タイトル:【北伐】密やかな届物マスター:姫野里美

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 1 人
リプレイ完成日時:
2009/11/03 22:35

●オープニング本文


 大連での攻防が続き、中国があわただしい雰囲気に包まれている頃、カンパネラでもまた、あわただしい空気が包みこみつつあった。
「なぁにぃ、部材がとどかねェ? 何やってんだよ、一体」
 地下闘技場の強化作業を行っていたキャスター准将が、通信機で怒鳴り散らしている。何でも、ロシアから運ぶはずだった強化金属が、中国大規模作戦のせいで、すぐには届かないと言うのだ。
「けど、納期まで押してるし、来月の文化祭には間に合わせろって、嬢ちゃんが言ってたしなぁ」
 頭を抱えているジジィ。これがいつもの開発だったなら、大陸を回り、海のシルクロードを越えてくれば良かったのだが、今回は急ぎの任務だった。しばし、考え込んでいた准将、おもむろに生徒会室へと足を踏み入れる。
「‥‥と言うわけだ。悪ぃが、迎えをよこしちゃくんないか?」
「わかりました。そう言うことでしたら、面白いルートがございますわ」
 にこやかに出迎えた聖那が、モニターを起動させる。そこには、ロシアとの国境にもほど近い、中国東北部の地図が浮かんでいた。
「出発地は、確かヤクーツクでしたわよね」
 そう、鹵獲したカッシングのファームライドのパーツが保管され、今もラスホプに運ぶ機会を慎重にうかがっている場所。今回、強化金属が発見されたのはその近くにあった資材置き場の為、ここから運ぶ事になったのだが。
「実は、ファームライド移送のルートを模索して欲しいと言う要請がこちらに来ておりまして。その手段として、このようなものが提案されておりますの」
 聖那が見せたのは、KVに取り付けられた見慣れないブースターだった。
「あー、それか。俺のところにも資料を確認しろって、カラスがぶっ飛ばしてきたな。確か‥‥スクラムジェットブースターとか言ったっけか」
 何でも、KV単体での敵中枢への長距離進攻を目的とした追加ユニットとして開発されたそうだ。要はでかい翼である。
「はい。古くから開発はされていたのですが、ようやく実用化致しまして。メトロニウム合金と、KVのブースター能力をフルに使えば‥‥の話ですけど」
「知ってる。だが聞いている限り、あの新型ブースターは片道切符だぞ。おまけに、まともな発着は出来ないシロモノだと聞いてる。大丈夫なのか?」
 問題は、スペックが高すぎて、既存の補給では追いつかず、空中でのみ使用可能な上、まともな戦闘活動は出来ないとか言う問題山積みの試作ブースターな事だ。
「その辺りは、准将の方がお詳しいでしょう? でもこれならば、ヤクーツクまで持って行って、ラスホプまで大連の戦場をすり抜けて戻る事は可能なのじゃないかしら」
 ただ、速さだけはやたらある。ので、ドンパチやらかしている主戦場を回避し、ラスホプまで戻ってくる事が可能だ。もっとも、何か荷物を運ぼうにも、外部ユニットなだけなので、荷物を運べるKVがいる。例えば‥‥リッジウェイのようなものが。
「んあー、難しいな。離陸後に空中給油がいるし、モノをウラジオストックまで運んで、その後もっかい離陸必要だから、都合3回の補給がいる。大型なんで、積んだまま空は飛べねぇし‥‥」
 おまけに、結構な大きさがある為、使用せずに飛んで行って、帰りに使うと言う温存機能も付けられない。飛んだ後すぐに使い、使い捨てになってしまうようなシロモノなのだ。
「では水中を行けばよろしいのではないかしら。資材そのものは、ヤクーツクからウラジオストックまで運んでもらいますし」
 まぁ片道専用のエンジンと言うわけではないので、ルートを問わなければ『運ぶ』と言う行為そのものは可能だそうである。
「‥‥わかった。その案で行こう」
 そんなわけで、相談をまとめた准将。ただ、問題がそれで解決したわけではない。何しろ新型兵器の輸送だ。中国も日本もロシアも、バグアの多い地域ではある。あまりおおっぴらに高速飛行物体を通すわけにはいかないのだ。

 そして、数日後。准将の姿が本部にあった。いや、よく見ると聖那も一緒である。ティグレスは、別件で用事があるとかで姿を見せなかった。
「と言うわけで、お迎えに参りますから、皆さんもご一緒にどうぞですわ」
 なんでも、テストで使ったアルバトロスがお気に入りになったらしく、水中ルートでの護衛を買って出てきたそうだ。と、そんな彼女の説明を引き継ぐように、准将が告げる。
「説明は上の通りだ。目撃情報じゃ、爆撃型と本星型が出てるらしい」
 そう言って、敵地の状況を簡単に説明する准将。ぱっと画面が切り替わる。そこには、やたらとトゲトゲしたワームがいくつか映っていた。いわゆる『強い方』だ。しかも、地上へ向ってやたらと物を投げている。そのいくつかには、見慣れないエンブレムがプリントされていた。
「ぶっちゃけ小回りの聞くエンジンじゃねェから、帰りはルートを選ぶ事になるだろう。行きは、途中まではさほど攻勢も強くないだろうが、陸地に近づけば近づくほど面倒な事になる。サメだの砲台だのを潜り抜けてウラジオまでお迎えに行ってやってくれ。帰りは空中戦になるだろうが、給油活動を失敗すると、敵さんのど真ん中だ。気ィつけてくれ」

 意外と面倒な輸送である。

●参加者一覧

水理 和奏(ga1500
13歳・♀・AA
三島玲奈(ga3848
17歳・♀・SN
リーゼロッテ・御剣(ga5669
20歳・♀・SN
百地・悠季(ga8270
20歳・♀・ER
ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751
19歳・♂・ER
狭間 久志(ga9021
31歳・♂・PN
音影 一葉(ga9077
18歳・♀・ER
まひる(ga9244
24歳・♀・GP

●リプレイ本文

 仕事は、ウラジオストックから、強化金属を受け取り、ラスホプまで搬入する事だ。だが、現地までは非常に遠い。
「お爺ちゃん、何とか三沢まで行けない?」
「おまいらが行くだけなら、高速艇使えばすぐなんだが‥‥。SJBを運ぶのに、結構時間がかかるんだよな‥‥」
 その為、百地・悠季(ga8270)は准将に補給基地の交渉をしていた。何しろ、太平洋は広い。航路と情報は周知させているが、無線封鎖も徹底しているか怪しいし、対水レーダー網も、穴が正確なのか分からない。唯一の救いは、時計あわせはすんでいる事、身を隠しやすそうな岩礁の場所だけは判明している事だろう。
「せめて中継地点とか給油船があれば‥‥」
「わかった。んなら、船手配しとく。どっちみち、高速艇で輸送するにしても、こいつを違う手段で運ばなきゃナンねェし。輸送用を使えば、なんとか近辺まではいけるだろ」
 航路に悩む百地に、准将はそう言った。これで、三沢基地までは錬力の心配をしなくても良さそうだ。費用はかさむが、その分は後で稼げば良いだろう。
「そうすると、囮は三沢近辺についてからの方が良いかな」
 三沢までの心配がないのなら、ファイナ(gb1342)はその間を埋める方が良さそうだ。
「なら、僕らは先行しておきますよ。帰りはウラジオストックで合流してからですね」
「行きは通常通りなら、何とかなりますしね」
 狭間 久志(ga9021)とユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)他、復路組は先行し、帰りに備えると言う事になっている。打ち合わせが済むと、百地はまひる(ga9244)のリッジをチェックしに行った。
「OK。あとはリッジ牽引のロープね。誰かこうして‥‥と」
 切り離しと結び直しの手順を確かめる彼女。使うロープを多めに用意した所で、無線が入った。
『そろそろ出発の時間ですね』
「ご苦労様。それじゃあ、出発しようか。皆、無理し過ぎないで、気をつけるんだよ」
 牽引役のまひるが、ファイナを含めた護衛メンバーを心配している。こうして一行は、SJBを乗せ、一路ウラジオストックを目指すのだった。

 行きルートは、護衛を水理 和奏(ga1500)、悠季、聖那。SJBの運搬をまひる。それ以外の面々は、先にウラジオまで向かい、帰りに合流する事になった。三沢基地までは、准将の協力で、錬力回復用の休憩船を手に入れた一行は、護衛3機でリッジウェイを牽引する事になった。
「ごめんね‥‥経路とか複雑で頭がついていかないや。えぇと、ビーストソウルで良いんだよね」
 どうやら、和奏の頭では、ちんぷんかんぷんだったらしい。そう言いながら、輸送船を降りる和奏。その後ろに、聖那のアルバトロスが続く。
「殿はあたしがやるから、和奏は前をお願いね」
「はーい」
 それでも、百地のアドバイスには、素直に従っている彼女。特殊能力のところに『使っちゃ駄目』とメモを貼り付けていたので、こちらは平気だろう。
「極力水面下を進んで頂戴ね。特に会長!」
 問題は聖那である。さっきも「せっかく珍しい生き物を見れるチャンスですのに」とか言っていた。
「先が思いやられるわね‥‥」
「いいじゃないの。あたしのリッジを頑張って引っ張ってねー」
 胃の痛い思いの百地に、引っ張られているまひるがあんまり気にしないように告げる。こうして、輸送船を移動基地代わりに進んでいると、先行していたユーリから通信が入った。
『こちらユーリ。これより西回りルートへ映ります』
「了解。気をつけて」
 既に、高速艇でインドの近くまで向かい、西回りでウラジオストックまで北上している最中だ。ワーム達はうろうろしているようだが、一応向こうはお空の上なので、心配はいらないだろう。
『大丈夫です。リーゼさんと三島さんもいますから』
「なら良いけど‥‥無理はするなよー」」
 それに、まひるに応えている久志も、何やら中継地点を聞いていたし、久志はG放電装置を積み込んでいたから、それなりに戦闘もこなすつもりなのだろう。
「さすがに、そのままというわけにはいかないみたいですね‥‥」
 その証拠に、インドをつっきった辺りで、お出迎えと言わんばかりに、ワームが姿を見せる。どこかの街を爆撃した帰りなのだろうか。4機で編隊を組んでいた。
「相手したくないんですよね!」
 出会い頭に、久志がG放電装置をお見舞いする。回り込もうと二手に分かれた刹那、2機ともスピードを上げる。燃料計ががくんと下がって、久志はやはり‥‥と、ユーリに問うた。
「そっち、燃料どうです?」
「同じだ。どっか適当な場所を紹介してくれ。じーさま」
 ユーリが通信機を握り締めると、ノイズにまぎれて『指定の給油ポイントを座標で送るから、そこに向えぇい』とジジィの声がぶっとんで来た。北伐に向う部隊の詰所なのだろう。中国国内のエリアは、競合地域ではなさそうだ。
「く。こっちにも敵がきたね!」
 先頭の和奏がワーム達を確認する。彼らがそうやってワームを振り切っている頃、輸送船で沖縄近くまで来た水上組も、対応を始めていた。ここまでは、何とか錬力を押さえ気味にしてきた為、多少の余裕はあるが、あまり無茶は出来ない。
「まひる、大丈夫?」
「何とかね。あまり活躍できなかったけど、仕方がないかな」
 大事なSJBを積んだまひるは、消耗を抑える為、無駄な戦闘はしないつもりのようだ。しかし、少し慎重すぎるのか、やはり遅れていた。
「仕方ないよ。リッジウェイだもん」
「無駄な消耗はしたくないもんねぇ。信号確認っと」
 もっとも、他の面々はそんな事かけらも気にしておらず、ガイドビーコンに従って、給油ポイントでの浮上を開始する。
「と言うわけで、からっけつだ! 満タンお願いします! カードで!」
「IDに付けといてやるっ。いいからどきやがれっ」
 遠慮なく要求してくるまひる。が、整備員にノリよく答えられ、邪魔だーと言わんばかりにどかされる。ばたばたと動き回っている彼らは、相当張り詰めた空気をお持ち合わせのようだ。
「ここから先は大陸も近いから‥‥浮上は厳禁ね」
 それもその筈、百地が広げた地図の上では、すでに『沖合い』だ。最後の給油になるだろうと思った百地は、皆にそう通告していた。
「レーダーに映らないと良いけどな‥‥」
 否が応でも慎重になる。が、浮上をせずに日本近海を回るように動いた結果、何とか三沢まではたどり着く事が出来た。
 問題はそこからだった。三沢基地を出発し、海峡を通って、ウラジオストックまでの北上を続ける彼らの前に、まるで出迎えにきたかのように、メガロワームが姿を見せたのである。
「あんまり相手は出来ないわ。適当な所で、さっさと引き上げちゃいましょ!」
「わかったっ。聖那さん、いこうっ! って、通信切ってる!?」
 百地の指示に、会長を誘う和奏。メインウェポンはガウスガンだが、彼女からの答えはない。見れば、通信機はオフになっている。
「戦う姿を見せたくないって言ってたわね‥‥」
「気にしなくても良いのに‥‥。わぁっ。きたっ」
 伝え聞く話では、あまり見せたがらないそうだ。しかし、メガロワームと思しき巨大なサメが、あごを開いて突進してくる。
「距離取って! じっくり狙って!」
「わかってるけどっ! ええいっ」
 応戦しようと、ガウスガンを撃っている和奏だが、さすがにグラップラーなので、勝手が違う。当たらず踏み込まれた刹那、人型となったアルバトロスが割り込んできた。
「聖那さん‥‥」
 そのまま、まるでやくざが切り込むかのように、回し蹴りを食らわしている。本来、グラップラーではない筈なのだが。
「さっさと抜けようって事ね。まひる、しっかり掴んでて!」
「あんたの旦那が駄目って言っても離さないよっ」
 その間に、百地のアルバトロスは水中キットを取り付けたリッジの牽引ロープをしっかりと握り締める。他の牽引ロープは既に引き離し、ワームを倒しやすいようにしていた。
「百地さん、そっち行ったよ!」
 が、中には回り込もうとするワームもいた。アルバトロスのスムーズさを生かして人型へと変形し、KVロッドで受け止める百地。そこへ、和奏がガウスガンを撃ち、聖那が日本刀のような剣でなぎ払う。たまらず、距離を取るワーム。
「もう少し真ん中‥‥ヒット!」
 そこへ、百地がと止めとばかりに、魚雷エキドナを発射する。アルバトロスに適したその魚雷は、近い距離のワームに命中していた。
「どうもあれはたまたまいたワームみたい。さっさと離脱しちゃってよさそうね」
 一匹が撃沈された事で、残りのワーム達は引き上げて行った。その間に百地はスピードを上げる様に指示するのだった。

 そして、数時間後。
「ふぁぁぁ、やっとついたぁ‥‥」
「生徒会長と一緒なのは良いけど、大変だわ‥‥」
 往路組はようやくウラジオストックの港にたどり着き、盛大に錬力を消費した状態で、休憩室のテーブルに突っ伏していた。既に、ロシア名物ピロシキとボルシチが用意されており、傭兵達の労をねぎらってくれているようだ。
「これがSJBですね。こっちは水中機も持ってないですから‥‥ちょうど良いですよ。面白そうですしね」
 久志が見上げたそれは、簡易型の飛行機と言って差し支えなかった。現地で強化金属を積み込み、ハヤブサへと装着される。
「最高速度はM10‥‥そんな速度で飛べたらどんな気分なんだろう‥‥?‥‥考えただけで興奮してきたわ♪」
 わくわく気分なのは、ディアブロに乗るリーゼロッテ・御剣(ga5669)も同じだ。イシュタルと名付けられた愛機に取り付けられたSJBは、見た目にも大きく、力強い翼に見える。
「補給終わったみたいですね。久志、ルートはどうなってます?」
 そんな会話をしていると、じきに補給が終わる。そこから先は復路組の出番だ。ユーリが久志に、ルートを確認すると、彼は地図を指でなぞりながら、帰り道を選ぶ。
「サハリン経由でアリューシャン列島に抜け、そこからSJBを使用し太平洋をLHまで一直線。
交戦は極力避ける。SBJ使用時は必要あらばブーストで、敵を振り切る等も考慮。って所ですね」
「了解。なるべく敵に見つからない安全な空路を探しながら行くしかないよね。あわよくば帰り道で使えそうな安全な航路が見つかるかもしれないし♪」
 リーゼがそう言った。いわゆる『急がば回れ』と言う戦法である。

 だが、そう簡単には行かなかった。アリューシャン列島を半ばまで差し掛かったところで、出てきたのは、本来はそこにいなかった筈の、本星ワームである。
「って、聞いてないわよ!?」
 頭を抱える三島玲奈(ga3848)。組んでいる音影 一葉(ga9077)が「行きの情報が伝わっちゃったかな」と呟いている。が、玲奈はいっこう気にせず、彼女に言った。
「えぇい。撃退に行かなくても良いわ。時間稼ぎしますよ!」
「わかってるって。あんまり動きは良くないけどね」
 まだSBJの点火には時間がかかる。それを告げられた2人は、先を争うようにして、護衛機の役目を果たそうとする。先に警戒していたせいで、相手には見つかっていないが、油断は禁物だ。
「こっちに任せて、先に行ってください!」
 一葉がまず回避用にラスターマシンガンをぶっ放す。弾幕ともいえる光景の中、玲奈が高度を勢いよく落とす。その目の前にいたワームに突っ込む気だ。
 が、忘れているかもしれないが、ワームには完成制御が付いている。上からだろうが下からだろうが、くるりと反転して受け止められていた。
「だーーーっ。ききゃあしないっ! 相変わらず物理法則無視なんだからぁっ!」
「振り切るより数を減らした方が早いと思いますっ」
 2人とも、ドローム社には発注をかけた事のある身分だが、それでも万全を期して、2人で1機を狙っていた。無数の弾丸が飛び交い、相手の光線が自身の愛機を狙う中、玲奈は超伝導アクチューターのスイッチを入れる。
「仕方ないっ。恋する乙女は粘り強いのよっ! 超伝導起動!」
 くるくると空中でアクロバットな飛行が開始される。蛇行運転が効くほど、相手の能力値は低くないが、それでもタイに持ち込む事は出来た。
「弾切れ気にしない方が良い見たいですねっ」
 その思い切った戦い方に、一葉は覚悟を決める。たとえ今落とされようと、SJBが無事ならそれでいいと。
「私とゆっくりしてってね!」
 振り切る敵機に、玲奈の短距離砲が発射される。が、反撃してきた相手が、その機体を揺らす。見れば、一葉の機体にも、光線が降り注いでいる。
「大丈夫?」
「ええ。まだいけます!」
 被弾は多いが、まだまだ飛べる。そう判断した玲奈は、ブースターを併用し、敵ワームへと肉薄していた。見れば、ちょうど久志とユーリの機体が、給油機と合流している真っ最中だ。
「こんなに可愛い子が告ってるのに〜! 何?私よりSBJがいいの?
「出し惜しみはいりませんね‥フルブーストで喰らいつきますよ、ディスタン」
 彼女の雷電ばかりではない。一葉も相打ち覚悟で、ブースターのスイッチを入れる。速度に劣る機体なので、最短ルートを相打ち覚悟で特攻する。
「ばかばか私の気持ちも知らないで〜。なんてね」
 リロードした玲奈が、引き換えしてきた。そこへ、ユーリから給油終了の連絡が入る。
「イシュタル、突っ切るわよ!」
 SJBを積んでいる為、盛大に消費するアグレッシブフォースは使えない。武器を積んできてはいたが、給油に急かされる為、ソードウィングで乱入するのを躊躇うリーゼ。
『お手伝いしに来ました。何機か引き受けます!』
 そこへ、ファイナから通信が入る。ラインに割り込んできた彼を援護するように、機関砲をぶっ放すリーゼ。
「OK。それじゃ、もっと深く理解しあいましょう!」
「ミサイル撃つのは今ですね!」
 相手の半数が、ファイナを追いかけて行ったのを見て、玲奈の試作型リニア砲が火を吹いた。刹那、その火の道筋に、通り抜けるだけの隙間が出来る。
「離れた! よし、いまだSJB!」
 ぐいんっと、リーゼがブースターの起動をかける。ぐぐっと重力がかかり、覚醒しないと耐え切れないほどだ。
「ここからラスト・ホープまでは、まさに一直線だね。超音速の旅を楽しませてもらおうか」
 その体感と流れる景色に、久志の口元が笑みに形作られる。それは、リーゼも同じだ。後ろのまひるに、こう語りかける。
「少し揺れるかも‥‥しっかり掴まっててね!! いっけぇぇぇ!!」
「おう。吹かせ吹かせフルスロットだーひゃっほーーーい!!」
 機体の振動で胸が揺れている。リーゼは全く揺れていなかったりするが、気にしないであげよう!
「はぁ〜ドキドキする‥‥やっぱり空ってサイッコ〜♪」
 1時間も立たないうちにラスホプへとたどり着いたリーゼは、満足そうに笑みを浮かべるのだった。