●リプレイ本文
依頼を受けた傭兵達は、必要だと言われたモノを調達しつつ、教会へと向かう為、ゴッドホープへと降り立っていた。ラスホプほどではないが、それなりに治安は維持されている。その為、必要とされる品は、それ相応の手段を持てば、何とか調達する事が出来た。
「ぽにと聞いては、この俺、KOPが来ない訳にはいかんからな〜」
ぽにぽにと教会へ向う麻宮 光(
ga9696)。そんな折、ユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)が後ろから同行しているジジィことキャスター准将に、こう尋ねてくる。
「じーさま、これは補給? それとも慰問?」
「どっちでも良いだろ。俺ぁ酒が飲みたい」
既に、料理担当の矢神小雪(
gb3650)から貰ってきたらしい白酒を抱えている准将。これでUPCの偉い人と言うのだから、世の中、よっぽど人材不足らしい。
「飲みすぎると肝臓壊すわよ。まぁ要するに慰安訪問と言う事で」
百地・悠季(
ga8270)がそう言いながら、小瓶をひょいと取り上げてしまう。名残惜しそうにしていた准将だったが、流石に目的地が近いので、諦めた表情だ。
「この辺、戦争やったばっかりだし、不安なのはしょうがないわよねぇ。子供何人だっけ?」
「23人だってさ」
その悠季、いろいろと担当分の詳しい内容を確認しておく。教会から渡された名簿には、子供の名前と年齢、簡単な特徴等が書かれていた。中には未就学児童もいる。子供の世話は好きらしい悠季は、微笑みながら、癒しに腕を振るおうと思う。
「ふうん。あたしの担当する分って、ここくらいかしら」
年齢の小さい子にマルを付ける悠季。特に女の子をメインにしたいようだ。
「ちまのぬいぐるみ足りないかもしれないな。後は、動物連れて行くのもお約束だよな。よし、おいでラグナ〜」
「わふ」
ユーリはいつもの黒服ではなく、小隊仲間と写真を撮ったときの服にしたようだ。その姿のまま、ペットのわんこを連れて行く模様。まぁ、検疫とか細かい問題は、傭兵の連れている犬と言う事で、割愛されたらしい。
「引率役は俺ですか?」
「え、俺がやろうと思ってたんだけど」
そんなちまちまぽにもにわふわふとした一行を引き連れていこうとする終夜・無月(
ga3084)と御闇(
gc0840)。役割の被ってしまった2人に、悠季がのんびりとこう言った。
「別に2人いても構わないわよ。幼稚園だか保育園だかってそうじゃない?」
「それもそうだな。お、あれが教会か」
そんな事を言っている間に、目的地へとたどり着く。責任者だと言うシスターが出てきて、ぺこりと頭を下げた。
「このたびはお手数をおかけいたします」
「いえいえ。それよりも、治療も不十分と言う話だったんですが‥‥」
無月が首を横に振りながら、報告書に映っていた子供達の姿を問うた。と、中へ案内したシスターは、子供達を集めて、その姿を見せる。
「一通りの手当ては済んでいるんですが‥‥。余り頻繁に医者に通うお金がないだけなんです」
包帯を巻かれた少年少女がたくさんいた。傷口が放置されているわけではないが、おてての先がひび割れていたりと、痛々しい状況だ。
「ちょっと見せて下さい」
その手をとる無月。持ち込んだ救急セットの軟膏を塗り、一通りお肌のお手入れを施す。
「‥‥お兄さん、医者?」
「違うけど、こうしておくと治りが早いんですよ」
水分と油分を適度に補充するとよろしいと言うのは、別に医者でなくても知っている事実だ。現に、一般の女性でも、よく顔やおててに塗りたくっている。
「今のうちに、雛祭りの準備をするのです。美味しいの作るよー」
「手伝うわ。えぇと、材料はこれ?」
その間に、小雪と悠季は。教会の台所を借りて、パーティの準備だった。見かけはその辺で走り回っている子供達と変わらない年頃の小雪は、その身の何倍にもなっている食材を、一生懸命運び混んでいる。
「もう下ごしらえは済んでいるから、後は焼いたり煮たりするだけだよ」
下味つけや、材料の切り分けは、前の日までに済ませて持って着ているようだ。材料ごとに小分けにされ、愛用のフライパンを振るえば、あっという間に料理は完成する‥‥予定。
「はーい。でも人数が多いから、誰かに手伝ってもらわないとね」
それでも、都合30人前くらいある料理を、2人でまわすのは少し大変なので、その場にいる子供達を捕まえては、お皿やフォークの準備を頼んでいる。もっとも、そのたびに、小銭を要求されたりするのだが。
「悪い子はご飯抜きにしちゃうぞ」
「別にー。いつも抜いてるからかまわないもーん」
めっと叱る悠季。だが、痩せた子供の一人は、そう言ってあっかんべーだ。その姿に、彼女は「冗談よ」とほのめかす。
「よしよし、向こうは向こうで頑張ってるみたいだから、美味しいの作りましょうかねー」
小雪がそう言いながら、愛用のフライパンを暖めている。
「何を作るんだ?」
「んと、軽くご飯ものと、おかずと‥‥チャーハンとかハンバーグとか」
ユーリが尋ねると、彼女はメニューをすらすらとよどみなく答えている。散らし寿司に自慢のチャーハン、それから肉巻きおにぎりにハンバーグと、メインは食系のラインナップのようだ。
「わかった。じゃあこっちはお菓子作り担当だな」
そう言ってユーリは、やはり材料を取り出してきた。そのメニューの殆どはデザートだ。牛乳と小麦粉の量がダース単位である。
「小雪もちょっとは作るけど、桜餅とおはぎの用意しかしてないから、任せるー」
小雪もデザートの材料は用意していたが、がっつりご飯ものには少し重いかもしれない。そう判断し、軽いものはユーリに任せる事にした。
「わかった。さて、摘み易いお菓子がいいかな。気に入ってくれると良いんだけど」
彼が作るのは、いわゆる「生系」と呼ばれるタルトやシュークリーム、それにクッキーやパイ、さらにパウンドケーキ等々。年の変わらない子もいるようなので、ブランデーチェリーも用意されていた。
「気に入ってくれるかな?」
「相当、苦労してるみたいだしな」
エプロンを身につけて、ポテトサラダ用のじゃがいもを茹でていた御闇がそう答えながら、苦笑している。ジャガイモが茹で上がり、潰して冷ましている間に、次の作業だ。
「時間が掛かりそうだな。子供達と、ひな壇つくってみたらどうだろうか?」
料理に手を出せない麻宮がそう言い出す。今日はこれなかった妹からのアドバイスでは、大きな雛飾りは、女の子の夢と浪漫だそうだ。
「うん、ぽにぬいぐるみは持ってきたからな」
自分にそっくりなぬいぐるみをテーブルの上におく無月。あまりにもそっくりで、どちらが本物か分からない。
「でも、そんな資材は‥‥」
「任せろ。資料は持ってきた」
どこにも転がってない。むしろあったら教会の補修に使っている。そう言いたげなシスターに、麻宮は准将に連絡していた。どうやら、ひな壇設営材料を調達したようで、『OK』と言う返答と共に、目的の写真を見せる。
「これを子供達と作ってみようじゃないか」
よく見ると美術館のパンフレットだ。ポテトを作り終わった御闇が、「OK。手伝うよ」とその設営に加わる。モノトーンのラフな格好だったが、そこに装備された拳銃2丁に、にょっきりと伸びてくるおてて。
「なー。これ銃ー?」
「こら、危ないから触るな」
どこをどうやったものか、そのおてての持ち主が、持っていた拳銃をひったくり、そのまま逃走。
「返せってば」
「やだぷっぷー」
いくらなんでも、武器である。オモチャの鉄砲とは違う姿に、麻宮が危惧して問いただす。
「大丈夫なのか?」
「ああ、うん。一応安全対策はしてある」
御闇曰く、中身はペイント弾で、暴発しないようセーフティをかけてあるそうだ。子供の力じゃ、外れないようにしてあるそうである。
「ならいいが‥‥、正直、こう言う方法しか、小さい子供から成人近い子まで楽しめる方方が思いつかないんでな。協力してもらって助かるよ」
さすがに設営は力仕事になるので、男手が必要らしい。拳銃を取り上げ、目立たない場所に装備しなおす御闇と共に、パンフにあった『世界の民族衣装を着た雛人形のある雛壇』とやらを作り始める麻宮。
「じゃあこっちは、飾るちまぽにを作ろうね。作り方なら教えるから」
無月は、その上に乗せる人形を子供達と作るそうだ。布や心材等を外から運んでくるが、子供達はぷいっと横を向く。
「別にいらない。興味ないし」
「足りないんで、手伝ってくださいよ」
無月が穏やかにそう申し出るが、「作らなきゃ良い話だろ」と、あまり関心がないようだ。
「あらこっちの子は、一緒にやってくれるわよ」
料理の手伝いが終わって、悠季も人形作りに加わっている。その姿は、アイリッシュセッターの機ぐるみちま。
「いい歳こいて、恥ずかしくないの?」
「そう? 可愛いじゃない」
バカにした用にそう言う男の子に、悠季は微笑みながらそう答えている。
「強いなー」
「こう言う場合は、気後れなんかしたら負けよ。一生懸命頑張ってれば、ああいう子も結構釣られるもんだし」
楽しいお姉さんとして笑ってもらえれば、きっとどうにかなると、彼女は言う。こうして、裁縫手芸スキルを駆使して、作れない年の子の分も手伝いつつ、人形作り開始。
「あなたのぽにやちまは一体どんな姿なんでしょうね・・・・」
女の子の希望を聞きつつ、ちまちまと針を動かす無月。と、まだ針に糸を通せるか否かと言った年頃の女の子、まだ余り上手くしゃべれないにも関わらず、こう言い出す。
「上手に作って売れば、お洋服代にはなるもん」
「相当重症ですね。そんなに困っているなら、調達してきた方が良さそうですか‥‥」
頭を抱える無月。シスター曰く「いえ、そんなこの子達以外も、困ってる方はいらっしゃいますし‥‥」と、自給自足を選びたいようだ。
「労働に対する対価なら問題ないだろ。力の強い子は、こっちで働いてくれ」
麻宮がパイプを組み合わせたパーツを運ぶのを促す。その上に飾るのは、先ほど作った人形だ。多少不恰好だが、悠季曰く「多少の不恰好は味のうち」なので、気にせず並べて行く事に。
「本当に対価なんだろうな」
「後で上手いメシをたらふく食わせてやるから、逃げんじゃねぇよ」
ぶーぶーと不平をもらす男の子に、作業用ヘルメットをかぶせつつ、そう答える御闇。小さな子がいる事を考え、しっかりと固定させる。その上に、赤い布をかぶせて皺を伸ばして行く。
「こいつは前払いだ」
「キャンディーなんぞで釣られるかよ!」
しぶしぶと言った調子の子供に、御闇はロリポップを手渡した。そう言いながらも、口に入れている姿に、御闇はニヤリとツッコミ。
「その割には食べてるじゃないか」
「も、貰ったもんが腐るともったいないだろ」
おめめが泳いだ。どうやら、ご馳走でも対価として認めてくれているようだ。その光景を見て、無月は満足気に、関心なさそうな組を促している。
「そうそう。そうやって皆でやった方がきっと楽しいよ。だからまぁ、やってみようよ」
だれそれがやっているならまぁいいか‥‥と言った調子で、台と人形、それに料理組に別れて、作業は進んで行く。そんな子供達を見て、シスターがほっとしたように目を潤ませていた。
「良かった‥‥。でも、今日限りかもしれないのが、心配です‥‥」
「それなんですが、今後も行事をやり易いように、家庭菜園とか作ってみたらどうでしょうか?」
そこへ、無月がそう言い出す。見れば、資金難に教会特有の精神があいまって、苦労しているようなので、自給自足がやりやすいよう、提案しているようだ。
「いえ、少しはやっているんです。ただ、やはり男手が足りないので‥‥」
窓の外には、小規模ながら畑が広がっていた。女性と子供しかいないので、人数の割には広さがない。さらに生育状況もよろしくないようだ。
「豆とかほうれん草なら、寒さも強いですし、手間もそれほど掛からないかと」
スープ等にし易い豌豆、煮て食べてお腹に溜る蕪、甘味の苺、鉄分豊富なホウレン草等々と具体的な作物を言うが、シスター曰く「それもやっているのです。それでも足りないんですよ」との事。
「そうですね。豆類は栄養をごっそり持って行くので、翌年はクローバーでも植えるとかどうでしょう。かれたらそのまま土に混ぜて肥料にすると良いですよ。同じ場所で同じ者を続けて作ると収穫も落ちますし」
「やはり、素人が作物を育てるのは難しいですね‥‥。可能ならいいのですが‥‥」
ユーリもそうアドバイスしている。ため息を漏らすシスターに、無月はこう言った。
「ひな壇作り終わったら、畑の手入れしましょうか。なに、耕す面積を増やすなら、これがありますし。畑作業は自分のお腹に入るものですから、何とかなるでしょうからね」
彼が刀袋から取り出したのは、土竜爪だ。傭兵用のそれなら、確かに畑の面積も増えるだろう。見れば、ひな壇は子供達の助力により、完成したようで「出来たー」と笑顔が溢れている。その頭を、悠季が「可愛く出来たじゃない」となでなでしていた。
「まぁ‥やってみようよ…」
それを見て、無月は先に畑へと向う事になった。子供の何割かが付いてきたので、無月は出来るだけ簡単に出来るよう、種を渡す。降り積もった雪をどけ、邪魔な石を脇へのける。土竜爪で掘り起こし、畝を作って種をまく。後は、適時肥料と水をやればOKだ。
「ほんとーに上手いメシなんだろうな」
「俺を信じろ。ポテト系は腕によりをかけたからな」
ひな壇に続いて、畑にもついてきた年長の男の子に、自信たっぷりに答える御闇。「ポテトの他にタラモもあるよー」とは小雪の弁。こうして、畑の拡大が済んだ頃には、日はとっぷりと暮れていた。部屋に帰ってくれば、並べられているのは、小雪自慢のご馳走の数々。
ちらし寿司、肉巻きおにぎり、五目稲荷寿司、特製炒飯。BBQ串焼に、お刺身各種、カレーは甘〜辛口まで、豚・牛・鳥とそれぞれ用意されていた。三種の神器と言うべき、スパゲッティにハンバーグもしっかりある。
「チーズケーキにコーヒーロールと。大人の味だよ」
ユーリが担当していたデザートは、桃のとろとろフルーニュタルトに、カスタードシュークリーム、フルーツたっぷりミルクレープ。ブランデーチェリーを混ぜたものや、ほろにが味もある。パウンドケーキはいちご味だ。
「こっちはお土産用。帰ってからのおやつにどうぞ」
ユーリが、袋に入れてシスターに渡したのは、焼き菓子各種。蜂蜜クッキーにフィナンシェ、日持ちのするカリカリナッツパイに、金平糖やゴマ団子と言ったところである。
「飲み物も用意できましたー」
小雪の甘酒は鉄板メニューだろう。若干無国籍モードになっているが、子供達は「わー、美味しそう」「アタシあれ欲しい!」と結構喜んでいるようだ。
「さ、大方出来上がったみたいだし、運びましょうか。準備できたら召し上がれ」
そう言って、歳にあわせて取り分けている悠季。嫌いなものがあるかもしれないが、それでも食べられれば褒めてあげようと。
「頂きまぁす」
こうして、いろいろあったが雛祭りのパーティは子供達の記憶に、深く残ったようだった。