タイトル:危険物殺菌消毒マスター:姫野里美

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/04/24 00:09

●オープニング本文


 話は、札幌郊外にある、ひなびた村で、謎の疫病が発生した事にあった。
 疫病と言っても、生死に関わるとか、寝てる間に体が腐るとか、そんな重篤なモンではない。

 語尾に『だっぴょん』とつくのである。

 子供や若者、美女美少女美幼女なら、単なる悪ふざけ程度で済むのだが、このウィルスは、老若男女関係ないらしく、一世紀近く生きてそうなじいさんから、40代の渋いおじさま、特売品詰め放題競争のベテラン女性まで、容赦なく感染してしまう。
 事態を重く見た病院が、血液検査をしてみると、風邪に良く似た未知のウィルスが発見された。慌てて病院がサンプルをUPCに送り、研究所で調べてもらった所、実験的に投与したネズミの鳴き声が『だっぴょん』に変わった。
 そんなウィルスなんぞ、見た事も聞いた事もなかったため、UPCはこれを『だっぴょん菌』と名付けた。
 世に言う『だっぴょん病』の発見である。

「って、おじーさまから大仰に言われちゃったんだけど、これ、本当?」
 ミク、事の真偽を確かめる為、UPCヨーロッパ支部のカラスセンセに電話ちぅ。
「いつ言われたんだい?」
「4月1日」
 思いっきりエイプリルフールである。見事に騙されちゃったミクたんに、気の毒そうなため息をつきつつ、カラスは似たような事件があると説明する。
「なんでも、バグアが何か病原体を撒いてしまって、風邪に似た症状が多発してるみたいだよ。ただ、どうも感染源が低温研究所らしいって事はわかっているけど、人が皆だっぴょんと言うわけじゃない」
 彼の話では、中心部から少し離れた場所にある研究施設を中心に、被害が広がっているらしい。異臭もするそうだから、そこが原因なのは間違いない。マスクを持参して、ここでやっているらしきバグアの実験をぶち壊してこいと言うのが、依頼の真相のようだ。
「そうかー。でも、ちょっと可愛いかもしれないっぴょん?」
 ちょっと残念そうなミク。
「意思疎通が図れないと、大変なのは、ミクだって知ってるだろ。僕は例のレンズの研究で手が離せないから、あとよろしく」
「わかったっぴょん☆」
 わざとそう言って、必要そうなデータを揃える彼女だった。

 で、その研究所周囲では。
「なぁ、最近、シロアリが増えてないか?」
「そう言えば‥‥。建築中の建物が、翌日粉になってたって話だしな」
 しかも、その粉になった現場に、何故かスライム型のキメラが居て、慌てて逃げてきたとか何とか。

『研究所でシロアリだか細菌だか、風邪と喘息と花粉症の原因っぽいもの作ってるバグアの皆さんを消毒してきてください』

 そんな依頼が、ラスホプのモニター画面に、地図と無線機、専用殺菌用具を人数分貸し出しますの表記と共に踊るのだった。

●参加者一覧

ミア・エルミナール(ga0741
20歳・♀・FT
ベーオウルフ(ga3640
25歳・♂・PN
ミカエル・ヴァティス(ga5305
23歳・♀・SN
レヴィア ストレイカー(ga5340
18歳・♀・JG
黒崎 美珠姫(ga7248
20歳・♀・EL
エイドリアン(ga7785
21歳・♀・FT
霧雨 夜々(ga7866
13歳・♀・ST
志羽・武流(ga8203
29歳・♂・DF

●リプレイ本文

 傭兵達は二手に分かれて行動することになった。A班はミカエル・ヴァティス(ga5305)、ミア・エルミナール(ga0741)、黒崎 美珠姫(ga7248)、志羽・武流(ga8203)の4名である。
「ひーふーみー‥‥。1階の入り口に、3匹固まってお食事中って所ね」
 覚醒し、隠密潜行で潜んだミカエルが見たものは、本来は草食獣の癖に、ライオンさんの如く生のお肉をばりばりと食している牛さんの姿だった。
「時間をかけると面倒なことになりそうだし、一気に突撃して叩き潰す!」
 まず、前衛を自認するミアが、ばしっと駆け出した。先手必勝とばかりに、メシ食ってた牛さんに、そのバトルアックスを振り下ろす。骨の砕けるような鈍い音と共に、牛の体の一部が転がった。痛みで暴れ、反撃の機会が一瞬遅れたその隙に、狙撃眼で有効射程を長くしたミカエルが、超望遠位置から、アサルトライフルを放つ。きゅイーーーんと風を切った弾丸は、牛の外皮に命中していた。
「ひょう、相変わらずやなぁ。ほんじゃ、こっちはこいつで援護といきますか」
 で、その隙間を縫うようにして、志羽がシュリケンブーメランを、ぶぅんっと力いっぱい投げつけた。空中でくるくると回ったそれは、あたりこそしなかったが、偽牛を後退させてくれる。ぱしりと受け取る彼。
「突撃、来ます!」
 反撃とばかりに、牛が立ち上がり、前足をかく。ややあって、突進してくるそれを、黒崎が月詠の刃でガシリと受け止める。ぎりぎりと角の周囲にあるフォースフィールドでもって、弾き飛ばされる黒崎。
「大丈夫?」
「平気、ですっ」
 ミカエルのところまで弾き飛ばされた彼女、すぐさま立ち上がる。体力そのものは、年相応の彼女。あちこちすりむいてしまったが、この程度なら、ロウ・ヒールをかけるまでもない。防御は、固めてある。
「これでもーもーさんは全部かしら」
 周囲を見回して、警戒した表情のまま、黒崎が言う。それぞれがそれぞれの得物で持って、それぞれの手段を行使した結果、ほどなくして、牛さんは切り身とミンチと撲殺死体になっていたのだった。

 A班がもーもーさんとバトっている頃、B班は打ち合わせどおり、左回りで2階へと上がりこんでいた。
「何とか入り込めたな」
 そう言って、周囲を見回すベーオウルフ(ga3640)。潜入時には目立つので、覚醒はしていない。
「バレてないかなぁ‥‥」
「コンクリが厚いから、気がついていないのかもしれないね」
 エイドリアン(ga7785)の心配をよそに、こんこんっと軽く壁を叩いてみせる霧雨 夜々(ga7866)。どうやら、その分厚い壁にさえぎられて、騒動が届かなくなっているようだ。意外と高い防音効果に、ベーオウルフは、これ幸いと、武装を刹那の爪に換えている。
「それにしても、気味の悪い場所ね」
 レヴィア ストレイカー(ga5340)がドアの小窓を指し示してそう言った。2階部分は、壁こそ厚いが、やはりあちこちに弾丸の痕や、よくわからない染み、壊れたガラス片等があって、まるで廃墟と化した病院のように見えた。
「1階に行ったA班の人が、温度調整室は2階だろうって」
 霧雨が、連絡を受けつつ、向かう方向を告げる。そうして、一行は油断なく警戒しながら、目的の部屋へと向かったのだが。
「いた」
 エイドリアンがぴたりと止まり、短くそう言う。刺し示した指先には、大きなアクリルガラスにさえぎられた研究室。そこに、頭のてっぺんからつま先まで白尽くめな御仁達が、研究作業に従事中。
「見た目は普通の人だよ?」
 食品関係の仕事をしている人そのままの姿に、霧雨が眉をひそめた。これじゃ、どれが被害者か洗脳された連中なのかわかりゃしない。
「‥‥こうしてみればわかる筈だ」
 そんな彼らに、ベーオウルフはそっと忍び寄ると、手にした刹那の爪で、ごしっと一撃を食らわせていた。
「悪いな。恨むなよ」
 昏倒する研究員に、短く言い置く彼。ただの研究所員なら、かなり重傷になってそうな気配もするが、そこは不可抗力と言う奴らしい。
「あらら、いっぱい出てきちゃったわね」
 さすがに、そこで襲撃すれば、いかにへっぽこな研究員でも気付こうってもんで、わたわたと集まってくる。そこを、レヴィアが足を撃ち抜き、行動不能にしていた。
 一方、エイドリアンはと言うと、手にしたバスタードソードを横向きに構え、ここは立ち入り禁止だと言わんばかりに、通せんぼしていた。そして、ちらりと後ろを振り返り、口元に笑顔を見せる。どうやら、押さえている間に先に行けと言いたいらしい。
「温度管理室はどこです?」
「あのでかい温度計を見る限り、銀扉の向こうだろ」
 霧雨に訊かれ、ベーオウルフは、奥にあった重々しい銀の扉を指し示した。霧雨から見ても、物々しい管理用の機械が付いており、『使用の際は申請する事』なんぞと書かれているあたり、間違いないだろう。
「了解。それじゃ、先にあの面々をどうにかしましょ」
 レヴィアがそう言って、エイドリアンのバスタードソードの影から、アサルトライフルを向けた。
「悪いけど、スナイパーが屋内戦闘が苦手と言う事は無いのよ!」
 足元へ、まるで引き下がらせるかのように放たれる弾丸。軽く跳ね返る弾丸だが、レヴィアも鉄骨の入っていなさそうな所を狙った為、壁にめり込むだけで止まる。
「傭兵か。アレ使え! その辺にあるはずだ!」
 きゅぴんぽきゅんと、軽く火花が散るような音を立てる床に、研究所員は浮き足立ってしまい、慌てて近くにあった小瓶を取る。ガードの姿勢を取るエイドリアン。
「させるかっ」
 その隙に、ベーオウルフが叩き落すように攻撃した。ごっきんと嫌な音がして、所員さんが痛みで気を失う。しかし、小ビンは床に落ち、盛大な音を立てて割れてしまった。
「げふっ。こ、これがうわさのだっぴょん菌だっぴょん」
 効果は絶大だった。まともに被ったベーオウルフの口調が、いきなり変わる。見た目は全く変わらないので、正直、キャラじゃない。
「態勢建て直しましょうか?」
「このまま乱入するっぴょん‥‥」
 いや、被害者はベーオウルフだけではなかった。レヴィアに訊かれたエイドリアンも、同じ様な口調に変わっている。
「エイドリアンさんまで‥‥」
「まぁ、相手も被害を被ってるみたいだし。痛み分けかなぁ」
 後方に居たレヴィアと霧雨に被害はない。しかし、相手の所員も、ぴょんぴょん言いながら咳き込んでいる所を見ると、両方に広がってしまったようだ。
「えぇい、さっさと消毒しろだっぴょん」
 顔を引きつらせながら、そう言うベーオウルフ。幸い、けふけふ言っている所員達は、てめぇの身を守るのに精一杯で、こちらに攻撃を仕掛けてこようとはしない。
「後ろは私がいるわ。夜々様は、機械の方を!」
「任せて! こういった機械はこうやってこうやってこうすれば‥‥」
 念の為、背中をレヴィアに預けながら、ぐりぐりと機械を操作する霧雨。すると、即座にエアコンが起動して、室内の温度が一気に上がった。
「できましたーー☆ って、あれぇ? これで大丈夫だよね?」
「いや、完全に消毒するまでには時間がかかりそうだっぴょん」
 ふうっと額をぬぐう仕草をしながら、振り返る霧雨。しかし、ベーオウルフの口調も治っていない所を見ると、菌が死滅するまでには、もう少しかかりそうだ。意思疎通が出来ないわけではないので、効果はあったと言うところか。
「おのれ。こうなったら、やつを出すっぴょん!」
 慌てた所員達は、そう言うとくるりと踵を返し、別の重々しい扉を、2人掛りで開ける。と、中から出てきたのは、2抱えはありそうな巨大な黄色いスライムだった。おそらく、最初の報告書に上がってきた奴だろう。
「あれが親玉っぽいっぴょん」
「倒すっぴょん」
 ベーオウルフとエイドリアンが、それぞれの武器をスライムへと向ける。ただし、相変わらずぴょんぴょん言いながら。
「緊迫感、なくなっちゃったのは気のせいかしら‥‥」
「と、とりあえず、何とかしようよ」
 多少気力の落ちたレヴィア嬢に、霧雨はそう言って、錬成弱体をかけるのだった。

 んで、その報告は、霧雨から志羽を通じて、A班に伝わっていた。
「どうやら温度管理室にB班が突入したみたいやで」
 そう話す志羽。通りで部屋の温度が上がっているわけや、と。
「じゃあこっちも突入〜!」
 ミアがこころなしか嬉しそうに、扉へアックスを振り下ろす。盛大にごばぁんっと砕け散る扉。びっくりして固まっている研究所員に、彼女はバトルアックスの頭を突きつけ、力強く言い渡す。
「保健所の監察に参りました! 違反なんでLHまでご同行願いまーすっ!」
 その一言で我に返ったのか、警戒するように詰め寄る所員達。だがミアは、そんな彼らに不敵に微笑むと、バトルアックスを振り上げた。
「何のためにこんなウイルス仕込んだかは知りたくもないけど、迷惑だから潰させてもらうよ」
 がぁんっと盛大な音がして、実験器具の乗った机が砕け散った。
「ああもう、片付け方が違いますよ。これは、こうしてぶしゅーっと掃除機を‥‥誰ですか、こんな所に白衣なんか置きっぱなしにした人は〜」
 黒崎が、綺麗に掃除されちゃった机に、専用殺菌道具で、薬剤を振り掛ける。真っ白になったそこの持ち主が「すんません。片付けて置きますっぴょん」と答えたあたり、どうやら、研究者達も感染してしまっているようだ。志羽が「けったいやなぁ」と、頭を抱えていた。
「よーし、汚○は消毒だ〜!」
 そんな感染先に、同じ様に専用殺菌用具へと持ち替えるミオ。それを、洗脳済みらしき研究所員へ向けて発射する。
「恨むならバグアを恨んでね!」
 ぶしゅううううっと盛大に薬剤が吹き上がり、研究所員さんは、あっさりと気絶する。それを、ミクから借りてきたロープでぐるぐると縛り上げてきた。
「ただでさえ大阪弁にコンプレックスあんねん。それに『だっぴょん』がついたらおかしいやん!」
 志羽も、逃げようとした研究所員さんを、問答無用で消毒していた。こうして、隅から隅まで、まるで掃除機をかけるように、殺菌消毒をしていく傭兵さん達。
「これで全員かな」
 ミア、真っ白になった部屋と、ふんじばられた所員を見て、満足そうにそう言う。
「ひーふーみー‥‥。ちゃんと息はあります。消毒すればきっと大丈夫‥‥」
 黒崎が、目を回した所員さん達の様子を確かめている。顔も体も真っ白だが、特に大きな怪我をしているわけではないようだ。これだけ消毒しておけば、目を覚ましたときには、素に戻っている頃だろう。
 ところか、その瞬間だった。
「あーあー。僕の人形さん、みんなやっちゃって」
 それまでとは違う、少年の声。振り返ると、明らかに雰囲気の違う所員たちを数人連れて、黒髪の少年が、姿を見せていた。
「あれが所長クラスかな。ふんじばってお持ち帰りだね。出来れば」
 事情を問いただしたいミア、そう言って消毒用具を再び持ち替える。
「分かりました。敬意を表して、スキル併用でお相手しちゃいますっ」
 同じ様に、月詠から氷雨へと持ち替えた黒崎、先手必勝とばかりに地を蹴った。練力をを注ぎ込み、急所を狙う。だが、少年はそれをするりと受け止めてしまった。
「ボウヤ、お姉さんがせっかくお誘いかけてるんだから。据え膳食わないのは男の恥よ」
 おそらく、ボスクラスだろう。そう判断したミカエルが、軽口を叩きながら挑発していた。
「しょーがないなー。では、その据え膳とやらに答えてあげようかな」
 ぱちりと指を鳴らした少年。その直後、彼の後ろから現れたのは淡いグリーンがかったスライムだった。
「なるほど、そう言う事ですか。なら、全力でお相手しないといけませんね」
 そのスライムが少年の『武器』だと悟った黒崎は、敬意を表すように、覚醒してみせるのだった。

 その報告は、B班にも即座に報告された。ついでに、所長らしき少年が出てきた事も。
「スライム相手じゃ、物理攻撃の聞かない種だっぴょん。霧雨、俺の出る幕じゃない。任せたっぴょん」
 そう言って、後ろに下がるベーオウルフ。とにかく合流しないと! と言う事で、B班はイエロースライムと交戦しながら、A班のいる部屋へと乱入してくる。
「わかりました。夜々が相手しますっ」
 うにんっと背伸びをするようにして、霧雨がエネルギーガンをスライムへ向けた。
「わかりました。3カウントで狙撃するから、発砲と同時に攻撃開始をお願いします」
 レヴィアがそう言って、アサルトライフルをスライムへと向けた。同じ様に、ミカエルもアサルトライフルを浴びせかける。
「OK。この距離だと、精密さより、数を撃った方が早いわね。そーれっ!」
 2人の射撃により、スライムは前に出てこれない。
「通じ難いなら、威力を上げるまでです!」
 黒崎が、練力を自分の氷雨に注ぎ込んでいる。これで、幾分マシになったはずだ。
「下がってください。いっきますよぉ☆」
 前線でスライムの相手をしてくれている間に、エネルギーガンへの錬力注入を終えた霧雨が、そのエネルギーをスライムへと放つ。それは、スライムへ致命傷となるダメージを与えていた。
「皆、怪我してない?」
「してはいないが、なんだか寒気が‥‥してるっぴょん」
 レヴィアが、救急セットを片手に尋ねると、ベーオウルフがそう答えてくしゃみする。霧雨が、錬成治療を使ったのは、言うまでもない。