●リプレイ本文
学園の闇は深い。
「ふ。――これを使いこなせれば、奴らにもダメージを与えられる、さ」
その深い闇に埋もれる黒のフロックコート。UNKNOWN(
ga4276)の手には、妙に生白く見える和ろうそくが握られている。
「奴で試して見るとするか‥‥」
特注品のボルサリーノの奥で、瞳がすうっと鋭くなる。左手には荒縄。どういうわけか、研究所の強化済み認印が押されている。
それを懐に居れ、いつものようにタバコをくわえると、笑みさえ浮かべて、彼は職員寮へと向かうのだった。
翌日、地下演習場では、それぞれ作り出したアイテムを持って、生徒と聴講生が集まっていた。
「それではー、クラーク・ブートキャンプをはじめまーす」
クラーク・エアハルト(
ga4961)の前には、たくさんの武器防具道具その他は積みあがっている。
「うわ、何スかこの武器の束」
「あんなモン持ち込んでるお前に言われたかない」
目をしばたかせる森里・氷雨(
ga8490)。びしりと突っ込まれ、彼は持ち込んだKV用の開運兵器をべしべしと自慢していた。
「だ、だってここは女生徒の園、カンパネラですよ! この通販で買った開運兵器さえあれば、女生徒の心だって!」
彼、すっかりカンパネラが女子高だと思い込んでいる。念のために言うと、カンパネラは共学だ。副会長殿方だし。
「それにこれ、仕事の時は普通に使うモノばかりですよ」
そう言ってクラークが見せているのは、コンバットライフルにセミオートライフルと言った物騒なものだ。いずれも射撃訓練に利用するもので、セミオートは市販品より若干射程と相談数が多い。それに、所属部隊のオリジナル制服‥‥胸にユリの鼻のエンブレムがついた上品な品だ‥‥を身につけ、胸からはドッグタグだ。
「これも?」
「これですか? 個人認識票です。死亡した場合、体が原形をとどめて無くても、これが無事ならば個人識別が出来るんですよ」
そんな死に方ヤダと思うのは、きっと森里ばかりではないだろう。付けている本人も「こっちだって、そういった目的では使用したくありませんけどね?」と苦笑している。
「私のは普通の食材です。それに、新しく作った武器も試したいですしね」
キョーコ・クルック(
ga4770)が持ち込んでいるのは、バスケットに食パンや野菜、ハムなどのサンドイッチの食材に、屋台でよく見かける調理用の鉄板だ。
「これ、竹箒と包丁だよねぇ?」
「メイド戦士専用武器です」
もっとも、それを料理する出刃包丁には、しっかり【SES内臓】の証である吸気口と刻印が刻まれ、竹箒はよく見ると節の間にちょっと隙間が見えている気がする。
「こっちはどう見ても青汁‥‥」
ファイナ(
gb1342)の持っている特注品の青汁。見た目はどこをどう見ても健康飲料だが、時々ごぽっと変な泡が立っていた。
「まぁ試して見るのも一興さ。いきなり実戦は問題だしな」
月村新一(
gb3595)がそう言ったのに対し、柔らかな微笑を浮かべたまま頷く鳳覚羅(
gb3095)。持ち込んだのは、特注で作った遠近両用試作型特殊銃『ガンズブレイド』だ。
「うまく稼動してくれよ。狩姫」
同じ様に特注で狙撃銃を作ったらしい楓姫(
gb0349)がそう言った。
「そうならない為に練習するんだよね。先生、またよろしくねー!」」
もっとも、対戦相手の紫藤 望(
gb2057)は、ビートルの調整をしているらしい寺田に、笑顔で手を振っているのだった。
「それじゃ、動かしますよ」
「はい。打ち合わせどおりにお願いします」
その寺田がビートルの操縦機を動かす。クラークの申し出で、スピードは最初遅くする事にしたようだ。のんびりとのたのた動くビートル。見た目はどう見てもキメラなんだが、まるで草を食む牛さんのようだと、クラークは思った。
「このくらいがちょうど良いですかね?」
「もう少しゆっくりでお願いしますよ」
もっとも、彼にしてみれば、その速度さえ早すぎるらしい。苦笑しながら「これでも最低速度ですよ」と、速度調節機を絞り込む寺田。そののったりビートルに狙いを定めながら、おそろいの衣装に身を包んだ水理 和奏(
ga1500)が「うー」と呻いていた。
「大丈夫ですよ。わかなさんならきっと出来ます。まずは、撃ち方の基礎から始めましょう」
「わかったよ。ありがとう、クラークさん」
励ますようにそう言って、腕を添えて見る彼。心なしか緊張している水理を見て、寺田にこう言った。
「先生、まずは固定目標から始めたいんですが、何かありますか?」
「岩場のほうなら、丈夫に出来ていると思いますから、そちらに目標物となるものを置くのがよろしいかと」
寺田が指し示したのは、上段部分にある岩場だ。特殊樹脂で固められたそれは、射撃訓練にも耐えられるよう想定されているようだ。
「わかりました。わかなさん、確か銃を扱うのは初めてでしたね?」
「うん。KVではあるんだけど‥‥。でも、立派な軍人さんになるためには、銃も使えなきゃダメだよね‥!」
岩場に油性ペンで的を作ってやり、底に向けて練習を再開する水理。気合だけは充分なんだが、クラークには狙いが定まっていないように見えた。
「大丈夫です、呼吸を落ち着けて標的を真っ直ぐ見てください」
アドバイスした直後、水理は両手でトリガーを引き絞る。
「必殺! わかなショーット!」
が、残念ながら弾は即席の的をはずれ、離れた岩場に着弾していた。
「無駄な掛け声が多すぎるんですよ」
「そんなぁ。だってシュミレーションでは、そうだったよー」
残念そうにそう言うわかな。練習していたらしいが、クラークが覚えている限り、筐体を動かした形跡はない。
「って、使用申請出ていましたっけ?」
「ううん。ラスホプにあった奴」
いや、水理が示したのは、ラスホプ内にあるゲームセンターだった。どうやら、シューティングゲームで練習していたらしい。
「うーん。わかなビーム! の方が当たるかな」
「叫ばなくても良いんですよ。じゃあちょっとやってみましょうか」
必殺技を悩む彼女に、クラークはやんわりとそう言って、まず的に当てる所から始めた。人差し指を唇に当て、そのシャウト分のエネルギーをスコープに集中させる。
「わぁ、命中したー」
ぼしゅっ‥‥と、弾が柔らかいものに命中する音が聞こえた。満足そうにおめめをきらきらさせる、おそろい制服姿の水理。その頭をぽふぽふと撫でながら、クラークはにこりと笑う。
「ゆっくりでいいんです。出来たら、距離や速度を変えてみましょうね」
「はーい」
機嫌よく答える水理。こうして、メカビートルへと練習をシフトしていくと、動かしていた寺田に、黒のフロックコートが声をかけてきた。
「どうかね? 皆のオリジナルは?」
こいつもまた、寺田センセと同じ様に、どこか油断のならない雰囲気を身に纏っている。
「今のところは、ただのオーダーメイドですね。あなたのそれと同じ様に」
コートもベストも帽子も、全てこだわりの逸品だ。ふらりと現れた彼は、操縦機を取り上げるようにして、その口元に笑みを浮かべる。
「ふふ。良い武器ではないか。これならバグアどももびっくりだ。よし、ちょっと動かしてみよう」
ビートルの速度が上がり、練習中の水理が驚いた声を上げていた。
「また勝手な事を‥‥。駄目ですよ。そんな風に乱暴に動かしちゃ」
「いつも乱暴なのはそっちだろうが」
もう少し優しくしてください‥‥とか、そんな余裕はなさそうだとか‥‥ボイスだけ聞くと、どこのドラマCDですかと。
「ねぇねぇ、クラークさん。あの2人は、リモコンを操作してるんだよね?」
「ええ。そうですよ‥‥。それだけなんです」
1人だけわかっていない水理の横で、引きつった表情を浮かべるクラークだった。
んで、次は煩悩少年さんのターンだ。
「向こうはまじめに練習してるねぇ」
のほほんっとぬいぐるみを抱えながら、ビートルの動きを目で追っているユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)。
「って、ユーリさんは真面目じゃないんですかっ」
「だって俺、特に試したいものがあるわけじゃないし。それに作ったのはこの子だし」
彼が持っているのは、くまのぬいぐるみだ。
「結構可愛いもの作ったんですね」
「お前に言われる筋合いじゃないぞ」
そう言ってユーリが指し示したのは、どういうわけかやたらと凡字マークに塗装されたバルカンである。
「ふ。良くぞ聞いてくれました」
ふんぞり返って、その性能をご紹介する森里。
「これこそっ! 局地機動銃撃系人造妖精『カノン』! 超モテ期到来、難関女子校に無事潜入、背が伸びた、遊技場で大解放など、喜びの声殺到の逸品!」
まるでどこかの通販番組である。
「ただのバルカンじゃないか」
「そう思うのが素人のあかさたな。空に赤い星が輝いた時、人類の呪術的最終兵器! 封印された人造妖精が! 「目的の願望」に向け局地的機動飛行! 超運が舞い激運が踊る観音級兵装。粉砕! 玉砕! 大喝采! に能力者を大量生産!」
ちゅどーーんっと、夏の残りの花火が、森里の背後に舞っている。が、見た目はただ色が違うだけで、普通のバルカンだ。
「かーいそーに。また騙されてるしー」
「俺はどっかの北海道芸人じゃありません。そう言うなら試してみましょうか!」
絶対にインチキだろうと指摘する森里が、自信たっぷりにそう言うのを聞いて、ユーリはビートルのリモコンを借りる事にした。
「まぁ、せっかくだから、何かやりたいしね。って、なにやってんの?」
一通りの操作方法を教わって戻ってくると、森里がなにやら怪しい踊りをご披露中。
「この説明書には、発動前に呪術的儀式をやれって‥‥」
見れば、足もとには人の体で表現された謎の取り扱い説明書がある。その隅っこに見覚えのある寺田のサインがあるのを見て、なんとなく出所が読めたユーリさん。
「そんな事言ってると、ビートル逃げちゃうぜー」
「えぇい。逃がすかぁ!」
かくして追いかけっこがはじまった。一応戦術くらいは練っているらしく、天井に向けてカノンを一斉掃射し、出口をふさぐ。
「ここまでおいでー」
「待てぇぇぇ! 機槍突進、乙女のハートをゲットじゃああ!」
で、上に逃げられるのを解した後、周り込もうとする森里。呪術効果で覚醒中。
「避けれるモンなら避けてみろー!」
「‥‥‥あ、本当に全部避けたらテストにならない?」
自信たっぷりにそう言う森里が、突進してくるのを、ひらりとかわすユーリ。おかげで、森差とくんは背後の壁へ、盛大に激突していた。
「‥‥‥‥ま、良いか」
「よくないよくない! 死ぬかと思ったじゃないですか!」
ぺロッと舌を出して、再びの攻撃と言うか突っ込みに、全力で逃げ回る彼。何しろ撃ってくるのはそれでも実弾なのだ。彼だってしにたかない。
「この霊的キャノンが当たればっ! 俺にも春が来るんです!」
「ちょっと待てどーゆー撃ち方‥‥て、きゃー!?」
どういう勘違いをしたのか、森里が斜め上四十五度にキャノンを乱射。それは運悪く岩場に跳ね返り、その陰にいたユーリを直撃する。
「あ〜この手触り、重量これが欲しかったんだよ〜」
しかもそこには、先客が居た。仕込み竹箒にほお擦りしているキョーコさんである。どうやら、邪魔にならないところで、料理の仕込みをしていたらしい。
「って、そこあぶな‥‥」
「わぁぁっ」
降り注ぐ森里の流れ弾。器用に全力回避した後、キョーコはぷにんと頬を膨らませる。
「何するんだ。一瞬走馬灯が流れちゃったよ」
「そんなに攻撃力はないんだけどねー」
ユーリが中身がただのバルカンだとバラす。それでもKV兵器ではあるので、周囲には空の薬莢がが大量にばら撒かれていた。
「ちょうど良いや。お掃除お掃除」
そう言って、竹箒を動かしながら、キョーコはぽにぽにとビートル向かって歩いていく。
そして。竹箒から居合いの要領で、白刃がきらめく。
「一閃!」
「おわぁぁっ。これでも結構必死なんだぞっ」
ユーリ、慌ててビートルを回避させた。
「双牙!」
もっとも、キョーコはまったく気にせず、その仕込み竹箒の切れ味を満足げに確かめていた。
「やっぱり使い心地いいな〜。依頼で使うのが楽しみだ〜」
「いや、そのー」
大喜びするものの、よく見ると、ビートルには当たっていない。代わりに床の部分へ傷がついている。
「半分暗器みたいな武器だから、正面切って攻撃するのはあんまりね〜。切れ味は次の機会に試すことにするよ〜」
苦笑するキョーコさんだった。
その頃、別のエリアでは。
「今日は演習場でアイテム試験っと。寺田先生にはちゃんと挨拶も済ませたし‥‥。えぇと、試すのはこうで良いの?」
望が楓と一緒に、彼女の狙撃銃のテストをする事になっていた。
「はい。私はあちらの端からスタートです」
「よし、じゃあすたぁーーーと」
狙撃なので、少し離れた場所が必要だ‥‥と言う事で、楓が30m程離れる事になる。逆に、望がビートルロボを操作する事になっていた。
「ほらほらどうしたの?そんな攻撃当たらないよー」
もっとも、望がいくらビートルを近づけても、楓は中々弾を撃ってこない。「もう少し近くに‥‥」と呟くが、望はまったく気付いていないようで、ばら撒かれるペイント弾を回避しながら、近づいてくる。
「弾を温存してるんですけど、気付いていないようですね」
にやりと微笑んで、岩場の陰へと隠れる楓。見失った望があわててきょろきょろと見回している。
「え‥‥? 楓ちゃん、どこっ?」
その背後に、組み付かんばかりの距離で現れる楓。
「チェックメイト」
「うわぁぁんっ」
ぼしゅっとゼロ距離射撃が命中していた。
「うーん、威力はたいした事ないのかしら‥‥」
「ペイント弾だからじゃないかなぁ。反撃どうなのよ」
直撃してあえなく終了しちゃった狙撃練習に、楓と望は頭を抱えていた。そこで、今度は立場を入れ替え、リモコンと銃を交換して、やってみる事にした。
「よし、いっくよー。とうっ!」
気合を入れつつ、AUKVを起動する望。鈍く銀色に光るリンドブルムが、彼女の体にぴったりとはりついていた。
「AUKVって結構身軽なのね‥‥。でも、そこまでよ」
その動きは、人の動きと代わらない。と言っても、平均的なので、楓の操るビートルに、中々追いつけなかった。
「うー、ちょこまか動くなー!!」
いらだった望、そう叫ぶと持ったペイント弾を乱射する。その流れ弾は、ビートルをそれ、背後に居た楓に。
「え゛!?」
直撃。
「私は虫か‥私は虫か‥!」
「うわぁぁぁ。ごめんなさい〜」
ペイント弾まみれになってしまった楓が、謝ろうと装着を解除した望にタックルし、地面の上へと押し倒す。そこに突きつけられたのは、ヘッドショット。
「って、ちょっと待って! 実弾はヤバいって! 実弾は!」
慌てて逃げ出す望。ホーリーナイトを汚したくないが、勢いアサルトライフルでの撃ち合いに発展してしまう。
「あなたには‥ペイント塗れすら生温い‥!」
「うー、謝ってるじゃんー」
こうして、演習場には、元気にばりばりと銃弾とペイント弾の華が咲くのだった。
「うーん。自作装備の実験かぁ。僕はどうしようかなぁ」
他の面々がそれぞれ練習したり、追いかけっこをしたりと、それぞれの手段で自作品の効果を確かめている頃、東雲・智弥(
gb2833)はその手段を考えあぐねていた。
と、その瞬間である。
「みつけたぁぁぁ!」
「見つかった!?」
思わず答えてしまう智弥を捕まえたのは、なんだか香ばしい匂いを漂わせる槍を持った如月・菫(
gb1886)である。
「ふふふ、新しい武器が完成! 私の私による私のための武器!」
「これは?」
自慢げに胸をそらす菫さんに、武器をつつく智弥。と、彼女はその切っ先を突きつけるようにして、こう宣言した。
「香槍軍具韮! 人の事韮韮韮韮鳥が言う人に、韮の恐怖を味あわせてやるのですよ!」
微妙に漢字が違う気がするが、気にしてはいけないようだ。
「それ、重くない‥‥?」
「形状とかは気にしたら負けなのです。どんな威力があるかがっつり試しましょう!」
振り回すそれは、菫に取っては重そうだった。その分、すばらしい効果を持っていると思っているらしく、彼女は智弥の首根っこを引っ張り寄せる。
「でも臭うよね‥‥韮の香り」
「なんですとーー? そんな人は、このグングニラの餌食になるですよ!」
ぼそっとそう言った彼の一言は、菫さんの逆鱗に触れてしまったらしい。実験ラジコンの操作をしようと、後ろへ下がろうとした智弥をだが、捕まったまま身動きがとれず、ラジコンもったままじたばたしている。
「練習相手の無双を食らうのですー! 問答無用なのですよー!」
そのまま、韮槍を振り回す菫。
「えぇぇ、拒否権ないの!?」
「そんなものゴミ箱にポイなのですよ!」
諦めろ。そんなものは、最初から存在していない。
「的のくせに避けるなです!」
「だ、だって防御しないと‥‥。ラジコン逃げちゃうよ」
この状況では、ラジコンもへったくれもあったもんじゃないのだが、何とか盾で韮槍から身を守る智。しかし、容赦なく突っ込んだ韮は、その盾を弾き飛ばし、智を組み手で押し倒してしまった。
「えぇい、捕まえたのです!」
「なんか、如月さん妙に怒ってます? 如月さん理由は何となく判るけど! でも、だから八つ当たりしないで!」
仕方なく、持っていたこれまたオリジナルアイテムの棘鎚『春の星』を取り出そうとする智。その手が、何か柔らかいものに触れた。
むにゅ? むにゅむにゅ。形状は肉まんのよーだ。
「‥‥ほほぅ、どさくさに紛れて良い度胸なのですよ」
「って、うああああ。む、むねっ」
それが、菫の胸である事に気付いた純情少年くん、真っ赤になったまま、慌てて謝るが、時既に遅し。だって揉んじゃったし。
「ひぇぇぇぇ、ごめんなさぁぁぁぁあい!」
哀れ巴投げの餌食になってしまう智弥くん。
「は、う、あ、えぇと‥‥し、失礼しましたなのですよー!」
ぶくぶくと小川に沈む彼を放置し、菫は恥ずかしそうにそう言って、どこかに行ってしまうのだった。
遠くでなにやら盛大な水しぶきがあがるのを感じながら。鹿嶋 悠(
gb1333)はファイナとゲーム形式での実験を行うことにした。
「さて、ファイナさん今日はよろしくお願いします」
ルールは10分間の間に悠が攻撃を一発でも当てたら勝ちと言うものだ。
「鹿嶋さん、KV訓練に付き合っていただいてありがとうございますっ」
「いえ、俺も帝虎を使って見たかったですから」
素直に礼を言うファイナに、悠は首を横に振る。
「お互い様と言うわけデスネ。じゃあ、10分間あたらなければ、僕の勝ちということで、青汁を飲んでいただきます♪」
「心得ました」
頷く彼。その青汁は、青汁に見えて青汁じゃないと言う、狂気のシロモノだ。
「‥ホワイトナイト異常無し、行きます‥」
覚醒するファイナ。適当に距離を取っている悠。タイミングを見計らい、お互いの動きを確認している。
「まだ当たる距離ではありませんね」
タイミングはまだだ。ファイナの機体は、かなり素早く出来上がっている。うかつに仕掛けても、当たらずに時間切れしてしまう。
「とにかく、回避に専念しますか‥‥。強化したホワイトナイトのお披露目ですよ‥」
もっとも、ファイナもそれを狙っているらしく、攻撃はまったくしてこない。おかげで、距離を離したまま、5分が経過していた。
「う〜む‥‥流石に当たりませんか‥‥」
「高出力4基の回避は伊達じゃないです」
自信たっぷりに覚醒するファイナ。その口元が、かすかに『黒い』のは、きっとアイコンのせいだろう。そこで、悠は一計を案じる事にした。
「ところがギッチョン!」
回避された直後、悠は左足に仕込んだ全長1mのアンカーを片足へと打ち込む。半ば張り付くような姿勢で、ブースターを吹かせば、予想していた方向とは逆向きへとKVが移動していた。
「‥敵武装の戦力調査のため、囮を捕まえます‥」
食らってたまるかと、ビートルメカを捕まえるファイナ。そこへ、悠の主兵装である全長2m。輪胴弾装式杭打ち機が命中していた。
「命中‥まだまだ回避能力が足りない‥?」
「いえ。今回は俺も多少インチキっぽいことしましたし」
ほぼ相打ちに近い。ビートルを盾にしていなかったら、またわざと杭を打たなければ、思ったとおりの結果は得られなかったに違いなかった。
「ありえない話じゃないんですよね。うう、僕もまだまだ修行がたりません‥お手合わせ、ありがとうございましたっ」
「いえいえー。それじゃあ、ちょっと他の面子を見学してきますよ」
にこやかに礼を言うファイナに、そう言ってきびすを返す悠。
(青汁、飲まなくてよかった‥‥)
ほっと胸をなでおろしながら、別の傭兵達の様子を見に行くのだった。
悠がぶらぶらと見に行ったほかの面子のところでは、射撃テストが行われていた。
「まだ試作品なので、性能のほどはいまいちですが、なんとかなるかな?」
鳳の品はガンブレイド1つだけだが、新一は不満そうに試作品を眺めている。
「色々申請したんだが‥‥。提出先はこちらではないのか?」
「ええ、本来は研究部行きです。でも、面白そうなものを持ち込んでいますね」
そう言う新一に応対しているのは、一応担当でもある寺田だ。その見下ろした先には、上着からゴーグル、ナイフに至るまで、一通りの品が並んでいる。
「では、実験的に試してみますか。こっちは通ってますから」
「それが良さそうだ」
両手で武器を構え、的に狙いを定めながら、そう言う鳳。新一がジャケットとブーツを見につけ、それぞれの品を持つ。
「ガンズブレイド射撃モード始めます」
ばしばしと流れている弾。防弾能力を強化したジャケットがなければ、大怪我をしていた所だろう。
「ジャケットとブーツはうまく起動しているようだな」
脚力を強化する‥‥と言うと聞こえは良いが、要は衝撃吸収ようの中敷と、筋力を補助するスプリングが仕込んであるブーツだ。これくらいなら、研究所に代金を支払えば作ってくれることだろうと、寺田は言う。
「問題はこっちだな。オクトフィールドがうまく起動しない」
「さすがに偽装装置はねぇ‥‥。研究部のほうに、もう少しちゃんとしたものを作るよう、申請しておきます」
考え方は面白かったのだが、さすがに装備すると周囲の風景に溶け込めるような特殊な装置は、そう簡単には作れないそうだ。赤外線レーダーを用い、人の気配を視覚化するコンセプトで作ったスレットゴーグルも、ただの赤外線ゴーグルになっている。それでも、寺田先生は口ぞえしてくれるよう言ってくれる。
「そちらの花火はうまく炸裂しているみたいですが」
「ただのこけおどしだ。爆弾‥‥とまではいくまい」
クラッカーボールの爆音と閃光も、お祭り道具でしかない。本当はビー球くらいのサイズにしたかったんだが、その状態ではやはり花火の延長線上でしかなかった。
「攻撃力を持たすには、SESが必要ですね。大きさも小さすぎますし」
「ふむ。その辺りは研究部に頼めるか?」
寺田の判断にそう頼む新一。「やっておきましょう」と答えてくれた。
「じゃあ、次は接近戦のテストにしましょうか。武器は、持ってきているんでしょう?」
「この調子だと、ブレードも振動しないし、スタンガンも機能しなさそうだがな」
格闘武器の試作品は、刃を高速で振動させるブレードだが、思ったほど振動しない為、ただの剣になってしまっているし、スタンガン機能を持たせたはずのナイフも、今のところ、ただのナイフだ。
「それでもやってみないと。ガンズブレイド近接モードへ移行」
「違いない。格闘戦の訓練だと思えば、腹も立たない‥‥な!」
だが、やって見る価値はありそうだ。そう言って、共にビーストメカへと肉薄する2人。ナイフで牽制した直後、鳳が的へと接近し、流し切りを食らわせる。のけぞった所を、縦に両断剣していた。
「ふむ。やはり威力は並ですか‥‥」
傷跡をみれば、致命傷を与えたのがどちらかかは明白だ。
「さすがに開発費をかけずに開発するのは、虫が良すぎますよ。ショップに並べるには、UPCの許可も必要ですし」
折れたナイフを拾い上げ、そう答える寺田。
「難しいものだな」
「それが開発と言うものです。試作品が出来たら、また実験をお願いしますよ」
だが、そのデータは開発部に送られ、購買部で買えるよう、研究が行われる事になったらしい。
「お疲れ様でした。コーヒー入れましたけど、一服どうですか?」
クラークが皆の為にコーヒーを煎れている。お茶会に参加していた鳳が、皆へと声をかける。
「いただきます。それで、みなさんは思っていたような結果でました?」
「えっと、オリジナルは‥‥うまく行かない物、‥‥だよね?」
うつむいたまま真っ赤になっている智弥。あれから、ちゃんと謝ったのだが、やっぱりきまづい雰囲気はそのままだったらしく、お茶菓子をうにうにとつついている。
「ふふ、よきかなよきかな。俺のは可愛く出来たけどな」
満足げに蜂蜜色のモヘアなもこもこボディを抱えているユーリ。金茶色の包みボタンがついた紺色のベストもりりしいハロウィンベアさんだ。
「しくしくしくしく。これで女の子の人気者だと思ったのに、なんでユーリさんの方が人気者なんだよー」
「あ、や、何となく作ってみただけで、意味は無いんだけど‥‥。そこのお嬢さんみたく、リュックに肌身離さないわけじゃないし」
何故かボロボロの森里を生暖かい目で慰めつつ、視線を移せば、リュックサックからぬいぐるみを覗かせている水理だ。
「え、えぇぇ。何でばれたの!?」
「中佐の顔が見えてる」
そう。そのぬいぐるみの顔は、ミハイル中佐その人だった。どうやら、ショップのキャンペーンが待ちきれなくて、自分で作ってしまったらしい。
「ひぇぇぇぇ。何か恥ずかしいよ〜」
真っ赤になってリュックごと中佐のおじさんのぬいぐるみを抱きしめた水理。落ち着こうと手を伸ばしたのは‥‥ファイナが差し出した、青緑色のやばいシロモノ。
「あうあう。どんな事があっても負けないっ☆ ‥おじさんの部下に、ちょっとは近づけたかな、えへへ」
目を回しかけながら、頭に湯気を立ち上らせている水理。いや、本当に湯気が立ち上っていた。キョーコの持ち込んだ鉄板料理だ。
「さぁさぁ、皆さん。サンドイッチにチヂミを持ってきたよー」
「わー。美味しそう〜」
目を輝かせるユーリ。手ごろな石と持ち込んだ鉄板でもって、調理したようだ。舵に気をつけつつ、彼女は包丁を握る。
「それにしても、さすがにSES付は、切れ味が違うねー。サンドイッチが潰れずに切れるよっ」
身もだえしている彼女に、横からファイナがツッコミを入れた。
「その割には、さっきすごい音がしてたけど」
「うん。ちょっとまな板ごと切りかけた。切れ味がよすぎるのも考え物かな」
見れば、岩場の陰に切れ目の入ったまな板が転がっている。そこへ、頭を吹きながら、望と楓が戻ってきた。
「ただいまー。ほんと、さっきはごめんね。あー、なんか良い匂いがするー」
「まぁ、テストは出来たし。忘れる‥‥」
ペイント弾をカンパネラの湯で洗い落としてきたらしい。ちょっと悩みながらも、許してくれる楓さん。
「でも良い仕上がりだったよね、うちも重火器とか申請しちゃおうかな!」
「研究部の方に申請してください」
親指をびしっと立て、アピールすると、いつの間にか寺田先生がいつの間にかチヂミをつまんでいる。神出鬼没とはこの事だ。
が、そこは傭兵達。にぃっと口元を歪ませて合図。
「寺田先生、自分のわかなさんへの銃の撃ち方の教え方は教員の目からどうだったでしょうか?」
まずクラークがそう言いながら、寺田の退路をふさぐ。
「何故場所を変えるんです?」
「だってこのあいだ提出した僕‥じゃなかった、リーフさんの写真‥‥。女の子の写真を半分に減点なんて、酷いと思うんだ‥。そんなに可愛くなかったかな‥?くすん‥」
水理はなき落とし作戦に出たようだ。もっとも、本人はまったく意識していないようだが。
「そんな事言っても無駄です。どいてくれませんかね?」
「逃がしません」
ファイナがそれとなーくKVを移動させてしまう。
「――私の出番、だな」
そうして、逃げ道をふさいだのを確かめたところに、フロックコートの男が登場していた。
「お前か‥‥。黒幕は‥‥」
「ふ‥‥。覚悟するが良い‥‥」
やはりな‥‥と言った表情の寺田を拘束しようと、懐からがさごそと荒縄を取り出した。ポケットには何故か和ろうそくまで完備である。
「断る」
「あっ。消えた!?」
驚く水理。かけよると、台座の下に穴が開いていた。どうやら、そこから脱出してしまったようだ。
「あんのんさん、お手紙みたいですけど」
残っていた紙切れを手に取ると、綺麗な文字で『アンノウンへ』と記されている。そこには、
『宵闇にも作法がある。試したいなら正攻法で』と記されていた。
「‥‥なるほど」
部屋番号は把握済みの彼宛と言う事は、こう言う行為は衆目の前でやるもんじゃないぞってな意味だろう。
「はいはーい。皆さん記念撮影しますよー。笑ってー」
そこへ、クラークが解散前に‥‥と、カメラを持ち出す。ポーズを決めたところで、パシャ理とシャッターを切る彼。
「やっぱり神出鬼没か‥‥。次こそ、次こそ覚えているがいい」
が、出来上がった写真には、しっかり寺田が写っていた。ぎゅっと手袋をはめた手を握り締め、小さく呟いた黒のフロックコートが、寺田センセの部屋がある方向へと、消えていくのだった。