●リプレイ本文
キメラのプラントコンテナ捜索依頼を受け、傭兵達は新型AUKVの稼動テストを兼ね、集まっていた。
「噂の『掃除屋』、か。レッサーという手錬がいるとも聞く。油断は、ならんな」
その間の、何度か記録を読んだのだろう。報告書を片手に、帽子を被りなおすUNKNOWN(
ga4276)。どうやら、それなりに有名なバグアもいるようだ。今日も黒のフロックコートに咥え煙草、頭のてっぺんから足の先まで一部の隙もないダンディズムを貫いている。コンテナの隙間に、酒を積み込むのも、その為かもしれない。いや、本人は前線に持って行く為と言い張っていたが。
「前々から、興味があったんだけど、こんなとこで会えるなんてね‥‥」
既に、コンテナには『知覚のレディ』と呼ばれる新型が詰め込まれている。その大部分を占める特徴的なシルエットに、ソーニャ(
gb5824)もまた興味津々だ。それは、参加していた生徒も同じだったらしく、その一人、功刀 元(
gc2818)はなぜか鼻の下がびろんと伸びているような気がした。
「んー、久々に薙さんとお仕事一緒できるねー。新型にも乗れるし、これでジャングルじゃなければもっと良かったんだけどなー」
「元君‥‥。ピクニックじゃないんだから。そんな事言ったら失礼だと思う‥・・」
おそらく、傍らに恋人の御剣 薙(
gc2904)がいるせいだろう。普段はクールな少年口調の彼女だが、さすがに恋人の前では、少し女性らしくなるらしい。
「でも、これ‥‥なかなか可愛いじゃない」
借り物でも、ひと通りは見ておきたい。そう訴えたソーニャは、早速試着して、レディシルエットをためすすがめつしている。しかし、着るのは女性ばかりではない。
「薙さんーどうですー? 結構似合うでしょー?」
にこにこしながら、レディを着用する元。ヘルメットをつけた姿は、どう見ても綺麗なおねいさんだった。
捜索は、二手に分かれて行う事になった。AUKVを着用できるドラグーン組がコンテナ確保に動き、他の面々が敵を引き受けると言う役割だ。
「密林の落し物か。これは相当に厄介だな」
空の上から、該当空域を往復する白鐘剣一郎(
ga0184)。南から北へと向うルートだが、さすがに遥か下の密林は、障害物も多く、そう簡単に見つからない。事前に打ち合わせをしていたが、下の状況は中々分からなかった。つや消しブラックの不明のK−111改や、奏歌 アルブレヒト(
gb9003)のシュワルベの姿は垣間見える。ティグレスとカラスの機体は、彼らに任せた方が良さそうだ。
「問題が起きているのは‥‥、このあたり‥‥ですね」
地上では、残りの3人が捜索中だった。陽動を兼ねているのか、結構おおっぴらに、密林の木々を薙ぎ倒しながら進んでいる。
「もう少しすれば、タロスが現れると考えられます。そしたら、打ち合わせの通りに」
終夜・無月(
ga3084)がそう言った。ドラグーン達だけでは、それは荷が重過ぎるかもしれないと、戦力差を考慮し、彼らKV部隊がひきつける事になったらしい。そう‥‥いろいろな手段で。
「‥‥わかっています‥‥。こちらが‥‥北のようです」
奏歌が指し示したのは、コンパスのN方向。南側へ下りた彼らは、そのまま北上する形で、捜索を開始していた。
「こちら不明‥‥。タイヤ痕を見つけた。草木の俺具合から判断すると、こっちだな‥‥」
外部音声が入るように、機外マイクをオンにした不明が、地面に記された不自然なタイヤ跡を見つけた。草木の折れも激しく、結構な速度で通り抜けて行った事が推察される。
「‥‥あれか?」
空から捜索していた白鐘も、徐々に高度を落としたまま、樹冠を掠めて大質量のモノが落ちたであろう跡を確認する。しかし、その方向と位置を通信しようとした刹那、無線にノイズがが激しくなっている事に気付いた。
「ジャミングが激しくなっているな」
仕方なく、少し距離を戻して無線機を回復させる。そして、その軌跡を仲間の機体へと送信していた。他にも、気になった点を添えて。
「どうやらビンゴのようだ」
白鐘がそう確信したのは、ややあって奏歌から、こんな報告が上がってきたからだった。
「では‥‥目標を発見しました‥‥座標X342:Y38‥‥各班は至急合流されたし」
彼女が、予め決められた法則に従って作った偽座標だ。オープンで放送させたそれは、本来の位置から、北へ200mほどずらした位置となる。その地点には既にKVの姿があった。
「準備完了?」
「ええ。さて‥‥上手く釣れると良いですが」
無線を切った奏歌は、無月の目には、彼女が少しだけ不安の色を混ぜていたような気がした。
世の中、依頼に参加する理由は様々だ。AUKV班となったドラグーン達は、地上からティグレスとカラスを捜索していたのだが‥‥。
「薙さん、足元に気をつけてくださいね」
新型AUKVを身につけた元が、そう言いながら、薙に手を差し出す。ただし、決して油断が出来る相手ではないのだ。
「まずはカラス様達と合流を図りませんと。お怪我もなさっているそうですし」
天小路桜子(
gb1928)がそう言って、地図を広げた。とは言え、大まかに川の位置が書いてある程度の代物。頼りに成るのは、上下左右に記された座標だけだ。
「KV班が南から捜索を確認した。まずは、バイク形態での走破性をチェックしないと‥・・」
ソーニャが捜索ルートを確かめている。上空に上がった白鐘からの報告では、何か大きな質量のモノがおちて言ったとの事だ。その方向は、KVで通るには向いていない。
「通れそうです?」
「やってみないとわからないけどね」
桜子にそう答え、ソーニャは新型をバイク形態に変更する。まずは、障害物の多い地域の走破性をチェックする所からだ。
「カラス様の情報を元にすれば、こっちのほうです。地上KV組みと、連絡を取りやすくしたいんですが‥‥難しいかしら‥‥」
KV班とAUKV班で連絡の取り易い位置に移動したい桜子。上空とKV班からの情報で、凡その検討はついたが、その周辺のはジャミングが酷く、中々細かい場所を特定できない。
「これだけ激しいとね。けど、対応出来ないと、折角の知覚の意味がないと思うし」
薙も、AUKVのセンサーテストを兼ねて、周囲を捜索していた。機器そのものは問題なく稼動している。被ったヘルメットの視界そのものはクリアだ。リンクも問題なく稼動している。しかし、無線機だけはバグアのジャミング効果を受けているようだった。
「これだけの障害物ですから、起動性能の確認はいくつも出来そうですね」
桜子が密林を駆け抜ける舞姫のように、バイク形態から人型、そして駆動性を確かめる。今回は隠密を高くとの事だったので、あまり無茶は出来ないが、使えないのでは意味がない。そこで、機動性を確かめながら、密林を進んで行くと、程なくして巧妙に隠された翔幻と、ロングボウを見つけていた。
「子猫ちゃんの籠を見つけたようです。ミルクを確保しに行ったそうです」
元が、鴉達を子猫、コンテナをミルクと言い換えて、KV組に報告している。そうすると、2人の位置はここから近いようだ。
「例のコンテナにはキメラが詰まってたって話も有ったし、金属反応と大型の動体反応には特に注意しないとね」
座標を元に、捜索の範囲を修正するソーニャ。薙もキメラの姿を警戒している。と、森の陰で何かを探している様子の大型ビートルキメラが見えた。しかも‥‥数匹。
「‥・・こっちであってるようです。隠れてください」
正直、ビートルキメラで遅れを取る彼らではないが、不用意に近付くわけには行かない。それに、この姿を見られるのはまずい。そう言って、少し下がると、足元にぬらりとした塊。
「元君、これを見て」
薙が屈んで確かめると、その血はまだ新しい。鏡を取り出す彼女、ビートルキメラ達に気付かれないように輝かせて見る。と、ほどなくしてその反対側から、同じような輝きが帰ってきた。どうやら、二人が潜んでいるのは間違いないようだ。
慎重に、近付く4人。AUKVは、自分達の衣服のように、滑らかに動いてくれる。と、ほどなくして、金髪と制服が見えた。
「こんにちはー。美人4姉妹の到着ですよー」
「大丈夫ですか? 今、手当てをします」
元がおどけてそう言うと、桜子が救急セットを取り出す。大丈夫。血は止まっている。消毒をして、奏歌の所に連れて行けば、回復するだろう。
「すまないね。代わりと言っちゃなんだけど、これを」
手当てを受けたカラスが差し出したのは、コンテナと思しき座標番号である。その周囲には、多数のキメラが居る事が確認されていた。既に、半数は密林へと消えているだろう。魔の森と化したジャングルが、生徒達に牙を向かないはずはなかった。
「殲滅します。一気に蹴散らしますよ」
キメラ達が気付いたのは、カラスを収容した直後である。桜子が、彼らを倒すよう提案する。そこは、薙と元も一緒だった。
「元君、きたよっ!」
前衛とばかりに、機械爪と脚爪でもって、拳を叩き込む。手ごたえを確かめるや否や、同じ場所に蹴り込んだ。味方の射線を遮らないように、足場に注意しながらだと、どうしても同じ場所になってしまう。
「レディ、いくよ。限界まで回して上げる」
だが、ソーニャにとってはそれでよかった。走輪モードで勢いをつけ、大鎌を振るう。避けられる時もあったが、彼女はそのまま構わず鎌を回転させた。がきょんっとその装甲で弾かれ、逆回転になるが、やはり振り下ろす場所は同じだ。その間に、元が子猫確認の報告を、KV組に入れる。
だが、その直後だった。
「気をつけて。急速接近の質量がありますわ!」
桜子が警戒を発した。この状況で、移動する巨大質量の物体など、ひとつしか考えられない。
そう‥‥前衛組がキメラをボコり終わると同時に、密林の中から姿を現したのは、迷彩塗装のタロスだった。
「‥‥まさか、本当に出くわすなんてねぇ。まともに戦ったら勝ち目は無いから逃げようっ」
薙が、周辺の木々に身を隠しながら、後退する。
「この近くにKV待機させてる。そこまでフルスロットルだよ!」
ソーニャは、既に近くにKVを待機させている。緊張感が周囲を支配し、その空気を張り詰めさせる。口火を切ったのは、彼女自身の竜の翼だった。
「障害物の多いジャングルでこのレディは追えないでしょ。逃げるよっ」
バイクモードからアーマーモードにチェンジし、そのまま滑り込むようにKVのコクピットへ飛び乗る。直後、背中で閃光弾が炸裂した。薙がめくらましをかけたようだ。
「エルシアン、出る」
その直後、ブースターを起動させるソーニャ。その視線は、タロスの懐を捉えているのだった。
交戦の報告は、上空の白鐘にも届いていた。
「やはり出て来たか。予定通りやるしかなさそうだ」
タロスは遥か下だが、こっちに出てくるかもしれない。そう思い、VOTLで降下しようとポイントを探る。しかし、その下には、既にKVが3機待ち構えていた。
「さて、駆け抜けるぞ」
3機の先頭に立ち、流れるような仕草で、人そのままの動きを見せる不明の機体。覆いかぶさるような密林の木々を押しのけ、その枝を支えに、距離を詰める。マップの座標には、その先にタロスがいるのは分かっていた。だが、後ろには生身部隊がまだいる。敵に目視される前に、スモークディスチャージャーをぶしゅうっと吐き出した。
タロス、その煙幕で、敵の姿に気付いたのだろう。こちらに向って牽制の弾を放ってきた。しかし、本格的な攻撃に出られては、後ろが厄介だ。機外に出られても困る。ので、不明は即座にグングニルを一気に横に振った。周囲にあった木々ごと薙ぎ倒され、タロスがその槍先を掴む。引き寄せられるのに不明は抵抗しない。いや、逆にタロスのコクピットを抑える。ばしりと叩かれた衝撃で、エラー音が不明のコクピット内に響いた。
「さすがに、わからんな‥‥」
自爆装置を何とかしたかったが、どこにセットされているか、全く分からない。その為、槍で貫く前に、距離を取らざるを得なかった。
「…その射線…利用させて貰います」
その隙間を縫い、奏歌がレーザーキャノンをぶっ放す。びゅいんっと光線が木々の間を貫くと共にリロードする彼女。何しろ2発しかない貴重な弾だ。不明を追いかけている間に、距離を取り、射撃に適した位置を保つ。弾幕を張り、牽制して近寄らせないようにする。タロスとの距離を60mほどに保ち、それ以上近付かせないようにしている。フェイントを折りまぜ、タロスの射撃を煽りつつ、相手の位置を把握しようと努めていた。時折、ブースターの光が輝き、かなりいっぱいいっぱいなのが見て取れる。
「二人共大丈夫?‥」
「既に手当ては終わってる」
その間に、無月がティグレスに声をかけた。通信機越しに答える彼。その証拠に、すぐ側にティグレスの翔幻を示す光の点が見えた。ソーニャのエルシアンが、タロスの懐へ飛び込んだのが見える。カバーのレーザーキャノンをお見舞いする奏歌。中衛位置から、不明の槍が襖のように繰り出される。
「こっちも足止めする!」
無月はそう言うと、敵の操縦部分を狙う。その次は胴、首、四肢と順番に破壊しようとしていたが、手持ち武器のないサイファーでは、そこまで届かない。奏歌が援護射撃をしている間、ブースターで接近するが、スラスターだけでは、やはり攻撃力に欠けていた。
「残り、2体いるみたいですね」
視界は悪いが、彼の冷静な判断力は、まだ敵が残っている事を見抜いていた。どうやら、一人を様子見に出させ、その間に目的物を回収するつもりらしい。
「その一匹は囮です。包囲網を警戒してください」
注意を促す無月。それに釣られた刹那、他の2体が背後に回りこむ。自分達も良く使う手だ。手薄な所を撃破する事も考えたが、兵装がKV独自のものしかない今、孤立や突出しないようにするのが精一杯かもしれなかった。
だが、それでも、不明のK−1が盾になり、奏歌のシュワルベが援護射撃。そして遅れて参加したソーニャのエルシアンで、何とか仕留める事が出来た。リコポリスの刃が煌き、その体を貫く。
「噂のレッサーではなかった、のか」
それでも、自壊したタロスを見下ろし、不明は小さくそう呟く。
こうして、回収したカラスとティグレスから、何とかコンテナの場所が割れた。さすがに多勢に無勢で、完全な確保は難しく、その大半は既にタロスに寄って持ち去られていた。
それでも、新型の性能は確かめられたらしく、ロールアウトの告知が乗ったのは、それから程なくしての事である。