タイトル:【BD】空飛ぶカエルマスター:姫野里美

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/09/30 14:29

●オープニング本文


 南米のジャングルは、一見すると豊かなように見えて、危険がいっぱいなエリアである。それは、今までの調査でも分かっていたが、それゆえに事件が起こっていた。
 UPCの基地、と一口に言っても、色々な基地がある。事件が起きたのは、その一つ。ボリビアの北部にある、小さな基地だ。基地と言うより、キャンプに近いだろう。傭兵達が作戦で切り開いた密林に、小さなコンテナが設置されている。そこには、宿泊施設が設営され、10名ほどが続く部隊を展開させるための準備を行っていた。いわゆる工兵部隊と言う奴である。
「何か、聞こえないか?」
「いや、俺にはとんかちとカエルの音しか聞こえないが‥‥」
 とんてんかんと、戦車やトラックを通す為、地ならしをしている工具の音がする中、申し訳程度に配備された見張りの兵が、顔を見合わせる。日差しが強いが、この密林では湿度も高く、なぜか両生類が森の中に住んでいたりする訳だが。

 ゲロゲロ
 ケロケロ
 ケケーケケー

「って、カエル?」
「この辺のカエルって、そんなでかい声で鳴いたか?」
 顔を見合わせたままの兵士が、厳しい表情になった。持っていた銃は支給品だが、警戒もまた仕事である。作業中の工兵達にコンテナの中に向かうよう報告し、慎重に声のする方へ近付いて行った。
 と。
「キメラ発見しましたぁっ!」
 いたのは、小型の自動車程もある巨大なカエルだった。しかも、手足が生えていながら、尻尾がぐねぐねと動いている。その足の筋肉は、銃を持った隊長の胴体よりも太い。
「撃て、撃てェッ! まだそれほどでかくないっ」
 非能力者とは言え軍人。盛大に弾丸がお見舞いされる。相手の数は1匹。ありったけばら撒けば、対処できない数ではないはずだった。
 だが。
「飛んだっ!」
「さがれっ! くるぞ!?」
 ざっとその足が地を蹴った。普通のカエルの延長線上にあるならば、次は自分達へけりが飛んでくるか、小バエ代わりにしようと、舌がぶっ飛んでくるかのどっちかである。しかし、その何れも予想は外れていた。何故なら、そのカエルの背中には、南米特有の鳥と同じ羽が生えていたからである。
「かえるが飛ぶなんて、聞いてないぞ!!」
「良いから下がれっ。あいつ、俺達を小バエと認識してるしっ」
 その先の行動は、予想通りだった。持っている銃の砲身よりも太い舌が、びゅびゅんっと兵達に伸ばされる。銃の弾丸は舌を傷つけもしなかった。予想より表面に貼り付けられた粘液が、防御力とショック性をアップさせているようだ。そして、空飛ぶカエルは思う様むさぼろうと、鋭い牙を生やしたその口を開ける。
 その刹那、一陣の風が、カエルへと体当たりを敢行していた。
「あ‥‥」
「大丈夫か?」
 見れば、そこにいたのはAUKVをまとった傭兵だった。いや、学生だった。ほっと胸を撫で下ろす兵。中には、年若い彼らに助けられるのを、不満に思う輩もいるようだったが、言葉には出していない。何故なら、彼らを背中に、フライングフロッグに退治しているのは、金色の髪を持つ聖那だったから。
「ティグレス、安全を確保したら兵を中へ。来ますわよ」
「了解」
 そのぴったりとしたライディングスーツは、UPCの面々には、自由の女神にでも映ったのだろうか。凛とした声で示した先には、空飛ぶカエルが元気に浮かび上がる所だ。
「いったい、何が起きてるんだ?」
「この辺りに、BFのコンテナが落ちた」
 ティグレスの言葉は少ない。その代わり、聖那がその先を続けた。
「私達は、その捜索と被害調査を行っていますの。本部から連絡は‥‥来ておられないようですね」
 コンテナには、最低限の装備しかない。気付けば、アンテナがへし折られていた。キメラの仕業だろう。折れたアンテナの切断部に、ぬらぬらとした粘液が光る。
「ひょっとして‥‥、こいつらは中身だったのか?」
「だろうな。何しろ長距離輸送の途中で落ちたんだ。腹を空かせたキメラが、この辺りいったいにばら撒かれてる。早々に撤収した方がいいぞ」
 ティグレスの槍が唸り、飛んできたロケット砲のような舌先をすっぱりと切断する。しかし、それすらもうねうねとうごめいており、くるりと回した穂先で、トドメの一撃が必要だった。
「これでひとまずは。けれど、この1匹ばかりではないですわね」
「だろうな」
 見れば、すぐ近くの川には、ゼリー状の卵のようなものが転がっていた。中身はない。まるで、おたまじゃくしが抜け出した後のようである。その大きさは、ちょうど先ほどのフライングカエルと同じだ。さらに悪い事に、その周辺には、鳥の羽だけが転がっていた。そう、ちょうど先ほど倒したカエルの背中に生えていたものと同じ色の羽が。
「こちら龍姐、状況はこの通りですわ」
『把握しました。どうやら、生徒会だけでは手が足りないかもしれないですね。こちらからも増援を送りましょうか』
 聖那が報告しているのは寺田だろう。倒したカエルの死体を画像に取り、サンプルを回収している。それによると、どうやらやはりあの羽は、食べたもののようだ。
「学生さん、こいつを見てくれ。何か役に立つか?」
 そこへ、ただ助けられるばかりでは申し訳ないと思ったのだろう。通信担当の1人が、防犯カメラに映った画像を持ってきてくれた。そこにいたのは、川の下流に向う先ほどと同じ様な巨大カエルが数匹。何れも形は違うが、背中に羽を持ち、浮き始めている。中には、背中に猿のような顔を浮かび上がらせたカエルまでいた。
「川の下流には、俺達の本隊の基地がある。カエル達はそこへ向ったのかもしれない」
 その顔は、南米に住む猿と同じ特徴を持っていた。だとしたら、導き出される結論は、嫌なものでしかない。
「情報ありがとうございます。では、増援が到着次第、指揮を分担した方がよろしいでしょうね。ティグレスは引き続き、コンテナの捜索を。私は下流へ向います」
『芝刈りと桃拾いには、気をつけてください』
 寺田はそう言ったが、中から出てくるのは、桃太郎ではないだろう。

「ボリビアの周辺にある基地で、空飛ぶカエル型キメラが、襲撃の様相を見せています。どうやら、ボリビア北部に展開する国境エリアの一部に出没しているようです。落ちたコンテナから出没したと思われますが、立地的な情報から、違う部隊かもしれません。いずれにしろ、国境警備の基地に向かい、このキメラの討伐とサンプル回収をお願いいたします」

 なお、スタート地点は、まだ無事な国境基地のひとつ。さほど距離は離れていないとは言え、間には密林が広がり、さらに磁場やバグアの影響で、通信設備が使いにくい状況にある。慎重な行動が必要なようだった。

●参加者一覧

セシリア・D・篠畑(ga0475
20歳・♀・ER
木場・純平(ga3277
36歳・♂・PN
依神 隼瀬(gb2747
20歳・♀・HG
澄野・絣(gb3855
20歳・♀・JG
赤い霧(gb5521
21歳・♂・AA
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
兄・トリニティ(gc0520
24歳・♂・DF
ヨダカ(gc2990
12歳・♀・ER

●リプレイ本文

 王様は怒っていた。
「おにょれ! カエルキメラめ!」
 密林の入り口で、身の丈ほどもある杖を持ち、立派な王冠とマントを羽織った王様こと澄野・絣(gb3855)は、髪を結い上げた状態で、ぷんぷと頬を膨らませていた。
「我が眷属を模すだけでも腹立たしいのに、羽なぞ付けよって、余に対する侮辱としか思えん!」
 いつもと違い、完全に男口調になった絣ちゃんが、だんっと杖‥‥否、これは王杓だろう‥‥を鳴らして、はるか密林の奥を指し示す。
「行け! わが同胞達よ! わが眷属の名誉の為に、やつらを確実に排除するのだ!!」
 きらきらと周囲に王様オーラが振りまかれる。そこだけ別世界になっていたが、他の傭兵達は、特に気にする風情もなく、作戦を練り始めた。話し合いの結果、皆で一緒に進む事は、既に周知してある。その為、川の側の密林を、注意して進む。耳をそばだて、四方を警戒しつつ、はぐれないように進んでいく。何しろ、密林や川のどこから敵が襲ってくるか分からない。鳴いたりもするらしいので、音にも耳をそばだて、川や空、森の中にも留意していた。
 ‥‥と。
「その辺に隠れてないですか?」
 樹上を見上げるヨダカ(gc2990)。空を飛ぶとの事だから、きっと不意打ちも得意だろう。そう判断した刹那、
がさりと目の前で音がした。
「あら、寺田先生の言っていた、増援の生徒さんですね?」
 それは、川沿いに進んできた聖那だった。と、絣がふんぞり返って大げさに頷く。
「うむ。余の眷属を名乗る不届き者を成敗しにきたのじゃ。聖那殿、不届き者はどこじゃ」
「私も探し中なんですけど、カエルの殻は見つけましたわ」
 聖那が指し示した先の川辺。そこには、報告にあった通りの、キメラの卵があった。一般的なカエルの卵同様のゼラチン質。ぶよんぶよんしたその卵は、見るからにキショイ。
「寺田先生、俺、頑張ってるよ!」
 依神 隼瀬(gb2747)、遠くカンパネラから指示を飛ばしてきた眼鏡の恐怖に、打ち震えている最中だ。だが聖那は、そんな事全く気にせず、皆を案内してくれた。そんな中、顔色1つ変えないエレクトロリンカーが1人。
「‥‥案外、触り心地も悪くないですよ‥‥。お一つ、如何ですか‥‥?」
 無表情なまま、さっくりとその卵を手に取り、差し出すセシリア・ディールス(ga0475)。お団子差し出すのと同じ状況に、隼瀬は「一般的な知識しかないんだけどなぁ。それとは違うみたいだ」と言いながら、貰った回収ケースへと入れる。そんな光景に、逆に豊富な怒りパワーを噴出させているのも1人。
「むぐぐぐ。なんと言う侮辱じゃ」
 王様である。半分おたまじゃくしになったそれを、出来れば踏み潰したい衝動にかられているが、大事なサンプルだから持ち帰れと言われているので、何とか我慢している。と、見つかったポイントを、地図に書き記していた木場・純平(ga3277)がこう言った。
「基地の方面と一致しているな。やはり、そっちを目指しているか‥‥。急いだ方が良さそうだ」
「はぐれない‥‥ようにしましょう‥‥
 セシリアが、無線機のスイッチを入れる。シグナルミラーと呼笛はすぐに取り出せる位置に移動させた。そうして、準備を整えていると、王様が水辺にぐっきり記されたでかい水かきの後に気付く。
「むむっ。こんな所に、不届き者の足跡が!」
 元々、参加者の中で一番高かった直感力が、カエルぱうわぁで増大しているらしい。AUKVを装着した隼瀬が、呼笛を咥えつつ、その足跡が示した先へと先行する。ぼつぼつと続く足跡は、やはり大型の水かきがついており、基地の方向へ向っているようだ。
「こっちだ。この先の開けた場所に向ってる」
 木場が持っていた地図に印を付けたのは、川沿いの作業小屋だ。皆で追いかけて行くと、おもむろに赤い霧(gb5521)が歩みを止める。
「おしゃべりは此処までにしよう‥‥お客様だ」
 ゲコゲコと、盛大に響くかえるの声。ヨダカが見上げると、その樹上に見えた、大きな蛙のシルエットが視界を覆う。
「見つけたのですよ〜!」
 すかさず呼笛を吹き鳴らす彼女。隼瀬も蛙を見つけた。そのサイズは、遠くから見ても、自動車ほどにでかい。隼瀬のAUKVと同じ位はあった。
「気付いていないかな。こっちにおびき寄せる手段が必要だと思う」
 頭にシグナルミラーをくっつけた夢守 ルキア(gb9436)がそう言い出した。見れば、木々に粘液がこびりついているが、こちらを注意する気配はない。その独特な姿に、木場が怪訝そうに「何をする気だ?」と尋ねてくると、ルキアは川のある方を指し示した。
「囮。こいつで目印つけるよ?」
 川を見失うと、基地まで戻り難い。逃げられても困る。ルキアはGooDLuckで己の幸運を祈りつつ、ペイント弾を装備し、蛙に狙いを定めた。
「ふむ。あの猿がついた奴かな」
 一匹だけ、先頭にいる。茶色い蛙。その背中には、かなり人に近くなった猿の顔が浮かんでいた。それが、一族を率いているようだ。
「わかった。何とかするよ」
 何しろ、ルキアには秘めた盛大な野望がある。
「GAAAAAA!!!」
 覚醒した赤い霧が吼える。世史元 兄(gc0520)の体躯が光に包まれる。それを合図に、傭兵達はそれぞれの得物を手に、後へと続くのだった。

「上のが来たですよっ」
 ヨダカが、樹上の蛙が動いた事を告げる。きしゃーっと、盛大な雄叫びを上げる蛙に、少し後ろへ下がったヨダカと入れ替わるように、ルキアが前に出た。
「こっちだ。ショタっ子の肉は柔らかいよっ!」
 目立つ姿で走り回るルキアに、その中の数匹が鳴きながら追いかけてきた。べしべしとペイント弾がお見舞いされ、その間に世史元が覚醒する。蛍のような光が周囲に散った。
「くぁぁっ!」
「おのれぇ。偽物の分際で! 王の怒りを食らうのじゃ!」
 ルキアを追いかける蛙に、絣が怒りの先手必勝王杓アタックを食らわせる。実際は、左手にしたライトピラーで、その足を狙っていた。握り締めた柄から、超圧縮のレーザーが射出され、蛙の足を根元から切り飛ばす。が、蛙は痛いとも思っていないのか、今度は羽で空へと浮き上がった。
「こいつなら、捕まえられるかな‥‥」
 木場が己のパワーを増大させ、両手に仕込んだクラッチャーで、蛙を捕まえようとする。特注で作らせた超機械は、指先が自由に動くため、蛙のぶよぶよした体や、ぎょろりと剥いた眼も攻撃できると思ったから。
「くぇっ!」
 が、ぶん殴った感触は、ビーズクッションを殴った時のようだ。どうやら、衝撃は吸収してしまうらしく、掴もうとした舌先は、つるりと滑ってしまった。
「流石に、ぬるぬるして捕まえ難いな。当たるのは当たるが、こいつの方が良さそうだ」
 そう言うと、木場はクラッチャーから装着式超機械へと持ち替えた。蛙が突っ込んできたところを、連剣舞で応対する。ペネトレイターとなった今、普通ならもたついてしまう行動も、蛙が来る前にこなせた。疲労感はあるが、ばちりと火花が散り、蛙の舌先が焦げる。先ほどの蛙とは違って、頭は回るのか、その蛙は距離を取って下がった。
「無礼者!!」
 別の蛙が、王様に舌攻撃を食らわせている。だが、所詮は偽蛙。かえるの王様に蛙の偽モノが適うわけないので、その舌ミサイルは、王杓に弾かれて、明後日の方向へと着弾していた。
「終わったら、聖那君にハグって貰うんだからっ」
 ルキアがそう言う。かえるの王様は可愛いが、かえるの王子は呼んでない。それに、王様と木場の動きを見る限り、やはり斬撃より刺突の方が良さそうだ。
「面より点の攻撃の方がいいかも、力が集中するから」
 弾力があるその表皮を切り裂くには、鋭い刃が必要のようだ。そう思い、ルキアは超機械で足を狙う。しかし蛙は、翼でばたついて浮き上がってしまった。射程が合わないと判断したルキア、バラキエルを撃ち放つ。しかし、いかに幸運と言えど、それだけでは当たらない。運良く2発程命中したが、ダメージが蓄積されている様子はなかった。
「温存していた方が良さそうだね」
 見えないところから、蛙の声がしなくなるまで撃とうと思っていたが、視認する限り、練力を使い果たすのは、止めておいた方が良さそうだ。代わりに電波増幅をかけ、仲間の強化へと変える。だが、そんなルキアをうっとおしいと思ったのか、蛙の一匹が彼女の細い体をなぎ払った。
「ぐぁっ」
「大丈夫っ?」
 ちょうど、ヨダカの足元へ転がるはめになったルキア。駆け寄られ、抱き起こされると、口の中に血の味が広がった。
「問題ない。こっちは、これがある‥‥っ」
 拡張させた練成治癒で、自身の怪我を癒すルキア。そこへ、再び蛙が舌先を伸ばしてくる。くけぇぇっと怪鳥じみた鳴き声を上げ、ルキアが絡め取られてしまった。
「こっちが‥‥チャンスだっ」
 が、彼女はそう言うと、自身の超機械を、その口の中へと突っ込み、構わずスイッチを入れていた。ばじゅっと肉の焦げる音がして、蛙の舌が取れる。解放されたルキアには見向きもせず、距離を取る蛙。
「怪我はありません?」
「はい、大丈夫ですっ」
 聖那にそう言われ、即答するルキア。と、その距離を取った蛙に、ルキア達を庇うように、前へと出た隼瀬が追いすがる。
「待て、逃げるな単位!」
 どうやら彼には、蛙が単位にしか見えていないらしい。
「とりあえず蛙でも何でも、飛べなくすればいいんだよねっ」
 隼瀬は、薙刀「昇龍」の刃を一閃させる。が、蛙は意外と素早い動きでそれを避けると、樹上から隼瀬に牙を剥いた。
「着地の瞬間をねらえばっ。くうう、当たらないかなっ」
 薙刀を振り回すものの、高さを稼がれると当たらない。何とか弓に持ち替えたいが、その隙は与えてもらえないようだ。
「もう少し良く狙わないと、外されてしまいますわよ」
「んなこと言っても、元々のジャンプ力が凄いから、あんまり当たらないんだよっ」
 聖那の応援を受けつつ、薙刀を振り回す。ジャンプ力は余りないのだが、その分するりと交わされる事が多い。
「よし、物理攻撃が効かない訳じゃなさそうだっ」
 ようやく、その一撃が足を捕らえた。ざくりと入った一撃に、薙刀の刃が粘液でぬらつく。しかし、物理攻撃しか聞かないと言うわけではなさそうだ。かと言って、スパークマシンだけで倒せるとは思えないのだが。
「あーやっぱり、報告通りだね刃が通らないって」
 それでも、世史元はそう言って、自らが持つ壱式に、ズブロフを吹きかけた。そして、何を思ったか自分の服に押し当てる。じゃきりとどこかで金属音がして、その瞬間、壱式がかすかな炎に包まれていた。
「じゃーよ? コレはどうだ? はっはっは♪ どうよ? 体を焼かれながら斬られる感覚は♪♪」
 その炎込みの刃を振り回す世史元。聖那が「まぁ。まるで炎の妖刀使いですわね」と言ってくれたが、考えてみれば炎にSES効果はないので、蛙には効いていない。炎が当たる度、淡く光FFが見えた。
 うっとおしいなと思ったのか、蛙が舌先をミサイルのように飛ばしてきた。そのミサイルのような舌が、世史元を捕らえる。だが、彼は何事もなかったかのように、その舌をを捕まえようとした。
「あー、馬鹿にするなよ、蛙が。怪我なんて、覚醒すれば直ぐに治るんよ。ソレよりも捕まえたぞコラ、そのご自慢の舌斬ってやるからな!」
 が、捕まっているのは世史元自身だ。蛙の動きは以外と早く、体中に打撲の傷が出来上がる。
「くっくっはっはっは♪ 残念だったな!お前らが餌と思っていたのに餌に殺されるなんたな♪おら♪愉快に痛快に死んで逝けよ雑魚が!!」
 が、ハイなので聞いちゃいないようだ。逆に、持っていた超機械『シャドウオーブ』に手を伸ばすが、そこで蛙にかみつかれてしまう。
「超機械は、こう使うの‥‥」
 そこへ、やや後方からセシリアが静かにそう言って、持っていた超機械『ブラックホール』をお見舞いする。それは、飛び上がろうとした蛙の翼に命中し、地面の上に落としていた。そう、世史元ごと。
 再び飛び跳ねようとする蛙。と、セシリアは無言でその空いたどてっぱらに、電波増強した一撃を炸裂させる。無表情なまま、何も言わずに戦う彼女、自分のほうへと向ってくる蛙の口元を見て、脇へと避ける。
「それ、離して‥‥」
 かぱっと口をあけたそこに、彼女のブラックボールが炸裂した。根元にダメージを受けた蛙は、放り投げるように、世史元を離す。
「回復してあげる‥‥」
 セシリアが練成治療を施すと、いくらか楽になったようだ。しかしそこへ、蛙が再び突撃してくる。
「料理は動けなくしてからが本番なのですよ! ぬめりよ取れろ〜なのです」
 そこへ、ヨダカが牡丹灯篭を発動させた。練成弱体の一撃を食らって、ぬめりが焦げる。足を攻撃された蛙が、雄叫びながら、ヨダカへと舌を伸ばしてきた。
「ばっちい舌でヨダカに触るなですよ〜!!」
 かえるのお腹の中なんぞ勘弁だ。根元の方を焼いて、脱出を試みる。
「ごめんなさい、ちょっとビリっとくるですよ〜」
 まだ相対しているルキアがいるが、気にせず、そのまま電撃を発動させていた。その為か、ルキアを離す蛙。そんな二人の代わりに、すいっと前に出る赤い霧。そこへ、残りの蛙が前に出てきた。見れば、カオナシ蛙を伴った猿面蛙だ。
「くえぇぇっ!」
「おいおい、デカイ図体してその程度か‥‥」
 そう言いながら、何とか避けようとする赤い霧。小さな傷でも、深く負えば出血多量で、戦闘できなくなる恐れもある。それは避けたかったが、それを避けようとすると、どうしても致命傷となる傷以外も、避けねばならなくなる。己の身の堅さには自身があったが、避けられてしまう回数も多い。猛攻、と言うわけには行かなかった。
「カエルを殺したら雨が降ると言われるが‥‥明日は大雨だなッ!」
 それでも、舌を伸ばした蛙に、流し切りを食らわせる。すぱーんっと綺麗に切り飛ばされる蛙の側面へと進む彼。
「成敗!!」
 王様が王杓を振り下ろした。そこへ、赤い霧は両断剣を振り下ろしたのだった。

 さて、傭兵達にはその後にも仕事がある。
「こうして、桃太郎は卵を拾いましたっと」
 ルキアが、転がっていたキメラのサンプルを袋に入れた。持って帰らないわけにはいかないので、袋から体液が漏れないように何重にも封をする。その彼女が、聖那に聞いた所、コロンビア方面に進んだBFの対応は、傭兵達にミッションとして与えられる事になったようだ。
「ところで、これって食えるのか?」
「ムリだろ。どう見てもゲテモノの黒焼きだ」
 赤い霧が残りの死体をつついてみるが、超機械で焦がされたそれは、どうみてもゲテモノの黒焼きにしか見えず、たとえ食えるとしても遠慮したいシロモノと化していたのだった。