●リプレイ本文
隊は2組に分ける事になった。A班のメンバーは、藤田あやこ(
ga0204)、瓜生 巴(
ga5119)、阿野次 のもじ(
ga5480)、五十嵐 薙(
ga0322)である。このうち、あやこはKVの担当だ。物資と記録用紙とのもじの弁当は、それぞれのバイクに山積みされ、まるでちょっとした旅行者である。
「まずは高速道路からですね‥‥」
緊急時に使う照明銃を預かり、そう言ってバイクのエンジンをかける巴。ふと、そのハンドルに手を置き、こう呟く。
「覚醒は、しない方が良いかな」
「そんなぁ、そうしないと、こんな大きなの、引き起こせないよ‥‥」
不安そうに、そう口にする薙。体が小さいので、バイクに乗っていると言うよりは、しがみついている感じになってしまう。そもそも、覚醒しないと転んでしまうようだ。
「見付かったら大変ですし。後で痛いですから」
対して巴は、バグアの施設や手先に見付かるまでは、覚醒しないことにしたらしい。慎重に運転しよう‥‥と、心に誓う薙。
「あの辺りが、平たくて駐留場所になりそうだぞー」
のもじが、ハイウェイぞいにある広場を示してそう言った。本来は、高速バス用の駐車場か、パーキングエリアみたいなモノだったのだろう。
「って、あそこキメラが巡回してます。きっと、なんかの施設ですよ」
が、その周囲には、見張りのように昆虫型のキメラが徘徊している。広い場所には、ワームがいくつか停泊し、警戒中らしき人型がうろうろしているのを見て、巴がそれをメモにとっている。
「あうあう。じゃあ次は発電所とかだなぁ」
のもじが、反対側へと向かう。過去のデータでは、変電所が近くにあった筈だ、と。
「かなり、警戒されてますね‥‥」
だが、その変電所にも敵影は多かった。おそらく、中身はバグアの技術で改造されているのだろう。そのバグアが使いやすく、かつ人の子には使いにくいように、道路は慣性を無視した作りになっている。
「ちっとも動けないや‥‥」
しょんぼりと肩を落とす薙。遮蔽物も多く、生活に必要なライフラインと呼ばれるものの殆どは、バグアが軍備を維持する方向に集約されている。そして、ところどころに、どう見ても人の技術では作れないドーム状の施設や、砲台などが設置されていた。
「まさかこんなにキメラがいるとは‥‥。この分だと、軍事施設も多そうですね‥‥」
中に何があるか知る由もないが、おそらく人間を捕獲し、UPCの面々を蹴落とす為のものだろう。
「変化のある場所だけを調べた方が良いと思います。上空のあやこさんは、どうなんでしょうか‥‥」
空を見上げ、昔の写真と今の写真での相違点に、チェックをつける薙。
「ワームの動きを警戒しているみたいだな」
そう答える巴。建物の影になっているそこからは、詳しい動きはわからないが、まるで岩龍がそうするように巡回しているところを見ると、やはり囮として利用しても良さそうだ。
「今は‥‥ワームに‥‥会いたく、ないです‥‥」
「自分達で調べるしかないか‥‥。完全に開けた場所には出ないようにしてくださいね」
バイクの音は目立つ。そんなバイクが、数台動いているのだ。ただでさえちょろついているのがばれている身分。危ない橋は渡らない方が無難と言うもの。
「これも駄目。襲われて崩壊。地盤は‥‥」
そう注意をしながら、地図にマークを記して行くのもじ。どうやら、道路はほぼ寸断されており、車では中々通行出来ないようになっているようだ。目立つKVか、さもなければ人の足で歩くしかない。
「早く、この空‥‥を、取り戻したい‥‥です」
それでも薙は、色だけは鮮やかな空にレンズを向け、そう呟くのだった。
もう一方のB班‥‥煉条トヲイ(
ga0236)、葵 コハル(
ga3897)、諫早 清見(
ga4915)、ミカエル・ヴァティス(
ga5305)は、A班とは対照的に、既に覚醒して、行動を開始していた。
「お互い、ムリせずに頑張ろーねっ。あ、トヲイさんだ」
空に向かって、お手々を振るコハル。お気に入りの疾風号と再開できてご機嫌らしい。それに、トヲイや薙とも、同じ部隊にいる都合上、仲良くなって置きたいようだ。
「うーん、やっぱり見にくいなぁ」
が、そのライトの明滅は、とても見づらい。一応、モールスと回数で持って、キメラやワームの発見を知らせたり、バイクの動きで連絡をつける事にはなっているが、よほど注意していないと辛そうだ。まぁ、KVの位置が高層ビルより上なので、仕方ないのだが。
「それじゃ、航空写真と昔の写真で、こっちが頑張るしかないね」
「ハイウェイから始めるのよね。がんばろっと」
こちらも、高速道路から始めることにしたようだ。動きを悟られないよう、規則的にならず、あちこちをふらふらする清見。まるで誰かを探しているかのように、地下鉄の出入り口や、人の出入りが激しそうな場所をめぐって行く。
「あんまり余計なコトしてなきゃ良いけどね〜‥‥」
ちょっぴり不安になるコハル。航空地図と昔の写真を照らし合わせてみたが、大きな道路は軒並み寸断されていた。
「やっぱりこの辺りは、電波が悪いわね‥‥。人も居ないし」
一方で、周囲の状況を見ながら、そう答えるミカエル。
「支配下になってるみたいですから‥‥。見付かったら射殺ですよ」
この辺りは、比較的バグアの支配力が強いのだろう。入り口は大きいが、人の数はまばら。程なく、支配が完了するに違いない。
「うわぁお、厳しいわね」
道は進めない。見付かればただではすまない。そして、こっそり進行しようにも、道はバリケードだらけ。空からKVで進入するか、人の姿で進むしかなさそうだ。
「こんな感じか‥‥」
「道、細くなってるわね。ワームには関係ないからかしら‥‥」
車では通れない道ばかりだ。その多くは、壊された瓦礫で持って、ふさがれている。その為に、ビルや建物を壊す事も、バグアは全く疎んではいなかった。ハイウェイもところどころ爆撃を食らったまま放置されている。キメラやワームには、通行に支障がないからだろう。
「道だけじゃなくて、巣も作ってますよ」
清見が、ワームが向かった町外れの開けた場所を指し示す。そこには、まるで営巣するかのように、何匹かのキメラとワームが固まっていた。
「あれ、空港の方よね‥‥。あまり近づきたくないなぁ」
旧地図を見ていたミカエルがそう答える。大戦前までは、小型機用の空港として使われていたようだ。バグア達は、シカゴに移動しやすいそこを、拠点として使用しているらしい。
「近くの高台から、双眼鏡で見てみればいいんじゃないかしら。方位磁石くらい、通じるでしょ」
ミカエルが持っていた品を差し出し、高台を示す。ちょっとした丘になっているそこからなら、空港の様子も、もう少し詳しく探れそうだった。
その頃、空中のKVチームはと言うと。
「このあたりですわねー‥‥」
「むこうは、地上班に任せても良さそうだな。俺達がいると目立ちそうだ」
高速道路の真上で、巡回するようにぐるぐると円を書いていた。眼下を見下ろせば、バイクが数台、建物の影に逃げ込んだのを見て取れる。どうやら、その他の事を調べた方が良さそうだ。
「街の明かりは、しょんぼりですよ。交通の流れもへったくれも、殆どないし」
あやこが、暮れ掛けた町を見てそう言う。これがもし他のまっとうな都市ならば、そろそろ家路に着く人々と、夜になる前に点る明かりが見えそうだが、ここはそう言ったものは余り見られなかった。
「空港なら、まだ人がいるかもしれないな。見て来るか‥‥」
トヲイが、機体を町外れへと向ける。今はどうなっているか分からないが、以前の地図では、確か小型機用の空港があったはずだ。
「そうですね。これだけキメラがいると、地上からでは近づけないでしょうし」
その前には、キメラやワームがうろうろしている。遠景では、よくわからないだろう。そう思い、あやこは同じ様に進路を変えた。
「‥‥敵の群れと遭遇しない事を祈っててくれ」
そう呟くトヲイ。機体の大破は避けたいようだ。
「けっこう密集してますね‥‥。行けないところ多い‥‥」
それは、あやこも同じ考えだった。近づいては見たものの、ワームが巡回しており、これ以上近づいたら、警戒警報に引っかかりそうだ。見れば、まるで巣を作るように、キメラも密集している。
「出来るだけ近づかない方が良いだろうな。とにかく、写真だけでも撮って帰るのが良さそうだ」
それでも、地上からよりは鮮明な画像が、KV搭載のカメラに映し出される。多少ノイズが入っているが、ラスホプのサイエンティスト達なら、何とかしてくれるだろう。
「終わったら一度戻った方が良さそうね」
その作業を終えた頃、燃料系は残り1〜2割となっていた。このままでは、非常時に耐え切れない。そう判断したあやこ、そう提案する。
「別行動は、避けた方が良いしな」
単体でうろうろしていたら、ワームのえさになってしまう。それを身を持って知っているトヲイは、その提案に、素直に従うのだった。
さて、そうとは知らないA班は、近くの丘から、測量を行っていた。
「しかし、カメラも撮影機もろくに役に立たないのは、何とかしなければな」
とは言え、資材はそれほどない。巴が、考え込む姿勢を見せる。
「ふふふ。安心しろ、そう言う時はこれだ」
と、のもじがごげんっと、まるで教室で使うような大きな定規と分度器を取り出す。そして、方眼用紙を片手に、まるで漫画家さんがそうするように、ペンを握り締めると、背景に大きな波だか爆破音が聞こえてきそうな態度で、こう胸をそらした。
「何を隠そう――私は精巧な模型作りの達人だ! 太陽と分度器と歩幅さえあれば大統領だってぶん殴ってやる」
いや、大統領関係ないし。むしろ得意なのプラモだし。
「常駐タイプは空港と、それから種類は様々ってところか‥‥。知らない種類も多いな‥‥」
さっくり無視して、空港の様子をメモる巴。よく見るビートル型から、どこの童話に出てきた妖怪変化だって言うのまで、様々だ。
「って、こっち来たよ」
しょんぼりと肩を落とすのもじに、薙が空港の方を指差す。見れば、小さなネズミ型キメラをお供に、大きな昆虫型が、どかどかとこっちに向かってくる。
「面倒だ。行くぞ」
くるりと踵を返し、瞬速縮地でもって、バイクの元に戻るのもじ。そのまま、振り返りもせずに遁走だ。
「って、追いかけてきましたよ!」
薙も、慌ててその場から撤収するが、キメラもかなり早い。このままでは追いつかれてしまう。
「このサイズなら、路地に逃げればっ」
巴がそう言って、煙幕を吹き、周囲の視界を黒く染める。今の内に、バイクの利点を生かして、細い道へと駆け込む3人。
「上のKVに連絡しておきますっ」
薙がそう言って、ヘッドライトを二回、空に向けて瞬かせるのだった。
キメラ達は、B班の元へも現れていた。なるべく回避して、振り切っておこうと決めていたB班だったが、キメラ達の数は多く、やむなく覚醒するハメになっている。
「ああもうっ。何でこんなに一杯いるのよぉう!」
「今日は構ってるヒマがないの、また今度遊んだげるっ!」
文句言うミカエルを後ろに、スコーピオンの弾を、牽制代わりにばら撒くコハル。
「急いでるんだよね、通してもらうよっ」
一瞬動きが止まった所で、清見が煙幕弾をばら撒いた。視界が黒く覆われる中、構わず進行してくる昆虫型キメラ。
「このままだと囲まれるわね。応戦しないと」
ミカエルが鋭覚狙撃で持って、その頭部に狙いを定める。しかし、フォースフィールドは満遍なく体を覆っているらしく、余り傷は付いて居ない。
「道を切り開きます。照明弾を」
先頭の清見がそう言って、持っていた小銃を前方に向けて撃つ。その間に、ミカエルは呼笛と、照明弾を、空へ向けて放った。
「今のは!」
空高く上がった光は、KV組の2人からも、よく見えた。それは、トヲイだけではなく、あやこも一緒だ。
「キメラなんかに倒させないからぁ!」
そう言って、煙幕銃を、B班とキメラの間へと撃ちこむ彼女。そして、続けざまにライフルを放ち、敵をひきつける。
「皆がある程度離れる迄は、派手に動くな。特に銃火器の扱いは要注意だ‥‥」
同じ様に足止めをしていたトヲイに注意され、彼女はキメラの前で轟音を響かせる事になる。その間に、トヲイが人型に変形し、ビームコーティングアクスで切りつけていた。
「悪いキメラはこのライフルで蜂の巣ですよ♪」
援護するように、ライフルを打ち込み続けるあやこ。そのおかげでか、キメラはあっという間に蹴散らされてしまう。
「よし、なんとかなったな。俺達も撤収するぞ!」
それを確かめたトヲイは、そう言って、速やかにその場を離れるのだった。
こうして、インディアナポリスの地図が、7割ほど出来上がり、ミクを通じて、本部に送付されたとの事である。