●リプレイ本文
「うひゃ〜寒ぅ〜。岩手出身者でもコレはキっツイぞぉ?」
聖・真琴(
ga1622)が防寒具の襟をぎゅっと締めなおし、そう苦笑している。外気温マイナス20も決して珍しくない世界。地下はぬくぬくだが、お外は雪国出身者でも厳しい気温だった。
「こんなところからくるキメラ‥‥小型で通路って話だから、生身だよね‥‥」
さすがに、出入り口をふさぐのはどうかと思った水理 和奏(
ga1500)、KVはゴットホープの中に置いて来たらしい。彼女もまた、防寒具に身を包んでいる。今いるのは、風邪があまり入ってこない搬入口とは言え、寒いモンは寒い。
「でもそれ、動きにくくない?」
真琴に言われて、首を横に振る橘川 海(
gb4179)。今日のご衣裳は黒のダウンジャケットに、下は白いサロペットのスキーウェア。耳にはふかふかイヤーマフ。アイムールは日本刀用の布袋に入れている。
「大丈夫だよ。元々スキー用だし」
どうやら膝の曲げ伸ばしを阻害するものではなさそうだ。
「それにしても、小型とはいえキメラが徘徊しているなかで雪像作成か。情報によると、カンパネルラの生徒会長も紛れ込んでいるという報告もある。果たして、どうなることか」
その真琴に連れられてきたリヴァル・クロウ(
gb2337)が、報告書を端末から眺めている。若干心配そうにしているが、澄野・絣(
gb3855)は遊ぶ気満々だ。
「やっぱり、適度に息抜きは必要ですよねー」
無論、捜索や護衛もやる気ではあるのだが、それ以外もしっかり楽しみたいようだ。
「去年はティグを無理やりバレ活に付き合わせたしな‥‥聖那捕獲位ならな。逃げたい気持ちも分からんでもないが‥‥どの道やらんとだし」
申し訳なさそうにそう言う嘉雅土(
gb2174)は、今回ティグレスの味方だ。それはそれで会長には申し訳ない気分なのだが、そっちは他で補えばいい。
「戦闘とかは苦手だけど、こういう地味な作業は任せてくださいなマルセルです。伊達に支援部隊で長い事リッジで土木作業しちゃいませんよ! 日頃の訓練と実戦で培ったノウハウを生かすときが来たんだー!」
マルセル・ライスター(
gb4909)、早速シャベルやらつるはしやらを運び出しにかかる。材料と言う点では、雪も槌も変わらない。てきぱきと色々運び出しにかかる他の面々の中、ちょっとブルーな気分になっているのは、水理だった。
「みゆりさんいなくても頑張らなきゃ‥‥」
本当は、大好きな人を誘いたかった、が、都合が付かなかったようで、彼女はしょんぼりと肩を落としている。
「さぁ、全力で盛り上げるとしようか」
そんな彼女の肩をぽんっと叩いて促すジャック・ジェリア(
gc0672)。と、キルス・ナイトローグ(
gc0625)がくるりと回れ右。
「って、どこいくの?」
慌てて追いかけようとする水理。と、彼はバレンタインなんぞ興味も関係もないように、すいっと歩みを進めている。
「バグアの手先のキメラを始末できればそれで良し。会長はキメラを始末してから探すとしようか」
逃げ回る生徒会長の逃走を手助けるのも面白そうではあるが、それはそれだ。それに、彼女とてドラグーン。心配する事もあるまい。そう言うと、キルスはダークファイターらしく、通路の奥へと消えて行った。
その頃、アルヴァイム(
ga5051)は既に担当区画の図面を借用し、統合整理と複製を済ませ、『管理部外注』と腕章を渡された百地や嘉雅土に、それを配布しに向っていた。
「こちら黒子。通信の様子はどうだ?」
すっかり代名詞と化した黒装束が、通路の闇に溶け込んでいる。彼が借用申請した中には、軍事機密の為、許可出来ないと答えられてしまった場所もあったが、そう言った場所は、元々一般人を入れる予定のない場所なので、特に問題はないと判断していた。
「ばっちりよ。さすがにゴットホープ内部だと、よく聞こえるわね」
で、今は無線での連絡網を確立するため。百地・悠季(
ga8270)とマイクテス中。その彼女が、アルに尋ねているのは、雪祭りと言うには、あまりにも不穏な状況だった。いわく、どうやらゴットホープ内にスパイがいるらしいとの事。どうやら会長は、その真偽を確かめるため、UPCに呼び出されているらしい。
「各参加者への登録確認は済んでるか?」
「ええ。リストはそっちに写真つきで送ったわ。けど、これ‥‥配備バラバラよ?」
他の依頼からも、そう言った情報が流れ混んでいるようだ。誤情報の流入を防止する過程で、それを知ったアルは、悠季をはじめ、各参加者のID管理を徹底するよう持ちかけている。しかし、キルスはただいま通路捜索中、他の面々は雪をかき集めている最中と、割とバラバラだ。
「緊急招集を翔れる体制に出来れば良いんだが‥‥所在の把握は難しいか」
「こちらでも声はかけておくけどね」
そう言って、彼女はスケジュールを申告してくれる。ご丁寧に向う所在地の座標と、発信機までつけてくれている所を見ると、彼の仕事の邪魔にならないよう気を使ってくれているようだ。
「了解した。ではマップを送っておくから、データを返送してくれ」
海と絣の2人は、雪組と同じ場所にいると認識していいだろう。図面にそう書き込んだアルは、所在のつかめなくなりがちな対キメラ組の方へ向う事にしていた。雪像構築組は上から見て分かりやすい場所に点在しているが、キメラ組はそうは行かない。会長捜索も同様だ。
「らじゃっと」
頷いて座標を送った悠季は、会長の捜索へと出向く事にした。
「相変わらず黒子属性よね。さ、こちらは会長をとっ捕まえないと‥‥。アルの調べてきてくれた書類を無駄にしたらいけないしね」
彼女が持ち込んだヘルヘブンの後部座席には、生徒会執行部や管理部から預かった即時決済が必要な書類が積み込まれている。その全ては執行部から持ち出し許可を受け、アルにもリストを送ったものなので安心なのだが、届けられない間に時間切れになってしまっては困る。
「‥‥と言うわけだ。おそらくすぐ来るだろうから、こっちを先に設営した方がいいだろうな」
そうして、彼女が会長を捜索している間、アルはそう言って休憩と治療の場の提供を持ちかけていた。雪の中は動き難いわりにすぐ冷える。防寒具の中が汗まみれになってしまっては、冷える元と言うわけだ。
「休憩所なんざないだろうなぁ。さて、んじゃあかまくらでもつくりますかね」
同じ事を考えたのは嘉雅土。もっとも彼は、その休憩所に聖那を捕獲するつもりのようで、KVを使って巨大なかまくらを作り始めている。作り方は日本の雪国で作られたものと変わらないが。
「暖を取れる方がいいだろうな」
「ああ。誘い出す方が早いだろ。ポットとクロワッサンとクッキーでいいかな」
休憩用の暖房器具に始まって、各種ホットドリンク‥‥無料配布でホットチョコドリンク、コーヒー、梅昆布茶、具無しキムチスープを用意し、溶かしたチョコをはじめとする各種おやつ。それに机やポットに紙コップと、一通り『お茶の用意』をしておく嘉雅土。ちょっとしたドリンクバー状態だ。費用に関しては、アルがどうにかしてくれたので、一応安心ではある。
「電源コードは‥‥と、あったあった。これだけあれば、他の暖房器具もいけそうだな」
そのアル、鎌倉の中にコタツとみかんを準備中。
「うーん、これだけじゃやりなそうですけど、その前に掃除しましょうか。邪魔ですから、ここ置いても構いません?」
「おっけー」
ユーリが自身の武装の一部を、その大きなかまくらの一角に設置している。ウリエルとクルメタルはコートや自身に取り付けてあるので、もしキメラが入り込んできたとしても、すぐに取り出せるはず。かまくらが形を残すかどうかは定かではないが。
「さて、これで引っかかれば良いんだが‥‥」
チラシを作成し、誘導するように廊下へ貼り付ける嘉雅土。そこには時間とかまくらを設置した場所と共に、ホット飲料の無料配布と描いてある。ランダムでお菓子が当たるかも? と小さく記載されていた。
「別のが引っかかったりしてな。ふむ、組織的行動の可能性は低いかもしれんが、ここを目指しているのは確かなようだ」
その間、アルは目撃された情報を元に、不審者の洗い出しと敵の動きから、キメラ特定を試みていた。もしかしたら陽動や先行偵察なのかもしれない。そう考えた彼が見る限り、ボスが小隊を勝手に動かして、ちょっかいを出しているように見えた。ただ‥‥動きはやはり雪祭り用の通路に集中していたが。
「あ、何か楽しそうなことやってるっ!」
警戒を強めた方が良さそうだな‥‥とアルが傭兵の配置や、戦闘の連携を考慮に入れている中、その先端を開きそうな声が聞こえた。
「やっぱり別の奴か‥‥」
ため息をつく嘉雅土。見れば、海がさっそくかまくらの方に走り寄っている。いや、正確には滑っている。
「いいじゃない。囮は囮よ」
いつの間にか合流した悠季がそう言った。見れば海は、スレッドブーツでついーっと、滑れる雪原をショートカットちう。
「あはは、みてみてー」
おまけにスケートの要領でくるくると周り、すてーーんっと尻餅をついている。が、絣と雪玉を投げあう等して、きゃっきゃと歓声を上げる少女達。だいぶ慣れてきたようだ。
「紅茶入りましたよ」
そこへ、マルセルがフレーバーティを用意してくる。シナモンパウダーやオレンジピール等、爽やかな香が周囲に撒き散らされている。見れば、りんごとレーズンのパイ包み焼きが添えられていた。
「わー。良い匂いー」
「フフ、ドイツ人は紅茶には少々煩いのですよ?」
ドイツ語でアップフェルシュトゥルーデルと言う伝統のケーキは、ラスホプや日本等でも、クリスマス時期になると、時折みかけるものだが、マルセルは少々こだわりがあるようで、やれ茶葉がどうだとか、シナモンの入れ方がどうのとか、細かい注意事項を講釈している。ドイツはむしろコーヒーじゃないのかと言う話は、産地がバグアに押さえられているので却下だ。
「そういえばカンパネラに来て一年だけど、生徒会長って未だに見たことが無いんだよなぁ‥‥。噂ではこの辺に居るらしいのだけど、どんな人なんだろー」
アップルレーズンケーキをぱくつきながら、のんびりとそんな事を口にするマルセル。
「‥‥至極単純だが、寒いし見に来るとは思うんだがな。時間は1時間くらいまでが限度‥‥俺が寒いぃ」
「ではこれをどうぞ」
すっかりお茶会モードの中、襟の裾を合わせなおす嘉雅土に、横からシナモンアップルな紅茶が差し出された。「ありがとう」と受け取る姿を見て、海が声を上げる。
「あーーーー! 見つけたーーーー!」
「あら、見つかっちゃいましたわ」
見れば、聖那だ。金髪を三つ編みにした状態で、グリーンのスノボウェアに身を包んで、お茶をたしなんでいらっしゃる模様。
「え、ええ? ま、まさかこれが会長!?」
「はい、龍堂院聖那と申す駆け出しの小娘にございます。どうぞお見知りおきを」
手を胸の辺りに当て、もう片方の手を前にだし、腰を折るような姿勢で立ち上がって礼をする姿は、とても和風の雰囲気だ。
「聖那さん、時代劇の人みたい」
「あらうっかり」
絣がそう指摘すると、会長はそんな風に答えている。と、茶や菓子が山盛りに鳴る中、悠季がこう切り出す。
「気晴らししたいのは判るから、とりあえず色々片付けてからね。あたし達も手伝ってあげるしね。で‥‥微妙に不穏そうだから、視察警護を引き受けるわよ」
「折角だし書類は後回しでっ。あとでお手伝いしますしっ!」
「私も手伝います‥‥」
海と絣にも賛同されて、彼女は表情を変えないまま、残念そうに答えた。
「ふふ、残念ながらお手伝いの出来る事ではないんですよ。ちょっと機密事項が入っているものですから」
やっぱり‥‥と、悠季がため息をつく。持ち出した書類には『極秘』のスタンプがあちこちに張られ、暗号を使っているのか、ぱっと見には意味不明だ。黒子が解読表を調達してくると呻いていたので、その気になれば読めるのだが、それは聖那の気分次第だろう。
「それも把握済みよ」
「あらあら、もう少しセキュリティを厳重にしておかないといけないかしらねぇ」
少し、表情が厳しくなる。それでも笑みを浮かべたまま、彼女は回れ右。
「あっ、会長が逃げた!」
「待って‥‥!」
追いかける海と絣。と、その時、しゅたりと間に割ってはいる影。
「‥‥加勢する」
「キルスさんの裏切り者ぉ!」
海が悲鳴を上げた。雪玉を投げつけられた拍子に、転んでしまい、じたばたと雪に埋もれている。そこへ、キルスはスパイクの付いたブーツでニヤリと笑う。
「ふ、分の悪い方に加担するのが楽しいからな。これも演習だと思え」
例えるなら、決済がバグア側、聖那がUPCの追いかけっこだ。そう言って、雪玉を乱打するキルス。怪我をする事ぁないのだが、正直うっとおしい。
「なるほど。そう言うことなら話は変わるな。一応本部には連絡をしておいた。雪祭で使う通路内なら可能だそうだ」
しかし、こっちにはブレーンがいる。雪の大地から、通路ハッチを空けて乱入する黒子。その手元には通信機。悠季も彼の味方だ。と、そこへ嘉雅土が特製甘酒ホットプリンと言う名の、甘そうな茶碗蒸しを見せびらかしてきた。
「ふふふ、‥‥早く仕事が終わったら‥‥聖那1人なら奢っても良い。甘味処か、持ち帰りスィーツ。もしくは俺手製の菓子になるがな。どうする?」
「その分他の方に振舞ってくださいませ」
聖那、お茶菓子で釣られるほど甘くない。優雅にそう言って逃走開始。
「残念ながら、苦学生だから、他の奴におごる分はない」
「よぉし、ケーキの為だ! 容赦しないぞぉ!」
食いしんぼう属性をフルに使った女学生ズに火がついた。そのまま楽しそうに雪玉を投げあう海を見て、嘉雅土はカオスっぷりにため息を1つつくのだった。
で、数時間後。さすがに何時間も追いかけっこしているわけではないので、キルスは聖那の所在を不明にすると、本来の仕事へと戻っていた。
「さて、まずは情報だな。どんなキメラだったか、数はわかったのか?」
「目撃情報をかき集めたら、だいたい10はいるな。殆どは小型のビートル型だったらしいが」
すなわち、通路に潜んでいるはずのキメラである。キルスに見せたアルの画像は、だいたいネコほどの大きさの甲虫だった。人に恐怖心を与えると言う点は踏襲しているのか、目だけが異様に肥大化している。それが10匹だが、センサーは遠景なので、もう少し奥には何匹もいるのかもしれない。
「‥‥ある意味ではこっちも祭か。尤も、蹂躙と言う名のパーティだが。‥‥さあ、開幕といこうか」
じゃきり、と一見すると何もない場所にデヴァステイターを向ける。と、アルはそれを手で制し、通路の概要図を通信端末に浮かべた。
「待て。まずは相手の出方を確かめなければ。パーティはそれからでも遅くはなかろう」
「ふむ‥‥開始の合図は忘れるなよ」
彼を先行させてから、乱舞としゃれこんでも、遅くはあるまい。慎重に歩みを進めるアル。その情報は、他の面々にもリアルタイムで報告され、その都度補正される。
「会長さんが狙われるとは思ってないけど、きっと何かが起きる気がする‥‥」
そのリアルタイム中継を確認していた海がそう言った。敵も味方も、どうも動きが腑に落ちないわねとは、悠季の弁。そんな彼女の直感を、海は信じていた。
「ここまでやるなら、楽しむしかないし。生身で警護は危険だから、会長には乗っていて貰うわよ」
その悠季が、結局会長を捕まえたらしい。戦闘中の姿を気にする聖那に、生返事で答えながら、彼女は作業へと参加していった。
「よーし、まずは広めの台をつくるところからだ」
指示をしているのはジャックのようだ。KVに取り付けたシールドガンで、器用に雪を掘り返している。それを、雪だるまを作る要領でこねこねとまとめ、次々と台の上へと並べて行く。こうして、レンガを作るのと々要領でいくつものパーツを作ると、積み木のお城を作るのと同じ工程で、塔らしき物を構築して行った。
「大きいのを持ってきましたから、雪だるまは任せてください」
「わかった。では、これ組み上げて慣らしを頼む」
ジャックがユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)に任せたのは、城の後ろ側に作る滑り台だ。まず台座から順番に積み上げて行き、それから徐々に削って行く方法にしたようだ。
「よぉーし、でっかいエリノアの像を作るぞー!」
その城を彩るべく、女性の彫像に挑んでいるマルセル。20mくらいの人型を作るようだ。無論下着まで精巧なフィギュアらしいのだが、首から下はどうみてもヘルヘブンである。いわゆるKV少女と言う奴だ。
「あたしは花嫁姿のをかな」
悠季はドレスの作成にかかる。腰を絞ったデザインで、らせん状にフリルがあしらってある。本当は、髪が透ける様なヴェールや、長手袋の手元に薔薇と百合のブーケを作りたかったのだが、細かい細工は以外と難しいようで、星を散らしたヴェールと、花束になってしまっていた。
「まぁ可愛い」
「この一年、支援部隊で工作やら救護やらしてきましたから、こういう作業は得意なんです。料理もそうですけど、物を作るって楽しいです」
一方のマルセルは、家族への歪んだ愛情を全開にしている。おかげで、KV少女は美化200%くらいの盗賊娘さんもまっつぁおなナイスバディになっていた。後で当人からシバかれるかもしれないが、本人は全く気にせず悦に浸っている。
「うーん、和んでかわいらしいもの‥‥。雪ウサギでしょうか‥‥」
一方、ユーリは雪像で悩んでいた。ほっこりと和んで愛らしいもの‥‥と言うお題にひっかかっているようだ。暫し悩んだ後、童話に出てくる白黒二種類のウサギさんを作ってみようと思い立つ。
「出来上がったら言ってくれ。先にライトアップの調子も見るから」
ただ並べるだけでは味気ないので、ライトアップを考えたジャック。雪原でバッテリーが心配だが、夜の短時間なら問題はないだろう。
「皆頑張ってるね。ではこちらは、予め用意したこの図面を元に作成するとしよう」
リヴァルがそう言いながら、設計図をモニターに写していた。作るのは招き猫の猫を虎にした物らしい。
「大雑把な虎さんを固めてからだね」
「ああ。粘土とかで作る彫刻と同じ方法でいいらしい」
リヴァルのKVを三角座りさせ、その周囲に真琴が雪を盛り付けて行く。針金で芯を作って彫刻するものと同じやり方だ。まずは4つ足の獣のような物を作成し、そこから細部を作りこんでいる。
「くーちゃん、彫刻するの?」
「ユーリがウサギ作ってるだろう。あっちに向けろ」
頷く真琴。ぺたぺた、こねこね。丸い顔に耳が生え、足に爪が生える。その視線をユーリの作るウサギさんへむけるよう、顔の位置を調節する。
「あんまり苛めないで下さいよ」
「大丈夫だ。可愛い感じにするから」
流石に、ウサギさんを食い殺そうとしているような形では、和まないと思ったのか、虎の形が丸く調整されていった。どう見ても大きな虎猫と言った風情に、真琴が不満そうに頬を膨らます。
「でもそれじゃあ、ビームでない」
「出そうなデザインにすればいい」
リヴァルが少しKVを動かした。ちょうどコクピットが露出するような形になり、メガレーザーアイを出力最小で動かすが、持った熱で溶けてしまった。
「あーあ。やりなおしじゃないかー」
「上手くいかないもんだな。よし、こうしよう」
溶けて水になってしまった雪に、真琴が不満そうに口を尖らす。仕方なく、KVのハッチを空けたまま、雪に埋めて行く。レーザーアイの部分には、お星様の形の雪をくっつけていた。
だが。
「うわっ」
「やぁ〜い♪冷たいだろぉ☆」
作業していたリヴァルの頭に、固めていない雪が落ちてきた。
「こっちがコクピット出したままだと思って! 待てー!」
下りてきて、生身で追い回すリヴァル。「いやーん。怒っちゃやーよー♪」ときゃっきゃ言いながら逃げ回っている。
「うーん、これはこれでかわいらしいのかな?」
結局、耳を立てさせる事が出来なかったユーリ、仲良く頬を寄せるロップイヤーのウサギを見て、何だか不安そうだ。
「あらあら。まるでラスホプの縮図みたいですわねー」
そのウサギの横に花嫁とKV少女。さらに反対側には頭のあたりからコクピットが出ている虎猫。その後ろ側に積み木のお城と滑り台。聖那がそんな感想を浮かべているのも無理はない。
「どこをどうつついたらそうなるのよ。えと、出来上がった決裁書はこれで良いのね?」
「ええ、お願いします。あら?」
悠季が決済書類の送付を確認している。と、その直後KVのメーターが警告音を立てた。
「やはり居たか」
リヴァルが駆け出した先には、既にアルとキルスが交戦中だった。相手は小型甲虫型。きちきち言っているのは、通路を噛んでいるせいだろうか。
「前は任せた。存分に暴れて来い」
「元よりそのつもりだ」
キルスが愛用のデヴァステイターと、拳銃を両手に握り締め、正面から相手をしている。彼がブリッツェンで牽制し、右手のテヴァスで攻撃している間、それを囮代わりにしたアルヴァイムがSMGを撃つ。影から撃たれたそれは、奇襲と言っても差し支えない角度から、ビートル型を攻撃していた。しかし、それでも弾丸が跳ね返る事がないのは、お互いの位置を気にしているせいだろう。
「‥‥仕掛ける、真琴!」
「OKっ」
その様子に、今度はリヴァルと真琴が動いた。アルからの情報は、既に端末にマップとして入っている。お互いに背中を合わせてフォローしつつ、ビートルを1匹づつ仕留めて行った。
「ミクちゃんいる?サイエンティストさんだったよね。れんせー強化とか、援護をお願いできるかな?」
そんな中、水理がミクにそう言った。が、既に覚醒した音叉マークの出ているミクは、いつものぽやん口調を消して、悲しそうに告げる。
「サイエンティストはおじいちゃんであって、ミクじゃないんだけど‥‥っ」
よく見れば、胸元のネームプレートにはファイターの文字。どうしようと顔を見合わせる水理に、アルがこう指示。
「皆のところへ合流してくれ。後はこっちがやる」
2人とも前衛なので、殴り合いには役に立つだろう。ミクは牽制程度だが、水理の行動力はもう一人前以上の働きだ。
「いきますっ! 皆の雪像、壊させないからっ!」
その間に、海がアイムールを開放。スレッドブーツで、雪原を蹴った。スケートの用につつつっと滑ったその先で、懐に忍ばせた雷属性の超機械を作動させる。覚醒の赤い蝶が舞い、甲虫に必殺の雷撃をお見舞いしていた。
「こっちなら、壊しても問題ないからな」
ジャック、容赦なくしろと雪だるまを盾にする。どうせ回りには材料なんぞたくさんある。作り直す事は厭わない。
「援護します」
絣がそう言いながら、KVを起動させた。既にアリスシステムは発動させている。後方から一発ずつ牽制弾を発射していた。本当なら、おおっぴらにオメガレイでも撃ち込みたいものだが、雪像のたくさんあるここでは、下手に使えない。
「こっちも弾幕くらいはやらないとねっ。会長、行くわよ!」
火力不足、と言うわけではないのだが、KVが役に立っているとは言い難い。その為悠季は、両断剣を発動させて、テヴァステイターで切りかかる。
「仕方ありませんね。絶対に後ろは見ないで下さい」
後ろにいた会長がその機動を阻害しないように覚醒してくれた。「わかったわよ」と答え、外部スピーカーを切る。
「なんだ? あれ」
怪訝そうに首をかしげるジャック。動きが、まるで違う。後ろで大音響が響いているようだ。
「後ろに会長が乗ってるからな。そう言うことか」
アルが頭を抱えていた。確か、覚醒すると人が変わるので、あまり見せたがらないと、データベースに記載されていた上、実際に戦闘時の画像もティグレスによって巧妙に見えなくなっている。
「まぁいい。こっちもパーティに参加するとしようか」
戦力になっていないわけではないので、特に問題ないと言い切り、キルスは乱戦を続けて行く。敵の数が以外と多いが、ドリルナックルで何とか一撃の元に仕留めていた水理は、しょんぼりと元気がなさそうだ。
「小型キメラだって言うし、何とかなると思ったけど‥‥。大雑把過ぎたかな」
「こっちで足止めする。何とか回り込め!」
そんな水理の前に回りこむ嘉雅土。ペイント弾が放たれ、キメラ達の視界を塞いで行く。「わかった!」と水理がドリルナックルで粉砕している所に、それは起きた。
「雪だるま1号頭部発射! 続いて1号胴部発射! なぁに、材料ならいくらでもある!」
ジャックの宣言と共に、上の方から巨大な硬いモノががっきょんと踏み倒す音。んごごごごごっと鈍い音を立てつつ、近づいてくるそれは。
「うわぁ、雪が飛んできた!?」
さっきまで皆で作っていた巨大な雪球だった。難点は、SES非搭載なので、ダメージには至らないと言うところだろう。
「攻撃・防御・楽しさの三位一体となったすばらしい戦闘城砦!その名も‥‥」
「解説は後回しにしてもらおう」
アルがげしっと解説を強制的に省略させる雪玉を発射する。後頭部に命中し、表情の凍りつくジャックだった。
こうして、キメラ掃除は30分後には全て終了していた。
「やっと終わったけど、怪我はない?」
「うん。やっぱり、頭のいいみゆりさんがいてくれたら違ったかもしれないっ‥‥」
救急キットを手に、そう尋ねて来る嘉雅土。寒いし雪で乾燥しているので、おてての表面が荒れているが、水理はそれ以上に心が寒いようだ。
「大丈夫か?‥‥これを着ていると良い。」
「あは☆‥‥く〜ちゃんらしいね」
それでも、寒そうにしている真琴に、自身のコートをかけているリヴァルを見て、少しほんわかした思いがよぎる。
「いいなぁ、あれ‥‥」
今年はちょっと不穏な情勢だけど。
「あの2人はお友達だって言ってたぉ?」
ミクが怪訝そうにそう言ってきた。確か、去年末には、真琴の身辺が色々と取り込んでしまい、リヴァルとはその時からの縁だが、今はお互いに恋人がいる模様。
「そうなんだ。何だか取っても仲良しさんだけど」
出来上がった雪像を興味深く見ている2人は、どう見ても『いい雰囲気』である。
「そういえば、去年のバレンタインも、こんな感じじゃなかったっけ」
「そだぉ。ミクの時間はそこで止まってる気がするけど」
水理がその姿を見て、思い出したように顔を赤くした。が、ミクの表情は少し硬い。周囲にはいい方向での人間関係が構築されているけれど、彼女は立場上深入り出来ないせいだろう。偉い人を祖父に持つと大変なようだ。
「僕コイバナしちゃったの覚えてるかな‥‥? 励ましてもらったり嬉しかった‥‥」
「気にしなくていいぉ☆」
もっとも、水理が照れくさそうに聞き返すと、彼女はそんな雰囲気を吹き飛ばすかのように、軽く握った雪玉を放り投げている。どうやら、あまり深刻に考えないでも良さそうだ。
「はーい、皆さん甘酒出来ましたよー」
と、だいぶ冷えた所で、真琴が湯気の立つ白い液体をコップに入れて持ってきた。甘くて暖かいそれは、冷えた体に染み渡る。
(‥‥やっぱり、僕にはお姉さんが必要なんだな‥‥どうなるか分からないけれど‥‥ミクちゃん達、遠くで見守っていてね‥‥)
そのぬくもりを心に刻みながら、水理は今度こそ、気持ちを伝えてみようと決める。もし一緒に入れたら、自身の好きな人に、しっかり愛を伝えようと、ひそかに誓うのだった。