タイトル:【AC】マンゴー頭の復活マスター:姫野里美

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/08/17 23:38

●オープニング本文


 その場所を良く知らない人々にとって、モロッコと言えば、名物は性別に納得行かない人々の聖地‥‥と言う意識があるが、今は違う。その証拠に、モロッコのとある町には、UPCのトラックが乗りつけられ、幾つか簡易ではないテントが並んでいた‥‥。
「来たぞ。中央開けろ! そこのドラム缶どっかやっとけっつっただろ!」
 そこへ、UPCのマークをつけた輸送ヘリは到着する。謎の液体が詰まったドラム缶を蹴飛ばし、転がっている様々なロープや金属片をどかして、急遽作ったヘリポートらしき場所に、降り立つ輸送ヘリ。
「お待ちしておりました」
「いえ。前線にお邪魔するような形で申し訳ない。それで、状況は?」
 出迎えたのはUPCの制服を着た兵士だ。階級章を見ると、現場の人間のようである。その兵士が説明をしている相手は、ティグレスだった。
「こちらではなんですから、中で」
「わかりました」
 テントの中へと案内される。幾分風通しがよく、通信機や画像分析機等が設置してあるそこには、見たことのある特徴を持った建物の周囲に、あまり見たくない存在がうろうろしていた。
「と言うわけで、教会と付属する孤児院が丸ごと制圧されています。キメラだけならば、なんとか我々でも‥‥と言った所なのですが、なにしろ‥‥増殖体なので」
 建物は、キャンプから2時間ほど車で進んだ場所にある街の教会らしい。孤児院を兼ねていて、事情のある子供を預かっているそうだ。その周囲に、マンゴー頭の付いたタロスと、それに従う3匹のユダ増殖体がいる。
「中の人質の数はわかりますか?」
 厳しい表情をしながら、それでもいつもの口調から、敬語に変わる彼。UPCに入隊する事が約束された身分でも、今はまだカンパネラの代表だ。
「はい。これが画像です」
 画像がズームする。大きく開けられた窓から、教会のホールに集められた人々の様子がはっきりと見て取れた。
「いいか! 良く聞け! 貴様らは栄光ある我が尖兵として選ばれたのだ!」
 怒鳴っているのは、かつてジブラルタル海峡で恐怖のずんどこに落としいれていたマンゴー頭の家老である。しかし、相手にしている子供達はまだそんな事理解出来ないのか、それぞれ勝手に喋っていた。
「えー」「尖兵ってなーにー」「なー、俺そろそろ出勤なんだけどー」
「しー。騒ぐと大変な事になる。じっとしていような」
 この地域では、15才にもなると、働きはじめる。文句を言う子供達に、父親代わりの牧師が宥めようとするが。
「みゃー」「みゅー」「みょーー」
「みゃーん‥‥って、何をやらせる!」
 おふざけしている子供に思わず乗ってしまい、ポーズまで決めてしまう。直後、怒鳴り散らすものの、既にとき時間切れ。
「わーーい、怒ったー」「きゃっはー!」
「全く。ユダ増殖体を貰ったのに、何でこんな目に‥‥っ」
 キャッキャと逃げ回る子供にげんなりしたマンゴー頭の背中に衝撃が。見れば、走り回っていた子供1人2人が、よじ登っている。
「ねー。おなかすいたー」「あー。マンゴー」
「くおらぁぁぁっ。昇るなぁっ! 人の頭を引っ張るなーーー」
 振り落とすマンゴー頭。中には尻餅を付いて泣き出す子もいたりするが、そこは知らん振りだ。むしろ、頭を抱えたのは、外で覗いていたティグレスである。
「なんだこれは‥‥。しばらくは平気じゃないんですか?」
「かもしれん‥‥。責任者の牧師とシスター、3歳から15際までの子供が6人、他に年配のご夫婦がひと組み。合計10人ですね」
 牧師とシスターは、子供達の親代わり。もうひと組みの夫婦は、遅れていた避難を手伝うつもりで牧師を尋ねてきた信徒の方‥‥日本で言うと檀家さんだそうだ。教会の工事をした時の同意書に、名前が乗っていたのが確認されている。
「結構な数だが、相手から何か要求はあったんですか?」
「それが、まだないのですよ。ひょっとしたら、中の人質そのものが目的なのかもしれません‥‥」
 牧師は、働き盛りの父親年齢、シスターは20代後半。単純労働力や、素体としての利用が可能な年齢である。子供を掻っ攫ってきて洗脳するのは、この地では昔からある手法として敬遠されている。
「しかし、相手はタロス。KVは置けるほど隙間がないか‥‥。あれを生身で追い払えるか‥‥」
 依頼の目的は彼らを救出すること。さほど数は多いほうではないが、タロスとユダのパワーが未知数なので、やりづらいかもしれない。
「ティグレスさん?」
「いえ、こっちの話です。早晩、追加人員が来るだろうから、注意して様子を見ていてください」
「わかりました」
 それでも、ティグレスはそう言って監視を続けるよう頼み、急ぎカンパネラへと連絡を取るのだった。

『教会に立てこもったタロスとユダ増殖体を潜り抜け、中の人々を救出する。狭さの都合でKVは使えないが、目的は人質の救出なので、倒す必要はない。上手くやってくれ』

 なお、AUKVを含めた、KV以外の車両の持ち込みは許可されている。有効に活用して欲しいとの事。

●参加者一覧

流 星之丞(ga1928
17歳・♂・GP
辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
ヒューイ・焔(ga8434
28歳・♂・AA
依神 隼瀬(gb2747
20歳・♀・HG
ジリオン・L・C(gc1321
24歳・♂・CA
エレナ・ミッシェル(gc7490
12歳・♀・JG

●リプレイ本文

 話は単純な人質救出作戦だ。熱風の吹きつけるそのキャンプでは、UPC軍の協力もあって、物々しい準備が進んでいた。
「あのマンゴー頭が復活したって聞いたぜー」
 ヒューイ・焔(ga8434)ががさごそと、因縁浅からぬ相手を聞きつけて、フェイスマスクを手に、作戦準備室へと入ってくる。
「ええ。あの時は、みすみす逃してしまいましたから。こうなる可能性は否定できませんでした。しかし、子供達を人質に取る卑劣な手段見過ごすわけにはいきません…仮面のヒーローではありませんが、子供達の未来、僕達の手で取り戻して見せます」
 そこでは、流・星之丞(ga1928)ことジョーが過去の映像を手に、UPCの兵士達に、概要を説明している。辰巳・空(ga4698)の提案で、細かい所をすり合わせしている最中なのだが、いずれも厳しい表情だった。
「ヒーローになるのは良いですけど、生身でやりあうには、厳しい相手ですね。視界が大雑把な所を付くしかないのでしょうけど‥‥」
 出来る限りの事はするつもりだが、何しろ相手はパイロットがへぼと分かっていてもタロス。小型と分かっていてもユダだ。倒す事は目的ではなくとも、厳しい。
「しかし、あのマンゴー‥‥頭に付ける意味って何だろうな‥‥」
「さぁ。たろ酢とかユダとかよくわかんないやっ」
 依神・隼瀬(gb2747)が、画像のマンゴー頭に、怪訝そうな表情を浮かべている。もっとも、エレナ・ミッシェル(gc7490)はそんな事はどうでもよく、マンゴーシャーベット‥‥と、食い気全開だ。
「エレナ。アレ、一応強化人間なんだよ?」
「じゃあ、がんばって人質救出しないとねっ!」
 と言うか、よく分かっていないらしい。子供らしい素直な彼女に、空が教会周辺の地図を広げる。
「これがこの辺の地図。それから、教会の内部図になります。皆、迷子にならない様にお願いしますね」
 通路を抜けた先にあるらしい。工事をした際の図面が広げられ、所々に○で囲まれた場所がある。タロス、ユダ、マンホールと書かれたそれを、ジリオン・L・C(gc1321)に渡そうとして、空が首をかしげる。
「あれ? そう言えば、勇者がいない‥‥」
「あっち」
 エレナが指し示した先では、葵鎧の勇者サマことジリオンが、鏡を相手に、笑顔とポーズの練習中。
(きらっ!)
 その刹那、鏡がびしっと壊れた。どうやら古いものだったらしい。
「ま、まぁ言われた物と、地図は向こうにも渡してありますから、放っておきましょう。他に必要な物は?」
 慌てる勇者はさておき、そう尋ねる空。と、隼瀬がはいっと手を上げた。
「スモークグレネードを使いたい。できればショットガンで撃てるものを。無理なら、チョークの粉とか小麦粉とか、とにかく軽くて舞い上がりやすいものを頼む」
「ああ、それくらいならお安い御用だ。向こうにあるから、言えば出してくれる」
 参加していたUPCの兵士さんが、トラックを指し示す。幾つかに分散しているキャンプを見て、空はこう依頼していた。
「ついでに、兵員輸送車もお願いできませんか? 普通の車だと、煙幕弾が使い難いので‥‥」
「俺のKVを盾に出来ないか?」
 焔が村の外に人型でスタンバイさせているハヤブサを指し示したが、彼は首を横に振った。
「いや、それも使いますけど、煙幕吸い込んじゃうと、まずいので」
 軍事用なら、その辺りのカバーをしてあるだろうと言う計算だ。余り数がないので、兵士は一度通信機の所へ向かい、何やら相談していたが、数分して戻ってきた。
「無茶かもしれんが、あまり壊さないでくれよ。それに、乗り心地の良いもんじゃないし」
「そこは我慢して貰いますよ」
 どうやらOKが出たらしい。

 まずは。孤児院周辺の様子を、詳しく偵察することから初めて見た。
「だーーかーーらーー。俺は敵なんだってばーーー!」
「きゃっきゃっ」
 幸い、ボスのマンゴー頭は、人質に馬鹿にされているので、こっちには全く気付かない。それをいい事に、周辺地域を丸裸にしていく傭兵達。
「確かにあれは、あの時の家老のタロス…」
 ジョーが過去を思い出しながら、そう言った。あの一連の戦いの後、どうなったかはご存じないが、風の噂では、どこかで選挙に出たとか、怪しげな噂はミクから聞いている。
「にしても、負けなければ石の原っぱに好き勝手…」
「一体何の話だ?」
 ぶつぶつと珍しく文句をたれているジョーに、空が怪訝そうに首をかしげるものの、一瞬の後には、「…いえ、何でもありません」と、いつもの微笑を浮かべていた。
「そうですか。では、場所はこの辺で。待機していてください」
 そんな彼に、兵員輸送車を横付けしてもらう空。場所は、ちょうど境界から陰になる建物の隣だ。
「そろそろ、囮の稼動する時間ですね‥‥」
 時計を見るまでもなく、その時表から盛大に響き渡る高笑い。
「ハアーッハッハッハッハッハ!!」
 空の位置からは見えないが、その声からするに、ジリオンだろう。事実、境界の向いの屋根の上に、天鎧「ラファエル」を身につけたジリオンがご登場したところだ。
「なにっ。誰だ貴様!?」
「とーぅ!!」
 マンゴー頭がびしぃっと指先を突きつけたのを無視して、屋根から飛び降りるジリオン。

 ぐしゃ。

 やな音が響いた。
「おーい、着地に失敗してないか?」
 何しろ見た目は勇者サマでも、中身はサイエンティストなので、肉体的にはそれほど俊敏でも頑丈でもないのだ。
「そこなターロスェ…聞けェ!!俺様は!ジリオン!ラヴ!クラフトゥ!…未来の勇者だ!!」
 が、勇者ジリオン、痛そうな打ち身もなんのその。ビックリマークの度に練習したポーズを決め、名乗りを上げる。こうなると、黙って入られないのがマンゴー頭と言うわけで。
「その勇者が何の用だ!」
「勇者とは恐れず!立ち向かう者の事だ!タロスェ…貴様は、どっちだ!いや!言うな!」
 聞いといて答えさせない。これ、勇者的問答。
「ふははは。貴様が勇者だと言うのなら、俺様は魔王だ。遠慮なく潰させて貰う!」
 もっとも、向こうもその辺の話を聞くタイプではないので、偉そうに名乗りを上げ返す。
「よかろう! この熱き魂で貴様のその彷徨ったマンゴーヘッドを…導いてやる!であるからして…これを受け取れェ!!ちょああ!」
 受け取れといいつつ、手にした卵を、全力で投げつけるジリオン。ぐしゃっとつぶれたそれは、この炎天下で硫黄の匂いになってしまった生卵だ。
「おわぁぁっ。お前っ。勇者のくせにやりかたがえげつないぞっ!!」
「ふはははは。それが勇者と言うものだっ!」
 ドヤ顔で、胸をそらすジリオンだが、そんな勇者はどこにもいない。そこへ、今度は第二の刺客が現れた!
「久しぶりだな、おっちゃん。相変わらずマンゴーみたいな頭してんな」
「おまえはっ! やはり現れたか能力者ども!」
 浅からぬ因縁と言うか、見覚えのあるフェイスマスクに、マンゴー頭は、ようやく冷静さを取り戻したらしい。指揮官らしく元の位置に戻って、ふんぞり返る。
「ハアーッハッハッハ!ぶぁぁかタロスめェ!俺様と勝負だ!来い!」
「えぇい、やれ! ユダ増殖隊!」
 GO! とタロスの指先が、勇者と焔を指し示す。だが、焔はくるっと回れ右して、教会とは反対方向へ。
「鬼さんこちらーってな!」
「ほらほらこっちだよー♪」
 そこには、勇者にくっついている美少女と言った趣のエレナがいた。ドヤ顔でタロスに卵を乱舞させている間に、ユダ増殖体を2人して引き受けている。
 焔が瞬天速で、タロスの足元へと走りこみ、タロスの足を軸にして、あわよくばその脚や飛行ユニットへとダメージを与えようとするが、さすがに飛行ユニットにはダメージが通らない。足も、その分厚そうな装甲ではねられてしまった。
「あれ?意外とこいつら弱いよ」
 逆に、ユダのほうを積極的に攻撃していたエレナが、意外そうな顔をする。注意を引くのが目的だったので、あまり無理して攻撃しているつもりはなかったが、一応当たる。ダメージが通らなかったり、回避できなかったりする事もあるが、致命的な事に放っていない所を見ると、自分と対等か、それより少し下と言った所か。
「なるほど。増殖体って言ってもピンきりか。なら、親玉を目指すか。こいつはちょっと痛いぜ?」
 エレナが相手をしているユダが、全てにおいて共通と言うわけでもないようで、焔が相手取っているユダは、そこまで弱くない。それでも焔は、周囲の建物を縦がわりに、増殖体の触手をたたっきり、振り回してタロスにぶつけていた。それも片手で。
「えぇい、効くか。まてぇい!」
 叩ききった筈の手ごたえは硬い。ユダは2匹をカミツレで屠り、1匹はエレナが生贄にしていた。残り2匹は、腐った生卵乱打機と化した勇者サマを追いかけている。
「のわっ!!あ、危ないな!俺様が勇者の必殺技勇者よけで避けなければ‥‥怪我をしtぐわああっ!!」
 瞬天速で距離を稼ぐものの、魔割り込まれて一撃を食らったりする。
「いまのうちに‥‥。出してください」
「はい」
 そうして、香押すな戦場になっている間に、救出班が兵員輸送車を動かした事を、マンゴー頭は築かない。
「ちょこまかと逃げ回ってぇ! なめるなぁ!」
「しまったっ!」
 タロスが動いた。ぐいんっと手が伸びて、焔を捕らえる。
「ああもう。仕方がありませんね」
 それを見た空は、車から降りると、瞬天速と瞬速縮地を使って距離を詰め、足の関節らしき場所を攻撃する。アキレス腱のあたりをやられ、バランスを崩すタロス。
「あそこに叩き込め!」
「おっけー」
 ぐいっとエレナが鳳仙の先っちょで押した。焔も、手にしたカミツレで斬りつけると、足元に攻撃を集中させる。その先に、地面は無かった。
「おわぁぁぁあっ!」
 ずっぽりと足がはまり込むマンゴー頭のタロス。その下を、Gのごとき必死さでもって這い回る勇者。
「‥‥ふ。俺様にかかれば‥‥」

 臭いが無ければ、完璧だったのだが。

「私たちの出番は終わりみたいだし、帰ろ!」
 そんな勇者の姿に、ここが潮時だと判断したエレナが、勇者を持って、迅雷で戦線離脱したのは、言うまでもない。

 一方、時間軸は少しだけ巻き戻る。
「あっちは上手くひきつけてくれたみたいです」
 ジョーが偵察がてら様子を見てくれたが、タロスはカヲス時空に引きずり込まれている為、人質がいなくなっている事に気付いていないようだ。
「安全なルートはこちらのようですね‥‥。皆さん、ちょっと座りごこちは悪いですが、我慢して下さい」
 空がそう言って、兵員輸送車へと促す。
「よしっ、今のうちに…皆さん、待っていてください、今行きます!」
 ジョーの黄色いマフラーが揺れた。子供のうち、小さい方は、その黄色いマフラーに興味深々のようだったが、隼瀬は『ごめんね』とそれを遮って、子供達を乗せるほうへと尽力する。
「大人の方は手伝って下さい。子供は真ん中に。小さな子は抱えてくれれば」
「皆さん、もう安心です、僕の誘導に従ってください…やぁみんな、しばらくの間だけ大人しく僕に着いてきて」
 決して広くない兵員輸送車に、シスターがかくれんぼにかこつけて、子供を乗せて行く。大きな鬼さんはマンゴー頭なのだろう。手伝いに来ていた夫婦も、かくれんぼに加わるふりをして乗り込む。
「瞬天足は使えない‥‥。けど、急いで」
 なにしろ、結構な人数がいる。大人達に手伝ってもらい、子供を中心に入れ、その周囲に大人を、そしてそれを能力者が護衛する形に、隼瀬は陣を組んでいた。いわば大人を子供の盾にしたような格好だったが、文句を言う大人は人質の夫婦を含め、1人もいなかった。
 だが、敵はユダばかりではない。騒ぎを聞きつけてか、子供の柔らかい肉を求めてか、建物の影からのそりと現れるサソリのようなキメラ。
「しまった。気付かれたか!?」
「この時の為に、これを借りてきたんですよ」
 隼瀬が前に出る中、後ろから今度は空がUPC軍から借りてきたスモークグレネードをぶっ放す。
「うぉっ、前が見えん!」
 ちょうど、タロスがマンホールに足を突っ込んだ所だ。煙幕で、次々と視界を黒く染める中、残りの人質を何とか乗せ終わった空が、発進を促す。
「今です! スピードを上げて!」
 隼瀬が最後まで残っていたが、瞬天速の効果で、あっという間に距離を詰めて乗ってくる。ばたんと閉められた扉の内側で、息を整える彼女に、ジョーが安心させるように、運転を開始。
「大丈夫です、今ならハリケーン星之丞という名で、レースにも優勝できそうな気分ですから…よしっ、こうなったら、後は勇気だけだっ!」
 ぐいんっと加速する輸送車。足元を進む車に、タロスはようやく、一連の行動が囮だと気付いたようだ。ずぼりと足を抜いて、輸送車を捕まえようとする。
「このたろ酢のパワーをなめるなぁっ!」
「くうっ。正直…生身でKVミッションをこなした事のある身でもかなり厳しいですね」
 さすがに、ヘタレとは言え、超音速で機動する相手だ。ユダは勇者と愉快な御一行があらかた倒してくれたが、酸っぱいものになっていても、その動きにはついていけていない。ついに、その手が輸送車に伸びだ。
 が。
「そうはいくか! ここは俺が食い止める!」
 それをがっちる受け止める焔。狭い通路のあちこちで、ぶつかった建物が大破していたが、瓦礫は空が渾身防御で食い止め、ジョーが範囲外へと駆け抜ける。
「子供達の未来、確かに返して貰いました!」
 最後に、香朗へ向かってそう言うジョー。なんか「俺の未来はどうなるーー!」と地団太踏んでいるが、知ったことか。
「知るか! じゃあまたな、おっさん」
 用が済んだら、焔もその間に撤収。
「おのれー。このままではすまさんぞぉーーー!」
 あぉーんと、暮れ掛けた空に吼えるマンゴー頭タロス。
「うむ。今日もよい冒険だった!!さっさとかえるぞ!!」
 だ勇者はエレナが持って帰ってくれていたようで、んなセリフには耳も貸さず、下水の汚れを落として、さっぱりキラキラの勇者ジリオン。
 そんなわけで、傭兵達はマンゴー頭には目もくれず、済ませたい事だけをやると、さっさとキャンプを後にしていたのだった。