タイトル:鮫の顎マスター:姫野里美

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/04/18 22:13

●オープニング本文


 宇宙要塞として機能しているカンパネラ。報告書には上がらなくとも、小競り合いは往々にして発生する。そのメンテナンスの為、日々様々な改良が施されていた。
『じゅんしょーう、ハッチこの辺でしたっけ』
 外壁部分。戦闘用宇宙服を着たカンパネラ出身の学生が数名取り付いている。命綱をつけた状態で、准将の工具を片手に、整備作業に借り出されている彼らは、先輩諸氏の影響を受けてか、本来なら雲の上の住人である筈のジジィを、すっかりお友達扱いで指示を仰いでいた。
「もうちょい右だ。区画ナンバーの先にパネルがあるべ」
 もっとも、准将の方もそんな事ぁまったく気にせず、整備指示を飛ばしている。言われた通りの場所を、手にしたライトで照らすと、ミーティングで言われた通りのハッチが見つかった。
『あー、これっすね。そんじゃ、作業取り掛かるんで、スイッチ入れますよー』
「練力で動くようにしてあるから、30分たったら戻って来い」
『へーい』
 それぞれ覚醒した面々が、ウィーンと錬力を放り込む。専用の自動式ラチェットのようなものが回り、作業が開始されたのだが、その刹那、作業をモニタリングしていたミクが悲鳴を上げていた。
「おじいちゃん、アラーム!」
「あにぃ!?」
 見れば、モニターに見慣れた姿が数十機。ミクがカメラをズームアップさせると、最大望遠と書かれたノイズ交じりの画像に、宇宙仕様と思しきヘルメットワームがうごめいていた。距離感が曖昧なので分からないが、2割程度本星型が混ざっている。他も、張り巡らせた警報システムから、ただのヘルメットワームではない事がわかる。どうやら、攻撃を仕掛けたいバグアは多いらしい。カンパネラの下にあるのは、人類が宇宙に出る為の手段なわけだから。
「5機のチームがいっぱい。わー、鮫の歯みたーい」
 カーブを描くように陣形を組まれたそれは、大きく口を開けた鮫の顎のように見える。星座の輝きが人の形を描くがごとく、漆黒の空間にバグアの鮫が現れている。
「忙しい時に限ってぽこぽこ生えやがって。インターバルを調べろ。何分起きにきやがる?」
 ジジィの怒号が響く。見れば、画面にはエマージェンシーを告げるアラームがそこかしこにちらばり、強化されたHWが、嫌がらせとばかりに現れていた。その一団のひとつが嫌がらせとばかりに、波状攻撃を加えていた。
「この距離だと、5分起きだぉ。一回に来るの2組。全部で10機づつ」
 カタタタタとコンソールの上を、覚醒したミクのおててが踊り、あっという間に予定到着時間が算出される。
「豪勢だなァ。ったく、なんだって強化工事してる最中に狙いやがる」
 既に開けられたハッチは、そのまま放置するわけにも行かず、准将は作業員を避難させながら、エネルギーメーターを見直した。
「外壁のエネルギーが切れるまで30分か‥‥。避難はどうなってる?」
『隔壁に逃げ込みました。なんとか無事です。ただ、こっちもあんまり錬力持つとは言えません』
 作業員は何とか無事だったらしい。回線をオープン状態にしたまま、准将は厳しい口調でこう言った。
「覚醒状態だけ維持して、外には出るな。いいな」
『でも‥‥・』
 余り気の進まない彼ら。エミタを埋め込んだ一員としては、バグアを蹴散らしたいのも道理だろう。だが、准将は口調を崩さずぴしりとこう言った。
「そこからKVのハッチまでは通路が繋がってねぇ。外壁ぶっ壊して侵入するには武器が貧弱すぎる。言ってる意味はわかるな?」
『はい‥‥』
 確かに、閉鎖された向こう側は、外壁の材料がみっちりと詰まっていて、通れそうにない。ふう、とため息をついた准将は、格納庫にいるはずの黒衣の槍使いに告げる。
「カラス、出れるか?」
『仕方がないでしょうね。ミクちゃん、ナビゲートお願い』
 発進許可がグリーンマークを示す。承認されたそれに、ミクが「わかったー」とガイドマップを転送して。
「さて。小物ばかりだが、ひっきりなしだね。どうなるかな」
 30分間耐久勝負が、宇宙の幕を上げるのだった。

●参加者一覧

煉条トヲイ(ga0236
21歳・♂・AA
須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
威龍(ga3859
24歳・♂・PN
百地・悠季(ga8270
20歳・♀・ER
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
ソーニャ(gb5824
13歳・♀・HD
ラサ・ジェネシス(gc2273
16歳・♀・JG
ヘイル(gc4085
24歳・♂・HD

●リプレイ本文

「ミク殿。データリンクよろしくネ」
 ラサ・ジェネシス(gc2273)が独特の口調でそう言った。と、ミクも覚醒状態のまま、彼女の愛機毬藻・ツインタワーに情報を送り込んでくる。到達までの時間と距離、それはヘイル(gc4085)が要請した通りのものだ。その状況に、悠季が舌打ちしてみせる。
「ったく、外壁工事中の警備って聞いてたのに‥‥隙を見せたら襲ってくるのが常かしらねぇ‥‥」
 警備任務なら、託児所に預けてある子供にも会いに行けるだろうと選んだのだが、バグアはこっちの家庭環境を省みてはくれないらしい。ぼやきながらも、セッティングされた時計を見る百地・悠季(ga8270)。30分は‥‥長い。
「ともかく全力を尽くす事にしよう」
「そうね。編隊様相がまるで『鮫の顎』の如しねえ。食いちぎられ無い様にしないとね」
 同じ事は威龍(ga3859)も考えて居たようで。モニターの中のヘルメットワーム達は、まるで海原に迫る鮫の群。
「時間は半分。速さ、手数は2倍、火力は4倍ってところかな」
 外壁には、ソーニャ(gb5824)の姿があった。地上機の彼女、弄り倒したロビンは今や手足のように答えてくれる。
「いまじゃロビンも珍しくなっちゃた。ストロングホーク程じゃないかな。でも、新旧入り混じるからこそ面白い。ねぇ、准将?」
 しかし周囲は最新鋭機ばかりだ。が、ジジィは、モニターの向こうでにやりと笑う。
『計測データじゃ、新型より弄った旧型の方が性能いいぜ。俺は試作機の方が好みだがな』
 魔改造は新型に勝る。前世紀からわかりきっていた話だと。
「自身にあった機体が最高ってね。敵軍第一弾くるわよ。影に作業員がいること忘れないでね!」
「わかってるよ。君、ちゃんと隔壁に隠れてるんだよ。どのみち、いつか命をかける時がくる」
 悠季に言われ、ソーニャは隔壁の向こうにいる生徒に向けて語る。今はまだ、その時ではないのだと。
「その時を間違えるんじゃないわよ。その時までじっと身を丸くして待つ。かっこ悪くても、なさけなくても、君が必要とされるその時を」
 もしも、それを苦と思うなら、いずれ返してくれればいい。自分が、そうだったように。
「今のうちに戦闘情報を蓄積しておいて。終わったら、すぐ治せるようにね」
 悠季が母の優しさでそう続けた。話を聞いていた作業員達は声を震わせながらも「はい!」と答えてくれる。
「いい子だね。じゃ、エルシアン‥‥出る!」
 ばしゅうっとブースターの軌跡が、漆黒の空間に消えた。それを確認したのだろう。HW達がその顎をこちらへと向ける。突っかかって来たのは、拡散弾を取り付けたHW達。
「まずは向こうも露払いと言った所かな」
 威龍が画像のデータを悠季機へ送りつつそう言った。その座標を元に、ESMで察知した進攻方向と数、取り付けられた兵装を面々へと告げる悠季。ただし、決して前には出ない。うっかり前に出てしまったら、無駄に錬力を消費してしまう。さすがに、余裕ぶっこいていられるような環境ではないのだから。
「簡易ブーストしたままっていうのも、辛いネ!」
 たった数秒姿勢を保っただけで、錬力ががっつりと減っていく。残りを気にしつつ向かってきたHWに、マニェーバを上乗せした槍を振り回す。それなりに改造している自動槍は狙い過たず、HWを粉砕してくれる。だが、他の数機が取り囲み、遠距離から愛用のライチャスにマニューバを乗せて斬撃を放っていた。
「ミサイルポッド射出。数を減らす!」
 その間に、威龍がマルチロックオンシステムで、残りのHWを削りにかかった。しかし、相手は強化されている為か、どれも致命傷にはあたらない。バラバラに攻撃していてもダメだと判断し、彼はまず一匹に攻撃を集中させた。
「残ってる中に、追加が混ざってるかもしれないヨ。気をつけて!」
「まずは犬歯をたたき折る!」
 それでも、爆散はしないHW。ラサに言われ、止めをさすべくアサルトライフルの弾を撒き、ウイングエッジを機動させたのだが。
「まずいわ。1匹、機動が違う!」
 ライフルとミサイルが軌跡を描く。悠季機から送られてくるデータを見る限り、到達予測機が倍ぐらい違う。エース機とみなしたその攻撃から避けるべく、彼女の機体から錬力がごっそりと削れていた。残りは半分以下。もう、戻らなければならない頃合だ。
「って、やっぱり居たネ! 本星型、来るヨ!」
 だが、そう簡単に帰還を許してくれるわけではない。だいぶ間引かれては居たものの、残りは健在だ。
「こっちだ‥‥!」
 簡易ブーストは、擬似慣性制御を生んでくれる。重力の発生した足場を軸に、敵の死角へと回りこもうとする威龍だったが、相手も馬鹿ではないらしく、一方的にはならなかった。アサルトライフルとG放電装置がびりびりと震えて。ウィングエッジのきらめきが、HWを捉える。が、そこへくぱりと牙を剥く青白い光。
「展開!」
 超伝導RAでもって、少しでもダメージを受け流そうとした威龍。改良されたリアクティブ・アーマー、その軌跡を軽減してくれて。
 だが、その間に本星型と思しきエース機が、後方へと回りこもうとしていた。その先には、作業員のいる隔壁。
「最後の壁は崩れるわけには行かないのよ」
 まずいと判断したのだろう。悠季の機体が踏みとどまるように、その場で滞空する。はっと気付いたラサが、レーザーシールドを構え、超伝導RAを稼動させてブーストで、機体を滑らせていた。
「危ないヨっ!」
 がつんっと強く衝撃が走った。もしこれが生身なら、強化していないKVに乗っていたら、ラサはあっという間にあの世行きだっただろう。それでも、踏みとどまった結果、機体の残り練力がわずかになっていた。
「く‥‥姿勢制御であっという間に燃料削られルネ‥‥。姉さん大丈夫?」
「ええ。助かったわ」
 ほっと胸を撫で下ろすラサ。大切な仲間の1人。落とすわけにはいかないと。
「駆逐戦に入れば、10秒で沈めてやるって言うのに‥‥」
 その大事な戦友の1人、ソーニャは外壁の壁に自身を固定した状態で、狙いを定めていた。射程にさえ入れば、すぐにでも駆逐できる。心配するように通信機越しに言ってくる隔壁の内側へ、彼女はその口元に笑みを浮かべた。
「大丈夫。自分に出来ること、出来ないこと、しっかり見極めるんだよ」
「被害は拡散させるものよ」
 まるで詩人のように告げた彼女を援護するように、悠季がガトリングガンを乱射する。弾かれたHWが、彼女の視界へと入ってきた。
「生き残り方を‥‥見せてあげる」
 そう言うと、ソーニャは機体を振るブーストさせた。補給限界値まであとわずか。
「マルチロックオン。ポッド、1,2,3番用意」
 自分に言い聞かせるように、スイッチをONにする。直後、FFの具合を確かめたラサが、そんp切り札とも言えるブリューナクを起動した。強化FFが消えるタイミングを見計らう。
「鎧袖一触‥‥とっておきだヨ!」
「いけー、エルシアン!」
 それは、期せずしてソーニャの攻撃と重なった。どちらが言うでもなく、本星型へとたたきこまれる2人の『刃』。強化された一撃には、いかに本星型HWといえども、ダメージを食らって後退していく。その隙に交替するA班だった。

 時はしばし遡る。B班として配属されたヘイル、時枝・悠(ga8810)、煉条トヲイ(ga0236)、須佐 武流(ga1461)は、準備を整えながら、状況をカラスに問いただしていた。
「こんなもの、全部倒せば話は早い。近い敵から倒す。いいな?」
 それによれば、まずは前衛部隊を露払いするつもりらしい。須佐がそう言って。本星以外のHWを表示させていた。
「ああ。これだけ揃ってれば、撃破も簡単だろ」
 なにしろ、B班の面々は大規模な作戦でも主力級と言われる連中ばかりである。しかし、それでも錬力に余裕がある訳ではない事に、悠は何も言わずに苦笑していた。
「言ってくれるな。だが、本星以外は10秒でしとめるぞ!」
「余裕はなさそうだけどな。あっち」
 モニターには、須佐にそう答えるトヲイ。モニターに伝えられる残りの練力量は、あまり長いこと前線に出ていられない事を示していた。
「そこは柔軟に」
 まだ少し交代時間には早いだろう。しかしそれでも悠はそう言って、准将から出撃承認を貰っている。一応それなりの立場を有している彼が、そのままスルースキルを発動し、宇宙空間へと滑り出す5機。
「常時簡易ブーストって言うのが痛いがな」
 重力の枷に縛られないのはいいが、逆に安定しない。目に見えて減っていく錬力に、トヲイは総ぼやいた。だが、敵は待ってはくれないわけで。
「1グループ以上は残っているなー。練力半分以上残ってるのは?」
「‥‥私」
 答えたのはA班のソーニャ。他の面々は、錬力が3割を下回り、戻っている最中だと告げる。ソーニャ自身は、弄り倒した愛機のおかげで、まだ錬力に余裕がありそうだった。
「ではお願いする。半分を下回ったら戻ってくれ」
「了解した」
 悠の指示に、淡々と答えるソーニャ。カンパネラの壁へ固定した彼女の機体のブーストを錬力節約の為に切らせた直後、須佐が位置の調整をさせる。
「位置に注意しろ。現場作業員を狙わせるなよ」
「4機以下の場合は、補給に戻ってくれ。状況に応じてだがな」
 ヘイルが具体的な場所をマーカーに記している。と、その直後A班が引き上げを完了した事を、カラスが告げてきた。それを追う様にHWが現れた事も。どうやら、予想していたよりも、若干早く追いついてしまったようだ。
「来たか‥。まずは数を減らす必要があるな」
「――大宇宙に鮫のアギトか。鯨なら未だ可愛気があるものの‥‥」
「動けない者の代わりに、とは言わないが。彼らが見ていて納得できる程度には働こうか」
 補給が澄み切っていないが、仕方がない。鮫の攻撃は待ってはくれない。ましてや見学者も多い作戦だ。頷きあった4人+カラスは、すぐさまその迎撃へと移って行く。ヘイルが早速マニューバを乗せ、目の前に居た手負いのHWに向けて、管狐を使う。相変わらず重力を無視した動きで避けるワーム。
「上手くこっちまで攻撃してくれればいんだが、そうもいかないか」
 さすがに、そう簡単にカウンターアタックを仕掛けさせてはくれないようだ。それでも須佐はシルバーブレッドを展開し、タイガーファングでそのボディを切り裂く。ブースターを細かく振動させ、浮きそうになる機体を堪えれば、次の役目は敵が教えてくれる。
「数の差を埋めるぞ。こっちから仕掛けることもないだろう」
 防衛が目的だ。無理やり追いすがるよりも、フリーの敵を作らないよう、寄って来た敵にラヴィーネをばら撒いていく悠。出来るだけ被害を抑えようとしているようだったが、HWはその被害を拡大させようと広範囲に散ろうとしている。
「させない!」
 練力がガリガリと減っていくが、構わず彼女は凍風で攻撃していた。命中精度が必要となる敵はまだいない。移動距離に物を言わせ、悠は積極的に自分の得意範囲に持ち込んでいく。また1つ、ワームが宇宙のデブリになった。だがそこへ、細かい破片がミサイルのように降り注いでいた。
「ったく、次から次へと‥。逐次投入は有難いが、こうも数が多いとな‥‥!」
 その反対側でヘイルが、航空機携形態のまま、流れ弾状態と鳴ったデブリを凍風で打ち抜いていた。そのまま追加攻撃のようにミサイルポッドで攻撃する。
「多少強引だが、割り込ませて貰う。出し惜しみはなしってところだな」
 悠がエンハンサーを使ってそのHWの一匹に攻撃している。簡易ブーストに錬力を割く都合上、空戦スタビライザーは使えないが、それでも追撃は可能なわけで。
「狙い通りだ、貰ったぞ」
 ヘイルのミサイルポッドがHWに炸裂する。だが、その攻撃から逃れるようにして、カンパネラの外壁へ取り付こうとするその腕には、破壊しやすそうな鍵爪。当たれば外壁といえどもただではすまないくらいのものだ。
「‥‥避難隔壁には作業員達が居る。流れ弾が外壁に当たったら大変な事になるぞ」
「これ以上カンパネラはやらせん!」
 だがそこへ、ブーストをふかしたヘイルの機体が割り込む。RAを発動した機体は、たたきつけられようとしたその鍵爪をがっちりと受け止めていた。
「少し出遅れたが‥‥やらせはしない!」
 トヲイがそう言って戦闘機形態のまま狙いを定めた。用意したのは‥‥K―02。破壊力の大きいそれは、第二弾として現れた次なる鮫の顎に、断罪の刃を向ける。
「全弾‥‥発射!」
 正確な狙いは、ばしゅばしゅばしゅっと軌跡を描いて、その全員に遅いかかった。ダメージに隊列が乱れ、浮き足出すHW達。そこへブーストを吹かして突っ込んでいくトヲイ。人型へと変形したその機体は、手に機槍とリニア砲を握り締めていた。悠を含めて、戦線に出られそうな数は6機。ぎりぎり、どうにかなる。ぎんっと画面がスライドし、悠は一番落とさなければならない機体を探した。すなわち‥‥エース機である本星型を。
「偽装とはご苦労なこったな。わざわざ御足労頂いて申し訳ないのだが。――早速、お帰り願おうか‥‥!!」
 両方のエンハンサーが作動し、錬剣オートクレールにエネルギーを注ぎ込む。それに合わせるように、須佐がFETマニェーバを起動させた。ブーストの軌跡がその光を増し、本星型へとその距離を詰める。死角へと回りこもうとする本星型。だが、ディノスケイルはその刃を通させはしない。
「く‥‥錬力が‥‥!」
 脚に仕込んだシルバーウィングとエナジーウィングは、錬力切れで作動しない。にぃ、と本星型に取り付けられた顔のような部分が哂った様な気がした。かちんと須佐の脳裏に苛立ちが重ねられる。
「カートリッジがないからって、ナメるなぁぁぁっ!」
 翼が泣くとも、ここは宇宙空間。シルバーブレッドとタイガーファングが、ブースターの勢いでたたきつけられる。同時に炸裂したトヲイの錬剣で、本星型HWもまた、宇宙のデブリとなるのだった。
「ようやく撤収か‥‥」
 気付けば、HWの生き残りは半分になっていた。これ以上は無意味と悟ったのだろう。隔壁から出られるようになった作業員達に、トヲイは帰還しながらこう提案してくる。
「またバグアからちょっかい出されない内に、さっさと完成させてしまおう」
 ソーニャもまた、人型形態のまま外壁に取り付いていた。と、銀髪の詩人は、彼らにこう答える。
「一応、ボクもカンパネラの学生だからね。名目だけだけど」
(ちょっと抵抗はあったけど。住むところと食べ物が欲しかったからね。もうなれたけど)
 抱いていた違和感は既にない。今は‥‥この環境を受け入れている。大切な‥‥居場所として。