タイトル:【PN】南国バイク便マスター:姫野里美

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/05/21 23:04

●オープニング本文


 バルセロナでのサンドリヨン実用実験の結果、准将は装備力のアップと、各種能力値の調整、排気量のアップと、様々な要請をこなしていた。実験を反映した結果、装備力は3.2レーザーを装備してもお釣りが来るようになり、アクセサリスロットがデフォルトで4に増えた。相変わらず装甲は紙っぺらだが、燃料が1.5倍になり、スピードもアップしたため、回避力が中型ワーム並に。知覚が、エミタとリンクするよう改造された為、外の光景が直接お肌に伝わるようなイメージになった。要はタイプAとタイプBを組み合わせたような機体になったらしい。
 ところが、である。
「何ぃ? サンドリヨンがナポリに置きっぱなしーーー!?」
 ミラノのUPC施設内にある通信機の前で、声を荒げているキャスター准将の姿があった。
『あのデカいのを、そう簡単に輸送できないだろ! 俺ら、傭兵じゃねぇんだし』
 連絡しているのは、どうやら親方のようだ。サンドリヨンは、覚醒後の傭兵でなければ、扱いの難しい機体。技術者ではあるが、能力者ではない工房の面々では、持ち出せなかったのだろう。
「発進は出来るんだろうな」
『おう。ついでにおまいさんから借りた報告書にあった物を試作して見た。一緒に収めてあるから、隙に持ってけ』
 その代わり、整備はばっちりのようだ。ついでに、試作品のオプション品も倉庫に納めてあるらしい。リストには、次のように乗っていた。

【各種オプションパーツ】
ミストジェット:巨大な霧吹きを想像させるタンク付き噴霧器。特殊能力スロットに取り付けることにより、エネルギー効果で蒸発させ、周囲に霧を発生させる事が出来る。これにより、相手の命中率を−40させる事が出来る。

パイルバンカー:巨大な釘打ち機を連想させる発射装置。副兵装スロットに装備することにより、腐りつきの鉤を発射する事が出来る。射程はあるが、命中させれば相手の回避に−40する事が出来る。鎖は余り強くないので、体力の対抗判定に抵抗すると、脱出できる。

飛行ユニット:エンジンに特殊ブースターを装着する事によって生まれる推進力を利用して、バイク形態のまま飛行する事が出来る。が、錬力を余分に消費する為、継続時間は20分程度しかない。


倉庫の扉を開ければ、裏の通路から、いつでも発進出来るそうだ。もっとも、ナポリは海岸の町。陸側への通路は、バグアが押さえている。キャスター准将は、脳内地図を思い浮かべると、こう言った。
「わかった。海を越える手段はこっちで手配する。後で地図とパスワードをこっちに寄越してくれ」
『おう!』
 勢いだけは盛んな親方。すぐさま必要書類を回してくれるのだった。

 で。
『わかった。その新型機を、マドリードまで運べば良いんだな』
 キャスター准将が連絡を取ったのは、ツォイコフ中佐だった。一言文句が来るかと思っていた准将は、あっさりと了承する彼に、意外そうな表情を見せる。
「ずいぶんと素直じゃないか」
『傭兵達には世話になったからな。それに、通常輸送任務なら、断る義理はない』
 部下を必要以上の危険に晒すわけでも、ガリーニンをおしゃかにするわけでもない。ピエロめいたプロパガンダになる必要もない。ならば、腕を貸せると。
「それじゃ、ついでにもう一つ。バルセロナからの避難民を輸送する手が足りん。サンドリヨンを降ろした後で良いから、運んでやってくれ」
 ガリーニンなら、対人装備を施しても、かなりの人数を運べるだろう。その依頼に、中佐は『‥‥酔い止めと、対ショック用品を持参しろと言っておけ』と答えるのだった。

 その頃、スペイン‥‥マドリードでは。
「く。相変わらず盛大な戦力だな‥‥」
 街の外側から、偵察に来ていたUPC軍が、次から次へと現れるワームに閉口していた。
「隊長! 新型が‥‥」
「そんな事分かってる。これで何機目だ?」
 次々と報告してくる隊員達。彼らの所属する隊の周囲だけでも、見た覚えの無いチーター型が10匹、鳥型が10匹。加えて、ノーマル型が10体。キメラとキューブがたくさん。
「それと、こんな物を見つけたんですが‥‥」
 と、隊員の1人が、透明な欠片を持ってきた。大きさは50cmほどだろうか。何だかレンズの切れ端みたいなクリスタルである。
「なんかの欠片かな‥‥うわぁっ」
 隊長がそれを確かめようとしたその時だった。盾代わりにしていた戦車が、いきなりすっぱりと切り落とされた。
「ファームライド‥‥! いつの間に!」
 驚愕する隊員達。どこに紛れていたのか、光学迷彩をとき、赤い姿を晒したファームライドから、少年の声がした。
『それ、返してよね。僕が京兄様から貰った奴なんだから』
 答える暇など与えず、クリスタルを確保していたUPCの兵士達が吹き飛ばされる。
「ひ、退け! あれは、傭兵どもに押しつけておくんだ!」
 その圧倒的な力に、隊長はあっさりとクリスタルを放棄し、早々に引き上げて行く。
「これで5個目‥‥。まったく、これだから大人は信用できないよねー」
 ファームライドに乗ったまま、そのクリスタルを拾い上げた少年は、再び光学迷彩を使用し、空気に溶けるように消えて行った。

『ナポリからマドリードへ。生まれ変わったサンドリヨンの技量を活かし、ファームライド率いる敵のワーム軍団を蹴散らしてください! その間に撤収しますから!』

 壮大なツーリングになりそうである。

●参加者一覧

ゲック・W・カーン(ga0078
30歳・♂・GP
愛紗・ブランネル(ga1001
13歳・♀・GP
棗・健太郎(ga1086
15歳・♂・FT
水理 和奏(ga1500
13歳・♀・AA
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
霧島 亜夜(ga3511
19歳・♂・FC
ゼシュト・ユラファス(ga8555
30歳・♂・DF
神父ロンベルト(ga9140
32歳・♂・CA

●リプレイ本文

「中佐のおじさん、おかえりなさいっ!」
 ガリーニンで、荷物の搬入指揮を執っていた『中佐のおじさん』ことツォイコフ中佐に、少女‥‥すなわち水理 和奏(ga1500)はぴょこんっと思いっきり抱き付いていた。
「こらっ! 作戦室で待ってろと言って置いただろうが!」
 べり、と引き剥がすようにして、床に降ろす中佐。連絡は受けているのだろう。引きつった顔を浮かべている彼に、水理は「だってー!」と半べそをかいている。
「いいから下で待っていろ。まったく‥‥」
「ごめんなさーい」
 それこそ、父親が娘に言うように告げられて、彼女はぺろりと舌を出す。そして、心なしか嬉しそうな表情で、タラップの踊り場から、その機体を振り返った。
「久しぶり、ガリーニン。頑張ってるみたいだね」
 まるで、旧知の友に語りかけるようなその口調は、彼女が無機質なメカも友として扱う心意気の表れだった。
「いくよ、はっちー。バグアを蹴散らせ! ガリーニン護衛と拠点確保!」
 愛紗・ブランネル(ga1001)の乗るワイバーンの目が、まるで命を宿したかのように輝く。火を入れられたその機体は、轟音と共に、少女を乗せて、ナポリ上空へと飛び立っていった。
「こちらの準備は整った。安全空域で待機していてくれ」
『了解した。回収は頼んだぞ』
 漸 王零(ga2930)がそう言うと、通信機から回収機を作動させているゲック・W・カーン(ga0078)の声が返ってきた。既に、サンドリヨン担当は、その機体を待ちわびている頃だろう。そんな中、左と後ろ側を警戒しながら、アイシャがこう呟く。
「機体の後ろにも目があったらいいのにー。ねぇはっちー?」
『その代わりに、我らが警戒しておきますよ』
 無線機の向こうから、レーダーの様子を見ながら周辺警戒を行っていたファーザー・ロンベルト(ga9140)がそう答えてくれた。彼に「お願いねー」と、反対側の警戒を任せた直後、当の本人から警戒無線が入ってくる。
『5時の方向より、高速で接近する物体があります。レーダー不能域まであと1分、数6!」
「CWだな。おいでなすったぜ」
 大きさと進行ルートから考えると、警戒のキューブワームだろう。そのうち、通常ヘルメットも駆けつけてくるに違いない。CWを倒す事が先決と判断した王零は、奇しくも僚機となったゼシュト・ユラファス(ga8555)にも、そう促す。
「わかっている。では、ばら撒くとしようか
 主兵装のソードウイングは、接近戦でないと使えない。さらに、長丁場なので、無駄弾も撃てない。そう判断した王零は、接近してくるCWをレーザー砲で一掃しようとする。
「出来るだけ長引かせろよ。後半きついからな」
 一方、同じディアブロながら、彼が副兵装に仕込んだレーザーをメインウェポンに仕込んでいるゼシュトは、むしろそちらを牽制援護に使っていた。距離が離れた相手には、強化したスナイパーライフルをお見舞いしている。
「派手にやってるな。準備は良いか?」
 そうして、戦っている彼らを、ガリーニン内部で見守っていた霧島 亜夜(ga3511)は、備品が壊れないようしっかりと固定しながら、ゲックにそう尋ねた。直後、眼下に目標となる工場が垣間見える。
「よし、パイルバンカー投下!」
 ゲックがパイルバンカーの鎖を下ろした。外壁に固定されたそれは、しずしずと下りて行き、サンドリヨンの収められたコンテナを、がっちりとキャッチする。
「本当はこれが使えれば良いんだがな‥‥」
「錬力を温存しといた方が無難だろう」
 回収した飛行ユニットを固定しながら、そう呟く霧島。だが、ゲックは首を横に振る。後で補給が行われるかもしれないが、それでも錬力は温存しておきたいとの事で、今はチェーンフックがかかっていた。
 ところが、である。
「そう簡単に釣らせちゃくれないようだな」
 本体の入ったコンテナを吊り上げようとした所で、気付いたのか、飛行型ワームが襲撃してくる。しかし。まだキューブは倒されていない。
「おいでなすったな。飛行型からやるとしようか」
 そう言って、ブーストを吹かし、スピードを上げるゼシュト。相手より早く近づいた彼は、その翼をもぎ取るように、AFを食らわせている。
「陣形を忘れるなよ」
「はーい。いっきまぁーーす」
 一方、王零は後ろにいたアイシャにそう指示をした。回り込もうとしたヘルメットワームに向けて、ワイバーンの高分子レーザー砲が煌く。
「今だ!」
 ダイヤモンドの両側で、激しい火花ががあがる中、ゲックの吊り上げたコンテナがガリーニンの格納庫部分へと収納される。それを確かめた王零は、まるで自身が弾丸になったかのように、ブースターのスイッチを入れた。
「いっけぇ!」
 機体が回転し、螺旋の軌跡を描きながら突撃する王零。ソードウィングがヘルメットワームの本体を捕らえる。直後、爆発音。
 こうして、一行は、何とかサンドリヨンを回収し、ワームの追撃を振り切って、移動先であるスペイン・マドリードへと向かうのだった。

「『閃光』の名に恥じぬ動きをしないとな!」
 補給が済み、マドリードまであと僅かとなったそこへ、再び登場するキューブワーム。頭痛を引き起こすその怪電波に耐えつつ、霧島は仕込んだラージフレアを、確実に炸裂するべく、ミラーシェイドで姿を隠す。
「おじさんとガリーニンは僕が守るんだ!」
 その間に、機体の上へよじ登った水理が、攻撃網をすり抜けてこようとするワームに向けて、レーザーを発射する。
「援護するよ! 何たって和奏姉ちゃんのファンだからね!」
 彼女が撃ち漏らした敵を、棗・健太郎(ga1086)がちょこちょこと当てようとしている。少年少女が頑張っている姿を見て、ゲック、ぼそりと一言。
「若い奴は早いなー」
「それほど年寄りでもないだろ。装甲20%きったら、すぐ戻れよ!」
 霧島が、相手の攻撃を回避しながらそう言った。さすがに早いだけあって、中々致命傷には至らないが、元々装甲の低い機体。油断は出来ない。ゲックもそう思ったのか、少年少女が戦っている間に、手近な建物に身を潜める。
「健太郎くん! ボクがひきつけるから、その間に撃って!」
 一方の少年少女のうち片方‥‥水理はそう言うとレーザーを乱射する。飛行には至っていないが、それなりに経験を積んだ彼女の射撃能力は、ワーム達にとってもうっとおしいものになったらしく、続々と集まってきた。
「うん! あたれぇ!」
 寄って来たそのワームに向けて、ミストジェットを放つ健太郎。ガリーニンの姿が、水蒸気の内側へと消える。その濃い煙を隠れ蓑に、アイシャがワイバーンを獣型へと変形させた。
「ワイバーン、へーんしんっ!」
 わぉーーんっとばかりに4足歩行形態となったワイバーンに、特殊能力であるマイクロブーストが上乗せされる。食らい付く狼となった機体。しかし、狭い足元では、中々踏ん張りが利かないのも当然なわけで。
「危ないッ」
 健太郎が、とっさにパイルバンカーを発射してその首元にロープを引っ掛ける。びぃんと張ったワイヤーを切ろうと、ワームが鎌をかかげた。だが直後、そのワームは横合いからロケットランチャーに吹っ飛ばされていた。
「中々ガッツがあるな、少年。だが、時には引く事も重要だと覚えておけ。でないと、ああ言う奴が出てくるからな」
 撃ったのはゼシュトらしい。彼の指し示した方向を見た時、一瞬赤い影が見えた。
「CWの出現パターンに気をつけておいて正解だったな」
「ファームライド‥‥」
 おそらく、レッドデビルの名を持つ機体。
「ふむ。では我は神の名の下に汝に裁きを与えようか」
 相手が悪魔なら、遠慮をする事はない。そう言いたげに、ファーザーは、覚醒の副作用となった口調で、神罰を与える事を告げるのだった。

 数分後。
「どこにいるんだよ!?」
「この辺なのは間違いないだろうな」
 健太郎が、周囲を見回す中、霧島はそう警告を発した。レンズを集めているそうだから、何かきらりと光るものもある筈。
「空間の歪みを狙えばなんとかならないものか‥‥」
 滑空砲を油断なく構えながら、周囲に気を配るファーザー。ロケットランチャーでは被害が大きそうだ。
「だいじょーぶ。さいころさん撃ちぬけば、何とかなるなる!」
 アイシャが明るくそう言って、策敵の障害となるキューブワームへ、ワイバーンの牙となるべくメトロニウムレイピアを振り回している。
「そうだ! ペイント弾!」
 はっと顔を上げる水理。そして、ガトリングの弾に、ペイント弾を入れなおす。既にゼシュトはそれを済ませた後だ。
「なるほど、ガトリングの弾を変えればいい話ですな」
「博打だがな」
 ファーザーにそう言うが早いか、ファームライドが次に現れそうな物陰を狙う彼。もとより当たるなどとは思っていないが、何かの目印になれば充分だった。
「意表をつければ良いけどな」
 市街地では、おおっぴらにソードウィングを使うのも躊躇われる。それは、ラージフレアを持つ霧島も同じだった。
「俺が囮になる。その間に狙ってくれ」
 が、彼はそう言うと、何とかキューブワームへフレア弾を発射する。盛大に炎が上がるが、数は一向に減らない。それを見て、アイシャはガリーニンに連絡を取った。
「CWの数が増えてる‥‥。暗視スコープのおじさん、どうなってる?」
 ざぁぁぁっとノイズが走っているのを見ると、おそらくあちらも砂の嵐だろう。
「ミストジェットはあと1回しか使えないのに‥‥」
 残りの燃料は僅か。ジグザグに走りながら、健太郎はファームライドを探す。こうして、弾をばらまいていた所。
『何か色々持ってきたみたいだねー。じゃ、こっちも1人じゃ分が悪いかな』
 そんな声が、建物の間から聞こえた。
「あの時の少年機だよね‥‥」
 既に、交戦した事のある水理がそう呟く。
「誰なんだろ。噂では子供が多いって聞いたけど」
 アイシャも、その中身が気になるようだ。他の傭兵達の話では、大人がいるのも聞こえているが、半数は子供らしい。
『手っ取り早くやんないと、京兄様に言われるし。ちょっと本気出そうかな』
「‥‥京兄様? 京の字のことかな?」
 相手の台詞に、アイシャはシェイドに乗った日本人パイロットの事を思い出す。と、その時だった。ノイズだらけの通信機に割り込むように、ブライトン博士の声が聞こえてきた。
『なんだよ。じいちゃん、そんな大々的な紹介いらないって言っただろ』
 そう、それはファームライドの乗り手を紹介するものだった。忌々しげにそう答えた少年の声と友に、赤い悪魔が姿を見せる。
『じゃあしょうがないな。初めまして。ボク、甲斐蓮斗。ゾディアック12星座の1人、アクエリアス。よろしくね!』
 ファームライドの風防に、うっすらと見えた少年は、派手な装飾のついた洋服を着ていた。にっと笑って指先で銃を撃つ真似をすると、即座にその姿がかき消える。
「見えないのは‥‥きみだけじゃないんだよ!」
 対抗するように、水理がミラーシェイドをかけつつ、ガリーニンの上で助走する。そして直後、サンドリヨンの推進部に仕込んだ飛行ユニットが、轟音を立てた。
「邪魔はするが邪魔はさせん!! 『漆黒の悪魔』の異名は伊達じゃない事を見せてやる!! 」
 その行き先を決めるのは王零。ブースターを吹かし、強化した機体でもって、ファームライドのいるであろう方向へとダッシュをかける。
『その名前は、京兄様にこそふさわしいものなんだけどねっ!』
 蓮斗、そう言い返すと、身を隠したまま、レーザーに良く似た青白い光を放射状に食らわせる。
「ほう‥‥赤い悪魔は伊達じゃないという事か。だが、墜ちる訳にはいかんのだよ! 私は!」
 不敵に言って避けようとするゼシュト。しかし、速度は相手の方が上だったらしく、被弾してしまう。
「本命はこっちだよ!」
 その間に、水理、まるで騎兵隊か何かのように、ツイストドリルを加速させる。その間に、王零が援護するように、ソードウィングを振り下ろす。
「姉ちゃんは僕が!」
 そこへ、健太郎がミストジェットを使った。それはちょうど、スクリーンの役割を果たし、赤き姿を浮かび上がらせる。見れば、少し被弾しているようで、バチバチと音を立てていた。
『やっぱり、面白い武器使ってるね。仕方ない、ここはあげるよ。その代わり、それ‥‥そのうち貰うから』
 ごとり、と音がして、クリスタルが転がり落ちる。直後、まるで群がるようにワームの群れが酔ってきて、ファームライドは撤収していくのだった。

 そして。
「貴方達は私たちが守ります。よろしければこれをどうぞ」
 移動中不安にならないように、祈りを捧げる神父となったファーザー、りんごジュースを配って回っている。土地柄、キリスト教の神父と言うのは、かなり尊敬を集める存在らしく、子供ばかりではなく、大人達にも慕われていた。そんな中、中佐をじーっと見上げた水理は、決意の表情でその腕にからみつく。
「おじさん、僕決めたよ!」
「和奏お姉ちゃん?」
 泡食ってる健太郎。
「もっと手柄を立ててお勉強も頑張って、正規軍に採用してもらうんだ! だからおじさん‥‥将来、僕を貰ってね! 約束だよ!」
 一応中佐の名誉のために併記しておくが、水理は部下にしてくれと言っているだけである。
「良かったな。嫁が出来て」
「‥‥‥‥‥誤解だッ」
 が、王零ににやりと笑顔で肩を叩かれて、中佐はやっぱり頭を抱えて怒鳴り散らす羽目になるのだった。
 なお、ガリーニンにはスペースに若干の余裕があったらしく、傷ついた傭兵達は、体を休める事も出来たと言う。