タイトル:【AA】後半が大事マスター:姫野里美

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/07/10 10:48

●オープニング本文


 砂漠の妖精として、戦線に出ていた某傭兵。
 東洋の故郷を離れ、遥かジブラルタルの戦場で戦っていた‥‥。
「このっ。蛇は大人しく森かなんかで寝てろっ」
 周囲には舌なめずりをする、上半身が人、下半身が蛇のキメラが居る。その数、4匹。周囲には、お供と思しき犬キメラが3匹おり、その傭兵を追い立てていた。
「ここは俺が食い止める。後で必ず迎えに来てくれよっ」
 少年の先には、仲間の車。だが、それはかなわぬ願いだった。とある策略により、砂漠の王国に置き去りにされてしまう。
「く‥‥。ここは‥‥」
 目を覚ましても、周囲には一面の砂漠。腰の辺りがいたい。そして砂漠なのに、なぜか全身が重く濡れ細っており、砂地を濡らしている。当然、武器に弾薬もエネルギーも入っていなかった。
「弾切れか‥‥。嫌になるくらいの砂だな‥‥。GPSは‥‥無理か‥‥」
 GPSはバグアのジャミングで壊れている。戦闘をしたあとでは、物資も心もとない。そこへ、現れたのは国を警備する者達。
「◆△◎☆! ×÷◆○!」
「標準語喋れ‥‥!」
 英語でもフランス語でもイタリア語でもない。地中海に面する国々の言葉を操る彼らに捉えられ、連行された先でであったのは、その部族を率いる、若き長だった。
「この者を我が屋敷に。水と、それから何か流し込める物を」
 感嘆の声をあげつつ、一目見るなり、そう言い出す長。傭兵が文句をつけても、聞く耳は持たない。気力も尽き果て、眠りに落ちた夜、事件は起きた。
「東洋人の目は綺麗だな。まるで古に伝わる黒真珠のようだ‥‥。その味、ぜひとも堪能してみたい‥‥」
 しかし、その夜突然やってきて、『東洋人の味を知りたい』と寝所に連れて行かれてしまい、乱暴されてしまう。
「俺は女じゃないっ。だいたい、ここは同性はタブーなんじゃ‥‥」
「ふふ。そんな事は気にするな。ここでは私がルールだ。それに、お前は数多いる高級の女性とは違う輝きを持つ者‥‥。文句など言わせぬ」
 それを境に、居場所をなくしたと思う傭兵だが、族長はそんな彼を丁重に扱ってくれていた。
「あれは私の黒真珠だ。手出しは‥‥許さん」
「気にするな。ここはお前の部屋。その傷を癒してくれればいい‥‥」
 次第に心を開く傭兵だが、実は自分の敵対する組織のボスだと知って‥‥。
「ああ。黒真珠は無事に手に入った。今は、磨き上げている最中だ。だが、渡すのは惜しいな」
「わかっている。充分に堪能させて貰うさ」
 砂漠に花咲く傭兵のロマンス。

「ちょ、ミクちゃん。いきなり何を送りつけてくるんだっ」
 と、モニターに並んだテキストを見て、カラスはむせていた。勿論、送り込んだのはミクである。しかもご丁寧に圧縮ファイルでモニター一杯に広がるように仕組んでいた。
『これに絵ぇつけたり、漫画つけたりした原稿を、ミカエルに行った時に、キメラに取られちゃったぉ。ヒントにされて、ホントにラミアキメラが出てきたら大問題だから、探してほしいぉ』
 何でも、ミカエル内部の掃討戦を調査しに行って、そこで蛇キメラに襲われ、荷物を奪われてしまったらしい。彼女の説明によると、追跡を振り切るため、カバンを投げたら、いっしょに原稿まで奪われてしまったそうだ。
「で、何で僕に頼むんだ‥‥」
『だって砂漠の王子様をカラスさんにしちゃったぉ。せっかくだから、PV動画を撮って来て欲しいぉ。即売会で上映したいから、相手は傭兵さんでお願いするぉ』
 頭を抱えるカラスに、ミクはにこやかにそう答える。最近殺伐とした作戦が多かったので、潤いを求める声が、ラスホプにもあるそうだ。とは言え、ラスホプ内では場所が即座に分かってしまうので、今のうちに遠い場所でロケって来て欲しいらしい。
「理不尽な‥‥」
 カラスがぶつぶつ言っているが、夢見る乙女に文句は聞こえない。

『と言うわけで、いわゆるサルベージ依頼だね。作業しながら撮影するから、各自は砂漠の部族っぽい格好で作戦に当たってほしいな。あと、該当地域には犬キメラと蛇キメラがいる。向こうは事情なんぞわからないので、そう心してね』

 数時間後、依頼を傭兵達に投げているカラスがいた。ミクが遭遇したと言う蛇キメラもさることながら、犬キメラの目撃情報もある。狼と言い換えていいかもしれない凶悪なタイプが。
 正直、かなりはた迷惑な依頼だが、まかり間違って犬や蛇がやおいの味を覚えると、偉い事になるので、よろしくお願いしたいとの事である。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
アルフレド(ga5095
20歳・♂・EL
鬼道・麗那(gb1939
16歳・♀・HD
ウルハルク・ヴォイド(gc2686
33歳・♂・DF

●リプレイ本文

 撮影場所はミカエル1の一画にある。
 と言う事で、高速艇で現地に向かった傭兵達は、ミーティングルームと言う名の楽屋で、打ち合わせをする事になった。別名台本あわせと言う奴である。
「けひゃひゃ、我が輩がドクター・ウェストだ〜」
 扉を空けた刹那、聞き覚えのある笑い声が響いた。テーブルの正面で、ふんぞり返っているのは、ドクター・ウェスト(ga0241)である。肩書きは、私設ウェスト異種生物対策研究所‥‥通称西研の所長だ。
「よろしくお願いします。ウェストさん」
「おじいちゃんがよろしくって言ってたぉ」
 百戦錬磨の多いラスホプにおいて、性格上特徴のある人は珍しくない。ミクも鬼道・麗那(gb1939)さんも慣れた様子で挨拶していたが、ウルハルク・ヴォイド(gc2686)はやや面食らった様子で、目をぱちくりさせていた。
「よ、よろしく頼む‥‥」
「よろしくだね〜。そうそう。我輩は、ただいまFFの分析と無効化を絶賛研究中なので、研究対象は多い方が良いのだよ」
 ウェストさんの場合、研究対象は別名シュミとも言うが、そんな事ついぞ知らないヴォイドさんは、素直に『わかった。協力しよう』と申し出てくれた。
「んと。おじいちゃんは事情により来れなくなっちゃったので、カメラはミクが持つぉ。テストなんで、一言どうぞだぉ」
 実はこの小娘がどっかにやったんじゃねェかと言う疑問は、きっとこれを読んでいる傭兵達だけのものだろう。それはさておき、マイクを向けられた麗那さんは、芸能人らしく、笑顔でインタビューに答えてくれた。
「これからはアイドルとしではなく、女優として皆さんに愛される様に全力で頑張ります」
 アイドルと言うか、TV関係のお仕事をしている彼女、カメラの前では小生意気なお嬢様キャラだが、世の常か、演技力のある女優さんを目指すらしい。
「任せたぉ。でも、まさかドクターさんが来ると思ってなかったぉ」
 そこはプロに任せるのが筋と言うものだろう。衣装を用意している麗那さんに、自分のもお任せしていたミクは、呆然としているドクターへ意外そうに言っている。
「ま、待ちたまえ〜! 改修する原稿とは、ミク君の物かね〜?!」
 事情を聞き直し、直接ではないが、思い当たる節がないわけでもないドクターさん、口から魂が抜けかけていた。が、ミクはけろっとして頷いている。
「うん。ミクのも入ってるぉ。でも、文芸部の人に描いてもらった原稿もあるぉ」
 いわゆるゲスト原稿と言う奴だろう。この時期は、皆忙しいので、手分けして萌えを形にするんだそうである。そう言えば、ラスホプでも何人か原稿原稿と大騒ぎしていたような。
「うーん、じゃああんまり元ネタから離れるのはよくなかったかしら‥‥。どぉしても男装の麗人がやってみたくて」
 困った表情で、苦笑する麗那さん。今回の妖精役は彼女だ。名前はレイ、東洋から来た美しき空手マスターで、なんでもオーラの刃であらゆる物を切り裂く‥‥と、設定には書いてある。見た目がとっても少年漫画なイラストつきだった。
「それはそれで良いと思うぉ。かっこいいおねいさんは、おじいちゃんの時代からの不文律だから、問題ないぉ」
 まぁちょっと客層は変わるかもしれないが、それはそれ、これはこれと言う奴だ。男装おねいさんのファンは女性も多いし、ヴォイドさんも「よくわからんが、困って居るのなら、手を貸そう」と言ってくれてるし。
「決まりだぉ」
「‥‥はっ、わ、我輩は一体何をしているのだね〜‥‥」
 にぱっと笑みを浮かべたミクは、部族長役のドクターを着替えさせていた。魂が抜けたままなので、言われるままにアラビアスカーフで顔を隠し、白衣をそれっぽく着て、上からベルトを装着し、サーベルを下げている。
「胸はサラシを巻いてと。あー、そうだ。オーラパゥワァで衣服が飛んじゃう設定なんで、修正はよろしくね」
 この辺は、公開するなら、セミヌードが上限だろう。ミクも「わかったぉー」と修正ソフトをUPCのデータベースからダウンロードしていた。
「で、俺は何をやればいいんだ?」
「この配役だと、ライバルキャラだから‥‥えぇと、それっぽい格好で、麗奈おねいさんを途中で掻っ攫っていけばいいぉ」
 1人、雰囲気に呑まれているヴォイドさんには、部族の副長さんっぽい立ち位置をお願いしたようだ。これなら、うっかりカメラに映っちゃっても『副官だから!』と誤魔化せると言うわけだ。
「何だか動き難いな‥‥。まぁいいが」
 若干、着慣れない衣装に戸惑いつつも、目的の場所へと向う。コンクリ打ちっぱなしの空間は、急ごしらえと言った感がぬぐえないが、出てくるキメラは本物だった。
「きしゃあああ!」
「がるるるる」
 柱の影から、人間の匂いをかぎつけた影が出てくる。
「あ、見つけたぉ! 早速カメラ回すぉー」
 ミクがそう言って、カメラを回し始めた頃には、既に傭兵達もキメラを確認している。蛇型が1匹、犬型が2匹。蛇と言うには巨大すぎ、犬と言うには凶暴すぎるそいつらが吼えたのが、開始の合図だった。
「く‥‥くろしんじゅにきずひとつつけさせるな〜。あれはわがはいのくろしんじゅだ〜」
 とても棒読みでセリフを口にするドクター。サーベルはモノホンだが、彼の武器はその練成力と、そしてエネルギーガンである。頭を抱えるミク。
「うーん、音は消した方が良さそうだぉ‥‥」
 一応録音マイクの電源は落とさないが、どうやらどこかでかっこいい音源を探してきた方が良さそうだ。物色しつつ、引き続きカメラを回していると、蛇がまず麗那に目をつけた模様。それを見て、ミクは素早くテロップに嘘字幕を書き込む。いわく『可愛いお人形さんだこと』と。
「オレは男だあ!」
 そう言いながら、その蛇をデビルズクローで殴りつける麗那さん。派手にオーラが飛び散るのは、彼女の覚醒効果だろう。どっかの少年漫画で見たような気がするが、最近の少年漫画は腐女子の巣窟なので、特に問題はない。
「って言うか、ソッチへは行きたくな〜い〜!」
 もっとも、ドクターはBLには拒否反応が出るらしく、台本通りには動いてくれない。本当は絡まなきゃいけないんだけど、いやいやと首を横に振る。男装の麗那さんが、どう動いていいのかわからず、おろおろしている中、魂が露出したままだ。
「‥‥大丈夫か?」
 で、代わりにフォローに入ったのはヴォイドさん。
「あ、ああ。大丈夫だ」
 ミクが何も言わないので、彼女はそのままヴォイドさんの手を取った。演技派を目指している彼女、手を貸され、優雅な仕草で立ち上がる。ちょっとした仕草にお嬢っぷりが出てしまうが、カメラはそのまま回って居るようだ。
「目指すは十二宮の頂上、教皇の間だ」
 どこかで聞いたような設定である。どこにも矢の刺さったおねいちゃんは転がっていないのだが、びしっと指差したのは、しゃげしゃげと舌を出している蛇キメラだ。
「先に進むのは、これをかけて行ってからだ〜」
 で、部族長のドクター、練成強化を使う。自身のサーベルにもかけて、やっぱりセリフ棒読みのまま、その蛇キメラに切りかかった。
「きしゃあああ!」
「がるるるる」
 蛇がのたうちながら後退するのと入れ替わるようにして、犬キメラが牙を向いた。両方から囲まれ、挟み込まれる。ドクターは「待ちたまえー!」とか言いながら、蛇キメラを追いかけて行ったので、残る麗那とヴォイドが相手する事になった。
「‥‥俺は気にするな、自分で何とかする」
「おぉ友よ‥‥お前の熱き魂が今、俺の中の小宇宙を爆発的に燃焼させる」
 ヴォイドとしては、メインはドクターと麗那なので、余計なキメラがカメラに映らないよう、犬キメラを引き受けようとしたのだが、麗那とはばっちりセリフが合ってしまった様だ。やっぱりどこかで聞いた事があるようなセリフなのが、ちょっと難点だったが。
「きしゃあああー!」
「がるぎゃあっ」
 しかし、相手のキメラはそんな事は知りもしない。分断されるのを厄介だと判断したのか、3匹でまとまって攻撃してきた。
「このままにはしておけないな。カメラの移らないところで除去した方が良いか」
 反対側へと駆け出したヴォイドが、そう呟くと、何も言わずにマーシナリーアックスを、犬キメラに振り下ろす。
「こっちもだ。見せ場はやはり主役のお嬢さんに譲った方がいいだろうね」
 その間に、電波増幅で受信しちゃったドクターが、エネルギーガンでもう一匹の犬キメラに撃ち抜いていた。お供をやられた蛇キメラがしゃげぇと牙を向く先に居るのは麗那さん。
「俺のハートが光って唸る。勝利を掴めと轟き叫ぶ‥‥」
 オーラがまぶしく輝いた。自前の覚醒で凛々しく変化した彼女の上着がはじけ飛ぶ。だが、ミクの「見ちゃダメ」光線で、大事なところは透過光の中だった。
「必殺‥‥竜星拳!」
 ざしゅううっと妙にリアルな音が、マイクに拾われる。悪魔の名前を冠する爪で切り裂かれた蛇は、ドクターが回収するのにちょうどいいサイズへと、ミンチにされるのだった。
「ふむ。どうやらここにいるのは、増殖キメラでも弱いタイプのようだね。蛇の一部は逃げたか‥‥」
 その肉片をピンセットで拾い上げ、持っていたケースへと回収するドクター。大き目の破片は、医療用メス‥‥に見えるシルバーナイフで適度な大きさに切り分けている。興味深そうに麗那が覗いており、ヴォイドはキメラの残骸から、ミクが本を探すのを手伝っていたのだが‥‥。
「‥‥ないっ」
 ミク、青い顔をして残骸をひっくり返している。「何?」と顔を上げるドクターと麗那に、彼女はこう告げていた。
「原稿が、ないっ。もしかして、蛇が持って行ったのかも‥‥」
 そういえば、数が足りない。見回しても、蛇と犬の姿は欠片も見当たらない。
「なるほど。では次はラミアと化しても不思議はないか‥‥。これはもって帰った方が良さそうだね〜」
 どうやら、原稿は既に回収されてしまったらしい。だが、ヒントとなる映像は撮れた。嘆くミクを引き連れつつ、一行は対策を練る為、ラスホプへと戻るのだった。