タイトル:【BV】憂さ晴らしマスター:姫野里美

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 6 人
リプレイ完成日時:
2010/04/12 08:45

●オープニング本文


 四国、太平洋沿岸のとある工場にて。
「なんだ、あれ‥‥」
 沖で目撃されていたワーム達。上空を飛んでいたせいか、それともよほど巧妙に隠されていたのか、それとも出撃が当たり前すぎてスルーされていた。それが、実害を伴ったのは、彼らが上陸してきた為だ。
「うわ、バグアの兵器だ!」
 驚いたのは、荷出し中の輸送船だ。その上には、いくつかのコンテナが乗せられている。それにはUPCのマークがプリントされており、関係各所に運ばれる材料らしき事が見て取れた。
「ワームって言えよ! 親会社にそう言われただろ」
 そこに突如飛来したワームの群。遠目でもわかる過ぎるくらい有名なその姿に、甲板で作業をしていた人々は右往左往だ。警告音が鳴り響く。どうやら、UPCの下請けに作業していた末端工場のようだ。だが、ワームはそんな彼らに、容赦なく手にした紫色の光線を投げかける。人知を越えた超兵器と言う名が相応しいその怪光線は、上に乗っていたコンテナを容赦なく破壊する。
「タロスって言うんだよ。覚えておいてね、大人達」
 ワームから響き渡るは、まだ少年の声だった。彼は成長しきっていない高音ボイスの笑い声を耳響かせながら、港に停泊している船を、次々と襲撃していく。その上に乗った作業員ごと。
「逃げろ! 工場に避難だ!」
 誰かがそう言った。指し示された先は、古い工場だ。入り口のチェーンが錆付いており、駐車場も所々に穴が開いている。
「勝手に入っちゃっていいのかよ?」
「命あってのモノダネだ! どうせ半分は動いてない!」
 迷っている暇はなかった。現れたタロスは、雑魚か輸送機がわりの強化型HWを伴い、あろう事かMRが周囲をうようよしている。例えこの場にUPCの戦力がいたとしても、人の手には余り過ぎる戦力だ。
「そんなプレハブなんて、あっても無駄なんだけどねー!」
 だが、レンはそんな人々の思惑なんぞ見透かしたように、ぱちりと指を鳴らす。現れたのは、だいぶ人の形に近づいたキメラだった。
「うわぁぁ、たすけ‥‥」
 悲鳴が爆音に飲み込まれる。周囲に立ち込める血の匂いをひとしきり吸い終わったレンは、満足したように、人であったものをぽいと放り出した。
「あーはははは、すっきりした。やっぱりストレスを解消するには、これが一番だねー」
 くるりと回れ右。その後ろには、揃いの制服を着た若い少年達がいた。どの少年達も、どこか京太郎によく似ている。
「あまりおおっぴらにやると、またあの方に言われると思いますけど‥‥」
「お前らは黙ってろ。どうせ役立たずなんだから」
 その少年達に声をかけられたレンは、不機嫌そうにそう答えた。と、いくつかいるはずの少年達は、おなじ口調でこう答える。
「僕達って不遇だよねー。あの人と比べないで欲しいよねー」
「「ねー」」
 じろりと睨みつけるレン。「京兄様を悪く言うと承知しないぞ」と脅されて、少年達は「怖いな会長は」「ねー」と異口同音に身を寄せていた。もっとも、その口の端には、笑みさえ浮かんでいるのだが。
「止まった‥‥?」
「今のうちに救援の電話だ。急ごう」
 バグアの少年達が、何やら楽しげにしている間に、住人達がUPCにヘルプを求めたのは言うまでもない。

『どういうわけか、最新兵器らしきワームが工場をいきなり襲撃してきました。このままでは命が危険なヤバさです。何とか追い払ってください』

 添えられていたのは、被害のあった港の写真。空にはHW。地上にはタロスとキメラ。海の中にいるかどうかは定かではないが、MRが見え隠れしている所を見ると、おそらく奴らがカバーしているのだろう。
「傭兵達出てくるかな」
「だろうね。最近はレベルが上がってるけど、こうしておけば、レン様の気は晴れるかな」
 だが、そう言った人々の動きは、どうやらレンとその部下である少年達には、見透かされてしまっていたようだ。その証拠に、現れたタロスは、まるで潮が満ち干するように、ある程度の間隔を置いて、襲撃を繰り返すと言う。そして、カウントダウンをするように、その都度遠くからコンテナが少しづつ消えて行くのだった。

●参加者一覧

地堂球基(ga1094
25歳・♂・ER
藍紗・バーウェン(ga6141
12歳・♀・HD
M2(ga8024
20歳・♂・AA
瑞姫・イェーガー(ga9347
23歳・♀・AA
ソーニャ(gb5824
13歳・♀・HD
流叶・デュノフガリオ(gb6275
17歳・♀・PN
ジャック・ジェリア(gc0672
25歳・♂・GD
D・D(gc0959
24歳・♀・JG

●リプレイ本文

 高速艇で、工場に隣接する海岸線へとやってきた傭兵達は、それぞれの機体を操り、工場の周囲へと到着していた。
「状況はかなり厳しいな。こちら陸戦班。生身班、そちらのようすはどうだ?」
 地堂球基(ga1094)が配備状況を確認しながら、そう尋ねる。サポートチームの無線からは、ノイズ混じりに「罠かも知れない。でも工場にいる人を助けなきゃ」と、橘川 海(gb4179)が行っているのが聞こえていた。
「さて、ここからか‥・・」
 地堂が身元をUPCに照会している。工場にいる面々は顔と名前が登録されていた。タロスの方はと言えば、その周囲にいる人の姿をしたバグアが、ハーモニウムだと言う事が分かっただけだ。
「ボクも護ってみせる‥‥、お前ら全機ぶっ潰してやるよ」
 柿原ミズキ(ga9347)が気に食わないと言った調子で、そう呟く。その表情は硬かった。
(もう、不安定な状態のままじゃ駄目だ‥‥どうなるかわかんないけど受け入れよう。覚醒したボクも、子供に戻っちゃったボクも、ボクなんだから)
 敵意は、レンに向けられている。どうやら、色々あったらしく、覚醒のスイッチを入れた。そのとたん、彼女の燃える様な炎髪から、真っ白になる。
「たろすよんたいかぁー、きついかも‥‥でも、相手に不足無しどうやってぶっ壊してやろうか」
 眼が橙色猫目に変化し、その口元に、無垢な笑みが浮かんだ。でも、自分は自分。奴らとは‥‥違う。
「とにかく、キメラからでもやっちまった方が良いだろうな」
 地堂が、まず雑魚を掃討するよう指示をする。間延びした声を出しつつ、彼女は目の前にいるキメラへと突っ込んで行った。攻撃が当たらないと信じている戦いぶりだったが、それで攻撃は当たる。数は一体でも減らした方が良いと言うのは、誰が言い出したことだっただろうか。
「駐車場の敵キメラ確認、状況開始する。救出部隊はよろしく頼む」
 一方、ジャック・ジェリア(gc0672)はと言うと、港のキメラを確認すると共に、駐車場のエンジェルキメラに向って、200mmをお見舞いしていた。気付いたエンジェルが振り返り、ジャックを囲い込みに来る。接近したそこへスラスターライフルを打ち込んだが、さすがに相手は人型だけあって、しっかりダメージを軽減されてしまった。
「くそ、カバーされたか。だが、接近戦なら、負けはしないっ」
 どうやら、ただ掃射するだけではダメなようだ。そう気付いた地堂は、接近しながら、剣を抜く。すれ違いざまにスクラマサクスをお見舞いしたが、倒されたのはわずかに2体のみだ。
「ひとがたなら、きゅうしょは同じはずなんだけど‥‥わぁんっ」
 逆に、ミズキが回避しきれずに、ダメージを食らう。二刀流を持ち込んだ彼女だったが、人型とは言え、相手はキメラ。人の急所、と言うのは存在しない。
「さすがにみずがめ座配下か‥‥。急所なんてモンは、最初っから除去られてるみたいだな」
「くっそう。人なら、あしをねらえばいいのにぃ!」
 悔しそうなミズキ。そこを、今度は背後からキメラが取り囲み、外側にタロスが4体もいた。
「やはり待ち伏せされたかっ。キメラは救出部隊に任せた方が良いかな」
 わらわらと現れたキメラに、ジャックがそう言った。このまま、キメラだけを相手にしている間に、タロスが救出部隊に嫌がらせと言う名の襲撃をしてしまう。そう判断し、プレハブから離れるよう指示をする。
「各個分断されるよりは良い。俺達はタロスを相手に。味方が駆けつけるまで持たせるんだ」
 地堂も、立ち回りを気にしながら、プチロフ製の30mm重機関砲がお見舞いされる。1点に集中するよう設計された対タートルワーム用のそれは、相手がタロスだといえども、お構いなしだった。
 だが。
「んもーっ! しずめっ。しずめってばーー!」
 食らい付くようにして、何とかその動きを翻弄しようとするミズキ。足や関節、駆動部を狙うが、劇的な降下があるとは思えない。それでも、再生能力を上回るだけの数を出せるよう、持ち込んだ弾丸をありったけ食らわせてみる。
「こっちだけで片付けば御の字だ。ジャックポット狙ってみるか!」
 流石にそれだけの攻撃だと、牽制を無視して対応せざるを得なかったのだろう。ジャックから注意がそれ、ミズキに向った瞬間に、重機を盾にしていた彼は、ファルコンスナイプの能力を起動させ、撃破を狙う。
「くっ。流石に3人で応対は厳しいな‥‥」
 だが、タロスも新鋭機だけあって、その程度ではらちが開かない。相手を分断できず、逆に詰め寄られてしまう。
「接近戦だからって、ナメるなよ!」
 仕方なく、ジャックはルプス・アークトゥスを取り出すと、その爪でもって、タロスへとブーストを使う。だがスピリッツゴーストの回避力は、他の機体に比べればかなり低い。ゼロ距離射撃可能な懐へもぐりこめば、その返礼は自身への強い衝撃だった。
「かこまれたってかまうもんか! こっちには武器が4つあるんだ!」
 ひらがな交じりの思考でもって、ミズキが副兵装をフルオープンにしていた。斬撃を打ち込み、砲を撃ち、そして攻撃を受け止める。損傷した部分にねじ込もうとするが、返礼はしっかり貰ってしまう。
「そろそろたどり着いた所だろうが、増援はまだのようだな‥‥」
 ちらりと工場の方を見る地堂。攻撃を受け止めた刹那、ミズキが駆け寄り、その剣をはじく。ようやく、1機目が落ちたが、まだまだ先は長そうだ。
「さっさとやっつけて、キメラをやっつける!」
「そう上手く行くと良いが‥‥難しそうだな‥‥」
 敵が引きこもるどころか、こちらが引きこもらざるを得ない状況に、ジャックはじっとタロスを睨みつけるのだった。

 その頃、工場では、イスル・イェーガー(gb0925)がキメラの数を確認し、工場とその周辺の地図をモニターに写している。海がパイドロスを静音モードに移行し、叢に身を隠していた。しかし、すぐ先にはエンジェルキメラがあわただしく動き回り、既に戦闘が始まった事を告げている。
「流れ弾に当たっては敵わん、急ぐぞ」
 ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280)がそう言って促す。論子が一番後ろに陣取り、飛び道具が当たらないようにしてくれた。
「見てくる」
 隠密行動を使う澄野・絣(gb3855)。だが、2階に陣取った彼らは、中々隙を見せてはくれなかった。いや、それどころか、逆に見つかってしまう。矢神小雪(gb3650)がフライパンを振り回し、随伴していた海も、竜の翼を広げる。ヴァレスが2階のキメラを切り崩しに行った。鎌を地面に付きたて踏み台にし、跳躍。首にナイフを突きつける。
「私の出番、ないかもしれませんね」
 銃声の聞こえない戦いに、番場論子(gb4628)は弾幕を張ろうとする思いを止め、剣で防御するのだった。

 その頃、上空では。
「こちらM2。目標を確認。排除に向います」
 M2(ga8024)がそう言った。略称MRと称されるそれは、海岸線を中心に、工場を取り囲んでいた。数は12体だと報告書に書いてあったが、どうもそれだけではなさそうだ。
「まずはMR排除が主目標だ。HWの討伐はそれから。陸の援護は後回しになるが、速やかに頼む」
 D・D(gc0959)が作戦目標を告げた。空戦では、そのD・Dと、M2、そして皇 流叶(gb6275)、ソーニャ(gb5824)とでシュヴァルム‥‥つまり4機編成をする手はずになっている。
「こちらソーニャ。皇さん、お願いします」
「下のヴァレス達が、仕事をしやすいようにしなければな‥‥」
 データリンクのプログラムを作動させたソーニャに、そう答える流叶。救出班には恋人が行っている。その為にも、ここで崩れるわけにはいかない。そこまで考えたところで、目的のエリアへと侵入していた。さっさと方をつけ、地上の援軍に回りたい。
「射程が短い上、回避防御共に微妙に厳しい数値‥‥頑張るか‥‥」
 計測器にかけたM2の機体は、他のKVに比べて数値が色々と下回っていたようだ。そればかりが能ではないと良く言われるが、不安はぬぐえない。それを思考から切り落としつつ、彼はウーフーの指先に手をかけた。
「人とバグアの戦争‥‥。それが生存域をかけた戦いなら理解できる。共存の道も願わなくはないけど、なのにあの無邪気さは何?」
 ハーモニウムの姿は、ソーニャにはとても理解しがたいモノに映ったようだ。他のものを見下した考え方は、自身に喧嘩売っているように思えた。
「命をもてあそんで楽しんでる? 無邪気さが邪気に感じる‥‥」
 不愉快と言う表情で、相手を見つめるソーニャ。と、そこへ皇がモニター越しに合図をしてくる。
「余り手間取っては居られないからな」
 頷くソーニャ。刹那、皇のPRMが作動し、K−02が乱舞する。
「PRMシステム全力解放…穿てッ!」
 射出経路を考えて打ち出されたミサイルだが、さすがに250発もあると、全ては賄いきれず、被弾してしまう。
「いくよ、エルシアン! あんなやつらには負けない」
 それでも、ソーニャはそう言って、ミサイルを追う様に、HWへと突撃していた。どぉんっと派手に衝撃が走る。それは、海上にいた藍紗・T・ディートリヒ(ga6141)にも聞こえていた。
「始まったようじゃな‥‥。こちらもMRども探すとするか‥‥」
 そう言いながら、MRの側へと近付いて行く彼女。グリフォン特有のステップエアが、MRへ近付く事を容易にはしているが、その刹那、護衛と思しきHWが姿を見せる。親機の確認なんぞさせないと言ったところだろう。
「おいでなすったのう。同じ顔がぞろぞろと…せいぜい飽きられる前に楽しませてもらうのじゃ」
 攻撃は中止し、海中深くへと潜水する藍紗。だが、相手はHW。そのまま潜行にくっついてきていた。
「く、流石に数が多い‥‥」
 一方の空中では、数の多いHWとMRに難儀していた。
「藍紗の事だ。グリフォン一機でもなんとかしてくれるだろう。こっちの敵に集中しろ」
「みんな、一生懸命生きているんだ、笑うな。強いだけじゃなんの価値もないんだから」
 ケラケラと笑いながら、人を襲うハーモニウムに嫌気が差しているソーニャ。だが、相手もまた強化人間。一筋縄では行かない。
「…刀の錆にしてくれよう」
 K−02でダメージの著しい機体を狙い、増設したブースター3基でもって近付くが、流石にすぐに捕らえると言うわけには行かない。逆に、そのHWにかかりきりになってしまう。
「捕らえられたか‥撃てゴースト」
 後ろにいたD・Dが少し離れた位置から、ファルコンスナイプを使って、キャノン砲を打ち込んでいる。しかし、弾数は残り少ない。ライフルが必要なようだ。
「そろそろ練力が厳しいのう。じゃが、主らの卑怯な手が通用すると思うな!」
 その錬力不足は、藍紗も感じていた。海岸空の敵狙撃に注意しながら、浮上位置をずらしていく。既に、潜水回数は半分を上回っていた。そろそろ、陸に上がる頃合なのかもしれない。
「距離を詰めれば!」
 だが、その陸では、現れた追撃部隊に、D・Dがスピードを落とさないまま突っ込む。クロスする刹那、スナイパーライフルの弾丸をばら撒いた。すれ違いざまにHWが1匹落ちて行った。だが、強い衝撃が走り、吐血するD・D。
「やはり、聞いていたより数が多いな。ソーニャ、頼んだ」
「わかってる。高速戦闘なら負けないよ」
 アリスシステムが起動しっぱなしの中、マイクロブースターがフル稼働している。バレルロールで螺旋軌道を描くソーニャの機体。敵編成を切り崩し、後続の攻撃につなげようとする。
「分断して各個撃破に持ち込む。右翼に集中、切り崩します、フォローよろしく」
 G放電がバリバリと周囲を染めた。AAMEが噴射の煙を四方八方に撒き散らす。そこへレーザーの光が放出された。
「わかってるけど、なかなか邪魔!」
 威力のあるスラスターライフルで狙撃するM2。しかし、足の遅い援護攻撃は、避ける事が難しいようだ。
「ある程度片付けば、降下出来るのに‥‥」
 下りれば、メイン武装の獅子王の出番だ。練力を食う武器ではあるが。
「孤立した奴を狙いたいが、そう言うわけにも行かない配置だな」
 多弾頭がぶしゅぶしゅと煙を上げる中、高度を上昇させるD・D。しかし、距離3まで詰めた所で、逆に反撃を食らってしまう。MRのコアをAAMで狙ったが、親機を判別するのは、中々難しい。
「えぇい、口は吼えるだけではないのじゃ!」
 それは、海上の藍紗も同じだった。親機を片付けて子機を殲滅したい彼女だったが、その判別が難しい。口にくわえた熱剣をお見舞いするが、罠を踏み抜いた分、自機へのダメージもまた大きかった。
「役目だけは果たさせて貰う‥」
 それでも、D・Dはそう言って、ファルコンスナイプを起動させている。空域のMR全破壊まで、止めるつもりはなかった。
「これは、合流した方が良さそうじゃな」
 潜水は15回までと決めた回数が一杯になってしまい、藍紗は陸上部隊と合流するよう浮上する。空戦組のD・Dも、施設付近へと急降下していた。
「了解だ。く、施設はまた派手な事になっているようだな」
 迎える陸側の地上では、地堂のリッジウェイが、工場の救出部隊へ走りこんでいる最中だ。プラズマリボルバーで反撃はしているものの、どこか危なっかしい。
「ヴァレス、どうか無事でな‥‥」
「心配ないだろう。連中とて歴戦だ」
 恋人を心配する皇。と、D・Dが安心させる用に言って、遠距離から足止めの一弾を貫く。HWと混在するMRに対応する為、距離を長く取っているが、さすがに回避は厳しいようだ。
「みずがめ座が取って返してこないとは限らないしな‥‥」
 皇が周囲を見回す。タロスを率いるレンの姿はまだ見えない。その時、サポート班のヴァレスから通信が入った。
「大丈夫か? こちらヴァレス。作業員の救出は完了した。離脱を!」
 がーぴーとノイズが入るが、そこからは作業員の混乱する声と、それを落ち着かせようとする面々の騒ぎが漏れている。だが。
「やだなぁ、おっさんに何ムキになってんの?」
 嘲笑する声。やはり、嫌な予感が的中してしまったようだ。前に進み出る皇を、ジャックがその手で制する。
「時間稼ぎは俺がやる。装甲は厚くしてあるんだ、早々簡単に落ちると思うなよ」
 そう言うや否や、ばしゅばしゅとその弾幕が張り巡らされた。撃墜する事は考えていない。むしろ、接近させない事が優先だ。
「まぁいいや。今日は嫌がらせだけだし。追撃はしないよ。またねー」
 そのおかげで、他の面々も何とか離脱する事に成功する。しかし、工場は見るも無残なありさまになっていたのが、後で判明するのだった。