タイトル:破片の攻防マスター:姫野里美

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/01/07 08:43

●オープニング本文


 カンパネラの港を改造した専用ドッグに、ヴァルキリークラスの巨体が、その速度を落としながら近付いてくる。牽引ビームなんぞまだどこにもないカンパネラでは、停泊と言ってもある程度離したそれに、細いアームを伸ばして引き寄せるようなものだ。
「ふう。何とか着艦できましたわね」
 艦長席で、あまり似合っているとは言いがたいコートを羽織った聖那が、ほっとしたようにため息をつく。
「魔の5分、とはよく言った物だな」
 4番艦・・・・アストレイジア。グリーンランドの戦乙女と、ヒルガオ科の英名をあわせたその空母は、護衛としてKV艦を搭乗させる事が義務付けられている。その隊長には、ティグレスが付いていた。
「全機、待機シフト・タイプ3へ。長いご勤務、ご苦労様でした」
 そんな・・・・若きリーダーが、やはり経験値があるとは言い難いクルー達へと労いの放送をかけていた。この艦において、シフトパターンはいくつかあるが、今回の場合は『2日お休み』を意味している。いそいそと休暇の準備をするクルー達を、微笑ましく見つめていた聖那だったが、やおら自分のコートを脱ぎ、自身もカンパネラの内部へと向かう。
「艦長、どちらへ?」
「湯殿です。シャワーだと手足が伸ばせないんですもの」
 目的は、カンパネラの湯らしい。かつて、生徒達の憩いの場となっていた湯は、その卒業生達によって、やはり憩いの場となっていた。
「なるほど。と言う事は、俺達はもうひと仕事だな・・・・」
 ティグレスの端末には、周辺地域の警戒情報が乗っているのだった。

 それから、2日後。
「ポイントDN−1ですか」
 ティグレスが集めてきた警戒情報の1つに、ジジィからの連絡要請がついていた。カンパネラの湯上りに戻された聖那は、資料を開き‥‥面白いものでも見つけたような顔となる。
『おう。ちょうど、破壊された衛星のあったところだな。大きな破片と言ったところだが』
 破壊された敵衛星『アルテミス』には、まだある程度の敵が残っている可能性がある。流石に、相手も戦力として使う気はないだろうが、放って置いては障害になるものばかり。今回の破片も、そんな物の1つだ。
「自動生成PODのようなものでしょうか‥‥」
 破片の1つに、大きなガラスケースのようなものが見え隠れしていた。最大望遠な上、光を感知して云々と言う映し方ではないので、モノクロになってしまっているが、その全体的なシルエットは、地上でも幾度か見かけた事があるキメラの生成機だ。
『まー、何らかの暴走が起きたみたいだな。経験値稼ぎにはちょうど良いと思うが』
「かしこまりました。ただし、姫はあまり遠出は出来ないので、ある程度まで行って、生身で対処にあたる事になるでしょうね」
 アストレイジアとて、人類側の船だ。動かすには、それなりに整備が要る。上で長く留まる為には、それなりの工夫が必要なようだ。ジジィは、それに借りだされているらしい。
『その為にリークしてんだ。しっかり学習してこい』
「ほんの少し前は、宇宙で戦うなんて、思いもしませんでしたわ」
 端末に、学園に入った頃は欠片も見なかった文字が踊る。その変化に、聖那は少し楽しげな声で答えるのだった。

【宇宙キメラで実戦訓練を行います。私も勝手がわかりづらい部分がありますので、共に倣い修めて頂く方を募集いたします】

 募集の告知が知らされる。少し控えめなのは、無重力の戦いは、人類史に残るほどの変化故、手探りなのかもしれなかった。

●参加者一覧

須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
天小路桜子(gb1928
15歳・♀・DG
嘉雅土(gb2174
21歳・♂・HD
ヘイル(gc4085
24歳・♂・HD
フィオナ・フォーリィ(gc8433
18歳・♀・FT

●リプレイ本文

「DN−1まであと10分ですか‥‥。間もなくですわね」
「宇宙での生身戦‥‥色々試させて貰いましょう‥‥」
 モニターを見ていた天小路桜子(gb1928)と終夜・無月(ga3084)がそう言う。カンパネラから少し離れた場所にある衛星へ向けて、傭兵達は移動を開始していた。
「衛星内部か‥‥‥‥。PODの他に、何かあればいいな」
 コクピットの中で、嘉雅土(gb2174)がぼそりと言う。破壊とキメラの殲滅が任務ではあるが、パーツの1つでも持って帰れば、それなりに研究も進むだろう。と、その横でヘイル(gc4085)が、油断なく周囲を見回しながら、考え込む仕草を見せる。
「どうだろうな。宇宙でのKV戦は何度か経験したが‥‥生身戦闘は初めてだな。色々試してみたいが、警戒は必要か」
(宇宙戦か‥‥。的にならなければ良いが‥‥)
 雅土とて正直不安だった。ティグレスから聞いた話では、聖那もその家庭環境から、切り込む事を躊躇わない。学園にいた時は、会長と言う立場とティグレスがストッパーだったのだが、それを外された今、彼女はその龍の翼で自由に宇宙を舞える。
(一年後‥‥俺はどうするか)
 戦いは、もうすぐ終わる。その後の予定は、何も決まってはいない。
「地上とは勝手が違うのは百も承知。むしろそれを楽しまねばな」
「違いない。皆、準備はどうだ?」
 闘争を望むフィオナ・フォーリィ(gc8433)の口元が、笑みの形へと変わったのを見て、雅土は他の皆に尋ねた。
「おまいさんが艦内の練習を提案してくれたんで、何とか特徴だけは頭に入ったが、艦内と外じゃ、重力度数が違うし」
「その辺は実際に確かめるしかないだろう」
 須佐 武流(ga1461)が頷いてみせる。ここへ来る前、アストレイジアの艦内で、低重力環境に慣れる目的で、一度手合わせをしてみたが、やはり皆勝手が少し違うと嘆いていた。
「聖那もそれでいいか?」
「ええ。構いません。何れにしろ、試すと言う行為は必要でしょうし」
 その中には、聖那も含まれていた筈だが、彼女は欠片も動揺した姿を見せていない。そんな彼女に、雅土は必要な物資を降ろしながら、こう言う、
「何か欲しいモノがあったら言ってくれ。って、爺さん遠慮がねぇな‥‥」
 マッピング用データを取り出したら、キャスターのジジィから、『欲しいパーツリスト』が表示されてしまう。3回くらいスクロールしないと終わらない量だった。
「あの方は、容赦しませんもの。けれどその分、研究も進むでしょうし」
「まぁ、借りるもん借りれたしな。ほい、赤外線スキャンの結果」
 その中に、外部から調べたデータが会った為、他の面々にも渡す。それを受け取った桜子は、「ありがとうございます」と謝意を述べながら、即座に侵入経路と必要なチームを示して見せた。
「これを見ると、一緒に行動した方が良さそうですわね。隊列は2人ないし3人で良いと思いますわ」
「適時考えよう。それでいいな?」
 雅土に頷く彼女。ヘイルがフック付ロープをそれぞれに渡し、計測と命綱がわりにするよう告げる中、彼は荷物入れの中から。小さな小瓶を、聖那へ2つ渡す。
「これは?」
「いや、ちょっとした気分転換だ」
 瓶には有名香水メーカーのロゴが刻まれていた。少し困惑したように、手に取る聖那。
「あまりこう言ったものはつけないのですが‥‥」
「まぁ受け取っておいてくれ。管理の方には、後で言っておく」
 桜と鈴蘭の小瓶を、聖那のスーツへと押し込む雅土。だが彼女はそれでも「ありがとうございます」と答えてくれた。
「つきましたわよ」
「では、参りましょうか」
 桜子が衛星へ到着した事を知らせてくれる。マッピングデータを渡された彼女は、相変わらずバイザー降ろしたまま、外の宇宙空間へと降りて行くのだった。

 着陸したのは、衛星の表面だった。着陸すると、雅土がKVに隠蔽用の同色シートをかぶせ、崩れた岩の影に牽引ロープで固定する。これで、見つかる可能性は少ないだろう。
「これで戻ってくれば、いつでも使える。ただし、時間はここまでだ」
 AUKVは優秀な宇宙服でもある。だが、それでも稼動時間には限界がある。それまでに、ここまで戻ってこなければならない。彼は皆にそう告げ、一行は衛星へと足を踏み入ていた。
「ここが衛星の入り口ですか‥‥。一番上は、何もない空間ですのね」
 桜子が慎重に歩みを進めていく。一番上は比較的障害物がなかったので、反動を利用して進む事が出来る。しかし反面、ふわふわと地を踏みしめる感覚がなく、桜子の歩みは自然と遅くなる。
「流石に重力は殆どないですわね。慎重に歩かないと」
 大丈夫だったポイントは、区切られたマスでもってマッピングしていく。手間はかかるが、無茶は出来ない。
「多少はあるが‥‥軽いな」
 須佐もまた、重力のかかり具合を確かめていた。さすがに無茶な走り方はしないが、飛び跳ねを繰り返し、その動きを確かめる。地上の任務から、それなりに飛び跳ねてはいたが、それよりも倍の距離が稼げる身の軽さを、彼は実感していた。
「周りに敵はいませんわね。1Fはフラットなエリア‥‥で良いかしら」
「ああ。そうだな。あの辺にも何も潜んではいないようだし」
 桜子に、グッドラックを使っているヘイルがそう答える。無重力と真空と言う要素は、一種妙な動きをするものの、自身に宿るエミタの力は、その遠近感の狂いさえ調節してくれる。便利なものだと思いながら、彼は周囲に緊張感を張り巡らせていた。
「地上でもこのくらい動ければ良いんですけどね」
「無理だろ。さて、地下へ向かう入り口は‥‥っと」
 マッピングとマーキングしている雅土に、そう答えて地下への入り口を探すヘイル。と、その視界が、九楽口を開ける穴のようなものを捉えていた。
「アレか?」
「そのようですね。こっちにも反応はないですわ」
 桜子も、赤外線スキャンの結果を見比べながら、頷いている。確認が取れた所で、聖那が「では、進みましょう」と、他の面々を促した。
「こっちか‥‥。中々に歩きづらいな。力の踏ん張りどころがわからん」
 須佐ですら、慎重にとも言えるゆっくりさで、穴の中へと降りていく。
「天井にも注意してくださいね」
「目印をマーキングしておきます」
 ふわりと浮き上がる感触は、衝撃を吸収してくれるが、反面ちょっとした力加減で、あらぬ方向へとぶっ飛んでしまう。桜子と雅土が口を酸っぱくして通信してくる様子に、苦笑するヘイル。
「自分の体重が感じられないというのは心もとないな‥‥。こういうのは慣れが必要なのだろうな」
「艦の中では、やはり擬似重力がありますから、上手く行きませんわねぇ」
 アストレイジアでは、それなりに緩衝材や専用通路がある為、さほど不便さを感じはしなかったが、やはりなれるまで少し時間がかかるかもしれない。
「上下の別も無い、と言う事か。ある意味動きやすいが」
「勢い余ってしまいますわー」
 壁を蹴って反対側へ行くヘイル。重力を無視した構造は、脚のつくところは全て床だと思って良いだろう。その証拠に、天井だと思っていたところに、何か部品を入れていたと思しきラックがあったりする。既に中身はからだったが、そこかしこに足跡があった。
「気をつけてくれ。敵がどこから出てくるかわからない」
 ヘイルがその足跡を見て注意するよう告げた直後、撮影していた雅土が盾を構えた。
「この先に反応がある。恐らくPODだな」
「奇襲に警戒しろ。反応のあるのは、その穴の先だ」
 フィオナも、進行方向上にある壁に厳しい視線を向けている。そこには、通路のようなものがあった。空気のない場所では、音などしないんだが、ちらちらと黒い影が見えた。
「‥‥言っている間に来たようだな。動きは速いが捉えられない事も無さそうだが‥‥さて、どうなるか」
 見回すヘイルだが、天井が気になる。そう判断し、外まで続いている穴を探す。
「反対側からも来ましたわ。囲まれてますわね」
 通路を警戒していた桜子が、頭上を指し示す。その光景を映像に収めていた雅土は、首を横に振った。
「やってみるしかないさ。おそらく、生成PODはその先だ」
 頷く聖那。どうやら戦うしかなさそうだ。

 動きは、向こうのほうが早かった。どれだけの生産能力があるのか、数が多い、ざっと20体と言ったところだろう。どうりで、バグア製なのに、赤外線なんぞに反応したわけである。
「牽制と姿勢制御が必要か‥‥」
 須佐はそう言うと、ミスティックTの電磁波を、蠍のボディめがけてぶち当てた。刹那、スコルのブースターが発動し、一気に距離を詰める。仕掛けてきたと思ったのか、熊のボディがその腕に装着された巨大な爪を振るったのを、前に屈んで避ける須佐。続く2撃3撃を、膝を落とし、腰を捻って頭を8の字にする。だが直後、無重力のせいか、内蔵の浮き上がる感覚。
(まずい‥‥!)
 そう思った須佐。軽くステップすると、重力を利用して宙返りで避ける。なんとか避けたその刹那、さすがに気持ちが悪くなった。しかし、そこへ逆に誘いが周囲を囲い、須佐を切り刻もうとする。
「この‥‥!」
 回転舞の動きが発動して、その連続攻撃をなんとかいなした須佐は、距離の詰まったその蠍に、スコルを装備した足を蹴り上げる。重力の干渉を受けないそれが、思いの他距離を稼いだのを感じ取り、彼は反対側で壁を蹴った。真燕貫突の技で持って、ドリルのように回転する体ごと、重なった蠍へとぶつかる。
「まだまだぁ!」
 何匹かを同時に撃破した直後、ミスティックTにも付与されたその技は、拳に電磁波を乗せて叩き込まれていた。
「これで3匹か‥‥‥‥。まだまだだな」
 残りは17匹。その動きは以前早い。
「いつもと違って、気を使う必要はないですからね‥‥」
 一方で、無月もまた攻撃を開始していた。聖剣「デュランダル」を振るう彼、必要があれば武器を変える事も考えたが、自身の中にあるエミタは、神速の抜刀や速撃ちを了承してくれない。それもその筈、持ってきた銃はバッグの中だし、足を速める瞬天速を持っているわけではないからだ。
「いきますよ‥‥」
 それでも、敵の頭部を狙い、必殺の両断剣・絶こと『闇裂く月牙(LUNAR†FANG)』を振るう。盛大な攻撃力を誇るそれは、無重力では盛大な反動を産む。限界を超えて輝いた一撃は、反作用で彼の体を同じパワーで持って壁へとたたきつけていた。
「真の敵は無重力ですね」
 注意をしていた為、それほどダメージは受けていない。普段、地球では周囲の影響を考えて、パワーをセーブしてきたのだが、今回はそれを是としなかった。その為、壁に盛大な穴が開いてしまう。その為、2撃目と3撃目を使う前に、他の傭兵達が攻撃を開始する。
「関節を狙えば良いか‥‥」
 猛火の赤龍と、静寂の蒼龍が、自身の能力を上げてくれる。龍の紋章が双方に赤く青く輝く中、彼はその腕の付け根を狙い、小銃で狙いを定める。だが、その足元は不安定だ。
「俺が支える」
 と、その足場になるべく震源する雅土。壁や天井も足場となるそこで、体勢の安定を安定させるため、しっかりと支えていた。
「‥‥わかった」
「援護いたしますわ」
 桜子が、エネルギーガンの引き金を引く。反動の比較的少ないそれは、蠍の毒針のすぐ下を切断していた。やはり、関節の部分は弱くなっているようだ。
「不用意に我の間合いに入るなよ!切られても知らぬぞ!」
 最後に、フィオナが射撃組から抜け出て、弱いと言われた関節部分へ、槍が繰り出される。だが、キメラは決して接合の弱いフィギュアではない為、蠍との接合部分では、あっさり受け止められてしまった。
「この程度では足りぬわ‥‥もっとだ‥‥もっと我を滾らせよ!」
 爪で切り裂かれながらも、凄みの混ざる笑みを浮かべるフィオナ。しかし、そこへ蠍の毒がぶしゅうっとお見舞いされていた。
「危ない!」
 桜子が、その間に割って入る。しゅうっと装甲が溶け始めた。じりじりと迫る蠍の刃。聖那が桜子をその一撃から退けようと、日本刀を振るう。
「くっ。のけぇ!」
 雅土の龍の翼が輝きを増し、その咆哮が熊のボディを押し戻す。そこには、先ほど無月が開けた穴。勢い余った熊スコーピオンが、押し出される。
 こうして、熊スコーピオン軍団は、ひっそりと宇宙の塵になったのだった。

 が、その変わりに、新たな問題が生まれていた。
「PODが‥‥‥‥!」
 桜子が示した先で、天井を支えていたPODが、その形を崩壊させていた。生成能力は、その市中代わりにもなっていたのだろう。しかし、戦闘の影響で、あちこちの壁に穴が開き、重力の影響を受けなくなったPODは、徐々にその姿を変えて行く。結果、どうなるかと言うと。
「急げ! 崩れるぞ! 聖那?」
 ヘイルがバラバラになる部屋を予見して、上に逃げるよう告げた。だが視界に、ふよふよと浮き上がる1つのパーツに、彼は目を留める。
「これ、何かの役に立つか?」
「バラせば、准将が参考にしてくれるでしょう」
 それは、PODについていたコントロール用の本体。確かに、戦闘データや解析はそれに詰まっているように見える。いわば、パソコンの本体だ。そう答えた聖那が、重力に干渉されないのを良い事に、よいせっと片手で持ち上げる。
「やるじゃないか姫様も。でもアンタに何かあると‥‥お付の人間が騒ぐからな。ここは俺に任せとけって」
「わかりました。ここは手を出さない事にいたしますわ」
 大切な部品なので、彼女は脱出突破を、須佐に任せ、いそいそと愛機へ戻って行く。その後を雅土が追いかけていく。
「まだ足りんな‥‥もっと戦って宇宙での戦いの勘を身につけねば」
「ふむ。月狼には宇宙の方が合っているようですね‥‥」
 先ほどまで言い合っていたフィオナは、無月がそれなりの理由を持っていた事を聞いて、その矛先を収めていたり。そして、アストレイジアへ戻る聖那へと、声をかける。
「それはともかくとして‥‥戻ったら風呂に入りたい。聖那、湯殿への案内頼めないか?」
「聖那なら、あっちだが」
 答えたのは、須佐だ。
「お姫様の名前はコレで良かったと思う、凄く。所で聖那の前の会長ってどんな奴だったんだ?」
「私も、会長がいなくなってしばらく経ってから就任したので、詳しくは存知ませんが‥‥。やはり黒髪の方だと聞いています」
 見れば、仲良さそうに話す雅土と聖那の姿がある。
「せっかく船の案内を頼もうと思ったのに」
「終わったら案内してくれるさ。きっとな」
 ちょっと残念そうな須佐くん。今回の事を含めて、意見交換がてら交流しようとしたが、先を越されてしまったようだ。
「個人にはなりそうにないが‥‥待つか」
 彼女の事だから、言えば時間を作ってくれるだろう。それまでは、少し大人しくしていたほうが良さそうだった。