タイトル:【授業】粉モン始末マスター:姫野里美

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/29 22:01

●オープニング本文


 一見、何の関係もないものが、実は繋がっていたと言うのは、古今の東西を問わず、よくある話である。
 研究棟の一画。研究と実益を兼ねて育成している菜園があった。収穫されたものは、わずかながらも購買で販売されたり、学食に納入されたりしている。食材の調達に手間取る事も少なくない学校では、結構重宝されていた。
 今回、カンパネラに舞い込んできたのは、そんな場所で起きた『課題』だった。
「大変だ!」
 秋の収穫に向けて、水遣りや肥料等のデータを取っていた研究部。目的はバグアの襲撃にもめげないような成長の早い農作物を作り出す事である。そんな研究部の主任‥‥ただし、見た目はどう見ても農家の人一号二号である‥‥のとこへ、畑のほうから血相変えて、トラクターが突っ込んでくる。
「オラのごま畑が、バグアのモンスターに襲われているだ!」
 乗っていた研究部の青年、田中一郎さんが、畑のほうを指差した。と、そこでは、3mくらいの巨大なバナナに見える黄色くて長細い物体が、きしゃーーっと盛大な雄たけびを上げて、畑から周囲の農道、水路に至るまで、破壊の限りを尽くしていた。
「田中さんトコもか! さっきは佐藤さんトコの田んぼが襲われてたぞ!」
 頭を抱える主任。見れば、田んぼ担当の佐藤田吾作さん‥‥制服を着ているが、どう見ても10代には見えない‥‥が、滝涙を流しながら『ウチの田んぼが‥‥』と口走っている。
「おちつけ、じさま。なんだってバナナが、田んぼや畑を襲うんだ?」
「俺だって知らないよー」
 田中さんにそんな事言われても、田吾作爺さんだって、暴走実験機の思考回路なんかわかりゃしない。と、そこへ今度は、近所でとうもろこしを作っている鈴木ゼンベエさんが、リンドブルムで乗り込んできた。
「大変だ! 今度はメリケン粉の集団が暴れてる!」
 なんでも、少し離れたとうもろこし畑で、小麦粉に似た物質で出来ている大きさ3m程度の、不定形の生き物が、畑といわずそこにやってきていたスズメさんと言わず、食い倒しているらしい。
「何ぃ? なんだってそんな炭水化物シリーズばかり暴れているんだ!」
「しらねぇよ! どっかの研究部が暴走させちゃったって事には違いないけど。ああっ! あの先には、高橋さんトコの鶏小屋が!」
 そう言っている内に、バナナと小麦粉は、養鶏担当の高橋新之助ラボに向かっているようだ。
「とりあえず、風紀部に連絡だ! 電話電話ー!」
 パニクった研究員さん達は、備え付けの黒電話を使って、生徒会風紀部にヘルプを要請する。
 ところが。
『面白そうですね。では、依頼もある事ですし、それは捕まえてもらいましょう』
 出た相手が悪かった。なぜか寺田センセだったのである。こうして、その炭水化物キメラは、研究部でキメラの研究をしているたぷたぷセンセこと時任教諭の元に送られる算段になった。

『課題:研究部の畑で暴れている炭水化物を捕まえてきなさい』

 そんな依頼が、カンパネラ本部に届いたその頃。
「私を追い出したこんな学校など、滅んでしまえば良い‥‥」
 そんな事を呟いたまま、廃墟同然になった地下倉庫へむかう白衣な御仁の姿が目撃されたとか何とか。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
真田 音夢(ga8265
16歳・♀・ER
ヒューイ・焔(ga8434
28歳・♂・AA
東雲・智弥(gb2833
17歳・♂・DG
エリザ(gb3560
15歳・♀・HD

●リプレイ本文

 うねうねとしたバナナと小麦粉が、田畑で暴れているのを見て、ドクター・ウェスト(ga0241)は口から魂を放出しまくっていた。
「ま、まさか、ココがこんなところとは‥‥」
 カンパネラに始めてきたらしい彼は、目の前に広がる光景が信じ難いのか、かなりショックを受けているらしい。と、そこへつかつかと歩み寄るエリザ(gb3560)。
「もう少し落ち着いて対処なさい」
 やおら、張り手の音が響いた。
「冷静さを失ってはいけませんわ」
 うつむいたままのドクターに、そう告げる。ほんのりと厳しい空気が漂う中、東雲・智弥(gb2833)がそれを打ち消すように、こう尋ねた。
「学園の食事事情が大変になりかねないから退治と‥‥。あと、課題として捕獲はしないと!でも、ホントにあれはキメラ?」
「学生の遊びにしては、ちと過ぎたオモチャだな‥‥ありゃ」
 ヒューイ・焔(ga8434)もまた、うねうねしているバナナと小麦粉に、かなりあきれ気味にため息をつく。
「生物学部やなどの実験生物のなれの果て、ミュータントとかじゃないのですか?」
「確かにキメラ‥‥と言うほどのものではありません。繁殖と言うにも不完全なものですし。まぁ実験動物のようなものだと考えてもらって構わないですよ」
 さらに疑問を投げかけると、そう答えながら、教室の入り口に、寺田智之(gz0131)教諭が顔を出す。いつの間に現れたんだと思いつつ、ヒューイは肝心な事を尋ねた。
「それで、そいつの捕獲に使えそうなケージは、貸し出してもらえるのか?」
「ええ。ちょうどそれを持ってきたところです」
 見れば、その後ろに頑丈そうな檻があった。荷物用のケージを加工したと思われるそれを運んできたらしい。
「生態プログラム‥‥いわゆる『習性』で活動しているものと推測できます。‥‥単純なトラップの方が効きそうですね」
 動きを確かめている真田 音夢(ga8265)。矢絣模様の着物に袴、ブーツという、大正浪漫な、はいからさん姿だ。一方、智はケージの中に、まだ梱包用のロープやらなにやら残っているのに気付き、それを拾い上げる。
「この辺りも使えそうですよね。捕獲するのと、そうじゃないのは、分けた方がいいのかな?」
「ロープは必須アイテムよね。切られないように、これも持っていきましょ」
 エリザが、絡み付いていた鎖をはずす中、音夢は無言で、ぺこりと頭を下げた。
「別に、礼を言われるほどの事ではありませんよ」
 だが、寺田先生は意味ありげに答え、そう口元をゆがめるのだった。

 で。
「ほんで、細かい話はどうするんだ?」
 必要そうな捕獲用品を調達し、そう尋ねてくるヒューイ。
「‥‥‥‥」
 無言でトルネードを見せる音夢。
「そうか、そいつを使うんだな。それじゃ、適当に弱らせて捕まえますかね」
 そう言うと、彼は移動するスピードを上げた。
「AU−KVを着用しての実戦は初めてですわね。ドキドキしますわ」
 そう言うと、エリザは覚醒状態となり、持ってきたAUKVを装着する。授業以外で武器を振るうのは初めてだった。
「ようは追いかけっこだな。こっちが鬼だ。何とかしてタッチアウトに持ち込めばいい!」
「わかりました。こうやればいいんですわねっ!」
 同じ様に覚醒したヒューイに指示され、彼女は一気に距離を詰めた。
「‥‥‥‥」
 それにあわせ、無言でトルネード炸裂させる音夢。と、その炸裂する竜巻に追われ、バナナの方向がくるりと代わり、生徒達の方へと向く。
「私のカンヴィションアックスを食らいなさいまし!」
 エリザ、その振り向いたバナナへ、自分の武器を振り下ろした。一方で、少しでも体力を削ろうと、音夢は無言でトルネードを操作している。
「あのバナナ、以外に頭回るのかもしれないな。牽制よりメインアタッカーの方を知ってやがる‥‥」
 だが、バナナの攻撃対象は、音夢には移らない。目の前で長柄のアックスを振り回すエリザ。しかし、バナナは器用にその攻撃を体を振って避けている。
「えい‥‥‥‥あら、意外と攻撃って当たらないんですのね」
 悔しそうに口を尖らせるエリザ。ムキになってアックスを振り回すが、バナナはその度に身をくねくねと高速に動かして、まるでダンスを踊るよう。覚醒したエリザの武器は、光の軌跡となるらしく、まるでショータイムだ。
「カウンターが効きそうな相手じゃないな‥‥」
 その様子を見て。ぼそりと呟くヒューイ。向こうが攻撃するのを待ってカウンターといきたい所なんだが、目の前にいるエリザと、援護している音夢にかかりきりで、こちらまで気を回してはくれないようだ。
「‥‥‥‥」
 ヒューイが距離を取っている間、音夢もまた距離を取っていた。そして、直撃させないようにしながら、まるで彼と挟撃するかのように、トルネードを操作する。押し戻されたバナナが、エリザに体当たりを食らわせて。
「‥‥‥‥っ。下郎の分際でよくもわたくしに傷をつけましたわね!」
 頬に一筋、傷跡が走った。その刹那、エリザの後頭部に怒りマークが浮かぶ。直後、彼女は携帯していた機械剣へ手をかけた。
「お食らいなさい!」
 その白い軌跡の周囲に、光の微粒子が舞う。ざしゅっとまるで大きな大根を切る音がして、バナナはゆっくりとのけぞった。その後ろにあるのは、音夢のトルネードだ。
「‥‥‥‥」
 彼女、それを横にひらりとかわして、背面へ用意しておいた、バナナボート型のケージを開放する。
「おし、今だ!」
 げしぃっとヒューイが止めとばかりにクルシフィクスで押し込み、がっちりと蓋を閉めた。壊さんばかりの勢いで鍵を閉めれば、バナナはもう籠の鳥である。
「捕獲完了ですわ。次は‥‥小麦粉!」
 エリザがきっと顔を上げ、変形を解除してバイク形態へ戻る。そのまま、土煙を上げるかのように猛ダッシュをかけると、今度は小麦粉の暴れるゴマ畑へと向かうのだった。
「おーい、俺も乗せてってくれー」
「‥‥‥‥」
 おててふって合図するヒューイの横で、トルネードとバナナを片付けた音夢が、無言で『聞こえてないです』とばかりに首を横に振るのだった。

 さて、その連絡を受けた智はと言うと。
「バナナはなんとかなったみたいです。次は、小麦粉か‥‥」
 通信機から聞こえてきた報告を、ドクターにも告げた。
「‥‥どうやら、一般的に小型か中型と言われる類のようだね〜」
 農具置き場の影から、キメラを観察している彼はそう言った。容姿は溶けかかった白玉に似ている。大きさは約1mの半円。一般的なスライムと、能力も攻撃性能も変わらない様に見えた。もっとも、フォースフィールドだけは若干弱くなっているようだったが。
「ドクターさん?」
 だが、智は気付いた。その表情が、今までとは売って変わった硬いものになっていることに。
「我が輩は能力者としても、科学者としても、今ひとつ甘かったようだ」
 一見しただけでは、表情はいつもの通り、口の端を吊り上げた笑み。しかし彼は、普段から『最後の良心』と言われている首の十字架に手をかけた。
「その甘さ、そぎ落とさなくてはね」
 ためらいなく、チェーンを外す。
「‥‥‥‥っ!」
 その瞬間、怒りに染まった双眸が、いつもより激しく輝き始めた。
「このような生命、生かしておくわけにはいかないな」
 声さえも、若干低くなったように感じる。ホルスターに下げられたエネルギーガンの出力が、最大に合わせられた。
「ちょ‥‥! 先生からは、捕獲しろって‥‥」
「聞く耳、もたんな」
 きっぱりと、そう言って。刹那、キメラにそのエネルギーが降り注がれる。そこに、一切の容赦はなかった。
「どうしよう‥‥」
 その怒りが、わからないでもない。止めあぐねている智が、攻撃を悩んでいると。
「やめておけ、東雲」
 騒動を見に来たのか、様子を確かめに来たのか、寺田教諭が姿を見せる。口調が変わっているところを見ると、何か感じ取るものがあったのだろう。
「‥‥わかりました。ちょっと気になる事もありますし、ドクターさんの意向を尊重しましょう」
 こくんと頷いた智が取り出したのは、『独自製法でふんわり』と書かれたドライイーストの箱だ。
「いえ、ふっかけてみたら発酵するのかなー? と思って」
 そう言うと、彼はそれを持ち込んだ超機械にぶち込んでいた。ういんういん言いながら、イースト菌を飲み込む。
「美味しいパンになったら面白いよね。えぇい」
 そう言って、出来上がったイースト菌ビームを、小麦粉へと噴射する智。ところが、その直後だった。
「これは‥‥!」
 もごもごと膨れた小麦粉の塊は、まるで細胞分裂するように、2匹に増えてしまう。そこへ、バイクで駆けつけるエリザ。
「ちょっと。でっかい音がしましたけど?」
「小麦粉が増えちゃったんだ。あっちはドクターさんが何とかしてくれてるみたいだから、こっちを!」
 指し示した先では、分裂した小麦粉がいる。エネルギーガンで撃ちこまれ、ところどころに穴があいた小麦粉は、こりゃあタマランとでも思ったのか、移動を開始する。
「籠は用意してあるよね?」
 智がロープを片手に確かめると、音夢が無言で小さな籠を差し出した。中には、餌らしきものが仕込んである。それを。彼女は進行方向の前へと置いた。
「残念ながら、行かせるわけにはいかんな」
 だが、ドクターはその刹那、機械剣へと持ち替えた。
「やりすぎじゃ‥‥」
「知る物か」
 きぱりとそう言って。
「‥‥食らいたまえ。我が輩の怒りを!」
 握り締めた剣が、もう一匹の小麦粉玉を切り落とす。
「‥‥今です」
 音夢が表情のないままそう言って、もう一匹の小麦粉を、檻へと誘導するのだった。

 捕らえられたバナナと小麦粉は、キメラ研の係員が引き取って行った。
「‥‥いじめないで、あげてください‥‥ね?この子達も‥‥きっと、悪意があってやったんじゃないと思いますから‥‥」
 音夢が、念を押すようにそう伝えている。ケージの中でうねうねする小麦粉の玉は、なんだかちょっと愛嬌があって可愛いなーと思ったらしい。
「これで何とかなったかな」
 その様子を見て、ほっと胸をなでおろす智。ただ、ドクターは、相変わらずだ。
「ただ、思うけどこんなモノ作るなんて、許可がいるはずだし、マッドサイエンティストが近くにいそうだよね?」
「ふむ‥‥。一理あるな」
 それでもなお、言い募る智に、ようやくドクターは答えた。どうにかして、その沸き起こる怒りを抑えようとしているのだろう。
「しかし、なんで今回こんな事になったのかねぇ」
 ヒューイが、小麦粉を見送りながら、頭を抱えている。と、そこで智が、その怒りの矛先を、施錠されている地下倉庫へと向けた。
「ただ、思うけどこんなモノ作るなんて、許可がいるはずだし、マッドサイエンティストが近くにいそうだよね? あそこ辺りに何者がいるはず!」
 そう言って、振り返らずにバイクを走らせる智。後ろにドクターを無理やり引っ張り出している。彼が、倉庫を蹴り飛ばすと、そこには白衣姿の男性がいた。
「な、何故ここが!」
「学園の平和を乱す奴は何があっても赦さないです!」
 びしぃっと指先を突きつける彼。
「我輩の夢とロマンをぶち壊した奴を、許しておくわけにはいかないねぇ」
 ドクターも、エネルギーガンを向けていた。と、その彼は口元をにやりと笑みにさせて、白衣をばさりと取ってしまった。
「バレてしまったようだな。そうとも、手引きをしたのは俺だ」
 まるで、ソニックブームか何かのように。倉庫の背後が吹き飛んだ。瓦礫で、視界が閉ざされた直後、壁に穴が開いており、その向こうに人間型キメラの姿があった。
「ち、仕留めそこなったか‥‥」
 空の上に行ってしまったそのキメラ。どうやら、バグアがひそかに潜り込んでいたようだ。
「このサンプルを見るに、不完全な知識で培養したモノを組み込んでしまったようだね‥‥」
「それを、潜入したバグアが利用した‥‥と言うわけですね」
 残されたものは、報告書で何度か見た事がある培養液だ。どうやら、実験に使っていたサンプルのキメラを、彼が加工していたらしい。
「ドクター」
 と、そこへ寺田教諭が姿を見せた。
「寺田、とか言ったな」
 厳しい表情で振り返るドクター。
「あなたのお怒りはごもっともです。ですが、ここカンパネラはUPCの配下でありながら、UPCの管理下と言うには、あまりにかけ離れた場所。こう言ったことも起こり得る事を、ご容赦いただきたい」
「‥‥‥‥‥‥」
 彼は答えなかった。ただ、研究された品の残骸を見つめている。寺田教諭はさらに続ける。
「こちらのキメラもどきは、正直言うと不完全な存在です。もし、可能ならば、あなたにもこの実験生命体を完全版にする研究を、手伝っていただきたいのですが」
「‥‥考えておこう。ああそうだ。怪我の治療を行わなければね」
 それだけを言って、彼は怪我をしたエリザ達に、練成治療を施してくれるのだった。