タイトル:恐怖の電波曲を止めろ!マスター:姫野里美

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/10/14 02:26

●オープニング本文


●救出指令
 北海道千歳基地‥‥。
 大戦前は、雪祭りだの合同演習だのと言った、比較的ゆるいイメージのあった自衛隊旧千歳駐屯地は、いまや対バグア戦の最前線となっていた。
 エミタに適合した傭兵達に渡される指令。通称『依頼』。
 今回、東北の各種工場から送り込まれた兵器が並ぶ現地に到着した彼らに渡されたのは、ある1人の少女の写真だった。

『ミク・プロイセン:14歳:准将』

 長いブルーの髪をツインテールにし、制服をいわゆるゴスパンク風に着崩した少女。耳に付いているのは、きっと通信機かなんかだろう。下に書かれているプロフィールには、なんでも、エミタの適合者だった上、祖父もサイエンティストとして上のほうにいる‥‥らしい。いわゆる『博士の孫』だろう。この若さで准将扱いなのも、そのせいらしい。

「IQ的には180を誇る天才児だが、どうにも才能を無駄遣いしている感が強くてな。そのせいで、現在バグアのロシア極東軍に捕まっているようなのだ」
 そう話す担当。どうやら、今回下されたのは、その天才少女の救出らしい。旭川で捕まった彼女、近日中に宗谷岬を越え、ロシアのバグア支配地域へ送られるのだろうと、予想されていた。
「本当は別に自力でどうにかしろと言いたいところなんだが、孫を取り戻さないと、祖父の博士が仕事しないと脅しをかけてきてな‥‥。すまんが行って来てほしい」
 そう話す担当。今のところ彼女は、街の中心部にある某大手酒造メーカーの跡地に軟禁されているそうだ。大戦前は地方の名物としてそれなりに人気のあった日本酒メーカーの倉庫で、現在はバグア軍に接収され、研究所として使用されてしまっているらしい。
「おそらく、そこで何らかの研究に強制従事させられているんだろう。移送前に救出してきてほしい」
 そう言って、地図といくばくかの武器弾薬を渡される傭兵達だった。

●洗脳電波曲発信中
 その頃、旭川市内にある中央通りでは。
「うう、脳みそに回る‥‥」
「俺、聞かないと落ち着かない‥‥」
 一部旭川市民が、げっそりした表情で、街中をさまよっていた。彼らは何故か手に手に葱のようなものを持ち、それでリズムを取っている。いや、取らされている。
「一体いつまで続くんだ‥‥」
「あの電波ソングさえなければ‥‥」
 曲に乗って行進させられている彼ら。その歌声は、まごう事なきプロイセン准将のものだった‥‥。

●参加者一覧

蛍雪(ga0021
25歳・♂・FT
ゲック・W・カーン(ga0078
30歳・♂・GP
ジンクード・フィアルグ(ga0291
18歳・♂・SN
江崎里香(ga0315
16歳・♀・SN
藤川 翔(ga0937
18歳・♀・ST
スカーレット(ga1322
22歳・♀・FT
如月・由梨(ga1805
21歳・♀・AA
炎華(ga1907
25歳・♀・FT

●リプレイ本文

「それにしても、もっそい分かりやすい電波だな」
 ゲック・W・カーン(ga0078)が、周囲を見回してそう言った。町で一番大きいその通りには、街路灯ごとにスピーカーが取り付けられ、少女ボイスの歌が流れまくっている。担当の元に届いていたのは、一曲だけだったが、今聞く限り、その数はアルバム一枚くらいに膨れ上がっていた。
「確かに、ずっと聞いてると毒されそうだねぇ。他に何か変わった事はないのか?」
「ちょっと聞いてみたいんだけど‥‥。皆いないわねぇ」
 江崎里香(ga0315)がそう言って周囲を見回す。現地で分かっている事を聞こうと思ったが、やはりバグア軍を恐れて、人どおりは欠片も無い。
「うーん、どうも大通りと駅前にある、一部の店舗で流されてるみたいね」
 人を探して、近くの大きな建物に入ってみた所、集まりそうな場所には、軒並みスピーカーが取り付けられ、いつでも耳に入るよう配備されている。発生源を見ると、店内や大通りに設置されたスピーカーから、流れてくるようだった。見れば、日付は大戦前になっており、おそらく店内放送やBGMに使われていたのだろうと、推測できた。
「何とかして、音を聞かずに済ませたいところなんですが‥‥」
「だったら、耳栓でもしたらどうだ?」
 頭を抱える藤川 翔(ga0937)に、カーンがそう提案する。相談の結果、何とかして耳栓を手に入れようと言う事になった。
 だが。
「やっぱりないか‥‥」
 残念そうにそう言うスカーレット(ga1322)。このあたりは、バグア軍とてバカではない。市内にある耳栓には、全て『都合により売り切れ、次回入荷未定』の文字がしっかりと貼り付けてある。仕方なく、市販品ではなく、あり合わせのもの‥‥この場合、持っていた救急セットの脱脂綿を少し切り取って‥‥と言うわけである。
「あーあー。うーん、だがこれを仕込むと、お互いの声が良く聞こえなくなるな‥‥」
 カーンがお互いの声を確かめながら、そう言った。歌も聞こえづらくはなったが、完全に聞こえないと言うわけではない。おまけに、かなり大きな声を出さないと、意思の疎通は図れなかった。
「通信機は‥‥支配地域じゃ、そもそもジャミング入るか‥‥」
 代わりに、無線機を使おうと試みるカーン。しかし、さすがに支配地域で、貸し出された品を使っては、逆探知されるのがオチそうだ。
「どれくらい聞いたらと言うのが、人によって様々とわかっている以上、うかつに耳は使えませんね。簡単な指差しと手の指示のみで行いましょう」
 仕方なく、蛍雪(ga0021)がそう言ったので、通信機は使わない事にする。
「あーあ、高性能な通信機、あったら貸して欲しいのに‥‥」
「バグアの攻撃が激しくて、支配地域には持ち込めないんでしょう。大丈夫なのを研究中だって、担当の人が言ってましたよ」
 ぶつぶつと文句をつける里香に、そう言う翔。詩作機が出来たら、きっと仕事として回ってくるんだろうと予想して。
「あとは‥‥。どこかで地図が手に入らないかな‥‥」
「本部に問い合わせたら、古い観光用マップが残されていた。改装はしてあるだろうが、概ねこれであっていると思う」
 スカーレットがそう言うと、カーンが紙切れを差し出した。それには、小さく縮小したと思われる当時の地図が描かれている。
「本当は、端末にでも仕込みたかったんだが、開発中だそうで、使用許可下りなかった‥‥」
 いささか不便さを感じるカーンだったが、機器に関しては、いずれ使えるようになるだろうと、彼は地図を見せてこう言った。
「市内にある酒造メーカーは三つ。人が流れ込んでいるのは、こっち側の様だ。が、場所を考えると、准将が捕まっているのは、小さい方だろう」
 指し示しているのは、何か大規模な研究をしているらしいのは、大通りにある酒造工場跡地。だが、キメラの数が多いのと、数日前に、何やら作業していたらしい事を考えると、ミク准将は、小さい方の研究所に移送されたようだ。
「でも良かった。古くても経路が分かるだけ、安心ですからね」
 スカーレットはそれでも胸をなでおろす。こうして、一行はその研究所へと向かったのだった。

 数時間後、一行はそれぞれ研究所の近所へと潜んでいた。このあたりは住宅街で、隠れる場所も多く、潜むには困らない。オマケに大通りからも離れている為、電波ソングも聞こえにくい。耳栓を外しても大丈夫そうだ。
「あれが例の研究所か‥‥。分かりやすい酒蔵だなぁ」
 ジンクード・フィアルグ(ga0291)がそう言った。正面に大きく『酒』と書かれた垂れ幕もそのままな、明らかな工場。しかし、正面にバグア軍のマークと『接収済』の文字が書かれている為、一般人の出入りするモノではないと分かる。
「正面入り口の他に、出入り口は‥‥裏かな」
 駐車場だったと思われるひび割れた空き地を見て、里香がそう示す。こう言った場所の場合、『従業員用通用門』があるのが相場だろうと。見れば、窓という窓は潰されてるようだが、使い易いように、出入り口と搬入口の矢印があった。もっとも、その分見張りも多く、昆虫に似た2m弱のキメラが、まるでガードロボットのように、うろうろと集会していた。
「8人も固まっていると目立ちますね。二手に分かれましょう」
 そう言う里香。相談の結果、武器の大きいスカーレット達が表、そして他の面々が裏へと回る事になった。
「音が漏れているか、敵がスタジオみたいなものを使って歌わせて放送しているか、のどちらかだとすると、割と入り口近くだと思いますわ」
「OK。入ったら、連絡取れないだろうから、二時間後にそのスタジオ前で合流ね」
 スカーレットの指示に、里香はそう告げて姿を消す。
「行ったな。んじゃ、さっさと始めるとするか」
 長弓を組み立て始めるジンク。そんな彼に、蛍雪がこう言った。
「先に音源を壊しましょう。そうすれば、釣られて自動的に出てくるはずです」
 彼の指し示した先は、少し離れた場所にあるかつてのスーパー。そこからも、電波ソングがもれ出ている。
「おう。と言う事は、あの電柱にぶら下がってるスピーカーが目標だな」
「行きますよ! 豪破斬撃!」
 ジンクがそう言った刹那、蛍雪は覚醒モードへと切り替え、その手にしたヴィアへと練力を乗せる。
「きしゃああ!」
 瞳を澄んだ琥珀色から、真紅へと変え、普段の柔和な雰囲気をかき消した彼へ、眼を警戒色へと変じたガードキメラが、大げさな声を上げつつ、こちらへと向かってくる。
「現れやがったな。おらおら、こっちは急いでるんだから、前振り無しだっ」
 同じように覚醒したスカーレット、その額には、鬼を思わせる二本の角が生えていた。口調も乱暴になった彼女は、ぶぅんっとツーハンドソードが唸り、キメラの固い甲殻に傷をつける。
「スカーレット、覚醒すると強気になるんだなー。さて、ばら撒きますかっ!」
 前衛2人を援護するように、ジンクが長弓から矢を放つ。SESを搭載されたその矢は、まっすぐ飛んで行ったが、1本は甲殻にはじかれてしまった。
「さすがに固いな‥‥」
 タイプ的には一番多いはずの、中型の昆虫タイプキメラ。しかし、駆け出しの彼らでは、なかなかダメージが通らないようだ。
「甲殻ではじかれるぅ‥‥。3発は当てないと、沈まないなぁ」
 ぶつぶつと文句を言うジンク。昆虫タイプは、その見かけどおり、防御力が高い。いくらSES搭載の武器でも、半分はそれにはじかれてしまうのが現状だった。
「そんなには練力が持たない。2回が限度だ」
 一撃の威力が劣る代わりに、手数で補おうとしていた蛍雪、温存して、少しづつ削るしかなさそうだと悟る。怪我は後で救急キットを使えばどうにかなりそうだが、練力はそうはいかないから。
「ふん。面白くなってきやがった」
 もっとも、覚醒中のスカーレットにしてみれば、ピンチでもわくわくしてしまうようだったが。
「1匹づつ潰して行くしかないか」
「いや、この場合きりが無い。先にスピーカーをやる。ちょうど、良い釣り役がいるしな」
 ジンクの台詞に、そう言って蛍雪が指し示したのは、「いくぜいくぜいくぜっ! 雑魚は引っ込んでろっ!」と、ツーハンドソードをぶん回すスカーレットの姿。
「OK。んじゃ、援護するとしますかねっ」
 矢を番えなおすジンク。こうして4人は、キメラの攻撃を避けつつ、電波音源の破壊に従事するのだった。

 その頃、裏に回った残りの面々‥‥カーン、里香、翔、如月・由梨(ga1805)の4人は、聞こえ始めた戦闘音に、ゴングが鳴らされた事を知っていた。
「向こうは始めたらしいな。キメラが移動を始めてるようだ」
 裏口にいたキメラも、何事かと、表へ回っているのを見て、如月がそう言う。
「だが、こっちにもいくつか残ってますね‥‥。目的地はどう見てもアレなんですけど」
 そう言って、通路の先を示す翔。見れば、通路には虫型キメラが2匹うろついている。そして、その奥には『MIKU’s ROOM』と書かれたプラカードのぶら下がった扉。中に、ちらちらと人影が見える。
「距離はおおよそ10m。オマケに狭い‥‥と。だったらこいつが使えるな」
 目測でそう計ったカーンのお手手には、何やら手榴弾のようなものが握られている。
「それは?」
「本部からかっぱらってきたフラッシュグレネードだ」
 攻撃力はないが、音と光で相手をびっくりさせるシロモノ‥‥と、説明してくれるカーン。少し前の映画かなんかで、犯人を捕らえる為に使ってたのと同じ効果のモノだ。
「かっぱらうって‥‥」
「はっはっは。気にするな。よし、目を瞑っていろよ」
 出所を気にする翔に、カーンはあっさりとそう言うと、サングラスをかける。そして、周りの皆が目を覆ったのを確かめると、思いっきり放り投げていた。
「きしゃあああ!!!」
 キメラとて、生体反応はある。驚いたキメラが、混乱して周囲に見境の無い攻撃を加えているが、ターゲットは邪魔をする全てなので、傭兵達はターゲットになっていない。
「今だ! 駆け抜けろ!」
 その隙に、既に覚醒していたカーンは、瞬天速を発動させ、その脇をすり抜けるように駆け抜けていた。
「せぇいっ!」
 手にしたファングで、扉をねじ切る彼。
「だ、誰?」
「助けに来た。説明は後だ。行くぞ」
 突然扉を開けられて、驚く少女。ツインテールの彼女は、多少衣装を変えられているが、プロフィールにあった通りだ。そう言って、カーンはその手を引いて、強引に部屋を出る。
「だいじょーぶ? 怪我とかしてない?」
 翔がそう言って屈み込む。
「う、うん平気〜。あたた‥‥」
 が、そう言うミクの足は、真っ赤にはれ上がっていた。おそらく、余波で何処か捻挫してしまったのだろう。
「ちょっと待ってて」
 てきぱきと救急キットから包帯を出し、手当てする彼女。だが、そうして作業を進めていた時だった。
「って、その間に、奴ら復活してきたな」
 きしゃああ! と雄たけびが聞こえ、まるで立ちふさがるように、前足を上げるキメラの姿がそこにあった。
「私が時を稼ぐ。その間に脱出しろ!」
「強化しておきます。無理はしないで下さいね」
 如月がそう言って、刀を抜き放つ。そこへ、翔が自らの練力で持って、錬成強化を施してくれた。
「よし、頼んだぜ!」
「がんばってねぇーー♪」
 足の治ったミクちゃんも、カーンの背中で手を振っている。そうこうしている間に、外からキメラの撃破される声が響いた。どうやら、外の連中が、スピーカーを破壊したようだ。
「皆、もう耳栓外して大丈夫です」
 翔がそう言って、耳栓を外す。が、音質のクリアになった傭兵達に、そうはさせじと昆虫キメラが、頭を下げ、突進の姿勢を取った。
「ミク様や後衛の方たちには指一本触れさせません!」
 瞳を赤くした如月が、その甲殻に包まれた頭を、自身の刀で受け止める。温和な目つきが凶悪に成っているところを見ると、覚醒した状態なのだろう。
「ほらほら、ミクちゃんはこっちっ!」
「えぇぇぇんっ。お洋服が汚れちゃうよぉぉぉ!」
 その間に、翔がカーンからミクを引っぺがし、背後に庇う。
「さすがに固いな‥‥」
 そのカーン、ファングでの手ごたえをそう言う。この人数で、1匹がようやくの状態では、後から後から現れる彼らの全てを撃破するのは無理そうだ。
「外で待ってる筈だ。ここは脱出に専念するぞ!」
「わかった‥‥。ここで落ちるは、正義にあらず! 信ずる者のために、私は戦うっ!」
 カーンが出口に向かって、瞬天速を使う。駆け抜けた先へ道を開く為、如月は刀を振り下ろした。
「‥‥あいつらを始末‥‥」
 その後ろからは、里香が昆虫の眉間めがけて、スコーピオンの弾をばらまく。両手に持ったそれから放たれたそれは、キメラの甲殻を確実に削って行った。
「おう、こっちだぜ!」
 その彼らがたどり着いた通路の先。そこには、スピーカーを壊して駆けつけたスカーレット達の姿があった。
「無事だったか」
「まぁな。約束があるんでねぇ‥‥。そう簡単にはやられねぇぜ!」
 そう言ってにっ笑ってみせるジンク。人数を倍にした傭兵達に、キメラ2匹では役に立たず、やがて蜂の巣にされていった。
「これで、私の正義は証明されたのだろうか‥‥」
 死体となった彼らを背に、如月は誰とも無しに、そう呟く。
 なお、ミク曲の正体は、サンプルとして採取されたボイスデータを、バグア軍が勝手に改造したものだったらしい。