タイトル:【AS】緑の地に浮かぶ船マスター:姫野里美

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/11/28 21:00

●オープニング本文


●ブリュンヒルデの末妹
 グリーンランドに鉄道を敷設する計画は、着実に進行していた。だが、それと同時に、ゴットホープでは、もう1つの計画が浮上していた。
 某月某日、プチロフのマークをつけたヘリが着陸する。
「末娘殿は、無事到着したのか?」
「はい。こちらです」
 タラップを降りて行くのは、プチロフらしく寒冷地仕様のスーツを着こなした御仁が2人と、その真ん中で筋骨隆々としたガタイを隠せずにいるおっさんである。彼らは、ゴッドホープのエレベーターで、地下へと降りて行く。
「よう、来たなラッコ」
「その名で呼ぶんじゃねぇよ、煙草野郎」
 スライドしたドアの向こうで、作業着姿のまま、彼らを出迎えたのは、キャスター准将である。返す刀で、ばっさり言い返して、白い歯をにかっと輝かせるプチロフの御仁。後ろの黒服が頭を抱えていた。
「まぁいいやな。おまちかねのお姫さんは、もうご到着だぜ」
 顎で行き先を指し示す准将。そこには、大きなガラス窓があり、その下に巨大な船が横たわっていた。周囲では、幾つもの作業用機械と、それを動かす人員が見える。
「おお、あれが姫か。どうだ、我が社の社員は優秀に活躍しているだろう!」
「声でけぇよ。ったく、うるせぇのは飲み会の時だけにしとけっての」
「年中無休で酒かっくらってる奴が何を言うか。それはともかく、姫君は無事、ダンスを踊れるんだろうな」
 どうみても、居酒屋トークにしか見えない中、巨体を収めたスーツの中で、ラッコと呼ばれた御仁は、准将に問いただす。
「パートナーを大募集中だがな。問題は、このままだとただのでかい船だ。ラスホプはともかく、カンパネラのお供にできねぇよ。ようやく姉が嫁に行ったんで、OKでたばっかだしな」
 ガラスの画面にモニタリングされた船が浮かぶ。浮力の数値は、素人にはよく分からないが、NGと言う単語を見る限り、厳しいのだろう。
「ふむ。策はあるんだろうな?」
「おう、翼は押さえてある。まぁ、ちょっとばかり遠出が必要だけどな。おまいさんのご自慢の荒くれどもを借りたい」
 と、それに重ね合わせるように、グリーンランドの地図が浮かぶ。ミジンコに謎の背骨が浮かんだようにも見えるその地図では、おめめに当たる部分にチューレと書き記され、外側を行くルートが示されていた。
「問題は、まだ仮校舎なことだけどな」
「かまわねーよ。どっちみち、ガッコに戻ってくるのに必要なんだから」
 すでに、カンパネラは浮上のカウントダウンに入っている。助力の姫騎士となるには、多少の無茶は覚悟せねばならない。
「というわけで、姫騎士をエスコートする奴を大募集だ。間に合えば、浮上を特等席で眺める事も出来様さ」
 そう言って、准将はカンパネラへと連絡するのだった。

●出航
 それから、24時間後。
『今回は、皆に大事なお仕事があります』
 ゴッドホープでUPC制服を着た聖那が、併設のモニターで、語りかけてくる。
「会長直々とは‥‥。重大な任務なんでしょうね」
『内容はそれほど難しくはないのですが、設備と言う意味では大切なお仕事です』
 食堂で、誰かがそう言う中、彼女が後ろのモニターを操作する。と、そこに浮かんだのは、ブリュンヒルデ・シスターと銘打たれた、巨大な船だった。ここぞとばかりに割り込んできたジジィが、凡そ偉い人には見えない作業着姿で、解説してくれる。
『俺だ。この姫さんを、空へ上げる」
 ジャパンクールに引っかかりまくっている准将の台詞だ。この場合「空」というのは、青空曇り空も大気圏ではなく成層圏ぶち抜けた先にある宇宙のことだろう。
「ちゅーれの基地から、こいつを空にあげるだけの材料が見つかったんでな。姉を上げた技術はあるんで、こいつも空へ上げることになった。だが、計画を練っている段階から、妨害ウイルスらしきもんが送りつけられてきてなー』
 全部除去っては来た物の、ゴッドホープでさえこれなのだから、この先実力行使をしてくる可能性があるそうだ。対応の為、准将が一足先に準備を整えてはくれるらしいが、何しろ重量が重量だ。

「カンパネラ用としてロールアウトしたブリュンヒルデ級を、宇宙へ上げるため、護衛を求めます。敵の妨害が酷いと言う任務ではないのですが、場所が場所なので、色々な意味で耐久性のある方が必要です」

 と、彼女は内容を告げた後、こう続ける。
「それと、出来れば、名前を。いつまでもブリュンヒルデの妹では可愛そうです。我がカンパネラの旗艦ともなるべき船ですから」
 そう。そのシルエットには、まだ名前がなかった。
「戦乙女級‥‥。それでそろえるのが筋なのでしょうけど、我が分校で仕上げるのなら、せめて忘れえぬ方々の名前をつけてあげたいですわ‥‥」
 戦乙女か、それとも先輩諸氏の事を忘れぬ名前か。
 戦場の乙女に悩みは尽きない。

 その頃。グリーンランドにて。
「ふむ。外が騒がしいと思ったら、そう言う事か」
 闇の中、モニターの前にたたずむ一人の姿。
「だが、都合が良い。あの体は手に入れそこなったが、ならばその倒した方を手に入れるのも、悪くはあるまい」
 その画面には、数々の戦いが映る。その中には、倒されたタロスやSSの姿もあった。
「何しろ、ここには材料だけは豊富にあるからな‥‥。感謝するぞ。人間ども」
 そう言って、振り返ったそこには、カンパネラを下から攻撃するルートが示されていた。

●参加者一覧

里見・さやか(ga0153
19歳・♀・ST
須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
鷹代 由稀(ga1601
27歳・♀・JG
天龍寺・修羅(ga8894
20歳・♂・DF
天小路桜子(gb1928
15歳・♀・DG
嘉雅土(gb2174
21歳・♂・HD
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
クローカ・ルイシコフ(gc7747
16歳・♂・ER

●リプレイ本文

 ゴッドホープ地下格納施設‥‥。到着した高速艇からKVと物資が運びこまれ、出航の準備が整えられていた‥‥。
「久しぶりだね。聖那くん」
 出迎えたのは、既にUPCの制服に身を包んだ聖那である。欧州スタイルのハグと挨拶ちゅうをしてくる夢守 ルキア(gb9436)に、同じくハグで応えた聖那は、いつもの柔らかな笑みを浮かべ、艦の乗降口へと足を進めていた。
「ええ。しばらくぶりですわ。ああ、そんなに緊張しなくてもよろしいですわよ。まだ出航前ですもの」
「そっか‥‥」
 安心した声を出すのは、嘉雅土(gb2174)。先を行く聖那の姿を、どこかまぶしそうに見ながらついて行く。
「新しい船か‥‥」
 巨大な‥‥そう言って差し支えない大きさの船を、至近距離で見上げる須佐。護衛のKVを収容してもなお余る大きさは、ブリュンヒルデの妹姫を名乗るに相応しい。
 だが、その名前を示すタグは、いまだ空白だった。まずは、それを決めなければ、出航も出来ない。その為、一行は、艦のすぐ側にある詰め所へ、まずは腰を押し付ける事になった。皆が考え込む中、須佐 武流(ga1461)がこうきり出した。
「ハーモニウムとなると‥‥知っている中でちょうどいいのが一人いる」
「どなたでしょう?」
 聖那が聞き返すと、彼は過去の報告書‥‥に添付されていた写真を引っ張り出す。そこには、綺麗な黒猫が添付してあった。
「それは「ノア」だ。今は例の処置が成功して生きている‥‥。猫としてだが」
 考え込む聖那。
「処置の数少ない成功例として彼らの希望ともなる。そしてノアの箱舟‥‥船にはちょうどいいかと思ってな」
「俺は反対だな」
 が、それには雅土が首を横に振る。「何で」と名案を邪魔されてしまった須佐に、彼はこう続けた。
「さすがに、そのままは不味いだろう。色々事情はあるとはいえ、彼等は被害者で在り、加害者でもある。公式に殺害履歴がある名は特に‥‥軍人の乗艦拒否理由になるからな」
 彼とて、別に悪いと言っているわけではない。確かに、事情を知らない一般人から見れば、猫になろうがなるまいが、ハーモニウムはバグアの手先だったかもしれないから。
「事情を知らないって言うのは、面倒だなー。何か代替え案あるか?」
「俺からはグラドゥアーレとアンジェルスかな。ハーモニウムで弾く曲で名前になりそうなのが之位‥‥流石に分かりづらいか」
 ピアノの曲らしい。確かに本人が言う通り、言いなれない名前だ。と、部外者と前置きながら、クローカ・ルイシコフ(gc7747)がこう言い出した。
「敵方とはいえ、アストレアと言うのは、まごうことなき戦乙女ではなかろうか」
「残念ながら、無関係な者にとっては、ボスでしかないからなぁ」
 関係者や報告書に目を通した者にとっては、それなりに誇り高き戦乙女だろう。しかし、一般人にしてみれば、吹雪をもたらした氷の女王だ。
「ここは、やっぱりその辺を切って、別の名前にしたら? カリステジア何か良いと思う。花言葉は絆。ヒルガオの学名」
「絆、か‥‥」
 ルキアが、別の側面から名前案を提案してくる。雅土が、聖那の方を見て、そう呟いた。
「そう、絆。今度は、強かなヒルガオになると、信じて。戦ったコトあるのは、シア君ダケだケド、繊細なヒトだった」
 花には、相応しい。そう思わせる艦を見上げて。
「皆様のご意見、大変参考になりますわ。輸送が完了するまでに、決めて起きます。まずは、中へ」
 その思いを受け止めながら、聖那は一行を船へと案内するのだった。

 基本的な流れは、天小路桜子(gb1928)の提案に皆が乗る形で、出撃と作業と待機を、一定期間繰り返すものだ。とは言え、艦の周囲を警戒し、敵襲に備えると言うものである。
「この程度の集中維持できなきゃ狙撃屋なんてやってられないわ」
 ばしゅううっとKVで艦の外へと出撃していく鷹代。長時間の集中は、芸能人としての活動でも、狙撃手としての仕事でも慣れている。
「確かSSのパーツが回収されてるって話あったわね‥‥。気象データから予測できない吹雪や天候変化があったら、アラート出して」
 そう言った直後、天気予報にはない雲の姿が見える。みれば、数機のワームがこちらへ向かうところだった。
「いってくる。援護を頼む」
「了解。けど、高度が高いほどこっちが不利、か‥‥面倒な」
 戦場には高度差がある。まだ飛び立ったばかりの2機よりはるか上に、ワーム達は集まってきていた。ぼやく鷹代に、クローカは兵装を切り替えながら、こう要請してくる。
「狙撃だけ支援をしてくれ。艦には近づかせない」
「頼んだわよ」
 後ろに下がり、ばしゅばしゅと迎撃する鷹代 由稀(ga1601)。前後のバディを崩さないように出撃され、空に軌跡が舞う。と、程なくして、ワーム達はさっさと見えない距離へと潜ってしまう。
「偵察だったのかしら」
「何れにしろ、警戒は続けておいた方が良さそうだな。接続作業が滞るか‥‥。いや、時間はある」
 被害は最小限に抑えられたと判断したクローカは、空母への着艦を行いつつ、次のローテーションへと移行するよう告げる。
「ノルマっていうのは、能力に応じて課されるものなんだ。つまり‥‥‥‥ね。」
 風対策でワイヤーロープをセッティングしてもらい、自身へも飲み物の補給をしつつ、作業へと入って行く。
「理はあってるわね。肩と腰のマウントは多目的ラッチだから、作業用の機材つけても構わないわよ」
「そうさせてもらおう。何、緊急時には出て貰うんだしな」
 鷹代の申し出に、そう言ってワイヤーを取り付けるクローカ。淡々と作業は進むが、それも真面目さの表れと思い、彼女もまた半固定しての作業を続けて行く。
「さっきの、陽動じゃないと良いんだけど」
 まだ、敵の本体は現れていない。それを気にしながらも、まずは妹姫を仕上げる事に集中するのだった。

 次の当番は、ルキアと天龍寺・修羅(ga8894)だ。
「なるほど、ここをこうすればいいのかー」
 事前に作業方法を聞いていたルキアが、貰ったマニュアルを片手に、材料を引っ張り出している。
「まぁ流石に出来ぬ事を任せぬわけはないだろう。これも必要な事だ」
「むしろ、コントロールとかの、説明トカ欲しい。私も資料貰おうかな、扱えるようにしたい。何があるかワカンナイし」
 外装に取り付ける強化ボード等を運びながら、そう言う天龍寺に作業を任せ、ルキアはある瓶を手に、指示している准将の下へと向かった。
「ねーねー、これ差し入れなんだ。中身見せてよー」
「ったく。しょうがねぇなぁ。一応機密条項なんだが」
 いずれ、傭兵達が乗ることになるだろう船である。准将はそう言って命のお水を受け取ると、見学しても差し支えない部分へと案内してくれる。ただし、見学者は彼女達ばかりではなかった。
「あのう、ここは入ってもよろしいのでしょうか?」
「おう、かまわねーぜ」
 非番の桜子と里見・さやか(ga0153)もまた、見学に訪れている。特にさやかは、それまでの経験上、船には興味深々のようだ。
「うわー。ミタコトナイのがいっぱい‥‥」
 宇宙を視野に入れたシステムなので、海にいた頃とはだいぶ違う。そこでは、聖那が艦長席に陣取り、スタッフが忙しく働いている。で、そんなブリッジには、さらに見学者が2人。雅土と須佐である。
「あら、2人も見学?」
 ルキアが意外そうな顔で、聖那との間に割って入った。
「いや。聖那の顔を見に、な」
 そんな雅土のセリフに、桜子がひそひそと隣のさやかに囁く。
「意外とストレートですわよ。どうしましょうさやか様」
「ここは、やはり見守るのが吉でしょうか‥‥」
 どうみても誤解されているような気がしてならない。頭を抱えた雅土が、「何言ってやがる。俺はダチの顔を見に来ただけだー」と言い返すと、いやんとオレンジな悲鳴を上げながら、見学コースへと戻って行った。
「ったく・・・。なんだってんだよ」
「今は休憩中ですから、いいんじゃないでしょうか」
 宥めるようにそう言う聖那。そんな彼女を、雅土は「ふうん」と呟きながら、しげしげと見つめた。
「何か?」
「いや、聖那、軽くなった? 違う、楽になった? 『会長』のままだったらコレも言い出せなかったんじゃ、と思ってさ」
 自分を、出し始めたような気がする。が、聖那自身は困惑した表情で、首を横に振った。
「私は、特に変わったつもりはないのですが‥‥」
「それでも、会長じゃなくなったんだろ。何と呼べばいい? 希望がなければ聖那で構わないか?」
 須佐が、肩書きの変わりになるものをと申しでる。「構いませんよ」と穏やかに答える彼女。名前を呼ばれる事に躊躇はないらしい。学生ではないが、何度か見たことのある姿。UPCの制服も中々のもの。美人は得だなと、そう言ったセリフが頭の中によぎる。
「そういえばこの船‥‥あんたが艦長やるのか?」
「はい。そのように聞いていますわ」
 既に、艦長席は聖那の名前がインプットされている。その激務を思い、雅土が激励のセリフを口にした。
「ま、頑張り過ぎるなよ。倒れたら、重大な損失だしな」
 個人的にも。
「ところで、じいさん。ウィルスの発信源の特定はできたか? 恐らく意味はないだろうがもしかしたら何かわかるかもしれない」
 そう思ったかどうかはさておき、須佐はさっきから知らん振りをしている准将に尋ねていた。モニターに映ったデータベースには、過去の発生時気が記されている。
「そーだなー。もしかしたら、表のどんぱちは時間稼ぎの可能性が高い。こっちも今、必死で細切れにしてるが」
 その手元は、KVの動きほども早い。その玉の汗を見る限り、結構な負担のようだ。
「あんたが倒れたら八方塞だ。適度に休めよ?」
「ばぁか。俺を誰だと思ってんだよ。これくらいなんぞ、ミクの原稿作業に比べたらマシってモンだ」
 にやっと笑うジジィの背中は、不安でもあり頼もしくもあり。

 場面は再び第二種警戒態勢へ戻る。
「何でもお申し付け下さいませ。ところで、荒天が予想されるとのことですが、移動物の固縛は大丈夫ですか?」
「はい。既にしっかりと固定されておりますわ。ここに、磁力固定とかありますし」
 さやかと桜子は、内部の荷物を固定する作業を行っていた。ベルトばかりではなく、特殊加工されたロックがかけられている。ところがそこへ、緊急を告げるアラートが鳴り響いた。
「あらあら。またですわね」
「この作業、途中ですよね。どうしましょうか」
 作業はまだ途中だ。と、話をふられた桜子は、通りすがりの野郎2名を捕まえて、こうきり出した。
「そうですわね。そこのお二方」
 見れば、須佐と雅土である。「え」と怪訝そうな顔をしてみせる彼らに、桜子はさらに続ける。
「お手伝いして下さいましな」
「俺は体力を温存しておこうと思ったんだが、そうも行かないか」
 苦笑する須佐。美人の頼みは断れないのだろう。酸さもまた、貧乏性故か、頼みを引き受けてくれる。
「終わったら、砲台になっておく。直衛頼んだ」
 それに、須佐は警戒用に、自身の機体を甲板へ運んでいた。それが終わって、少し休憩していたんだが、時間はあまり残っていない。
「了解した。大事なお姫さんだ。そろそろカンパネラに戻る時間だしな」
 既に、浮上ポイントに到着してもおかしくないのだが、どういうわけか、出力が上がらないようで、准将が調べているそうだ。
「まぁ、ウィルスに関しては、俺では力になれぬだろうし、餅は餅屋に任せておくとしようか」
 そんな准将に、ウィルス除去作業を進めて貰う中、天龍寺は哨戒任務へ付いていた。しばらく哨戒していると、機体のアラームが鳴り響く。
「おいでなすったな。どうしても空には上げたくないと見える‥‥」
 見れば、凡そ10機程度のワームが、相変わらず重力も完成も無視した動きでこちらへ向かっているところだ。
「散発的とも思えるけどね。ほーらいくよー!」
 敵との距離が遠い為、スナイパーライフルがお見舞いされる。しかし、宇宙用に換装していた為に、それほど威力はなかった。
「時間を稼ぐつもりか‥‥。本部、どうする?」
「落とさせるつもりはないように見えます。恐らく、本命が別にあるはず。お引取り願って下さい」
 艦橋からの指示に、ばしゅばしゅと弾がばら撒かれる。仲間との連携を重視するルキアと天龍寺。そこへ、アラートを聞きつけたさやかと桜子が出てくる。
「護衛を任された以上全力を尽くす。それは信用してほしい」
 そう言い残し、作業していた須佐が、出撃していく。かなりの高度にたどり着いていたが、思ったほどの力強さが、妹姫に見られない。
「マシントラブル。やはり時間稼ぎか‥‥!」
 かてて加えて、姿を見せるは氷をまとった青い機体。准将の「この忙しい時にっ」というぼやきも、なんとなくわかる気のする須佐。
「最初からそれを狙ってたんだろ。じいさん、準備まだか!?」
「もう10ターン持たせろ! それまでに何とかする」
 切羽詰った声が聞こえてくる。次々に出撃していくKVを見て、聖那はモニターを凝視していた。
「時間を稼いで下さい。データ班は、復旧を。システムをダウンさせてはなりません」
 静かに、けれど力強く。姫君を落とさせないように、と続けて。
「こっちだ!」
 その姫君の前へと進む雅土。艦橋の聖那を、一瞬だけ目に焼きつけて、業と派手な火花を散らして行く。シルバーブレットが、須佐の身から敵を引き離していたところ、さやかが下の方から警告を告げてくる。
「こっちにも敵が! やはり、弱い下腹部を狙ってきたようです」
 自分なら、どこを狙うか。それを考えて、桜子と共に下へと張り付いていたのだが、どうやら当たりだったようだ。
「ひっかかったな。こんのぉぉぉ!」
 下の方で2人が戦っている間、囮に引っかかったワームを叩き落とす雅土。空中で派手な爆発音が響く中、雲の隙間に、場違いな銀色の筋が見える。
「カンパネラ確認。浮上ポイントよ」
 その上‥‥雲の彼方に浮かぶのは、空中要塞と化したカンパネラだ。そこまでくると、要塞護衛のKV達が、危急を知って駆けつけてくれる。
「では、お姉さまの所へ参りましょうか。聖那、名を」
 ほっと胸を撫で下ろす中、桜子が銘を促す。数秒目を閉じた彼女は、UPCへの登録コードを入力させながら、その名を刻む。
「ヴァルキリー改級飛行空母アストレイジア‥‥発進!!」
 ヒルガオの戦乙女。絆を示す名。その息吹となるブースターは、どこか希望の息吹のように思える。
「結局、あの事を話す暇はなかったわね」
 その光を見て、そう呟くルキア。結局、過去の悪行を語る事は出来なかった。それは、彼女の友人であるクローカにも言えること。
「良いんじゃないか? ばれないならそれはそれで良いさ」
 思い出したくない記憶も、世の中にはあるのだから。