良い巴、10cm単位で言い当てている。手ごろな大きさを見つけた彼女、持っていたショベルで、つんつんとその殻をつつくと。
「あ、崩れた」
バランスなのかそうでないのかわからないが、卵の殻が割れるようにどんがらがっしゃんと崩れ落ちる。
「他にもトラップが仕掛けられてるかもしれないから、調べてから回収して」
その様子に、巴は周囲にそうアドバイスしている。
『伯爵からレンガ届いたよ』
そこへ、カラスから連絡が入った。急いで回収しにいくと、なぜかそこには一つ一つバラの刻印が押されたレンガが積みあがっていたり。
「道楽旦那め」
バラの花びらでも入っているらしい。まったくもーと、内心あきれつつ、手早く積み上げる。
「何か、こういうのってわくわくするよね? 子供の頃の工作みたいでさ☆」
M2(
ga8024)が搬入されたものや、拾ってきた資材を、職人さんにチェックしてもらって、指示に従いつつ釜を組み上げている。まぁ工作とは微妙に違うが、間違ってもいないので、誰も突っ込まない。
「他に殻がありそうなのは、研究所とか‥‥。そうだ、タクシーの人は知らないかしら」
それだけでは足りないので、遠藤鈴樹(
ga4987)が、地元の運転手に尋ねると、大規模作戦の後、形の残っていそうなものは、カプロイア傘下の研究所や工房などに運ばれたそうだ。
「研究所送りじゃ、あんまり期待はできないけど、余分があったら分けてもらえるかなぁ」
普段は着物だが、ジャージ姿で薪集めに奔走していた鈴樹が、カラスにそう頼んでいる。こうして、かき集められた資材は、輸送用のトラックに積み上げられる。
「戦いに勝つだけでは‥‥片手落ちだ」
それを運転したホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)は、材料をおろすと、大破した戦車の装甲板を鉄板に、使用しなかった耐火モルタルを接着剤代わりに燃焼室を作り上げる。その上に適当な大きさのワーム殻をアーチ型に設置、耐火モルタルを塗りつけて隙間に煙突状の筒を差込み、適度な熱がこもるのと装飾をかねて、カプロイア製のバラレンガで覆った。
「結構面白い出来になったなー。解放のモニュメントとして保存してはどうだ?」
出来上がったそれを、満足そうに見上げるホアキン。複数の傭兵達が携わった結果、何故かレインボーローズそっくりになっていた。
「えぇと、まずこの薪を焚いて、釜の温度を700度にあげるんだっけ?」
ピザ職人さんから、おいしく焼けるピザの作り方を聞き出しているサルファ(
ga9419)。釜の温度を高温に保っておくのが重要なようだ。で、その高温を出すものといえば。
「これが、サンドリヨンか。うまく操縦できるかな?」
小型KVであるサンドリヨンなら、火力の調整も出来そうだという寸法だ。
「まぁ待ちなさい。まず試験運用ですわ。いきなり使って壊れちゃったら、ピザが食べられませんもの」
そのサンドリヨンをメンテしていたシャレム・グラン(
ga6298)、うふふふふと、おめめを輝かせながら、釜に薪を放り込む。ちろちろと隙間から炎が上がるそれを見て、シャレムはこまめに穴をふさいでいた。
「これで良さそうですわね。でも、耐久性には自信がありませんから、先にパスタを作って実験しましょう」
チェックを終えたシャレム、そう言って買いだし班の到着を待つのだった。
●用意する材料
その頃、一部の傭兵は、近所で一番大きな市場へ向かい、パスタとピザの材料を調達していた。
「デート代わりに買出しというのもいいね?」
そう言って、渡された買い物リストを手に、恋人のケイ・リヒャルト(
ga0598)を抱き寄せるミハイル・チーグルスキ(
ga4629)。
「ひと時の平和でも君と一緒にこうして街を歩けるのはうれしいことだね」
嬉しそうにそういって寄り添うミハイル。イタリアでは年齢は華麗にスルーというのがマナーらしいので、ここは問わないであげよう。
一行はパスタとピザの材料調達に分かれている。ちなみに材料は以下の通りだ。
ゴルゴンゾーラ
モッツァレラ
香草類各種
パンチェッタ
キノコの類
シーフード各種
野菜
チョコレート
果物
生クリーム
マスタード
ウチワサボテン
アロエ
パスタミスタ
ペンネ
トマト
にんにく
赤唐辛子
白ワイン
ケチャップ
謎な食材も多数入っているが、食えないものではないらしい。出来上がるものが予想つかない中、傭兵達は調理に取り掛かっていた。
「料理雑誌をよんでは見たけれど意外に多いものだね。さすがに細かいことまでは手を回せなくてね」
借りてきたパスタ専門の料理書を閉じるミハイル。気を落ち着かせるためか、タバコを取り出す。
「だぁめ。お楽しみは後で、よ?」
優しくそう言って、タバコを取り上げるケイ。料理の得意な彼女、ミハイルに手伝わせながら、手際よくパスタを作っていく。
「君から教わる機会はあまりないだろうからね、せっかくの機会をね?」
ちょっと、いやかなり嬉しそうなミハイル。こうして、ケイの指示により、ゴルゴンゾーラソースのペンネ、モッツァレラとバジルのトマトソーススパ、パンチェッタとルッコラの辛口スパ・フレッシュトマト添え、シーフードサラダスパ、魚介と茸の塩味スパと、どこぞのイタリア料理店もかくやと言ったメニューが、次々と出来上がっていく。
「何か遭難度数が足りないわ‥‥。そうだ!」
が、メニューを眺めていたユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)、髪の先につけた青いリボンを揺らしつつ、調理に取り掛かる。
「あめ色玉ねぎにマッシュルーム、トマト‥‥の前にブーゲガルニのスープかな? それからトマトたっぷりで‥‥サボテン入れて味の微調整‥‥んー、確かこんな味だったと‥‥」
ちゃっちゃと手際よく作っているのは、遭難者を多数出す事で有名な某喫茶店の名物めにゅうである。ただし、料理の腕は悪くないので、見た目はともかく非常にいいにおいを漂わせていた。
「あとは牛乳‥‥」
さすがにコーヒーはレア品らしいのでもらえなかったが、果物はたくさんあったので、フルーツオレは作れたようだ。
「負けませんよ。に戻ろうとするナポリ、その魂のひとかけらでも私自身、表現したいのです!」
そんな彼に対抗するように、佐倉・拓人(
ga9970)が煮込みパスタを作り始めた。ナポリ産トマトを丁寧にこして作ったスープで煮込むイタリアの家庭料理だ。なぜこいつがそんなものを知っているんだという突っ込みは、女には秘密があるという答えで返しておく。作ってるのは男の子だけど。
「みんなすごいわね。さて、私も作りますか」
鳥飼夕貴(
ga4123)が作り始めたのは、茄子とアスパラのミートソース・野菜多め。バジル&マスタードパスタ・こだわりのソース仕立て、デザートはパスタに蜂蜜を和え、チョコレートにナッツを入れたソースをかけて、生クリームをトッピングした名づけてチョコナッツパスタ‥‥以上4品だ。
「この和風パスタはおいしいよ〜♪」
日本人も多いのに、洋物だけでは物足りなかろうと、特製和風だしを持ち込んだ月夜魅(
ga7375)が、アサリときのこのパスタを作り始めていた。酒蒸しにしたアサリとしょうゆのほんのりした香りが、湯気とともに周囲へと広がる。さらには、ケチャップを絡めてピーマンやサラミを入れ、チーズを乗せたピザパスタや、生クリームとチョコで飾ったスイーツパスタまで作ってある。
「これで完成。後は薫にアラビアータを作ってもらえばOKね」
「もう作ってある」
見れば、赤い物体をちりばめたペンネが、テーブルに並んでいた。だが、水流 薫(
ga8626)が物陰に隠れているところを見ると、どうやら味見はしていないらしい。
●ピザを10回言ってみろ
昔ナツカシ十回クイズを覚えている傭兵は少ないだろうというのはさておき、こうして、前菜のパスタが次々と並ぶ中、いよいよ本体への着火とあいなった。
「さすがにKVの噴射口は危険かしら」
「下手すると暴発しちゃうみたいですから、我慢しましょう」
顔を見合わせる巴とM2。いくら火力と向きが調整できると言っても、戦闘機の火力をあてるようなものである。危ないので許可が下りなかった。
その代わり、サンドリヨンの前には、ピザ生地の材料がうずたかく積み上げられていた。すでに人型へと変形したその両腕には、専用サイズの調理用手袋がかぶせられ、消毒されている。整地した面には、パネルの上にビニールシートが敷き詰められ、打ち粉が施されていた。
「レッツTRYピザ回し★ ナポリ開放記念〜サンドリヨンでピザ回し」
阿野次 のもじ(
ga5480)がマイクを片手に、告知して回っている。それを聞き、人が集まってきたところで、のもじは、材料をめりめりとこね始める。歓声が上がった。
「人々の希望と胃袋を満たす為。夢さ! 情熱! 私のこの手が真っ赤に燃えるさあ、おいしくできあがれ☆ ピザ・モッツァレラ♪ レーラレラレラ♪ レミリア強化LV5でGOOD!」
謎の歌を歌いながら、こねられていく生地。それをピザの形にするのは、棗・健太郎(
ga1086)の役目だ。
「よぉし、秘技! サンドリヨンでピザ回し!」
丸く捏ね上げたそれを、掲げたアームの上でぐるぐると回す。と、生地は次第に伸ばされ、平たくおなじみのピザの形になる‥‥筈だったが。
「えぇいっ! わぁっ」
素人にはなかなか難しいようで、思いっきりアームが生地を突き抜けてしまった。もっとも、観客には受けたようで、どっと笑い声が上がった。どよーんと落ち込む健太郎。
「ま、まぁこれも味って奴さ。とりあえずまとめてもう一回こねようぜ」
「うん‥‥」
しょぼんとした彼を励ますように、穴のあいたピザ生地を修復する陽ノ森龍(
gb0131)。あるものは切り分け、あるものはまとめ、健太郎が当初作ろうとしていた予定通り、4〜5枚の生地となる。そこへ、のもじがサンドリヨンに乗ったまま、両手を高々と上げた。
「みんな! ちょっとだけオラにトッピングの具を分けてくれ!」
どうやら冷蔵庫もまっつぁおな元気ピザにするらしい。と、待ってましたとばかりに、傭兵達はそれぞれ持ち込んだピザ材料をぶち込んでいた。
「店主の名にかけて頑張りますっ♪ さぁ〜っ、一緒にやるのですよ〜っ♪」
兵舎で飲食店を営んでいるらしいシエラ・フルフレンド(
ga5622)、覚醒までして、生地の上に適当な土手を作り、ピザの仕上げに入っている。トッピングに店長の誇りと愛を精一杯込めて、三種類のチーズを使い、トマトベースから変わりモノまで、ざくざくと作っていった。
「色んな味を散りばめるのですぅ」
一緒に作っていたプルナ(
ga8961)の手元にも、次々とトッピングが振り分けられていく。「マルゲリータ」「カレーソース&マッシュポテト&チキン」「ホワイトソース&マカロニ&お餅」「サルサソース&オニオン&貝柱&エビ」「ベーコン&ポテト」などなど、美味しそうな味がいっぱいのピザだ。
「よーし、こっちはOKだ」
「せぇの、えいっ!」
それを、KV班がよっこいせと持ち上げる。バラの中心部へと投入すると、周囲にピザの焼けるにおいが立ち込める。そう、えもいわれぬにおいが。
「つかぬ事をお伺いしますが、トッピングは何を?」
そう尋ねてくるカラスに、傭兵達は自分の持ってきた材料を申告してきたわけだが。
「えーと、まず餅。それとタコ。マッシュポテト。この辺の材料をしょうゆ味で!」
「ごく普通にイカですけど」
「変な具材だと怒られそうだからパプリカ‥‥」
「大きいアンチョビと、切らないと爆発する辛子明太子と、それほど辛くないけど大きい万願寺唐辛子よぉん」
「豆腐だ。主張しないし絶対うまい自信がある。名脇役」
「僕、好きなお魚の秋刀魚♪」
「暴君を少々‥‥」
「サーモン」
「‥‥ん。バナナは焼くとおいしい」
「エビフライ」
「ハンバーグ持ってきた」
「パイナップルって、確か入ってましたよね」
「紀州産の高級梅干もです」
「パルミジャーノ・レッジャーノ。忘れちゃ困りますね」
正直、味の想像がつかない品々である。さすが闇ピザと言ったところか。それをシエラはぺたぺたと器用に盛り付けていく。さすが店長、見た目は普通のピザとまったく変わらないのだった。
●お残し不許
ピザが、焼けた。
「おぉー」
人々が集まる中、まるでお神輿のように、瓦礫の上にシートを引いて作った台座に焼きあがったピザが鎮座していた。
「どうやって切る? なんならこれで‥‥」
レイアーティが、国士無双を取り出すが、プルナが首を横に振って、あるものを取り出した。
「8mもあるので、切るのはこれです。シエラさん、お願いしますね」
なんとワイヤーだ。それを両側に渡すと、シエラは片手に持って、覚醒する。
「てぇーいっ!」
掛け声とともに、彼女がワイヤーを振ると、びぃんっと綺麗に128等分。ちょっと大きめだが、食べ応えはありそうなピザに切れ上がった。
「それでは〜」
「乾杯!」
持ち込んだ飲み物が各自注がれ、大き目のピザ、そしていつの間にか10種類くらいに膨れ上がったパスタが、傭兵達と見物人数百名へと配られ、杯が掲げられる。
「みんなお疲れさまでした‥‥そして、これからも宜しくお願いします」
「いえいえ、初対面なのに、部隊に入れてくれて‥‥。これからもどうぞよろしくお願いします」
「あの時は迷子になってしまってすみませんね」
イエマフ隊の面々がそんな事を言いながら、ヨーロッパ攻防戦の事を話している。これからもこうして一緒に時を過ごしたいと考えているのは、彼らばかりではないようで、ホアキンやサルファも、自分達が作ったピザを、笑顔で食べていた。
「楽しそうだなぁ。でも、ここ放置は出来ないし‥‥」
KVをそのままにしておくわけにはいかない巴、ぷーと頬を膨らませている。
「行ってきなよ。ここは僕が見てるから」
「べ、別に混ざりたくなんかっ」
そこへ、カラスが交代を申し出てくれた。ふいっとそっぽを向きながら言っているが、お目目はひたすらピザをがつがつと食い漁っている猫瞳(
ga8888)へと向いている。盛大な効果音を立てながら、ひたすら地味にピザをぱくついている彼の傍らでは、シャレムが首をかしげていた。
「おかしいですねぇ。統計学上、そろそろひっくり返っても良さそうですが‥‥」
その傍らに置かれているのは、内容成分が関係者以外秘密な特性タバスコと、希釈率一万倍のフルーティな超マムシ酒な筈なのだが。彼にとっては、なんら問題がないようだ。
「ニャ☆___これはやっぱり本場な食べ方をするのが一番かニャ〜☆ あたいは今回に関してはゆっくりと焼けたのをじっくりと味わって食べる事が一番だと思うニャね〜☆」
一方、アヤカ(
ga4624)は大きなピザを折りたたんで、一気にぱくっと口に入れている。のんびり食べるつもりなのか、イタリアワインでのどを潤しつつ、彼女は雄弁に語る。
「石釜は作り手のこだわりがあるニャから同じ物は一つとしてないとか、最近はチーズとかトマトソースとかの業者もなかなか厳しくて廃業した所があるとか‥‥大変ニャよね〜」
幸せそうにそう言いながら、アヤカはミクにマルゲリータのおかわりを頼む。と、付け合せについてきたパスタを、彼女はしげしげと眺めた。
「で‥‥この赤やら緑のなのは‥‥もしかして『山』のメニューニャか?! 特に赤いのは食べてる途中で『ミ○ズを食べてる気分』って言わしめるあれニャね? あたいも昔食べたことあるニャが‥‥一口食べるだけで十分だったニャ〜」
どうやら彼女、並んだいわゆるデザートスパは、本家のものを口にした事があるらしい。
「一番最悪のメニューは実は甘口系よりごく普通の『ミートスパ』ニャ。食べてる最後の方に大量に出てくる『油』が最大の敵ニャ〜!」
まぁ、今回のピザやパスタに関しては、地元産の良質なオリーブオイルを用意したから、油の海でスープパスタになっているようなパスタは出てこないだろう。
そんな調子で、アヤカがサンタルチアを歌い、シャレムが踊ったりと、次第に宴会場と化してきた中、フィオナ・フレーバー(
gb0176)がこんな事を言い出した。
「はーい、注目〜! これだけ人数がいるんだから、何かやりたいと思いますっ」
彼女が手にしたメモを読み上げる。その傍らに、大食い大会開催の看板が、告示されていた。見れば、すでに特設会場も設営されていおり、一般市民で腕に覚えのある連中が、陽ノ森の受付に、長蛇の列を作っている。
「やり方は簡単。ピザ作成班が作ったピザと、闇ピザを交互に食べてもらい、一番多く食べた人が優勝ですっ」
時間制限は1時間。同数は残りの計量と言う、以前大食い番組でやっていたのと同じ方式だ。
「お色直しをしてくるよ」
運び手のミハイル、執事スタイルへと衣装を変えてくる。
「ほなはじめまっせー。司会は私、佐伽羅 黎紀が勤めさせていただきやすっ」
紙袋マスクに巨大ハリセンとジャングルブーツにブレザーと言う、どこからどう見ても立派なインチキ関西人になった佐伽羅が、声を張り上げている。その怪しげな風体に、取り巻きの子供が後ろ指をさしていた。
「こら〜っ、そこっ、後ろ指を差すなっ! 正面から指せっ!!」
で、正面から指した子供には、「よくやったっ!」と褒めながら、手にしたハリセンで、「ご褒美に一発シバイてやろうっ」何ぞと言いながら、と追い掛け回している。子供、きゃあきゃあ言いながらも、紙マスクとの追いかけっこが楽しそうだ。誰か止めれ。
「よし、プルナ。皿の用意はいいな?」
「OKですぅ☆」
テーブルにずらりと並んだ参加者に、一枚目のピザを配って回る陽ノ森とプルナ。その手には、ストップウォッチが握られていた。
「それでは‥‥よぉーい、すたぁとっ!」
スタートと同時に景気よく照明弾が空へと舞った。と、食べやすいように切り分けたピザを、参加者がいっせいに口へと運ぶ。
「あれ? 以外に美味い?」
サルファ、その謎タバスコがかけられた一切れを手に取る。が、二口目を運んだ瞬間、目を白黒。
「うーん、やっぱり他のを食べようかな」
どうやら外れだったらしい。
「‥‥‥‥!!」
無言のまま、滝涙流れっぱなしで口だけを動かしているM2も、はずれを引いた口のよう。どうやら、健太郎がチーズをごっそりかけて、宝探しのように、何が入っているのかわからなくした為、闇ピザと言うよりは、ロシアンルーレットピザになってしまったようだ。
「よぉし、食べるぞぉ」
和奏が腕まくりしながら、目の前に置かれたピザへとぱくつく。その前では、観客に混じって健太郎と月夜魅が、「がんばれー。和奏姉ちゃん〜」「がんばってくださ〜い!」と、応援していた。
「和ちゃん、大応援団だぉ」
「ちょっと恥ずかしい‥‥。ミクちゃんも参加する?」
誘われたミクが、「じゃあ食べるぉ」とか言いながら、飛び入り参戦していると、ミハイルが執事モードで、「お嬢様、ではどうぞ」と、ピザを出してくる。
「おかしいわね。辛さを調整したのに、顔色1つ変わらないなんて‥‥」
一方、激辛ペンネを混ぜ込んだ薫は、メイド姿のケイが、顔色一つ変えていないのを見て、自分の分を口へと運ぶ。
「う‥‥。ちょっと、吐き気が‥‥」
外れだったようだ。
「ん。おかわりある? 全力で食べる」
そんな中、憐は覚醒し、目に付くピザを片っ端から平らげている。それは、御影も同じだった。
「いやぁ、エミタを埋め込んでから、どんどんお腹が空きやすくなって困るさぁ。そのままで十分美味しいんだし、後は美味しい水と食後のお茶があれば十分さぁ」
エミタで消費するカロリー量が増大した結果、食費が天井知らずになったそうである。二人とも、食費がかさむようになったらしく、ここぞとばかりに全力で食べていた。
「そうはいくか。少なくともレイアーティさんには負けられねぇっ! 何が何でもっ」
で、そこに対抗心を燃やす煉威(
ga7589)。司会兼主催のフィオナが煽るように「みんなー。お残しは許しませんよ?」と脅している。しかし、気合の割には、お腹がついてこれないようだ。
「うぷ‥‥。確かに、ちょっと苦しい‥‥かも‥‥」
そういって、レンイは観客の中にいたシエラに合図を出した。と、彼女は「しょうがないですねぇ」とか言いながら、そのピザを手に取る。
で。
「はい、あぁーん♪」
とか言いながら、シエラ、ピザを強制的に詰め込んでいた。その瞬間、ぴぴーと陽ノ森の笛が鳴る。
「こらー、手出しはNG」
「お砂糖禁止っ」
ちゃんと自分で食べやがれと言うことらしい。小細工は通用しないようだった。仕方なく、朝からなにも食べてない勢いに任せて、口に放り込む彼。
「と言うわけで、優勝はピザ16枚完食の御影さんでした〜。今のお気持ちは?」
「僕は美味しいご飯が食べられれば、それで幸せさ〜」
フィオナのインタビューに、そう答える御影。背後に花火が上がっている。
「残念でしたね〜」
「もうちょっとだったのに‥‥」
一枚差で敗れたレンイ、シエラに膝枕で慰められている。
「ん、ソースついてますよ☆」
一方、和奏はクラークにトマトソースをふき取られていたり。
こうして、お祭りは盛況のうちに終了した。なお、それでもあまったピザは、それぞれお持ち帰り品として、綺麗さっぱりナポリの人々の胃袋に納まったようである。