タイトル:アストレイジア宿直当番マスター:姫野里美

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/06/12 16:55

●オープニング本文


 カンパネラ近接空域。いわゆる地球圏と呼ばれる宙域が、ヴァルキリー級4番館アストレイジアの、主な活動場所だ。時々、衛星からの攻撃にさらされる事はあるものの、基本的に防衛艦である船は、若い指揮官もあって、割と平和な空気が流れている。
 そんなアストレイジア艦内で、数日前から不思議な噂があった。
 地球時間で深夜、午前二時頃になると、どこからともなく人の声がすると言う。アストレイジアに限らず、24時間働いている施設は多いのだが、そういった常駐の面々でもないらしい。
 今日もまた、アストレイジアでは、どこからともなくすすり泣きが聞こえていた。
「もう、勘弁して下さいよぉ」
 いや、これは人の声だ。
 声のした方向へと進んでみれば、そこにはしっかりはっきりとこう書いてある。『艦長室』と。
「すると、暗闇光る妖しいふたつのかがやきが‥‥」
「きゃーー! 先輩ってば何でそんな怖い話知ってるんですかぁ!」
 UPCの制服に身を包んだ同じ年頃のクルーが、懐中電灯で顎の下から顔を照らした聖那の語りに悲鳴を上げている。ここは艦長室のはずなのだが、電気はすっぱり消され、彼女の顔だけがくっきりと浮かび上がっていて。
 が。
「何してるんですか、艦長」
 ぱちっと電気がつけられていた。正確には電気ではなくLEDの灯りなのだが、艦内では便宜上『電気』と呼ばれている。
「あらティグレス。もう交替だったかしら」
 慌てて懐中電灯をしまう聖那さん、クルー2人‥‥元々生徒会室担当だった生徒だ‥‥も、仕事するふりをはじめている。そこに、ティグレスは頭を抱えながら、今時珍しいアナログ式‥‥いわゆる紙のノート‥‥の日誌を渡した。
「違います。こちらの確認をお願いしに来ただけです」
「じゃあそこに置いておいて。あら、お茶が切れてしまいましたわ」
 空になったパックを見つつ、残念そうにそう言う聖那。作業的には、日誌を確認して、その後データベースへ落とすのがクルーなのだが、やる気のない彼らに、ティグレスが珍しく雷を落としていた。
「艦長! ここは学園じゃないんですよ!?」
「あらいやねぇ。ちゃんとお仕事してますよ。ほら」
 と、聖那がそう言ってモニターを艦長室の壁に映して見せた。それには、アストレイジアの全体図が描かれ、特定の地域だけ、塗り替えられている。
「なんでも夜中に、人のすすり泣きのような音が聞こえるんですって」
 冗談を言っているのかと思ったが、そうでもないらしい。塗り替えられたそこには、異音を示すノイズの文字。主に、平時に利用するエリアでのみ確認されている。
「どこか異常がある可能性がありますか・・・。エリアは固定のようですね」
 学園ならば、そのまま放っておいただろう。だがここは、壁1枚隔てた先は真空の宇宙空間。僅かな以上も見逃せない。
 筈なのだが。
「他にも、誰も使っていない部屋から滴り落ちる水のような音が‥‥」
「艦長‥‥」
 声を低く落とし、語る聖那。
「あとは‥‥資料室向かいにある女子トイレの一番奥の個室を叩くと、誰かが返事するとか‥‥」
 流石にそれは嘘だろう。いや、ティグレスが女子トイレに入るなんて、なんか特別な事情でもない限りあり得ないのだが。
「いい加減にして下さい。アストレイジアは新造艦です。学園の七不思議じゃないんですよ」
「あらでも、水音とすすり泣きは本当よ?」
 資料室のトイレは冗談としても、水音が聞こえるのは本当らしい。配管に異常でもあるのだろうか。ティグレスが問うと、聖那はこう言った。
「今頼んだところよ。ほら来た」
 ぺぺーっと通信のコールが聞こえて、出てきたのはジジィの愛称で親しまれているキャスター准将である。
『おう、俺だ。うーん、やっぱり現場で実際起きた状況を確かめねぇと、なんとも言えねーなー』
 データだけではいかんともしがたいようだ。だが、確かにそれは何らかの物理的異常ではあるらしい。
「わかりました。では、宿直を増員いたしましょう」
『おう。頼むわ』
 また勝手に‥‥と頭を抱えるティグレスに、聖那はにっこり笑顔で、こう告げた。
「宿直の方を集めて下さいな。あ、それと私のシフトも交代していただけると」
 自分も泊まる気らしい。いや、艦長として常駐するのは当然の事なのだが‥‥一応、役目と言うものがあるわけで。
「ひょっとして、自分でお調べになるつもりですか」
「当然です」
 念の為聞いて見るが、聖那の答えは揺るがない。

『アストレイジアの通常運行地域にて、宿直調査を行います。1泊2日となるはずなので、よろしくお願いいたします』

 数日後、本部にそんな依頼が載った。
 幽霊の正体見たり枯れ尾花。アストレイジアの枯れ尾花は、はたしてどんな姿だろうか。

●参加者一覧

須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
百地・悠季(ga8270
20歳・♀・ER
各務・翔(gb2025
18歳・♂・DG
嘉雅土(gb2174
21歳・♂・HD
マリンチェ・ピアソラ(gc6303
15歳・♀・EP
不破 イヅル(gc8346
17歳・♂・DF
雛山 沙紀(gc8847
14歳・♀・GP

●リプレイ本文

 A班は百地・悠季(ga8270)と聖那だ。該当の不審な場所をめぐることにした百地が順番に回るよう指定してきたのは、水回りの配管だった。
「一番使うのはこのあたりでしょうか‥‥」
 案内する聖那。そこは、艦内にある食堂である。唯一の楽しみ化する食事の為に、いくつもの調味料が揃えられている。成人したクルー向けに、若干のアルコールもあった。水の巨大なタンクがあり、使用手順等が書いてある。
「なるほど、キッチンね‥‥。でも、機材に水がついたら大変でしょ」
「そのあたりは、工夫してありますわ。さすがに、蛇口から出るというわけではないのですが」
 さすがに、蛇口はなかった。代わりに枝分かれしたパイプに、配管を確かめる百地。周囲を見回し、聞き耳を立ててみるものの、ご飯のおいしいにおいと、お湯を沸かす振動しかわからない。
「ふうん。このあたりは、アストレイジア特有なのかしら」
「ほかの船には乗りませんから‥‥」
 カンパネラの方では、重力装置があるため、地上とさほど変わらない生活になる。それ以外のヴァルキリー級は、こう言った場所には行かなかったらしい。
「それもそうだったわね。うーん。これだけじゃ何とも分からないわねぇ。もう少し見回らないと」
 念のため、バイブレーションセンサーを使ってみるものの、やっぱり調理しているスタッフか、寝てるかしかわからない。
「そうねー。何か見つけたら、調べてみましょ。足りなかったら応援呼ぶという事で」
 もう少し、見て回らなければなるまい。水回りが必要なところを巡回しに行く百地さん。
「おつきあいいたします。ふふ、こんなお散歩も久しぶりですね」
 その後ろからついてくる聖那は、どこか楽しんでいるようにも見えるのだった。

 B班。担当は各務・翔(gb2025)と不破 イヅル(gc8346)である。
「さてと、調査に置いても頂点に立つ‥‥俺は美しいな‥‥って、無視するなー!」
 自慢げにスポットライトを浴びようとする各務さん。が、イヅルはそんな彼を置き去りに、すたすたと該当地域を巡回しに行ってしまったようだ。
「行くぞって言ったが、お前が聞いてなかっただけだろう」
「う。いや、俺は作戦を考えていたのだ!」
 どうやら、彼はセルフスポットを浴びている間に、合図を済ませていたらしい。顔を引きつらせる各務に対し、「そうは見えなかったが」とじと目のイヅル。が、各務はまったく気にせず、持論をぶち上げる。
「定時に起こらないというだけでも絞り込めるものだ。食事前か後なら食堂、終業後なら居住スペースのシャワー等、就寝後ならトイレ等が怪しいな」
 だが、それにはひとつ致命的な弱点があった。
「船は24時間営業らしいが」
「何ぃ!?」
 驚く各務さん。だって、いつバグアの襲撃があるかわからない。見れば、部屋にはローテーション表が貼られ、この時間はどの班が宿直についているのか明示してあった。
「それに‥‥泣き声に水音‥‥? ‥‥空調なんじゃないか‥‥‥‥?」
「ふむ。確かにどこかで水漏れがしているかもしれないな」
 眠そうで、周囲に関心がなさそうな表情だったが、やる事は理解しているらしい。配管図を片手に、そう言うイヅルに、各務も納得したようで。
「偶然が重ならないと発生しない現象でも、体験談と条件集めたらある程度目星付くんじゃないか?」
「確かに、幾つかの要因が重なっている場合もあるな。昔、欧州で似たような事例があった。その時は水洗トイレが原因だったし」
 A班の報告では、キッチンはヒットしなかったらしい。
「じゃあ、トイレでも調べてみるか‥‥」
 各務がそう言った。宇宙空間なので、水は使わないように作られている。しかし、配管の都合上、どうしても通らないといけないわけで。
「あれ? これ、壊れているのか?」
 イヅルは見てみると、いくつか並んだトイレに、故障中の張り紙。報告書にはなかったので、ぺりっとめくって中の個室を調べてみるものの、機材は正確に動いている。
「壊れていないなぁ。ここからの配管を調べて‥‥。わからんな」
 もう少し調べてみようとした直後、タイムアップのベルが鳴る。トイレとはいえ、機材を専門家以外が動かすには無理があるようだ。眉根を曇らせる各務に、イヅルは音がした日時の掃除結果を見比べる。
「空気循環も特に異常はなさそうだなぁ‥‥。あとは気温かな。っと、時間切れか」
 偶然が重なる条件を知るには、まだ時間が足りないようだった。

 その頃、C班は。
「しっかし無重力状態ってのも動きにくいもんだ‥‥。前に比べて大部慣れちゃいるが‥‥」
 須佐 武流(ga1461)がぶつぶつ言いながら、トレーニングルームで、無重力環境下の動作確認をしていた。
「適当に聞いてきたが、どう見ても配管だなぁ。音のいる時間帯には、固定の整備がいたらしいが、さすがに仲間を疑いたくないし‥‥」
 一緒に配置されたのは嘉雅土(gb2174)だ。娯楽室で話を聞いてきたところ、音のする時間の整備メンバーはほぼ固定だ。その選別はティグレスがやっているらしく、バグアの手先とかそう言う話ではないらしい。
「事情を聴くくらいはいいだろう。聖那の部屋も調べないと行けないか‥‥」
 一通りのメニューをこなし終わった須佐は、そう言うと、聖那の元へと向かう。その言葉の不穏当さ加減に、雅土は眉を潜ませていた。
「大丈夫なのか?」
「許可くらいは取るさ。後で何を言われるかわかったもんじゃない」
 配管業者と同じ手順は取ってくれるらしい。仕事をする気がないわけではない須佐に、雅土は追加するように告げた。
「ついでに、人けの少ない部屋への立ち入り許可を取ってくれ。調べてみたい」
「確かにそろそろ食事の時間だな。聖那のところにでも行ってみるか‥‥」
 時間はそろそろ昼どきである。運動をして減った小腹を満たすつもりもあって、2人は食堂へとむかったのだが。
「というわけだが‥‥」
「なるほど。やはり水回りかしら‥‥」
 聖那は専用の紅茶パックを片手に、報告を受けていた。行っているのは、何故か正装姿の各務くんである。目を丸くする須佐と雅土にはまったく気付かず、彼はこう続ける。
「ところで、聖那嬢。食事は取ったのか?」
「いえ。まだですけど‥‥」
 首を横に振る聖那さん。と、各務はうやうやしく手を取り、耳元でささやく。
「ならばぜひ、共に。一緒に作戦にあたる者同士、親交を深めるのも良いだろう?」
「「ちょぉぉぉっとまったぁぁぁぁ!!」」
 身を乗り出した各務に、割って入る須佐と雅土。急に大声を上げられ、聖那は驚いたように目を瞬かせた。
「あら。どうなさったの?」
 首をひねる彼女に、2人は交互にそっぽを向いて。
「いや、なんでもない」
「その、二人きりで食事というのは、風紀上よろしくないと‥‥っ」
 何やら邪推してきたのだろうと推測した各務が、にやりと笑みを浮かべた。ほっぺのあたりに『早いもん勝ちだYO!』と見えない牽制が書かれている。そんな、若人達の不可視なバトルを制しようと、各務はこう綴る。
「艦長自ら調査に乗り出す行動の理由について、どんな意味があるのか、気になるだけだが。それに、無重力下の食事法をご教授願おうと‥‥」
「食事の仕方くらい俺が教えてやる」
 速断する須佐。ばちばちと火花が飛んでいる2人を、当の聖那が止めていた。
「まぁまぁ、仲よくご飯を食べるくらいいいじゃありませんか。ちょうどお昼も出来たようですし」
「今日はスパゲッティよー」
 そう言った直後、百地の声がした。空中をふよふよと流れてきたのは、パスタとソースのパックセット。クリーム系とトマト系、シンプルな魚介系やら、バジル系やらが並ぶ。とはいえ、重力の都合があるので、すべてパック入りなのだが。
「う。確かにうまそう‥‥」
「材料キメラだけどね」
 あっさりと告白する百地。確かに、ワタリガニだと思ったそれは、よく見りゃサイズがかなり違う。
「ちゃんと食べれる奴を用意したわよ。さ、どうぞ」
 お湯のコードがふよふよと宙に浮いていた。一見すると非常にシュールな光景だが、食い物に罪はないわけで。数分後には「いただきまぁす」の声と共に、すぱげちーをすする音が聞こえ始めていた。
「しかし聖那。どんな幽霊だったら、許容できるんだ?」
「バグアでなければ」
 和やかな空気の中、問うてくる須佐に、聖那は即答していた。要するに、人に危害を加えない相手であれば良いらしい。カンパネラでは、メロンがその辺歩いていたなと思いだし、彼はこう続ける。
「そういえば、聖那の前の会長って、どんなんだったんだ?」
「長く空席だったと聞いてますから、直接はあった事ないですよ。ひょっとしたら、その幽霊さんかもしれませんね」
 カンパネラが浮上した事によって、呼び起こされたとか。
「ふふふ。だったら、ロマンなのにね」
 百地がのんびりとそう言って、食後のオレンジジュースをごきゅごきゅしている。そこだけ見ると、非常に平和な光景。
 戦艦アストレイジアは、前線に引っ張られてもなお、カンパネラの空気を残す船だったらしい。

 さて、調査はD班の番だった。
「ふあぁぁぁぁぁ。あ、よろしくお願いしまっす!」
 あふううっとあくびをかみ殺す雛山 沙紀(gc8847)。起きてくると、同じ班のマリンチェ・ピアソラ(gc6303)もまた休憩から目を覚ましたところのようだ。
「あら、沙紀ちゃんおはよう。よく眠れた?」
「うん。ストラップつけたら浮かばないって言われたし。ロープ持ってきて正解だったよ」
 そう答える沙紀。あちこち探検したい欲求をこらえ、寝る時はロープで両足と片手を縛り付け固定していた沙紀ちゃん。こうすれば浮かび上がらないと思ったらしいのだが、もやい結びで縛っちゃった為に、腕と脚に、赤い跡が残っちゃっている。しかし、本人は一向気にせず、ロープを片付けようとしていた。
「それ、後で何かに使えますよ。なんだったら、立ち入り禁止にするとか」
「それもそうだねっ。犯人捕まえるのにも、きっと役に立つし!」
 重力がないので、ぐるぐると回したロープは、いつまでもまわり続けている。ちょっとしたオブジェにも見えて、思わず沙紀のほっぺが緩くなる。
「中身がいればいいけどね。んと、このあたりは調べたんだっけ」
「うん、確か‥‥」
 施設を一通り回って、ある程度のルートを確かめたマリンチェに、そう答える沙紀。不安そうな彼女に、マリンチェさんは口元に笑顔を浮かべて、異常があった時の報告先を探していた。
「連絡するのは、ブリッジの当直の人でいいのかなぁ」
「雅土さん起きてるみたいだから、見かけた人でいいんじゃないかな」
 そう答える沙紀ちゃん。準備したロープを片手に、見取り図の入っている端末を見たところ、そこには配管がおかしいらしい事が書かれていた。
「そうね。念のためかけておきましょう。こことここが調べて‥‥配管かな」
 マリンチェ、念のために探査の眼とグッドラックをかけている。
「もし、悪戯なら、犯人はボク達を観察する筈だよね‥‥」
 沙紀ちゃん、そう言うと掴んでいた手すりを離し、ぴょいと浮かび上がった。ばたばたと足を動かして、移動し始める。
「‥‥プールじゃないんだけどな」
「無重力って楽しいですー!」
 頭を抱えるマリンチェだが、彼女はいっこう気にせず平泳ぎに背泳ぎまでご披露。重力ないから、バタフライも思いのままだ。
 が。
「アレ? なんか音が聞こえない?」
「はっ! そう言えば!」
 その刹那、まるですすり泣くような音が聞こえてきた。同時に、水音のようなものまで聞こえてくる。
「よおし。幽霊さん覚悟ーー!」
 ロープを手にした沙紀ちゃんはそう言うと、音のする方へと端末の通信回路をオンにしながら向かう。
 ただし、クロールで泳いで。

 それぞれの部屋の配管を調べてみると、途中で複雑に絡み合っていることが分かった。あるべき場所につながっていない。それを見つけた雅土が、皆に説明してくれる。
「というわけだ。この配管の先になると思うんだが‥‥」
「なるほどな。まぁ、正体は‥‥何かが共鳴とかしてそれらしい音でもしてるんだろ」
 須佐、やっぱり幽霊なんぞ信じていない口調で言った。と、そのパーツをしげしげと見ていた各務がこういった。
「確か、この艦はプチロフ製か‥‥いや、まさかな」
 KVと同じ技術とは言えないが、プチロフならばあるいはアレが効くかもしれない‥‥。そう、斜め45度。
「試しに叩いてみるか?」
「壊さないでくださいましね。宇宙服なしで宇宙バンジーは死にますから」
 にっこりと笑顔で聖那が釘をさしてくる。
「もしくは‥‥誰かがどこかに住んでるんじゃないか?」
 配管はかなり太く、場所によっては人一人くらい住めるかもしれない。と、それを聞いた沙紀ちゃんが、謎の啜り泣き音のしてきた方へ、びしぃっと指先を突きつけてこういった。
「ふっふっふ、沙紀ちゃんはピンときちゃいましたよ〜? ズバリ、おねしょしちゃった子が泣きながら洗濯してるんです!」
「は!?」
 おねしょをするような低年齢の子が、アストレイジアに紛れ込んでいるとも思えない一同は、やっぱり目を点にしている。が、沙紀ちゃんはうんうんと1人納得したように、こう続ける。
「ボクも経験ありますけど、やらかすと泣けますからね〜。お母さんに見つかれば、中学生にもなって何やってるの!って叱られ‥‥」
 言いかけて、止まる。やっと気づいたらしい。百地が「やったの?」と気の毒そうに聞いてくると、彼女はわたわたと首を横にふった。
「あ、今は治りました! 一年くらい前からしてないです! いぇい!」
 ドヤ顔で自慢げにVサインする沙紀ちゃん。周囲が眉をひそめているのに、まったく気づいていない。咳払いを一つした須佐が、ぼそりと話を進めていた。
「叩けば追い出せるかな‥‥。壊したら、直してもらおう」
 須佐、その間に手刀を斜め45度に傾ける。
「原因を報告するだけじゃだめなのか?」
「契約書、取らないとな」
 言い出しっぺの各務が、眉をひそめる中、ごいーーーんっと盛大な音が響いた。直後、バタバタと何かが飛び出してくる音がする。
「見つけた!! 確保ーーーーー!」
 ロープを持った沙紀がすぐさま音のした方へと向かう。その後を、どたどたと追いかけるほかの面々。と、そこにいたのは。
「あー! お前は!!」
「ふみゃああああ!!」
 きしゃああっと背中の毛を逆立ててるのは、まごう事なき猫さんある。銀毛の大きな猫は、ふしゅうっと牙をむいて、今にもとびかからん姿だ。いや、よく見ると、首輪にタグまでついている。
「まぁ、幽霊の正体なんて、こんなもんだろ。怖いと思うから怖いんだ」
 ひょい、とその猫を捕まえる須佐。タグには、深夜巡回班の名前が書かれている。整備の際に、世話をしていたのだろう。
 亡霊の、正体見たり、飼い猫さん。