タイトル:【極北】水瓶のレンズマスター:姫野里美

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/04/18 22:58

●オープニング本文


 その一方が入ってきたのは、旧校舎から持ち帰ったデータを解析している最中だった。
「海峡から?」
「はい。そのようです」
 ティグレスから、報告のデータを差し出される聖那。それによれば、ベーリング海に沈めた筈の巨大レンズが、バグアの手によって盗まれたと言うのだ。
「警備はどうなっていたのです?」
「各種作戦で、北の境界線に戦力を向けている暇がなかったものと思われます。その証拠が、こちらに」
 ティグレスが指し示した、UPCの動きは意外なものだった。パワーを秘めたレンズと言う事は聞いている。だが、それを取り返そうと言う動きはなく、代わりに示されたのは、報告を見守っていた寺田だ。
「‥‥それで、先生がわざわざこちらにおいでと言う事ですか」
 そこから先は、寺田自身で説明するらしい。ティグレスが控えるように、聖那の机から一歩下がる。
「ええ。上の判断では、そこまで重要な事にはならないのではないかと‥‥。入手にはみずがめ座も絡んでいたのですが、今回はチューレとは関係ない部下が動いている可能性が高そうですし」
 あのレンズを元々弄っていたのは京太郎だ。そして、運用していたのはレンである。しかし、極北の情勢を考えれば、本人たちが動いている可能性は低く、打診を受けた部下が回収しているだけの可能性があった。現に、指揮官と思しき機体はタロスであり、SSや本星型ではない。その手足となる用に水中型ワームと、ヘルメットワームが作業をしていたのが目撃されている。キメラの姿もあったようだ。
「甘く見ている‥‥と思って良いのかしら」
「でしょうね。ですから、それ相応の装備を用意して、レンズを奪還‥‥場合によっては破壊するのが、今回の課題です」
 上陸場所は、概ね特定出来るとの事。そこへ向かい、レンズをバグアの手に渡さない用にするのが、今回の目的だった。

【レンズの回収及び破壊を行います。みずがめ座の配下がいるかもしれないので、気をつけてください】

 すなわち、いわゆる水中上陸戦である。

●参加者一覧

新条 拓那(ga1294
27歳・♂・PN
篠崎 公司(ga2413
36歳・♂・JG
須磨井 礼二(gb2034
25歳・♂・HD
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN
イーリス・立花(gb6709
23歳・♀・GD
奏歌 アルブレヒト(gb9003
17歳・♀・ER
天空橋 雅(gc0864
20歳・♀・ER
住吉(gc6879
15歳・♀・ER

●リプレイ本文

 氷の大地に風が吹きすさぶ。
 常ならば、それは情景を映し出す一片でしかないそれも、ここ極寒の地グリーンランドでは、傭兵達の動きを阻害するものにしかならない。KVの中に納まった傭兵達は、それぞれの持ち場へと向かっていた。
「電波はそろそろ捕らえられるかと思いますが‥‥。基地に近いだけあって、ジャミングが酷いですね」
須磨井 礼二(gb2034)がモニターを見ながらそう言った。レンズが発する特有の電波を受信・探知して位置を特定しようと考えていたのだが、その電波はとても微弱な上、前線に近い為、捕らえ難い。
「電磁波とか、わからないのですか?」
「逆探知が出来るほどではないですが、准将の予測ルートがありますから、大体の場所は特定できます」
 篠崎 公司(ga2413)の問いに、礼二はモニターの地図を送信していた。それは、いずれもある入り江のあたりで重なっていた。
「それなら問題ないですね。作戦はミーティングで行った通りです。奪取後は、敵の撃退に注力と言う事で」
 篠崎の指示に、各位が了解と答える。彼が作戦概要書に記載した限りでは、陸海空の3方向からアプローチをかける予定だ。
「目標の入り江まで10分程度と言ったところでしょう。残骸の中にでも、身を潜めましょうか」
「そうですね。いずれにしても上陸するでしょうから」
 篠崎曰く、陸揚げする直後に向かうのが、逃亡阻止にはなるだろうとの事。そんな彼らに気取られないよう、上陸予想地点から少し離れた場所に、身を潜める事にする。
「そろそろ、空中班も追いつくでしょうか‥‥。上手く見つからずに観察出来ると良いのですが」
 イーリス・立花(gb6709)が周囲を見回してそう言った。緊張感の漂う海中は、それでも傭兵達を勇気付けるかのように、シースノウが舞っている。その中を、イーリスと礼二は、気取られないように、慎重に歩みをを進めていた。上陸した事を確かめてから、と彼女は思ったが、そんな余裕と危惧はなさそうだ。
「予定通りの位置に接近中です。距離はこのくらいでしょうか」
「ふむ、タイミングはちょうど上陸している所、と言ったところか」
 コンタクトのタイムラグを計るイーリスに、予測接触時間を算出する礼二。ターゲットは、少し先を進むHW達。指揮をするようにタロスが二機随伴している。レンズを隠す気はあまりないようで、まるで鮫の襲撃から身を守る時のような、頑丈な檻に入れられている。
「さて‥‥‥‥その丸くて透明なものは置いていってもらいますよ、と」
 水面の光を受けて、一種幻想的な光景を見せていた。屈折率が違うらしく、一般のガラスのように、水に入れても見えなくなったりはしないが、その分強烈な存在感を示している。
「殿から撃破しましょう。後ろから蹴られると面倒です」
 イーリスはそう言うと、一番後ろのHW‥‥ちょうど檻の後ろを進む中型の1匹に目をつけた。礼二がセドナとガウスガンを用意する中、しゃきりと水中を切り裂くブラストシザースとソニックネイル「バンシー」を取り出す。
「わかってる。逃がしはしません」
 礼二はそう言うと、ガウスガンを戦いの幕開けを告げるようにその中型ワームに向かって撃ち放っていた。相変わらず無茶な動きで、即座に方向を変えたワームに、今度はセドナが発射される。レンズの檻は頑丈なものらしく、水中に爆雷の華が咲いても、傷1つ付いていなかった。それを利用し、前方のワーム達がさっさと逃げようとする。
「逃がさないと言ったはずです!」
 イーリスの機体がアサルトフォーミラのスイッチをONにする。同じ魚雷を副兵装に仕込んだ彼女は、行く手を阻むように、その魚雷を打ち込んでいた。
「足は止めたでしょうか。目印つけておきます」
 礼二が水深5mになったのを見計らい、クロスマシンガンに変更する。雪原迷彩の敵はいなかったが、途中で代わるとも限らない。色の付き難い水中に対応する為、ペイント弾を撃ちこんでおく。レンズにも、別の色が打ち込まれていた。
「あれを目印に、陸からも攻撃を開始してください」
「了解だ。これより迎撃に移る」
 礼二が通信機越しにそう言うと、それまで沈黙を守っていた新条 拓那(ga1294)が答えを返す。
「海は交戦を始めたみたいだな。‥‥なんとか上手く行ってくれるといいが」
 地上の彼らがいるのは、上陸予想地点の500m付近だ。既に雪原迷彩を施し、吹き荒れる雪の大地にその機体を沈めている。
「伏兵は、いるでしょうか?」
「お迎え部隊はいるかもしれないな。この吹雪では、そう簡単に見つかる事はないと思うが‥‥」
 視界が悪いので、住吉(gc6879)と新条は計測器を使っていた。念入りに周囲を見回す2人。操縦席に、新条が相方か貰ったお守りが揺れていた。
「目標まであと少しだ。機体を伏せていこうぜ」
 新条の提案に、了解と答える住吉。人型になった2機のKVは、機体を出来るだけ低くし、見つからないようにする。雪原迷彩が、視認性の低さに一役買っていると信じたいが、果たして。
「あれかな」
 水上に、わずかに上がる水柱。振動は陸地にも伝わっており、新条は設置した計測器が、入り江からの振動をキャッチしている。そのまま進んで大丈夫そうだ。
「相手は指揮官機ですか‥‥指揮官機なら頭に角を付けるとか、真っ赤に塗装するだとかの面白みが欲しい所ですね」
 慎重に進んだ先では、上陸しようとしているHWとタロスの姿があった。住吉はカラーリングが地味な事に不満を漏らしながらも、陸側から海に向け、ヘビーガトリングを撃ってくる。攻撃されたHW達は、部隊の半分をこちらへと向けてきた。
「さぁて、鬼さんこちらですよ。まずは、あいつ!」
 住吉が狙いを定めたのは、陸上にいたほうのタロスだ。他に、低空を飛行するHWが複数いるが、それは新条が対応していた。
「近くに伏兵が潜んでいるかもしれない。計測器と目視の両方がいるな‥‥」
 雪原に隠れている戦力がいるかもしれない。雪で見え難い視界に、目を凝らしていれば、曇天の空に、きらりと光る影が合計6つ。
「1人でタロスを攻撃させるわけには行かないからな‥‥上は任せた方が得策か‥‥」
 出来るだけ、タロスには1人であたりたくない。住吉にもそれを強いる事にはなるが、彼女もまた、単独では挑みたくないようで、何とか新条の所へ戻ってくる。追いかけてきたタロスを死界に入れないよう、彼女は新条に告げる。
「回り込んでください。お互いに隙を埋めないと!」
「わかった。位置取りに注意しろ!」
 ぐるぐるとタロスの両側へ走りこむ2機のKV。ショルダーキャノンをぶっ放し、20mmバルカンを撃っている。隙を探すが、さすがにタロスがむやみに接近させてくれるタイミングなんぞ、そうそうあるわけもなく、リスクは高そうだ。
「そっち一機行ってるよ!ったくもう、どいつがお宝持ってんだか。分かり難いったらありゃしない」
「わかってます。あ、うっとおしいですからねっ」
 何とか包囲しようとするが、さすがに2機では、足止めが精一杯だ。しかも、親玉を援護するように、残りのHWがじわじわと距離を詰めてきて、弾幕を形成している。
「えぇい、四方八方からちまちまと! 来るならズバっと一気に来いっての!」
 新条がそう言うと、フォトニック・クラスターのスイッチを入れる。牽制の間に、住吉は機大刀「虎牙」を準備していた。不用意に近づけないのは、相手も同じ。それを知った新条は、練剣「羅真人」に自らのエネルギーを注ぎ込む。
「いくぞっ。タイミングを合わせろっ」
 タロスはちょうど、うっとおしい地上を離れて、空中へと舞いあがるところだ。飛行ユニットを装着した背中と、ブースとの巻き起こる当たりに、狙いを定める。
「こんのぉぉぉぉっ」
 もっとも、住吉の場合、タロスには少し力及ばず、被弾してしまっている。コクピットのあちこちでアラームが鳴り響き、これ以上被弾すれば重傷は免れない所まで来ていた。それでも、彼女はその太刀を振るう。
「丁度、こんなカンジでねッ!でぇぇいやぁっ!」
「とりゃああああっ!」
 2人、両側から走り出す。ブラックハーツの力が加わった剣が、その飛行ユニットを貫く。
「海岸へ向かおう。そろそろ空中空の支援が来るはずだ。あまりダメージは期待できないかもしれないがな」
 どぉぉぉんっと盛大な雪煙を上げるタロスを背景に、新条と住吉はレンズ本体へと向かうのだった。

 その頃、上空では。
「いました。あれでしょうか?」
「恐らく。違ったら、ただのお掃除になるでしょうし」

 奏歌 アルブレヒト(gb9003)に、そう答える篠崎。上空から見れば、海面にわずかに三角ひれが浮かび、お空には特徴のある生物的な姿が舞っていた。
「よし、警戒はしていないようです。いきましょう」
 こちらの存在には気付いていないようだ。その為、まずは周囲にいるHWから、攻撃をする事にするようだ。
「先ずは少しでも戦力差を縮めなくてはいけませんね」
 上空に展開するHWへと機体を進める篠崎。それに赤崎羽矢子(gb2140)が続く。そんな彼女に、天空橋 雅(gc0864)が並んだ。
「あの時は礼もできませんでしたね」
 以前参加した依頼で、世話になった事がある。だが、赤崎は首を横に振った。どうやら、遅れを取らないようにする方が先決のようだ。
「さて、PRM−H&P−Mモード、消し飛ばすよ相棒!」
 上空から気付かれない程度に離れた位置にいた赤崎が、地上班の合図とも言える戦闘の光景を見て、ブーストをふかす。そのまま、VTOLで低空に侵入し、入り江へと投下したのは、GP−7ミサイルポッドだ。レンズ周辺のワーム達への攻撃だったが、3機以上の姿に、ばりばりと弾丸を撒き散らす。
「‥‥踊って‥‥貰いましょうか」
 同じくGP−7を放つ奏歌。正面ではなく、周囲に広がったヘルメットワームに向けて、敵の混乱を引き起こそうとする。しかし、相手もそうはいかないらしく、装甲に当たりはするものの、混乱とまでは至らない。変わりに彼女は、レーザーガンで手負いのHWから攻撃する。
「損傷個所までは迷彩できないはず、どこにいる?」
 その損傷を受けたHWと同様にしたいらしく、雪に隠れたHWとキメラをあぶりだす為に、機銃掃射を行う天空橋。キメラがわらわらと追い立てられている。しかし、その数は結構な量だった。
「まだ、半数っ。さすがに練力は厳しいかしら‥‥」
 バレットファストには、回数制限があるものの、構わず連投していく。しかし、おかげでスナイピングシュートが後1〜2回しかもたなくなっていた。
「その程度で‥‥っ!」
 間を埋めるように、天空橋が電子装甲を割り込ませる。HWが撃ってきたいつもの謎の怪光線を、その装備で持って防御した彼は、機銃の射程まで乗り込み、弾幕を張っていた。近付かせないようにした結果、HWはくるりと方向を変えて、海中へと向かおうとする。
「逃げる気ですね‥‥」
 そう判断する礼二。
「だったら壊した方が良いんじゃないでしょうか? 准将から、許可は出ているんでしょう?」
「ええ。問題は、我々で壊せるほど華奢ではないと言うところですが」
 奏歌に通信でそう答える礼二。だからこそ、思いっきり兵器各種を使えると言う所だが、ありったけの兵器をぶち込むだけの危険物なのか、定かではなかった。
「レンズは‥‥あれですね」
 目標の場所を探してみれば、入り江に少し顔を覗かせた状態だ。それを、タロスが再び沈めるよう、指示している。バグア側も、それは熟知しているらしく、簡易包装で済ませていようだった。
「だったら、追いかけるまでです」
 水中班のイーリスがそう言って、礼二と共に、陸上へ近くへと足を進めた。残機はあともう少し。奪還し終わるまで、逃がしはしないと。
「運搬役がいないなら、こうするまで」
 イーリスが牽制したそこに、礼二がブーストで追いかけ、人型に変形して、インヴィディアを使い、水中錬剣で運搬役のワームへと斬りかかる。流石に動きを止めるワーム。それを、イーリスがバンシーで握りつぶす。それでも、レンズまだ無事だった。奪取は何とかなりそうだが、破壊は無理かもしれないと、奏歌は思っていた。それでも、上空の篠崎が、対地攻撃を開始している。その空に次なる敵兵の姿がない事を確信すると、赤崎はこう言った。
「増援はなさそうだな。ならば、ここから合流するのが正解か。援護を頼む」
「了解です。陸を支援します。先に行って下さい」
「殿は私にまかせていただこう」
 篠崎と、天空橋が支援する中、赤崎はVTOLで降下していく。そこを狙おうとするHWを篠崎が上空から攻撃していた。自分が強硬着陸をするまでには至らないようだが、フォローは大切だ。
「さすがに出てきたな‥‥。このまま逃げられるのはまずい。迎撃するよ」
 その証拠に、何とか降下した赤崎は、レンズを持ったワームに、スパークワイヤーを絡みつかせる。
「ここを通りたければその荷物を置いて行ってもらおーか。そうすれば命は取らないで置いてあげるけど‥‥?」
 うぉんっとブーストが輝く。しかし、HWは離す気がなさそうだ。それを見た赤碕は、PRMで命中力を上げたワイヤーを、レンズに絡みつかせる。迎撃してくる他のHWは、奏歌が翻弄していた。
「戦闘不能までは至らないようだが、レンズを破壊できるわけではなさそうだな。く、タロスがもう1匹出てきたか‥‥」
 傭兵達の攻撃を被弾しながらも、そのタロスはワイヤーを叩き切り、背中の飛行ユニットを作動させようとしている。
「皆、あのタロスに集中攻撃を!」
 篠崎が上空からそう言って、D−02ミサイルと、レーザーキャノンを向ける。
「‥‥シュワルベに‥‥着いて来れますか‥‥?」
 足の早い奏歌がバレルロールと急旋回でHWの攻撃を回避しつつ、タロスの反対側に回り込む。
「皆、狙いの座標はあれだ!見失うなよ!」
 その攻撃ポイントを、レンズから目を離さなかった新条が指示していた。逃げられるよりはよほど良いと、礼二はそのポイントに重なったレンズを気にせずに、トリガーを絞る。イーリスがブラストシザースの爪先を伸ばし、海へと方向転換をかける。それにあわせるようにして、逆方向へと赤崎のワイヤーが引っ張られた。力をかけられたレンズは、タロスの腕ではおさえ切れなかったのか、空中へと放り投げられる‥‥。
「1機の攻撃でダメならば複数のそれを束ねるまで‥‥ですね」
 上空の篠崎、ぼそりと呟く。目の前を通過し、海中へと叩き込まれるレンズ。
 それは、氷の世界に時折見られるダイヤモンドダストのように、煌く欠片になって、海底へと降り注いで行った。
「野郎ども、ブツは頂いたから、さっさとずらかるよ!」
 その様子に、どこか山賊チックなセリフを言いながら、赤崎は、とっとと撤収する事を促すのだった。