タイトル:【東京】相模湖攻防戦マスター:姫野里美

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/06/07 21:49

●オープニング本文


 UPC軍が仕掛けた東京開放作戦の第一目標、横浜戦はUPC軍の勝利に終わった。
 この勝利は、後に続く東京への足掛かりとなる事は間違いないが、それ以上に関東平野における戦力図は大きく書き換わる事となるだろう。
 さらに小牧基地を出発した部隊は、静岡空港予定地に建てられたバグア軍基地の占領に成功。芦ノ湖や富士の樹海攻略と作戦は確実に成功を収めていった。

 そして――UPC軍の進撃は、早くも第二目標を目指して動き出している。
 そう、UPC軍には東京23区へ駒を進める前に、落とさなければならない土地があったのだ。
 かつて銀河重工の工場があった土地であり、幾度かの強行偵察で苦渋を飲まされた土地。
 既にアジア決戦にてフレア弾を投下、さらに横浜本営を陥落させた――今。
 再度、あのバグア中継基地へ戦いを挑む時である。
「‥‥諸君らも忘れてはいまい」
 椿・治三郎(gz0196)は情報士官達へ八王子蟻塚への進軍を静かに告げる。
 机の上に広げられた関東平野の地図には、八王子に赤い駒が置かれている。バグアの重要拠点と目され、UPC軍の23区入りを阻んできた憎き蟻塚。この蟻塚を叩き潰す機会を、UPC軍はようやく得たのである。
「しかし、中将。
 本来であれば海路も同時に制圧して23区へ陸路と海路から攻め上がるべきではないでしょうか」
 情報士官は敢えて進言する。
 今回の東京開放は確実性を喫する方が良い。海路から羽田空港、アクアラインを奪還。その上で八王子蟻塚を陥落させる事ができれば23区は間近である。確実に戦力を推し進めるならば海路は外す事はできないだろう。
 しかし。
「八王子は山梨東部、埼玉南部とも接する。さらに東京からも援軍の可能性を考えれば、戦闘はさらに激しさを増すだろう。海路での進軍は継続、秋葉原レジスタンスから情報提供を得るための諜報活動を続ける。
 しかし、我々は保有戦力状況を鑑みた上で、東京外縁の要所である八王子へ駒を進めるべきである」
 椿は、ゆっくりと答える。
 今回の東京開放は電撃作戦である。バグアが23区へ戦力を終結させる前に、八王子蟻塚を叩いておきたい。作戦に招聘される傭兵からすれば休暇は皆無と言えるだろう。だが、UPC軍――否、人類にとって大きな二歩目である事は、作戦に参加する傭兵達の心に刻んでおくべきであろう。

「なるほど、次は八王子ですか‥‥」
 東京を支配するバグアの副官、水桐タカヤは静かに呟いた。
 UPC軍が八王子蟻塚に拘っている事は過去の作戦から見ても明らか。横浜へ強襲をかけた事から考えても、そのまま陸路で八王子まで軍を押し上げる事は間違いない。
 タカヤはそう考えていた。
「蟻塚は23区と外縁を繋ぐ中継基地‥‥落とされると厄介だ」
 蟻塚が落とされれば、東京という土地は目の前だ。UPC軍にとっては待望の23区であるが、逆に言えばバグアにとっては八王子も重要な拠点であるという事である。
「ここは私が、八王子まで行かなければならないようですね」
 タカヤは、特殊バイク部隊「アーバングレー」の出動準備に取りかかるのだった。


 東京都八王子市。
 はるか昔には、とある戦国武将の末姫が落ち着いた場所と言う曰くもあるが、大戦の直前までは普通の住宅街だった。山に近いせいか、温泉が沸く場所もあり、さらに近くにそびえる山は、国内外を問わない行楽客で賑わっていたそうだ。
 しかし、今そこはいびつな要塞と化していた。所々に嫌悪感を催すような生物的な塔が立ち並び、巨大な蟻が跳梁跋扈する世界。通称‥‥蟻塚。
 その蟻塚を見通せる水源で、事件は起きた。八王子の人々を支えるであろうその湖には、かつては子供の声が響き、大人の行楽地としてもやはり有名な場所だった。

 だが、今は。

 湖にほど近い森の中。元々、自然豊かで、都心からドライブやツーリング堪能しに来る面々も多いエリアだった事が、ここに来て災いした。寸断された道路は、道路の役をなさなくなり、既にうっそうとした森林の様相を呈している。そんな中、追い立てられるように森を進む2人が居た。
「く‥‥。ここまで蟻達が来てるのか‥‥」
 1人は、AUKVを纏ったティグレスだった。もう1人はカラスだ。その2人が、森の木々の向こうに見えるは、車ほどの大きさを持つ巨大な蟻達である。
「流石に、不得意科目でとなると、厳しいですね。先輩」
「日本の森は、槍で突いて回れるほど広くないからな‥‥。八王子は目と鼻の先だって言うのに‥‥」
 2人とも、普段は主に槍を持つ者だが、森で振り回すには不向きな為、ティグレスは短い剣を2本持ち、カラスは銃を持っている。
「どうします?」
「そうだな‥‥いかにキメラとは言え、水に落とせば身動きとれないかもしれん」
 ちらりと進行方向に視線を走らせれば、大きな湖。人造湖として名高い相模湖が見える。
「上手く行くでしょうかね? 蟻塚は、かつて蓮くんの関わっていた場所ですから、その程度の対応はしてあると思いますよ」
 遠くに見える蟻塚は、かつて何人もの傭兵を血祭りに上げた場所だ。見た目はどう見ても生物的なそれだが、中身は基地でもあるらしい。
「ここから、見えますか? 先輩」
「いや、木々に囲まれて見通しは悪い。そっちはどうだ?」
「同じですね。いや‥‥ちょっと待ってください」
 2人、別方向から確認するが、山1つ挟んだ先では、シルエットしか見えない。が、カラスはそこで首を横に振った。
「どうした?」
「反応が多いです。八王子とは、戦略的には離れていませんからね。上手くすれば引っ張れるかもしれないかな」
 たかが山一つ、されど山一つ。KVさえ持ち込んでしまえば、さほど離れていない距離だ。そしてそれは、相手のワームさえ同じこと。
「陸上戦力だけでどれだけやれるか‥‥」
 ティグレスが相模湖の対岸に置いてあるKVを取りに行く事を考える。聖那もすぐ近くにいるはずだ。あれば、山中に散らばっているであろう新型ワームをおびき寄せる事も可能だろうか。
「っと。動き出しましたよ」
「気をつけろ。さすがに合流しないとまずそうだしな」
 と、その蟻塚の住人が、きちきちと顎の音を鳴らしながら、近付いてくる。仕方なく、場所を移動する二人。かつての駐車場だった場所を越え、入り口を駆け上がった先は、公園の売店兼管理事務所だった場所だ。
「くっ。落ちるのは時間の問題か‥‥」
「いや、ちょっと待って。あそこに何かありますよ」
 日本に馴染みの薄い2人は知らなかったが、彼らが逃げ込んだのは、関東では割と有名なピクニック公園だ。今は、見る影もなくさび付いているが、障害になりそうな施設なら、てんこ盛りにある。しかも、その管理システムは、バグアにも気取られ難い旧式のグリーン画面だ。
「らっきー。電源生きてます。これなら、何とか准将に連絡取れますね」
 かちぽちと管理システムを起動させ、あっという間に回復させてしまうカラス。
「会長じゃなくていいのか?」
「カンパネラのシステムじゃ、これを受け取れない可能性もあるので。准将のガレージなら、旧式がまだ生きてると思いますよ」
 カンパネラでは、最新式過ぎて気取られないと言った所か。
「最近は向こうも進化してるしな。これで何とか囮役になれればいいんだが」
「来る人次第って奴だと思いますよ」
 ティグレスが、その間にAUKVの膂力を使って、バリケードを築いている。準備が終わった頃、その画面には『援護かもん!』と書かれていたのだった。

 で、一方カンパネラ学園研究棟にある、准将のガレージでは。
「んぁ? 誰だ? こんな時間に」
 ぺぺー、ぺぺーっと、たくさんのガラクタだか部品だかに覆われたエリアが、けたたましい音を立てる。しばらく使っていなかったせいで、埃を被っていた通信機が、声を上げていた。
「おう。どした?」
 出てみれば、カラスとティグレスのようだ。
「何、相模湖? また偉く懐かしい場所にいるな‥‥。わかった。子供の頃は数年に1度くらい言ってた場所だしな。増援送るわ」
 事情を知った准将はにやりと笑う。その手元には、かつてツーリングで訪れたらしい写真が見え隠れしていた。
「さて、んじゃあその為に、大急ぎでこいつを用意するかね。森の中なら、幻霧のパワーアップした奴で、充分撹乱出来るだろ」
 そう言ったジジィの鼻先には、『翔幻後継機における幻霧発生装置の改良について』と言う、味も素っ気もない設計書がぶら下がっていた。

【八王子作戦を成功させる為、相模湖まで敵をおびき寄せてもらう。餌として、開発中の新型パーツを用意しておいた。まだ試作の段階だが、上手いこと撒き餌にして、バグアの蟻んこどもをひきつけてくれる傭兵を求む。ただし、あんまり周囲に損害をあたえちゃいけねーぞ?】

 ジジィの口調なので、悪いのは仕方がないと言ったところだろう。

●参加者一覧

ロゼア・ヴァラナウト(gb1055
18歳・♀・JG
大神 直人(gb1865
18歳・♂・DG
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN
ハミル・ジャウザール(gb4773
22歳・♂・HG
フローラ・シュトリエ(gb6204
18歳・♀・PN
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
シンディ・ユーキリス(gc0229
25歳・♀・SF
守剣 京助(gc0920
22歳・♂・AA
秋月 愁矢(gc1971
20歳・♂・GD
カズキ・S・玖珂(gc5095
23歳・♂・EL

●リプレイ本文

 赤崎羽矢子(gb2140)曰く。
「主が居なくなっても、蟻塚は残る‥‥か」
 ここに居た主‥‥すなわちレンは居ない。それでも、バグアは残る。
「日本‥‥東京‥‥八王子か。私には、あまり縁のない場所だけど‥‥傭兵の中には、奪還を期する人、多いみたい‥‥ね」
 ならば、少しでもその除去する手伝いになれば‥‥と、シンディ・ユーキリス(gc0229)は移動の中で考える。カラス達は、公園の一角で合流する手はずだった。
 だが、なんとか合流したものの、その先には多数の蟻達が姿を見せている‥‥。
「おいでなすったわね。ハミル、フローラ。位置は大丈夫?」
 蟻達は、こちらの姿を見かけると、キメラとしての食欲に従おうとしてくる。その様子を確かめた赤崎は、ハミル・ジャウザール(gb4773)とフローラ・シュトリエ(gb6204)から、30m程の距離を保ちつつ、その蟻達へと向かっていた。
「こっちも視認してます。なんと言うか、本当に映画に出てきたCGっぽいですね」
 姿を見かけるなり、わらわらと一塊になる蟻。昔の映画で、似たようなシーンを見たらしいハミルが、スナイパーライフルを向ける。フローラもまた、EBシステムを起動させ、ばしばしと撃ち込んでいた。やる事を頭の中で箇条書きにして見たが、蟻キメラはその予想を上回った動きをしてくる。HBフォルムを使い、複数のキメラから回避しようとするが、数が多く、中には昇ってくる物もいる。ばしばしと射撃の腕前をご披露し、その一角を崩す事は出来たが、蟻達はそれを知ると、別の方向へ向かってしまう。
「むしろ、1つの生き物として認識した方が良いかなぁ」
 そう判断したフローラは、攻撃よりもその群れの足止めをするようにした。撃ち込んで、群れを一塊づつ公園の方へ向かうよう仕向ければ、その先にいるのは赤崎だ。
「巣元はどこだと思う?」
 動きは、軍隊蟻に似ている‥‥と、彼女は思った。カラスに尋ねると、巣ごと移動しているように見える。かつて、どこかで流れていたドキュメンタリーと重なるそれに、赤崎は図鑑知識を言い出した。
「蟻や蜂って、フェロモンで仲間に敵が来た事を伝達するらしいけど、それって除去されてないんじゃないかしら」
 もしそうなら、あえて削りはしていないんじゃないかと言うのが、赤崎の予想だ。
「ちょっと実験してみましょうか。フォローは頼むわ。いくわよっ」
 赤崎は後ろのハミルとフローラに援護を頼み、蟻の一体に向けてプラズマリボルバーを乱射する。と、きしゃああっと威嚇の声を上げて、蟻達が群がってきた。全ては攻撃色と言わんばかりの赤になっており、盛大に蟻酸を振り掛けてこようとする。
「やはり、フェロモンを散布させてるんですかね」
 ハミルがそう言った。確かに、結構な数なので、ここまで増殖していると、いちいち命令伝達系統を整備しているような面倒な事はしないんじゃないだろうか‥‥と。
「なるほどね。じゃあ、こいつらを誘導しちゃえばいいのか」
 フローラが撃つ矛先を変えた。結構な量がいるが、ピンポイントで死体を作れば、ずいぶんと誘導がやりやすくなる。
「確か、KVのおいてある所に、囮の別班がいるはずよ」
「了解。そちらまで引き寄せれば良いですね」
 ハミルもそう言って、まずスナイパーライフルで先頭の蟻をつつく。距離を詰め、バルカンで弾をばら撒けば、蟻の土手が出来上がる。
「お願い。さぁて、新型の性能を試させて貰いましょうか」
 そこへ、赤崎が幻霧発生装置のスイッチを入れた。本来なら、視界の混乱を招くそれは、准将の手によって効果範囲も強度も上がっている筈である。消費錬力は、今後の改良を待たねばならないだろうが、それでも彼女は夢守 ルキア(gb9436)とフローラに調整してもらった装置のスイッチを入れた。
「ルキアちゃん、そっちに回りこんで?」
「了解です」
 ルキアも同じく囮だが、護衛の秋月 愁矢(gc1971)とロゼア・ヴァラナウト(gb1055)が公園にいる都合上、反対側にいる。合図を送れば、しゅうっと白く濁った煙が、森林の公園を朝霧の色に染め上げ、程なくして、周囲の視界を覆うそれに、蟻達もまた右往左往し始めていた。
「蟻に幻霧って効くかどうかかわからないけど、新型は効果あるみたいねぇ。視覚に頼らない相手にも効く所が進化、って所かしら」
 赤崎の知識では、蟻は匂いや振動で周りを探知している筈だった。それがバグアなら、さしずめ重力波と言った所だが、カラスに確かめた所、今回はそこまで盛大なスペックではないとの事、本来の蟻と同じように、匂いで感知しているようだ。
「まぁ、KVにアロマ仕込めるし、その応用じゃない?」
「他のキメラにも聞くと良いけど」
 フローラのコクピットが、良い香りに満たされているのを聞いていた赤崎、それと同じ現象が起きているんだろうと判断し、そのまま幻霧を発生させ続ける。
「効果範囲は限定されているんでしょうか。射撃は若干落ちるみたいですけど」
 ばしばしと幻霧の向こう側から、ハミルが撃っているが、その霧の壁は、実際の壁と同じように効果を薄れされるものらしい。もっとも、ひょっとすると非物理は鈍くなるのかもしれないが。
「こっちが最短ルートだから、他の所に寄らせないようにしましょ」
「そうですね。横から修正をかけておきます」
 その間に、フローラが修正をかけている。幻霧の効果を、お座りしたネコ型ダイカットの可愛らしいメモ帳に書き込んだハミルは、その中で射撃を再開していた。
「OK。この先にはコーラがいますから、そちらまで誘導してください」
 怪訝そうにカメラを回してみれば。公園の入り口表記があり、そこには守剣 京助(gc0920)が自分の称号と同じ色のKVレッドマントをばたばたとなびかせてお待ちかねだ。
「なるほど。彼なら大丈夫そうですし、ね」
 目立つよう白い文字で『I feel Coke』と、称号の書かれたそれに、蟻達は気を惹かれたらしく、次々と群がって行く。いいんかなー? とは思ったが、そこへトゥインクルブレードを煌かせ、バックスで殴り、怯んだ所へファランクスの弾をお見舞いしていた。
「はーーーはっはっはっは。骸を晒せ、雑魚どもがぁぁぁ!」
 どこか楽しそうにパニッシュメント・フォースを作動させる彼。攻撃は最大の防御とばかりに、そのまま突っ込んで行く。移動と防御は最小限だ。
「じゃあ、アレごと引っ張ればいいわね。さーて、突いてきて貰うわよ」
 既に事前に打ち合わせをしている為、守剣も自身が公園待機班に属している事は熟知している。ので、フローラの誘導に従い、内側の方へ徐々に移動し始めていた。
「これからそっちいきます。ご準備ください!」
 ハミルが、中の公園待機班に合図を送る。その指示に従い、公園に展開した待機班の顎の中へ、蟻達は一塊になって突入してくるのだった。

 その頃、公園で待機する班は。
「准将、聞きたいんだけど、周辺の被害は、どれくらいまでなら今日は可能なの?」
 ルキアと一緒に調整しながら、そう尋ねてくるシンディ。と、スパナでぎゃりがりと作業していた准将が、周囲を見回して、範囲を教えてくれる。
「そうだな。森は再生に時間がかかるから面倒だ。建物とか遊具は、まだ何とかなるだろう」
 つまり、公園の中のみで戦わなきゃいけないらしい。広さを目視していたシンディだが、必殺技には使用制限がかかりそうだ。
「それに、森の木々に遮られて、威力ががた減りするし。広い場所へ出た方が良いかな?」
「そうですね。湖の上あたりに向けてがちょうど良いと思います」
 同型機を持つ大神 直人(gb1865)も、フォトニックを撃ちたい様子。が、下手なところでは森の木々を盾にされてお終いのような気がしたので、2人は相談の結果、それぞれで撃つ場所を変える事にした。
「了解しました。それなら、思った通りの動きが出来そうだ」
 頷く大神。
「っと、来た様だ。計測器が反応している」
 公園の端々に敷設した地殻変化計測器が、警告音を上げる。合図のそれに、
設置したカズキ・S・玖珂(gc5095)が機槍を片手に遠距離モードを発動すれば、入り口に居た守剣の元に、囮に誘導された蟻キメラが群がるところだ。
「できるだけひきつけて。ぶっ放すのは最後だから」
「了解した。なぁに、こちらは仕事をこなすだけだ」
 ルキアに言われ、淡々とそう答えるカズキ。そうしている間に、蟻達は次第に距離を詰めてくる。盾の内側に位置し、なるべく広い場所へと陣取って、その攻撃を待ち受ける彼。そこに、蟻達が襲い掛かってきた。被害を考えれば、銃機は使えない。それでも、機槍は的確に3匹の蟻達を串刺しにしてくれる。
「皆さん、油断しないように」
「わかってる。はっはー、とうとうKVでも大剣振り回せるぜ!」
 ロゼアが冷静に注意を促すが、守剣はそう言って、KVの剣を蟻達にたたき付けている。ぶしゅっといろんな色がないまぜになるまま、赤いマントが豪快にたなびく姿はとても派手だ。
「だが、良い囮ではあるね。3人は合流してきた?」
「もうちょいかかる。まだまだご帰宅の時間じゃねぇぜ! もうちょい付き合ってもらおうか!」
 大神の問いに、一番前の守剣は首を横に振る。交互にはさみ撃ちをするように移動してくる蟻達。それと入れ替わる用にして、囮の3人組が姿を見せる。
「視界内にもうすぐ入るね。このままだと、射程は短くなるけど‥‥構わないかい?」
「ええ、いちいちかまってられないわ‥‥。こちらも、なんとか時間をずらして見る‥‥」
 待ち受ける大神とシンディのKVに火が入る。と、その目の前に居た蟻達が、動きを変えた。待ち受ける傭兵達に気付いたのか、元来た道を回れ右し始めた。その行き先は公園を外れた山のほうだ。
「八王子に戻る気だな‥‥」
 レーダーを注視していたルキアがそう言った。イクシオンにセッティングした幻霧は、既に調整を終えている。練力を余分に使うが、正常に稼動していた。
「そうはさせないわ。さてこっちにきてもらいましょうか‥‥」
 アルゴスシステムを起動させ、周囲の仲間と敵を識別完了するルキア。目的は、方角を変えた蟻達を再び元に戻す事。
「新しい兵器はロマンだけどね。さぁ、食いついてもらおうかな」
 動きは遅めにしていた。発生装置のスイッチに手をかけ、蟻達の先頭にその銃口を向ける。存在を認識したのだろう。蟻達の速度が上がる。しかし、群がろうとするそこへ、秋月とロゼアが駆けつけてきていた。敵の位置が八王子に戻りかけている事を把握したロゼアが、マイクロブースターを起動させる。
「油断は出来ないわね」
 蟻が地中から現れないとも限らない。ロゼアが蟻にフィロソフィーの叡智なる閃光をお見舞いし、それでも昇ろうとする蟻達をアサシネイトクローで切り裂いている。ところが、その中には空中へと上がるモノも現れ始めた。
「ルキアは結構脆いからな。悪いがここは通さないぜ!」
 その目的がルキアに向いていた。きちきちと牙を鳴らす蟻達を、秋月が強引に薙ぎ払う。銃弾の弾幕だか、蟻達の破片だかわからないものが降り注ぐ中、その破片からルキアをかばう秋月。そこへ、幻霧装置が作動する。
「視界を遮るだけなら、いらないんだけどね。重力波‥‥いや、ジャミングかな」
 煙幕弾とかあるけど、煙幕の向こう側から撃てば良い。自分のイクシオンに比べ、どれだけ撹乱出来るか試して見たいルキアさん、徐々に出力を上げて行けば、霧もだんだんと濃くなっていく。
「どうです? 調子は」
「わりと食いつくわね。挟み撃ちして見た方が良いかも」
 蟻達の姿は完全に見えなくなっていた。お互いの姿も見えないが、そこはアルゴシステムに頼るしかない。自分の護衛についている2人にも、その位置を教えようとした直後だった。
「っと、ちょい待ち。これ‥‥キメラの反応じゃないぞ?」
 明らかに、蟻が鳴らす音ではないそれは、新手なのだろう。あるいは、蟻達の動きを疑って出てきたのかもしれない。発信源は、湖の方だった。
「あれは‥‥」
 湖沿いの道路に、蟻とは違う影が浮かび上がる。ハミルがデータを称号してきたところ、アルケニーと書いてあった。
「あれが新型ワームって奴か。どの程度やるのか、試してみようかね!」
 守剣がそれを見て、パニッシュメント・フォースを起動させた。ハミルもまた、霧の中へと突入していく。性能がわからなければ、対処にも手間取ると言うもの。2人とも、ずずいっと体が重くなったような気がしたが、構わず攻撃を加えていた。
 ガツンと思い手ごたえ。キメラの幾つかがバラされ、敵からマフラーを吹かす様な音が聞こえた直後、2人の機体を紫色の交戦が焼く。装甲と回避のおかげで、なんとか無事だったものの、これではうっかり近づけない。
「やっぱり、長く残すとやっかいそうね」
 フローラも射撃に転じているが、結構素早く小回りが聞くため、当たっているとはいいがたいようだ。
「データはそっちに転送するわね」
 赤崎から交戦データを転送されるルキア。だが、アルケニーは本格的な攻勢に出ていない。さすがに、名前も顔もわからない相手に突入するほど馬鹿じゃないと言ったところか。しかし、傭兵達の方は別である。
「錬力が残り少ないが‥‥狙うしかないか‥‥」
 大神が、錬剣の使用を解禁している。赤崎の見ている限り、相手は余りこちらと戦う気はないようで、蟻達の収集にその行動を割いていた。プラズマリボルバーから避けるように左右に進路を変えて行く。それを見て、大神は必殺技の使用を決める。
「被害がどうのこうの言ってる場合じゃないしな‥‥」
 准将が渋い顔をしていたが、カズキは気にせずLRM−1に持ち替え、逆の手にはルプス・アークトゥスを握り締めていた。
「わかったわ。なら、ここはこれを使うしかないでしょ‥‥。今は、壊れてどうと言う場合じゃなさそうだし」
 シンディが周囲を見回しながらそう提案してくる。手元には、ガトリングの弾幕が構築されてはいるものの、それでは追いつかないかもしれない。幸い、ここは公園の中で、霧に包まれた場所。
「了解しました。どうすればいいです?」
「私が撃ってから、もう一度」
 大神に、手順を告げるシンディ。霧の中、重ねた機体の銃口が、蟻達へと向けられる。仲間を巻き込まぬよう、立ち位置に注意しながら、シンディと大神はそのスイッチを入れた。
「マイクロブースター‥‥起動!!」
「パラジウムバッテリー起動‥‥フォトニック・クラスター、レディ‥‥」
 錬力と言う名のエネルギーが、2人の機体から、重なるように充填されていく。壁となる蟻達は、視界を遮られ、砲塔が自分達に向けられている事に気付かない。
「「GO!!」」
 ハモった声と共に、次々と発射された青白い軌跡は、公園に大きく溝を穿ちながらも、蟻の巣を焼き切ってくれるのだった。