●リプレイ本文
●開戦
今回の作戦は、結構大規模なものとなっていた。
「時計セット、っと。信号弾はOKですか?」
全員の時間を合わせた、アラーム付時計を確かめながら、カラスにそう尋ねているアルヴァイム(
ga5051)。すでに、そのアラームは作戦終了時間にあわせてある。と、彼は「必要そうなものは手配しておいたよ」と答えてくれた。今、それらは各自のKVに必要量搭載されていた。見れば、アルヴァイムの機体に、赤い信号弾が搭載されているところだった。
「では、作戦を開始します。各位、小隊の方針に従って行動してください」
「了解」
打ち合わせを済ませる為に集まった面々がそう返してくる。各自が、作戦時間や進入ルート、チームメイトや交換機体等、必要な情報を記憶に収めているのは、中々に壮観だった。
「では‥‥出撃!」
早朝の暁が周囲をほのかに染める中、KVがそのエンジンを響かせる。お互いに健闘を祈りながら、彼らは2班に分かれ、八王子にある城へと向かっていた。
「そろそろ作戦空域です」
オペレーション役のアグレアーブル(
ga0095)がそう報告してくる。周囲には多数の能力者がやはりKVを操っている中、地図は目的の城が近い事を示していた。
「ミッションポイント到着。時間は?」
「おおむね予定通りです」
アルヴァイムが確かめると、彼女はそう答え、時刻を参加した傭兵達に告げている。もう少しで、その通信も聞かなくなる空域だ。出来るだけ情報は配信しておきたい。
「了解。ミッション開始してください!」
「ジャミング班、妨害開始します」
彼の指示を受け、彼女はウーフーの能力を起動させた。強化型ジャミング中和装置が、周囲のKV達の能力を向上させる。その恩恵を受けたKV達は、迎え出てきたキメラやワームに、次々と襲い掛かっていた。
「城班、戦闘を開始しました」
覚醒した状態のアグレは、落ち着いてはいるのだが、機械的な印象を受ける。
「上手く行くと良いんですけど‥‥」
もっとも、僚機であるアルヴァイムは、まったく気にしていない。自分は、覚醒するともっと変わってしまう事を知っているからだろう。
「信じるしかないですよ」
発生源だと思ったのか、近づいてくるキメラもいる。それらを自身のナイフで防ぎながら、アグレはそう呟く。
「そうですね‥‥。そうしましょう」
信じなければ。黒子は仲間を信じてこそ、その役割を発揮できると言うもの。そう思い直すと、彼は迎撃のトリガーを絞るのだった。
●輸送
上空で、帰還を待ち、援護する人々がいる中、地上では、その移送を行うチームが、手段を調達していた。
「まったく。人員輸送用にトラック貸してくれたって良いじゃないか‥‥」
古い地図を片手に、ぶつぶつとそう呟いているキョーコ・クルック(
ga4770)。大体の地形は覚えたが、やはりトラックを大々的に持ち込むのは渋い顔をされた。
「さすがに、ラスホプから何十台も持ち込むと、目立っちゃいますからねぇ。あ、アレなんか良さそうですわね」
一緒にいるエレナ・クルック(
ga4247)が、周囲を見回すと、電柱の角に頭をぶつけたまま放棄されたトラックが、横倒しになっていた。KVを持ち込んでいたキョーコとエレナ、2人してそれをまっすぐに戻し、動くかどうかを確かめる。
「動きそう?」
修理担当はエレナだ。KVで持ち上げた修理箇所に潜り込み、配線を繋ぎなおしている。
「何とか‥‥。けど、一台じゃ足りないと思う‥‥」
彼女によると、目処は立っているようだ。エンジンが焼きついているわけではなく、衝撃で外装が吹っ飛んだだけのようなので、気合を入れなおせばOKらしい。問題は、載せられる人数だ。
「もう一台はユーリ達がどうにかしてる筈だけど‥‥」
そう言って、キョーコは連絡を取ってみようとする。その頃、当のユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)はと言うと。
「サンプル持ってこいって、上から言われてるんだ。どうしても必要なんだけど‥‥」
八王子に一番近いUPC支部輸送部隊詰め所。その受付で駄々をこね‥‥いや、交渉していた。
「しかし、目立つからなぁ‥‥」
一番近いと言っても、距離にして数十kmはある。そんな距離を、運転手付で貸し出す気はないらしい。渋る係員に、彼はさらに食い下がる。
「一般人見殺しにしたら、評判下がる‥‥だろ? 任務遂行の為、頼むよー」
そのユーリの台詞に、係員はしばらく顔をしかめていたが、あさっての方向を向きながら、こう答えてくれる。
「わかった。なら、街中に転がってるトラックに関しては、見なかった事にするよ」
どうやら、黙認してくれたらしい。そんな担当に「あんがとー」と礼を言いつつ、彼はトラックを物色している大泰司 慈海(
ga0173)の所へと向かう。
「まぁ、元々工業地帯です。廃棄されたトラックなら、いくらでもありますしね」
避難しているのか、それとも稼動していないのか、工事現場や、駐車場には、それなりのトラックが置いてあった。中には事故を起こしてそのまま破棄されたトラックや、ロータリーに置かれたまま、雨ざらしになって長いバス等もあったが、数だけはどうにかなりそうだ。
「OK出たよ。この辺のモンなら、持って行っても良さそうなんだけど、動きそう?」
「このくらいなら、手持ち工具でなんとかなります。ガソリンは‥‥かき集めた方が良さそうですがね」
ガソリンタンクの中身や、エンジンがかかるかどうか、故障や不具合を一通り調べる慈海。使えない事はなさそうだ。
「こっちから出せないか?」
「さすがに燃料違いますから。あの辺りから調達してください」
KVから調達するわけには行かないので、故障の応急処置が効かないものから抜き取っていく。
「さぁ、うまく動いてくれよ?」
心なしか深刻な表情で、配線を繋ぎなおす彼。祈りを込めるように、バッテリーのスイッチを入れる。
ドゥルルルンッ、ブシュ、ボシュ、ウィィィィン‥‥。
「「かかった!」」
奇しくも、エレナとタイミングを同じくして、息を吹き返すトラック。
「これで何とか避難を‥‥」
この辺りで、不安定な生活を送る人々がいるのは確実だ。困っている人々を助けたいのは、エレナも同じである。そうして、彼女達は、依頼のデータにあった集落へと向かった。
「急いで。時間ないよ!」
「え、えと? い、いったい‥‥」
戸惑う人々。顔を見合わせる彼らに、キョーコが短く事情を説明する。
「救助に来たんだ。さぁ乗って!」
ようやく理解したらしい人々。急な行為にも関わらず、あちこちへ知らせに行く。まさかこのタイミングで救助に来るとは思わなかったらしく、荷物をまとめていない人もいた。準備が終わった者から、次々にトラックへ乗せていると、その1人がこう言った。
「迎え、ありがとうございます。後は自分達でも何とかなります。さらわれた人をどうにかしてあげてください」
「大丈夫、それなら他の仲間がやってるから。それに、襲われたらひとたまりもないだろ」
この状況でも、さらわれた人々を気遣う彼らを見て、キョーコはなんとしてでも人質を助け出そうと、心に誓うのだった。
●ハチとアリ
その頃、現地にて機体をこっそり交換した能力者達は、そびえ立つ城の正面玄関へとその翼を進めていた。
「すごーいこれ、はやーい、ひえー‥‥ゆっくり動かさなきゃ‥‥」
現地にてUNKNOWN(
ga4276)のK−111改を借り受けたナギ(
gb0978)、自分の機体とはかけ離れすぎた機体に、戸惑っているようだ。
「来ました! 各位、攻撃を開始してください」
「ぷちぷち。たくさんいるなあ」
オペレーターのアグレアーブルが示す通り、空を振るわせる羽蟻の群れ。
「ふふ。ならば闇狩りの名‥‥久々に響かせようか。借りるぞ、嘉雅土」
リンドブルムを装着し、嘉雅土(
gb2174)の翔幻へと乗り込む本間 祐市(
gb1963)。
「個人プレイは自重してくださいね! えぇい」
自身の頑丈な機体を盾代わりにするつもりなのか、オリガ(
ga4562)が前面に立って、群れへヘビーガトリング砲で薙ぎ払いをかけた。一瞬、アリ達の一画が崩れるが、またすぐに集合してしまう。
「やっかいですね。ああ、兵隊が出てきた」
しかもその中には、大き目のアリも混ざっている。地上に降りた時の被害を考えつつ、人型へと変形するオリガ。
「引き際を忘れるなよ」
「まだ住民さんがいるんですから〜」
撤退のタイミングを計る漸 王零(
ga2930)と、市街地を気にかけているらしいナギ。そんな事は彼女も充分知っている。その為か、持ってきた220mm6連装ロケットランチャーのトリガーには『周囲を要確認』と書かれたメモ用紙が貼り付けられている。
「そうだな。同郷の友が戦線に行く。そいつの力にならせてもらおうっ!」
「派手に行きますかね! 王零さん、お願いしますよ」
「とどめは我がやる。ひきつけるのを頼む」
覚醒した王零が、ソード(
ga6675)のサポートをそう指示した。
「2丁拳銃は伊達じゃないんですよ!」
その指示に従い、ソードはひときわ大きい軍隊アリの脇へと回り込む。わざと目に付くように、ダブルリボルバーを撃っていると、ナギもそれに加わった。
「虫駆除剣シロアリホイホイソード! えいえい!」
SES装置付の殺虫剤なんざ見た事はないが、気分の問題だ。そう言って、借り物のグングニルを振り下ろす。
「砕けろっ」
都合三桁万の資金を投入したジャイレイトフィアーがその刀身を回転させる。副兵装に仕込んだヒートディフェンダーが、アリ達を粉砕していた。
「疾風の刃、見せてやろう!」
その昔、バウンティ・ハンターだった時の顔そのままに、ディフェンダーを振るう本間。囲まれるものの、副兵装のマシンガンを向け、その群れをけん制しにかかる。
「邪魔だ、散れ!」
「向こうはそうも行かないみたいですけどねっ!」
そう言って、肉薄してきた軍隊アリを、やはりヒートディフェンダーで切り捨てるオリガ。一閃されたその身が四散して、周囲に嫌なにおいを立てた。
「やれやれ‥‥、疾風の刃も錆びたか」
やはり、他の面々に比べて、思ったより戦果が延びない。しかし、それでもなお向かってくる彼らに、背中合わせになった王零とソードがこうアドバイスしてくる。
「なぁに、研ぎなおせば良い話だ」
「もしくは、鍛えなおすとか‥‥ですね」
能力者の戦い方は違うといった所だろうか。遅れてきた狩人は、にやりとヘルメットの中の口元を歪ませる。
「なるほど。闇狩りの名、死なすには惜しいと言うことだ‥‥な!」
アリの頭が吹っ飛んだ。黄色い液体が周囲にばら撒かれる。
「ひゃーコレすごい、ナギの一日ヒーローだよこれー。ばびゅん!」
一方で、あまりにも違いすぎる性能に、大喜びのナギ。まぁ、それだけの予算をかけている機体ではあるのだが。
そうして、彼らが10分程戦っていた頃だろうか。
「始まったみたいですね‥‥」
城の勝手口とも言える場所へ向かう聖・綾乃(
ga7770)の姿があった。
「こっちもミッションを始めましょう。メアリーお姉さまと、無月お兄様を、無事お届けしなくては」
アンジェリカの優美なフォルムが、朝露にぬれて輝く中、彼女は聖・真琴(
ga1622)を地面に下ろす。
「よぉし、じゃあ行ってくるね!」
「うん、気をつけてね、マコ姉ぇ☆」
血縁関係はこの際関係ないのだろう。姉と呼ぶのは、真琴だけでなく、メアリーもそうなのだから。
「わかなさん、危険が予想されます‥‥‥‥気をつけて下さいね?」
同じ様に『妹』を持つクラークが、そう言いながら、和奏を森へとおろす。他にも、KVに同乗させてもらった能力者達が、それぞれの方向に向かう中、リュドレイクが、その運搬役を務めていた面々にこう提案する。
「布石は打ったし、向こうを先に片付けましょう」
「はーい」
答えた綾乃が、まずショルダーキャノンをぶっ放した。その間に、やはり運搬と、そして陽動役に回ったクラーク・エアハルト(
ga4961)が、中にいるはずの『妹』を心配しつつもマシンガンのトリガーを絞る。こうして、突入口を作っていた彼らの前に現れたのは。
「ようやくボスのお出ましですね‥‥」
そう言って、スピアを握り締める綾乃。姿を見せたそれは、まるで鎧を纏ったかのような姿形。王子、もしくはナイトといった所か。
「どうします?」
「わかなさんの守護騎士として、彼女が戻ってくるまで引き下がる訳には行きませんね」
クラークの台詞に、綾乃はこくんと頷いて、武器を練剣「羅真人」へと持ち替えた。羽音を振るわせるキメラ達。だが、ナイトが闇の住人に負けるわけには行かないと。
「雑魚は俺たちがやる。いまのうちに、突入班を中へ!」
リュドレイク(
ga8720)がそう言って、煙幕を流す。城を背に、やがて来るであろうワームを警戒しながら、視界を奪われたキメラ達を次々と打ち落としていく。城の内部からも、次々とキメラ達が現れるが、中身は無限ではないはず‥‥。
「今頃は工場にも行ってる筈だしな。出来るだけ引きずり出すぞ!」
「おう!」
それを信じ、煙幕弾を詰めなおしたリュドは、城のキメラ達を一匹でも多く打ち落とそうと、力を込めるのだった。
●城へ
そうして、中のアリ達が続々と引き釣り出されていく中、その隙を狙い、城へと侵入する傭兵達がいた。
「続々出てるなー。あいつは、まだいないか‥・・」
シロアリの城そのままの光景。あちこちに開いた横穴から、次々とアリ達が出て行く中、霧島 亜夜(
ga3511)は周囲を見回して、そう呟く。
「今のうちに工場へ!」
「了解だ。城の方は頼むぞ」
城へと忍び込む面々は皆、生身だ。半分は、工場の方へと赴き、残り半分は、城の中にいるはずの人質を解放するべく、忍び込んでいた。
「メアリーさん、燃えてるね! ボク達も頑張らないと」
「ああ。会いたい奴もいるしな」
明るくそう行った水理 和奏(
ga1500)と、亜夜の会いたい者は同じだろう。もっとも、まだ姿は見えないが。
「さて、どこから手を付けるかな‥‥」
とにかく、人質となった人々を探すのが先だ。そう考えた亜夜は、城の捜索を開始する。場内は、それほど複雑には見えなかった為か、亜夜は壁に左手をつき、ランタンに火を入れた。
「しかし、ホント謎の素材を使ってるよな‥‥」
ユーリが、壁の一部をこそぎとって、持ってきた容器の中に入れた。まるで蜜蝋のような光沢を持つそれは、カンパネラの研究部に持っていけば喜ばれそうだ。
「分かれ道?」
「目印付けておこう」
迷路とまではいかないまでも、それなりに分岐点はある。亜夜と嘉雅土がそれぞれ目印と番号を書き込んでいた。
だが、そうして進んだ先には、羽を響かせる虫の音。
「中にも残ってますね‥‥」
これだけの騒動でも、外に出ないと言う事は、戦闘要員ではないのだろう。
「んもう、昆虫は嫌いなのにぃ!」
そう言いながらも、持っていたサーベルを抜く神無月 るな(
ga9580)。他の面々も、それぞれの武器を手に、いっせいに襲い掛かる。
「近いと思うんだけど、人質部屋はどこだろう」
「かーくんの予想だと、貯蔵庫か幼虫の育成部屋だろうってさ」
水理に、嘉雅土はそう答えた。かーくんことカラスの話では、戦闘に関わりのない習性は、そのまま残っているだろうとの事である。
「闇雲に進んでいても仕方がない。ご案内願おうかね」
そう言って、持ってきたペイント弾を、うろうろしていた一匹にこっそりぶつける嘉雅土。少しキョロついていたキメラだったが、ややあって奥の方へと消えていった。
「こっちか‥‥」
注意深く後を追えば、広い部屋へと出た。そこには、様々なガラクタに混ざって、人々が一箇所に押し込められていた。
「みんな、大丈夫?」
ついていた何匹かの見張りは、武器を持ち込んだ面々が、それぞれの手段で倒していた。和奏と嘉雅土が、ついていた扉を粉砕し、中の人々に声をかける。
「な、何とか‥‥。俺らより、幼虫部屋に連れてかれた方が危険っす!」
彼らによると、どうやら人々を集めていたのは、キメラの餌代わりだったようだ。既に何人かは、芋虫の変わりにさせられているらしい。
「るな、そろそろ外のお迎えが追いついてくる筈だ。トラック用意してもらってるから、この人達を頼んだぜ」
「了解。安全な所まで誘導するからね」
その彼らをるなに任せるユーリ。そして自分達は、幼虫達の部屋へと向かう事にした。中にいた人々の話では、反対側の通路に登っていくと、2度と戻ってこないようだ。
「これは‥‥。川に流れていたものと同じかな。何か知りません?」
その通路には、映像で見た白濁した川と同じ物が流れていた。ユーリが尋ねるが、幼虫達に関わるものである事以外、詳しくは知らないらしい。
「なるほど。そこにバグアの手が介在しているってわけか。興味深いな」
何とかその幼虫を手に入れれば、トラックの件にも言い訳が立つ。
「そううまく行けば良いけどな」
亜夜が、深刻な顔をして宗呟くのだった。
●養卵室
階段を上がると、奥のほうから租借音が聞こえてきた。
「どうやらこの先が幼虫達の部屋みたいだね」
顔をこわばらせる和奏。
「女王アリはいるのかね」
嘉雅土が、周囲を見回す。だが、それらしき足跡は見つからなかった。
「どうやら、そう言う形態ではないらしいな。なんにせよ、一通り集めた方が良さそうだ」
ユーリが羽跡すらない事を見て、そう呟く。だが、ユーリは構わず、サンプル取得用の容器を開けながら、先を急いだ。
と、その先に広がっていたのは。
「こいつは‥‥」
亜夜の表情がこわばる。食べやすいようになのか、衣服を脱がされた女性が、幼虫と同じ入れ物に入れられ、気を失っている。
「だ、大丈夫!?」
慌ててガラスを破り、その牙から救い出す和奏。パワー系の彼女、この手の入れ物を壊すのはお手の物だ。だが、気を失っていた人は、うめき声を上げたきりで、目覚めようとはしない。
「無駄だよ。麻痺剤打ってあるから」
そこへ、頭上から声が響いた。顔を上げたそこには、いつもの装束を身に着けたみずがめ座の少年がいた。
「レンくん!」
「久しぶりだなレン、元気にしてたか?」
声を上げる和奏を制するようにして、亜夜が口を開く。
「あいつがゾディアック‥‥甲斐蓮斗‥‥」
「少なくとも磨り減ってはいないね。今日は大勢で城へようこそ」
初めて見たらしい嘉雅土がその名を呟く中、彼は優雅に一礼していた。
「この城を作ったのはお前なのか?」
「ボクは種をまいただけさ。工場の庭が開いてたからね」
そう言えば、裏攻めの壬影が、その庭先っぷりに、食べてたピザチーズを落としたとか何とか言っていた。だが、彼に言わせれば、それは『わざと』なのだろう。
「ったく、つれねーなー。わざわざ会いに来てやったのに‥‥。アイスうまかった?」
「おかげさまで好評だったよ」
亜夜の問いに、そう答えるレン。どう処理をしたのかわからないが、受け取ってはもらえたようだ。
「今回のこれって何やってたんだ? 虫とか悪趣味だけど、誰の趣味?」
「そう。かっこいいと思うけど」
亜夜の問いに、そう答えるレン。まるで、子供が自慢のメカをほめるみたいな表情だ。
「次はどこ行くんだ? できれば空でレンのFRと闘ってみたいんだけど」
「ざーんねん。秘密にしておくよ。待ち伏せされると気分悪いしね」
緊迫の空気を断ち切ったのは、レンの方だった。振るった手のひらが、まるでソニックブームか何かのように、至近距離から亜夜の名を貫く。
「亜夜さんっ!」
「く‥‥ぬかった‥‥」
和奏の腕に崩れ落ちる彼。その姿に、和奏はきっと顔を挙上げ、レンに告げる。
「‥‥君を倒すのに迷いは捨てたけれど、けど誤解しないでっ。それは賞金のためなんかじゃない‥‥悪い事を止めさせるため‥‥負けたら、ついてきてもらうからね!」
「お断りだねっ」
二人目の犠牲者は彼女だった。肉薄したレンが抉ったのは、和奏の腕。
「きゃぁっ!」
「能力者のサンプルゲットっと」
転がる彼女に、冷ややかな声で告げ、血まみれの肉塊を容器に収める彼。
「まさかそれが目的‥‥」
「本当は違ったんだけどね。君達なら、良い子が作れそうだし」
くくくっと、意味ありげに微笑む彼。サンプルを持ったまま、そう言い捨てると、彼はいつものように窓から飛び降りる。
「く‥‥。待て!」
「僕の作品、ちょっとテストしてくれるかなぁ。くす」
そう言って出てきたのは、羽根を持つ数匹の軍隊アリ。
「この‥‥!」
「こいつを使え! サンプルは取ったから!」
どれだけ効くかわからないが、ユーリにお手製の火炎弾を投げる嘉雅土。受け取ったユーリが、密集したキメラに範囲攻撃をする要領で、超機械にセットする。こんな事もあろうかと、慈海が調整してくれたものだ。
「元気だね‥‥」
「後は触覚をぶった切るくらいしかないんだけどなっ!」
だが、多少威力は上がったものの、羽付は元気そうだ。仕方なく2人は、それぞれの武器を相手へ向ける。
と、その直後。
「こっちよ!」
入り口の方から声がした。どうやら、迎えが来たらしい。
「逃がさないよー」
「わぁっ!」
明るくそう言って、4人はまとめて吹き飛ばされてしまう。かばった人質ごと。
「この‥‥」
「じゃあね。次は空の上、かな」
睨み付けるユーリにそう言い残し、彼は空の向こうへ姿を消した。
「ゾディアックみずがめ座‥‥。侮れないな‥‥」
その名は、嘉雅土にもしっかりと刻まれた事だろう。
●いと高き月の恩寵を
その頃、城を迂回した工場を見に行こう班‥‥通称M班は、警備の厳しい工場を、遠巻きに観察していた。
「皆頑張っている。こちらも早く済まさないと‥‥」
メアリー・エッセンバル(
ga0194)が、進行指示を確認しながら、そう呟く。今回、陽動で敵をひきつける間、護衛と支援をわんさか連れて、工場へと潜り込む手はずとなっていた。
「八王子・・あの時の借りはいつか必ず返します・・その時迄は・・・」
もっとも、そのうち何人かは、一度来た事があるらしい。その時は、あまり芳しくない成果だったようだが。
「後45分‥‥か」
アンノウンが時計を見ながら呟いた。今頃表玄関では、盛大にドンパチやっている頃だろう。ここまで戦闘音が聞こえていた。
「しかし、こうも隣の敷地だと、ピザ吹いちゃうよ」
「私も紅茶返してくださいと思います。で、道はどうです?」
壬影(
ga8457)が、城の方を見ながら、そう答えている。彼らがいるのは、城と工場の間にある森だ。森林迷彩を施したその機体の足元で、あんのうんがこう答える。
「正面はやはり厳しいだろう。回り込んだ方が良いな」
彼の手元にあるのは、かなり古いものではあるが、八王子工場の地図だ。今はだいぶ中身も変えられてしまっているだろうが、覗き見するくらいなら、問題はないだろう‥‥と。
「わかりました。皆さん、お願いします」
「はいはーい。いきますよぉー」
メアリーが合図すると、宗太郎=シルエイト(
ga4261)と壬影が煙幕を張り巡らす。目隠しされた状態となったそこへ、実際に工場へ潜り込む5人が、それぞれの手段で、工場内へと入り込む。
「パパラッチの気分ですね。わかります」
「おっと、ここからは別行動か」
藤田あやこ(
ga0204)、カメラとメモ帳片手に、すっかり記者モードになっていた。今回のタイトルは『ドキッ!? 双子座の汚れ仕事』だそうだ。もっとも、今回糸を引いているのは、みずがめ座だったりするのだが。
「適時連絡は取りましょう。待ち合わせは、例の場所に」
「心得た」
アンノウンが、別方向へと消えていく。入り込んだらしい終夜・無月(
ga3084)からも「こっちも了解だ」と答えては、工場の中へと消えていった。
「絵本で見た通りですね。判ります」
まずは、真琴と共に、偵察へ向かったあやこから見てみようか。サイエンティストの嗅覚で、水槽の場所を探り出したあやこは、その広がる光景に、思わず舌を巻いている。
「こう言うの、持って帰った方がいいのかしら?」
「役に立ちそうなものは、持って帰りましょ。おおこれぞエイリアンって感じ」
係員をしばいて黙らせた真琴にそう言われ、その部品と内容物を、容器に入れ替えるあやこ。
「なんて素敵なガラス槽‥‥。これほど透明度の高い水槽は見たことありませんわ。さすがエイリアンの技術‥‥。異星人の技術を心行くまで味じわ‥‥ああん待って」
うっかりすると、撮影班の真琴に、緩んだ鼻の下を移されてしまいそうだ。が、彼女は一向気にせず、次々とサンプルを回収して行った。
「さすがに広いな‥‥」
その頃、アンノウンは来栖 晶(
ga6109)を助手代わりに、工場そのもの方へと向かっていた。センサーや人を器用に避け、気取られる事鳴く、組立場へと陣取っている。晶も助手‥‥と言っては申し訳ないくらいの隠密性で持って、ついてきてくれていた。
「あれは‥‥」
別ルートで潜り込んだ無月も、組み立て場へとたどり着いたようだ。
「ギガワームはないようだが‥‥。それ以上の脅威だな、ここは」
深く掘り下げられた、まるで造船所のような工場の組み立て場。かつて存在していたはずのギガワームは、影も形も見当たらないが、代わりにいくつか見た事のないワームが建造中だった。
『こちらガーデン。人質とかはいらっしゃいます?』
メアリーの問いに、アンノウンが人の数を数えている。殆どはオートメーション化されていたが、ところどころに作業着姿の人が見えた。
「従業員は結構いるな。ただ、人質なのかそうじゃないのかは判別できん」
無月の側からも確認できた。
「警備員はさすがに違うかな‥‥」
携帯している銃には、実弾が入っていることだろう。監視カメラも時々動いており、警戒の厳しさをうかがわせる。
「捕まえてみればわかるか。それっ」
もっと具体的な事を知るには、直接聞いてみるのが一番だろう。そう心に決めると、無月は目の前にいた警備員を、後ろからどついた。大部隊を率いる隊長でもある彼、その手にかかれば、1人を黙らせるなど訳はない。
「う、うーん」
物陰に引きずりこんで、後ろ手に押さえつつ、たたき起こす。と、それまでは死んだ魚のお目目をしていたはずの警備員は、急に表情を取り戻していた。
「洗脳兵か・・‥。おい、中の人配置はどうなってる?」
「へ? あ、あのいったい・・‥」
困惑したようにきょろきょろする若い警備兵。無月が「良いから答えろ」と、どすの聞いた声で尋ねると、彼はこう答える。
「え、えと。俺、ここが支配地域になってから来て・・‥、ここが職場みたいな気分になってましたっ。す、すんません」
どうやら、洗脳加減は半分といったところだろう。地元からガタイの良さそうな者をかき集め、抵抗する意思だけを染め替えていると言った所か。
「なるほど、やっかいだな」
アンノウンも、同じ現象にたどり着いたようだ。だがその直後、けたたましいサイレンが鳴り響き、そこかしこで赤ランプが点灯する。
「気付かれた!?」
「情報はもう良い。脱出するぞ!」
晶が武器に手をかけると、アンノウンはあらかじめ調べていたらしい脱出口を指し示す。直後、城の方で爆発音らしきものがした。
「さぁ皆さんご一緒に! こんな事もあろうかと」
あやこが、お約束の台詞と共にスキルを使い、追っ手となった警備兵達に煙幕弾を浴びせている。
「やれやれ、こいつを使うことになろうとは」
晶も、手製のズブロフ火炎瓶で持って、周囲を火に染め、足止めしていた。
「後は野となれバグアの諸君!さらばだ」
「‥‥意外と追っ手が少なかったな‥‥。そう言えば‥‥」
脱出する中、無月はそう気付いていた。その証拠に、少し森の中へ入り込んだだけで、追っ手の姿は背後から消えたのである。
●脱出! そして‥‥。
戦いは、あちこちで続いていた。陽動役や支援役は言うに及ばず、運搬役や護衛、救出班と言った者も、あちこちで戦いを繰り返していた。
「周辺のバグアに増援の動きがありますわ。あと5分がリミットですわよ」
城攻め、工場偵察のどちらにも参加していなかった後方支援隊責任者のシャレム・グラン(
ga6298)が、そう警告している。さすがに、これだけの大騒ぎをして、他のバグアが駆けつけないはずはない。
「そろそろ時間なんだけど‥‥」
「油断は出来ませんよ。気配はそこら中でしますし」
ミッション進行表では、そろそろ錬力が切れる頃だ。だが、相変わらず気配はしているし、銃弾の音がやむ気配がない。
「あ、来ました!」
と、壬影が城の方を指し示した。見れば、数人の女性と‥‥そして亜夜と和奏を背負ったユーリ達が、トラックに乗って帰還してくる所だ。
「って、こっちも来ちゃったですぅ! うわ、本当にでっかい虫です!」
ヨグ=ニグラス(
gb1949)が悲鳴じみた声を上げる。見れば、追いかけるように虫達の姿があった。
「もしかして、囲まれてる?」
依神 隼瀬(
gb2747)が顔をしかめながらも、攻撃態勢にうつっている。どうやら、ユーリ達がサンプルとして様々な品を持ち帰っているのが気に入らないらしく。しつこく追い掛け回していた。
「展開!」
慌てて、ヨグが幻霧を作動させ、周囲を包み込む。それでも、敵は中々減らない。
「もうひと踏ん張り‥‥。持ってくださいよ!」
フェイス(
gb2501)がそう言って、ディフェンダーを盾代わりにしている。その中で、壬影がスナイパーライフルで外側の待機位置から虫達を蹴落とし、何とか時間と退路を稼いでいた。
「皆、こっちです!」
その間に、トラックへと乗せたフェイス、進行を他の面々に任せる間、ヨグと一緒に煙幕を撒き散らした。
「偵察班の撤退開始を確認。見送りの方にお帰り願いましょう」
その煙幕を確かめたアグレが、戦っていた傭兵達にそう告げている。
「よし、撤収だ!」
「怪我人はこっちですっ、怪我人くださいっ」
陽動として戦っていた傭兵達が、塩を引くように撤収したのは、その直後だった。
そして。
「これで全部でしょうか‥‥。すみません、力及ばなくて」
戻って手当てをしていたシャレム、さすがに和奏と亜夜の怪我は酷く、その回復力を持ってしても、中々直せなかったらしい。
「いや、いい。これだけえぐられたら、命があるだけでも感謝しなくちゃな‥‥」
亜夜がそう言った。見れば、戦いのさなか、怪我をしたものもいるらしく、傭兵達は一律にどこかしら怪我をしていた。
「レンくん‥‥」
もっとも、和奏は自身の怪我よりみずがめ座の少年を気にしていたようだが。
「蟻の廃棄物かしらね。サンプルを多めに取る必要がありそうですわね」
「毒物かもしれないから、扱いには気をつけて。作業手袋と、専用ビン、フェイスマスクを忘れずに‥‥」
手当ての終わったサイエンティスト2人‥‥シャレムと慈海は、白濁した川の水を採取している。
「よし、終わり。別に積んでおけば良いかな?」
シャレムの問いに頷く慈海。それらは、回収した卵や城の材料、虫の死骸等と共にカンパネラ研究部へと回されるらしい。救出した人々とは、別のトラックへと積み込まれていく。
「そうだな。各種研究所に持っていけば、何かわかるかもしれないしな」
願わくば、それが傭兵達にとって有益である事を、彼は切に願っているのだった。