タイトル:【CE】スノゥサバイバルマスター:姫野里美

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/12/20 23:21

●オープニング本文


 AUKVの開発には、複数の科学者が関わっている。元となったサンドリヨンの開発者であるキャスター准将、改良費用を出した各種メガコーポレーション等、多岐にわたっていた。
 その1人、ジュリア・ラナン教諭。1人と言うよりは、統括責任者と言った方が正しいだろう。UPCの重要人物リストにもしっかり名前と顔が表記されている女性である。

 そのジュリア先生が、護衛の生徒と共に姿を消した。

「ジュリア先生が行方不明?」
『ああ。だがそっちまで行くのに時間がかかりそうだ。代わりに手伝ってくれ』
 指示したのはキャスター准将である。すぐに必要な手続きが執られ、カラスはグリーンランドの玄関口ともいえるUPC基地に、カラスは降り立っていた。
「雪原って聞いてたけど、ここは暖かいね」
「カラス殿はこちらに来られるのは、初めてでしたね。ここは管理されてますから」
 応対に出た担当官がそう言った。基地があるのは、地下避難施設ゴッドホープ。だが、初めて訪れる基地の光景よりも、カラスは現状に頭を抱えていた。
「外は氷点下‥‥。そんな所にジュリア先生だけじゃなく、ガッコの子まで行方不明になってたら、大問題じゃないか‥‥」
 状況を聞いたところ、救難信号は出ているらしい。時々移動しているので、生存に問題はないようだ。
「あまりのんびりはしていられないかもしれないが、やるだけやって見るか‥‥」
 そう言って、KVを持ち出すカラス。生身で行動するには厳しい土地柄だが、彼は乗ったまま申請のあった場所へ向かった。
「この当たりのどこかか‥‥。上空からだとわからないな。降りて見るか‥‥」
 着陸し、人型へと変形する。と、その直後、足元の地面が揺れ始める。
「地震?」
 盛大‥‥とは言わなかった。震源を確かめたカラスは、それがさほど離れていない場所だと特定する。
「局地的なものか‥‥。うわっ」
 再び起きる振動。基地に確かめて見ると、最近頻発しているようだ。しかも、地質学的にはごく狭い範囲に。
「まっとうな地震ではなさそうだね。だとすると‥‥連中か」
 そんな災害もどきを呼び起こせる存在など、相場が決まっている。じっと周囲に気を配ると、ややあって‥‥再び振動が起きた。
「そこだ!」
 ばしゅっとKVからペイント弾が投げ込まれる。ところが、そのペイント弾は、雪原から伸びてきた触手によって捉えられてしまった。直後、振動が大きくなり、触手の本体が姿を見せる。
「これは‥‥。新兵器か‥‥」
 見かけは、アースクェイクに酷似していた。だが、それよりももっとずっと小さい。これは、応援呼んだ方が良さそうだと考えたカラス、ラスホプへの回線をオープンにしていた。直後、機体が大きく揺れた。足元からひっくり返るように、視界が反転する。
「しまった‥‥!」
 気がつくと、空ははるか先。周囲は凍りついた地面に覆われている。どうやら、振動のせいで氷が割れ、足元の穴に落ちてしまったようだ。結構な深さを誇っているが、幸いなのは横穴のせいで、KVが丸々収まっても遜色がない広さになっている事である。
「以外と暖かいな。一応暖房が抑えられる」
 KV内臓の温度を見て、脱出の算段を組むカラス。そこへ「誰かいるの?」と声がかかった。
「あー! バラウくんじゃん!」
「あれ? 遠藤先輩?」
 見れば、そこに居たのは、カンパネラ生徒の遠藤春香嬢である。
「何で先輩がここに‥‥」
「んー。単位取得の為に合宿してたんだよ。ねー?」
 なんでも話を聞けば、彼女とラクロス部の部員は、ジュリア女史の護衛任務についていたとの事。
「あのぷちくえいくのせいで、先生ともはぐれちゃうしさー。ここ寒いし、リンドの燃料も半分切ったし、さんざんだよー。落ちた衝撃で無線機が壊れるし」
 落とした衝撃でイカれたらしい。幸い、荷物ごと落ちたので、ここで救助を待っていたそうだ。
「怪我は?」
「それが、結構心配な事になってたりする」
 たはーと顔を引きつらせる春香。見れば、彼女自身も腕や足に包帯が巻かれており、奥にいる生徒には、添え木がしてある者もいて、命に別状はなさそうではあるものの、早急に対応が必要なようだ。
「やれやれ。ミイラ取りがミイラ。この場合は氷付けかな」
 ため息をつきながら、春香の無線機を修理する彼。あっという間に修復を完了し、ゴッドホープへと通信を送る。

「行方不明のジュリア・ラナン教諭を捜索中、護衛の学生を保護。ただし、近隣にバグアの新兵器が埋まっている可能性がある。手の開いているものは応援にこられたし。同氏の捜索を行うと共に、生徒を安全な場所まで誘導したい。なお、怪我人も多い為、新型兵器の捜索等よりも、生徒の保護を優先してもらいたい」

 淡々と告げる彼。問題は、この時期に救援活動できる傭兵があいていないかもしれないと言う事である。

 さて、この話には続きがある。

『姿が見えないと思ったら、何やってるんですか』
 基地から聞こえてきた声を聞いて、カラスの顔色が変わった。
『通信はカラスくんですね? 遠藤さんの事、きっちり保護して上げてください』
「あれ? どしたの? バラウくん‥‥。あ、そっか! バラウくん、寺田先生駄目だったっけ!」
 春香が、横から余計な一言を大きな声で告げる。
『聞こえてますよ。その声を聞くと、どうやら遠藤さん達は無事なようですね』
「僕の心が無事じゃありません」
 教師が生徒を心配して現地入りは、考えてみれば当たり前なのだが、苦手教師の登場に、げんにょーりとするカラスだった。

●参加者一覧

ルクレツィア(ga9000
17歳・♀・EP
ロゼア・ヴァラナウト(gb1055
18歳・♀・JG
大神 直人(gb1865
18歳・♂・DG
鬼道・麗那(gb1939
16歳・♀・HD
嵐 一人(gb1968
18歳・♂・HD
直江 夢理(gb3361
14歳・♀・HD
澄野・絣(gb3855
20歳・♀・JG
ドニー・レイド(gb4089
22歳・♂・JG

●リプレイ本文

 その頃、闇の生徒会会長こと鬼道・麗那(gb1939)は、怪我をしたラクロス部の生徒達の間を走り回っていた。
「春香さん、そちらは大丈夫そうですか?」
 そう言って、あれこれと指示をしている彼女。ジュリアの研究に興味を持ち、ラクロス部の護衛メンバーに同行していたようだ。
「気温が上げられるようなものがあれば良いのですけど、何かありません?」
 しかし、既に春香達の窮状を見て、あれこれと状況把握をし、遭難者のモチベーションを下げないよう指示している。その麗那が尋ねたのは、室内の気温を上げる手段だ。すでに、冷たい空気が遮断されるよう、エマージェンシーキットをかき集め、AUKVを人形態でカーテン代わりにしている。
「これで我慢してください」
 そう言って、生徒にコートをかけている麗那。以前の作戦では、他の生徒と共に参加し、部隊の小隊長役を勤めた事もある。その経験が役に立ったようで、すっかり一同のリーダーとなっていた。
「平気なの?」
「怪我はしていませんから」
 心配そうに首をかしげる春香さんに、彼女はそう答える。幸か不幸か、錬力は消費しているものの、血は流れていない。
「慌てても悲観しても事態は好転しません。ここは、まず楽しい気分になりましょう?」
 にこりと微笑んで、不安そうにしていた生徒の手を握り締める彼女。「はーい」と素直に頷いたその生徒に、麗那はこう続けた。
「それに、もうすぐ私のお友達が必ず助けに来ますから。ね?」
 ラクロス部の生徒達には、あまり気弱な子はいないようだが、それでも彼女は気を落とさないように勤める。
「そっか。じゃあ大丈夫だね」
 そんな彼女の姿に、春香はそう答えてくれるのだった。

 そんな事は露知らない地上班は、ようやく目的地ともいえる目印の場所まで、コンテナを輸送し終えていた。
「ロゼア。タイミングを合わせて。バランスを取るように」
 3機のうち1機に乗り、コンテナを支えていたロゼア・ヴァラナウト(gb1055)に、ドニー・レイド(gb4089)がそう指示している。コンテナには、既にAUKVを装着した地下班が待機しており、彼女は指示に従って慎重にウィンチを降ろして行った。
「あちらは、2人でどうにかなりそうですわね」
「ええ。私達は先に参りましょう。安全を確保しておかないと」
 その間、残りの地上班‥‥澄野・絣(gb3855)とルクレツィア(ga9000)は、周囲を護衛する事になった。コンテナは非装備の為、もし騒ぎを聞きつけた新型ワームが現れた時、対処が出来ない。そうして、コンテナを下ろしている作業の最中、地上組とも言えるAUKV班が到着する。
「さあて、新型のお披露目といくか!」
 早速ミカエルを装備する嵐 一人(gb1968)。隣で同じ様にミカエルを装備する直江 夢理(gb3361)。その間に、コンテナはゆっくりと降下していく。護衛のKVと共に。
「おーい。生きてるかー?」
「怪我人は多いですけど、何とか無事ですわー!」
 その間に、AUKVを装着した大神 直人(gb1865)が、コンテナに積み込んだワイヤーを手に穴の底へ入って行った。元気そうに手を振る麗那の後ろで、ほっとしたような表情を見せるラクロス部の生徒達。
「あんたらも災難だったな。まあともかく、迎えに来たぜ」
 殆どが女生徒だったせいか知らないが、嵐はそう言うとかぽりとヘルメットを脱いだ。ふぁさりと髪の毛が広がり、安心させるように微笑んだその周囲に、きらきらと星が舞う‥‥様な気がした。
「まずはラクロス部の方を先にお願いしますね」
 周りの女生徒が驚いたりため息をついたり小さく悲鳴を上げたりしていたが、麗那はさくっとスルーして、そう指示している。本人に悪気もそのつもりもないのを知っているからだろう。
「ありがとー。本当にれーなちゃんの言った通りだねっ」
「ふふふ。でしょう?」
 すっかり打ち解けた様子の春香と麗那。そんな会長の姿に、安堵しつつも、直人は険しい表情で、麗那を問い詰めていた。
「まったく、どこか一か所拠点にして先生を探すとか考えなかったのか?」
「考えましたわよ。だからこうしているんじゃないですか」
 見れば、どこぞのキャンプかと言った状況である。ちょっと気合が入ったものならば、充分に生活できそうな状況が確保されている事に、カラスがフォローを入れていた。
「んー。まぁそんなに目くじら立てないであげてくれ」
「カラスさんもだ。ミイラ取りがミイラになってるし」
 で、説教先が彼に飛び火する。直人としては、部活の棟梁が行方不明宣言と言う事態に、文句の1つでも言いたくなったのだろう。
「いやぁ、まさか落とし穴設置してくるとは思わなかったしねぇ」
「他に必要なものはありませんか? 毛布もコーヒーも揃ってますよ」
 そこへ、コンテナを下ろし終わったドニーが、中に詰められた救助者用保温道具一式を持ってくる。持ち込んだコーヒーが淹れられ、毛布が配られ、周囲は暖まって行った。
「あのう。それでジュリア先生とは、どこではぐれたのですか?」
 人心地ついたところで、直江がそう尋ねてきた。やはり気になるらしい。
「地下落ちるとき‥‥。こう、こんな感じのゆれがあって‥‥」
 春香が事情を説明しながら、地面を指し示した。その刹那、ごごご‥‥と、足元が揺れている。まるで、地震のように。
「これは‥‥ぷちくえいく!」
 計測器に駆け寄るルクレツィア。各自が慌ててAUKVを装着した直後、それは壁を突き破るようにして現れる。
「こ、こうしてみると大きいですわねっ」
 7mを越す巨体。かぱりと割れるような口を開き、のしかかるような威圧感を垂れ流している巨大なミミズ。
「コンテナが狙われてる?」
 その直後、プチはコンテナを目指してのそりと進んできた。急いでKVに戻ろうとするルクレツィアに、麗那はこう分析する。
「おそらく運んでいる振動を感知したのでしょう。入り口を閉めて、熱気が漏れないようにして! 他の方は、あのぷちを出来るだけ引き寄せてください」
「わかりました。ぷちさんこちらっ」
 同じ様に戻った絣が、人型のままKVをコンテナの前に割り込ませた。周囲に人が多いため、バルカンは使えない。
「コンテナには触らせませんっ」
 だが、脚に仕込んだドリルなら、牽制くらいにはなる。その間に時間を稼げれば良いと、彼女の足でドリルがギュルギュルと回転していた。
「センサーに反応が‥‥。これ、もう一匹いるよっ!」
「はさまれたら元も子もありませんわね。今のうちにコンテナを引き上げてください!」
 KVに戻ったルクレツィアが、メーターを見て叫ぶ。麗那が中に入った負傷者ごと、空へ上げるよう、R−01に乗ったドニーに合図していた。
「おっしゃ! その間、下の方は任されたぜ!」
 その間、AUKV姿のままな嵐が、ぷちへと回し蹴りを入れている。前方のドリル、側面のハイキックに、ぷちはその身を翻した。
「今ですわっ」
 合図する麗那。
「お帰りくださいっ」
 直後、スナイパーライフルをぶっ放す絣。どぉんっと周囲の雪が風圧に舞い飛ぶ。その雪霞の中に、ぷちは姿を消して行った。
「ふう。あんなのがうろうろしているなんて‥‥。ジュリア先生が心配です」
 時間差攻撃をする暇はなかったようだ。飛行形態へと変形させ、空からの攻撃に備えようとしていたルクレツィアが、ため息交じりに呟く。
「探しに行こう。コンテナはロゼアさんが運搬してくれるみたいだし」
 ドナーがKVから降りてきた。操縦は彼女とカラスがやってくれるらしい。こうして、負傷者の世話を任せた彼らは、再び地下へと捜索の範囲を広げるのだった。

 落ちた穴は、ラクロス部のいた場所よりも、少し離れた場所らしい。その情報を元に、KVで移動しながら、地上を見下ろす嵐。程なくして、目的地へと到着する。
「センサーに反応。このあたりですね」
 ルクレツィアがそう言った。見れば、眼下に結構な大きさの穴が開いている。
「ってことは、あれだな。ドニーさん、降ろしてくれ」
「ああ。気をつけてくれ」
 着陸する彼ら。ロープとワイヤーを降ろし、中へと入り込む。念のため、KVは人型にしておくドニー。
「けっこう入り組んでやがるな。持って来てよかったぜ」
 坑道の地図を片手に、直人がそう言った。入り込んだ竪穴は、ずっと奥まで続いており、持ち込んだライトでは見通す事が出来なかった。
「とりあえず一緒に進んだ方が良いだろう。ドニー、上への連絡を頼む」
『ああ。回線は開きっぱなしにしてある。いつでも大丈夫だ』
 直人の指示に、そう答える彼。手にした通信機からは、ラクロス部の生徒達が話している音が聞こえてくる。こうして、準備を整えた彼らは、まとまったままジュリア女史の捜索へと入ったのだが。
「本当は私が探査の眼を使った方が‥‥。でも‥‥プチとまともにやりあうには火力も数も不安‥‥」
 地上で、悲しげにそう呟くルクレツィア。と、春香がそこへ自前のAUKVを持ち出してきた。
「んー。そしたら、ボクの後ろに乗って! るくちゃんが眼なら、足になるよ」
 それなら、きっと役に立つ。彼女もまた、じっとしている事が耐えられなかったらしい。ちょっとだけ嬉しく思いながら、その後ろへと同乗するルクレツィア。
「先生、いたー?」
「いや、まだ見つからない」
 しばらくして追いつくものの、直人はそう言って首を横に振る。とにかく動かないと。そう判断したのか、ルクレツィアを加え、きょろきょろと周囲を見回していたのだが。
「見つけました。地図で言うと、MからNの方向です!」
 地図に割り振った番号から、おおよその方角はわかる。どうやら、横穴が先のほうでぷちに荒らされているらしい。
「先生、大丈夫ですか?」
 直人が覗きこむと、白衣と髪の毛が見えた。「遅いぞー」とか何とか言いながら、手を振ってくる彼女。穴の底はちょっとした部屋並に広く、あちこちに食料用パックやその他が散乱していた。それでも、相当弱ってはいるだろう。そう思った直人は、ロープと救助用キットを使って、慎重に引き上げる。
「だいぶ冷えてる‥‥。お湯は?」
「ここにあるよっ」
 春香が水筒を持ってくる。それを使い、持っていたココアの封を切る直人。
「しっかりしてください。これ、飲めますか」
 防寒シートをかぶせ、その手にコップを握らせる。
「毛布とか持って来てよかったな。ドニーさん、コンテナたのんますー」
『ああ、今そっちへ向かってる』
 そう言って、上へと連絡する直人。ぞろぞろと顔を出す生徒達に、ジュリア先生は驚いた表情をしていた。
『俺は年長者の義務を果たしただけだ』
「果たしてませーん」
 悪いかーと、半ば開き直ってる彼女。単に、どう言った顔をしていいのかわからないのかもしれないが、そんなジュリアに、ドニーはこう続ける。
『気にするな。ジュリア先生の場合、無事に生還する事が義務だから』
(戦うなとも言えない時代。大人も少しは助けないとな)
 自分より若い命を守る為。それが動機だから。
「気をつけて! センサーがぷちの波動を捕らえたわ」
 ルクレツィアがそう言った直後、地面が揺れ始める。生徒達が身構えた直後、再び現れるぷち。
「ここじゃ狭いな‥‥。ちぃと地上まで引っ張るぜ! ついてきな!」
 嵐がそう言って、AUKVの車輪を高速回転させる。駆け上がるように壁を登り、天井へと足場を確保する彼。
「倒すより生還する事を‥‥。えぇいっ!」
 直江がそう言って、引き止めるようにキックを入れた。まるでゴムを蹴っている様な感触は、ダメージが通じているのかさえわからないが、そんな彼女に、麗那の激が飛ぶ。
「とにかく上へ! そこで闘うのは危険すぎます」
「上まで上げれば、KVの支援が受けられる! このぉっ。大人しくこっちこいっての!」
 直江の前に飛び降りた嵐が、そう言うや否や、M−121を乱射する。煙幕のように足元の地面が吹き飛んだ。
「丸飲みに気をつけろ。単機決戦で行くぞっ」
 同じ様に射撃で対応する直人。
「こんなんと、まともにやりあってらんねぇっつーの!」
 おかげで、立派な弾幕が張りあがる。その間に、機械剣へと持ち替えた嵐は、直江の手を引いて、後退する。
「逃げるのっ?」
「いや。地上に上がればドニーの援護射撃が受けられる」
 追走してきた春香の問いに、彼はそう応えた。本能的にやる事を理解したらしい。「了解。れーなちゃん、ナビお願いねっ」と、ナックルをはめ込んだ。
「目印はつけてる。それを使え!」
 直人が壁の白いチョークを指し示した。ずっと続いているそれを追えば、何とか地上へと戻れるはずだ。
「見えました。行きます!」
 そうして、彼らがジュリアを抱え、ようやく地上へと顔を出した直後だった。
「もう一匹来ますっ! ああっ、これは!?」
 氷原を突き破り、新たなワームが姿を見せる。その雄たけびが空に木霊した直後、振ってきたのは大きなサイコロだった。
「これは‥‥新型?」
 確か、メイズリフレクターと言う名前だった気がする。データを思い出した麗那は、急いでそれを各自のKVへと転送していた。
「道、ふさがれちゃったよー。どうすんの?」
 もっとも、データが送られたからといって、事態が好転したわけではない。前門のぷち、後門のサイコロに、春香が顔を引きつらせていた。
「私の忍術で何とか‥‥」
 そう言った直江の手には、閃光手榴弾が握られている。
「眼をつぶっていてくださいませ。いきますよっ!」
 そう言うと、それをぷちに向かって放り投げる彼女。
「忍術‥‥夢理煙幕!」
 かっと、周囲が真っ白な光に包まれる。視界を奪われながらも、彼女は味方に向けて叫んだ。
「コンテナまで走って! そこまで行けばなんとなかるから!」
 だが、ワームはそこまで甘くはなかった。ホワイトアウトの中で、ワームが悲鳴じみた奇声を上げる。のたうったそれを除去しようと、ドニーがKVから援護を放つ。直人も応戦体制に出ていた。それでも、ぷちはその口を大きく開き、彼らを狙ったのだ。
「やらせない‥‥」
 突き飛ばされたのが誰なのか、白い視界の中ではわからない。ただ、はっきりしているのは、ジュリアが教師の責任を感じたのか、生徒の誰かをかばったと言うこと。
「ああっ! 先生が!」
「‥‥逃げな! もう少しなら持つから!」
 ワームに飲み込まれかけながら、ジュリアは叫ぶ。直後、ワームは口を開けたまま、地中深くへと消えて行った。
「‥‥必ず、お助けします」
 静寂の後、ぎゅっと拳を握り締める麗那だった。