●リプレイ本文
先行偵察していたアルヴァイム(
ga5051)とハルトマン(
ga6603)が、トラックのある場所まで戻ると、偽装工作の真っ最中だった。
「こんだけ汚しときゃ、バレねぇだろ!」
自信たっぷりに、トラックを見せるアンドレアス・ラーセン(
ga6523)。さすがに、研究所にあるような鉄くずは、重量の関係上間に合わなかったが、壊れた自転車や、芯の入ったコンクリの瓦礫、折れ曲がった材木や鉄パイプやワイヤー等が、乱雑に積み上げられ、いかにもと言った雰囲気だ。
「そっちはどうだったん?」
その積み込みを手伝っていた、作業服姿のクレイフェル(
ga0435)に尋ねられ、街の様子を報告するアルヴァイム。町全体がぴりぴりしており、一部プロが紛れ込んでいるのか、隠密潜行を使わざるを得ない状況になっているそうだ。
「カラスが入り込んだ事で、警戒レベルが引き上げられているかと。誰かが通報したのかもしれません」
ハルトマンも、人々の様子をそう告げた。そこで、傭兵達は3班に分かれて行動する事にした。とは言え、漸は単独で行動しているようだし、アンドレアスは、トラックで待機だ。
「R−01も、人目に付かない場所に隠してある可能性が高いか‥‥。その近くに奴がいるかもしれないな‥‥」
A班に割り振られた煉条トヲイ(
ga0236)、アンドレアスがトラックの留守番で抜ける為、人手の足りないところにと申し出たルシフェル・ヴァティス(
ga5140)と共に、カラスが乗っていたはずのKVから、探しに行くことにした。
「このあたりにも人がいるか‥‥。武器は隠しといてよかったな」
さすがに、KVを街中に停めてあるわけはないだろう。そう判断したトヲイが目をつけたのは、人気のない公園。日も高く、明るいはずのそこで、遊具の振りをして、木立の中に隠されているKV。
「巧妙にカモフラージュされてますね‥‥」
一見すると、シカゴ戦の際に放棄されたように見える。少しこすって見ると、すぐに剥がれ落ちる所から、カラスも急ごしらえで、この偽装を施したのだろう。それほど、時間はたっていないように思えた。
「近くにいるかもしれないな‥‥。何か残っていないか?」
「コクピットの辺りには何も‥‥。この段階では、無事だったようですね」
トヲイが屈みこみ、足跡を探す。だが、KVにも風防にも、血は付いておらず、むしろ綺麗に片付けられている。どうやら、この時点ではまだ無事だったようだ。
だが、その時だった。
「おい、何してる」
声をかけられた、一瞬どきりとするトヲイ。怪しまれないよう、ゆっくりと振り返れば、そこには胸から認識票を下げた御仁がいた。
「い、いえ。私達はただの廃品業者です。大きな鉄の塊があると聞いて」
「だったら、証明書持ってるはずだろ。見せてみろよ」
ルシフェルが、そう言い募ると、住人はそう言った。どうやら、胸にある名札めいた認識票のことらしい。相手は見たところ、人型キメラではなさそうだ。だが、その拳を振り上げる前に、彼らと住民達の間へ、カードが突き刺さる、直後周囲へ派手な笑い声が響き渡った。どこかの怪盗コミックのような登場シーンに、住民達の注意がそちらへと逸れる。
「汝らには、聞いてもらいたい事がある。納得行かないのなら、ついてこい!」
それは間違いなく漸 王零(
ga2930)の声だった。仮面のせいで、瞳の文様はよくわからないが、普段黒髪のはずの彼が、銀髪になっている所を見ると、既に覚醒しているのだろう。
「よし、今の内に寝ていてもらおう」
その間に、トヲイは口をあんぐりと開けっ放しにしていた御仁に当身を食らわせ、近くの木に持たれかけさせた。そして、KVにあった毛布をかける。
「ちょっと待ってください。毛布に何か付いてます」
と、広げた毛布から、何かが零れ落ちた。ルシフェルが拾い上げると、どこから手に入れたのか、大きな下水の配置図である。施設のリストと共に残されたそれが、途中で止まっているところを見ると、続きを行う所で、トラブルにあったと見ていいだろう。そう判断したトヲイは、見つけた手がかりを、待ち合わせ場所へと持って行くのだった。
その頃、C班のクレイフェルとアルヴァイムは、住民のいない場所を選ぶようにして、街中を捜索していた。
「おかしいな‥‥」
隠密潜行を持つアルヴァイムが、先行して合図を送る形だ。だが、そんな彼が、不思議に思うことがあった。
「どないしたねん」
「いや、行動に統率が取れすぎているんです。まさか、隠密潜行を使わないと逃げられないような状況を、市民が作り出せるとは思えないし‥‥」
クレイフェルの問いに、首をかしげるアルヴァイム。そう、もしそれが並みの人間ならば、簡単にスキルを使う事もないだろう。だが今、彼は練力を消費している。それは、見回りを続ける人々が、普通の範疇に入っていない事を意味していた。
「中には兵士もおるんやないか?」
世の中には、 ユダや強化人間もいる。ここにいる人間達の全てがそうとは限らないが、中にはそれらしき御仁もいるんじゃないかと、クレイフェルは指摘。
「それだったら、もっと目立つはずですよ」
だが、アルヴァイムにしてみれば、それならそれで、目つきや動きから判明するはず。今もまた、通り過ぎた男性は、どうみてもガソリンスタンド勤務のにーさんである。しかも、タイミングがずれたせいか、見付かってしまう。
「あ、ああ。驚かせてすまへんな。ちょっと聞きたいんやけど、この辺りで、水の流れてそうな工事はどこを通せばええのん?」
ただし、口先三寸なら、クレイフェルも負けてはいない。アルヴァイムが煙幕に手をかけたのを制しながら、彼はまるで愛想の良い業者っぽく、彼にそう尋ねた。どうやら、背中に拾っていた鉄パイプが役に立ったらしく、疑われなかったようだ。そこへB班が合流してくる。
「小瓶が発見されたところから、流れを逆流すれば、上流のカラスにたどり着く‥‥よね」
先行して進むのは、黒崎 美珠姫(
ga7248)。とりあえず、B班とC班で探す事にして、人のいそうな管理棟を避け、小ビンの発見された近くにあるマンホールから入ることにした。
「暗くてわかりにくいよー。足跡とかあれば良いんだけど‥‥」
えぐえぐと涙声になりながら、大きな通路の床を、懐中電灯で照らす黒崎。点検用の通路だが、ここ数年は放置されているらしく、ぬめぬめと湿っている。オマケに、すごい匂いだ。
「‥‥こないなとこにはいらなさそうやんな、奴の美意識的に」
顔をしかめたままのクレイフェル。しばらく進むと、今度は反対側の通路から、懐中電灯の光。
「心配するな。俺だ」
警戒した彼女達に顔を出したのは、A班のトヲイとルシフェルだ。彼らの持ってきた手がかりにより、現在の正確な位置が分かる。
「ナンバーがこれだから‥‥。多分、この辺りの下だ」
その途切れたリストから、通路を遡る傭兵達。トヲイの指示に、黒崎は床を懐中電灯で照らして見た。そこには、足跡が半分流された状態で残っており、そこから少し離れた位置に、赤黒いものがこびりついていた。そして、足跡に沿うように、丸い傷が床を穿っている。たどると、それは一つの道しるべのように、奥へと続いていた。
「きっと、カラスさんがいるんですよ」
そう確信したハルトマン、走り出した。
「危ないわよ。ほら、転んだじゃない〜」
「ぐすっ、ぐすっ、痛いです〜」
普段、淡々と喋っている彼女だが、こう言ったときには年相応に戻るらしく、涙目になっている。助け起こされ、今度は慎重にしばらく歩いた先‥‥、ちょうどソファのようになった場所で、人の気配。懐中電灯を向けると、警戒したように、槍を握り締めるカラス。
「心配しないで。助けに来たわ」
「‥‥そっか。そんなに時間が‥‥悪いんだけど‥‥、女の子は下げといてくれないかな‥‥。こんな‥‥みっともない姿、見せたく‥‥ない‥‥」
が、彼らが傭兵と分かると、彼はまぶしそうに目を細めた。傷そのものは、半ばふさがっているが、かと言って無傷でもない。応急セットを持ち出す黒崎は、駄々を捏ねるカラスの意向なんぞ無視して、さくさく処置を済ませてしまう。
「さっさと撤収しますよ。上の連中に発見されたら、元も子もないですから」
アルヴァイムが、外を警戒しながら、脱出を促す。と、そこへクレイフェルが上を指してこう言った。
「それなら、大丈夫や。ほら、聞こえてくるやろ」
そこからは、多数の住民に追い掛け回されているらしい漸の声が聞こえていた。
「それで何が変わる? ここで我らを止めるという事は、汝らは人として生きる事を捨てるという事なのだぞ」
平時ならば、それで充分かもしれないが、この地域は普通ではない。人としてでなくても良いから、生き延びる事を選んだ者達の集う町。人々からは、文句しか出ない。
「今の汝らは奴らからすればあそこでの実験の為に飼われている鼠に過ぎん。実験の間は他の誰かが死ぬだけで済むが、実験が終われば用済みだ。汝ら全て殺されて終わりだろうな」
それでも、説得を続ける漸に、動揺だけは広がった。だが。その時である。
「もうその辺にしたらどうですかね」
群衆の中から歩み出る、1人の少年。
「人に対する熱い魂と言う奴ですか? だったら、言っても無駄ですよ」
誰かの平和のために戦うなんて、一般人には出来はしない。嘘だと思うのなら、今すぐ人前で演説して見ると良い。その口ぶりから、直感的に、こいつがボスだと悟る漸。
「彼を捉えれば、一年の延命は保障しましょう。食事が欲しければ、頑張ってくださいね」
その証拠に、漸の怒気にも、少年は顔色一つ変えず、そう命じている。改めて、銃を向ける人々。
「あえて聞こう。なぜその武器を奴らに向けん。よもや、我らは手を出さず奴らは手を出すからなどと言う下らぬ理由ではあるまいな?」
「俺達はお前さん達みたいな魔法は持たない。たとえ抵抗したとしても殺されるのは同じだ。だったら、1日でも長く生き延びた方がマシってもんだよ」
変わっても、あまり意味のない環境。人は、簡単に革命を起こせるほど、強くない。人としての未来より、全ては、日々の糧のため。
「今日を生き延びる為にやってんだ。お前らみたいにのほほんとメシが待てるわけじゃねぇ!」
彼らは、傭兵達のように、能力があるわけではない。たとえ、革命を起こしても、食料に事欠けば、その明日は同じ結末になる。
「なるほど。やはり、トヲイが言ったとおりか。ならば、遠慮はすまい。覚悟しろよ」
動じない様子で、漸は蛍火を振るった。攻撃対象は、人々の足元。インパクト時の光が、周囲を白く染め、動揺を広げさせる。
「動揺はしているか‥‥。ならば‥‥、しっかりと考えておけよ!」
解けた囲みに、彼はそういい置いて。その場から脱出するのだった。
救出したカラスから聞かされたのは、驚くべき事実だった。記号とやっている事は、なんとなく予想がつくものの、具体的に何をやっているのかわからない傭兵達に、カラスは浮かべていた笑みを消し、こう言った。
「アレは‥‥とんでもレーザーの部品。バグアが作る様々な兵器への転用が可能なクリスタルさ」
シカゴの大規模作戦の折、発見され、解体された女神砲。発見されたクリスタル‥‥通称レンズは、それをパワーアップさせる為に作っていたらしい。既に、研磨と錬成は終わり、今は住民達を実験動物代わりに、威力の調整をしているんだろうと、カラスは推測していた。
それを知り、移動を開始した直後、彼らの頭上を、まるで見せしめのように籠へ収めた女性と子供が、運ばれていく。追いかける傭兵達。
「あんたっ! さっきのっ!」
漸を取り囲んだ1人が、そこにいた。彼は、血相を変えて漸に駆け寄ると、その身を揺さぶるようにして、こう訴える。
「バグアの連中、あそこでデカい武器の実験台に、女と子供は生産の役に立たないからって、連れてっちまった! 取り戻してくれ! 頼む!」
漸の耳に、少年の高笑いが蘇る。まるで、世界大戦時の収容所のようなやり方だった。
「我は約束は守る。必ず連れ戻すから、待っていろ」
そして、依頼男性をアンドレアスのトラックに乗せると、教えられた裏道へとひた走る。程なくして、ちょうど裏手へと出る事が出来た。そこは南米の神殿を模したような台だ。片方には、レンズが取り付けられ、もう片方はいくつもの金具が取り付けられている。その金具にはさまれた場所には、くっきりと人型の焼け焦げた後がこびりついていた。そこへ、籠に載せられた2人が、キメラに小突かれながら、登場する。
「レンズは頼みましたよ」
「こいつをかけていけ。役に立つ」
ハルトマンが、アンドレアスの援護を受けながら、その生贄台に向けて、ハンドガンを放つ。
「さぁて、それじゃ、まずはあの2人をバグアから隠しますかねっ」
クレイフェルが、ここぞとばかりに、煙幕を垂れ流した。その間に、黒崎とハルトマンが、2人を掻っ攫っていた。
「結構重いな。ふんぬっ」
レンズは、彼らが注意を引いている格好となった隙に、トヲイとルシフェル、それにアルヴァイムが、三人がかりで運び出す。覚醒して、ようやく持ち運べるかと行った所だが、文句は言えない。「振り落とされねぇように、しっかり掴まってろよ!」
放り込むと同時に、トラックを発進させるアンドレアス。こうして、傭兵達はレンズを手に、市街を抜けるのだった。