●リプレイ本文
【ちまぽに大戦R】
ラスホプは、いつもならば所々に風光明媚な場所があったりする、超多国籍で無国籍なエリアだったはずなのだが、目の前に移っているのは、水色の蛍光カラーな海に浮かぶ、ファンシーでパステルな絵柄に溢れた島だった。
とてとてと砂浜に出てきたうさぽにことソフィリア・エクセル(
gb4220)のぽにが、ぽにんっと跳ねて、短いおててに木の看板を取り出す。
「みんな〜、ちまぽに大戦リラックスが始まるなのよ〜。ちまぽに大戦リラックスを見る時は、おやつを片手に部屋を明るくして、なるべくモニターから離れてみるなのよ〜」
アニメですっかりおなじみとなったテロップが流れていく。ルビも振られた上、ソフィリアに読み上げられるその注意事項で、小さな子供が見ても安心だ。なお、おやつには、子供が食べても安心なスイカが、掃除機みたいな専用冷蔵庫からおててを振っている。
シュールなオープニングが広がるその日、ラスホプは巨大なまったり空気に包まれていた。
「えぇい、何はともわれ、とりあえずゆるゆると、皆緩くなってしまぇぇい!」
「うわぁぁぁ!」
本人曰く『犬みたいな何かなんだってば!』と言い張る、灰色の毛むくじゃらなちま。くったりぬいぐるみと言った肌触りを持つちまわんこのような龍鱗(
gb5585)ちまは、その手に短いワンドを持っていた。いわゆる魔法少女のステッキなのだが、そこから放たれた雷は、准将の弄っていた超機械を直撃し、さらに被害を拡大させている。
「こんな格好は嫌ぽに〜」
「やり直しを要求するちま〜」
で、すぐ近くにいた准将自身と、ミクも被害にあっていた。見れば、准将がジジィぽに、そしてミクはネギ持ったちまになっている。どこかで見たような外見になっているのは、気 の せ い だ 。
「Gちゃんもミクちゃんもかわいいなのよ〜。なごむなのよ〜」
そんなちまぽにーずにまぎれるのは、さっきのソフィリア。うさぽにの彼女が混ざると、先ほど惨劇を起こしたはずなのに、すっかり絵本の世界になっている。
「おじーちゃんいたぁぁぁぁ」
きゅいーんっとそこへバイクのエンジン音が響いた。うにんうにんと画面中を走り回り、一瞬だけぽにちま化する前の橘川 海(
gb4179)がカットインされるが、それもちまの足音に消されて、見えなくなってしまう。後に残ったのは、人形劇のハムスターになった、うみちまだった。下の方に『海ハム』とテロップで書かれた海ハムちゃんは、じじぃぽににとてとてと近付くと、ちたぱたと短いおててを動かす。
「おじーちゃん、えーゆーけーぶい、ないんですかっ?」
「今作ってるぽに。そのせいで何かおかしくなったぽに」
どうやら、事故は開発していた超機械が暴走した結果らしい。
「どうしようぽに」
どこをどうやったら、そうなるのかは海ハムにはまーったく見当がつかないが、じじぃはぽにになり、孫はちまになる。頭を抱えているのは確かなようだ。
「とりあえずー、のんびりすればええんやなー」
が、ちまになった方の高日 菘(
ga8906)は、真っ白いカブを、葉っぱの部分をバイクのハンドルのように持って、海ハムの後をおいかけている。ごろごろと転がされるカブに、ジジィが「それカブやない。カブや」と意味の分からない突っ込みをしていた。
「とりあえず状況を整理するわね」
アイリッシュセッター姿の百地・悠季(
ga8270)ちまが、そんなじじぃぽにをぽいっと放り投げて、議場の中心に置いた。そして『審議中』と書かれた札を置き、事情を問いただす。
「えぇと、研究練の大爆発で、ラストホープはちまぽに状態で溢れかえっていて、その身丈の小ささと反応速度の低さで、何をやっても時間が掛かる状況で」
窓の外を見れば、聖那がぽにったままゴロゴロと転がって行った。ちまったティグレスが後を追いかけ回しており、のんびりしたムードが蔓延している。おかげで、事態の収拾にとんと目処が立たないと言ったところだ。
「まあ、まさに『会議は踊る』なのだけれど、身丈に影響された精神がまったり加減で、ほぼ状況が投げられてる気がするわねー。空をきんきん飛んでるアレは別として」
見上げたお空では、KVのコスプレをしたちまが、音速の壁をばこばこと突き破っているようだ。そんなちまぽにの島に降り立ったふくろうちまこと澄野・絣(
gb3855)は、のんびりと毛づくろい。
「んー、一体何すればいいんだか、って感じですねー。とりあえず、寝ときます?」
「んー、『ちまぽにの国』作ればええんちゃうー?」
のんびり毛づくろいしているのは、カブを抱えた菘も同じだ。
「うん、良いんじゃない? 誰もが和める、ちまぽにリゾートにしちゃえばさ」
そう言ったのは、山ほど食材を調達してきたユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)である、ふかふかちまちまな雪狼のちまは、他のちまに負けず劣らずスイーツが大好物らしく、どう見てもその食材はケーキやクッキー、タルトの材料だ。
「進まなくて困らないかなぁ?」
「いあ、別に。ここであたしが出来ることと言ったら、やっぱりカレーよね」
ちまミクの問いに、そう答える悠季。アイリッシュセッターがてしてしと荷車を引いて戻ってくると、その上にはジャガイモと玉ねぎとカレー粉が山積みにしてあった。大きい寸胴をがちゃこんっとコンロにセッティングすると、かぱっと鍋の蓋が開いて、一体のぽにが姿を見せる。
「こんちはー。カレー作ると聞いて!」
里見・さやか(
ga0153)である。ぽに派のさやかがぽにぽにと寸胴から出てくるのを見て、悠季はのほほんとおててを振っている。
「あらさやか、いらっしゃい」
「何か、皆でカレーを作るんだって?」
さやかぽにの見立てでは、材料が足りないようだ。
「基本の材料はこれでいいんですけど、野菜と牛乳がいります。海軍の金曜カレーには、栄養不足を補うためのサラダと牛乳が必ず出されるのです」
めにゅう表と手書きされた見開きのボードには、海軍カレーの他、牛乳にミモザサラダと併記されている。
「さて、セッティングはそれで良いとして、それなりの人数が来るみたいだから、もう少し大きい寸胴鍋用意した方がいいわねぇ」
ちまとぽにの背丈で扱える寸胴では足りないかもしれない。そう判断したさやかぽにがんしょんしょと引っ張ってこようとしてるのは、ひとまわり大きな鍋だ。
「お鍋は一人では運べないので、どなたか手伝っていただけると助かりますー」
もっとも、ぽにのさやかには、その大きな鍋を運ぶのが、ちょっと難しい。悠季も「ふ、普段でも大事なのに〜」と手伝っている状況は、まるでお祭の模様だ。
「カレーか。カレーはやっぱり皆で食べた方が美味しいよね」
その様子に、終夜・無月(
ga3084)は背中の羽をぱたぱたと動かして、お外へ向う。
「どこいくの?」
「寺田ちまとか呼んできても良いと思うよー」
にぎやかなお祭には、意外なゲストも必要と言うことらしい。悠季が「そっか。じゃあお願いするわ」と言うと、無月は背中に生やした羽で、学園の職員寮へと飛んで行った。
「じゃあ行ってきます〜」
ただし、とても遅い。
「アレでつくのかしら‥‥」
不安に思う悠季だったが、怪力があると言っていたので、まぁ大丈夫だろう。そう判断し、人数分の材料をまな板の上に上げていく。
「じゃあ、手分けして切って行きましょうか」
「カレーって普通のやつでええのん?」
菘の問いに頷く悠季。それだけではなく、切り方や具の香辛料の投入方法等を指定していく。だが。
「この翼では、切るのが出来ないです‥‥」
絣ちまは梟なので、包丁がもてない。いや、菘もちまなので、持てる包丁は子供用の先が丸い奴なのだが。
「寺田後から来るそうですけど、手伝いは要りますか?」
そこへ、呼び出しの終わった無月が戻ってきた。
「じゃあこれを運んで頂戴」
包丁とお肉が渡される。結構な塊のお肉をよっこらしょと持ち上げ、どすんと落とす。そして、ぶっといナイフをどこからともなく取り出して、手馴れた様子でものすごい速さで切っていく。あっという間にブロック肉がコマ肉になって行った。
「ど、どなたか、一緒に押さえていただけると助かります〜」
もっとも、そのブロック肉を押さえているさやかさん、ぽにのパワァではおさえ切れないので、徐々にずれて行った。
「はぁい。とう、ジャガイモ爆撃ー」
「きょうりょくするなのよ〜。いっしょうけんめいおなべになげいれるなのよ〜」
その切った食材を、絣とソフィリアが次々と鍋に投げ入れている。菘がちまゴーグルで玉ねぎを刻む中、耳で投げ入れるのに、時々失敗しているソフィリアに対し、絣は着実に食材を放り込んでいた。
「猛禽類の王様は最強なのだ〜」
「ええー、かすりさんは、かえるのおうさまですっ。わたしはじゅうしゃ、だいいちごうっ! さんぼうさんですよっ!」
ふんぞり返る絣に、海ちゃんが不満そうにかえるさんセットを持ってくる。が、そのカエルさんセットには、おまけが1人ついていた。
「もしゃもしゃ‥‥」
ごろごろとちまっこいアルジェ(
gb4812)がくっついて、そのかえるさんセットをはむはむしている。
「アルジェちゃん、それご飯じゃないようっ」
「もふもふ」
海ハムがひっぺがそうとすると、ハムスターごとかかえてもふもふしていた。ちっとも離さないアルジェちまの注意を引いたのは、ミクちまの一言だ。
「あれ、ニンジンさんがないちま」
ちらりと視線を走らせたのは、ソフィリアの持つにんじんだ。
「はらぐろさんのニンジン、美味しそうだねー」
「誰がはらぐろなのよー」
海ハムのセリフに、ソフィリアうさぎが反応したのは、どちらかと言うと自分の名前のほうだった。
「え、だって4もじいじょう、おぼえられないよっ」
ちなみに無月がせんせーで、悠季はゆーき、菘と絣はそれぞれさん付けで呼んでいた。
「4文字でいいじゃないなのよー」
「じゃ、じゃあそひりあさんでー」
以後、この報告書でもそひりあさんと呼んであげよう。
「ひとつだけ‥‥なのよ‥‥。ひとつでいいなのよ‥‥。もうひとつなのよ‥‥。これでおしまいなのよ‥‥」
「仕方がないなぁ、誰か買ってきて」
中々離そうとしないにんじんに、悠季はさっさと見切りをつけて、売店から食材を調達してくるように告げたのだが、その刹那、開けたドアの先に何だか黒いきんきん飛ぶものが見えた。
「招待状届いたみたいですねー。お迎え逝って来ます」
無月がそう言ってお空に上がる。
「わー、面白そうだから私もー」
海ハムと絣、それに菘が様子見についていく。が、その刹那「えい」と横合いから少年の声がして、すっ転んでいた。
「わぁっ。レンきゅん?」
見れば、ちまくなったレンである。その背中から、威圧感たっぷりのぽにが姿を見せる。
「まったく、入る時は挨拶をしなさいと言っただろうが」
どこをどうつついたらこうなったのかは知らないが、そのぽにはよく見たら京太郎だった。怪訝そうにしているちまぽにの群れに、京太郎が見せたのは、とある招待状である。
「いや、こんな物を貰ったんだが」
そこにはこう書いてあった。
京太郎くんへ
ラストホープでお茶会をしたいと思いますので良ければ来て下さい。
お友達同伴も大歓迎です。
徒歩では大変だと思うからシェイドで来て下さいね。
地図を同封しておきますから。
では、待ってますね。
敬具
終夜・無月より
見れば、地図にはラストホープの現在地と機密扱いの防衛網の縫い目だとか着陸地点だとかが書かれ、何故か小さな肉球のスタンプが押されてる。
「いらっしゃい。待ってたよ」
「べ、別に来たくてきたわけじゃないんだからなっ」
ちまレン、そう言う割には、たしたしと尻尾が揺れている。わんこ型のちまだから『遊びに来た』が本音だろう。
「まぁそう言うな。ご挨拶といこうじゃないか」
がこしょんっと京太郎ぽにが取り出したのは、『自家用』と書かれた真っ黒なシェイド‥‥のちま。
「話が速いですね。えぇい」
で、無月はそれとは対照的な白いKVをちまっと取り出している。何だかヤバそうな雰囲気に、菘がカブをえんしょっと対抗するように取り出した。
「戦うなら、うちのかぶの出番や」
なお、菘のカブは、投げる打つ転がすと三拍子そろった万能武器にして回復野菜である。と、海ハムもAUKVちまを持ち出してきて、ちまちまとてとてと突進してきた。
「わたしたちのれんけい、みせてあげるっ!」
が、ちまなのでずべしゃーっとすぐ転ぶ。
「何やってんだよ」
「えぇい、ひかりのやだー!」
レンちまに馬鹿にされて悔しかったのか、『みさいる』と書かれたちまいえんぴつがごろごろとダース単位で浮いた。それは、すぱすぱと回りに飛び散ると、ぱりーんっとガラスが割れる音を立ててはじける。
「わー、綺麗な花火ー」
絣が、梟らしく首だけ180度動かして見上げている。そこへ、ひゅるるるるっとカブが振ってきて、甘口ルーの放り込まれたカレー寸胴に、どすんと着地していた。
「はうぅ、なんでかな?」
そのまま、ぐつぐつとカレー色に染まっていくカブに、纏めようとしていた海ハムはおろおろしているが、そこにユーリが出来上がったスイーツを満載して、ワゴンをゴロゴロと押してきた。
「ちまぽにだからだと思う。ケーキ出来たよー」
どうやら、お菓子作り大好きなユーリは、これ幸いと一杯作っちゃったらしい。見れば、ふかふか抹茶シフォンケーキ、しっとり蜂蜜ロールケーキ、ちょっぴり酸味のレモンパイ、大人味のチェリーパイ(含アルコール)、自然な甘さの桃のタルト、ほろにがコーヒームース、ちょっと捻ったオレンジチーズケーキ‥‥と、あっという間にテーブルの上が埋まっていく。
「ミートパイとかスモークサーモンのベーグルサンドとかコールスローサンドとかもあるよ♪ 今日は狼仲間が居てちょっと嬉しいかな」
ユーリ、ふかふかちまちまな雪狼の尻尾がパタパタと揺れている。そこで、ちたちたと寄って来たちまレンが、何をしたかと言うと。
「お手」
おててを差し出す。反射的に「わんっ」と手を載せてしまい、ずずーんっと落ち込むユーリちま。その間に、レンはピンポンダッシュに成功した子供よろしく、京太郎ぽにの後ろへ。しかも、ちゃっかりロールケーキとシフォンケーキを両手に奪取していた。
「レンってどんなちまぽにになるんだろうとか思ったけど、普通の子供になってるなぁ」
皿から消えたケーキのラインナップを見て、そう呟くユーリさん。どうみても、ただのお子様である。それを見て、菘が「カレールゥは甘口やないとあかんでー」と、甘口ルーを追加投入していた。
「【千日紅】フルメンバーで準備した豪華カレー。さあ、出来上がりよね!」
悠季が味を確かめ、OKサインを出した刹那、天空を飛ぶ一条のちま。
「ランドセル準備‥‥」
ごろりと転がったアルジェの背中には、ランドセルのようなSJBがあって、寝たままぶっ飛んでいる。燃料を使い果たすと、ケーキとカレーのところに落ちてきて、いそいそと補充中。その速さはとても速い。捕まえられないくらいだが、たった一人、違うちまがいた。
「この世界は、私ことフェ狼がまもーる!」
見ればフェリア(
ga9011)である。そう言いながら、あっちこっちで元気よく暴れまくり。
「あぁばーれあぁばーれあーばーれーまーくーr‥‥ギャー」
いや、よく見たらレンに叩き落された。どうやら、魔王じゃ・すらーくはちまレンだったらしい。とっつかまったフェリアが、ぽいっとお布団の中に投棄されている。
「ふはははは、そんな事はないのですっ」
木製乳母車を牽引し、バイクに乗ってぶるるんぶるるん。_
「しとしとぴっしゃんしとぴっしゃん。どうも拝一刀‥‥ではありませんフェ狼です」
木製乳母車には、ちょっと懐かしいぐるぐるする機械が乗っかっていた。サイエンティストじゃなくても使える、氷とかかれた立派なのぼり。そう、カキ氷マシンだ。もちろん、昭和年代の骨董品なアレである。
「この真夏の暑さに耐え切るために、カキ氷を用意したので、皆食べるがよいのです!」
「わぁい、フェリアりあん、ありがとー」
海と絣と菘がちまちまと寄って来る。そこへ、フェリアはおしながきと書かれた扇子をぺらりと広げた。
「なお、代金は通常料金一〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇円の所、特別価格一〇〇円なのでござる、さぁたべよしょくせよずつうせよー!」
きーんっと頭に音が鳴るのは仕様と言う奴だ。そこへ、さやかぽにがのてのてと寸胴を持ってきて、首をかしげる。
「後は、人数分のスプーンと、サラダと牛乳を用意すれば、カレーセットの完成ですね。‥‥‥‥あれ? ライスはどなたが用意して下さるのだろう?」
「カレーにはナンが必要だと思うのですよ、ナン」
ご飯を誰も焚いていない。いや、正確に言うと、フェリアが乳母車のそこからごそごそと取り出したのは、良い匂いのする薄いパンみたいなものだ。
「というわけで用意しましたナンの山。いくぞ保煮知魔皇。胃袋の空きは十分か!」
ちなみに、ぽにちまおうと呼ぶ。胃袋の隙間をぐるぐると刺激するそのナンの山を、無月が「じゃあ運びますねー」と、何事もなかったかのようにひょいっと持ち上げて、テーブルの上にどさりと置いた。
「外套の中は5次元空間‥‥」
が、見ればそのテーブルの上には、アルジェが外套から取り出した電子ジャーがででんっと乗っかっていたり。
「お茶欲しい人は言ってねー」
うーりんが、ちまレンと京ぽににもお茶を出している。とりあえずもしゃもしゃしているアルジェちゃん。が、おなかが満たされると、どんどんまぶたが落ち始めた。
「たべたらねむくなるなのよ〜」
そひりあもごろごろと転がった。食べてすぐ寝ると牛になると言うが、もともとちまとぽには宇宙と同じ構造をしているので、大丈夫らしい。
「その前に、食べ終わったら、お片づけですね」
そんなぽにのさやかが、食べ終わったお皿を台所へ持って行った。いや、性格には持って行っているのは、力持ちの無月なわけだが、洗い桶に入れられたお皿を、がしがしとクッションにしがみつく要領でスポンジにしがみついて、ごしごし洗っていく。
「とりゃー。そんな時にはこれ!」
そこへ、フェリアが用意したのは、締め切りのある生活をしている人にとっては、取っても恐ろしい必殺技だった。
「食らえ。これが締切日明日だと思ってなくて、<姉ちゃん明日って今さ!>な時間帯に大急ぎで仕上げつつも、もう寝落ちしちゃいそうでヤバイんですが光線だー!」
おお、報告官も驚く真っ白さ加減だ。カレーの落ち難い油も綺麗さっぱり落ちている。
「そういえば、ちまぽにを皆さんに認めていただくんでしたっけ」
が、その必殺技は、肝心な課題も落としてしまったようだ。解決策が綺麗さっぱり消えていて、さやかぽにはうーりんの入れてくれたお茶を飲みながら、首をかしげる。
「このままでも問題ないなのよ〜。寝てから考えるなのよ〜」
すでにお昼寝モードのそひりあうさぎ。その姿をみて、さやかはぽんっと短いおててを叩いた。
「ご覧下さい、ちまぽにが一生懸命カレーを作る姿を。癒されるとお思いになりませんか」
うんうんと頷いたユーリも、それに同意している。さやか、そこへ再びナレーションを入れた。
「バグアとの戦いも良いですが、殺伐だけでは疲れてしまいます。そんなあなたに、ちまぽにの楽園。まったりした時間とかわいい人々があなたを癒すでしょう」
そこには、ユーリの手でこう書かれていた。
『なごみの島、ちまぽにリゾート』
各種アクティビティ完備、季節折々の宴席、くつろぎの時間をあなたに。と添えられている。
「ヒーローは風のように現れ去っていくのです。トォゥ!」
結果に満足したフェリアが、バイクに乗ってぶるるんぶるるん。木製乳母車を牽引し東へ西へ消えてゆくのだった。
こうして、ラスホプはちまぽにリゾートとして生まれ変わった。
ただ、遊びに来た奴が二度と社会生活に戻れず、ちまぽにが世界中に広まってしまった事を追記しておく。