●リプレイ本文
グリーンランド、カンパネラKV研究施設。
「けっひゃっひゃっ、我が輩はドクター・ウェストだ〜」
ドクター・ウェスト(
ga0241)のいつのもの自己紹介が続く。
「顔見知りも多いので、始めます。KVの方には、すでに参加者のデータを送付しておいたので、後はモニターを参照して下さい」
そんな自己紹介を華麗にスルーして、寺田がそう言った。だが、その目の前には、何故か、実験会場には相応しくないセットが置かれている。
「しかし、――何故こんな北の地で宇宙対応機を? せめて試験をする際には赤道近くの方がよくないかね?」
UNKNOWN(
ga4276)が持ち込んだものののようだ。窓の外には、ちらつく小雪。北の大地では、夏場といえどかなり低い気温を誇るグリーンランドでは、それも珍しくはない。不明の問いに、寺田はその気候を理由に上げた。
「低温の方が、宇宙に近いからですよ。40度近い高温を、絶対零度に冷やすくらいなら、元々マイナスの方が良いでしょう?」
「なるほど。機材の問題と言うわけか」
その昔、実験をする際には、地上に同じ施設を作ったと言う。同じ事を、ここでも計画しているそうだ。
「それと、一応学校の実験なので、これは控えて下さい。苦手な人もいますから」
で、その寺田が、不明からブランデーを取り上げている。年代もののそれをお預かりされて、彼は不満そうだ。
「准将‥‥見ていてください! カンパネラ魂で、私がんばりますわ・・・!」
一方、お空の上にジジィの笑顔を浮かべつつ、心に誓う鬼道・麗那(
gb1939)さん。どうみても無茶しやがっちゃった画像だが、ジジィの場合ジジィなので洒落にならない。
「准将生きてるかなー」
「ピンピンしてますよ」
夢守 ルキア(
gb9436)にそう答える地堂球基(
ga1094)。通信画像先で、KVの操縦席をコントローラー型にしようとか言う研究をやっているあたり、その心配は杞憂に終わったようだ。
「キャスター君の方が話がわかるかもしれないが‥‥寺田君。錬力と装備はこの程度なのかね?」
「ええ。これ以上増やすのは出来ないそうです」
そんなジジィなら、こんな時何とかしようと言う気概が感じられるが、寺田は違う。そう、無理なものは無理と、ドクターにはっきり宣言してしまっている。
「ふむ。だが、何度でも言うが、宇宙空間を反作用でしか機動できない我々には、やはり燃料不足が心配だからね〜」
まったくブレずに、向こうで活動できるだけの装備を要求してくるドクター。しかし、KVと言うのは、性能を上げれば上げるほど、おぜぜもかかると言うもので。
「これ以上の大きさにすると、値段が跳ね上がっちまうよ。量産化の面でも、価格は☆2つ程度に抑えてーな」
ラス・ゲデヒトニス(
gc5022)がデータを見ながらそう言った。他のKVと比べると、手に入れやすい機体と言うのは、必要不可欠だ。
「ふむ。ならば機体性能を若干下げてはどうかね〜。スロットさえあれば、強化と兵装で補えるのだから。例え能力がくずでもね」
微妙に酷い事を言っているドクターさん。「今のデューク君だと、容赦ないからー」とは、ルキアの弁。
「でもでもぉ。それじゃあ、優等生機体になっちゃいます〜」
「だめなのかい?」
地堂が首をかしげる。優秀な機体というに反対されるとは思わなかったようだ。
「ええ。だってそう言うのは高級機にお任せしますわ。この子には、オンリーワンな相棒になって欲しいんですもの」
ながながと語る闇会長さん。
「と言うわけで、機動性と運動性が全然足りないと思います」
「それはいいけど、この知覚アップ系なのは何?」
彼女が出してきた概要書には、知覚に☆がみっつ割り振られていた。
「発射時の反動とか慣性があるので、いっそ物理兵装は放棄で‥‥」
「難しいですね。そもそも、翔幻はそう言う機体コンセプトではないですし」
すっぱりと切り捨てる寺田。
「でも、知覚機体は欲しいかなぁ。まぁ、僕個人の要望かもしれないけどね」
「確かに、大気と言うものがない分、レーザー系を得意にした方がいいかもしれないね」
ルキアにそう答える不明。宇宙では、たとえ小石の大きさでも、速度差で大きなダメージを受けたり、太陽風が機材を狂わせたりするのは、子供向けの宇宙解説でも知られている話だ。
「で、抵抗を少し高めに、と」
「西王母の対策技術を使えば行けるんじゃないかね。何せ、大気がない分、環境はずいぶんと異なるだろうし」
「防御はゼロにして、その代わり抵抗にプラスをつけて、プロトン砲対策どうかなって。衛星から、プロトン砲トカ来たんだよね、前に」
抵抗を上げたい意見はルキアも同じ。寺田は少し困った子を見る表情で、皆の意見をまとめにかかる。
「つまり、どうしてもやっぱり物理を切って知覚で殴る機体が欲しいと」
「うん。だって使ってみたいんだよねー。知覚型」
それで開発にねじ込まれても困ると言うもので。地堂が首を横に振る。
「難しいんじゃないですかねぇ。先生」
「ええ、無理ですよ。この場合、安定した生存製がコンセプトですから、知覚機にするのはダメです」
データを上乗せして見たが、そうするとそもそものコンセプトから大幅に逸脱してしまう。それでは、用意された設計に合わない。
「えー‥‥」
「ダメなものはダメです。知覚機が使いたいだけなら、他の知覚機を使いなさい」
納得出来ない様子の麗那とルキア。
「だって、当たらなきゃ意味ないじゃん」
「そもそも今回は、当たる事よりも、生き残る事にコンセプトを置いた機体ですから。そう、低価格でね」
ゼロから作り上げるものではないので、好きなように機能が入れられるわけではないようだ。
「せめて、少し装備力を上げるとか良いのではないのかね。防御は、宇宙を舞台にした限り、なくても良い気がするんだが」
「平均値を取ると、これ以上下げられませんよ」
他のKVより劣る状況では困る‥‥との事。不明を含め、考えていた時、地堂がこう言った。
「うーん、どうもふり幅が多すぎる気がするよ。そうだね‥‥VUと同じ感覚で、幅を総計☆4個以内に収めてはどうかな」
それぞれの項目がホワイトボードに記され、横に青い色のマグネットが4つ、貼り付けられた。
「ふむ」
スロットに積み込む感覚に近い。それならば、とドクターは迷わず装備と連力に☆代わりのマグネットを2つ乗せる。
「偏ってますよ。まず重視する能力を絞りましょう」
地堂が検査項目にチェックを入れるように、数値をスライドさせる。と、ここでもやはりそれぞれ言い分があるようで。
「それなら、2、1、1じゃね?」
とラス。
「知覚入れたいんですけどぉ」
相変わらず知覚欲しい麗那さん。
「命中いれよーよー」
当てなきゃ意味がないルキアさん。
「生命の変わりに錬力を増やした方が安全と思うがね」
ドクター相変わらず首尾一貫。
それらに一つ一つ修正をかける形で、寺田は通せる通せない理由を告げて行く。
「知覚はダメです。命中も、これだけあれば充分でしょう。燃料不足に関しては、カンパネラに限らず、研究が進められているので、問題はないかと思いますよ」
「ふむ‥‥。補給艦か‥‥」
確かに、KVだけで宇宙へは考えづらい。みすみすやられに行くような愚は、さすがにUPCも侵さないだろう。
「はっきりした事は言えませんが、KVだけで宇宙に上げようと言うわけでは、ありませんから」
寺田も、何か聞かされているらしい。ふむ、と連力の心配がなくなったドクターは、やはり細かい調整は個々で行えるルートを選ぶ。
「それなら、装備の方を重視したいね〜。後は命中に生命に練力を、ベースに帰れるだけは追加と‥‥これでいいかね」
「ええ、これなら先方も納得してくれるでしょう。折り合いが付かずに販売停止になるよりは、マシでしょうしね」
そう答える寺田。大人の世界は厳しいようだ。
「ところで、軽食はでないのかね」
もっとも、その大人の1人は、紅茶片手に腹減ったコール中だったりする。そこだけ黒一食で飯を催促する不明に、寺田は時間を確かめ、昼休憩を取る事を宣言するのだった。
1時間半ほど、和やかな食事風景が流れた。
次はスキルの調整になった。
「よし、ない頭が冴えてきたぞ!」
お腹一杯になって仮眠を取った結果、能に糖分が行き渡ったらしい。ラスが、スキルのイメージを寺田に伝えた。他の面々も、自身のイメージを伝えるが、彼のが一番具体的だったようだ。
「ふむ。ではこれに手を入れて行く形で、考えてみましょうか」
「どんなのでしょう」
地堂が訪ねると、彼は骸龍の煙幕装置を引き合いに出してくる。向こうは煙幕だが、幻龍の場合、積み込むのは細かなチップだ。
「ここはこだわりたいよね。回避を高めるから、自機の回避の尖ったトコを活かせる。ついでに、傭兵で回避型が多い気がするからさ。やっぱり、当たらなきゃ意味が無い、どんなに強くなってもさ。回避を高めるんだから、とがった所を活かした方が良いだろうしね」
ルキアがそう言った。とことんまで回避をあげれば、どんな威力の高い攻撃も当たらなくなると言うのは、KVもバグアも変わらない。
「で、練力多めにしたし、沢山使おう」
「そこまで増えたわけじゃなさそうだから、節錬第一だろ」
ラスが首を横に振る。宇宙で無駄づかいをしたくないのは、ドクターと同意見らしい。
「宇宙でも使える事は勿論ですが、大気圏でも使うようにしないといけないですよ」
「機雷式にしたらどうでしょーか。あと、磁気嵐にしてみるとか」
地堂に、そう提案してくる麗那。骸龍の煙幕もまた、カートリッジ式なので、この辺は上手く融合できるだろう。寺田がそれに修正を入れて行く。
「むずかしーものだねー」
珍しく研究部らしき姿を見せる彼に、ドクターは興味なさそうにそう言った。どうやら、装備さえ増えれば、後は問題ない模様である。
残りのスキルは2つ。
「で、次に特殊電子波長装置なんだけど、αのカテゴリーが少なくなってきたんで、こっちでも良いかもしれないね」
「生存率と量産機と言う観点からはどうでしょうかね」
地堂の案に、元々の設計をあまり弄らないようにしましょうと釘を刺す寺田。
「えー。せっかくこう言うの考えたのにー!」
麗那がなんだか有線式のユニットがついたイラストを持ってくる。なんとなく、やりたい事がなんだか読めた寺田が、首を横に振った。
「距離を伸ばして、全面対応をしたいのはわかりますが、元々のコンセプトが違うので、そこまでのものを仕上げられないんですよ。残念ながら、ね」
「えうー」
涙ちょちょぎれる麗那さん。
「せめて、命中と回避の修正値と範囲は、骸龍と同じにしちゃどうだ? 逆探知の半径を少し遠めにして‥‥半径20km以遠くらいで‥‥高感度カメラとか併用して、方向誤差を減らすとか‥‥」
「カメラの精度上げても、波長装置には直接関係がありませんし、同じだとつまらない子がそこにいますから」
ラスにそう答える寺田。その視線の先には、ルキアと麗那がいる。
「先生、そうすると強化駆動装置を削ると言うのは難しいですかね。宇宙で入らないと思うのですが‥‥」
地堂が宇宙様に特化するのなら、地面を蹴る方はいらないのではないかと言う案だ。
「使うのは宇宙だけではないので」
しかし、使うのは宇宙ばかりではない。地上に降りたらゴミだったとかいうのでは、話にならないとのこと。
「だったら、おまけ程度に考えたらいいんじゃないか?」
「いや、それならいっそつけない方が良いと思います」
「ふむ。じゃあこいつは諦めた方が良いか」
今までの事を考えると、ちょっとだけを重ねるのは、あまり良い方向ではない。
「提案だけはしてみましょう。なければないで、生存率が下がりますし」
しかし、努力はしてくれるのだろう。そう知って、少し安心するラスだった。
開発は、もう少しだけ続く。
「これ、C.Or.E ver2.0は採用されるのか?」
「バージョンは既存でしょうが、非常用脱出機能としては備わっていますよ。元々、流用できるものは流用するのが奉天機ですし」
ラスにそう答える寺田。わざわざ外すようなフレームを作る事もない為、すでにロールアウトされているものは、そのまま採用されるだろうとの事。
「幻霧使うなら、こいつを分離して、本体を囮に脱出できると思ったんだが‥‥。使いどころは悩むか‥‥」
「一時しのげればいいかもしれませんがね」
ただそれは、模擬戦の後、確かめられる事柄だろう。
色々あったが、日暮れを迎える頃には、試作品としてほぼ製品版と変わらないものが出来ていた。
もっとも、急ごしらえなので、戦闘用の装備はほぼ皆無に等しいだろう。
「じゃ、いくとするかね」
「高高度にはバグアの機体がいたりするので注意しておくよ。これもあるしね〜」
「注意事項はいつもの通り、と。展開します」
それぞれの機体に搭乗した彼らは、出撃する際と同じ様に、空中で2機ないし3機の編隊を組む。射出された空中の的へ向かい、一通り機体機能や兵装のテスト、ブースト持続の無茶な機動、それによる加重や練力増加による戦闘継続能力など観測していく。やはり、重力のある場所では、有線式は重たいので、ふよふよ浮くのは低重力時に限られるだろうとの事。練力少し多めに割り振っても良さそうだ。値段の割には、だが。
と、そこまで判明した時だった。
「ドクター、やはり現れたようです。どうしますか?」
「むう、あまり良い雰囲気ではないね」
地堂が、ヘルメットワームの登場を告げる。高度を見ると、成層圏の外輪部だ。おまけに今は、武装をそれほど持っていないので、避けたい相手ではある。
「では実験を中止し引き返します。よろしいですか?」
「本意ではないがね」
普段なら、レーザーの1つも叩き込みたい気分だが、流石に研究中の新機体を、発売前に教えてやるほど、ドクターの守秘義務感は失われていない。
「後で寺田に、観測結果レポートを纏めるのを手伝わせる事としよう〜」
「宿題は自分でやらないと意味がありませんよ」
データのバックアップを済ませるドクターに、地堂は寺田が言うであろう事を代弁する。
「って言うより、デューク君、骸龍のVUってまだー?」
そのデータをコピったルキアが、ぐるぐると衛星の様に飛んでは、ドクターの口から魂を飛ばさせているのだった。