●リプレイ本文
作戦室に集まったのは、やはりキメラが宗教関係のせいか、巫女や神職の多い面々だ。
「まずは被害の拡大から防ぎましょう。准将、お手数ですが進行方向上の教会及びその周辺住民に、連絡をお願い出来ますか?」
そう言う玖堂 鷹秀(
ga5346)。なんでも、異常があれば連絡する事、教会に入る前に、様子を伺う事などを、申し入れたいらしい。後は、避難や必要物資だ。
「これ、要望があった物だよ」
そう言って、地図や無線機や車の鍵を、傭兵達に手渡すミク。シカゴ周辺と違い、今回彼らが赴く地点は、内陸の為、被害は大きくない。バグアに破壊されて道が変わっていると言う事もないだろう。と言うか、道が崩れて居る所は、バグアが襲撃した跡地。後はバリケードくらいはあるだろうが、そこは関係各位に聞けば、教えてくれるだろう。
「皆の者、大切なモノを忘れておるぞ」
と、そこへ朏 弁天丸(
ga5505)がある小さなものを差し出した。見ると、耳栓である。
「そうですね。ただの音波なら良いのですが‥‥一応対策はしておきましょう」
念の為、密閉型のイヤホンを付け、その上から耳あてを装備し、可能な限り音を遮断するタカだった。
出没の目撃情報は、あっという間に集まっていた。タカが、ミクを通じて、進行ルート上の教会に、必要条項を申し出た所、よほど腹に据えかねていたらしく、あっという間に場所が特定できてしまっていた。
それによると、教会を3件ほど抱えた川沿いの町に、武者神父達は向かっているらしい。それを聞いた傭兵達は、依頼を受けたメンバーを3班に分け、それぞれの教会へ向かう事にした。
A班は、那智・武流(
ga5350)と大曽根櫻(
ga0005)だ。2人とも袴姿と言う、ヨーロッパでは非常に目立つ格好ながら、2人が目撃された教会に向かった所、いきなり悲鳴が上がる。慌ててそちらへと向かうと。そこに居たのは、一見して緑の森で練習中の聖歌隊なキメラさん達。
「まずはあれから倒さなければならないようですわね〜。ああでも、耳栓をしてたら、意思疎通が図れませんわ〜」
櫻が困った表情で、聖歌隊の方を指し示した。同じ方を見た那智、周囲でランチを食していた一般ピーが、唖然としているのを見て、こう叫んだ。
「後回しだ。まずは回りの連中を避難させっぞ!」
声は小さいが、何とか意思は伝わったらしい。反対側へ向かう櫻を見送りつつ、那智は手っ取り早く、こう叫んだ。
「珍妙な神父キメラと仲間達が来るから早く逃げろ! おまえら、異端者扱いされちまった挙句食われるぞ!」
耳をふさいでいるせいで倍増した声でもって、人々は浮き足だって、軽くパニックを起こしている。
「避難はこっちです!」
そんな人々を、色的に目立つ櫻が、離れた場所まで引っ張って行く。その間に、那智はハンディカラオケを袂から取り出し、盛大に声を張り上げる。
「先手必勝! そっちが聖歌なら、こっちは祝詞だ!」
低音が周囲に響き渡る。マイクで増幅されたそれに、聖歌隊キメラ達が、その真っ赤な目を釣り上げる。
「キーーーーーーー」
大音響と共に、向かってくる衝撃波。効果範囲内に居た櫻と那智、盛大に吹き飛ばされていた。
「こ、これ、非生命体は破壊しない、特殊なブレスですわ!」
「何ぃ! それじゃ、耳栓通用しないじゃないか!」
てっきり超音波だと思っていた那智、耳栓をかなぐり捨てる。いや、一般人にとっては、あまり変わらないので、そう言う報告になったのだろう。
「し、仕方ありませんわ。他の方が駆けつけるまで、町に入らせないようにしましょう」
無線機のスイッチを入れながら、覚醒する櫻。まずは時間稼ぎだ。
「おうっ。ディフレクト・ウォール!」
那智も覚醒し、自身の抵抗力を上げる。その間に、櫻が蛍火を自身が習い覚えた剣道の構えで持って、キメラに向けた。
「あの格好は巫女を普段している私にとって見れば、邪道以外の何者でもありませんね‥‥許せません!」
蛍火に、紅蓮衝撃の力が宿る。体全体を、赤い炎の力が覆うと共に、彼女は地面を蹴った。その迷いのない太刀筋に、目の前に居たシスタータイプの1匹が、切り捨てられた。
「よし、櫻さん。前衛は任した。歌が効かないなら、実力行使に出るまで!」
イグニートにレイ・バックルをコーティングする那智。経験をつんでいる彼女ほどの攻撃力はないが、その分リーチが長い為、当たり難い位置から攻撃することが出来た。
「あああっ、シスターが逃げましたわ! まちなさぁい!」
シスターの合図に、撤収する歌キメラ。向かうのは、違う教会がある方向だ。
「あいつを追いかければ、神父ンとこまで案内してくれる筈! 追いかけるぞ!」
武器を持ったまま、走り出す那智。なんだが順番が逆だったが、武者神父に案内してもらうまで、走り続けようとする彼だった。
その頃、B班のタカ、ダニエル・A・スミス(
ga6406)、銀野 らせん(
ga6811)は、複数ある教会の一つへと赴いていた。
「私には影響はありませんが‥‥人の拠り所を攻撃する‥‥ある意味では的確ですね‥‥」
人々を避難させながら、そう言うタカ。人々は、素直に近くの体育館へと避難してくれていたが、そこかしこから、『なんて罰当たりなキメラなんだ』とか『東洋も西洋も教会は神聖なのに、ねぇ』と、口々にバグアへの不満を漏らしていたから。
「ねぇ、A班から通信よ!」
そこへ、櫻と那智から、交戦中の連絡が入る。急いで合流しようと、教会の扉を開けたその時だった。
「きしゃーーー!」
いらっしゃいませー♪ と言わんばかりに、扉の向こうでポーズまで決めている歌キメラくん。
「キメラがスポットライト意識してどーーーする!」
思わず文句をつけ返すように、ショットガンを至近距離からぶっ放すダニエル。一匹が砕かれた。しかし、歌キメラはそればかりではない。まるで、召集がかかったかのように、集まってくる。
「って言うか、キメラって一塊じゃないのか!」
「あたしに聞かないでよ!」
他の班に連絡していたらせんに、そう尋ねるが、彼女とて知りようがない。そうしている内に、キメラは綺麗にラインを引いてしまう。
「来るぞ!」
かぱりと口が開いて、大音響のボイスが発生する。耳栓をつけている為、それほど聞こえはしないが、やや遅れるようにして、発射されたのは、とても超音波とは思えないほどの衝撃波。
「せ、盛大な超音波だな」
「ブレスって言うんですよ。アレ」
吹っ飛ばされたダニエル、顔を引きつらせながらそう言うと、タカがやっぱり予想外と言った表情で、その正体を分析してくれる。
「ああもう、腹が立つ! こんな歌よりあたしの歌の方が数百万倍皆が喜ぶよ☆ ダニエルさん、引きつけ役お願いね!」
ぷーっと頬を膨らませるらせん、上着のフライトジャケットを脱ぎ捨てる。中から、淡いブルーを基調としたワンピースが現れ、まるでステージ衣装だ。
「おう。ドリルシンガーのステージ、とっくりと拝みやがれ!」
注意をひきつける為か、ダニエル、歌キメラの前へと進み出る。そのまま、ショットガンを撃ち、攻撃の矛先を自分へと向けた。
「銀野さん、こっちのマイクを使ってください。これで、威力が倍増する筈です」
「ありがとう。それじゃ、いっくよぉーーー」
改造したマイクを投げて渡すタカ。ぱしんっとそれを受け取ったらせんは、軽く息を吸い込むと、自分の持ち歌を、盛大に熱唱する。
「きーーー!」
声が聞こえないのか、いらいらした様子の歌キメラ。そこへらせんは、ここぞとばかりに瞬速縮地で距離を詰めると、獣突でもって、蹴り飛ばす。そこへ、今度はショットガンから、ナックルへと持ち替えたダニエルが、鉄拳制裁とばかりに、拳を振り下ろしていた。
「遠慮なんかしなくていいのよっ」
「気にすんな。弾を温存しときたいだけだっ」
気を使うように、せなかでらせんがそう言う。が、ダニエルは後に控えているであろう武者神父対応だそうで。
「あたしのCDでも聴いて出直してきな〜」
たまらず、教会を逃げ出す歌キメラ達にそんな事を言いながらも、らせんは、他の2人と共に、彼らを待ち伏せる為、先回りするのだった。
で、そのターゲットになったC班はと言うと。
「どうやら、聖歌隊はこっちへ向かってくるようじゃ。わらわ達がアタリを引き当てたようじゃの〜」
「貧乏くじじゃないといいんですがねー」
連絡のあった教会へ先回りする為、近道を急いでいた。弁天丸の台詞に、そう答えるクロード(
ga0179)。限りなく等数の低さを感じつつ、最後の教会へと向かうと。
「きぃーーーーー!」
取り囲むように集まってくる歌キメラ。見れば、シスタータイプも混ざっている。おそらく、その内に武者神父も現れる事だろう。
「他の者はどうしたのじゃ?」
「続々こちらに向かっているようだ」
弁天丸が、連絡を取っていた鉄 迅(
ga6843)に尋ねると、A班、B班の行った教会にも、歌キメラとシスターが現れており、それらの相手をしながら、今いる教会へ向かっているそうだ。
「その間になんとかしなきゃいけないようだな。この宗教団体‥‥いや、仮装行列を」
そう言って、照明銃を曇天へ撃ち上げる鉄。それが、どうやらキメラ達にとっては、合図に思えたらしく、いっせいにこちらへと向かってきた。
「まったく、和洋折衷? ‥‥勘違いにも程が在る。‥‥基督教徒にとっては‥‥怨敵かもしれませんね」
神仏系のクロードにとっては、あまり感じ入る所はないようだが、それでも、気持ちだけは良く分かる。そう言いながら、月詠へと手をかけた。が、そこへ鉄が首を横に振る。
「新興宗教なら、新興宗教で対抗してやる。○×□△↑↓→←ッ!」
盛大に声を張り上げる彼。なんとか新手の宗教と勘違いさせようとしたようだが、元々ブレスので、あまり意味がないようだ。
「正直、音痴キメラには、助けてネコ型ロボットってとこですがね」
ボイスを小さくする魔法の機械を作ってくれる青いネコは、今頃こちらに向かっているはずだ。その間は、彼と弁天丸で、何とか数を減らさなければなるまい。
「最初に倒すべきなのには、代わりあるまい。広範囲無差別攻撃で、被害が出てたまるか」
その弁天丸、べしぃっと目の前の歌キメラに、SMGをぶっ放す彼女。弾があちこちにばら撒かれているが、さほど気にしてはいないようだ。
「本当は一対一を覚悟してたんですが、ね‥‥」
しかし、そこへ3匹ほどが囲い込み、次々にブレスをお見舞いしてくる。
「一度剣を抜いたなら‥‥何事にも動じず‥‥」
しかし、基本に乗っ取り、冷静に脚に全身の力を放り込むクロード。ばねのように跳ね上がったその体から、振り下ろされる刀は、目の前に居た歌キメラの1人を、一刀のもとに切り捨てていた。
「人的被害が少ないと言うのなら、それに越した事はないしの!」
同じ様にまったく気にせず、弁天丸はそう言うと、即座に覚醒してみせる。全身が、後光に包まれたそこへ、歌キメラがまるで道を譲るように両側へ退いた。
「ムシャーーーシャシャシャシャシャ!」
ボスである武者神父が姿を見せる。
「しかし、でっけぇー!」
その堂々たる姿に、A班の那智、感心したようにそう言ってしまった。呑気に言ってる場合じゃないのはわかっているのだが、体長5m近いと、ぼやきたくもなるもので。
「みんな、無事か! オラ、こっち向きやがれ!」
駆けつけたB班のダニエルが、そう言って、温存していた弾を、武者神父へと浴びせかける。と、歌キメラが、そんな彼らを妨害するように、ブレスを浴びせかける。相変わらず歌いながらのそれに、全速力で駆けつける為、覚醒していたタカがキレた。
「チッ‥‥! キーキーキーキー‥‥ウッセぇから黙ってろボケがぁ!!」
錬成強化されたエネルギーガンが、びしゅびしゅと命中して行く。その効果で、歌キメラは次々沈黙していったわけだが、武者キメラ、そんなモン効かぬわぁー! と言わんばかりに、まだ健在。
「‥‥なんつーか、流石にここまで勘違いしてると、グレイトだな」
坊さんならまだわかるが、なんでサムライなのかと、小一時間くらい問いただしたいダニエル。きっと、作った奴がキャスター准将みたいなマニアだったんだろう。よくある勘違いした外人と言う奴だ。
「魔女‥‥いや、今日は神父狩りだッ!」
覚醒。全身に張り巡らされた練力がラインとなって浮かび上がる。こうして、それぞれパワーアップした彼らは、一気に殲滅せんと、武者キメラに攻撃を集中させる。既に、歌キメラは殆ど居なくなっていたが、タカは、念には念を‥‥と、エネルギーガンで援護していく。
「兵法『窮修流』丸目蔵人、参る!」
同じ様に覚醒したクロードもまた、武者神父へと切りかかる。
「ジャイアニズム反対じゃ!」
弁天丸がその豊かな胸をゆらしながら、サブマシンガンを武者神父へと撃ちこんでいる。しかし、相手も大きい分、体力はあるようで、その装甲に阻まれていた。
「刃圏に入りし悉くを‥‥斬る!」
その間に、温存していた練力を総動員し、武者キメラ正面へと斬り結ぶクロード。こうして、スキルをフル動員した結果、武者神父はようやく天へと召されるのだった。