●リプレイ本文
謎のうどんキメラを成敗する為、一行はそれぞれの手段で香川にたどり着いていた。
「何あれ‥‥ここまで変なキメラ見たこと無いです」
遠石 一千風(
ga3970)のファミラーゼから下りたとたん、しゃげぇと吼えるうどんキメラを見て、唖然とする美村沙紀(
gc0276)。固まっている彼女に、美沙・レイン(
gb9833)は深くため息をつく。
「うどんのキメラ、ね‥‥ホントに何を考えて出現したのかしら‥‥」
どーみても、嫌がらせにしか見えない。
「うどん‥‥の、神様‥‥?いやそれは‥‥神様に‥‥失礼なのでは‥‥?」
「日本にはまた大きな麺が有るのじゃな♪」
ハミル・ジャウザール(
gb4773)が後ろの神社を見上げてそう言った。しかし、朧・陽明(
gb7292)は既にうどんの規格サイズがアレだと思っているようで、とっても楽しそう。
「まさか‥‥触手で変な事をしてこないでしょうね‥‥」
「うどんに人を襲わせるなんて、バグアも何考えて‥‥」
嫌な予感をレインがよぎらせる中、遠石はこれがドッキリだったら‥‥と思ったが、目の前でしゃげしゃげ言っているキメラはどう見ても現実。悪夢に見えても、こんな悪ふざけでも人命がかかっている現実。しっかりしなきゃと自分の頬を叩く。
「香川と言えば、讃岐うどん。‥‥だからと言って、キメラがうどん型でなくては許されない理由は無いと思うが‥‥」
「小型化してうどん屋にバラ撒いたほうが、脅威になりそうな気がしますな‥‥」
煉条トヲイ(
ga0236)もアラン・レッドグレイブ(
gb3158)も頭を抱えていた。うどんキメラから漂う、おいしそうなだしの匂いに、胃袋を刺激されつつも、何とか今日も1日戦う事を決意する。
「とにかく依頼は依頼。油断しないで行動しなくちゃ」
「うむ。人々の平穏を守る為、決して食い意地の為では無いぞ」
レインにそう答えるトヲイ。しかし、腹の虫は正直で、ぐうと物欲しげになり、既に何人かの携帯に『発注受付ました』の文字が躍っていたが。
「何か、指示とかありますか?」
沙紀が、作戦を確かめると、ハミルはそのうどんキメラの前で、ポーズを決めている変な外人を指し示した。
「まずは外人二人組の説得、その後うどんキメラの退治を」
「わかったわ。説得班と、キメラ優先班に分かれるのね。私はキメラを優先するわ」
【説得班】と【直行班】の二手に分かれた傭兵達は、急ぎうどんキメラ討伐に向うのだった。
説得班は外国人2人の説得を行い、安全な場所まで誘導すると言うのが、トヲイによる作戦だ。メンバーは、新条隆矢(
gc1281)・ハミル・遠石の3名である。
「どけどけー。うどん神様のお通りだ!」
しかし、相手はいわゆる【変な外人さん】なので、傭兵達も手段を悩んでいたようだ。
「あの〜それどう見ても危ないですし食べられちゃいますよ」
「えぇい、無礼者。この姿が見えぬと申すか!」
沙紀がためしに‥‥と、通りすがりに止めようとした。だが、いくぶん時代劇がかった口調で、まったく聞き入れやしない。
「しゃげぇぇぇ!」
「あ、しまった転んでる。ちょっと行って来ます」
かえって、うどんキメラから逃げようと、うどん屋さんのご主人がすっ転んでしまい、沙紀は救急セットを片手にすっ飛んで行った。
「こっちはその間に、まずはあの勘違い外国人を引き離さないとダメだな」
「何処で勘違いして神様だと思ったのか分からないけれど、上手く話を合わせてキメラの周囲から離れて欲しいですよね‥‥。あのっ、ちょっと!」
遠石には策があるのか、新条が頭を抱える中、さくさく声をかけている。少し近寄りがたい雰囲気漂う長身美人。豊満なボディに、外人さんは女神様の光臨じゃあと言わんばかりにかしずいていた。
「私たちはうどん神に仕えているんです」
自分でもまったくそうは見えないが、後ろの2人を振り返って人差し指を当て、話をあわせるように合図する。
「何!? うどんの巫女様だと」
「うむ、これぞうどん神のお導き!」
どう見ても普通の綺麗なおねいさんなんだが、外人には東洋人の区別が付かないらしい。2人して膝をついている。しかも、相手が美人なので、2人ともぼそぼそとデジカメを取り出している。
「若、これは千載一遇のチャンス。こんなナイスバディの巫女様なら、つーしょっと写真の1枚や2枚お願いしても、罰は当たりませぬ」
「その通りだ。せっかくなので1枚お願いしようか」
すっかり普通の観光客である。しかし、その後ろでうどんがしゃげしゃげ言っているのを見て、遠石は顔を引きつらせながら告げる。
「写真なら後でいくらでも撮ってあげますから、うどんの為に力を貸してください」
「う、うむ。で、何を貸せば良いのだ?」
鼻の下を伸ばす若様に、遠石は離れた所にあるうどん屋を指し示す。
「離れた場所で大人しく祈っていて欲しいのです」
「しかし、それでは祈りが届かぬではないか!」
反論する若。そこへ今度はハミルが立ちはだかる様にして、びしっと言った。
「いえ‥‥、実はアレは‥‥うどん神の姿を借りたお化けなのです!」
「な、なんだってー!」
ビックリマークを浮かべた顔が2つ並んだ。そこへ、ハミルは畳み掛けるように告げる。
「ええ。神様ではなく、お化けです。もっと居ない‥‥では無くて、持って居ない‥‥でもなく‥‥勿体無い‥‥そう、勿体無いお化け、です」
「しかし、勿体無いお化けと言うのは、もっとこー、こんな感じで!」
「いや、そもそも実在すると言うのか!?」
地面に器用にお化けの姿を描くお付きのおっさん。それはうどんと言うより、シーツを被った人だ。
「具体的には、あれは調理に失敗したうどんの無念の集合体だ。成仏させるためにその道のプロである俺たちが来た。あんたたちは料理が終わるまで、近くのうどん屋で待ってるように」
どうも人の話は気かなそうだし、常識はずれてそうだが、それを逆に利用する新条。そう言って、うどん屋に避難するよう促している。
「し、しかしっ。それではうどんの使徒としてもうしわけがっ」
「納得してくれないんじゃ‥‥こうするしか‥‥ないですね」
それでもなお、駄々をこねる若に、業を煮やしたハミルがとんっとお腹を押した。明らかに手加減しているが、さすがに傭兵のパワーでは、あっけなく気絶する2人。
「むぐう。うどんの勿体無いお化け‥‥」
「嘘は言っていない。バグア共を料理するのが仕事には違いないんだからな」
目を回したうめき声に向って、新条が安心させるように言い聞かせるのだった。
怪我をした御仁は、広い店内を持つうどん屋に運ばれた。軽い怪我の人には、体を温める茶やミニうどんが運ばれ、酷い怪我の人は、座敷に寝かされている。気絶した2人も沙紀の手により、座敷の隅に転がされている。
「これでよし。聞き分けの無いことをいってるからですよ」
食らわせた当身には、救急セットで処置済みなので、きっと後はお昼寝ぶっこいているだけだろう。人通り手当ての終わった彼らは、外でしゃげしゃげ行っているうどんキメラに狙いを定めた。
「持ち物はこれでよしと。セラフィム。いくわよ」
相棒の銃剣に語りかけるレイン。足止め用として、新しい相棒の複合マシンガン【アテナ】、機械剣βまで用意している。外人は既におねんね中だが、説得は他人に任せ、彼女は早速うどんキメラのほうへ向う。
「えい、出し惜しみはなしよ!」
いきなり覚醒して突っ込んで行ったレイン、進行先にアテナで銃弾をばらまく。地形は平たい駐車場なので、利用するまでもないが、上手く動きは止められたようだ。
「‥‥誰かが道楽で造ったとしか思えんキメラだが――うどんの触手には気を付けろ‥‥流石にこしが強そうだ‥‥!」
トヲイもまた、ソニックブレードを用意してそう言った。さすがに普通の人々とは違う事に気付いたのか、うどんキメラがしゃげしゃげと触手を振り回してくる。
「とりゃ〜」
そこへ、沙紀の拳銃「ルドルフ」が火を吹いた。どごどごっと何本かの触手に穴が開く。その隙間に走り出したそこへ、トヲイのソニックブレードがお見舞いされる。射線の開いた場所に、今度はアランが側面から回りこんだ。
「きしゃああ!」
「な!? つゆぶっかけだとぅ!?」
が、吼えた触手がぶしゅーーーっと熱湯をぶっかけた。耐火ジャケットが悲鳴を上げる。どうやら結構な温度のようだ。お肌にかかったら、火傷で一発KOである。
「わかったのじゃ! 全部回避するのじゃ!」
同じく直行班にいた陽明の両袖から、ばしゅっと鉄扇と盾扇が開かれる。伸びてきたうどんキメラの触手が寸断されるが、返す刀のように伸びてきた触手は、取りこぼしてしまう。さすがに遮蔽物が残された車程度しかないそこでは、上手く避けきれないようだ。
「無茶はするなって!」
「わぁん、避けきれぬのじゃーー」
何とか盾扇で触手を受け流す陽明。しかし、それでも手数が追いつかない。
「吸盤とかヌメヌメ感のない触手など、恐るるに足らぬわ!!」
アランが這いよる触手を、両断剣で切り飛ばした。見れば、触手は既に半分程になっている。残るは本体と思しきお椀を叩くだけだ。
「むう、数が多いの。じゃが、負けぬ!」
その間に、陽明は盾扇を袖に引っ込めた。かちゃんと外す音が聞こえたかと思うと、何か思いモノがしゅるりと落ちて行く音がした。そして直後、金属の金具を踏む音と共に、足に装着されたのは、スティムの爪だ。
「しゃげぇぇl!」
「我が一撃は優雅なる舞い!」
その爪と扇で、くるりと輪を描く陽明。しかし、そうは行かせないと、触手が彼女に伸びる。いや、見れば先も同じ様に絡まれそうだ。
「キモイです暫!」
イリアスで切り伏せる沙紀。
「はっ‥離すのじゃっ!」
横で体を捻っている陽明。何とかからだの回転で触手を翻弄しているが、くねくねした動きがちょっとエロチック。それが、沙紀には仲間のピンチに見えた。
「危ないです」
イリアスの一撃で、陽明が地面へと脱出する。見れば、レインもまた、絡み付こうとした触手を、
機械剣で切り落としていた。その為か、既に、触手は半分以下だ。
「遅くなりました! 大丈夫です?」
そこへ、説得班が駆けつけてきた。遠石がそう言いながら、陽明を狙う触手を切り落とす。
「皆さん‥‥、あの2人は‥‥うどん屋に押し込んでおきましたよ」
後ろから、ハミルのエナジーガンがぶっ飛んできて、それでもなお近付く触手は、疾風と迅雷で切り落としだ。
「よし、総攻撃だ!」
トヲイが、戦力が合流した事を見計らい、そう合図する。
「うぅ‥いい加減にせぬかっ! 雷光! 招来! 雷槍を食らうのじゃ!」
陽明がそう言いながら、扇と爪を繰り出す。鳥の動きにも似た、中華拳法独特の型。専門用語では、扣歩・擺歩と言われる動きに、流し斬りを付加される。電光のように鋭い蹴りが、触手を3本ほど切り落とした。触手の攻撃を避けるべく下がったその位置から、今度は首を狙う動きに合わせて、ソニックブームが飛んでくる。もっとも、うどんの首がどこにあるかなんてわからなかったのだが。
「悪いがここはバグアの通行は禁止だ‥‥料理しなおさせてもらう!」
彼女が首だかコシだか分からない場所に、ばしばしと技を叩き込んでいると、だんだんうどんが動かなくなってきた。それに乗じて、新条が背後に回りこみ、お椀めがけてパイルスピアを振り下ろした。そして、てこの原理でもって、そのお椀をぐいっと引っぺがしてみる。が、流石に抵抗するようで、中々外れない。そこへ、お椀を壊せば、お椀を壊せば使い物にならなくなる。そう信じた陽明が、急所付きの技を応用した点穴‥‥彼女いわく雷の槍をお見舞いした。
「動きが鈍くなってきたわ。目を狙って!」
レインが影撃ちを使って、お椀の中心部へとセラフィムで狙い撃つ。コシは既にふにゃふにゃになっている。フィニッシュを決めるなら、今しかない。
「普通のうどんに戻ってもらうわ」
トヲイが紅蓮衝撃&急所突き併用のシュナイザーで猛攻撃している中、遠石はそう言いながら、大鎌の一撃を、口の部分へと叩き込むのだった。
かくして、うどんは倒れた。周囲には、だしの良い匂いが漂いまくっており、人々の胃袋を刺激したのか、臨時避難所と化したうどん屋は大忙しだ。
「いや〜なんか変な物の極地を垣間見たような気がします」
げんなりと脱力しつつ、持ってきた救急セットでもって、傭兵達の手当てをする沙紀。
「それにしても、このキメラはどうするのかしら。せっかくだから、ご当地うどんと温泉も堪能したいのだけれど」
レインが見下ろすお椀の中に残ったキメラの残骸は、どこをどう見ても極太の小麦粉の塊にしか見えない。
「大きすぎる‥‥修正が必要です‥‥」
興味をそそられたレインの前で、アランがそれをイアリスで食べやすいサイズに切り分け始めた。確かに、細く切ってしまえば、ただのうどん‥‥に見える。
「うどんパーティにしましょうか。ちょっと怖いですけど、まずかったらこっちを食べましょう」
遠石がそう言って、お礼の一端として、お土産屋さんから渡されたうどんセットを持ってきてくれた。コンロや何やらは、セルフうどんのお店に売るほどあるようで、セットを貸してくれたようだ。
「食えるのならば『フードファイター』の称号を持つ以上、挑戦しない訳にはいくまい‥‥。それに、食べ物を粗末にすると罰が当たるからな」
トヲイも、椀に残った食べても大丈夫そうな部分をかき集めている。トッピングと汁は、やっぱり近所のうどん屋さんから調達だ。
「それこそ‥‥勿体無いお化けが‥‥出ちゃいますよ。料理は‥‥これだけあれば‥‥人数分にはなると思います‥‥」
ハミルも、その自慢の腕を振るう事にした。キメラに限らず、狩ったものは美味しく頂くのが供養と言う奴だ。
「ぱーてぃか?、妾も参加して良いかの?」
次第に出来上がって行くうどんに、陽明が目を輝かせている。マイ箸持ってスタンバイしていると、においで目を覚ました例の外国人が「それなら私達も‥‥」と起きだしてくる。
「お前らは説教受けてからだっ」
「ひぇー。ご勘弁をー!」
が、騒ぎを起こした張本人が、そのまま放免になるわけもなく、2人は新条に正座で1時間こんこんと諭されるのだった。
なお、味はちょっとコシが弱かったらしい。