タイトル:【GR】北の荒ぶるラッコマスター:姫野里美

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/10/24 19:19

●オープニング本文


●GR鉄道計画
 その計画は、カンパネラ学園の関係者を集め、チューレ基地跡を利用する形で、行われる事になった。
 残骸と化した基地は、言い換えれば資材の宝庫でもある。そして、上手い具合に空いた土地を放って置くのも勿体無いだろうと言う事で、話はまとまっていた。
 しかし、かの地にはまだ、敵も多い。
 莫大な資金のかかる事業に、極北と言う観点から工事を請け負ったのは、かつてシベリアに鉄道を通したプチロフ。
 その代表マルスコイ・ボーブルは、作業員達の安全確保を、その条件に求めた。
 さもありなんと頷いた学園側の総責任者は、ウォルター・マクスウェル卿。
 加えて、会長でもある龍堂院聖那、技術部門の責任者はキャスター・プロイセン准将と、それぞれの関係者が、それぞれの役目を持って、再び極北の地へと赴く事になる。

 グリーンランドに鉄道を。

 基地を作り、街を作り、それを結ぶ。絆と‥‥共に。

●ラッコ現る
 鉄道と言うのは、線路と共に駅があるものだ。掃討作戦が進む中、拠点となる駅の建築は急務となっていた。
 すでに、土台の設置は終了しているが、外観の調整や、耐震補強工事等はこれからである。グリーンランドに根付いてしまった野良キメラ等の襲撃にも耐えられるよう、工事は重厚に行われていた。
 そんな駅建設の現場に降り立つ、壮年の男性がいた。
「ほほう。ここがGR鉄道か!」
 作業用のディーゼル機関車に乗り込み、仮設駅を見渡す彼は、筋骨隆々そうな体躯を、無理やりスーツの中に押し込んでいる。慌てて飛び出してきた事務所の人間を尻目に、作業員達がヒソヒソと語る。
「なぁ、あのおっさん誰だ?」
「さ、さぁ。現監がやたら頭下げてるから、本社の偉い人じゃねぇの?」
「そいつが何で、俺達と一緒に現場出てんだよ」
 見た事のないプチロフの作業員さん達が、怪訝そうな顔をしている中、そいつはウォッカを手土産に、にかっと白い歯を輝かせる。
「細かい事は気にすんな。プチロフの民は、上下の身分なんぞなく、鍬を振るい、槌を打って来たのだ。いくぞ! どりゃあ!」
 スーツをはちきれさせ、側にあったつるはしを振り下ろすおっさん。傭兵登録をしているのかは知らないが、どごぉぉぉっと深い穴が開いた。
「うわー、中々ぱわふるだなー。傭兵さんか?」
「かも知れないが、俺らの仕事をとらんでくれ」
 泣きそうな作業員さん。確かに傭兵の方がパワーはあるものの、作業員さんは生計がかかっているのだ。と、おっさんはロシア人らしき胸毛をチラ見させながら、ふんぞり返る。
「心配はいらん! 俺は現場を荒らしに来たわけじゃない。給料は今まで通り払う。ただ、仲間に入れてくれ!」
「そいつはいいけど、邪魔だけはしないでくれよ」
 無駄な熱さに、げんなりしつつも、仕事を続ける作業員さん達。そこに割り込むおっさんは、天気予報を眺めつつ、こう聞いてくる。
「今日の行程はどこまでだ? よし、吹雪が来るまでには完成させるぞ!」
「そう行きたい所なんだが、この辺りは広いし、それにシロクマかなんかも目撃されてる」
 作業表には、キメラ予報なる項目があり、シロクマ多しと書いてある。が、おっさんはお構いなしだ。
「シロクマのスピードに、我々プチロフの気合いの斜め四十五度が負けるとでも言うのか! いや! ない!」
 がぁぁぁっと盛り上がる。その様子に、作業員はついていけないようだ。
「面倒なおっさんきちゃったなぁ‥‥」
「まぁ、パワーあるから任せとこうぜ」
 無駄に熱い御仁は放っておくに限る。そう確信する作業員さん達だった。

●行方不明ラッコ
 その頃、ゴッドホープで。
「プチロフ側の代表者と連絡が取れない? 大事じゃねぇのか、それ」
 ジジィがプチロフ側に泣き付かれていた。
『取れないのではなく、まともな会話にならないそうなのです。襲われるような危険エリアではないので。こちらが通信履歴です』
「代表者ってあいつかい‥‥。確かにあいつならやりそうなこった」
 プチロフ側の代表者に、見知った飲み仲間の顔がある。マルスコイ・ボーブルの名前で発進された通信履歴では、時折怒声を響かせながら、槌を振るうおっさんが切れ切れに見える。
『ご存知なのですか?』
「何度か飲んだ事がある。いやー、流石に本場のウォッカは強ぇわ」
 准将の肝臓がちょっと心配になったのは、その秘書課の人だけではあるまい。
『ありがとうございます。では、うちの特性もご存知ですね』
「おう。しっかし、地吹雪が通信機狂わせてるな。もう少し強化しないと、役に立たんぞ」
 駅予定地には、緊急用を兼ねて通信機が置いてある。ゴッドホープにいつでも連絡が取れるような品だが、吹雪の影響か、音声が途切れがちだ。
『向こうで調整していただければ。ただ、先方から裁可の必要な書類が滞っているそうです』
「面倒だなぁ。そんなの、秘書のやるこったろう」
 うっとーしそうな准将。しかし、秘書課の人は事務的に続けた。
『プチロフとしては、内容が開発に関わる事なので、傭兵達の手を借りたいとの事です。実際に護衛をするのは傭兵の皆様ですから』
「実地試験って事か。まぁ、聖那号の件もあるしな。つなぎくらいつけてやるが‥‥そっちは任したぞ」
 そう言って、准将はカンパネラのミクを呼び出すのだった。

●シロクマVSラッコ
 その頃、工事中の駅では。
「野良キメラキターーー!!」
 どごぉぉぉっと、仮駅舎と銘打たれた耐寒性能持ちのプレハブが凹む。慌てたのは作業員さんだ。
「掃討が進んでいるんじゃなかったのか?」
「野良だから、どこかからか現れたんだろう」
 傭兵による作戦が進むとは言え、キメラ1ダースくらいは、やってくるのだろう。餌を求めて目を血走らせている。
 が、ここでもおっさんはその熱さを忘れなかった。
「おのれぇっ。熊ごときが我がプチロフの作品を汚そうとは、片腹痛いわァッ」
「ああっ、ちょっと旦那!」
 作業員が止める間もなく、飛び出して行くボーブル氏。ばりばりと外装をはがそうとするシロクマに完全と立ち向かって行く。
「全速前進! プチロフの技術は世界いちぃぃぃぃ!!」
 どごぉっと斜め四十五度が決まった。が、FFは一般人のしゃがみアッパー大パンチ、中段キックバスターなんぞ、まったく通用しない。

 その結果。

「やっぱり無理だったじゃないっすかぁぁぁ!!」
「えぇい、我が伝統の駅舎を傷つけさせてなるものかぁぁぁぁ!」
「無茶っすよぉぉぉ!!」
 作業員達と共に、駅舎を逃げ回るラッコの姿があった。

【プチロフの代表が現場へまぎれました。駅舎にシロクマ型キメラが現れているので、勝手に無茶やっている可能性があります。書類の裁可がおりないので、行って捕まえてきてください】

 同じ頃、そんな募集がカンパネラでかかっていた。

●参加者一覧

比良坂 和泉(ga6549
20歳・♂・GD
鈴木 一成(gb3878
23歳・♂・GD
禍神 滅(gb9271
17歳・♂・GD
御剣 薙(gc2904
17歳・♀・HD
月見里 由香里(gc6651
22歳・♀・ER
柊 美月(gc7930
16歳・♀・FC

●リプレイ本文

 チューレ基地駅の建設地へ向かうのは、それほど苦労はなかった。高速艇はすぐ近くまで向かう事が出来、挨拶は滞りなく進む。
「僕、禍神 滅です。皆さん 宜しく」
「よろしくですぅ」
 少し緊張気味の禍神 滅(gb9271)に、ふわふわした口調でそう答える柊 美月(gc7930)。
「作業員の皆さんに怪我させる訳にはいきませんし、ここはうちもきばらなあきまへんな」
 月見里 由香里(gc6651)がそう意思表示をするが、彼女は相変わらずのふわふわ語録で、こう言った。
「ラッコさん達を保護するんですよね。なんだかちょっと楽しみ? ですぅ」
「勝手に無茶やってる可能性があるって事だけど、責任ある立場の人がそんなんでいいのかなぁ‥‥」
 参考資料を見る限り、どこかの局やらで見たバラエティっぽい。頭を抱える御剣 薙(gc2904)だが、彼女はのほほんと続ける。
「え、漫才見物に行くんですよね?」
「違いますから。緊急対応ですから」
 目的は白熊キメラ退治だと聞かされ、美月は初めて知ったような顔で、周囲を見回して見た。
 どこからか、白熊のような雄叫びが聞こえたような気がする。
 見れば、隣で比良坂 和泉(ga6549)が小刻みにガタブルしていた。
「そう言えば、キメラさんの数が多いような気がしますう。ほら、この人なんか、震えてる☆」
「こ、コレですか? いや、いわゆる武者震‥‥へぷしっ!」
 盛大にくしゃみをする彼。自分が思う以上に、寒さに弱かったようで、極北の気温を満喫中である。
「無茶はしないで下さい。場所が場所ですから、防寒対策はしっかりと‥‥。ジャッジメントにも弾を込めておかないと」
 そんな中、不備がないように確認している禍神。自身の銃に初弾を弾込めをする。銃のセーフティを外し、いつでも撃てるようにして。
「わぁ、何か取っても緊張感が漂ってますぅ」
 その様子に、ちっとも緊張しているようには見えない声で、美月が楽しそうにそう言っていた。

 準備を整えた彼らが向かった先では、プレハブの駅舎に、白熊キメラが群がっていた。
「あれが例のキメラですか‥‥」
 時々、ガタイの良さそうなおっさんが顔を出しては、作業員のにーちゃんに止められている。しかし、キメラの方が鼻が良いらしく、あっという間に見つかっていた。
「追いかけられている方が、ラッコさんですよね」
「おそらく‥‥」
 資料画像を見なくても、おっさんが『ラッコ』である事は明白だ。美月のセリフに、そう答える比良坂。
「しかし、白熊‥‥でかいなぁ」
 まだ距離があるにも関わらず、それでも威圧感のある大きさだ。比良坂が、そこから引き剥がそうと覚醒し、周囲を見回す。
「まずはあいつらを引き剥がさなきゃいけないでしょうねぇ。よろしいですか?」
 ここからなら、充分建物から遠ざけられるだろう。足元も、割としっかりしている。と、そこへ月美里がこう言った。
「その前に、敵の数が多いんで、みなさんこちらへいらっしゃいませ〜。ぼちぼちと強化かけますよって」
 ハーモナーとしての技量は使わず、元サイエンティストの知識と技量を使う事にした。比良坂をはじめとするキメラ対応班の面々は、様子を見ながら練成術による強化をかけてもらう。
「えぇと、まずは覚醒‥‥」
 そう言うと、禍神はポリッシュシールドを構えて、自身に障壁をかけた彼の後ろで、やっぱり緊張気味の比良坂が、仁王のように咆哮した。
「緊張しますね。こっちへ、引き寄せなくては‥‥!」
 その放たれた殺気は、駅舎から離れた傭兵達の場所へと誘導できる筈だ。
「きしゃああああ!!」
 白熊の3匹が彼の方を向いた。白熊に知性があるようには見えないが、元々の能力値が違うので、継続できるかは定かではない。
「うぉぉ!? 白熊が明後日の方向を向いた!?」
 驚くラッコの前で、足元が滑らないように注意しながら、双斧『パイシーズ』を構えて、一歩前に進み出る。禍神がポリッシュシールドに身を隠しつつ、白熊へと影撃ちを発射。しかし、その一匹が、咆哮の束縛から離れたのか、ラッコへ遅いかかる。
「まちなさぁぁぁい!」
 刹那、薙のAUKVにスパークが宿る。ばちばちと火花を散らしながら、速度を上げた彼女は、白熊の振り上げた腕めがけ、全身にスパークを纏いながら、その身を蹴り飛ばしていた。
「こっちですー」
 その直後、美月がのほほんとおててを振っている。一瞬、呆然としていたラッコだったが、彼女の姿に、さらに混乱した表情をする。
「何故そこに日本の美少女がいるんだ?」
「え、どこにですか?」
 明らかに自分に指差されてるのに、きょろきょろと周囲を見回す美月。
「僭越ながら、柊さんじゃないのでしょうか」
「えー。薙さんの方が素敵ですよぉ」
 普段、あまり気の強い方じゃない鈴木が、恐る恐るそう言うが、美月は引き続きキメラと格闘している薙の方を指し示す。作業員が全力で逃げ回りながら「どっちでもいいから、早くこれ何とかして下せェェェ」と絶叫していた。
「おもしろーい。あれが体を張ったお笑いですね!」
「「ちがーう」」
 そうツッコミを食らう美月さん。と、ラッコは気を取り直したのか、薙が相手にしているほうの白熊へ突っかかって行く。
「むう。れでぃの前でみっともない真似は出来ん! 行くぞ野郎ども!」
「わーー! 旦那無茶しないで下さいよぉぉぉ!」
 必死で止める社長。そこへ襲い掛かる白熊。だが、その身は、比良坂の横槍‥‥いや、横斧が叩き込まれた。
「きしゃああ!?」
「一応これも『サカナ』ですけど‥‥歯を立てるのは骨ですよ!?」
 誰うまな事を言いながら、パイシーズを振るう比良坂。その様子に、作業員達が歓声を上げる。
「おおー、白熊を一撃で!」
「すげー、俺本物の傭兵初めて見ただー」
「どうみても可愛い女の子なのになぁ」
 やんややんやと喝采を上げるのんきな作業員さんに、ラッコが「えぇい、何を軟弱な!」と一括していたが、それを制したのは、鈴木 一成(gb3878)だった。
「まぁまぁ社長」
「ばっ、誰が社長だっ」
 既に彼がプチロフの代表である事はお見通しらしい。キメラの誘導を仲間に任せた鈴木さんは、黒服の秘書みたいなポーズで、懐からあるものを取り出した。
「隠さなくてもよろしいのですよ。ええ、御社の製品にお世話になっている者の一人として、日頃の感謝とお礼の印として‥‥ウォッカをご用意させていただきました‥‥ええ、お好きだと聞きまして」
 彼が差し出したのは、ロシアの美味しいお水。一般名称ではウォッカと言う奴だ。酒に目のないらしいラッコこと社長はにやりと笑う。
「おお、気が効くではないか。よかろう。俺の正体がばれた件に関しては黙認してやる」
「それはありがたい事ですな。ささ、こちらへどうぞ」
 10本程自腹で用意してきた鈴木、そのウォッカをちらつかせながら、仮駅舎の方へと誘導する。同じく作業員さんを誘導した美月が、ウォッカとレーションで釣り敢行中。
「外は危ないので私達に任せて中にいてくださいね〜♪」
 御酒とつまみを与えられた酔っ払いは、自分の危険とかピンチとかそっちのけで、「出来ればあの傭兵さん、お酌とかしてくれないのかなぁ」とか「お前は寿司バーの影響受けすぎだー」とか、好き勝手ほざいている。
「‥‥では、ごゆっくり‥‥私は少々キメラ退治に‥‥一応傭兵ですから‥‥自分の領分で全力を尽くすことが、社会に対する貢献かと‥‥ええ、空気読まずに出てきたキメラ共をブチ割りに行って来ます! イヤァーッハァァーー!」
 そう言って、仮駅舎の扉をがらがらがらと閉じる鈴木。途中でうっかり覚醒してしまい、槍斧「ガープ」を担いだまま、飛び出して行く。
「さてと〜今回メインのイベントですね。ここまで数が多いのは‥‥やっぱりちょっと怖いです〜」
 まるで、荒野を全力疾走するならず者に見えるテンションの高い彼。その姿に、全然そうは見えない態度で、のほほんと自分の武器を取り出す美月さんだった。

 その頃、キメラ対応班は、意外と早い白熊の動きに翻弄されていた。
「まったく。白熊なのにっ。斧の攻撃を避けるだなんてっ」
 パイシーズを振り下ろすもの、当たらない場合も多い比良坂。向かってくる白熊の熊パンチを斧でいなして、後ろへ回り込もうとする。鎖でつながれているのを利用し、すっ転ばせようとするのだが、白熊はたたらを踏んで踏みとどまり、変わりに踏み潰されそうになる。
「でかいくせに、動きがパネェ」
 殺気を全開にして、白熊をひきつけている禍神が苦笑しながら足を踏ん張り、腰を落とした。そこへ、ベア九ローが炸裂するが、ポリッシュシールドで受け止める彼。
「このぉぉぉ!!」
 同時に、弾倉まるごとお見舞いする勢いで、ジャッジメントの引き金を絞る禍神。至近距離で放たれた弾丸が、毛皮を撃ちぬく。
「ヒャッハァァァァァ!!! 先手ひっしょぉぉぉぉ!!」
 反対側の‥‥咆哮の対象外になってしまったキメラには、鈴木が先手必勝と言わんばかりに撃ちかかり、紅蓮の衝撃で盛大な一撃を食らわせていた。氷の世界に花咲く赤き一撃に、白熊が思わず膝を付いた刹那、薙が自身の火力を底上げする。目指すは、駅舎に張り付いたほうの白熊だ。
「猛火の赤龍! 竜の咆哮! そこから離れろぉぉぉ!」
 建物から引き剥がすように、反対側の‥‥美月がいる方へとふっ飛ばす。これで、駅舎が壊れる可能性は低くなった筈。
「わわ、こっちきた。んと、これをどうすればいいのっ?」
 その美月、目の前に転がってきた白熊に、そう尋ねてくる。
「「やっつけて!!」」
 薙と禍神はハモった。
「わかったよー。んと、まず動きを止めなきゃ。えい」
 黒刀「鴉羽」を手にした美月、起き上がった白熊に、上から置くように振り下ろす。いや、落としている。カウンターの要領なのだが、位置が悪かったせいか、顔を上げそびれた白熊の首が、ごろりと地面に転がった。
「あれ? こうじゃなかったっけ」
 本当は、機動力を削るつもりだったのだろう。迅雷で近付くと、下半身を狙って、えいっとばかりに円閃で斬り付けていた。天然に似合わず、意外とごつい娘さんである。
「きしゃああ!!」
 残りの白熊のうち、別方向から突っ込んでくる白熊。そこには、鈴木がげしげしと斧でつんつくしていた。
「こんのクソボケカス、のこのこ出てきやがってゴルァ!!ここにおわすは天下のプチロフの社長じゃあ、技食らったら効いてなくとも倒れてみせんかいボケェェ!! それが上役に対する礼儀ってもんじゃああ!!」
 おらおらフクロじゃフクローー! と、ろしあんまふぃあも真っ青なバイオレンスっぷりである。 
「2番と3番が弱ってるようやで。こいつで援護したる!」
 そこへ、月見里のヘスペリデスの杖が、強烈な電磁波でもって、白熊の動きを止めた。杖型の超機械であるそれは、黄金に輝く玉と蛇のおめめで、相手の分析をしてくれる。いわゆる練成弱体と言う奴だ。
「一気に距離を詰めるよ!」
 動きの鈍くなった白熊へ、薙が走輪装甲と龍の翼でスピードを上げ、体当たりと言う名の格闘戦へと持ち込んで行く。
「地に頭こすり付けて全世界とプチロフ社に詫びてから往生せいやぁぁ!!」
 斧が振り下ろされる。寒い為か、いつもより八割り増しで荒らぶっている鈴木くんだった。

 要約方が付いたのは、それからしばらくたってからの事。
「僕 汗かいちゃったよ。へぷちっ」
 盛大に動いた体に、冷たい風はとても冷える。思いの他可愛らしいくしゃみをする禍神さん。
「みなさーん。怪我人がいた場合には、ご挨拶するんですよ。ボーブルさん達も、お怪我はありませんか?」
「うむ。これさえあれば百人力だ!」
 比良坂が救急セットを取り出しているが、ラッコ社長はウォッカを飲んでいれば、多少の怪我はなかった事になるらしい。打ち身が殆どらしく、すでに極北の冷気で充分冷やされているようだ。だが、そんな彼に、月見里が眉根にしわ寄せて詰め寄ってくる。
「前線で皆を鼓舞するんも指導者のあり方の一つや思いますけど、後ろでどっしり構えて皆に安心感を与えるんもトップとして考えなあかんと違いますやろか?」
 自分がどうこう言う立場ではないが、上の連中が危険な真似をすると、部下としては気が気ではない。それを考えて欲しいと言うわけだ。
 ところがラッコは。
「いやー。元気な現場を見たら、いてもたってもいられなくなってな。やはり、人間からだを動かすのが一番だ!」
 前線で鼓舞しているつもりは、全くなかったらしい。いわゆる現場大好き(はぁと)な人間のようだった。
「それはそうと、これ持っていって良いですか?」
 そんな社長に、禍神が、転がっていたキメラの死体を抱えてその処分を尋ねてきた。
「構わないが、どうするんだ?」
「皮が暖かそうですから。それに、白熊を食べる機会って、あまりないですし」
 毛皮を敷物に加工してもらい、お肉は後で熊鍋にしてしまおうと提案してくる彼。味噌味だったりカレー味だったりするお鍋に、社長も興味心身だ。
「なるほど、それは是非食してみたいな。ちなみに我がプチロフでは、食料供給車も作ってるぞ。銀河のパクりだが」
 前線への食料供給が目的なので、自社開発品ではないそうである。まぁせいぜいロシアの気候に耐えられる位の寒冷装備を追加した程度だそうだ。
「その前に、戦闘で破損した場所を直さないと」
「任せておけ。皆、我がプチロフの技術を知らしめる時だ! 酒の仮は体で返すぞ!」
 薙にそう答えて、作業員を促す社長。白熊に壊された駅舎のあちこちで、がんがんと釘とハンマーの音が響く。
(この人にエミタ適性があったら、周囲の人は気が気じゃなかっただろうなぁ‥‥)
 専門知識はないが、補修資材くらいは運べる薙さんは、そんな彼らの仕事姿を見ながら、そう思うのだった。